〜PROGRESSIVE ROCK CD REVIEW 2024 by 緑川 とうせい
★2024年に聴いたプログレ(フォーク/トラッド・その他含む)CDレビュー
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11/22
インドネシアと南米と(238)
Discus 「Live In Switzerland」
インドネシアのプログレバンド、ディスクスのライブ作品。2024年作
1999年にデビュー、素晴らしい2作品が世界に衝撃を与えたバンドの、2005年スイスでのオフィシャル・ブートレッグ・ライブがCD化された。
ツインキーボードにヴァイオリン、フルート&クラリネット奏者などを含む9人編成で、大傑作となった2nd「...tot licht!」収録曲をメインにしたステージ。
ジャズロック的な軽やかなリズムに、美麗なシンセとハードなギター、なよやかな女性ヴォーカルの歌声に、ヴァイオリンやフルートが絡む、民族ハードプログレを展開。
巧みなギタープレイとプログレ感のあるキーボード、男性声やときにデスヴォイスも含むアグレッシブでテクニカルなアンサンブル、そこにシンフォニックな優雅さが重なるという、このごった煮感は圧巻という他にない。
10分以上の大曲を主体に、確かな演奏力で濃密にして壮大なサウンドを構築する。音質はそこそこだが、アジアンなテクニカル・ハード・シンフォプログレを体現する必聴のライブ作品です。
ライブ演奏・8 民族プログレ度・9 ごった煮濃密度・9 総合・8.5 過去作のレビューはこちら
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DEWA BUDJANA 「ZENTUARY」
インドネシアのギタリスト、デワ・ブジャナの2016年作
CD2枚組の大作で、ドラムとシンセにゲイリー・ハズバンド、ベースにトニー・レヴィンが参加。民族調のイントロから、メロウで巧みな旋律を奏でるギターに優雅なサックスの音色を乗せた、軽やかなフュージョン・ジャズロックが広がってゆく。
インストメインにしつつ、女性ヴォーカル入りのナンバーなどもあり、Disc1は、ゆったりとした叙情に包まれる。
Disc2、1曲目の、ほどよいハードさも含んだテクニカルなサウンドは、PLANET Xあたりにも接近したイメージで、優美なエレピも重なるカンタベリー風味と、スリリングなアンサンブルの妙が味わえる。
中盤からは10分を超える大曲が続き、フルートの音色にいくぶんの民族色も覗かせて、ときにアジアンな空気感も描きだす。
ガスリー・ゴーヴァンらがゲスト参加して、ギターソロを披露。卓越したプレイヤーたちの演奏がたっぷり楽しめるCD2枚組の力作です。
フュージョン/ジャズロ度・9 テクニカル度・8 優雅度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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DEWA BUDJANA 「Naurora」
インドネシアのギタリスト、デワ・ブジャナの2021年作
ドラムにサイモン・フィリップス、デイヴ・ウェッケル、ベースにジミー・ジョンソン、キーボードにゲイリー・ハズバンドが参加、優雅なギターの旋律を中心に、軽妙なアンサンブルで描かれるジャズロックはやはり見事。
サックスがゆったりとメロディを奏で、優美なエレピを加えた叙情的なナンバーは、大人のカンタベリー・ジャズロックという味わいで、今作は全体的に肩の力の抜けた自然体の作風。
テクニカルなノリは控えめながらも、サイモン・フィリップスの巧みなドラムは随所に光っていて、ほどよいアジアンなテイストも含んだフュージョン・ジャズロックを楽しめる好作だ。
フュージョン/ジャズロ度・9 テクニカル度・8 優雅度・9 総合・8
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BLACK EXPRESSION 「MUNDO REAL」
アルゼンチンのプログレバンド、ブラック・エクスプレッションの2022年作
2021年にデビューし、2作目となる。ギター&ベース、シンセ、ドラムという3人編成で、存在感あるベースと巧みなドラムのリズムに、優美なピアノとシンセ、いくぶんハードなギターに女性スキャットが重なる、モダンなサウンドを展開。
テクニカルなアンサンブルに、オルガンやムーグを使ったヴィンテージなシンセやアコースティックギターも取り入れた、緩急ある構築性も覗かせる。
16分という大曲では濃密すぎないユルさがあって、オールインストとしては長尺さも感じるのだが、後半のメロディックなギターによる盛り上げはなかなか白眉。
ラストの11分の大曲は、きらびやかなシンセを乗せた、スタイリッシュなテクニカルプログレが楽しめる。全体としては、もうひとつ強固な方向性が欲しい。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 テクニカル度・7 総合・7.5
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Flor de Loto 「Arbol De La Vida」
ペルーのハード・プログレバンド、フロール・デ・ロトの2016年作
2005年にデビュー、本作は7作目となる。シンセとチェロによるクラシカルなイントロから、メタル感触のあるギターにフルートが重なり、ツーバスのドラムとともに、優雅な民族ハードプログレを聴かせる。
スペイン語によるヴォーカルとともにキャッチーな優雅さと、フルートが鳴り響くフォーキーな牧歌性が合わさり、ほどよくハードな聴き心地は、MAGO DE OZあたりに接近した雰囲気もある。
そろそろプログレではなく、メタル枠にした方がよいスタイルとなってきたが、9分を超える大曲では、シンフォニックなアレンジと緩急あるドラマティックな展開力で楽しめる。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 優雅度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Sambara 「Siempre Hubo Riesgo En El Cielo」
アルゼンチンのプログレバンド、サンバーラの2016年作
2013年にデビュー、前作は南米らしい繊細な叙情を描く好作であったが、2作目となる本作もオルガンを含む優美なシンセワークにスペイン語によるマイルドなヴォーカル、叙情的なギターとともに、古き良きアルゼンチンロックの優しい叙情に包まれる。
楽曲は3〜4分前後とシンプルで、あくまで優雅でキャッチーなポップ感触の歌ものシンフォという味わいながら、曲によってはシリアスなプログレ感触も覗かせる。
全体的にも、わりとユルめの浮遊感が心地よく、これというインパクトはないが、のんびりと鑑賞できる好作です。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 優雅度・8 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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DADDY ANTOGNA Y LOS DE HELIO 「Viva Belice」
元AVE ROCKのドラム、ヘクター“ダディ”アントグナを中心にしたアルゼンチンのプログレバンド、ロス・デ・ヘリオの2009年作
わりとハードなギターにヴァイオリンが鳴り響き、巧みなベースとドラムのリズムとともに知的な硬質感も漂わせる、KING CRIMSONをルーツにしたスタイル。
ツインドラムにギタートベースで、シンセはなしという編成なので、メロディアス性よりもアンサンブル重視のサウンドであるが、ダイナミックなリズムを中心にしたガレージロック風のプログレが楽しめる。
ツインのドラムソロも挿入して、ハードなジャズロック寄りのナンバーもあったり、ラスト曲ではなにやらクラウトロック風という。
総じて愛想はあまりよくないが、玄人好みの作品だ。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 叙情度・5 総合・7.5
Sui Generis 「Confesiones De Invierno」
アルゼンチンのフォーク・プログレ、スイ・ヘネリスの1973年作
同国を代表する鍵盤奏者、若き日のチャーリー・ガルシアが率いるバンドで、後のLA MAQUINAへとつながるバンド。
1972年にデビューし、本作は2作目となる。優美なピアノにマイルドなスペイン語のヴォーカルを乗せた、しっとりとした牧歌的なサウンド。
艶やかなヴァイオリンにアコーディオンなど、フォルクローレ風の優雅さにサイケなおおらかさ、ときにジャズ風味も覗かせつつ、基本的には素朴な歌ものという聴き心地。
代表作となる次作「Pequenas Anecdotas Sobre Las Instituciones」に比べるとプログレ感触は薄めであるが、ときにブラス加えたアレンジのセンスなどはさすがで、その才能の片鱗を感じさせる好作ですな。
ドラマティック度・7 プログレ度・6 叙情度・8 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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Jaime Rosas 「One Silent Shout - Scenes From War And Love」
ENTRANCEで活躍するチリのシンセ奏者、ハイメ・ロサスの2017年作
本作は戦争をテーマにしたCD2枚組のロックオペラ作品で、ENTRANCEのJaime Scalpelloをはじめ配役ごとの男女シンガーが多数参加、壮麗なシンセワークに朗々とした男性ヴォーカルにコーラスも重なり、スケール感のあるシンフォニックロックを描いてゆく。
全体的には歌もの寄りのナンバーが多いが、オルガンを含むきらびやかなシンセを乗せたインストパートは濃密なシンフォ感触で、美しい女性ヴォーカルをメインにしたナンバーなどはオペラティックな優雅さにも包まれる。
Disc2では、オールドなロック感触やコケティッシュな女性ヴォーカルも加わり、じっくりと聴かせる。プログレらしい展開というのはあまりないのだが、2CDで130分超える大作です。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 壮麗度・8 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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KOIAK
チリのプログレバンド、コイアクの2005年作
Mylodonレーベルからの作品ながら、詳細は不明のバンドで、本作は2004年に録音された唯一のライブ作品。
民族的なパーカッションにギターが重なり、妖しくフルートが鳴り響く、わりとアッパーな民族プログレ・ジャズロックを聴かせる。
軽妙なアンサンブルとサイケ寄りの浮遊感が合わさって、ほどよくスリリングな感触も覗かせつつ、ときにフルートによるフォルクローレ風味の優雅さも現れる。
10分前後の大曲では、南米らしい繊細でゆったりとした叙情に包まれる。
フルートが活躍する妖しくも優雅な異色の作風で、バンドとしての実力もありそうなので、スタジオ作品を聴いてみたい。
ライブ演奏・8 プログレ度・7 優雅でサイケ度・8 総合・7.5
POCOS & NUVENS 「PROVINCIA UNIVERSO」
ブラジルのプログレバンド、ポコス・アンド・ヌヴェンスの2001年作
1998年にデビューし、2作目となる。女性ヴァイオリン奏者、フルート奏者を含む編成で、美麗なシンセアレンジにポルトガル語のヴォーカルを乗せ、艶やかなヴァイオリンも重なって、優雅な叙情に包まれたシンフォニックロックを展開。
流麗なギターは適度にハードな感触で、プログレらしい緩急ある展開力と、ヴァイオリンやフルートによるクラシカルな美意識が融合したサウンドは、Quaterna Requiem+SAGRADOというべきか。
アコーディオン鳴り響く牧歌的なナンバーから、アルバム後半は10分近い大曲で、パーカッションを含む民族的な牧歌性とムーグシンセが合わさりスペイシーに構築する。ヴァイオリン入りシンフォプログレとしても高品質な作品です。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 優雅度・9 総合・8
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CDG PROJECT 「ASCENSION」
メキシコのテクニカルプログレ、CDG・プロジェクトの2019年作
きらびやかなシンセと流麗なギタープレイをテクニカルなリズムに乗せた、インストによる華麗なフュージョン・メタルサウンド。
クラシカルなピアノからオルガン、スペイシーなシンセまで弾きこなす、ジョーダン・ルーデスばりのシンセワークは見事で、ヘヴィなギターリフによるモダンな硬質感は、ときにDjent的な味わいもある。
女性スキャットが美しいしっとりとしたナンバーもよろしく、あくまで優美なシンセがメインであるが、ラストの2パートに分かれた大曲では、DREAM THEATER的なProgMetal感触に包まれる。
ドラマティック度・7 テクニカル度・8 キーボー度・8 総合・8
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CHAC MOOL 「EL MENSAJERO DE LOS DIOSES」
メキシコのプログレバンド、チャク・モールの1999年作
1980年にデビュー、本作は15年ぶりとなる4作目。優美なシンセにヴァイオリン、スペイン語による朗々としたヴォーカルで、優雅なシンフォプログレを展開。
ややラウドな音質やユルめのクサメロ加減などは、ICONOCLASTAあたりにも通じるB級臭さも感じさせ、ふわりと牧歌的な叙情に包まれる。
一方では、わりとハードな感触のナンバーでは、濃い目のヴォーカルの声質も含めて、CASTにも似た雰囲気になったりして面白い。
きらきらとしたエレピを使ったジャズロック的な軽妙なナンバーから、笛が鳴り響く民族調のパートもあったりと、おおらかな作風がメキシカンらしい。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 牧歌度・8 総合・7.5
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CHAC MOOL 「2020」
メキシコのプログレバンド、チャク・モールの2020年作
21年ぶりとなる復活作で、スペイシーなシンセにギターを重ね、サイケな浮遊感に包まれたサウンドを聴かせる。
叙情的なギターに枯れた味わいのヴォーカルを乗せた大人の哀愁を感じさせつつ、涼やかなシンセによるGOBLINのようなミステリアスなインストナンバーなど、なかなかつかみどころがない。
曲によってはシンフォプログレ的な優雅な叙情も残していて、ときおりCASTのようなアッパーなノリも現れるのがメキシカンらしい。
ボーナスに1980年デビュー作の再録音を2曲追加収録。フルートの音色から始まる、ユルめのアートロックがよい味わいである。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 サイケ度・7 総合・7.5
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11/8
プログレの晩秋(224)
Djabe & Steve Hackett 「The Journey Continues」
ハンガリーのエスノ・フュージョンバンド、ジャベとスティーブ・ハケットがコラボしたライブ作品。2021年作
2019年のハンガリーでのライブを2CD+DVDに収録。美麗なシンセワークにトランペット、フリューゲルホーンの響き、ハケットの奏でる叙情的なギターとともに、優雅なインストサウンドを描いてゆく。
ドラムをはじめとした演奏力の高さで、フュージョン、ジャズロック的な軽妙なアンサンブルに、ほどよいロック感触と巧みなギタープレイが融合した味わいは、プログレファンにも充分対応。
後半には、GENESISの“Firth Of Fifth”、“Los Endos”も演奏。なにせ本家ハケットがギターを奏でるのだから、雰囲気はそのまんま。インストによる優雅なジェネシスが味わえます。
DVDでは、依然として若々しいハケット御大の姿を含め、各演奏者のアップを多用した映像で、巧みなステージングが視覚的に楽しめる。
ライブ映像・8 ライブ演奏・8 優雅度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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PETER FERNANDES 「INCLINE」
米国のキーボード奏者、ピーター・フェルナンデスの2022年作
前作「Q.E.D.」は、カンタベリージャズロックをスタイリッシュに解釈したような傑作だったが、8年ぶりとなる本作は、ドラムにジョエル・ローゼンブラット、ヴィニー・カリウタ、トーマス・ラングが参加、ギターにリチャード・ハレビーク、LA在住のトシ・ヤナギ、菰口雄矢という日本人が参加している。
巧みなドラムと存在感あるベースにきらびやかなシンセ重ね、サックスが鳴り響く、優雅で軽妙なフュージョン・ジャズロック・サウンドを展開。
リチャード・ハレビークの巧みで流麗なギタープレイや、リック・フィエラブラッキのベースも随処に見事で、インスト中心でありながらも素晴らしい演奏力に聴き入れる。
エレピやオルガンなど、プログレ寄りのシンセワークもあって、単なるフュージョンロック以上にカラフルなサウンドが楽しめる傑作です。
ジャズ・フュージョン度・9 テクニカル度・8 優雅度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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ARKITEKTURE「RATIONALIS IMPETUS」
韓国のプログレバンド、アーキテクチャーの2022年作
映画監督としても知られる、キム・サンマン率いるバンドで、物悲しいピアノのイントロから、うねりのあるベースにメロトロンが重なり、フルートが鳴り響く、涼やかな空気に包まれたインストサウンドを聴かせる。
ANEKDOTENやANGLAGARDなどの北欧シンフォプログレ風味の一方で、優美なピアノや艶やかなヴァイオリンなどのクラシカルな優雅さや、軽快なリズムにサックスが鳴り響くジャズロック感触も覗かせる。
後半は、11分の大曲が続き、ミステリアスな空気感とスリリングにたたみかけるアンサンブルで、キング・クリムゾンばりのサウンドも楽しめる。
ドラマティック度・7 プログレ度・8 優雅で涼やか度・8 総合・8
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ARCHANGEL 「THIRD WARNING」
イタリアのプログレバンド、アーチエンジェルの2021年作
THE WATCH、Ubi Maiorのシンセ奏者、ガブリエル・ダリオ・マンジーニによるプロジェクトで、2009年にデビューし、本作は8年ぶりとなる3作目。
優美なピアノにシンセを重ね、エモーショナルなヴォーカルとともに、ヨーロピアンな翳りを帯びた、プログレハード寄りのサウンドを描く。
キャッチーな歌もの感触とともに、ほどよくハードなギターも加えて、PALLASあたりにも通じるドラマ性も感じさせ、一方ではオルガンやムーグシンセが鳴り響くオールドな感触も覗かせる。
ラストは10分を超える大曲で、ピアノやフルートの音色とともにリリカルな叙情と重厚なアレンジが同居して、じっくりとシンフォプログレを構築する。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 叙情度・8 総合・7.5
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INNER PROSPEKT 「Canvas Two」
イタリアのプログレユニット、インナー・プロスペクトの2021年作
MAD CRAYONのシンガー、アレッサンドロ・ディベネデッティによるプロジェクトで、ギターにはラファエル・パシャが参加。
THE SAMURAI OF PROGやTHE GUILDMASTERに提供した楽曲も含めた作品で、典雅なピアノにヴァイオリン鳴り響く小曲から、17分という大曲では、軽妙なアンサンブルとキャッチーなヴォーカルメロディで、ジャズロック風味も含んだサウンドを展開。
THE GUILDMASTER収録曲は、ファンタジックな空気感に包まれていて、全体的にも優美なシンセにマイルドなヴォーカルを乗せた、優雅なシンフォニックロックが味わえる。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 優美度・8 総合・8
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THE IKAN METHOD「BLUE SUN」
イタリアのプログレバンド、イカン・メソッドの2020年作
NATHANに参加するドラムとベースを中心にしたバンドで、美しいシンセにメロウなギター、ジェントルなヴォーカルを乗せて、優雅でキャッチーなシンフォプログレを聴かせる。
ほどよくテクニカルなリズムや、随所に流麗なフレーズを奏でるギターのセンスも見事で、シンフォニックなシンセワークとともに、サウンドを優雅に彩っている。
フルートが鳴り響くとイタリアンプログレらしくなるが、歌詞は英語なのでむしろ英国ルーツのスタイリッシュなネオプログレの感触に近いだろう。
とにかく美麗なシンセによるきらびやかさに包まれた、これぞシンフォニック・プログレ!というサウンドが楽しめる逸品です。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 優美度・8 総合・8
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Il Sentiero Di Taus 「Macrocosmosi」
イタリアのプログレバンド、イル・センティエロ・ディ・タウスの2018年作
オルガンやムーグ、メロトロンを含むシンセに叙情的なギターを重ね、イタリア語によるヴォーカルで、オールドな感触に包まれたプログレサウンドを聴かせる。
いかにもイタリアらしい混沌からのキャッチーな抜けの良さへという展開はなかなか爽快で、リズムチェンジの多いインストパートも含めて、緩急ある耳心地で楽しめる。
3〜5分前後の楽曲が主体なので、濃密ながらも聴きやすく、フルートも鳴り響く、幻想的な叙情を含んだ8分の大曲は聴きごたえあり。
先の読めないスリリングな流れとともに、ほどよいハードさもあるので、ムゼオ・ローゼンバッハあたりが好きな方にもお薦めです。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 イタリア度・9 総合・8
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JENNY SORRENTI「Suspiro / 溜め息」
イタリアの女性シンガー、ジェニー・ソレンティの1976年作
アラン・ソレンティの妹であり、SAINT JUSTのシンガーでもある彼女のソロアルバムで、叙情的なギターに美しい歌声を乗せた、フォークロック風味のサウンド。
わりとオールドロック調のギターにサックスも加わったキャッチーなノリから、アコースティックギターにピアノ、ヴァイオリンをバックにゆったりと聴かせるナンバーなども、彼女の歌声がよく映えている。
アニー・ハズラムをはかなくしたような彼女の声質のおかげか、全体的に優雅な作風ながらも、どことなく翳りを帯びた空気をかもしだすところもまた魅力だろう。
優雅度・8 プログレ度・7 女性Vo度・8 総合・8
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Delusion Squared 「Anthropocene」
フランスのオルタナ・プログレ、デリュージョン・スカーレッドの2018年作
2010年にデビューし、4作目となる。過去3作は女性シンガーをフロントにしていたが、本作ではマイルドな男性ヴォーカルの歌声に優美なシンセとギターを重ね、翳りを帯びたポストプログレ寄りのサウンドを聴かせる。
一方では、叙情的なギターの旋律にオルガンが重なる、オールドなプログレ感触も覗かせたり、アコースティックを含む優美な感触にも包まれつつ、軽妙なアンサンブルのキャッチーなモダンプログレ風味など、楽曲ごとに異なる味わいで楽しめる。
男性声になったのは残念だが、聴き進めるうちに優美な叙情性が耳心地よくなり、これはこれで完成度の高い好作品だと思える。
メロウ度・8 プログレ度・7 叙情度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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DEATON LEMAY PROJECT 「FIFTH ELEMENT」
アメリカのプログレバンド、ディートン・レーマイ・プロジェクトの2023年作
シンセ奏者のロビン・ディートン、ドラムのクレイグ・レーマイによるユニットで、2019年にデビューして2作目となる。
イラン出身のシンガーやギターがゲスト参加し、きらびやかなシンセワークと巧みなドラムに伸びのあるヴォーカルを乗せた、シンフォニックなハードプログレのスタイル。
キャッチーなヴォーカルメロディや、ほどよくハードなギター、テクニカルなリズムなどで、ときにProgMetal的な感触も描きつつ、オルガンを含むシンセには、EL&Pなどに通じるオールドなプログレ感触を覗かせる。
全体としては、複雑になりすぎずに、あくまで優雅なキーボード・プログレが楽しめるという爽快な力作です。
メロディアス度・8 プログレ度・8 キーボー度・8 総合・8
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FINNEUS GAUGE 「MORE ONCE MORE」
アメリカのプログレバンド、フィネウス・ガウジの1997年作
ECHOLYNのシンセ奏者を中心にしたバンドで、先に2作目を聴いていたが、こちらがデビュー作。
軽やかなリズムにグルーヴィなベースとピアノやシンセを重ね、コケティッシュな女性ヴォーカルとともに、浮遊感あるプログレ・ジャズロックを聴かせる。
スコット・マッギルによる巧みなギタープレイはときにホールズワースばりで、軽妙なテクニカル性と優雅でシンフォニックなテイストが混ざり、HAPPY THE MANにも通じる屈折感のあるシンフォプログレとしても楽しめる。
メロディアス度・8 プログレ度・8 優雅で軽妙度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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NEW CLEAR DAZE 「SELLING DIAMONDS ON THE EDGE OF TIME」
スウェーデンのプログレバンド、ニュー・クリア・デイズの1993年作
ほどよくハードなギターに優美なシンセ、かすれた味わいのヴォーカルで、英国ポンプロックとプログレハードの中間のようなサウンドを聴かせる。
哀愁の叙情を含んだギタープレイやオルガンを含むシンセには、オールドロックの感触も残していて、GENESIS&ハケットルーツのメロウなギターを奏でるインストの小曲などを挟みつつ、12分という大曲ではゆったりとしたシンフォニックロックを構築する。
曲によっては、ジョン・ウェットン風の歌声とともに、ASIAっぽかったりして、キャッチーな部分はわりと楽しめる。
全体的にはプログレらしさは控えめだが、小曲を配した構成で聴かせる、全74分の力作だ。本作が唯一の作品である。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 叙情度・8 総合・7.5
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SOLARIS 「NOSTRADAMUS: LIVE IN MEXICO」
ハンガリーのフログレバンド、ソラリスのライブ作品。2007年作
2004年、メキシコでのライブをCD+DVDに収録。1999年作「Nostradamus-Book of Prophecies」を完全再現したステージで、叙情的なギターにムーグシンセを重ね、フルートが鳴り響く、東欧らしい涼やかなシンフォプログレを展開する。
泣きのメロディを奏でるギターと、いわゆる唾吐きフルートが交わり、詠唱めいたコーラスも重なって、優雅な展開力でコンセプト的な荘厳なサウンドを描いてゆく。
映像としては、カメラワークや暗めの照明も含めてやや粗いのだが、広いステージにスクリーン映し出される映像の効果とともに、ライブの臨場感を味わえる。
ライブ映像・7 ライブ演奏・8 東欧プログレ度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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11/1
プログレの秋深し(211)
Robert Fripp 「November Suite」
KING CRIMSONのロバート・フリップのソロ。1998年作
1996年にロンドンのグリーンパーク駅で行われた長時間のライブパフォーマンスを編集した作品で、涼やかなシンセサウンドに、ランドスケープ的なギターを重ねた、しっとりとしたアンビエントな作風。
サウンド的にはブライアン・イーノにも通じるが、こちらはKlaus Schulzeのようなスペイシーなシンセが幻想的な味わいで、ゆったりとまどろむように鑑賞できる。
ロック色は皆無なので、アンビエントなサウンドが好きな方でないと、きっと寝てしまうだろう。自由に楽しんでほしいという、フリップ翁の言葉通り。
スペイシー度・8 プログレ度・6 アンビエント度・9 総合・7.5
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Yes 「Topographic Drama: Live Across America」
イギリスのプログレバンド、イエスのライブ作品。2017年作
1973年作「海洋地形学の物語」、1980年作「ドラマ」の再現を含む、2017年のアメリカツアーのライブ音源をCD2枚に収録。
Disc1は、「ドラマ」の完全再現で、ジェフ・ダウンズのきらびやかなシンセに、ビリー・シャーウッド存在感あるベース、スティーヴ・ハウの優雅なギタープレイに、ジョン・デイヴィソンのハイトーンヴォーカルで、キャッチーなYESサウンドを構築する。
アラン・ホワイトのドラムは年齢のせいか力強さに欠けるものの、助っ人のジェイ・シェレンが叩く曲では、一聴してアンサンブルがパワフルになる。
DIsc2では、“神の啓示”、“儀式”という、「海洋地形学の物語」からの20分を超える2つの大曲を演奏。デイヴィソンのヴォーカルとダウンドのシンセを中心に、原曲の優雅さを表現していて決して悪くない出来です。
“And You And I”、“燃える朝焼け”、“ランドアバウト”、“スターシップ・トゥルーパー”という往年の代表曲も披露してくれて、ファンには嬉しいところ。必聴ではなくともベテランたちによる好ライブ作品です。
ライブ演奏・8 完全再現度・7 優雅度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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CHRISTINA 「Bar Stool Prophet」
イギリスの女性シンガー、クリスティーナ・ブースの2023年作
MAGENTAで活躍する女性シンガーで、ソロとしては8年ぶりとなる3作目。MAGENTAのロバート・リードがギターとシンセで全面参加、クリス・フライも数曲でギターで参加している。
軽やかなアンサンブルに美麗なシンセアレンジ、クリスティーナのコケティッシュなヴォーカルで、ポップでキャッチーなサウンド聴かせる。
プログレ感触はやや薄めであるが、ソロ1作目にも参加したライアン・アストン、MAGENTAのライブなどにも参加するジフィー・グリフィスの巧みなドラムを軸にした軽やかなアンサンブルに、ピアノやサックスなどのジャズ風味も取り入れながら、クリスティーナの美しい歌声に聴き入れる。
MAGENTAのファンであれば、ちゃんと楽しめる好作品です。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 女性Vo度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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COLIN CARTER 「TRACKS IN SPACE」
英国出身のミュージシャン、コリン・カスターの2023年作
FLASHのメンバーでもあったシンガーで、本作は5曲入りのEP。わりとハードなギターを軽快なリズムに乗せ、中音域のヴォーカルで聴かせるメロディックロック。
シンセがあまり使われないこともあって、プログレ的な感触はさほどなく、歌もの中心ながら、枯れた味わいの歌声は魅力的なのか微妙なところ。
キャッチーなのか哀愁なのか、方向性もどっちつかず。アダルトなポップロックという以外にとくに新鮮味もなし。
メロディック度・7 プログレ度・6 楽曲・6 総合・6.5
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HATS OFF GENTLEMEN IT'S ADEQUATE「The Light Of Ancient Mistakes」
イギリスのモダンプログレ、ハッツ・オフ・ジェントルメン・イッツ・アデクイットの2023年作
2012年にデビュー、マルチミュージシャンのマルコム・ギャロウェイ、マーク・ガットランドによるユニットで、本作は7作目となる。
モダンなビート感に優美なシンセとマイルドなヴォーカルを乗せ、翳りを帯びたスタイリッシュなポストプログレを聴かせる。
MARILLIONのようなゆったりとした歌ものナンバーを主体にしつつ、ときにチェンバーロック寄りのアヴァンギャルドなナンバーなどもあって、なかなか楽しめる。
歌ものナンバーとインストがバランスよく同居して、コンセプト的な流れで描かれる、全67分という力作です。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 スタイリッシュ度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Moon Halo 「Together Again」
イギリスのプログレバンド、ムーン・ヘイローの2022年作
Mostly Autumでも活躍するイアイン・ジェニングスと、Reverseaのメンバーを中心に結成し、2019年にデビューし、2作目となる。
優美なシンセワークにメロウなギター、マイルドなヴォーカルを乗せ、随所に女性ヴォーカルも加えた、優雅な叙情に包まれたシンフォプログレを展開する。
Mostly Autumのアン・マリー・ヘルダーが参加していることもあり、男女Voを乗せたスタイルは、やはりMostly Autumに通じる聴き心地であるが、曲によってはよりモダンでスタイリッシュな感触も覗かせる。
全69分の力作であるが、楽曲自体は4〜6分前後と、比較的コンパクトにまとまっていて、濃密すぎずにスッキリと楽しめる。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 優美度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Dec Burke 「Life In Two Dimensions」
イギリスのミュージシャン、デック・バークの2021年作
元FROST*のギタリストで、シンセにヴォーカルもこなるマルチミュージシャン。ソロとしては2010年にデビューし、4作目となる。
ドラムにスコット・ハイアム(元PENDRAGON)が参加、適度にハードなギターにモダンなシンセアレンジ、マイルドなヴォーカルを乗せた、キャッチーなメロディックロックを聴かせる。
ギタリストとしての円熟味を感じさせる叙情的なプレイも覗かせながら、IT BITESなどにも通じるスタイリッシュなプログレハードとしても楽しめる。
今作では、楽曲ごとのフックのある構成やメロディの流れも光っていて、シンプルなジャケのイメージ以上にカラフルな聴き心地でで、テクニカルなパートも含んだFROST*を思わせるラストの9分の大曲も圧巻。
クリストファー・ギルデンロウ、ロビン・アームストロング(Cosmograf)らがゲスト参加。
メロディック度・8 プログレ度・7 スタイリッシュ・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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GAVIN HARRISON & ANTOINE FAFARD 「CHEMICAL REACTIONS」
KING CRIMSON、PORCUPINE TREEなどで活躍するドラマー、ギャヴィン・ハリソンと、SPACED OUTのベーシスト、アントイネ・ファファードによるユニットの2020年作
FLOCK、MAHAVISHNU ORCHESTRAのジェリー・グッドマンが参加し、艶やかなヴァイオリンを巧みなドラムに乗せ、テクニカルなベースプレイも織り込んだ、優雅でクールなチェンバー・風ジャズロックというサウンドを描く。
ギターやシンセなどは使っていないので、メロディを奏でるのは主にヴァイオリンとなっていて、音数的にはいくぶん単調で、チェンバー系が苦手な方には向かないだろう。
さほど難解さがないので、テクニカルではあるがわりと聴きやすく、壮麗なオーケストラが重なるラストの大曲はシンフォニックな味わいだ。
プログレ度・7 テクニカル度・7 優雅度・8 総合・7.5
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THE LIGHT AFTERNOON 「The History Of Mr Puffin Man」
イギリスのプログレユニット、ライト・アフタヌーンの2017年作
マルチミュージャンのスティーブ・ニューランドと女性シンガーによるユニットで、やわらかなギタートーンに優美なシンセやピアノ、母性的な女性ヴォーカルの歌声で、英国フォークルーツの牧歌的なサウンドを描く。
Judy Dybleにも通じる優しい聴き心地とともに、泣きのギターやシンフォニックなシンセアレンジなど、優雅で繊細な英国プログレとしても楽しめる。
16分の大曲も、メロウなギターやしっとりとした歌声で、あくまで落ち着いた英国調の叙情性に包まれて、じっくりと味わえる。
ラスト曲での壮麗なシンセアレンジと雄大な世界観などは、KING CRIMSON「宮殿」のファンにもお薦めだろう。
優美度・9 英国度・9 女性Vo度・8 総合・8
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Riverside 「ID.Entity」
ポーランドのプログレバンド、リヴァーサイドの2023年作
2003年にデビュー、本作は8作目となる翳りを帯びたスタイリッシュな作風を追及した前作の流れから、本作はきらびやかなシンセアレンジでカラフルに幕を開け、マイルドなヴォーカルとともに、デジタリィなモダンさに、ほどよくキャッチーな感触が同居したサウンドを聴かせる。
硬質感のあるハードなナンバーや、ProgMetal的なテクニカル性も覗かせ、13分という大曲では、しっとりとしたポストプログレ的な歌ものパートから、メロウなギターにシンセを重ねた繊細な叙情性に包まれる。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 スタイリッシュ度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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ARLON 「ON THE EDGE ARLON」
ポーランドのプログレバンド、アーロンの2013年作
優美なシンセにほどよくハードなギター、ジェントルなヴォーカルとともに、ヨーロピアンな翳りを含んだシンフォニックロックを聴かせる。
ときにサックスやピアノも鳴り響く大人の哀愁と叙情に包まれて、メロウな泣きのギターが耳心地よく、ARENAあたりに通じる味わいも。
ポーランドらしいウェットな薄暗さと、優雅な叙情美の同居という点では、かつてのCOLLAGEを継承する作風かもしれない。
派手なインパクトはないが、じっくりと楽しめる、正統派シンフォプログレの好作品です。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 叙情度・8 総合・8
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DISTANT MANTRA 「GETAWAY TO THE ABYSS」
ポーランドのプログレ・ポストロック、ディスタント・マントラの2023年作
2022年にデビューし、2作目となる。ユルめのギタートーンにうっすらとしたシンセを重ね、コケティッシュな女性ヴォーカルの歌声とともに、アンニュイな空気に包まれたサウンドを聴かせる。
サイケがかった浮遊感とポリッシュらしい翳りを帯びた作風で、プログレらしさはさほどないが、たおやかな女性Voはなかなか魅力的で、曲によってはほどよくハードなギターとともに、The Gatheringのようなゴシックロック風にもなったりする。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 女性Vo度・8 総合・7.5
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INHALO 「SEVER」
オランダのモダンプログレ、インヘイローの2022年作
A Liquid Landscapeのシンガーが参加するバンドで、テクニカルなドラムとベースに、エッジの効いたギター、エモーショナルなヴォーカルで、スタイリッシュなオルタナ・プログレを展開する。
メタリックな感触とともに、伸びやかなヴォーカルメロディはDREAM THEATERを思わせたり、DjentやProgMetal的な部分も覗かせつつ、ポストプログレ的な優美な歌ものナンバーなど、翳りを帯びた叙情とともに振り幅の大きな作風は、Porcupine Treeのリスナーなどにも対応。
高い演奏力と歌唱力で、モダンなハードプログレとして今後も期待のバンドになりそうだ。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 スタイリッシュ度・8 総合・8
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SKE 「1001 AUTUNNI」
イタリアのミュージシャン、スケ・ボッタの2018年作
YUGENやCICCADAで活躍するシンセ奏者で、本作は、2011年作「1000 AUTUNNI」と、Disc2に、2013年のライブを収録した、2枚組の新装版。
軽妙なリズムにオルガンを含むシンセ、フルートやヴァイオリン、サックス、クラリネットなどが絡むチェンバー・ジャズロックで、テクニカルなアンサンブルと、KENSOなどに通じる優雅な叙情も感じさせる。
一方では、クラシカルなピアノやシンセとともに、ミステリアスな空気感を描くような空間性も覗かせるあたりは、YUGENのファンにもしっかり楽しめる。
オールインストの軽やかなサウンドの向こうに、ミュージシャンとしての芸術性と奔放なセンスを感じさせる傑作である。
Disc2のライブは、生録音のドラムなどが、スタジオ以上に躍動的なアンサンブルを描いて、楽曲を巧みに再現している。
スリリング度・8 プログレ度・8 優雅度・9 総合・8.5 過去作のレビューはこちら
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ISLAND 「Pictures」
スイスのプログレバンド、アイランドの1977年作
ギーガーのジャケが印象的な、バンドの唯一の作品にして伝説的名盤を、紙ジャケSHM-CDで再評価。
キーボード、ドラム、ヴォーカル、サックス&フルート奏者という4人編成で、ギターもベースもいない特異なスタイルであるが、それがチェンバーロック的なアプローチとジャズロック的な軽妙なアンサンブルが融合した、非常に個性的なサウンドを描き出している。
巧みなドラムを土台にしたスリリングな緊張感と、サックスやクラリネットが鳴り響き、ピアノやシンセによる優雅なプログレ感覚と、クラシック的な構築性が奇跡的に合わさったというサウンドである。
ミステリアスなインストパートを基本にしつつ、ヴォーカルも加わっての感触は、VDGGやEL&P的でもあり、10分を超える大曲が中心ながら、濃密すぎない音の空間性を有しているのも稀有なセンスである。プログレ中級者以上は必聴というべき傑作だ。
メロディック度・7 プログレ度・8 構築度・9 総合・8.5
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Blue Motion
スイスのプログレバンド、ブルー・モーションの1980年作/邦題「碧き衝撃」
元CIRCUSのメンバーによるバンドで、ツインシンセにドラムというトリオ編成による作品。紙ジャケSHM-CDで再評価。
のっけから14分という大曲で、クラシカルなピアノにオルガンを含むシンセを重ね、軽妙なドラムとともにジャズロック的でもある優雅なアンサンブルを聴かせる。
クラシック的な繊細な美意識とチェンバーロック的でもあるスリリングな即興性も感じさせ、ギターもベースもいない編成ながら、涼やかで空間的な緊張感が張りつめ、シンセやピアノのみの小曲なども高い芸術性を描き出す。同郷のアイランドがミステリアスなら、こちらはあくまで優雅という。
アルバム後半の12分の大曲も、オルガンとピアノが絡む気品ある聴き心地で、まさにサーカスの1st、2ndの延長にある逸品です。
クラシカル度・8 プログレ度・7 優雅度・9 総合・8
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TIBET
ドイツのプログレバンド、チベットの1979年作
1970〜80年代にかけて活動したバンドの本作が唯一の作品で、ムーグやオルガンを含むシンセをギターに重ね、伸びやかなヴォーカルとともに、ANYONE'S DAUGHTERをマイナーにしたようなシンフォプログレを聴かせる。
いくぶんサイケがかった空気感は、HOELDERLIN風でもあり、クラウトロッック風の感触は、GROBSCHNITTあたりに通じるところもありつつ、メロトロンを使った優美な幻想性にメロウなギターが重なるナンバーでは、YESルーツの優雅さに包まれる。
楽曲は最大で7分と長すぎず、全体的にもさらりと心地よく鑑賞できる。ギターやシンセアレンジにはセンスがあるので、本作のみで消えたのが惜しまれる。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 優美度・8 総合・7.5
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9/28
初秋のプログレ(194)
LUMSK 「Fremmede Toner」
ノルウェーのトラッドプログレ、ラムスクの2023年作
2003年にデビュー、本作は16年ぶりとなる4作目。女性シンガーが交替したが、それ以外のメンバーはそのままで、うっすらとしたシンセとピアノに美しい女性ヴォーカルを乗せ、いくぶんハードなギターとともに、涼やかな土着性に包まれたサウンドを描く。
プログレ的な構築性も覗かせつつ、北欧らしい翳りを描くあたりは、WHITE WILLOWにも通じるが、より神秘的な空気感が味わえるという点では、ANGLAGARDなどが好きな方にもお薦めだ。
艶やかなヴァイオリンに優美なピアノ、ヴォーカル嬢の初々しい歌声もよろしく、トラッド/フォーク風の歌ものナンバーにも味わいがある。
いくぶんのメタル感触も覗かせるが、全体的には北欧プログレ寄りに鑑賞できる。全59分の力作です。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 北欧度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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HEX A.D. 「DELIGHTFUL SHARP EDGES」
ノルウェーのプログレ・ドゥームロック、ヘックスADの2023年作
2016年に自主デビュー、本作は5作目となる。のっけから12分という大曲で、ハードなギターにオルガンが鳴り響き、朗々としたヴォーカルとともに、ヴィンテージなプログレ・ドゥームロックを聴かせる。
涼やかなシンセアレンジに叙情的なギターを重ねた、インストパートでのミステリアスなスケール感はときにMOTORPSYCHOにも通じ、単なるドゥームの枠を超え、北欧らしいハードプログレとしても楽しめるだろう。
アルバム後半の大曲では、ダミ声ヴォーカル入りのイーヴルな雰囲気も覗かせるなど、なかなか一筋縄ではいかない。北欧プログレドゥームの異色作である。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 北欧度・8 総合・8
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Conqueror 「20 Years Of Games」
イタリアのプログレバンド、コンカラーの2023年作
2003年にデビュー、現在までに6作のアルバムを発表。本作は20年のキャリアを記念して、アンソロジーに提供したカヴァー曲を中心に集めた企画作品。
1曲目、Goblin「Roller」収録の優雅なインストナンバーは新録となる。美しいシンセにメロウなギター、ヴァイオリンも加えた、Procol Harum「ヴァルプルギスの後悔」はしっとりと優美な味わいで、やわらかな女性ヴォーカルにピアノやフルート、叙情的なギターの旋律で聴かせる、Steve Hackettのカヴァーも白眉。
Pink Floyd「鬱」収録ナンバーは、優しいサックスの音色にピアノ、女性ヴォーカルで、ゆったりとした叙情に包まれる。
Yes「Union」収録のキャッチーなナンバーから、Marillion「Brave」収録「The Great Escape」は、翳りを帯びたドラマ性も優雅に再現している。
イタリア語による、Alunni Del Soleの繊細さに、軽やかなアンサンブルのSantana、そしてThe Moody Bluesまで、センスある優雅なカヴァーが楽しめる。
カヴァー度・8 プログレ度・7 優美度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Quanah Parker 「A Big Francesco - Live At Festival Rock Progressive 2016-2018」
イタリアのプログレバンド、クアナ・パーカーの2019年作
結成は80年代ながら作品を残さないまま解散、2005年になって復活したバンドで、本作は2016〜2017年に行われたライブをCD+DVDに収録。
2012年作「Quanah!」、2015年作「Suite Degli Animali Fantastici」のナンバーを主体にしたセットで、オルガンなどのシンセに艶めいた女性ヴォーカルで、優雅で軽妙なヴィンテージ・プログレを聴かせる。
BANCOの故フランチェスコ・ジャコモに捧げるナンバーも優美な聴き心地で、ときにシリアスに、ときにコケテッィシュな歌声を聴かせる女性シンガーもなかなか魅力的だ。
巧みなドラムを中心にした演奏力もしっかりとしていて、DVD映像では派手やかな衣装の女性ダンサーによる優雅なステージングとともに、アルバムよりも躍動感あるアンサンブルが楽しめる。
ラストの組曲のみブート並みの音質で、映像の方も固定カメラという。これはボーナス扱いということか。
ライブ演奏・8 プログレ度・7 優美度・7 総合・8
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O.A.K. (Oscillazioni Alchemico Kreative) 「LUCID DREAMING AND THE SPECTRE OF NIKOLA TESLA」
イタリアのシンフォニックロック、オシラツィオーニ・アルケミコ・クリエイティヴの2022年
マルチミュージシャン、ジェリー・カテッロによるプロジェクトで、2015年にデビューし、本作は4作目となる。
発明家ニコラ・テスラを題材とした作品で、VAN DER GRAAF GENERATORのデヴィッド・ジャクソンや彼の娘も参加、オルガンを含む優美なシンセに男女ヴォーカルを乗せ、やわらかなフルート、サックスとともにヴィンテージなシンフォプログレを展開。
13分の大曲も、シンフォニックなアレンジにキャッチーで軽妙な展開力と、GONGのようなスペイシーな浮遊感に包まれて、優雅な聴き心地で楽しめる。
女性ヴォーカルをメインにした、しっとりと優美なナンバーや、シンフォニックに盛り上げるラスト曲も白眉です。
ドラマティック度・8 優美度・8 イタリア度・7 総合・8 過去作のレビューはこちら
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SINTESI DEL VIAGGIO DI ES 「Gli Alberi Di Stavropol」
イタリアのプログレバンド、シンテージ・デル・ヴィアッジョ・ディ・エスの2022年作
Sithoniaのメンバー中心にしたバンドで、2017年にデビューし、2作目となる。優美なピアノとフルートに、イタリア語による渋みのある歌声を乗せて、大人のシンフォプログレを聴かせる。
アコースティックギターとフルートによる繊細な叙情性から、オールドなロック感触とイタリアらしい芸術性が同居していて、玄人好みのセンスを感じさせる。
クラシカルなピアノにムーグシンセが重なり、ヴィンテージなプログレ感も覗かせつつ、あくまで優雅な美意識を描くようなサウンドであるが、ラストは14分の大曲で、緩急ある展開に女性コーラスなども加え、アーティスティックなシンフォプログレが楽しめる。
ドラマティック度・8 優美度・8 イタリア度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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SFARATTHONS 「La Bestia Umana」
イタリアのプログレバンド、スファラソーンズの2016年作
結成は70年代ながら、作品を残さずに解散、その後、2011年に再結成され、本作がデビューアルバムとなる。
美麗なシンセによるクラシカルなイントロ曲から、やわらかなフルートの音色にアコースティックを含むギター、朗々としたイタリア語のヴォーカルで、叙情的なシンフォプログレを聴かせる。
ムーグシンセにクラシカルなピアノ、ときにサックスが鳴り響き、軽やかなアンサンブルと叙情が交差つつ、70年代ルーツのくぐもったような妖しい空気感を描くところは、往年のイタリアンロックを愛するものにはたまらないだろう。
楽曲は3〜4分が主体ながら、コンセプト的な語を含む流れのある構成で、1枚のアルバムとしての濃密なドラマ性を感じさせる。見事な力作です。
ドラマティック度・8 優雅度・8 イタリア度・9 総合・8
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SFARATTHONS 「ODI ET AMO」
イタリアのプログレバンド、スファラソーンズの2023年作
3作目となる本作は、優美なピアノにフルートが鳴り響き、オルガンやムーグなどのヴィンテージなシンセをダイナミックなドラムに乗せて、優雅なシンフォプログレを展開する。
8〜9分という大曲も緩急ある流れと、大活躍のフルートが繊細な叙情を描いていて、メロウなギターも含め、ときにPFMのような繊細な美意識に包まれる。
シンセとフルートによるインストパートを中心にしつつ、随所にイタリア語の野太いヴォーカルも加わると、往年のイタリアンロックの濃密さが感じられる。
12分の大曲も、ゆったりとした叙情美と幻想的な味わいで、軽やかなリズムチェンジとともに、Locanda Delle Fateなどにも通じるシンフォプログレが楽しめる。
ドラマティック度・8 優美度・9 イタリア度・9 総合・8
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MASSIMO GIUNTOLI 「F.I.T.」
イタリアのミュージシャン、マッシモ・ジャントッリの2021年作
80年代から活動するコンポーザーで、デザイナーでもあるミュージシヤン。本作は「ファウンド・イン・トランスレーション」と呼ばれる、自分自身を見つける地図をテーマにしたコンセプト作品。
オルガンを含む優美なシンセワークに独自の音楽言語「モルカヤ語」を用いたヴォーカルを乗せて、カンタベリー風味も感じさせる優雅なサウンドを描いてゆく。
基本的には、シンセと歌声の重ねをメインにしたミニマムな作風なのだが、空間的な広がりとチェンバー寄りのスリリングな空気を感じさせ、27分という長大な組曲も、先の読めない不思議なスケール感に包まれる。
ロック色は皆無であるが、巧みなシンセワークと味のあるヴォーカルで、チェンバー&カンタベリー風のアンビエント・プログレという境地を築いた異色作です。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 優雅度・8 総合・8
KARMABLUE 「Ne Apparenze Ne Comete」
イタリアのプログレバンド、カルマブルーの2018年作
2002年にデビュー、12年ぶりとなる3作目で、ほどよくハードなツインギターに艶めいた女性ヴォーカルを乗せ、ドゥーミィな怪しさとサイケ/ポストロック的な感触が同居した異色のサウンドを描く。
シンセをさほど使わないのでシンフォプログレ色はあまりないが、イタリア語による女性ヴォーカルや随所にメロウなフレーズを奏でるギターが、優雅な味わいとなっていて、ほどよいサイケな浮遊感も覗かせる。
7〜8分前後の長めの楽曲を主体に、全体的にもゆったりとした聴き心地で、女性声ロックとしては良いのだが、フックのある展開がもう少し欲しい気もする。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 イタリア度・7 総合・7
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Obscura 「Le Citta Invisibili」
イタリアのプログレバンド、オブスキュラの2007年作
本作が唯一のアルバムで、ジャケはダークな雰囲気ながら、サウンドの方は、オルガン、メロトロンを含むシンセにフルートが鳴り響き、いくぶんハードで叙情的なギターにイタリア語のヴォーカルで聴かせるシンフォプログレ。
やわらかなフルートの音色にピアノが重なる優美な叙情性と、ハードなギターとのコントラストがスリリングなパートも覗かせ、ときにミステリアスな空気に包まれる。
90年代ルーツのほどよくマイナーな味わいも残していて、翳りを帯びたメロウなシンフォプログレとして楽しめる好作です。
ドラマティック度・7 プログレ度・8 優美度・8 総合・7.5
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EXTRA 「Live 2003」
イタリアのプログレバンド、エキストラの2004年作
Acqua FragileやPFMで活躍したベルナルド・ランゼッティが在籍、2001年に唯一のアルバムを残したバンドで、本作は2003年のライブを2CDに収録。
PFMのカヴァーを含むイントロから、2曲目はEquipe 84のカヴァーで、オルガンを含むシンセに、いくぶんハードなギター、朗々としたイタリア語のヴォーカルで、キャッチーな大人のイタリアンロック聴かせる。
その後も、カヴァーを含んだ構成で、確かな演奏力と味わいのある歌声に厚みのあるコーラスで、イタリア語のMCや観客との掛け合いなども盛り上がり、ストリングスを加えたナンバーは、I Poohのような壮麗な叙情に包まれる。
Disc2ではPFM「9月の情景」や「祝典の時」、Fabrizio De Andre、NEW TROLLSのカヴァーというイタリアンロック祭りから、後半はジーン・ヴィンセント、プレスリー、ボブ・ディラン、U2、ドアーズとオールドロックで締めくくる。
ライブ演奏・8 プログレ度・7 イタリア度・8 総合・8
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The Worm Ouroboros 「Endless Way from You」
ベラルーシのプログレバンド、ワーム・ウロボロスの2020年作
2013年にデビューし、2作目となる。のっけから14分という大曲で、やわらかなフルートな叙情的なギター、優美なシンセを重ねて、インストによる優雅なシンフォニックロックを展開する。
軽やかなアンサンブルと繊細な叙情美は、CAMELなどにも通じる感触で、そこにいくぶんとぼけたセンスやミステリアスな雰囲気を覗かせる。
オルガン、メロトロンなどのヴィンテージなシンセワーク、後半の大曲では、バスーンやオーボエの音色とともに、チェンバーロック的な感触も現れる。
単なるシンフォプログレではない、知的な構築センスと涼やかな空気に包まれた、いばチェンバー・シンフォというべき、全73分の力作です。
ドラマティック度・7 プログレ度・8 優雅度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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EARTH & FIRE 「REALITY FILLS FANTASY」
オランダのメロディックロック、アース・アンド・ファイアーの1979年作
1970年にデビュー、本作は6作目となる。2作目の「アムステルダムの少年兵」、3作目の「アトランティス」はダッチ・シンフォニックロックの名作として名高いが、本作はポップ寄りのに傾いた時期の作品。
1曲目は、11分という大曲で、哀愁あるサックスの音色から、ポップなビート感にジャーネイ・カーグマンの優しい歌声を乗せ、ときにオーケストラアレンジも加わった、なかなかシンフォニックな聴き心地。
2曲目以降は、3〜4分前後の、よりポップなナンバーが続き、プログレリスナーにはちとつらいものの、ジャーネイのファンであれば歌ものとしてそれなりに楽しめる。
ドラマティック度・7 プログレ度・6 女性Vo度・8 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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9/13
イタリアンプログレ特集(180)
CELESTE 「Il Risveglio Del Principe / 王子の目覚め」
イタリアのプログレバンド、チェレステの2019年作
1976年に1作を残し、その後、90年代に未発音源を集めた2作を発表。オリジナルのスタジオ作としては、じつに43年ぶりとなる作品である。
少年の語りによるコンセプト的なイントロから、優美なフルートとピアノ、叙情的なギターにメロトロンが重なり、イタリア語のヴォーカルとともに牧歌的なシンフォニックロックを展開。
女性コーラスやストリングスによるアレンジも加わり、素朴でありながらもクラシカルな美意識に包まれるあたりは、かつてのチェレステを受け継いでいる。
サックスが鳴り響く大人の哀愁に、優雅なフルートの音色で、しっとりとした幻想性に包まれる。派手さはないが耳心地の良い好作品です。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 優美度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Saint Just 「Prog Explosion And Other Stories」
イタリアのプログレバンド、サン・ジュストの2018年作
1973〜74年に2作を残して消えるも、ジェニー・ソレンティを中心に再結成され、2011年に、Saint Just Again「Prog Explosion」として限定LPのみで発表されたEPに、かつての楽曲の再録などを加えてCD化した作品。
クラシカルなピアノの旋律から、アコースティックギターのつまびきに妖艶な女性ヴォーカルを乗せ、OPUS AVANTRAなどを思わせる芸術的なサウンドを描く。
ムーグなどのヴィンテージなシンセがプログレらしさをかもしだし、兄であるアラン・ソレンティが参加しての男女デュエットのナンバーなどもアダルトな味わいで楽しめる。
巧みなドラムも含めて、バックの優雅なアンサンブルも素晴らしい。BANCOの故フランチェスコ・ディ・ジャコモがゲスト参加している。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 女性Vo度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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DELIRIUM 「L'ERA DELLA MENZOGNA」
イタリアのプログレバンド、デリリウムの2015年作
1971年にデビュー、1974年までに3作を残して解散。その後、2007年に復活。本作は復活後の3作目で、いくぶんハードなギターにオルガン、ムーグなどのヴィンテージなシンセ、イタリア語によるヴォーカルで、どっしりとしたサウンドを聴かせる。
繊細なピアノにフルートも鳴り響くイタリアらしい叙情性と、ブルージーな大人の渋みが同居し、ほどよくエキセントリックな展開も含めて、往年の「らしさ」は充分に感じさせる。
ラストは11分の大曲で、優美なフルートの絡みから、きらびやかなシンセに叙情的なギターが重なり、シンフォプログレとしてのドラマティックな展開美に包まれる。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 イタリア度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Homunculus Res 「Ecco L'impero Dei Doppi Sensi/ 二重感覚の帝国」
イタリアのプログレバンド、ホムンクルス・レスの2023年作
シチリア島出身で、2013年にデビュー、5作目となる本作も、オルガンを含むきらびやかなシンセとギターを軽妙なリズムに乗せ、マイルドなヴォーカルを乗せて、カンタベリー風味の優雅なサウンドを聴かせる。
70年代風の軽やかなポップな感触と、とぼけた屈折感が同居し、アヴァンロックらしいスリリングな展開も覗かせ、玄人好みのジャズロックとしても楽しめる。
歌もの的な小曲も挟みつつ、ラストは10分の大曲で、テクニカルなアンサンブルと夢見がちな浮遊感が混在した、不思議なアヴァン・プログレを描き出す。
ドラマティック度・7 プログレ度・8 優雅度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Banda Belzoni 「Timbuctu」
イタリアのプログレバンド、バンダ・ベルゾーニの2022年作
シンセ奏者のサンドロ・ベルゥと、ARTI E MESTIERIのジジ・ヴェゴーニを中心にしたバンドで、本作が2作目となる。
オルガンやムーグなどのきらびやかなシンセに叙情的なギター、マイルドなイタリア語のヴォーカルで、オールドな味わいのシンフォプログレを描く
A Lifelong Journeyでも活躍するマウロ・ムギアティのエモーショナルな歌声をメインにした、わりとストレートなナンバーも多いので、全体的に歌もの感が強め。
楽曲は3〜5分前後で、ドラマティックな高揚感はさほどないが、大人の哀愁に包まれた優雅な聴き心地で楽しめる。OSANNAのリノ・ヴァレッティがゲスト参加。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 イタリア度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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MAURO MARTELLO & SEZIONE FRENANTE 「PRIGIONIERO DI VISIONI」
イタリアのプログレバンド、セツィオーネ・フレナンテと、フルート&サックス奏者マウロ・マルテッロのコラボ作品。2022年作
軽やかなリズムに優雅なフルートが鳴り響き、オールドなテイストのギターにオルガンを含むシンセ、朗々としたイタリア語のヴォーカルで、ヴィンテージなプログレサウンドを展開する。
70年代ルーツの哀愁に包まれたロック感触に、イタリアらしいシアトリカルに歌い上げるヴォーカル、そして常に吹き鳴らされるフルートの音色が、豊かな叙情を添える。
スタイリッシュさとは真逆のオールドな味わいで、これでもかとフルート吹きまくりのプログレが好きな方は必聴です。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 イタリア度・9 総合・8
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THE LOST VISION OF THE CHANDOO PRIEST
イタリアのプログレバンド、ロスト・ヴィジョン・オブ・チャンドゥ・プリーストの2022年作
ともにQuel Che Disse Il Tuonoでも活動する、Unreal Cityの女性シンセ奏者、フランチェスカ・ザネッタと、Cellar Noiseのニコロ・ガラーニによるユニット。
オルガンと叙情的なギターのイントロから、サイケ風のギターも加えて、わりともったりしたインストのシンフォプログレを聴かせる。
歌が入らないので、イタリアっぽさはあまりなく、牧歌的で涼やかな叙情に包まれるところは、むしろ北欧サイケプログレ寄りの聴き心地。
楽曲は3〜4分前後で、盛り上がりもさほどないので、ユルめのセッションユニットという感じなのかもしれない。
ラスト曲での、メロウな叙情ギターはよい味わいで、この路線でのアルバムにして欲しかったような。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 イタリア度・7 総合・7.5
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Baro Prog-Jets 「Utopie」
イタリアのプログレユニット、バロ・プログ・ジェッツの2021年作
MARYGOLDで活躍した、Alberto “Baro” Molesiniを中心にしたプロジェクトで、2019年作は過去のマテリアルだったので、オリジナルとしては初のアルバム。
優美なシンセワークに叙情的なギター、ジェントルなヴォーカルで、大人の哀愁に包まれた優雅なシンフォプログレを聴かせる。
オルガンなどのヴィンテージな味わいと、緩急ある展開力で、10分を超える大曲をじっくりと構築してゆく、
歌詞は英語がメインなので、イタリアというよりは、むしろアメリカのバンドのような爽快な抜けの良さがあって、耳心地の良さが光る。
意外性やスリリンクな部分は少ないが、ラストの15分の大曲は、リズムチェンジを含むドラマティックな流れで楽しめる。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 優雅度・8 総合・8
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Phoenix Again 「Unexplored」
イタリアのプログレバンド、フェニックス・アゲインの2017年作
結成は80年代というバンドで、2011年にデビューし、3作目となる。ヴィンテージな味わいのシンセにメロウなギター、マイルドなヴォーカルで、古き良き正統派のシンフォプログレを聴かせる。
繊細なピアノやオルガン、メロトロンなど、プログレらしい優美な鍵盤ワークをメインに、アコースティックギターなどの繊細なアレンジも含みつつ、ときにイタリアらしい妖しさも覗かせる。
歌パートもあるが、インストがメインの曲も多く、優雅で軽やかなリズムでさらりと聴かせる。耳心地の良い反面、濃密さの点では少し物足りないか。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 叙情度・8 総合・7.5
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Phoenix Again 「Vision」
イタリアのプログレバンド、フェニックス・アゲインの2022年作
メロトロンやムーグなどのヴィンテージなシンセに叙情的なギターを重ね、優雅な叙情に包まれた大人のシンフォプログレを展開する。
10分を超える大曲も、泣きのギターフレーズとともに、繊細な叙情美を描き出し、インスト主体ながらじっくりと構築してゆく。
前作以上に、優美なシンセワークとギターの絡みが魅力的になり、厚みのあるサウンドでじわりと盛り上げるあたりは、シンフォニックロック好きにはたまらない。
牧歌的なラストの小曲まで、ゆったりと鑑賞できる叙情味あふれる好作品です。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 叙情度・8 総合・8
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Ubi Maior 「Bestie, Uomini E Dei」
イタリアのプログレバンド、ウビ・マイアーの2020年作
2005年にデビューし、4作目となる。オルガンを含むシンセにメロウなギターの旋律、イタリア語のマイルドなヴォーカルで、ゆったりとした叙情のシンフォプログレを聴かせる。
6〜9分前後の楽曲は、クラシカルなピアノやヴァイオリンも鳴り響く優雅な味わいで、緩急ある展開力でじっくりと構築される。
シアトリカルに歌い上げるヴォーカルも含めて、ときにイタリアらしい妖しいセンスも感じさせ、ラスト曲では、フルートとアコースティックギターのパートが大人の哀愁を描き出す。これぞイタリアンプログレという逸品である。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 優雅度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Panther & C. 「Il Giusto Equilibrio」
イタリアのプログレバンド、パンサー・アンド・C.の2017年作
2014年にデビューし、2作目となる。きらびやかなシンセのイントロから、朗々としたイタリア語のヴォーカルにメロディックなギターの旋律で、美麗なシンフォプログレを聴かせる。
コンセプト的な流れを感じさせる緩急ある展開美と、フルートの音色などの繊細な優雅さが同居して、イタリアらしいドラマティックな雰囲気に包まれる。
泣きメロを奏でるギターも随所に楽曲を盛り上げ、これぞシンフォニックロックという優美な叙情にはウットリである。
10分を超える大曲も多く、聴きごたえのあるイタリアン・プログレの力作だ。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 イタリア度・8 総合・8
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Comitiva 「Otto」
イタリアのプログレユニット、コミティーヴァの2014年作
ARTI E MESTIERIのイアーノ・ニコロによるプロジェクトで、軽妙なリズムにやわらかなシンセとイタリア語のジェントルなヴォーカルを乗せ、大人の哀愁に包まれたイタリアンロックを聴かせる。
オルタナ的でもあるモダンな感触と、叙情的なギターを含むメロウな美学が同居して、楽曲は3〜5分前後と比較的シンプルではあるが、単なる歌ものという以上にアーティスティックな雰囲気である。
派手さはないが、味わいのある歌声と共にじっくりと楽しめる好作です。ボーナストラックには、PFM「9月の情景」のカヴァーも収録。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 イタリア度・8 総合・7.5
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Aldo Tagliapietra 「Nella Pietra E Nel Vento」
イタリアのミュージシャン、アルド・タグリアピエトラの2012年作
LE ORMEのメンバーでもあるベース奏者&ヴォーカリストで、GENESISで知られるポール・ホワイトヘッドによるジャケが印象的。
Former Lifeのギター、シンセ奏者が参加、オルガンやピアノを含むシンセにイタリア語のヴォーカルで、大人の哀愁に包まれたサウンドを描く。
ヴィンテージなシンフォプログレの感触とキャッチーな泣きの叙情性で、派手さはないがゆったりとした耳心地の良さで楽しめる。
ときにストリングスを加えたアレンジなど、歌もの的な小曲が主体ながらも、優雅な美意識で描かれる好作品です。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 イタリア度・8 総合・7.5
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8/24
晩夏のプログレ(166)
Chardeau 「Ombres & Lumieres - In Terra Cognita 2」
フランスのミュージシャン、JJ・シャルドーの2023年作
前作の続編となる、地球をテーマにした壮大なロックオペラの2作目で、CHICAGOのダニエル・セラフィン、ジェイソン・シェフ、元MAHAVISHNU
ORCHESTRAのジェリー・グッドマン、SUPERTRAMPのジョン・ヘリウェル、SPIRITのマーク・アンデス、THE DOOBIE BROTHERSのジョン・マカフィー、ANGEのクリスチャン・デカン、フランシス・デカン、トリスタン・デカン、KING
CRIMSONのパット・マステロト、ELOのエリック・トロイヤー、XTCのデイヴ・グレゴリーなどがゲスト参加。
美麗なシンセとクラシカルなピアノ、叙情的なギターを乗せた軽妙なアンサンブルに、艶やかなヴァイオリン鳴り響くと、ATOLLのような優雅な叙情に包まれる。
インストナンバーをメインにしつつ、ヴォーカル入りのナンバーでは、フランスらしいシアトリカルな味わいも覗かせる。
サックスが鳴るジャズタッチのナンバーなども含めて、メリハリに富んだ全71分の力作。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 優美度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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MINIMUM VITAL「Envol Triangles」
フランスのプログレバンド、ミニマム・ヴァイタルの1985年作
フランス90'sシンフォニックロックの先駆けというべきバンドのデビュー作で、2020年に単体でリマスター再発された。
優美なシンセにフルートが鳴り響き、叙情的なギターを重ねた、インストによる軽妙なサウンドを構築する。
優雅でありつつも、どこか妖しげでミステリアスなスタイルは、本作の段階ですでに充分に個性的で高品質である。
GENESISやANGEなどを独自のセンスで昇華したという作風に加え、日本のKENSOなどにも通じる知的な感触もある。
リマスターにより音がくっきりとして、存在感のあるベースも含めたアンサンブルの確かな演奏力もさすが。全33分ながら、シンフォプログレ好きは満足だろう。
メロディック度・8 プログレ度・8 優雅度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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MINIMUM VITAL「Les Saisons Marines」
フランスのプログレバンド、ミニマム・ヴァイタルの1987年
以前は1stとのカップリングでCD化されていたが、2020年に単体でリマスター再発された。
前作からドラムが交替した本作では、メロウなギターの旋律に優美なシンセが重なる、よりスタイリッシュなシンフォニックのスタイルになっている。
前作にあった妖しい雰囲気は薄まり、テクニカルな軽快さに包まれたインストのアンサンブルで、傑作となる次作「Sarabandes」へとつながる感触だ。
美しい女性ヴォーカルによるアコースティックな小曲などには、のちの優雅なスタイルへの萌芽も感じさせる。
前作に比べてクセがなくなった分、わりとあっさりとしているが、このクールなセンスこそが玄人好みともいえる。
メロディック度・8 プログレ度・8 優雅度・9 総合・8
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Exode「D'Ici Et D'Ailleurs」
フランスのプログレバンド、エクソードの2005年作
うっすらとしたシンセをギターに重ね、男女ヴォーカルのフランス語の歌声で、優雅なシンフォプログレを聴かせる。
叙情的なギターフレーズにフルートの音色も加わり、PULSARあたりに通じる翳りを帯びたヨーロピアンな幻想性に包まれつつ、シアトリカルに歌い上げるヴォーカルがANGEのような世界観も描き出す。
ときにほどよくハードなパートも覗かせつつ、優雅な叙情性が同居したメリハリのある展開力もなかなかスリリングで、いかにもフレンチらしいアーティスティックな作風だ。
フランス系のアートなシンフォ好きにはたまらない、全72分というなかなかの力作です。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 フレンチ度・9 総合・8
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Abel Ganz 「The Life of the Honey Bee and Other Moments of Clarity」
イギリスのシンフォニックロック、アベル・ガンズの2020年作
Pallasのアラン・リードが在籍していたバンドで、80年代にデビュー、2008年に15年ぶりに復活。本作は復活後の3作目となる。
オルガンを含むヴィンテージなシンセにメロウなギター、マイルなヴォーカルを乗せ、ベテランらしい優雅な叙情に包まれたシンフォプログレを描く。
ときにストリングスを加えたクラシカルなアレンジや、アコースティックギターに女性ヴォーカルも加えたナンバーなど、英国らしい牧歌性も覗かせて、12分、13分という2つの大曲を軸に、繊細な叙情美に包まれたサウンドが味わえる。
全体的に派手さはないが、ゆったりと鑑賞できる、大人のシンフォプログレの逸品です。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 優美度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Judy Dyble 「Anthology : Part One」
イギリスの女性シンガー、ジュディ・ダイブルの2015年作
Fairport Conventionのオリジナルシンガーで英国フォーク界を代表するシンガー、本作はデビュー前の1964年の音源から、Fairport
Conventionや、KING CRIMSONの前身であるGiles, Giles & Fripp在籍時代、1982年の未発曲まで、彼女の歩みを収録したアンソロジー。
宅録のようなホームテープの音源は、音質は悪いが、若き日のジュディの歌声が聴けるという点では貴重だろう。リチャード・トンプソンとの12分のアヴァンギャルドなインプロ曲も異色である。
全体的には、英国フォークを基調にした牧歌的な味わいで、のちのソロ作品に比べるとプログレ的な華やかさはないが、貴重音源満載の内容です。
牧歌的度・8 プログレ度・6 英国フォーク度・8 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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MERIT HEMMINGSON 「Huvva! Vad Tiden Gar」
スウェーデンの女性ミュージシャン、メリット・ヘミングソンの2021年作
60年代から活動する女性オルガン奏者で、ソロとしては本作は10作目あたり。フィドルが鳴り響くトラッド感触から始まり、やわらかなオルガンにドラムも加えて、ヴィンテージな味わいと、北欧らしい涼やかな空気に包まれる。
軽やかなアンサンブルにギターも加わったロック感触と、暖かみのある土着的なオルガンのメロディに、スキャット的な女性ヴォーカルも入って来て、結果としてサイケ風の北欧プログレとしても楽しめる。
フィドルがメロディを奏でる部分は、牧歌的な北欧トラッド・フォーク風味で、そこにオルガンなどのシンセが重なると、Kebnekajseにも通じる味わいになる。
トラッドロック度・8 プログレ度・7 北欧度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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MERIT HEMMINGSON 「TROLLSKOG」
スウェーデンの女性ミュージシャン、メリット・ヘミングソンの1972年作
ソロとしては4作目で、ドラム、ギターを含む編成で、オールドなオルガンが鳴り響き、ときにフルートやヴァイオリンなどのストリングスも加わった優美なサウンド。
メリットはオルガンのみならず、典雅なチェンバロや、ムーグシンセも使っていて、母国語による彼女のやわらかな歌声とともに、北欧らしい土着性に包まれる。
1〜3分前後の小曲を主体に、インストパートではオルガンやシンセの哀愁のメロディが、KAIPAあたりにも通じる涼やかな雰囲気をただよわせている。
決してポップミュージックにはならない、素朴な叙情性と北欧の空気をまとった、優雅なオルガンフォークロックというべきか。素敵な一枚です。
フォークロック度・7 プログレ度・7 北欧度・9 総合・8
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Turid「Bilder」
スウェーデンの女性シンガー、トゥリドの1973年作/邦題「肖像」
1981年にデビュー、本作は2作目となる。2019年にリマスター、紙ジャケにて単体では初CD化となる。
バックにKebnekajseのメンバーが参加していて、アコースティックギターのつまびきに艶やかなヴァイオリンが絡み、母国語による優しい女性ヴォーカルでしっとりと土着的なフォークサウンドを聴かせる。
ドラムが加わるとほどよくロック感触もあり、まどろむような彼女の歌声と、やわらかなフルートの音色とともに、プログレ寄りのアシッドフォークとしても楽しめる。
クラシカルなピアノをパックにした優雅なナンバーや、ユルめのサイケロック風味も、北欧らしいゆったりとしたおおらかさがあって耳に優しい。
フォークロック度・7 プログレ度・7 女性Vo度・8 総合・7.5
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The Savage Rose 「In the Plain」
デンマークのブルースロック、サヴェージ・ローズの1968年作
1968年にデビュー、本作は同年に発表された2作目。オールドなロックアンサンブルにピアノやオルガンがかき鳴らされ、ハスキーな女性ヴォーカルを乗せたスタイルはサイケロック的でもある。
若き日のアニッセッテの歌声は、後のようなソウルフルな深味はまだないが、ゆったりとしたナンバーでの表現力には輝くものがあり、野性的な躍動感をサウンドにもたらしている。
フォーク風味の牧歌的な味わいや、ユルめのサイケ感触の中にも、ドリーミィなかぎろいを感じさせるあたりは、このバンドらしい個性が確立しつつある作品と言える。
サイケ度・7 プログレ度・7 女性Vo度・8 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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The Savage Rose 「Wild Child」
デンマークのブルースロック、サヴェージ・ローズの1973年作
本作は8作目で、1975年の解散前の最後のアルバム。ゆったりとしたアンサンブルにオルガンを重ね、艶めいた表情を増したアニセッテの絶品のヴォーカルが、楽曲を生き生きと彩る。
初期のサイケ風味は薄まり、ブルージーな哀愁の叙情と、エモーショナルな高揚感が強まったことで、歌ものとしてのレベルがぐっと高まった。
渋みのあるギターフレーズと優美なオルガンの重なりが、バンドとしての成熟を感じさせ、安定したアンサンブルも最大限にアニセッテの歌声を活かすためだろう。
そして、これより80年代以降、孤高の女性シンガーの域に達する彼女のきらめきが本作にもすでに詰まっている。
バンドは1978年に「THE」をはずした「SAVAGE ROSE」として復活を遂げ、80年代からは左翼的メッセージを標榜した作風となってゆく。
ブルース度・7 プログレ度・7 女性Vo度・9 総合・8
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The Savage Rose 「Sangen For Livet」
デンマークのブルースロック、サヴェージ・ローズの1988年作
アコーディオンの物悲しい音色で幕を開け、悲哀と情熱のエモーションが同居した、アニセッテの圧倒的な歌声が響き渡る。
優美なピアノやパーカッションなど、ジャズや民族色が混在したスタイルながら、そのすべてを包み込表現力あるヴォーカルはさすがで、アコースティックギターをバックににした、シンプルなナンバーでも、その切々とした歌声は聴き手に何事かを訴えてくる。
プログレやロック感触は希薄なので、あくまで情感的な歌もの作品として楽しむのが良いだろう。
ブルース度・7 プログレ度・6 女性Vo度・9 総合・8
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SAVAGE ROSE「25」
デンマークの女性Voロックバンド、サヴェージ・ローズのベストアルバム。1993年作
25周年を振り返る2枚組アンソロシーで、1968年のデビュー作から、1993年までのナンバーを2CDに全23曲収録。
代表曲というべき“Wild Child”から幕を開け、プルージーなギターにオルガンやピアノ、アニセッテのハスキーなヴォーカルと、このバンドの魅力がここに全て詰まっている。
Disc1に収録された初期のナンバーは、サイケ的な雰囲気も残したロック感触があって、プログレやヴィンテージロックのリスナーには入りやすいだろう。
Disc2に収録の80年代のナンバーになると、貫録の表現力をまとったアニセッテの圧倒的な歌唱を全面に出した作風で、バックはシンプルなサウンドながら、アコーディオンの響きとともに哀愁の情感に包まれる。
躍動感あるライブ音源なども含めて、バンドとしての25年の深化が分かる2CD。入門用にもどうぞ。
ブルース度・7 プログレ度・7 女性Vo度・9 総合・8
THE SAVAGE ROSE 「Universal Daughter」
デンマークのブルースロック、サヴェージ・ローズの2007年作
1968年にデビュー、1975年にいったん解散するも、1978年に復活、1998年作からバンド名に再び「THE」がつけられ、本作は通算20作目あたりだろう。
アコースティックを含むギターにアニセッテの存在感あるハスキーな歌声を乗せ、うっすらとしたシンセアレンジも加えて、哀愁の叙情に包まれたサウンドを描く。
メロウなギターを含んだブルージーなロック感触と、北欧的な涼やかさが同居して、情感豊かな女性ヴォーカルが歌い上げる、このベテランにしか出せない圧倒的な表現力は見事というほかない。
ジャズタッチのシャンソン風ナンバーから、オルガン鳴り響くラスト曲まで、ゆったりとした味わいの中にも、堂々たるキャリアの説得力を覗かせた好作品だ。
ブルース度・7 プログレ度・7 女性Vo度・9 総合・8
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Supper's Ready 「Listen to the Pictures」
ルクセンブルクのプログレバンド、サパーズ・レディの2000年作
ジャン・パスカル・ボフォがプロデュース。優美なシンセに叙情的なギター、マイルドなヴォーカルで、GENESISルーツのゆったりとしたシンフォプログレを聴かせる。
ギルモアかハケットかという、メロウな泣きのギターフレーズは耳心地よく、ときにフルートやサックスも加わって楽曲を彩り、大人の哀愁に包まれたサウンドが楽しめる。
これという展開や盛り上がりはないのだが、ラストの10分の大曲もあくまで優美で、愛すべきマイナーシンフォという好作である。バンドは本作のみを残して消える。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 叙情度・8 総合・7.5
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7/27
酷暑のプログレ(151)
Nodens Ictus 「Spacelines」
イギリスのサイケアンビエント、ノーデンス・イクタスの2000/2023年作
OZRIC TENTACLESのエド・ウィンを中心に、80年代から活動するプロジェクトで、本作は2000年作の再発盤。
スペイシーできらびやかなシンセとドラムのリズムで、インストによる幻想的なサイケ・アンビエントを聴かせる。
シーケンサー風のシンセは、Klaus Schulzeなどを思わせるが、こちらは自然のSEを使ったりと、ネイチャーな暖かみを感じさせる。
ライブ音源では、バンド編成でのアンサンブルで、オズテンとはまた異なる癒し系のスペイシーな世界観が味わえる。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 サイケ度・8 総合・7.5
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Suns Of The Tundra 「The Only Equation」
イギリスのポスト・プログレロック、サンズ・オブ・ツンドラの2023年作
PEACHのSimon Oakesを中心にしたバンドで、2004年にデビューし、本作は5作目となる。
わりとハードエッジなギターにエモーショナルなヴォーカルで、オルタナ風のスタイリッシュなサウンドを描く。
サイケロック寄りのユルさから、ポストロック的な浮遊感、ほどよく硬質なヘヴィネスが混在していて、つかみどころがないが、プログレ的な叙情性を含んだ中盤のナンバーはなかなか魅力的で、3パートに分かれた15分の組曲なども、どっしりとした重厚さの中にどこか怪しいスケール感を覗かせる。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 オルタナ度・8 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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M-Opus 「At The Mercy Of Manannan」
アイルランドのプログレバンド、M-オパスの2023年作
2015年にデビューし3作目となる。1972年に制作されたという設定で、メロトロンやオルガンを含むシンセに、ジェントルなヴォーカルを乗せ、リズムチェンジを含む展開力とともに、オールドなプログレサウンドを聴かせる。
いくぶんアヴァンギャルドな小曲から、アコースティックな叙情を含む、9分の大曲への流れはで、コンセプト的なドラマ性を感じさせ、いかにも70年代ブリティッシュロック風のナンバーなども味わいがある。
全体的にメロディックな盛り上がりというのはさほどないが、ウェットな叙情性と軽妙なアンサンブルを随所に覗かせて、ヴィンテージなプログレを聴かせる好作です。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 叙情度・7 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Sammary 「Monochrome」
ドイツの女性声アートロック、サマリーの2022年作
ヘヴィなギターにうっすらとシンセを重ね、コケティッシュな女性ヴォーカルとともに、翳りを帯びたオルタナ風のロックサウンドを聴かせる。
ゴシック的な倦怠の空気感と、エモーショナルな女性声に、ときにシンフォニックなシンセが重なり、薄暗い叙情とほどよいヘヴィネスが交差する。
魅力的な女性ヴォーカルの表現力は、The Gatheringのアネクを思わせる部分もあったりして、ゴシックロックのファンにも楽しめるだろう。
ミステリアスでスペイシーな世界観に包まれながら、わりとキャッチーな感触のナンバーや、エレクロなアレンジを含んだタイトル曲なども含め、女性声オルタナロックの異色の好作品だ。
ドラマティック度・7 翳りと倦怠度・8 女性Vo度・8 総合・7.5
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Shaman Elephant 「Wide Awake But Still Asleep」
ノルウェーのサイケロック、シャーマン・エレファントの2020年作
わりとフリーキーなギターの重ねにうっすらとしたシンセ、マイルドなヴォーカルも加わり、クラウトロック的なドラッギーなサイケロックを展開。
オルガンやメロトロンなどのヴィンテージな感触と、北欧らしい涼やかな空気も随所に匂わせつつ、アッパーな勢いあるアンサンブルでたたみかける。
キャッチーな歌もの的なナンバーでは、ポストプログレ的な繊細な叙情も感じさせ、全体的にも派手すぎない素朴な耳心地。
後半の11分の大曲は、ほどよくハードなノリと緩急ある知的な構築力で、Motorpsychoなどのファンにも楽しめそうだ。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 サイケ度・8 総合・8
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BENT KNEE 「FROSTING」
アメリカのプログレバンド、ベント・ニーの2021年作
2011年にデビューし、これまでも独自のセンスの女性声アヴァンプログレを聴かせてくれたが、6作目の本作はのっけからエレクトロなアレンジのポップ性に包まれる。
エフェクトのかかった女性ヴォーカルの歌声とともに、80年代風のデジタル感覚とアヴァンポップが絶妙に合わさり、結果としてプログレ向きの味わいに。
コートニーのエモーショナルな歌唱は、エキセントリックなサウンドと融合し、ときにコケティッシュでときに強烈な存在感を放っており、もはや孤高のレベル。
楽曲は2〜4分前後の小曲主体で、あくまでポップに見せかけつつも、ラウドなロック調やエクスペリメンタルなナンバーもあったりと、おそろしく確信犯的。まさにプログレ・アヴァンポップの異色傑作です。
アヴァンポップ度・8 プログレ度・7 女性Vo度・9 総合・8.5 過去作のレビューはこちら
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Direction 「Ailes」
カナダのプログレバンド、ディレクションの2023年作
2002年にデビュー、本作は6作目。前作「VA」は2枚組の見事な力作であったが、12年ぶりとなる本作は壮麗なシンセに通信のSEの入ったイントロから、コンセプト的なスケール感を漂わせる。
叙情的なギターと優美なシンセにフランス語のヴォーカルを乗せた、しっとりと優雅なシンフォプログレを展開。
アコースティックギターにピアノやメロトロンを重ねた繊細なナンバーは、Steve Hackettのような優美な味わいでウットリ。
30分という大曲では、いくぶんハードな感触から、ゆったりとした叙情とともに、キャリアのあるバンドらしい重厚なシンフォニックロックを聴かせる。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 叙情度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Days Between Stations 「Giants」
アメリカのプログレバンド、デイ・ビトウィーン・ステーションズの2020年作
ポール・ホワイトヘッドによるジャケからして良い感じだが、のっけから16分という大曲で、オルガンやムーグシンセが鳴り響き、軽やかなリズムに妖しい女性スキャットを乗せたサイケ風味から、マイルドなヴォーカルが加わって、ヴィンテージなプログレを展開。
一方では、哀愁を含んだゆったりとした大人の叙情を描くナンバーから、後半の12分の大曲では、繊細なピアノとシンセ、メロウなギターとともに、GENESIS的な優美なシンフォプログレが味わえる。
ラストのキャッチーなナンバーはYES風だったりして、オヤジ系プログレとしては悪くない。ちなみにビリー・シャーウッドが参加している。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 叙情度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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LYLE WORKMAN「Uncommon Measures」
アメリカのミュージシャン、ライル・ワークマンの2021年作
STING、Todd Rungren、JELLYFISH、Alice Cooperなど多数の作品に参加する、セッションミュージシャンで、ソロとしても90年代から活躍するギタリスト。
本作は多数のゲストを迎え、自身の叙情的なギタープレイをたっぷり盛り込んだ、インストによるフュージョン・ジャズロック的なサウンドを聴かせる。
優美なシンセにストリングスや管楽器を含む壮麗なオーケストラも加わって、シンフォニックなチェンバーロックといってもよいじつに優雅な耳心地。
クラシカルな華麗さとジャズロックの巧みなアンサンブル、そして軽妙で叙情豊かなギターワークが融合した、これは素晴らしい傑作である。
シンフォニック度・8 ジャズロック度・8 優雅度・9 総合・8.5
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ANTONIE FAFARD「Ad Perpetuum」
カナダのミュージシャン、アントワーヌ・ファファールの2014年作
Spaced Outのベーシストで、3作目のソロ作品。ギターにジャリー・デ・ヴィリアーズ、ドラムにヴィニー・コライアタを迎え、軽妙な大人のアンサンブルのジャズロックを聴かせる。
巧みなドラムと存在感あるベース、メロウなギタープレイの三位一体は、さす実力派ミュージシャンという感じで、オールインストであるがほどよくスリリングな味わいだ。
ゲストのゲリー・エトキンス、ゲイリー・ハズバンドのシンセも楽曲を優美に彩っていて、ゲストによるサックスが鳴り響くナンバーもアクセントになっている。
ドラマティック度・7 ジャズロック度・8 軽妙度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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ANTONIE FAFARD 「Proto Mundi」
カナダのミュージシャン、アントワーヌ・ファファールの2017年作
Spaced Outのベーシストで、ソロとしては5作目。居住可能な新惑星を探索する宇宙船の航海譚を描いたオリジナルSFストーリーに基づいたコンセプト作で、MAHAVISHNU
ORCHESTRAのジェリー・グッドマン、Alan Holdsworth BANDのゲイリー・ハズバンド、TOTOのサイモン・フィリップスが参加。
20分、20分、10分という大曲のみの構成で、巧みなドラムにグルーヴィなベースと叙情的なギターを重ね、インストによる軽妙なフュージョン・ジャズロックを聴かせる。
優雅なヴァイオリンの旋律や、随所にアコースティックギターの繊細なつまびきもアクセントになっていて、テクニカルなだけではない大人の哀愁も匂わせる。
Disc2には「DOOMSDAY VAULT」と題された、未発曲や過去曲のリミックスなどを79分たっぷり収録。
ドラマティック度・7 テクニカル度・8 軽妙度・9 総合・8
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MIKE FLORIO 「Arisen」
アメリカのミュージシャン、マイク・フロリオの2006年作
日本人を妻に持つシンセ&シンガーで、オーケストラルなイントロから、オルガンやピアノを含む優美なシンセとメロウなギターを軽やかなリズムに乗せ、マイルドなヴォーカルを加えた、クラシカルなシンフォニックロックを聴かせる。
きらびやかなシンセワークもなかなかセンス良く、ほどよくハードなギターも含めて、ソロというよりはバンド編成での作品と言ってもいいだろう。
自身のヴォーカルも伸びやかな味わいがあって、プログレハード風のキャッチーなナンバーではとくによくマッチしている。
クラシカルなシンセアレンジをメインにした優雅なシンフォニックサウンドが堪能できる好作品です。
シンフォニック度・8 プログレ度・7 優美度・8 総合・8
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LOBSTER NEWBERG 「VERNAL EQUINOX」
アメリカのプログレバンド、ロブスター・ニューベルグの2007年作
軽妙なリズムにオルガンやメロトロンを含むシンセとほどよくハードなギターを乗せ、知的な屈折感のあるテクニカル性と、エモーショナルなヴォーカルによる優雅な叙情性が融合。
オールドなプログレらしさと、Umphrey's McGeeにも通じるモダンなジャムロック感触が同居したスタイルで、ときにPINK FLOYD的なメロウな雰囲気から、ハードでコミカルなノリや、ときにジャズロック調まで現れて、なかなか振り幅が大きい。
12分という大曲では、オルガンに叙情的なギターで、ヴィンテージなシンフォプログレの感触に包まれる。全79分という力作だ。
ドラマティック度・7 プログレ度・8 優雅度・8 総合・8
7/20
猛暑のプログレ(138)
KINETIC ELEMENT 「CHASING THE LESSER LIGHT」
アメリカのプログレバンド、キネティック・エレメントの2023年作
2009年にデビューし、4作目となる。叙情的なギターにプログレらしい優美なシンセ、ジェントルなヴォーカルとともに聴かせる、いくぶんマイナーな香り漂うシンフォプログレは本作も同様。
軽やかでやや偏屈なリズム展開や爽快なヴォーカルメロディ、どこか垢抜けない90年代ルーツの雰囲気が合わさり、マニア好みを脱していないが、PENDRAGONにも通じる泣きの叙情も含んだ、緩急ある流れて19分という大曲を構築する心意気やよし。
後半の大曲ではアメリカらしいキャッチーな抜けの良さや、シンフォニックロックとしてのきらびやかな優雅さも覗かせる。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 叙情度・8 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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Pattern-Seeking Animals 「Spooky Action At A Distance」
アメリカのプログレバンド、パターン・シーキング・アニマルズの2023年作
テッド・レナード、デイヴ・メロス、ジミー・キーガンら、新旧のSPOCK'S BEARDメンバーを中心にしたバンドで、本作は4作目となる。
メロトロンを含む優美なシンセに巧みなギターワーク、テッド・レナーダのマイルドな歌声で、優雅でキャッチーなサウンドを展開。
ストリングスを含むシンフォニックなアレンジや、今作ではわりとオールドなポップ感も覗かせたり、耳心地よく楽しめる。
展開力のある12分の大曲は、しっとりとした歌ものの小曲なども味わいがあり、これまでのアルバム以上に叙情豊かな逸品です。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 優雅度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Ten Jinn 「Ardis」
アメリカのプログレバンド、テン・ジンの2022年作
1997年にデビュー、2018年に16年ぶりに復活し、本作は通算5作目。優美なピアノとシンセのイントロから、メロウなギターにエモーショナルなヴォーカルを加えて、叙情豊かなシンフォニックロックを展開する。
リズムチェンジを含む展開力と、キャッチーなメロディのフック、随所に泣きのギターフレーズも心地よく、ほどよくテクニカルでありつつも、あくまで優雅なシンフォプログレが味わえる。
全体的にキャリアのあるバンドらしい余裕も感じさせ、演奏も歌唱もじつに高品質の出来ですな。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 優雅度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Evership 「The Uncrowned King - Act 1」
アメリカのプログレバンド、エヴァーシップの2021年作
2016年にデビューし、3作目。ダイナミックなリズムにきらびやかなシンセとギターを乗せた、TRANSATLANTICばりの導入から、YESを思わせるヴォーカルメロディが加わり、壮麗かつキャッチーなシンフォプログレが広がってゆく。
10分前後の大曲をメインに、ムーグシンセやオルガンなどのヴィンテージなシンセと泣きのギターメロディでぐいぐいと盛り上げる。
後半の16分の大曲も、緩急ある流れでラストに向かってドラマティックな高揚感に包まれる。コンセプト的な流れで楽しめる傑作だ。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 叙情度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Drifting Sun 「Forsaken Innocence」
イギリスのプログレバンド、ドリフティング・サンの2021年作
1997年にデビュー、本作は9作目で、美麗なシンセワークにほどよくハードなギター、伸びやかなヴォーカルとともに、スタイリッシュなシンフォニックロックを聴かせる。
10分前後の大曲を主体に、翳りを帯びたドラマ性やゲストによるヴァイオリン、いかにもなシンセ音色、わりと唐突なリズム展開など、プログレらしさたっぷりで、緩急あるサウンドが楽しめる。
後半の2パートに分かれた25分の大曲も、オルガンを含むシンセの重ねやクラシカルなピアノ、テクニカルなインストパートから、ゆるやかな叙情も含んだ濃密なシンフォプログレを構築する。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 叙情度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Moon Safari 「Himlabacken Vol.2」
スウェーデンのプログレバンド、ムーン・サファリの2023年作
2005年にデビュー、本作は10年ぶりとなる5作目で、前作の続編。きらびやかなシンセワークに叙情的なギター、マイルドなヴォーカルとキャッチーなコーラスハーモニーで、これまで通りの優雅でメロディアスなサウンドを聴かせる。
10分の大曲では、ほどよいハードな感触も覗かせながらスタイリッシュに構築し、優しいメロディと泣きのギターフレーズをたっぷりと含んだ叙情ナンバーもさすがの出来。
21分という大曲も繊細な叙情パートから、ProgMetal的なテクニカル性へと緩急ある展開力も見事で、じわりと盛りあげつつ優しいメロディへと帰結する。
全体的にも10年という月日を感じさせないバンドの魅力が詰まった、ボーナス含む全70分の力作だ。
ドラマティック度・9 プログレ度・8 叙情度・9 総合・8.5 過去作のレビューはこちら
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Overhead 「Tellepathic Minds」
フィンランドのプログレバンド、オーヴァーヘッドの2022年作
2002年にデビュー、6作目となる本作は2枚組の大作で、優美なシンセにアコースティックを含むギターにフルート、マイルドなヴォーカルでしっとりと幕を開ける。
しっかりプログレらしいシンセワークとスタイリッシュな構築力が同居し、キャッチーなメロディのフックとともに、優雅なシンフォプログレを構築。
THE FLOWER KINGSにも通じる肩の力の抜けた叙情ナンバーから、オルタナ風のメロディックロックまで、わりとつかみどころがないが、Disc2では17分という大曲もあり、緩急あるドラマティックな展開力のシンフォニックロックが楽しめる。
全体的にはモダン路線かキャッチーな路線かがやや微妙なので、もう少し明確な方向性になれば、バンドの実力がもっと発揮できそうだが。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 スタイリッシュ度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Green Asphalt
スウェーデンのプログレバンド、グリーン・アスファルトの2021年作
やわらかなオルガンにアコースティックギター、女性声を含むキャッチーなコーラスハーモニーとともに幕を開け、GENTLE GIANTにも通じる優雅で軽妙なサウンドを展開。
フルートやサックスが鳴り響く、オールドなプログレ感触と、北欧らしい涼やかさが同居して、ときにKING CRIMSON的なアンサンブルも覗かせる。
女性ヴォーカルをメインにした優美なナンバーや、モダンなシンセアレンジにサックスやピアノが絡むスタイリッシュなジャズロック風など、なかなかとらえどころがない。
ラストの10分の大曲では、軽やかな歌もの感にオーケストラアレンジが加わり、とぼけたような優雅さとシンフォニックな美意識が交差する。
ドラマティック度・7 プログレ度・8 優雅度・8 総合・8
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Eddie Mulder 「Signature」
オランダのミュージシャン、エディ・マルダーの2022年作
Flamborough Head、Leap Dayにも在籍するギタリストで、ソロとしてもすでに8作目となる。
Leap Dayのメンバーに加え、CAMELのコリン・バース、KAYAKのトン・スケルペンツェルなどがゲスト参加。
叙情的なギターの旋律にきらびやかなシンセワークを重ね、インストによる優美なシンフォプログレを聴かせる。
ムーグシンセなどヴィンテージなプログレ感触と、哀愁を含んだギターのメロウなフレージングで、TRIONあたりにも通じるウェットな耳心地で楽しめる。
一方では、アコースティックギターを取り入れた繊細な美意識も光る。どこをきっても「泣き」の美学に包まれた逸品です。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 叙情度・9 総合・8
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Project: Patchwork 「Ultima Raito」
オランダのハードプログレ、プロジェクト:パッチワークの2022年作
2015年にデビューし、3作目となるきらびやかなシンセのイントロから幕を開け、叙情的なギターとエモーショナルなヴォーカルを加え、優雅でスタイリッシュなサウンドを描く。
巧みなギタープレイを随所に織り込み、リズムチェンジを含む知的な展開力はProgMetal的でもありつつ、女性ヴォーカルによる優美な叙情ナンバーなどもアクセントになっている。
後半の12分の大曲では、繊細なアコースティックパートを含んで、メロウな叙情ギターと表現力あるヴォーカルでじわりと盛り上げる。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 スタイリッシュ度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
Mariana Semkina 「Sleepwalking」
ロシアの女性ミュージシャン、マリアナ・セムキナの2020年作
Iamthemorningでも活躍するシンガーで、ソロとしては初の作品となる。アコースティックギターのつまびきに、コケティッシュな女性ヴォーカル、ヴァイオリンなどのストリングスが艶やかに重なるクラシカルなサウンド。
しっとりとしたネオフォークと寄りのサウンドから、ドラムやベースを加えたほどよいロック感触のナンバーなどは、シンフォニックロックとしても楽しめる。
楽曲は2〜4分の小曲主体で、彼女の美声による歌ものを基本に、Iamthemorningに通じる繊細で優雅なサウンドに浸れます。
ジョーダン・ルーデス、ニック・ベッグス、クレイグ・ブランデル(KINO)などがゲスト参加。
クラシカル度・8 プログレ度・6 女性Vo度・8 総合・8
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Dave Kerzner 「New World」
アメリカのミュージシャン、デイヴ・カーズナーの2015年作
Arc Of Life、In Continuum、Mantra Vega、Sound Of Contactなどに参加するシンセ奏者で、本作は2014年のソロデビュー作を2枚組に拡大した完全版。
ギターとベースにFernando Perdomo、ドラムにNick D'Virgilioが全面参加、スティーブ・ハケット、フランシス・ダナリー、サイモン・フィリップス、ヘザー・フィンドレイ、デヴィッド・ロングドンなどがゲスト参加。
砂漠化した惑星から故郷への帰還を目指すオリジナルSFストーリーに基づくコンセプト作で、優美なシンセにいくぶんハードなギターを重ね、ときにProgMetal的な感触も含んだサウンドを展開する。
スペイシーンなシンセにメロウな泣きのギターが重なる、Pink Floyd風の叙情性から、Disc2では民族的なパーカッシヨンやしっとりとしたアンビエントな曲などもはさみつつ、ラストは20分を超える大曲で、じっくりとシンフォニックに盛り上げる。CD2枚で合計142分の大作だ。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 壮大度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Tricantropus 「Recuerdos del Futuro」
スペインのプログレバンド、トリカントロプスの2007年作
元AZAHARのKeyを含む編成で、軽やかなリズムに優美なシンセと繊細なギターを重ね、CAMELにも通じる叙情的なインストを聴かせる。
ときにツインキーボードになったり、ツインギターによるメロウなフレーズも耳心地よく、オールインストながら、メロディアスな味わいで楽しめる。
全体的に派手な展開はないが、Steve HackettやJean Pascal Boffoなどを思わせる、優雅なギターの旋律にゆったりと浸ることができる好作品。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 叙情度・8 総合・7.5
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6/14
女性シンガー&ネオフォーク特集(125)
Tirill Mohn 「Three Love Songs and a Swan Song」
ノルウェーの女性ミュージシャン、ティリル・モーンの2022年作
White Willowにも参加していたシンガーで、現在はTrill名義で作品を発表。本作は4曲入りのEPで、ティリルは楽曲提供のみ。
アコースティックギターに物悲しいチェロが重なり、美しいソプラノ女性ヴォーカルで、しっとりとクラシカルな室内楽風トラッドを聴かせる。
魅力的な女性声を活かしたミニマルなサウンドで、この手が好きならウットリと浸れるだろう。4曲、全17分という小作品なので今後のフルアルバムに期待したい。
アコースティック度・10 優美度・8 女性Vo度・8 総合・7.5
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Siri Nilsen 「Skyggebokser」
ノルウェーの女性SSW、シリ・ニルセンの2014年作
やわらかなピアノにアコースティックギター、母国語による美しい女性ヴォーカルを乗せて北欧らしい涼やかな空気に包まれたサウンドを描く。
素朴なダルシマーの音色なども含む、北欧トラッド的な土着性と、コンテンポラリーなポップ性が同居した聴き心地で楽しめる。
楽曲は3〜4分前後と、キャッチーな歌ものであるが、キュートで魅力的な歌声とともに、ときにチェロやトランペットなども加えた、透明感のある北欧フォークロックとしても鑑賞可能。
キャッチー度・8 北欧度・8 女性Vo度・8 総合・7.5
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TONE HULBAEKMO 「Svevende Jord」
ノルウェーの女性シンガー、トーネ・ヒュルバクモの1986年作
フルート&サックス&アコーディオン奏者のハンス・フレドリック・ヤコブセンを夫にもつ女性シンガー&ハープ奏者で、1983年にデビューし、2作目となる。
優美なホイッスルにフィドルが鳴り響き、うっすらとしたシンセとパーカッションのリズムに、美しい女性ヴォーカルを乗せ、北欧らしい涼やかなトラッド・フォークを聴かせる。
繊細なハープのつまびきに母国語の優しいヴォーカルにウットリとなりつつ、一方では、コミカルでエキセントリックな歌唱を覗かせたり、フィドルが鳴り響く本格派の北欧トラッド風味などもあって、楽曲は2〜4分前後が主体であるが、なかなかディープな聴き心地。北欧の空気に浸りたい方へ。
アコースティック度・8 北欧度・9 女性Vo度・8 総合・7.5
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Bube Dame Konig 「Nachtlandlein」
ドイツのネオフォーク、ブーブ・ダム・コニグの2019年作
2015年にデビュー、3作目。アコースティックギターに素朴なハーディ・ガーディの音色、ドイツ語による女性ヴォーカルを乗せた古楽寄りのネオフォーク。
透明感のある女性声がじつに魅力的で、艶やかなヴァイオリンも加わって、アコースティックをメインにした幻想的なゲルマン・フォークが楽しめる。
陽性のキャッチーなナンバーから、涼やかなトラッドまで、音数は少ないものの、ヨーロピアンな土着感に包まれた女性声フォークに浸れます。
アコースティック度・8 幻想度・8 女性Vo度・9 総合・8
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Margaret Becker/Marie Brennon/ Joanne Hogg 「New Irish Hymns」
エンヤの姉でCLANNADのシンガー、モイヤ・ブレナン、IONAのジョアンヌ・ホッグ、アメリカ人シンガーのマーガレット・ベッカーによる連名作。2001年作
イーリアンパイプとホイッスルにトロイ・ドノックリーが参加。キリスト教の讃美歌をテーマに作られたアルバムで、優美なシンセにオーケストラアレンジ、ドラムやギターも加えた、シンフォニックなケルティックロック風味のサウンド。
それぞれにリードをとる美しい女性ヴォーカルとコーラスが重なり、牧歌的なイーリアンパイプやホイッスルも加わって、涼やかでキャッチーな聴き心地は、IONAのファンであれば文句なく楽しめるだろう。
艶やかなフィドルが鳴り響くアイリッシュなテイストや、美しいピアノとストリングスをバックにしっとりとした歌声で聴かせる静謐なナンバーも素晴らしい。
ときに母性的、ときに崇高な、表現豊かな3人の女性シンガーの歌声をコンテンポラリーなケルテイックサウンドで楽しめる逸品です。
シンフォニック度・8 ケルティック度・8 女性Vo度・9 総合・8
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FIONNUALA GILL 「WHISPERS OF LOVE」
アイルランドの女性シンガー&ハープ奏者、フィノーラ・ギルの2007年作
アヌーナのヴォーカルでもあり、シークレット・ガーデンにも参加した実力派で、うっすらとしたシンセにクラシックギターのつまびき、彼女の美しい歌声とともに、しっとりとしたアコースティックサウンド聴かせる。
優美なピアノやアイリッシュハープのつまびきに母性的な歌声が優しく響き渡り、ヴァイオリンやホイッスルも加わって、ケルティックな優雅さにも包まれる。
バックの音数はシンプルなので、彼女の魅力的なヴォーカルにじっくりと浸れます。
アコースティック度・9 ケルティック度・7 女性Vo度・9 総合・7.5
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Jorane 「L'instant Aime」
カナダ、ケベック州の出身の女性シンガー/チェロ奏者、ジョラーヌの2012年作
1999年にデビュー、本作は7作目。クラシカルなピアノにしっとりとした女性ヴォーカルを乗せた1曲目から、艶めいた大人の雰囲気に包まれる。
フランス語によるコケティッシュな歌声をメインに、わりとエキセントリックでドリーミィな感触も覗かせつつ、随所に物悲しいチェロの音色も加わって、単なる歌ものという以上にアーティスティックな聴き心地。
過去のアルバム以上に、オペラのアリアを歌うような表現力も増していて、全体的にはチェロの出番が減っているので、純粋な歌ものとして楽しむのがよいだろう。
アコースティック度・8 優雅度・8 女性Vo度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Bourrasque Celtique 「Sentier Des Loups」
カナダのフォークバンド、ボーラスク・ケルティックの2010年作
2003年にデビューし、2作目となる。ギターやマンドリンのつまびきに、コルヌミューズ(バグパイプ)やクラリネットが鳴り響き、やわらかなフルートの音色に、フランス語による女性ヴォーカルがキュートな歌声を乗せる、素朴で優雅な味わいのサウンド。
カントリー風の牧歌的なナンバーから、幻想的なネオフォーク風味、エレキギターとドラムを加えたロック感触も覗かせるなど、ケベックのバンドらしい多様性も感じさせる。
9分、11分という大曲もあり、クラリネットとフルートが絡む優雅なインストパートなど、ケルトとカントリーが同居したような全72分の力作です。
牧歌フォーク度・8 優雅度・8 女性Vo度・7 総合・7.5
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Woodland 「Seasons In Elfland : Shadows」
アメリカのネオフォーク、ウッドランドの2010年
2000年にデビューし、3作目となる。ヴァイオリンやチェロの艶やかなストリングスにコケティッシュな女性ヴォーカル、優雅なフルートやホイッスルも加えた、幻想的なネオフォークを聴かせる。
優しいハープのつまびきにアコースティックギターとストリングスが重なり、しっとりとした女性声にウットリとなりつつ、ギターやドラムを加えたロック感触も多少あるのでプログレリスナーにも聴きやすいだろう。
なによりキュートな女性シンガーの魅力が、楽曲の世界観を優しく彩っていて、はかなげで幻想的な空気に包まれたサウンドに浸ることができる。
幻想フォーク度・9 優雅度・9 女性Vo度・8 総合・8
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Fern Knight 「Music for Witches & Alchemists」
アメリカのアシッドフォーク、フェーン・ナイトの2006年作
2003年にデビューし、2作目となる。アコースティックギターに、優雅なハープやチェロ、ハルモニウムの素朴な音色、しっとりとした女性ヴォーカルに男性声も絡む、幻想的なアシッドフォーク聴かせる。
アコースティックを基本にしつつ、エレキギターやシンセ、ドラムを加えたロック寄りのアレンジもときおり覗かせて、プログレ寄りのリスナーにも楽しめるサウンドである。
楽曲は3〜4分前後と比較的シンプルであるが、タイトルのように魔女や錬金術師といったワードにまつわる世界観はしっかりと感じられ、わりとヘタウマな女性Voもこの作風によくマッチしている。
アコースティック度・7 幻想度・8 女性Vo度・7 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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Spiral Dance 「Through A Sylvan Doorway」
オーストラリアのフォークバンド、スパイラル・ダンスの2012年作
1996年にデビュー、本作は6作目でCD2枚組の大作。アコースティックギターのつまびきに美しい女性ヴォーカルの歌声を乗せた素朴なフォークサウンドで、優雅なアコーディオンの音色や、ドラムが加わるフォークロック風味、ときに男性声も加わりつつ、牧歌的な土着感に包まれた聴き心地。
Disc2では、ヴァイオリンやエレキギターも加え、SPRIGUNSにも通じる緩急あるフォークロック的なナンバーから、母性的な歌声をゆったりと聴かせるメディーヴァルな雰囲気や、艶やかなヴァイオリンのケルト風のナンバーなど、楽曲ごとに味わいがある。
アコースティック度・8 優雅度・8 女性Vo度・8 総合・7.5
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Lot Lorien
ブルガリアのフォークロック、ロット・ローリエンの2009年作
艶やかなヴァイオリンのイントロから、美しい女性ヴォーカルにフルートの音色を、ドラムとベースのロック寄りのアンサンブルに乗せて、優雅なフォークロックを聴かせる。
母国語による母性的な歌声にウットリとなりつつ、軽妙なリズムにはプログレやジャズロックのテイストもあるので、ほどよくスリリングな味わいで楽しめる。
バンドとしてのアンサンブルも上質で、東欧系女性Voシンフォのファンにもお薦めの、優雅な幻想フォークロックの傑作だ。
アコースティック度・7 優雅度・9 女性Vo度・8 総合・8
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Milladoiro 「A Quinta Das Lagrimas」
スペイン、ガリシア地方のトラッドバンド、ミジャドイロの2008年作
1980年デビューのベテランで、本作はおそらく14作目あたり。アコースティックギターのつまびきにうっすらとしたシンセ、アコーディオンやガイタの素朴な音色に、美しい女性ヴォーカルに男性声が絡む、優雅なスパニッシュトラッドを聴かせる。
マンドリンやマンドラ、フルート、ティンホイッスル、クラリネット、オーボエなど、多彩な楽器の重ねが、異国的な情緒をかもしだし、バウロンのリズムもくわえて古楽風のメディーヴァルな幻想性を描いてゆく。
今作では、エモーショナルな女性ヴォーカルが魅力的なナンバーも多く、シンセによる味付けも含めて、プログレ向けのガリシアントラッドが味わえる逸品だ。
アコースティック度・9 スパニッシュ度・8 優雅度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Barahunda 「Al Sol De La Hierba」
スペインのトラッドフォーク、バラフンダの2002年作
ガリシア地方のユニットで、タブラのリズムにアコースティックギター、アコーディオンやイーリアンパイプ、美しい女性ヴォーカルのガリシア語の歌声で、優雅なアコースティック・トラッドを聴かせる。
ロック色やコンテンポラリーな要素はなく、あくまで伝統的なガリシアントラッドをルーツにした作風は、Milladoiroの女性声版というような素朴な味わいで楽しめる。
やわらかなフルートの音色や、ブズーキのつまびき、パーカッションのリズムと、エスニックなテイストも含んだ、本格派女性声トラッドの傑作です。
アコースティック度・9 スパニッシュ度・8 女性Vo度・8 総合・8
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Cristina Branco 「Murmurios」
ポルトガルの女性シンガー、クリスティーナ・ブランコの1998年作
ポルトガルの民族歌謡、ファド界の新女王とも呼ばれるアーティストで、クラシックギターのつまびきに母国語による伸びやかなヴォーカルを乗せて、優雅で素朴なトラッド歌謡を聴かせる。
スパニッシュ系のトラッドに通じる哀愁を含んだ土着性と、美しい彼女の歌声がマッチしていて、バックはシンプルなアコースティックサウンドながら、瑞々しい歌唱が耳に心地よい。
楽曲は2〜3分前後で、優雅なラテン系歌ものトラッドとして鑑賞するのがよいだろう。
アコースティック度・8 哀愁度・8 女性Vo度・8 総合・7.5
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Spieleband 「Spielekraft」
ロシアの中世フォークバンド、スピエレバンドの2011年作
バウロンのリズムにシターンやマンドリンのつまびき、ホイッスルやリコーダーの音色にバグパイプが鳴り響き、コケティッシュな女性ヴォーカルを乗せたメディーヴァルな雰囲気のトラッドフォーク。
アコースティック楽器のみなので素朴なサウンドであるが、楽器数が多いので音の厚みがあり、魅力的な女性声も含めて魅力的だ。
全31分と短いのが残念だが、中世にトリップするような優雅で幻想的な古楽フォークが楽しめる。
アコースティック度・9 メディーヴァル度・8 女性Vo度・7 総合・7.5
Iva Bittova 「Ne Nehledej 」
チェコの女性シンガー&ヴァイオリニスト、イヴァ・ビトヴァの1994年作
本作は2作目となる。のっけから14分という大曲で、鳴り響くヴァイオリンにコケティッシュなヴォーカルを乗せ、クラシカルでアヴァンギャルドなサウンドを描く。
バックはほぼヴァイオリンのみだが、ときおりパーカッションも加わりトライバルな雰囲気もかもしだす。
なにより彼女のエキセントックな歌声が優しい毒気になっていて、ときに絶叫もするインパクトトは、単なる東欧トラッドやコンテンポラリーの域を越えた世界観になっている。
後半にはピアノをバックにした優雅なナンバーもあるが、ラストでは艶めいた奇声が響き渡る。
クラシカル度・7 アヴァンギャル度・8 女性声度・8 総合・7.5
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5/25
モダンとオールドのはざまで(108)
Glass Hammer 「Skallagrim: Into The Breach」
アメリカのプログレバンド、グラス・ハマーの2021年作
マイケル・ムアコックの小説にインスパイアされたという、オリジナルのコンセプトストーリーに基づく作品の続編で、しっとりとしたピアノのイントロから、ヘヴィなギターにシンセを重ね、伸びやかな女性ヴォーカルとともに重厚なサウンドを構築。
うねりのあるベースにハードなギターが乗るあたりはドゥームロックを思わせつつ、オルガンが鳴り響くヴィンテージな味わいと、ムーグシンセなどのプログレらしさが絶妙に融合している。
アッパーなサイケロック風のナンバーなど、ほどよいハードロック感触の中に、うっすらとシンフォの優雅さも覗かせる。全70分の力作である。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 ヴィンテージ度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Glass Hammer 「At The Gate」
アメリカのプログレバンド、グラス・ハマーの2022年作
2020年作「Dreaming City」から始まるコンセプト三部作の完結編で、オルガンやムーグ含むきらびやかなシンセにメロウなギターの旋律を重ね、美しい女性ヴォーカルを乗せた優雅なシンフォニックロックが広がる。
2曲目以降は、前作にもあったヴィンテージなハードロック感触や、スペイシーなシンセを重ねた、HAWKWIND風のサイケロックナンバーなども取り込んでストーリーを描く。
元メンバーで、現YESのジョン・デイヴィッドソンがゲスト参加。ラストの13分の大曲も、男女声を乗せたゆったりと優雅な叙情に包まれて、じわじわと盛り上げる。
幻想的な世界観の構築力も含めて、シンフォプログレとしてのサウンドの説得力はもはや貫録の域といえる。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 幻想度・8 総合・8
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Big Big Train 「Ingenious Devices」
イギリスのプログレバンド、ビッグ・ビッグ・トレインの2023年作
1994年にデビュー、すでに英国ネオプログレの代表格。フロントマンのデヴィッド・ロングドンの急逝を乗り越えての、過去曲のリミックスに未発曲とライブを収録した全59分のEP。
1曲は、演奏は現メンバーによる新緑で、優美なピアノやシンセに故ロングドンのエモーショナルなヴォーカルを乗せ、ストリングスやホルンによるアレンジを新たに加えた、優雅でスタイリッシュなシンフォプログレを聴かせる。
ニック・ディヴァージリオのタイトなドラムを軸にしたアンサンブルも盤石で、演奏力の高さという点では、NEAL MORSE BANDなどのファンにもお薦めできる。
全5曲といえど、4曲は10分超えなので、アルバムなみに聴きごたえもある。ラストのライブ音源は、新Voを迎えての編成で、バンドの未来へつなげる締めくくり。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 優雅度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Imaginaerium 「The Rise Of Medici」
イギリスのシンフォニックロック、イマジナリウムの2023年作
PENDRAGON、ARENAのクライブ・ノーランが、The RoomのEric Bouilletteと手を組み、ルネサンス期イタリアの「メディチ家」の歴史を取り上げたロックオペラ。
女性シンガーのLaura Piazzai、元Twelfth Nightのアンディ・シアーズをヴォーカルに迎え、オーケストラルなアレンジに美しい女性ヴォーカルの歌声を乗せ、歴史を感じさせるようなチャントやSEを含みながら、重厚なシンフォニックロックを展開する。
配役ごとの男女Voとともに、マンドリンやハープなどアコースティックな優雅さも含んだ味わいで、シネマティックな世界観を描き出す。
CAAMORAなど、C.ノーラン関連のストーリーものシンフォが好きな方はチェックです。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 壮麗度・8 総合・8
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Agnieszka Swita 「Sleepless」
ポーランドの女性シンガー、アグニエスカ・スウィタの2014年作
CAAMORAにも参加した女性シンガーで、本作はクライブ・ノーランがシンセ担当でプロデュース、Twelfth Nightのアンディ・フォークナー、ARKのスティーブ・ハリス、元DRAGONFORCEのデイヴ・マッキントッシュが参加している。
なよやかな女性ヴォーカルをメインに、美麗なシンセアレンジとほどよくハードなギターで、LANDMARQにも通じる優雅でキャッチーなシンフォニックロックを聴かせる。
艶めいたアグニエスカ嬢の歌声は、やはりCAAMORAを思わせるシアトリカルなドラマ性も感じさせ、3部構成の組曲なども聴きごたえがある。これは女性声シンフォ好きは必聴ですな。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 女性Vo度・8 総合・8
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Magenta Aura 「The Rock Artist's Progress」
イギリスのプログレユニット、マジェンタ・オーラの2023年作
元CURVED AIRのヴァイオリニスト、Darryl Wayがプロデュース。英国の音楽大学で学ぶ若きピアニストを主人公とする小説を基にしたコンセプトで、オールドな味わいのギターにオルガンを重ね、キャッチーなヴォーカルメロディとともに、60〜70年代ルーツのサイケ風味のアートロック聴かせる。
叙情的なギターの旋律にビートルズにも通じるポップで牧歌的なコーラス、やわらかなオルガンが耳心地よく、MARILLIONのスティーブ・ホガースが参加し、エモーショナルな歌声を乗せるゆったりとしたナンバーも味わいがある。
プログレというよりは、ヴィンテージなサイケポップという好作品ですな。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 ヴィンテージ度・8 総合・8
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SANGUINE HUM 「A Trace Of Memory」
イギリスのモダンプログレ、サンガイン・ハムの2021年作
2010年にデビュー、本作は5作目となる。シンセによるエレクトロな味わいのイントロナンバーから、アコースティックを含むギターにマイルドなヴォーカル、やわらかなシンセワークとともに優雅なサウンドを構築。
13分という大曲は、チェンバーロック風のスリリングなパートから、テクニカルなリズムのジャズロック感触も覗かせ、インストパートでのセンスが光る。
全体的に派手さはないが、軽妙なアンサンブルに英国らしい知的な屈折感もまとわせて、カンタベリー系をモダンでスタイリッシュに仕立てたという趣でも楽しめる。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 優雅度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Jadis 「Medium Rare II」
イギリスのシンフォニックロック、ジャディスの2019年作
1992年にデビュー、本作は、ライブ音源、未発曲、別バージョンなどを収録した、全11曲入りのコンピレーション。
ゲイリー・チャンドラーの奏でる扇情的なギターメロディに優美なシンセを重ね、味のあるチャンドラーの歌声とともに、CAMEL+GENESISというようなキャッチーなシンフォプログレを聴かせる。
マーティン・オフォードの美麗なシンセも素晴らしい仕事ぶりで、IT BITESをシンフォニックにしたようなナンバーなど、リミックスバージョンもわりと新鮮に楽しめ、クオリティはアルバムと遜色ない。
GENESIS「Your Own Special Way」、PINK FLOYD「Comfortably Numb」カヴァーも優雅な仕上がりで、これぞ英国シンフォというサウンドが散りばめられた逸品です。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 叙情度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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EDEN 「Perelandra」
ドイツのシンフォニックロックバンド、エデンの1980年作
2作目となる本作は、C・S・ルイス「別世界物語」の「ペレランドラ」から着想を得たアルバムで、きらびやかなシンセアレンジにメロウなギター、美しい女性ヴォーカルの歌声を乗せた優美なシンフォニックロックを聴かせる。
随所に艶やかなヴァイオリンやフルートも加わって、その優雅な叙情性は、Renaissanceあたりにも通じる感触もあるが、ドイツ語による歌唱の響きはどこかミステリアスである。
男性ヴォーカルがリードをとる場面では、フォークロック的な感触や、曲によってはサイケ寄りの幻想的な浮遊感も覗かせる。
NOVALIS、ANYONE'S DAUGHTERにも引けを取らない、ジャーマン・シンフォプログレの隠れた逸品といえる。
2015年の紙ジャケ、SHM-CD盤では、音質もよりクリアになっている。ボーナストラックに、1stからの大曲を演奏したライブ音源を2曲追加収録。
シンフォニック度・8 プログレ度・8 繊細度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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UNKH 「TRAVELLER」
オランダのプログレバンド、UNKHの2014年作
わりとハードなギターにキャッチーなヴォーカルメロディとシンセ乗せて、モダンなビート感に包まれた、オルタナ風味も含んだプログレロックを聴かせる。
13分前後の大曲では、牧歌的な叙情も覗かせつつ、とぼけた屈折感を含んだプログレらしい展開力で、なかなか玄人好みに楽しめる。
曲によってはオルガンやムーグシンセを使ったヴィンテージな雰囲気も確信犯的で、シンフォプログレ要素も随所に垣間見せつつも、オールドになり過ぎないスタイリッシュな構築力が光る好作品。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 スタイリッシュ度・8 総合・7.5
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Lazuli 「Le Fantastique Envol De Dieter Bohm」
フランスのポストプログレ、ラズーリの2020年作
1999年にデビュー、本作は9作目となる。独自の弦楽器レオーデの音色をギターとシンセに加え、フランス語によるヴォーカルで、翳りを帯びた叙情を描くモダンなサウンド。
ときに叙情的なフレーズを奏でるレオーデとともに、楽曲はゆるやかな盛り上がりをみせ、ほどよくハードな硬質感も溶け込ませた、スタイリッシュな聴き心地。
優美なピアノや、アコースティックギターによる繊細なパートも覗かせながら、キャッチーな歌ものナンバーから、ダイナミックなラスト曲まで、バランスのとれた内容です。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 スタイリッシュ度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Thork 「Urdoxa」
フランスのプログレバンド、ソークの2000年
ギュスターヴ・モローの絵画ジャケが印象的だが、ヴァイオリンが鳴り響き、いくぶんハードなギターにシンセを重ね、フランス語によるマイルドな歌声を乗せ、クラシカルなシンフォプログレを聴かせる。
艶やかなヴァイオリンやフルートなどを用いた優雅な美意識は、TERPANDREあたりに通じる雰囲気もあり、翳りを帯びた芸術性とともに、16分の大曲を構築する。
いくぶんアヴァンギャルドな展開は、ATOLL「夢魔」あたりも想起させたりと、いかにもフレンチプログレらしい。
マイナーな存在ながら、ほどよくスリリングでヨーロピアンな空気が味わえる、10分超える大曲が4曲あるという力作である。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 フレンチ度・9 総合・8
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5/11
5月のプログレ(96)
Kalman Filter 「Exo-oceans」
イギリスのプログレユニット、カルマン・フィルターの2018年作
THE TANGENTなどで活躍する、アンディ・ティリソンによるソロプロジェクトで、The Fierce & The Deadのマット・スティーヴンスがギターで参加。
14分、18分、42分という大曲3曲の構成で、シーケンサー的でもあるシンセやノイズを含むSEの重ねにギターを加え、コラージュ的サウンドを描きつつ、ジャズタッチのピアノやオルガンが鳴り響く、優雅なアンサンブルも覗かせる。
アコースティックギターの繊細なつまびきと、Klaus Schulze的なスペイシーなシンセサウンドが同居し、モダンなのにヴィンテージという感触が面白い。
42分の大曲は、Tangerine Dreamをプログレ寄りにしたという雰囲気から、大人のジャズロックへと展開。後半は20分ほどの無音が続く。
ドラマティック度・7 プログレ度・8 優雅度・8 総合・8
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LA CRUNA DEL LAGO「Schiere Di Sudditi」
イタリアのプログレバンド、ラ・クルーナ・デル・ラーゴの2022年作
RDM「Contaminazione 2.0」に参加していたメンバーを主体にしたバンドで、いくぶんハードなギターにきらびやかなシンセワークを重ね、イタリア語によるジェントルなヴォーカルとともに、イタリアンプログレの王道を聴かせる。
70年代ルーツのスタイルながら、タイトなドラムによるリズムなど、いくぶんモダンな感触も融合させているという点で、現在形のハードプログレとしても楽しめる。
楽曲自体は5〜6分前後が主体で、長すぎず短すぎず、ヘヴィなナンバーから、ほどよい叙情も覗かせつつ、全体的にはもう少し盛り上がりが欲しいか。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 イタリア度・8 総合・7.5
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Ellesmere 「Wyrd」
イタリアのシンフォニックロック、エルスメーレの2020年作
Taprobanのロベルト・ヴィテッリによるプロジェクトで、2015年にデビュー、3作目となる本作は、ロドニー・マシューズによる幻想的なジャケが印象的。
マティアス・オルソン(元ANGLAGARD)がドラムで全面参加、ゲストにはトマス・ボディーン(元THE FLOWER KINGS)、ジョン・ハケット、デヴィッド・クロス、デヴィッド・ジャクソン、ルチアーノ・レゴーリ(RRR)という豪華なメンバーが参加している。
優美なピアノとヴァイオリンのイントロから、ムーグやメロトロン、オルガンなどのヴィンテージなシンセにメロウなギター、ハイトーンのヴォーカルを乗せ、壮麗なシンフォプログレを展開。
スリリングな雰囲気のインストパートから、優美なフルートやサックスの音色とともに翳りを帯びた叙情が包み込み、随所にプログレらしいリズムチェンジも覗かせる。
ラストの13分の大曲は、インストをメインにした緩急ある流れの中にも、これぞシンフォニックロックという美麗なメロディと音の重ねが詰まっている。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 叙情度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Taproban 「Strigma」
イタリアのプログレバンド、タプロバンの2013年作
2001年にデビューし、4作目。15分、18分という2つの大曲を含む構成で、叙情的にギターのイントロから、オルガンが鳴り響き、ピアノやフルートの音色とともに、インストによる優雅なシンフォプログレを展開する。
きらびやかなムーグシンセ、ピアノ、オルガンを乗せた緩急ある構築力は、EL&Pをルーツにしていることは明白だが、妖しい翳りを帯びた世界観などはやはりイタリア的で、濃密な鍵盤プログレとしては日本のARS NOVAあたりにも通じるだろう。
ラスト曲の後半では、叙情的なギターにわすがにヴォーカルパートも覗かせるか、ほぼオールインストといってよいかと。
ドラマティック度・7 プログレ度・8 キーボー度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Passover 「What Do You Want?」
イタリアのプログレバンド、パソーヴァーの2021年作
ユダヤ系メンバーによるバンドで、2009年にデビューし、本作は11年ぶりとなる復活の3作目。バンド名は出エジプトを祈念するユタヤの大祭のこと。
わりとハードなギターにオルガンを含むシンセを重ね、英語によるヴォーカルと女性コーラス、クラリネットの音色も加わり、OSANNAあたりにも通じる妖しい土着感に包まれたサウンドを描く。
アコースティックギターに、ヴァイオリンやトロンボーン、クラリネットが優雅に重なるナンバーは、クラシカルな優美さと、牧歌的な味わいに包まれる。
女性ヴォーカルのしっとりしとた叙情ナンバーも耳心地く、ラスト曲の翳りを含んだシンフォ路線など、個人的には女性声をメインにした作風の方が嬉しい。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 叙情度・7 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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Tacita Intesa 「Faro」
イタリアのプログレバンド、タシタ・インテサの2018年作
2014年にデビューし、2作目となる。軽やかなリズムに叙情的なギターとシンセを重ね、イタリア語のヴォーカルとともに、PFMにも通じる優雅でキャッチーなサウンドを描く。
手数の多い巧みなドラムとグルーヴィなベースを軸にした確かな演奏力で、ジャズロック的でもある技巧性も覗かせつつ、あくまで陽性のメロディアス性が爽快だ。
オルガンやムーグなどのヴィンテージなシンセにメロウなギターの旋律がかぷさるシンフォプログレ要素を、さらりと軽妙に聴かせるところもセンスの良さだろう。
ときにハードロック的なプレイも聴かせるギターのテクニックもかなりのもので、ジャズロック、プログレ、テクニカルロックとしても楽しめる好作だ。
メロディック度・8 プログレ度・8 優雅度・9 総合・8
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The Winstons & EdMsC「Pictures At An Exhibition」
イタリアのプログレバンド、ウインストンズの2018年作
2016年にデビュー、2作目の本作はチェンバー系ユニット、Esecutori Di Metallo Su Cartaのヴァイオリン、ヴィヴラフォン奏者を迎えて、ムソルグスキー「展覧会の絵」を再現している。
艶やかなヴァイオリンとピアノの導入から、ドラムにギター、シンセも加わってのロックアレンジで、EL&Pばりのダイナミックなサウンドを構築。
一方では、ヴィブラフォンの優雅な響きにヴァイオリンが絡む、ほぼチェンバーロックというパートもあったりとなかなか面白い。
全37分なので、「展覧会の絵」にさほど感心がない方には物足りないかもしれないが、スリリングな「バーバヤーガの小屋」〜ラストの「キエフの大きな門」への流れはドラマティックです。
クラシカル度・8 プログレ度・7 チェンバー度・8 総合・8
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Arm on Stage 「Aldrin」
イタリアのプログレバンド、アーム・オン・ステージの2013年作
2009年にデビューし、2作目。いくぶん硬質なギターにうっすらとしたシンセ、エモーショナルなヴォーカルを乗せて、オルタナ感触のあるスタイリッシュなプログロックを聴かせる。
楽曲は2〜5分前後で、派手な展開というのはさほどないが、キャッチーなヴォーカルメロディとともにノリのよいロック感もあって、COHEED AND CAMBRIAなど、プログレ寄りのエモーショナルロックとしてもわりと楽しめる。
ヴァイオリンが鳴り響くゆったりとした叙情のナンバーや、バスクラリネットやホルン、優美なピアノにストリングスで、クラシカルな味わいのラストナンバーなどはいいですね。
メロディック度・8 プログレ度・7 オルタナエモ度・8 総合・7.5
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SINGLE CELLED ORGANISM 「EVENT HORIZON」
ドイツのシンフォニックロック、シングル・セルド・オーガニズムの2023年作
マルチプレイヤーのJens Lueckによるソロプロジェクトで、2017年にデビューし、3作目となる。
オリジナルのSF的ストーリーに基づいたコンセプト作の続編で、美麗なシンセアレンジに叙情的なギター、マイルドなヴォーカルに女性ヴォーカルも加えて、スペイシーなシンフォプログレを描き出す。
本職がドラムというだけあって、グルーヴィなリズム感が心地よく、メロウなギターの旋律にオルガンなどを含むプログレらしさも随所に覗かせて、6〜9分前後の楽曲を、空間性のあるスケール感で構築する。
エモーショナルでキャッチーなヴォーカルメロディは、ときにMARILLION的でもあり、ソロシンガーとしても活躍するIsgaard嬢の美しい歌声もアクセントになっている。
ラストナンバーでの展開力あるインストパートはドラマティックな流れも見事で、まさに壮大なる本格派のシンフォニックロック作品です。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 叙情度・8 総合・8
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Cydonia 「Stations」
ドイツのプログレバンド、シドニアの2022年作
14分の大曲を含む3曲に、ライブ音源2曲を加えたアルバムで、オルガンなどのヴィンテージなシンセに叙情的なギター、ジェントルなヴォーカルで、優美な大人のシンフォプログレを聴かせる。
泣きのフレーズを奏でるギターやピアノを含む繊細なシンセワーク、マイルドな歌声とともに、ロマンティシズムを感じさせる優雅な空気感に包まれる。
アコースティックから幕を開ける大曲は、メロウなギターとシンセの重ねで翳りを帯びた叙情性を描き出しながら、後半にじわじわと盛り上げる。
2曲のライブ音源は、これという意外性はなく、今後はスタジオ録音でのフルアルバムに期待したい。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 優美度・8 総合・7.5
ArtefacTron
メキシコのプログレバンド、アーテファクトロンの2022年作
優美なシンセワークに軽やかなギターの旋律、スペイン語によるジェントルなヴォーカルで、中米らしい哀愁の叙情に包まれたシンフォプログレを聴かせる。
テクニカル過ぎないリズムに、ムーグやオルガンを含むきらびやかなシンセ、オヤジ臭さのあるヴォーカルなど、全体的にも野暮ったさが味わいになっていて、初期のICONOCLASTAあたりに通じる雰囲気もある。
ラストは18分という大曲で、キャッチーな歌ものパートから、華麗なキーボードと哀愁のギターの旋律でじわりと盛り上げる。傑作まではもう一歩というところ。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 哀愁と叙情度・8 総合・7.5
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Xavier Asali 「Perspectives」
メキシコのミュージシャン、ザヴィアー・アサリの2017年作
バークリー出身のミュージシャンで、ギター、ベース、ヴォーカル、シンセを一人でこなすマルチプレイヤー。
ポール・ホワイトヘッドによるジャケからしてニヤりだが、サウンドの方もアコースティックを含むメロウなギターにやわらかなシンセ、味のあるヴォーカルとともに、GENESISルーツの優雅で叙情的なシンフォプログレを聴かせる。
オルガンやムーグ、メロトロン的なヴィンテージなシンセアレンジに優美なピアノ、ピーター・ガブリエルより少しオヤジ感のあるヴォーカルもよろしく、“Firth
Of Fifth”のオマージュ的なナンバーなど、どこを切ってもジェネシス愛が伝わってくる。
10分超えの大曲などがないので、全体的にはもう少し濃密さがあれば、まんまGENESIS系シンフォの傑作となったろう。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 ジェネシス度・8 総合・8
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COS 「VIVA BOMA」
ベルギーのチェンバー・ジャズロック、コスの1976年作
1974年にデビューし、2作目となる。デジタルな感触のイントロから、トライバルなパーカッションに妖しい女性ヴォーカル、フリーキーなギターを重ねて、アヴァンギャルドなサウンドに包まれる。
3曲目からは、軽やかなギターのプレイにエレピにオルガン、サックスなどが加わった、優雅なジャズロック感触となりつつ、浮遊感あるコケティッシュ女性声とともに、どこか不穏で夢見心地の味わいにもなる。
FOCUSばりに叙情的なギターを奏でるナンバーや、オーボエ、クラリネット、フルートなどの優雅な音色のチェンバーロック風味など、前作以上に振り幅の大きなアレンジが楽しめる。
CDのボーナスには未発曲やデモなどを4曲追加収録。
ドラマティック度・7 ジャズロ度・7 優雅度・8 総合・8
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4/26
GWはプログレで(83)
Kebnekaise 「Ljus Fran Afrika」
スウェーデンのプログレ・サイケロック、ケブネカイゼの1976年作。邦題「アフリカの灯」
1971年にデビュー、本作は4作目となる。これまで未CD化だった後期の2作が、2022年に紙ジャケCD化されたのは嬉しい。
アフリカ音楽にも影響を受けていたバンドのアフロ志向を全面に出した作品で、ギニア出身のパーカッション奏者が参加している。
1曲目からアフリカンな歌声に面食らうが、2曲目からは、ヴァイオリン鳴り響き、ユルめのギターの旋律とパーカッションのリズムで、土着的でサイケなバンドアンサンブルを展開。
艶やかなヴァイオリンを乗せた軽快なナンバーや、フリーキーで怪しげなサイケなナンバーもあって、優雅な味わいのラスト曲までそれなりに楽しめる。
民族度・8 プログレ度・6 サイケ度・7 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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POPOL ACE 「Stolen From Time」
ノルウェーのプログレバンド、ポポル・エースの1975年作
Popol Vuhの名義で1972年にデビューし、2作を残してから改名しての1作目。長らく廃盤だった作品が、2023年にリマスター再発された。
優美なシンセのイントロで幕を開け、英語によるジェントルなヴォーカルとともに、プログレハード寄りのキャッチーなサウンドを聴かせる。
グルーヴィなベースによるノリのあるリズムと、ピアノやメロトロンを含むやわらかなシンセ、叙情的なギターによる優雅な耳心地。
楽曲は4〜5分前後が主体とコンパクトで、同時期のKAIPAやDICEに比べるとライトな味わいであるが、北欧らしい涼やかな空気感は随所にしっかりと感じられ、ブリティッシュロック寄りのナンバーや、ラストのポップなサイケ感の大曲まで、マニアでなくても楽しめるだけの好作です。
メロディック度・8 プログレ度・7 北欧度・8 総合・8
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POPOL ACE 「CURLY SOUNDS」
ノルウェーのプログレバンド、ポポル・エースの1978年作
改名後の2作目、アメリカ市場を意識したようなポップな作風となり、メンバーの脱退もあって、バンドは本作で解散する。
前作から交替したヴォーカルの声質もあいまって、1曲目からしてポップなアメリカンロックという趣ながら、メロトロンを使った優美なシンセにはシンフォプログレの名残も感じさせ、キャッチーなコーラスハーモーなど、聴き心地は決して悪くない。
もともと確かな演奏力があるので、音自体の質は高く、プログレを期待しなければ、優雅なAORとして楽しめるだろう。
メロディック度・8 プログレ度・6 北欧度・7 総合・7.5
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KERRS PINK 「Mellom Oss」
ノルウェーのプログレバンド、ケルス・ピンクの1981年作
1980年にデビュー、本作は2作目となる。2023年のリマスター再発盤で聴き直してみる。
メロウなギターにエレピやオルガンを含むシンセ、母国語によるヴォーカルを乗せた、素朴な1曲目は、プログレというにはポップなロック感触であるが、土着的なギターの旋律にオルガンが重なる3曲からはこのバンドらしい哀愁の叙情に包まれる。
CAMELばりの泣きのギターが耳心地よいタイトルナンバーなど、インストパートがほとんどながら、北欧らしい涼やかな空気感ゆったりと聴き入れる。
ラストは17分の大曲で、優美なフルートに男女ヴォーカルも加えて繊細な叙情を描いてゆく。派手さはないが、優しい味わいの好作品です。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 北欧度・9 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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Manticore 「Next Step: Flight 19」
スウェーデンのプログレバンド、マンティコアの2018年作
1994年に1作を残して消えたバンドの、24年ぶりとなる復活の2作目。ジャケにはオッサンになったメンバーの姿が。
メロトロン鳴り響くイントロから、叙情的なギターとヴィンテージなシンセで、優雅なシンフォプログレを展開する。
10分の大曲では、マイルドなヴォーカルを乗せたキャッチーなプログレハード風から、メロウなギターにメロトロンが重なり、GENESISばりの叙情を覗かせる。
YES「Release Release 」、JOHN WETTON「Cold Is The Night 」のカヴァーなども、70年代ブリティッシュロック風のやわらかな叙情を再現している。
オヤジになって復活した、北欧プログレの寡作バンド。2022年には新作となる「Elements」を発表している。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 北欧度・7 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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Ainur 「War of the Jewels」
イタリアのプログレバンド、アイヌルの2021年作
2007年にデビュー、トールキンの「シルマリルの物語」をコンセプトにした作品を作り続けるこのバンド、本作は8年ぶりの5作目。
女性2人、男性1人のヴォーカルに、チェロやヴァイオリン、ヴィオラのストリングストリオ、フルート、女性ホルン奏者を含む編成で、シネマティックな語りを乗せたイントロから幕を上げ、壮大なストーリーを予感させる。
ムーグやオルガンなどきらびやかなシンセにほどよくハードなギター重ね、戦いを思わせるアグレッシブなナンバーから、ヴァイオリンが鳴り響き、女性ヴォーカルによる優美なパートへと、緩急ある流れのファンタジックなシンフォプログレを構築。
アルバム後半は12分におよぶ大曲もあり、全体的にもハードさを増した、AYREONにも通じるロックオペラが楽しめる。デレク・シェリニアン、ロベルト・ティランティがゲスト参加。
ドラマティック度・8 ハードプログ度・8 優雅度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Fabio Zuffanti 「Ghiaccio」
イタリアのミュージシャン、ファビオ・ズファンティの2010年作
FINISTERRE、HOSTSONATEN、LA MASCHERA DI CERAなど、多くのプロジェクトで活躍するミュージシャン、ソロ2作目の本作は、うっすらとしたシンセにイタリア語のマイルドなヴォーカルで、前作のアンビエント路線を深化させたモダンなポストプログレを聴かせる。
わりとポップなビート感のデジタルなナンバーなど、プログレというよりは歌ものモダンロックという趣で、正直退屈なところもあるのだが、他のバンドでさんざんプログレやっているので、ソロくらいはこれでいいのだろう。
ラストの10分の大曲もあくまでしっとりと、アンビエントに夢見心地です。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 モダン度・8 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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DONELLA DEL MONACO 「Venexia De Oro」
イタリアの女性シンガー、ドネラ・デル・モナコの1999年作
OPUS AVANTRAのシンガーである彼女が、詩人アンドレア・ザンゾットの詩を元に、“水の都ヴェニスの在りし日”をテーマにした制作した歌曲集。
パーカッションとアコースティックギターをバックに、オペラティックなドネラの歌声が響き渡る。
ロック色は皆無で、2〜3分前後の歌曲を連ねた、ほとんどクラシックのアリアを鑑賞しているような感触であるが、やわらかなフルートが鳴り響くあたりは、瑞々しいソプラノとともに優雅な耳心地で楽しめる。
クラシカル度・8 プログレ度・1 オペラティック度・8 総合・7 過去作のレビューはこちら
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Favni 「Windswept」
ドイツのプログレ・フォークロック、ファヴニの2016年作
Fauns名義で活動し、2007年、2011年にアルバムを発表、その後改名しての1作目となる
アコースティックギターにオルガンなどのシンセを重ね、美しい女性ヴォーカルに男性Voが絡む、牧歌的なフォークロックを聴かせる。
艶やかなヴィオラの音色や、随所にフルートやクラリネットも加わった優雅な感触に、ときにエレキギターも重なったハードな音の厚みも楽しめる。
2枚組のDisc2後半は、ライブ音源を収録していて、10分前後の大曲を男女Voや優美なシンセ、フルートの音色とともに、ゆったりと描いてゆく。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 優雅度・8 総合・7.5
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Yenisei 「Last Cruise」
ポーランドのプログレ・ポストロック、イェニセイの2019年作
うっすらとしたシンセに繊細なギターのトーンを乗せて、ポーランドらしい翳りを帯びた叙情に包まれたインストサウンドを聴かせる。
ドラムによるリズムと、ギターのメロウなフレーズ、優美なシンセアレンジで、オールインストながらも流れのある構築力で楽しめ、ときにトレモロを含むギターなど、ほどよい激しさも覗かせるなど、優美なポストブラック風味も感じさせる。
ラストは8分の大曲で、全36分であるが、インストとしてはちょうどよいボリューム。幻想的な逸品です。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 叙情度・8 総合・8
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Lobate Scarp 「Time and Space」
アメリカのプログレバンド、ロバート・スカルプの2013年作
女性チェロ奏者を含む5人編成で、ほどよくハードなギターにオルガンやピアノを含むシンセ、エモーショナルなヴォーカルにチェロやヴィオラの音色も重なり、NEAL MORSEなどにも通じるキャッチーな優雅さとテクニカル性が合わさったサウンドを聴かせる。
のっけから15分という大曲で、緩急ある展開と、ほどよく偏屈なマニア好みの味わいで、初期のSPOCK'S BEARDをルーツに、Cryptic Visionなど、アメリカンな抜けの良いハードプログレが合わさったという作風。
後半は、わりと普通のメロディックロックという雰囲気も強いのだが、ラスト曲は、ドラマティックなシンフォプログレで締めくくる。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 優雅度・7 総合・7.5
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Lobate Scarp 「Spirals And Portals」
アメリカのプログレバンド、ロバート・スカルプの2019年作
新曲3曲に、同曲バージョン違い4曲を収録したEPで、優美なシンセにジェントルなヴォーカルを乗せ、アメリカらしい優雅でキャッチーなシンフォプログレを聴かせる。
テクニカルなリズムチェンジとオールドなプログレ感触の同居という点では、SPOCK'S BEARDにも通じるが、エモーショナルな歌声とともにわりとスタイリッシュな雰囲気も覗かせる。
インストバージョンはどうでもよいが、12弦ギターによるアコースティックアレンジなどは優美な耳心地で、今後のフルアルバムに期待したくなる。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 優雅度・8 総合・7.5
Legacy 「Where We Go」
アメリカのプログレバンド、レガシーの2000年作
本作が唯一の作品で、美麗なシンセワークに伸びやかなヴォーカルを乗せ、メロウギターとともに、YESやGENESISをルーツにしたキャッチーなシンフォプログレを聴かせる。
まるで80年代に録音されたようないくぶん古めかしい音質も含めて、アメリカンのプログレらしいマイナー感をかもしだしているが、優美なピアノやシンセの重ねによるシンフォニック性は耳心地よく、ILUVATARや、REALMあたりを知っている方なら楽しめるだろう。
リズムチェンジを含む展開力など、プログレとしてのスリリングな味わいも覗かせる。1作で消えたのが惜しまれる、なかなかの好作品だ。
シンフォニック度・8 プログレ度・8 優美度・8 総合・7.5
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Randy Lopez 「Trec3」
スペインのミュージシャン、ランディ・ロペスの2013年作
Mezquitaのオリジナルメンバーで、Medina Azaharaにも参加したベーシスト&シンガー。
ほどよくハードで叙情的なギターに優美なシンセ、スペイン語によるヴォーカルで、哀愁の叙情に包まれたサウンドを描く。
きらびやかなシンセによるシンフォニックな優雅さと、古き良きスパニッシュ・ハードロックが同居した味わいは、やはりMedina Azaharaを思わせるが、曲によってはMezquitaやTRIANAのようなフラメンコロック風味も覗かせる。
メロウな泣きのギターややわらかなシンセワークもセンス良く、アンダルシアの哀愁の空気を描くスパニッシュロックが楽しめる。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 スパニッシュ度・9 総合・8
Seru Giran 「Yo No Quiero Volverme Tan Loco」
アルゼンチンのプログレバンド、セル・ヒランのライブ。2000年作
1978年デビュー、1981年までに4作を残して解散。本作は1981年のライブを2CDに収録。
観客の大歓声からも当時の人気が伝わってくるが、演奏の実力もさすがアルゼンチンを代表するバンド。
軽やかなリズムに、巧みなギターとチャーリー・ガルシアのシンセを重ね、スペイン語のヴォーカルとともに優雅なジャズロック聴かせる。
楽曲は、3〜5分前後の歌もの主体で、プログレ的な部分はさほどないのだが、南米らしい優雅なメロディアス性で、シンフォニックロックとしての魅力も随所に覗かせる。
ライブ演奏・8 プログレ度・7 優雅度・8 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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4/12
プログレの新年度(68)
THE PINEAPPLE THIEF 「Abducted at Birth」
イギリスのポストプログレ、パイナップル・シーフの2017年作
1999年デビュー作、「ABDUCTING THE UNICORN」の、タイトルとジャケを変更したリマスター再発盤。
叙情的なギターにマイルドなヴォーカルを乗せ、モダンなシンセアレンジとともに、浮遊感のあるポストプログレを聴かせる。
現在のサウンドに比べるとリズム的な硬質感は控えめで、メロウなギターの旋律も耳心地よく、エモーショナルな歌声とともに、じっくりと楽しめる。
後半には19分という大曲もあるが、わりと雰囲気モノっぽい淡々とした味わい。
全体的にも、3作目以降に比べて完成度はいまひとつながら、バンドの原点たる方向性は垣間見える。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 叙情度・8 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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THE PINEAPPLE THIEF 「GIVE IT BACK」
イギリスのポストプログレ、パイナップル・シーフの2022年作
いまや、Kscorpe系を代表するバンド、本作は過去の楽曲を現メンバーでリレコーディングした作品で、ギャヴィン・ハリソンの巧みなドラムにブルース・ソードのマイルドなヴォーカルで、モダンでスタイリッシュな歌ものポストプログレを聴かせる。
3〜5分前後の小曲がメインなので、わりと淡々とした作風で、プログレ的な展開力を好む方には物足りないかもしれないが、ほどよい硬質感とともに、このバンドの近年のストレートな作風が好きな方なら普通に楽しめるだろう。限定盤は5.1ch音源収録のブルーレイ付き2枚組。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 叙情度・7 総合・7.5
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Long Earth 「Once Around Sun」
イギリスのプログレバンド、ロング・アースの2020年作
ABEL GANZ関連のメンバーにより結成されたバンドで、2017年にデビューし、2作目となる。
メロウなギターにプログレらしい優美なシンセを重ね、ジェントルなヴォーカルで聴かせる、英国らしい正統派のシンフォプログレ。
YESにも通じる軽快なパートから、GENESIS的な叙情性も覗かせ、キャッチーな味わいと繊細な翳りが同居する。
後半は33分におよぶ四季をテーマにした組曲になっていて、ゆったりとした歌ものパートをメインに、さほど意外性はないが、往年のポンプロック的な優雅なサウンドが楽しめる。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 叙情度・8 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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Voices From The Fuselage 「Odyssey: The Founder Of Dreams」
イギリスのプログレ・ロック、ヴォイセス・フロム・ザ・ファセラージの2018年作
元TESSERACTのシンガー、Ashe O'Haraを中心に結成されたバンドで、2015年作の続編となる2作目。
うっすらとしたシンセとピアノに叙情的なギター、マイルドなヴォーカルを乗せた、ポストプログレ風味のサウンドに、ほどよくハードなギターも加わって、Djent的なテクニカル性も覗かせる。
モダンな歌ものエモーショナルロックにオルタナ的な翳りと、ときに優美なシンセによるアレンジにメロウなギターが繊細な叙情を描き出し、どこか中性的なアッシュの歌声は、ゆったりとした叙情ナンバーにもよくマッチしている。
ドラマティック度・7 テクニカル度・7 叙情度・8 総合・8
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NORTH ATLANTIC OSCILLATION 「Third Day」
スコットランドのポストプログレ、ノース・アトランティック・オシレーションの2014年作
2009年にデビューし、3作目となる。エレクトロな感触のシンセアレンジに、やわらかなヴォーカルハーモニーを乗せた作風は前作の延長で、アナログ感とデジタルの同居した耳心地の良い浮遊感に包まれる。
プログレ化したSigur Rosという感じもあるが、ロック寄りのアンサンブルがちゃんとあるので、ときにオルガンやピアノを含む優美なシンセとともに、モダン系プログレとして充分楽しめる。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 優美度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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JOHN WETTON & GEOFFREY DOWNES 「ICON ZERO」
ジョン・ウェットンのジェフ・ダウンズのユニット、アイコンの2000/2017年作
1980〜90年代に録音されていた、ICONの先駆け的な音源で、2000年に発表された作品の、ジャケを替えての2017年再発盤。
優美なシンセに味わいのあるウェットンのヴォーカルを乗せた、いかにも80年代スタイルのプログレハードで、ASIAなどにも通じるキャッチーな優雅さと、哀愁を含んだ叙情が交差する。
音質的にはデモ音源的な粗さがあるものの、二人のケミストリーによる、良質のメロディックロックの原点というべき内容である。
メロディック度・8 プログレ度・7 哀愁度・8 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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KOSMOGON 「Massan」
スウェーデンのプログレバンド、ANEKDOTENのNICKLAS BARKERと、ピアニストSOPHIE LINDERによるプロジェクト、コスモゴンの2021年作
25分、22分という大曲2曲の構成で、スウェーデンの森林における夕刻〜夜〜早朝までを表現したというミニマルなインスト作品。
メロトロンやムーグを含むうっすらとしたシンセの重ねに、鳥の鳴き声などが重なり、TANGERINE DREAMにも通じる幻想的なシンセサウンドを展開。
神秘的な幻想性の中に、涼やかな空気感を描くセンスは素晴らしく、単なる雰囲気モノという以上にその雄大な空間性に引き込まれる。
ヴィンテージなアナログシンセにこだわった、スペイシーなシンセミュージックが好きな方は必聴です。
ドラマティック度・6 シンセ度・9 幻想度・9 総合・8
Necromonkey 「Show Me Where It Hertz」
スウェーデンのプログレユニット、ネクロモンキーの2015年作
元ANGLAGARDのマティアス・オルソンと、GOSTA BERLINGS SAGAのデヴィッド・ルンドバーグによるユニットで、2013年にデビューし、3作目となる。
エレクトロなシンセとフリーキーなドラムを融合させ、ヴィンテージなアナログ感と電子音楽の無機質感を同居させたという独自の聴き心地。
アナログシンセの重ねによる、シンフォニックな優雅さも覗かせつつ、全体的には媚のないエクスペリメンタルなサウンドで、ほどよくアヴァンギャルドなセンスとともに淡々とした音像が描かれる。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 アヴァンギャル度・8 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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Infringement 「Transition」
ノルウェーのプログレバンド、インフリンジェメントの2017年作
叙情的なギターにシンセを重ね、エモーショナルなヴォーカルを乗せたスタイリッシュなサウンドを聴かせる。
同郷のAirbagなどに通じる翳りを帯びた叙情と、オルガンやメロトロンなどのヴィンテージな感触が同居し、クールな空気感はやはり北欧的だ。
モダンなオルタナ・シンフォというような涼やかな耳心地の一方では、どこかなつかしい土着的な雰囲気もあって、いくぶん唐突な展開などにマイナーな味わいも覗かせる。
楽曲ごとの盛り上がりという点ではやや物足りないが、女性声を加えての10分近い大曲など、クールで知的な新時代の北欧プログレを構築する好作である。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 叙情度・7 総合・7.5
Infringement 「Alienism」
ノルウェーのプログレバンド、インフリンジェメントの2019年作
2作目となる本作も、オルガンを含むシンセをメロウなギターに重ね、味わいのあるヴォーカルとともに、涼やかなシンフォプログレを聴かせる。
叙情的ではあるが決してキャッチーになり過ぎない、どこか醒めたような冷たさを感じさせる点では、モダンなオルタナ感ともいえるだろう。
今作では、10分以上の大曲においての、泣きのギターフレーズでじわじわと盛り上げるところは、シンフォニックロックとしての味わいを強めている。
ラストの16分の大曲も、美麗なシンセワークとギターの重ねで、北欧らしい叙情性を描いており、より優雅な聴き心地の作品に仕上がっている。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 叙情度・8 総合・8
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Kornmo 「Svartisen」
ノルウェーのプログレバンド、コルンモの2017年作
自主制作のデビューアルバムを、2022年にリミックスした再発盤で、優美なピアノに叙情的なギターと、メロトロンやムーグ、オルガンといったヴィンテージなシンセをメインに、涼やかなインストを描いてゆく。
アコースティックを含む牧歌的なギターやアナログ感あるドラムもうるさすぎず、派手な展開などもないので、わりとアンビエントな優しい耳心地でゆったりと楽しめる。
同郷の先輩であるKERRS PINKなどにも通じるが、より70年代志向のスタイルで、北欧らしい翳りを帯びた素朴な幻想性を描く好作品。
ドラマティック度・7 叙情度・8 北欧度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Salva 「Left To Burn」
スウェーデンのプログレバンド、サルヴァの2007年作
2004年にデビューし、2作目。わりとハード寄りのギターに優美なシンセアレンジ、朗々としたヴォーカルを乗せた、キャッチーなノリのプログレハード。
シンフォプログレというよりは、古き良き北欧ハードロックをルーツにした作風で、随所に涼やかな土着性を覗かせつつ、全体的にはわりとストレートな聴き心地。
10分前後の大曲も多いが、母国語の歌声を乗せた哀愁ただよう小曲などもいい味わいで、オルガンを使ったURIAH HEEP風のナンバーなど、楽曲ごとに異なる雰囲気も楽しめる。
これという派手さはないが、哀愁の叙情とヴィンテージな空気が同居した好作です。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 哀愁度・8 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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Xinema 「Different Ways」
スウェーデンのプログレバンド、シネマの2002年作
美麗なシンセとほどよくハードなギターにマイルドなヴォーカルで、ASIAなど、往年のプログレハードに北欧らしい涼やかな空気を加えたキャッチーなサウンド。
カッチリとしたリズム面も含め、のちのBROTHER APEなどにも通じるスタイリッシュなモダンさもあって、優雅なメロディックロックという聴き心地は、A.C.T.あたりのファンにも楽しめる。
随所に、ロイネ・ストルトばりの叙情的なギターフレーズも耳心地よく、プログレ的な緩急はさほどないが、美しいシンセワークとともにゆったりと優美な味わいの好作です。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 優雅度・8 総合・8
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Aamunkoite
フィンランドのプログレバンド、アームンコイテの2022年作
エレピやオルガンを含むシンセに、母国語による艶めいた女性ヴォーカルを乗せた、優雅でヴィンテージな味わいのサウンド。
サイケ的な浮遊感とシャンソン的なけだるげな情感が合わさり、叙情的なギターや優美なフルートも加わって、北欧らしい涼やかな叙情も覗かせる。
ラスト曲では、女性声の妖しい詠唱のようなパートも入りつつ、プログレらしい緩急ある展開で13分におよぶ大曲を構築。
魔女めいた幻想性に包まれた、夢見心地のユルめの女性声シンフォプログレとしても、のんびりと楽しめる好作品です。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 妖しく優雅度・8 総合・7.5
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Scarlet Thread 「Psykedeelisia Joutsenlauluja」
フィンランドのプログレバンド、スカーレット・スレッドの2003年作
土着的なギターの旋律にオルガンを含むシンセを重ね、艶やかなヴァイオリンが鳴り響く、フォークロック寄りの涼やかなサウンド。
アコースティックギターにフルートの音色が重なる優雅な牧歌性と、エレキギターのメロウな旋律と泣きのヴァイオリンで、オールインストながらも叙情豊かな味わいだ。
ドラムも含めたほどよいロック感触もあるので、わりと起伏のあるアンサンブルとともに、北欧らしい空気感に包まれた土着プログレとして楽しめる。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 北欧度・9 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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3/15
プログレの春近し(53)
Isildurs Bane 「Sagen Om Ringen/指輪物語」
スウェーデンのプログレバンド、イシルドゥルス・バーネの1988/2021年作
1981年のカセット音源を1988年に編集し直したという4作目で、2021年にリマスター、紙ジャケで日本盤がリリースされた。
最初のCD化の際には、1作目「Sagan Om Den Irlandska Algen」とカップリングで収録されていたが、今回はオリジナル版のジャケでの単体の再発。
うっすらとしたシンセとメロウなギターのイントロから、北欧らしい涼やかな幻想性に包まれて、CAMELを思わせる甘美なギターのトーンとともに、優雅なシンフォニックロックを展開する。
やわらかなフルートやアコースティックギターをセンス良く挿入し、1〜4分前後の小曲を主体に、母国語のマイルドなヴォーカルとともに、北欧の土着性を含んだ美しく精細なサウンドが味わえる。
ボーナストラックは前身バンド時代の楽曲をリメイクしたもので、ほどよくキャッチーな聴き心地。
優美度・9 プログレ度・7 北欧度・10 総合・8 過去作のレビューはこちら
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CAIRO 「$@Y (SAY)」
イギリスのプログレバンド、カイロの2016年作
Touchstoneのシンセ奏者を中心にしたバンドで、The Paradox Twinのドラムなどが参加。
ストーリー的な語りから始まり、きらびやかなシンセにハードなギター、女性ヴォーカルに男性Voも絡み、ProgMetal的なテクニカル性も含んだスタイリッシュなサウンドを聴かせる。
3〜4分前後の小曲を主体に、9分の大曲ではクールな硬質感の中に、叙情的なギターにシンセが重なるシンフォニックな感触も覗かせて、ゆったりとした繊細な歌ものナンバーなども、コンセプト的な流れとともに、じっくりと聴かせてくれる。
美しい女性声をメインにしたしっとりとしたナンバーは、MAGENTAにも通じる優美な味わいで楽しめる。男女声モダンシンフォの期待の新鋭です。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 スタイリッシュ度・8 総合・8
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CAIRO 「Nemesis」
イギリスのプログレバンド、カイロの2023年作
7年ぶりとなる2作目で、女性シンガーが交替しているが、サウンドは前作の延長で、いくぶんメタリックなギターにプログレらしいカラフルなシンセワーク、男女ヴォーカルの歌声で、モダンなハードプログレを展開する。
コケティッシュな女性ヴォーカルを乗せたキャッチーなハードロック風味や、シンセをバックにしたしっとりとしたナンバーでは、泣きのギターフレーズとともに優雅なシンフォニックロックが味わえて、わりと振り幅の広い作風。
ラストの8分の大曲は、男女ヴォーカルに美麗なシンセで、ポストプログレ風味の優美な叙情に包まれる。スタイリッシュなシンフォプログレの逸品です。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 叙情度・8 総合・8
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Stuckfish 「Days Of Innocence」
イギリスのプログレバンド、スタックフィッシュの2022年作
2018年にデビューし、3作目。叙情的なギターにプログレらしいシンセを重ね、キャッチーなヴォーカルメロディとともに、英国らしい優美なシンフォプログレを聴かせる。
楽曲は5〜8分前後で、どのナンバーもしっかりとした構築力で、PALLASなどにも通じるウェットな叙情と大人の優雅さに包まれる。
硬質にならず、重厚すぎない耳心地の良さは、時代と逆光するアレンジながらも、派手過ぎないサウンドにどこか落ち着くのも事実。
印象的な盛り上がりなどがもう少しあれば傑作になっただろうが、この質の高い中庸さこそ愛すべきものかもしれない。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 叙情度・8 総合・8
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PORCUPINE TREE 「LIGHTBULB SUN」
イギリスのプログレバンド、ポーキュパイン・トゥリーの2000年作
7作目となる本作は、アコースティックギターにマイルドなヴォーカルを乗せたゆったりとした叙情から、ハードなギターを加えたオルタナ風味も覗かせつつ、翳りを帯びた歌ものポストプログレというサウンドを展開。
優美なピアノやシンセによる繊細なアレンジに、ほどよくオールドな英国ロック感触も織り込んでいて、Marillionあたりにファンにも楽しめるだろう。
13分の大曲では、メロウなギターの旋律にプログレ感触のあるシンセを重ね、後半にはハードなギターを加えてモダンな重厚さが現れる。
明快な盛り上りが薄いので物足りなさはあるが、ラストのしっとりとした叙情ナンバーまで、コンセプト的な流れでも楽しめる好作である。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 薄暗叙情度・8 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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The Spacelords 「Water Planet」
ドイツのサイケロック、スペースローズの2017年作
2010年にデビューして、5作目となる。ギター、ベース、ドラムのトリオ編成で、Schwoisfuasのシンセ奏者がゲスト参加。
11分、11分、19分という大曲3曲の構成で、スペイシーなシンセをギターに重ね、HAWKWINDにも通じるアッパーなサイケロックを聴かせる。
GrobschnittのEROCがマスタリングを手掛けていることもあって、クラウトロック的なユルめの幻想性とともに、随所に叙情的なギターフレーズも覗かせる。
オールインストなので、これという盛り上がりはないのだが、酩酊感のあるサウンドにじっくりと浸れる。
サイケ度・8 プログレ度・7 クラウト度・8 総合・7.5
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NEEDLEPOINT「DIARY OF ROBERT REVERIE」
ノルウェーのジャズロック、ニードルポイントの2018年作
2010年にデビューし、4作目となる。オルガンやクラヴィネットなど、オールドなシンセを軽やかなリズムに乗せ、マイルドなヴォーカルとともに、アナログ感たっぷりのジャズロックを聴かせる。
スカスカなドラムやフリーキーなギターなど、70年代アートロック風の牧歌性を軽妙なアンサンブルで仕立てという作風で、ヴィンテージなサウンドが好きならたまらない。
ヴォーカルやコーラスなども、どこか60〜70年代風の味わいで、随所に北欧らしい涼やかな空気感も覗かせる。
楽曲は3〜4分前後。ユル系であるが演奏はけっこう巧みという、マニア好みのサイケ・ジャズロックを展開する逸品です。
ジャズロ度・7 プログレ度・7 ヴィンテージ・9 総合・8
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Fruitcake 「A Battle A Day....」
ノルウェーのプログレバンド、フルーツケーキの2000年作
1992年にデビューし、6作目。シンセとピアノによる優美なイントロから、メロウなギターの旋律にマイルドなヴォーカルで、北欧らしいシンフォプログレを聴かせる。
KAIPAなどにも通じる土着的な叙情も覗かせつつ、オルガンやメロトロンを含むヴィンテージなシンセとともに、GENESISルーツの幻想的なサウンドが楽しめる。
ほどよくキャッチーな小曲も聴き心地良く、叙情的なギターにクラシカルなシンセを重ねた、PAR LINDHにも通じる優雅なナンバーや、10分を超える大曲は、ゆったりとした流れの中にも、美しいシンセの旋律を盛り込んだ優しい味わい。
全体的に派手さはないが、70年代北欧プログレを受け継いだ、くぐもったような涼やかな空気感に包まれた北欧シンフォの好作品です。
涼やか叙情度・9 プログレ度・7 北欧度・9 総合・8
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REFORM 「REFORMED」
スウェーデンのプログレジャズロック、リフォームの2009年作
巧みなベースとドラムを土台にした軽妙なアンサンブルに、エレピやサックス、メロウなギターが彩りを添える、オールインストのジャズロック。
歌が入らないので、どうしてもBGMになってしまいがちだが、やわらかなギターのトーンなどには、北欧らしい涼やかな叙情性も感じさせ、派手すぎないシンセも含めて耳心地の良いサウンドだ。
全体的にはこれというインパクトや個性はなく、全36分というのも物足りないのだが、優雅な北欧ジャズロックが好きな方はどうぞ。
ジャズロ度・8 プログレ度・7 北欧度・8 総合・7
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Elonkorjuu 「Scumbag Goes to Theatre」
フィンランドのプログレバンド、エロンコルジューの2010年作
1972年にデビュー、78年に2作目を残して消えるも、2004年に復活、本作は2009年のライブを2CDに収録している。
エレピやオルガンを含むシンセに、ブルージーでメロウなギターを重ね、ジャズロック的な軽やかなインストパートとともに、北欧らしい涼やかな土着性も含んだサウンドを描く。
サックスがフリーキーに鳴り響くアダルトなジャズ感触に、やわらかなオルガンが巧みなギターに重なると、北欧版FOCUSというような味わいでも楽しめる。
ヤン・アッカーマンばりの流麗なフレーズを奏でるギターの実力も素晴らしい
後半は、枯れた味わいのヴォーカルも乗せて、70年代ブリティッシュロック的な雰囲気も覗かせる。
ジャズロ度・8 プログレ度・7 ライブ演奏度・8 総合・8
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TAYLORS UNIVERSE WITH KARSTEN VOGEL 「Experimental Health」
デンマークのプログレジャズロック、タイラーズ・ユニヴァースの1998年作
マルチプレイヤーのロビン・タイラーを中心に、1994年にデビューし、3作目となる。
本作はサックス奏者のカーステン・ヴォーゲルを迎えた編成で、優美なシンセ巧みなギターを軽やかなリズムに乗せ、いくぶんアヴァギャルドな感触も含んだスタイル。
随所に叙情的なギターフレーズや、優雅なサックスの音色とともに、先の読めないスリリングな展開もまじえて、まさにプログレッシブなジャズロックが楽しめる。
ラスト曲は、セリフとSEが延々と続き、ウンザリしてきた頃にフリーキーなインプロが現れる。わりとヘンテコなセンスが好きな方はどうぞ。
ジャズロ度・8 プログレ度・8 優雅度・8 総合・7.5
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PRESENT 「C.O.D. Performance」
ベルギーのチェンバーロック、プレザンのライブ。1993年
1993年のスタジオライブ音源で、2本のギターをメインにしたミニマムな編成でのアンサンブルに、怪しいヴォーカルを乗せた即興的な演奏で、静謐な緊張感の中に、フリーキーなエレキギターの旋律が重なり、随所にドラムも加わって、UNIVERS ZEROをルーツにしたミステリアスなチェンバーロックを聴かせる。
後半は25分に及ぶ、インプロヴィゼーションで、ギターのみのゆったりとした叙情から、不穏な空気も覗かせつつ詠唱のような歌声も入って、やがて狂気を帯びた叫びへと。
ロック色はかなり薄めなので、フリーキーな雰囲気モノが楽しめる方へ。
スリリング度・8 ロック度・3 インプロ度・9 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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MANEIGE「LES PORCHES LIVE」
カナダのプログレバンド、マネイジュのライブ作品。2006年作
1975年の未発ライブ音源のCD化で、2nd「Les Porches」全曲に、1stの楽曲や未発表の大曲も演奏した発掘ライブ作品。
「サックスとクラリネットの冒険」と題された16分の大曲は、優美なピアノを軽やかなリズムに乗せ、クラリネットとサックスが優雅に鳴り響く、クラシカルなチェンバーロックを展開。
年代を思えば音質もとても良好で、巧みなドラムとベースを軸にした、ライブならではの躍動的なアンサンブルが楽しめる。、
フルートとクラリネット、サックスが有機的に絡む即興的な未発曲や、2nd収録の17分の大曲では、クラシカルなピアノにフルートが絡み、叙情的なギターの旋律とともに、優美なサウンドを聴かせてくれる。
バンドの全盛期の貴重なライブ音源としてファンなら必聴でしょう。
クラシカル度・9 プログレ度・7 ライブ演奏・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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AFTER THE FALL 「In A Safe Place」
アメリカのプログレバンド、アフター・ザ・フォールの1997年作
G&Vo、Key、Drというトリオ編成で、きらびやかなシンセワークに叙情的なギターを重ね、ジェントルな味わいのヴォーカルとともに、優雅なシンフォプログレを聴かせる。
アメリカらしいキャッチーな抜けの良さは、のちのNEAL MORSEなどにも通じるが、こちらはまだ90年代スタイルのマイナーな叙情性を残している。
一方では、軽やかなインストナンバーは、HAPPY THE MANばりの優雅で軽妙な味わい…といったら言い過ぎか。
ラストは13分の大曲で、優美なシンセとメロウで扇情的なギターが重なり、プログレらしい緩急ある展開でじっくりと楽しめる。
ドラマティック度・7 プログレ度・8 優雅度・8 総合・7.5
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2/16
日本バンドもよいもんです(39)
秋葉龍「Cities in People」
日本のミュージシャン、あきば・たつの2023年作
2021年作に続く2作目で、ビートルズを思わせるオールドな雰囲気の序曲から、軽快なリズムにオルガンやムーグなどのヴィンテージなシンセとギターを重ね、カンタベリー・ジャズロック風の優雅なサウンドを展開。
英語によるジェントルなヴォーカルもあいまって、ほとんど70年代英国のプログレバンドのような聴き心地で、Gentle Giantの軽妙さに、Jethro Tullのような牧歌性も感じさせつつ、GENESISばりの優美な叙情に包まれる。
10分前後の大曲を、緩急あるインストパートとともに構築するセンスも見事で、歌入りの部分でも巧みな変則リズムで、偏屈ながらも優雅な味わいは、まさにジェントル・ジャイアント。
かと思えば、フルートなどアコースティックを含む土着的な歌もの感はジェスロ・タルと、往年の英国プログレのリスナーならニヤリとなること請け合い。
23分の大曲は、メロトロンに叙情的なギターでじわじわ暖めつつ、軽やかなリズム展開のプログレ・ジャズロックを融合させるという抜群のアレンジ。まさに期待のアーティストです。
ヴィンテージ度・8 プログレ度・8 優雅度・9 総合・8.5
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MARGE LITCH 「Fantasien / ファンタージェン」
日本のハードプログレバンド、マージュ・リッチの1991年作
のちのALHAMBRAへとつながるメンバーが在籍していたバンドで、1991年に自主制作で録音されたデビュー作が、2023年にリマスター再発された。
幻想的なファンタジーストーリーに基づくコンセプト作で、優美なシンセと叙情的なギター、伸びやかな女性ヴォーカルとともに、展開力のあるシンフォニック・ハードが味わえる。
1998年のリメイクバージョンに比べると、デモ音源のようなこもり気味の音質など、まだアマチュア臭さが感じられるが、若き日の世良純子の清純な歌声や、変拍子を多用したテクニカルな構築など、バンド黎明期のきらめきが随所に感じられる。
物語の大団円を思わせるラストの「ファンタージェン」まで、強固な幻想の美学に包まれた世界観は、NOVELAに始まる日本プログレのロマンを継承したスタイルであった。
ドラマティック度・8 ファンタジック度・8 女性Vo度・8 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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ACB(K) 「SIBLINGS / シブリングズ」
日本のプログレバンド、ACB(K)こと、あらんちゃんバンド(仮)の2022年作
OUTER LIMITSの荒牧隆(子)を中心としたバンドで、オルガンやメロトロンを含むシンセに、男女ヴォーカルの歌声で、ドラマティックなシンフォプログレを聴かせる。
荒牧のジェントルな歌声とほどよくハードなギターにプログレらしいシンセ、月本美香(那由他計画)の優美なヴォーカルが重なって、ジャケのイメージとは異なる優雅で濃密なサウンドが楽しめる。
「古事記」における「衣通姫伝説」をコンセプトにした37分の組曲では、艶やかなヴァイオリンも鳴り響き、男女Voで聴かせるロックオペラ的なスケール感と、上代日本語と万葉仮名を用いた牧歌的な情緒も覗かせながら、かつてのMARGE LITCHにも通じるような幻想的ハードプログレを繰り広げる。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 優雅度・8 総合・8
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ALL IMAGES BLAZING 「CHANGE!」
日本のプログレ・ハードロック、オール・イメージズ・ブレイジングの2022年作
2015年にデビュー、4作目となる本作は、ゴダイゴのスティーブ・フォックスがマスタリングを担当。
軽やかなリズムにオルガンを含む優美なシンセと叙情的なギターを重ね、伸びやかな女性ヴォーカルとともに優雅でキャッチーなハードプログレを展開する。
英語歌詞をメインにしたヴォーカルや、ポップなメロディアス性と、適度にテクニカルなアンサンブル、さらにはサックスなどを加えたアダルトなジャズ感触など、楽曲ごとに彩りの異なるサウンドで、これまで以上にアレンジの幅が広がっている。
ProgMetal寄りのナンバーも、日本らしいやわらかなメロディアス性に包まれていて、ラストの8分のナンバーなども優雅で軽妙な真骨頂。
全体的にも聴きやすく、それでいて玄人好みのセンスが味わえるという見事な好作品である。
メロディック度・8 プログレ度・7 優雅度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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XOXO EXTREME 「Le Carnaval des animaux 動物学的大幻想曲」
日本のプログレ・アイドルグループ、キス・アンド・ハグ・エクストリームの2021年作
2016年にシングルデビュー、5人編成となって、2作目のフルアルバムとなる。わりとハードなギターにシンセを重ね、英語歌詞のヴォーカルによる1曲目は、キャッチーなロック感触で普通に楽しめ、続く2曲目はデジタルでポップなキュートさと、オルガンなどのヴィンテージなアレンジが同居してニヤり。
8パートに分かれた組曲では、フォルクローレ風の哀愁と歌謡ロック風味が融合し、インストパートも含めた緩急ある展開力でなかなか楽しめる。
過去曲のニューバージョンなども含め、いかにもアイドル的なポップなナンバーや、フルートやオルガンなどを使ったオールドロック風味など、楽曲ごとに味があるのだが、録音やミックスが曲ごとに異なるのもやや気になるところ。
個人的には「虎とアリス」のようなきらびやかでノリの良いナンバーも気に入った。方向性としては面白いので、さらにインパクトのある攻めた曲を増やしていってほしい。
アイドル度・8 プログレ度・7 エキセントリック度・8 総合・8
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e:cho「Carpe diem」
日本の女性声ロックバンド、エコーの2018年作
2007年にデビューし、7作目となる。適度にハードなギターにシンセアレンジを重ね、日本語歌詞による伸びやかな女性ヴォーカルで、優雅でキャッチーなJ-ROCKを聴かせる。
ときにハードロック的な部分や、プログレッシブな感触もほのかに覗かせつつ、あくまでメジャー感あるストレートな作風で、一般のJ-POP系リスナーでも普通に楽しめるだろう。
サビでの爽快なメロディアス性や、モダンなビート感によるポップな要素など、正直、メタルやプログレリスナーにはどっちつかずのサウンドなのだが、表現力あるヴォーカル嬢のおかげでそこそこ心地よく聴けてしまう。3〜4分前後が主体で、全35分というのは少し物足りないか。
メロディック度・8 キャッチー度・8 女性Vo度・8 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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Tadashi Goto 「Innervisions」
日本のミュージシャン、後藤忠司の2005年作
ソロとしては2005年に続く2作目で、元MEGADETHのクリス・ポーランド、KING CRIMSONのトニー・レヴィン、KING'S Xのタイ・テイバー、Poverty's
No Crimeのマルミ・アーレンズ、THE NEAL MORSE BANDのランディ・ジョージ、元NELSONのブレッド・ガースド、Blue
Murderのトニー・フランクリンなどが参加、
メタリックなギターにきらびやかなシンセを重ね、打ち込みのドラムとともに、テクニカルなインストのメタルフュージョンを聴かせる。
クリス・ポーランドのギターソロはメタル寄りであるが、キーボードをメインにしたナンバーは、優雅なシンフォニック性に包まれたり、アヴァンギャルドになったりと、楽曲ごとに違った顔を見せる。
トニー・レヴィンが参加したジャズタッチのナンバーや、テクニカルメタル風味など、つかみどころのない内容であるが、ゲストを活かすソロ作という点では、デレク・シェリニアに近いセンスも感じる。
ドラマティック度・7 テクニカル度・8 優雅度・8 総合・7.5
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Neal Morse Band 「Innocence & Danger」
ニール・モーズ・バンドの2021年作
盟友、マイク・ポートノイに、ランディ・ジョージ、エリック・ジレット、ビル・ヒューバウアーというおなじみの編成で、Disc1を「Innocence」、Disc2を「Danger」というコンセプトで仕立てた2枚組作品。
ほどよいハードなギターときらびやかなシンセ、ジェントルなヴォーカルにキャッチーなコーラスハーモニーで描かれるサウンドは、エリックがメインヴォーカルをとるオールドな味わいのポップなロックナンバーなど、全体的に肩の力の抜けた優雅な聴き心地ながら、ラストはじわじわと盛り上げてゆく。
Disc2の方は、19分、31分という大曲2曲の構成で、いかにもニール・モーズらしいドラマティックな構築力で、TRANSATRANTICにも通じる緩急ある流れで、壮麗なシンフォプログレが楽しめる。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 壮大度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Francis Dunnery 「Live in Japan」
元IT BITESのフランシス・ダナリーのライブ。2018年作
2016年の来日公園を2CDに収録。セッションメンバーを主体にしたバンド編成で、ECHOLYNのメンバーでもあるブレッド・カルがKEY&Gで参加している。
5人編成のバンドの演奏力も申し分なく、ライブらしい臨場感を感じさせる音質もGoodで、なにより、かつてのIT BITESのナンバーが、フランシスのヴォーカルで再び甦るのだから、ファンには感動もひとしおだろう。
キャツチーな代表曲“Yellow Christian”や、3rdからの“Underneath Your Pillow”あたりも、ツインギターとキーボードの重ねで厚みのあるアレンジになっていて、1st収録の“You'll
Never Go To Heaven”も優雅な耳心地で楽しめる。
Disc2では優雅な叙情美の“Still Too Young To Remember”、そしてラストは、大曲“Once Around The
World”で感動的に締めくくる。
スタジオアルバム、「Vampires」を気に入った方は必聴のライブだろう。
ライブ演奏・8 音質・8 イット・バイツ度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Sophya Baccini's Aradia 「Runnin With The Wolves」
イタリアの女性シンガー、ソフィア・バッチーニのプロジェクト、アラディアの2023年作
今作は、ヴァイオリンを含む、女性6人のバンド編成で、うっすらとしたシンセに艶めいた女性ヴォーカルを乗せ、ヴァイオリンも鳴り響く、クラシカルなシンフォニックロックを聴かせる。
アラディアの名のように、魔女めいた妖しさと、ヴァイオリンが鳴り響く優雅さの同居は、初期のCurved Airにも通じる雰囲気で、ソフィアさんの歌声もどことなくソーニャ・クリスティーナっぽかったりする。
優美なピアノや、サックスが鳴り響くアダルトな雰囲気とともに、ヴィンテージな女性声ものとしてもしっとりと楽しめる好作品です。
クラシカル度・8 プログレ度・7 妖しさ度・8 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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BERNARDO LANZETTI 「HORIZONTAL RAIN」
イタリアのミュージシャン、ベルナルド・ランゼッティの2021年作
Acqua FragileやPFMで活躍したシンガーで、本作にはデイヴィッド・クロス、テヴィッド・ジャクソン、トニー・フランクリン、トニー・レヴィン、デレク・シェリニアンなどがゲスト参加。
叙情的なギターにうっすらとしたシンセを重ね、エモーショナルなヴォーカルを乗せて、オールドな味わいのプログレハード的サウンドを聴かせる。
サックスが鳴り響く大人のジャズロック風味やサイケなポップ性も覗かせつつ、シアトリカルな歌声が楽曲を濃密にしていて、歌詞は英語のはずなのに、やはりイタリア的な雰囲気になる。
全体的にはプログレな要素はさほどないのだが、シンセやストリングスのアレンジなど、曲の振り幅の大きさでわりと楽しめる歌もの好作。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 イタリア度・8 総合・7.5
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CORAL CAVES 「MITOPOIESI」
イタリアのプログレバンド、コーラル・ケイヴスの2008年作
ムーグやオルガンなどのヴィンテージなシンセに、イタリア語による野太いヴォーカルを乗せ、叙情的なギターとともに聴かせるシンフォプログレサウンド。
70年代ルーツの牧歌的な素朴さは、LOCANDA DELLE FATEあたりを思わせるところもあるが、そこまで感動的ではなく、あくまでマイナー系シンフォの香りに包まれている。
曲によってはフルートも加え、泣きのギターとともに繊細な叙情美を描いていて、ジャケはいかにもB級臭いのだが、シンフォ好きにはなかなか楽しめるのである。
ドラマティック度・8 叙情度・8 イタリア度・8 総合・7.5
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S.O.T.E.(SONGS OF THE EXILE) 「REASONS」
オランダのハードプログレ、ソングス・オブ・ザ・エグザイルの、2008年作
G&Vo、B、Drのトリオ編成で、2000年にデビューし、3作目となる。一人の老人の過去の人生の分岐点をコンセプトにした作品で、適度にハードなギターにシンセを重ね、ラブリエばりの伸びのあるハイトーンヴォーカルとともに、翳りを帯びた重厚なサウンドを展開する。
随所に叙情的なギターのフレーズも覗かせつつ、全体的にはテクニカルな派手さはさほどなく、わりとどっしりとした聴き心地。
ラストは12分におよぶ大曲で、ダークなハードプログレという雰囲気に包まれる。全78分と長いわりに聴きどころが少ないというのが正直な感想。
ドラマティック度・7 テクニカル度・7 重厚度・8 総合・7
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世界のプログレ聴きましょう(26)
HFMC 「We Are the Truth」
THE FLOWER KINGSのハッセ・フレベリ率いる、Hasse Froberg & Musical Companionの2021年作
4作目となる本作も、オルガンやムーグなどのヴィンテージなシンセに、味わいのあるハッセの歌声、メロウなギターとともに、優雅なシンフォプログレを構築。
12分という大曲では、ゆったりとした叙情性を含ませつつ、ゆるやかに盛り上げてゆく展開力は、フラワー・キングスのファンにも大いに楽しめるだろう。
ラストも10分超の大曲で、叙情的なギターにオルガンが重なり、ほどよくキャッチーなノリも見せながら、やわらかな大人のプログレを描いてゆく。
全体的に意外性は薄いのだが、北欧プログレやフラキン好きには安心の内容です。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 フラキン度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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The Backstage 「Isolation」
スウェーデン&イギリスのメンバーによるプログレジャズロック、バックステージの2020年作
スティーヴ・ハケットのバンドでのツアーに参加した、ヨナス・レインゴールド、ロヴ・タウンゼント、クレイグ・ブランデル(元FROST*)が、リハーサルとジャムセッションをへて結成したバンドで、70年代風のジャズロック/フュージョンを指向した作品。ゲストに、スティーヴ・ハケット、ロイネ・ストルト、アンディ・ティリソン、パット・マステロット、テオ・トラヴィス、トム・ブリスリン、マルコ・ミンネマン、ニックベッグスという豪華メンバーが参加。
軽やかなリズムにサックスが鳴り響き、巧みなベースとともに軽妙なジャズロックを聴かせ、オルガンやエレピなどのシンセも加わって、プログレらしさも覗かせる。
オールインストながら各自の演奏力はさすがで、優雅な大人のアンサンブルが楽しめる好作です。
ドラマティック度・7 ジャズロ度・9 優雅度・8 総合・8
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LALLE LARSSON TRIO 「Ashen Lights」
スウェーデンのジャズロック、ラレ・ラーション・トリオの2018年作/邦題「アシェン光の神秘」
KARMAKANICなどで活躍するシンセ奏者、ラレ・ラーション率いるユニットで、ベースはTHE FLOWER KINGSのヨナス・レインゴールド、ドラムはヴァレ・ヴァールグレンが参加。
エレピを含む優美なシンセを軽やかなリズムに乗せたカンタベリー風のジャズロックから、シンセをメインにしたアンビエントなナンバーや、ヨナスの巧みなベースプレイを盛り込んだ大人のジャズ風味など、玄人好みのサウンドが味わえる。
空間性を活かすような、ラレの鍵盤さばきも涼やかでセンスが良く、うるさすぎないライブ感のあるドラムとともに、単なる技巧派ジャズロックとは異なる、あくまで優雅な聴き心地である。
ドラマティック度・7 ジャズロ度・8 優雅度・9 総合・8
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GALASPHERE 347
イギリス、ノルウェー、スウェーデンの混成バンド、ガラスフィアー347の2018年作
Henry Foolのステファン・ベネットを中心に、White Willowなどで活躍する、ヤコブ・ホルム・ルッポ、マティアス・オルソン、フルート奏者、ケティル・ヴェストラム・エイナーセンの4人編成で、優美なシンセにマイルドなヴォーカルを乗せ、繊細な叙情に包まれたポストプログレ風味もある作風。
10分、15分、15分という大曲3曲の構成で、ムーグやオルガン、メロトロンなどのヴィンテージなシンセとフルートも鳴り響く、北欧らしい涼やかな空気感で、シンフォプログレとしてのキャッチーな優雅さも覗かせる。
ポストプログレ寄りの歌もの感と、オールドなプログレ感触が同居した、まさに、White WillowとHenry Foolが合体したような味わいの逸品だ。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 涼やかな叙情度・8 総合・8
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Arttu Takalo 「Dark. Dark. Dark.」
フィンランドのアーティスト、アトゥ・タカロのソロ、2006年作
XLのメンバーとして活躍したヴィブラフォン奏者で、ソロとしては3作目。ドラム、ギター、ベースを含むバンド編成に、優美なシンセとMIDIヴァイブを重ね、きらびやかなインストサウンドを聴かせる。
ギターやドラムなどは、わりとロック感触が強いので一般リスナーにも聴きやすく、優しいヴィブラフォンの響きも耳に心地よい。
楽曲は3〜5分前後が主体であるが、叙情的なギターとシンセ、MIDIヴァイヴを重ねたラストナンバーまで、優雅で爽やかな味わいだ。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 優雅度・8 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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Wired Ways
ドイツのプログレバンド、ワイアード・ウェイズの2022年作
マイルドなヴォーカルとコーラスハーモニーでビートルズを思わせるキャッチーな味わいと、サイケなユルさが耳に心地よいサウンド。
叙情的なギターの旋律やピアノを含むシンセ、曲によってはブラスやストリングスのアレンジも加わって、単なるポップロックではないプログレ寄りの感触が良いですね。
ドラマティックな歌メロで盛り上げるところは、NEAL MORSEなどに通じる部分もあったり、オルガンを使ったヴィンテージな英国ロック風味に、ストリングスを重ねたシンフォニックな聴き心地もある。ポップな優しさとプログレの同居という点では、STACKRIDGEなどのファンにもお薦めの好作です。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 ヴィンテージ度・8 総合・8
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Inventions 「Logica」
オランダのミュージシャン、CHRISのプロジェクト、インヴェンションズの2019年作
ストリングスによる壮麗なイントロから、きらきらとしたシンセにやわらかなフルートの音色、ナレーションによる語りを乗せた、映画サントラ的なサウンドを展開。
ノイジーなギターや、テオ・トラヴィスが参加してフリーキーにサックスが鳴り響く、インプロ的な要素も盛り込みつつ、キャッチーな歌ものにもってゆくセンスはさすがというところ。
ストリングスが加わってのシンフォニックなアレンジや、ハケットばりの泣きのギターで聴かせる、GENESIS風の叙情ナンバーなども味わいがあり、モダンになり過ぎないプログレ感触が良いですな。
ラストの大曲は、ストリングスを含むクラシカルなアレンジで、翳りを帯びた物悲しい世界観を描いてゆく。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 優雅度・8 総合・8
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MADELGAIRE 「(IM)PATIENCE」
ベルギーのプログレバンド、マデルガイレの2010年作
叙情的なギターにプログレらしい優美なシンセワーク、エモーショナルなヴォーカルを乗せた、90年代ルーツのシンフォプログレ。
繊細なアコースティックギターのパートも含みつつ、ムーグやメロトロンなどのヴィンテージな味わいとともに、リリカルなサウンドを聴かせる。
10分を超える大曲も、緩急ある展開力と、フランス語を含む優雅なヴォーカルに優しいメロディアス性で、じわじわと耳心地のよさが広がってゆく。
ほどよくスリリングで、ヨーロピアンな翳りを含んだドラマ性を描く。オールドスタイルのシンフォニックロックが好きな方は必聴の出来ですな。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 優雅な叙情度・9 総合・8
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STREGA TRA NOI 「CORRELAZIONI」
イタリアのプログレバンド、ストレガ・トラ・ノイの2023年作
2017年にデビューし、2作目。ピアノやオルガンなどのシンセにイタリア語による年季を感じる女性ヴォーカルで、キャッチーな歌ものサウンドを聴かせる。
70年代ルーツのイタリアンポップ的な艶めいた雰囲気に包まれて、シャンソン風のナンバーからゆったりとした叙情曲なども味わいがある。
楽曲は3〜4前後で、プログレ的な展開はさほどないのだが、曲によってはストリングスも加わったゴージャスなアレンジや、ムーグシンセなどのヴィンテージな味わいも楽しめる。
キャッチー度・8 プログレ度・7 女性Vo度・7 総合・7.5
GALLILEOUS 「FOSFOROS」
ポーランドのストーナーロック、ガリエオスの2021年作
2008年にデビューし、6作目。ゆったりとしたリズムに重すぎなギター、中性的な女性ヴォーカルを乗せて、スペイシーな浮遊感に包まれたサウンドを描く。
ブルージーな味わいのギターに、オルガンなどのシンセもうっすらと重なり、ストレートながらも厚みのあるアンサンブルは、キャリアのあるバンドらしい。
ゴーレムやフランケンシュタイン、透明人間、化け猫、バシリスクなど、空想の怪人、怪物をテーマにしているのも興味深く、どこか神秘的な世界観を感じさせる。
紅一点、Anna嬢の歌声は、さほどフェミニンではないので、女性声ロックが苦手な方でも普通に楽しめそう。
ラスト曲では、母国語による歌声とともに、どっしりとしたドゥームロックを聴かせる。
ドラマティック度・7 ヴィンテージ度・8 女性Vo度・7 総合・8
After... 「Hideout」
ポーランドのプログレバンド、アフターの2008年作
QUIDAMのベースが在籍するバンドで、2005年にデビューし、2作目となる。叙情的なギターにシンセを重ね、マイルドなヴォーカルとともに、ほどよくノリのあるロック感触に東欧らしい翳りが同居したサウンドを聴かせる。
随所にオルタナ風のハードさも含みつつ、優雅なピアノやオルガンを含むシンセなど、シンフォニックロックの要素もあるので、わりと聴きやすい。
全体的には、もう少し明快な盛り上がりが欲しいのだが、ラストは11分の大曲で、モダンなハードプログレ的な感触で楽しめる。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 翳りと叙情度・7 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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FARMHOUSE ODYSSEY
アメリカのプログレバンド、ファームハウス・オデッセイの2015年作
のっけから12分の大曲で、アコースティック含む叙情的なギターにピアノを含むやわらかなシンセを重ね、軽やかなアンサンブルとマイルドなヴォーカルで、優雅でキャッチーなサウンドを構築する。
オルガンやメロトロンといったシンセによるヴィンテージな味わいに、ECHOLYNなどに通じる軽妙なメロディアス性といくぶん偏狭な展開力で、なかなか玄人好みの聴き心地だ。
巧みなドラムに流麗なギタープレイを乗せて、ジャズロック的でもあるテクニカル性もよろしく、インストパートも充実。
ラストの10分の大曲も、プログレらしさとキャッチーな優雅さに包まれて爽快に幕を閉じる。なかなか大穴的な好作品です。
ドラマティック度・7 プログレ度・8 軽妙度・9 総合・8
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Hermetic Science 「Prophesies」
アメリカのシンフォニックロック、ハーメティック・サイエンスの1999年作
音楽大学の教授でもあるシンセ奏者、エド・マッキャンによるプロジェクトで、1曲目はヴィヴラフォンやマリンバの優雅な響きに、リコーダーの音色とムーグシンセが重なり、牧歌的なサウンドを描く。これがRUSHのカヴァーとは気づかない。笑
2曲目以降はオリジナルで、軽妙なアンサンブルに鳴り響くヴィブラフォンやリコーダーがメインで、シンフォニックというにはどこか煮え切らないインストサウンドを展開。
ピアノによる小曲から、後半は、9分、8分という大曲が続き、クラシカルなピアノやオルガンとともに、どこかエキセントリックなインストを聴かせる。
ラストは、EL&P「タルカス」のカヴァーのライブ音源で、ピアノをメインにしたクラシカルなアレンジで楽しめる。
クラシカル度・7 プログレ度・7 優雅度・7 総合・7
SONUS UMBRA 「A SKY FULL OF GHOSTS」
メキシコ出身のプログレバンド、ソナス・アンブラの2020年作
200年にデビューし、6作目となる。アコースティックギターにオルガンを重ね、チェロやフルートが鳴り響き、マイルドなヴォーカルを加えた哀愁の叙情と、テクニカルなリズムにヘヴィなギターを乗せたProgMetalの質感が同居。
リズムチェンジによる巧みな展開力でスリリングなサウンドを描きつつ、フルートやアコギが優雅な叙情をかもしだす。
物悲しいチェロを効果的に用いたメランコリックなシンフォナンバーや、20分という大曲では、妖しくスペイシーなサイケプログレ風味に包まれる。
優雅と重厚が行き来する、キャリアのあるバンドらしい堂々たる力作に仕上がっている。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 叙情度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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プログレで新年おめでとうございます(12)
Big Big Train 「Welcome To The Plannet」
イギリスのプログレバンド、ビッグ・ビッグ・トレインの2022年作
前作から、わずか半年で完成した作品で、ジャケからは、コロナ禍における人類の団結への希望が伺われる。
女性シンセ奏者のカーリー・ブライアント、Mr.So & Soのギター、デイヴ・フォスターを順メンバーに迎えた編成で、優美なシンセに叙情的なギター、マイルドなヴォーカルを重ね、ストリングスやブラスを加えたゴージャスなアレンジで、優雅なシンフォプログレを聴かせる。
ニック・ディヴァージリオの安定感あるドラムや、オルガン、メロトロンにギターもこなすリカルド・ショブロムの活躍ぶりもさすがで、GENESISを思わせる繊細な叙情性や英国らしい牧歌性に包まれる。
ヴィンテージをリスペクトしつつも、現在形のプログレを構築する傑作。本作を遺して、Voデヴィッド・ロングドンが急逝。
ドラマティック度・8 叙情度・8 優雅度・9 総合・8.5 過去作のレビューはこちら
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Kite Parade 「The Way Home」
イギリスのプログレユニット、カイト・パレードの2022年作
マルチミュージシャン、アンディ・フォスターによるプロジェクトで、BIG BIG TRAINのニック・ディ・ヴァージリオがドラムで参加。
オールドなプログレ感触のシンセにジェントルなヴォーカルで、IT BITESを思わせるキャッチーなプログレハードを聴かせる。
80年代ルーツの優美なポップ性と、ほどよくモダンなスタイリッシュ性が同居した、メロディックロックとしても楽しめ、きらびやかなシンセワークが優雅なシンフォニック性となっていて、耳心地のよい爽快な味わいだ。
古き良きプログレをスタイリッシュに昇華している点では、BIG BIG TRAINなどのファンにもお薦め。
ラストは14分という大曲で、サックスも加わった大人の叙情と、ドラマティックな構築力でじわりと盛り上げる。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 優雅度・8 総合・8
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Banco del Mutuo Soccorso 「Orlando: Le Forme dell'Amore」
イタリアのプログレバンド、バンコ・デル・ムトゥオ・ソッコルソの2022年作
フランチェスコ・ジャコモの死を乗り越えて、新生バンコとしての2作目となる。
アコースティックを含む叙情的なギターにクラシカルなピアノを重ね、前作から加入のトニー・ダレッシオのイタリア語のエモーショナルなヴォーカルを乗せて、大人の味わいに包まれた優雅なサウンドを描きつつ、プログレらしいスリリングな展開力も覗かせる。
オルガンを使ったオールドな味わいと、ほどよくスタイリッシュなモダンさも同居させた作風は、ただのベテランではない、バンドとしての深化を感じさせる。
ピアノやストリングスによるクラシカルなアレンジとともに、巧みな演奏力と繊細な叙情が同居したサウンドは、時代が変わってもやはりバンコである。11分の優美な大曲も含めて、全76分の見事な傑作だ。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 優雅度・9 総合・8.5 過去作のレビューはこちら
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Il Buco Del Baco 「Sotto Il Segno Della Lampreda」
イタリアのプログレバンド、イル・ブコ・デル・バコの2021年作
巨大な猛獣「Great Lampreda」との戦いを描くコンセプト作で、ムーグやオルガンなどのヴィンテージな鍵盤に、イタリア語によるヴォーカルを乗せ、古き良き感触の優雅なシンフォニックロックを聴かせる。
派手すぎず盛り上がり過ぎないサウンドは、いかにも70年代ルーツのイタリアンロックの趣で、優美なフルートの音色や情感的な表現力ある歌声とともに、繊細にして幻想的な味わいだ。
全32分という短さも、まるで70年代のアルバムのようだ
ドラマティック度・8 プログレ度・7 優雅度・8 総合・8
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IL SOGNO DI RUBIK 「TENTACLES AND MIRACLES」
イタリアのプログレバンド、イル・ソグノ・ディ・ルビクの2020年作
メロトロンなどの優美なシンセにトロンボーンなどのブラスが鳴り響き、英語歌詞のヴォーカルを乗せ、エキセントリックな雰囲気に包まれたシンフォニックロックを聴かせる。
サイケデリックでヘンテコな展開とアコースティック含む叙情が交差し、ときにヘヴィなギターを加えた重厚な味わいで、アヴァンギャルドなハードプログレを描いてゆく。
9分を超える大曲では、語り上げるようなシアトリカルな歌声とともに濃密なドラマ性を構築。かなりヘンテコという点では、かつてのGARDEN WALLなどに通じる部分も感じる。
ラスト曲は、普通に優雅で軽妙なインストパートから、語りが加わって、混沌とした展開の中にも、爽やかな叙情を覗かせる。このごった煮センスはある意味すごい。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 ヘンテコ度・8 総合・8
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Insomnia 「Brainshock」
イタリアのプログレバンド、インソムニアの2019年作
優美なシンセに叙情的なギターの旋律、マイルドなヴォーカルとともに、GENESISルーツのシンフォプログレを聴かせる。
90年代ルーツのMUSEAレーベルなどマイナー系シンフォのような翳りを帯びた空気感とともに、8〜9分前後の大曲をじっくりと構築する。
やわらかなフルートの音色に扇情的な泣きのギターがかぶさるあたりは、この手のシンフォ好きにはニンマリである。
PALLASなどを思わせる、軽快なポンプロック調のナンバーや、ゆったりとした叙情のシンフォニックロックまで、どこを切っても優雅なメロディアス性に包まれている。
イタリアというよりは、PENDRAGONなどの英国シンフォが好きな方にお薦め。これぞ王道のシンフォニックロックいう逸品です。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 叙情度・9 総合・8
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Sunchild 「Exotic Creatures & A Stolen Dream」
ウクライナのシンフォニックロック、サンチャイルドの2023年作
Karfagenでも活動する、マルチミュージシャン、アントニー・カルーギン率いるもうひとつのバンドの8作目。
26分、14分という2つの大曲からなる構成で、軽やかなリズムに美しいシンセワークとメロウなギターを乗せ、優雅でファンタジックなシンフォプログレを構築する。
やわらかなヴォーカルメロディと泣きのギターフレーズは、MOON SAFARIにも通じる優しい耳心地で、キャッチーでありながらもダイナミックな展開力が光る。
女性シンガーを加えての優美な叙情性の組曲「Northern Skies」は、うっとりとなる幻想的な味わい。
ボーナスには大曲のシングルエディションなどを収録。濃縮されたアレンジでこちらも見事な出来です。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 優美度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Solaris 「Nostradamus 2.0 - Returnity」
ハンガリーのプログレバンド、ソラリスの2020年作
1984年デビュー、ハンガリーを代表するバンドのひとつ。本作は1999年作「ノストラダムス」の続編で、通作5作目となる。
「なされなかった予言」をコンセプトに、6パートに分かれた23分の組曲で幕を開け、優美なピアノに壮麗なシンセと男女コーラス、涼やかなフルートの音色とともに、優雅にしてどこか翳りを帯びたシンフォニックロックを展開する。
リズムチェンジによる緩急あるダイナミックな展開力と、知的でドラマティックな雰囲気は、まさに往年の東欧プログレを継承する聴き心地。
コラー・アッティラによるフルートとメロウなギターの絡みは、サウンドにおけるクールな叙情性を担っていて、インストをメインにしながらも、緊張感ある飽きさせない構築力はベテランならではだろう。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 優雅度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Montecristo 「A Deep Sleep」
インドネシアのプログレバンド、モンテクリストの2016年作
2010年にデビューし、2作目。圧巻の傑作を残したDISCUSをはじめ、インドネシアには良いバンドが多いのだが、この若手5人組は、DREAM THEATERのライブ会場で出会って結成したという。
優美なピアノとシンセに、英語によるエモーショナルなヴォーカルを乗せ、ほどよくハードなギターとともに、カラフルでキャッチーなサウンドを描く。
プログレらしいきらびやかなシンセワークと、やわらかなメロディのフックにコーラスハーモニー、ほどよくスタイリッシュなハードさも織り込んで、ときにMOON SAFARIのような優雅な耳心地で楽しめる。
かすかなイモ臭さはあるものの、演奏力アレンジセンスともにレベルが高く、今後に期待の新鋭といえる。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 優雅度・8 総合・8
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Anamor 「Za Witrazem」
ポーランドのシンフォニックロック、アナモールの2018年作
2003年にデビュー、本作は15年ぶりとなる2作目。美麗なツインキーボードに叙情的なギターを重ね、母国語による美しい女性ヴォーカルとともに、東欧らしい翳りを帯びたサウンドを描く。
優雅な女性声シンフォという点では、初期のQUIDAMにも通じる聴き心地であるが、ほどよくハードなギターが加わると、ゴシック系シンフォニックロックというような味わいにもなる。
ラストの9分のタイトル曲では、泣きのギターフレーズに優美なシンセで、じわじわと盛り上げる。WHITE WILLOWのファンにもお薦めの逸品だ。
ドラマティック度・7 翳りと叙情度・8 女性Vo度・8 総合・8
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ALMS 「BEYOND」
スペインのシンフォニックロック、アルムスの2013年作
マルチミュージシャン、Aitor Lucena氏によるプロジェクトで、14分前後の大曲3曲という構成で、オーケストラルで壮麗なアレンジと、オルガンを含むプログレらしいシンセに、優美なフルートの音色とともに、緩急ある展開力で描かれるインストのシンフォプログレ。
リズムが打ち込みなので、ダイナミックさにはやや欠けるが、アコースティックギターに物悲しいチェロやヴァイオリンの響きなど、繊細な叙情美も織り込んで、幻想的なサウンドを描いてゆく。
わりと唐突な展開力はときにゲームミュージック風でもあるが、優雅なストリングスにピアノが重なる部分などは、じわじわと泣きの空気に包まれる。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 叙情度・8 総合・7.5
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PATRICK BROGUIERE 「ICONES」
フランスのミュージシャン、パトリック・ブログイエーレの1996年作
ギター、シンセ、ヴァイオリンフルートをこなすマルチミュージシャンで、1994年作に続く2作目となる。
「想像上の展覧会音楽」をテーマに、優美なシンセの重ねにクラシカルなピアノ、打ち込みによるリズムで、オーケストラルな味わいのインストのシンフォニックロックを展開する。
美麗なシンセアレンジをメインにしつつ、ときにギターを加えたロック感触もあり、モダンなビートにフランス語の女性スキャットとヴァイオリンを乗せた、スタイリッシュなセンスも覗かせる。
サックスが鳴り響く大人の叙情から、シンフォプログレらしいラストまで、ほぼインストながらアーティスティックな味わいの好作品。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 優雅度・8 総合・7
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