〜PROGRESSIVE ROCK CD REVIEW 2025 by 緑川 とうせい

★2025年に聴いたプログレ(フォーク/トラッド・その他含む)CDレビュー
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3/20
ジャパニーズプログレ!(107)

PICARESQUE OF BREMEN
日本のプログレバンド、ピカレスク・オブ・ブレーメンの1984年作
岩手出身、ベース&ヴァイオリンにドラムもこなす栃澤潤を中心に、1995年までに作のアルバムを残している。その初期3作品が紙ジャケでCD化された。
歪ませたハードなギターにヴォイオリンが鳴り響き、日本語歌詞のヴォーカルとともに、どこか怪しい翳りを帯びたサウンドを聴かせる。
ヴァイオリン入りのプログレとしては、OUTER LIMITSを思い出すが、それよりも粗めのハードさを感じさせ、自主制作然としたこもり気味の音質も含めて、なかなかマイナーな味わい。
ジャズロック寄りのアンサンブルには、KING CRIMSONからの影響も覗かせて、クラリネットやフルートも用いた優雅さに、女性声も加わって、ほどよいアヴァンギャルド性が同居する。
一方ではポップな小曲などもあり、2作目以降の深化を予見させる。東北にも個性的なプログレバンドがいたのだと再認識できる1枚だ。
ドラマティック度・7 プログレ度・8 日本度・8 総合・7.5
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PICARESQUE OF BREMEN 「TALES OF AN ALCHEMIST」
日本のプログレバンド、ピカレスク・オブ・ブレーメンの1985年作
前作と同じメンバーで作られた2作目で、SFコンセプト風のSEと、アコースティックギターに、リズムマシンによる硬質なドラムに2本のギターが重なり、日本語歌詞のヴォーカルで、わりとハードなサウンドを展開。
歌もの的なポップ性と、ハードロック寄りのギター、ときにフルートやクラリネットも加えて、優雅でサイケなハードポップ・プログレという、なかなかヘンテコな路線をいっている。
80年代らしいドラムマシンがやや単調だが、女性ヴォーカルによる歌謡ロック風のナンバーもメタルテクノ風プログレという味わいなので、それなりに面白いかもしれない。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 日本度・8 総合・7.5
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PICARESQUE OF BREMEN 「OUT OF THE WAY」
日本のプログレバンド、ピカレスク・オブ・ブレーメンの1987年作
フルート&クラリネットの西村聡子に替わり、新たに女性シンガーとして工藤ゆかりが参加している。ドラムマシンのリズムにきらびやかなシンセ、コケティッシュな女性ヴォーカルを乗せた、スペイシーなポップロックを展開。
突然のポップ化に当時は、スチュアート&ガスキンか、イエス+松田聖子かとも言われたようだが、歌謡ポップスタイルの中にサイケな浮遊感も覗かせていて、そこまで違和感なく聴ける。
プログレ方面からの女性声ポップという点では、同時期のサブリナが有名だが、こちらはカラフルでエキセントリックな香りがする。
ドラマティック度・7 プログレ度・6 日本度・8 総合・7.5
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金属恵比須 「邪神覚醒」
日本のプログレバンド、きんぞくえびすのベストアルバム。2023年作
2001年にアルバム「箱男」でデビュー、2022年までの5枚のアルバムを含む音源から、新曲2曲に再録を含めた11曲を収録したベストアルバム。
古き良きハードロック感触のギターに、日本語歌詞の女性ヴォーカルを乗せ、オルガンを含むキーボードとともら、妖しくも日本的なサウンドを展開。
後藤マスヒロのグルーヴィなドラムも迫力たっぷりで、ライブ音源でのスリリングなアンサンブルは、アナログ的なバンドの本質を描き出している。
「ハリガネムシ」収録の“光の雪”の物悲しい叙情性もあらためてよい感じだし、自主製作時代の2004年以前の音源は、男性ヴォーカルによる人間椅子を思わせるサウンドで、初めて聴くという方も多いだろう。
バンド最初期の楽曲“トイレの花子さん”の再録音バージョンも楽しい仕上がり。日本が誇る和風ハードプログレバンドの歴史を俯瞰できる1枚です。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 和風度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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VSQ Sports /バスクのスポーツ 「AVATAMA」
日本のプログレバンド、バスクのスポーツの2023年作
武蔵野美大のメンバーにより結成、2016年にデビューし、本作は2作目となる。オルガンやモジュラーシンセを含むヴィンテージな味わいと、軽やかなリズムアンサンブルにメロウなギターで、ジャズロック寄りの優雅なインストサウンドを聴かせる。
ゲストの女性シンガーがコケティッシュな歌声を乗せる、スペイシーでポップなナンバーもあったり、ほどよい脱力感は、かつてのカンタベリー系に通じるところもあり、鳴り響くムーグシンセとともに軽妙なプログレサウンドが楽しめる。
いくぶんアヴァンギャルドなセンス覗かせつつ、全体的には難解になり過ぎないところもミソ。優雅で少しヘンテコな好作品です。
ドラマティック度・7 プログレ度・8 軽妙度・9 総合・8
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TEE 「TOTAL EDGE EFFECT」
日本のプログレバンド、ティーの2022年作
2007年にデビュー、本作は6年ぶりとなる4作目で。優美なピアノの旋律にフルートが鳴り響き、メロウなギターとシンセが重なって、軽やかなアンサンブルの優雅なインストサウンドが広がってゆく。
ムーグ風のシンセとフルートがオールドなプログレ感触を描きつつ、今作では美しいシンセと泣きのギターによるシンフォニックロック的な部分も増している。
テクニカルなジャズロック感触はやや薄まってはいるが、より叙情性を高めたスタイルは、12分という大曲も含めて、軽妙なシンフォプログレとして楽しむべき逸品となった。
ジャズロ度・7 プログレ度・7 優雅度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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DDR 「SEVEN SEARS」
日本のプログレユニット、DDRの2022年作
京極輝男(De-LAX)を中心に結成、ワタナベカズヒロをシンガーに、入山ひとみ(STELLA LEE JONES)、花本彰(新●月)、大山曜(ASTURIAS)、MILKY(CRYED、MILKY SWEET)などが参加。
ハードなギターにオルガンなどのシンセ、英語歌詞のヴォーカルを乗せて、ヴァイオリンも鳴り響く、プログレ・グラム・ハードロックというべきサウンドを聴かせる。
花本氏作曲のナンバーは、どこか昭和感のただよう叙情性に包まれて、鳴り響くメロトロンとともにゆったりとした耳心地。
一方、ゲーム音楽で知られる、磯江俊道の曲は、ドラマティックなハードシンフォで、楽曲ごとに異なる感触が楽しめる。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 優雅度・7 総合・7.5
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Alsciaukat「A new myth」
日本のプログレバンド、アルシアカットの2022年作
Quiの林隆史を中心に結成、プログレアイドル、XOXO EXTREMEのバックバンドからスタートして、本作が初のアルバムとなる。
わりとハードなギターにオルガンやピアノ、やわらかなフルートの音色とともに、ジャズロック寄りのインストサウンドを聴かせる。
ギターやベースがそこそこヘヴィで、優雅なフルートやサックスも鳴り響くところは、KING CRIMSONからの影響も感じるが、リズム的にはシンプルで、テクニカルというほどでもない。
ゆったりとした叙情ナンバーは、むしろシンフォプログレ風なので、今後はどの路線でゆくのか固めていいってもらいたい。全33分というのがやや物足りないか。
ジャズロ度・7 プログレ度・7 優雅度・7 総合・7.5
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LU7 「L'esprit de l'exil Revisite」
日本のプログレユニット、エルユー・セヴンの2018年作
ギターの栗原努と女性シンセ奏者の梅垣ルナによるユニットで、本作は2005年の2作目を新たにリミックス、再録を加え、ジャケも新たにした新装版。
優美なシンセにバグパイプが鳴り響くイントロ曲から、軽やかなリズムにメロウなギターの旋律を乗せ、きらびやかなシンセワークとともに、インストによる優雅なフュージョン・プログレを展開。
岡田治郎(PRISM)や、永井敏巳(VIENNA)による巧みなベースもさすがの存在感で、嶋村一徳の軽妙なドラムに、ときに民族的なパーカッションも加わって、単なるフュージョン以上の幻想的な世界観も構築。
7分を超えるタイトルナンバーでは、プログレッシブな展開力とともに、美麗なシンセと叙情的なギタープレイが光っている。国産フュージョンプログレとしては最高峰だろう。
フューロ度・8 プログレ度・7 優雅度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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KBB 「Age Of Pain」
日本のプログレバンド、KBBの2013年作
2000年にデビュー、本作は6年ぶりとなる4作目。艶やかに鳴り響くヴァイオリンに、優美なエレピとシンセ、軽やかなリズムアンサンブルで、優雅で軽妙なインストサウンドを描く。
楽曲は6〜8分前後と、わりと長めで、ギターが入らない分、ロック的なノリは希薄なのだが、クラシカルなフュージョン/ジャズロック系のプログレが好きなら心地よく楽しめる。、
そして、どこを切っても華麗なヴァイオリンが鳴り響く、壷井氏のテクニックはまさに円熟の域にあると言ってよいだろう。新鮮味は薄いが優雅なる好作品です。
フューロ度・8 プログレ度・7 優雅度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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East Wind Pot
日本のジャズロック、イースト・ウインド・ポッドの2006年作
女性シンセ奏者、土屋裕子を中心にしたバンドで、軽妙なアンサンブルにサックスやクラリネットが鳴り響き、オルガンやエレピを含むシンセとともに、カンタベリー風味のジャズロックを聴かせる。
12分という大曲では、クラシカルなピアノパートから、軽やかなリズムに存在感あるベースとヴィブラフォン風の音色も含んだシンセとクラリネットで、とぼけた味わいの優雅なインストサウンドを展開。
土屋氏の巧みな鍵盤さばきはもちろん、表現力あるサックスのプレイも見事で、オールインストながらも日本人らしい耳触りの良さを感じさせる。
ジャズロ度・8 カンタベ度・7 優雅度・8 総合・8
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Djamra 「Transplantation /イショク〜遺伝子の記憶〜」
日本のジャズロック、ジャンラの2003年作
軽やかなドラムに存在感のあるベース、サックス、トランペットが鳴り響き、スカ風のレコメン系ジャズロックを聴かせる。
フリーキーなブラスと巧みなリズムによるアンサンブルが、優雅でテクニカルなインストサウンドを描いていて、なかなか玄人好みのスタイル。
スラッピングを含めて、唸るようなベースのプレイも際立っており、ギターがおらずとも音の薄さを感じさせないのもポイント。
ラストは15分という大曲で、レコメン系らしい不穏なアヴァンギャルド性も含みつつ、あくまで奔放なジャズロックを展開してゆく。
ジャズロ度・9 プログレ度・7 テクニカル度・8 総合・7.5
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Kunitaka Watanabe/渡辺邦孝 「Death Crimson Soundtracks」
日本のシンセ奏者、渡辺邦孝による、ゲーム「デス・クリムゾン」のサウンドトラック。2018年作
セガサターンの「伝説のクソゲー」として知られるようだが、プログレファンからの評価が高いようで、紙ジャケで発売されている。
打ち込みのリズムにオルガンなどのシンセが鳴り響き、キャッチーなメロディを奏でるサウンドは、桜庭統などにも通じるだろう。
あくまでサントラであるから、楽曲は1〜3分前後で、全21曲47分、さらりと聴け、華麗なキーボードサウンドが味わえる。
ボーナスの「クリムゾン・デスの宮殿」は、美麗なシンセにフルートも使った、いかにもKING CRIMSONライクな確信犯的なナンバー。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 キーボー度・8 総合・7.5
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桜庭統 「Band Arrangement Album / STAR OCEAN & VALKYRIE PROFILE」
日本のシンセ奏者、桜庭統によるゲームミュージックのアレンジ作品。2016年作
以前も同タイトルのアレンジ作品が出ていたが、今作は「スターオーシャン」「ヴァルキリープロファイル」から、それぞれの人気曲をセレクトしての新アレンジバージョン。
ドラムは桜庭氏自身が演奏。バトル曲をメインに、ツーバスを使ったアグレッシブなノリに、きらびやかなシンセとギターを重ねた、ロックアレンジが楽しめる。
オルガン弾きまくりのプログレナンバーには思わずニンマリで、今作ではギターが活躍しているので、ハードロック方面のリスナーにもイケるだろう。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 キーボー度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Marge Litch 「マスカレード・ゲーム 〜 デモ・トラックス・ヴォリューム・ワン」
日本のプログレッシブ・ハードロック、マージュ・リッチの2024年作
バンド創世記の1988年前後のデモテープの音源を集めたもので、のちにライブでも披露する楽曲のプロトタイプが収録されている。
初期のサウンドは専任シンセ奏者がいないぶん、STARLESSあたりに通じる女性声歌謡ハードロックという趣で、プログレッシブな要素は薄めだが、リズムチェンジを含む展開力や若き日の世良純子嬢の伸びやかな歌声など、バンドとしての独自のカラーはすでに感じさせる。
ドラムに長倉氏が加入した後半の音源は、バンドとしてのアンサンブルがよりタイトでパワフルになり、その後のデビューアルバムへとつながる勢いあるサウンドが楽しめる。
初期音源度・8 プログレ度・6 音質・7 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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Marge Litch「真夏の夜の夢 〜 デモ・トラックス・ヴォリューム・ツー」
日本のプログレッシブ・ハードロック、マージュ・リッチの2024年作
3rdアルバム「悲劇の泉」制作時のデモ音源を収録。1993年あたりの録音で、ベースに神保氏が加入、シンセの竹内氏は加入前となる。
楽曲は、のちのアルバム収録に近い雰囲気がすでにあり、パワフルなリズム隊を軸に、きらびやかな疾走感の「彗星の翼」から、キャッチーかつテクニカルなマージュリッチ節が炸裂。
世良純子のコケティッシュなヴォーカルは、激しいナンバーから、「真夏の夜の夢」のようなポップなナンバーでもよく映えている。
20分の大曲「悲劇の泉」は、シンセサウンドがややチープではあるが、シアトリカルでドラマティックな流れのシンフォニックロックが味わえる。
正規録音のスタジオ盤が現在廃盤なのが残念だが、お持ちの方は聴き比べるなどしても楽しめるだろう。
ドラマティック度・8 プログレハー度・8 音質・7 総合・8
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Marge Litch 「氷の魔女 〜 ライヴ・トラックス・ヴォリューム・ワン」
日本のプログレッシブ・ハードロック、マージュ・リッチのライブアーカイブ。2024年作
1999〜2002年までのライブ音源で、筆者も同時期に吉祥寺のシルバーエレファントへよくライブを観に行っていたものだ。
ツーバスのパワフルなドラムに巧みなベース、世良純子の伸びやかなヴォーカル、美麗なシンセとともに、疾走感のあるテクニカルなサウンドを聴かせる。
2000年以降の音源では、Yuhki(ALHAMBRA、GALNERYUS)こと、中島氏が参加して、そのきらびやかなシンセワークはさすが。また神保氏のベースも格好いいこと。
10分前後の大曲も多く、ファンタジックなストーリーをコンセプトにした、かつてのNOVELAをルーツにした、ロマン溢れる世界観が表現されている。
サウンドボード音源で、ブートレグとしては音質も上質、臨場感あるステージが楽しめる。エンディング的な大曲、「ファンタージェン」は感動的です。
ライブ演奏・8 プログレハー度・8 音質・7 総合・8
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Marge Litch「魔王の法廷 〜 ライヴ・トラックス・ヴォリューム・ツー」
日本のプログレッシブ・ハードロック、マージュ・リッチのライブアーカイブ。2024年作
1998〜2002年までのライブ音源で、Vol.1からは楽曲かぶりなしで全9曲71分を収録。テクニックとパワフルが融合したドラムとベースを土台に、シンフォニックなシンセと女性ヴォーカルで、重厚にして華麗な演奏を聴かせる。
疾走感とキャッチーなメロディが同居した「プレイヤー」はライブ映えするナンバー。10分を超える「トリムの冒険」は、ファンタジックな世界観と、世良純子のエモーショナルな歌声にたっぷりと浸れる。
ポップで軽快な「真夏の夜の夢」や、アルバム「真実の指輪」収録「サルタンの最後〜真実の指輪」のドラマティックな展開力など、メリハリに富んだ楽曲は今聴いても楽しい。
ライブ演奏・8 プログレハー度・8 音質・7 総合・8
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Marge Litch「The Singles Body〜冷えてゆく身体 〜」
日本のプログレッシブ・ハードロック、マージュ・リッチのコンピレーション。2024年作
リーダーでギターの横山氏以外のメンバーが交替した、2003年以降のシングルをリミックス、未発曲などを追加した全9曲を収録。
優美なシンセをギターに重ね、日本語歌詞の女性ヴォーカルで疾走するスタイルは、初期に回帰したような、STARLESSなどを思わせる女性声ハードロックという感触。
前任の世良純子比べて、関聡子のキュートな歌声はパワフルさには欠け、楽曲自体もテクニカル性はやや薄まって、わりとストレートなジャパメタという聴き心地である。
2009年以降は、月本美香がシンガーとなり、その昭和感を感じさせる歌声とともに、楽曲的にも10分を超える大曲「殯の丘」などは、ページェントにも通じるドラマティックな味わい。
デビュー前のデモ音源のリメイクナンバー「Marge Litch 2015」まで、バンドの経てきた変遷と歴史が窺い知れるアーカイブコンピである。
ドラマティック度・8 プログレハー度・8 ジャパメタ度・8 総合・7.5
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J・A・シーザー「J・A・シーザーリサイタル 荒野より」
寺山修司率いる劇団「天井桟敷」の音楽を担当、その後は「万有引力」を率いるミュージシャン。2017年作
本作は、2016年の公演をCD2枚に収録。6部構成になっていて、1部は少女革命ウテナ関連の合唱曲集で幕を開ける。
音質はややラウドであるが、オルガンを含むシンセに随所に巧みなギタープレイも聴かせ、生々しい演奏と混声合唱が一体となって迫力たっぷり。
2部は「ある家族の血の起源」で、ヴァイオリン鳴り響き、奇妙なセリフを導入しながらの、男女ヴォーカルのアングラ演劇ロックを繰り広げる。一方、オペラティックな女性ソプラノによる叙情曲などにも味わいがある。
3部は、J.A.シーザー名曲集で、「越後つついし親知らず」をはじめ、シーザーの味わいのある歌声とともに、70年代ルーツのサイケ風歌謡ロックが繰り広げられる。
4部「歌姫絶唱」では、俳優でもあるシンガーの蜂谷眞未、石川詩織、森ようこ、アマンダ・ワデル(革命アイドル暴走ちゃん)、声優でもある籠原帝子による歌曲で、ジャズやシャンソンを思わせるナンバーも含め、しっとりとした優雅さと情感に包まれた聴き心地。
5部「シーザー千一夜」は、70年代に天井桟敷のイラン公演前後に作曲された楽曲をメインに、シーザーの渋みのある歌声が響き渡る。セリフからの「阿呆船」の流れはやはり感動的だ。
6部「荒野より」の荘厳な合唱曲で幕を閉じる。Disc1、79分、Disc2、72分というボリュームで、ライブステージを切り取ったかのような臨場感あるサウンドでお腹いっぱい。
ライブ演奏・8 昭和アングラロック度・10 シーザー度・9 総合・8.5 過去作のレビューはこちら
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3/6
紙ジャケ&SHM-CDで名作を再び(87)

Barclay James Harvest「Once Again」
イギリスのプログレバンド、バークレイ・ジェイムス・ハーヴェストの1971年作
2作目となる本作は、溢れるメロトロンに哀愁のギター、THE ENIDのロバート・ジョン・ゴドフリーのアレンジによるオーケストラが重なり、ロック的なダイナミズムとクラシカルな優雅さが融合したサウンドを聴かせる。
ときにわりとハードなギターや、いくぶんやぼったいヴォーカルも、英国ロックらしい味わいになっていて、1st以上にプログレらしい質感とシンフォニック性も強まった。
英国的な気品とウェットな叙情、メロトロンに重なるしっとりとしたピアノも美しい。アルバム中盤の“Mocking Bird”でのクラシカルな高揚感は、まるでエニドのごとし。
BJH初期の代表作といえるアルバムだろう。2024年紙ジャケSHM-CD盤は、ボーナストラック6曲収録。最新リマスターにより、サウンドの壮麗な臨場感が増ししている。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 英国度・10 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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FRUUPP「SEVEN SECRETS」
アイルランドのプログレバンド、フループの1974年作/邦題「七不思議」
1973年にデビュー、本作は2作目で、艶やかなヴァイオリンとハープシコードによる典雅なイントロから、オルガンにメロウなギター、ジェントルなヴォーカルを乗せ、リズムチェンジを含む軽やかな展開とともに、優雅で牧歌的なサウンドを描く。
楽曲はわりと長めで、アコースティックを含むプログレらしい緩急あるインストパートは、リマスター盤のくっきりとした音質で聴くと、あらためてじっくりと味わえる。
中盤には9分の大曲もあるなど、いくぶん長尺感はあるが、いまのバンドにはないゆるやかな余韻があり、優美なピアノやヴァイオリンなどによるクラシカルな叙情には、バンドとしての繊細な美意識を感じさせる。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 優雅度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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FRUUPP 「The Prince of Heaven's eyes」
アイルランドのプログレバンド、フループの1974年作/邦題「天の瞳を持つ王子〜虹の果ての黄金伝説」
本作は3作目で最高傑作。かつては「太陽の王子」のタイトルで、テイチク「ブリテイッシュ・プログレクラシックス」から出ていたが、2023年の紙ジャケ盤では若干変更されている。
ファンタジックなジャケからして良い感じであるが、旅の始まりを感じさせる1曲目から、美しいストリングスシンセとピアノ、マイルドなヴォーカルとともに、優雅なシンフォニックロックが展開される。
素朴な耳心地ながらも、じわりと優しい叙情美に包まれて、聴きこむうちに少年が繰り広げる冒険の物語が脳裏に浮かんでくるようだ。
7曲め“Seaward Sunset”のピアノとコーラスによるしっとりとした美しさ、“The Perfect Wish”での後半の大盛り上がりからラストへの展開は感動的で、エンディング的な“Prince of Heaven”で幕を閉じるまで、淡い色をした幻想の物語にゆったりと浸れる、じつに素敵なアルバムである。
2023年のSHM-CD盤は音質もクリアで、原作であるポール・チャールズによる小説の原文と、翻訳の小冊子が封入されているのも嬉しい。
ドラマティック度・・8 プログレ度・8 優美度・9 総合・8.5
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FRUUPP「Modern Masquerades」
アイルランドのプログレバンド、フループの1975年作/邦題「当世仮面舞踏会」
4作目の本作は、イアン・マクドナルドがプロデュースしたことでも知られ、バンドのラスト作にして、代表作としても名高い。
シンセ奏者のスティーブ・ヒューストンが前作で脱退し、ジャズの素養もあるジョン・メイスンが加入している。
冒頭の泣きのギターメロディにメロトロンやソリーナのシンセが重なる、繊細な叙情美にすでにウットリとなる。
初期の2作に比べるとずいぶん洗練されて、ジェントルなヴォーカルにやわらかなエレピ、キャッチーなコーラスも加えて、優雅な叙情を描いてゆく。
10分を超える大曲も、ほどよい素朴さと、70年代ロックの空気を残しながら、サックスなども加えたジャズタッチも覗かせて優しい耳心地に包まれる。
ラスト曲では、泣きのギターとシンセでじわりと盛り上げる。繊細な優美さでは前作に負けず劣らずの内容です。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 優美度・9 総合・8.5
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IQ 「Tales from the Lush Attic」
イギリスのシンフォニックロック、アイキューの1983年作
80年代ポンプロックを代表するバンドのデビュー作を、新たにリミックスした2013年新装版をもとに、リマスターされた2021年の紙ジャケSHM-CD盤。
オルガンを含むきらびやかなシンセに、ピーター・ニコルズのガブリエル風のかすれた味わいのヴォーカルを乗せ、緩急ある展開力とともに、のっけから20分の大曲を構築する。
リミックスによりサウンドがよりダイナミックになったことで、かつてのようなマイナー臭さは感じさせず、確かな演奏力も含めて、現在につながるネオプログレのスタイリッシュ性をしっかり有していたことが改めて確認できる。
3曲目のキャッチーなナンバーなども爽快で、じつにシンフォプログレらしい。クラシカルなピアノの小曲なども含め、マーティン・オーフォードの多彩な鍵盤ワークも随所に光っている。
MARILLIONのデビュー作とともに、GENESISルーツの80年代シンフォプログレとしては出色の出来といっていいだろう。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 ジェネシス度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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ETNA「ETNA」
イタリアのプログレ・ジャズロック、エトナの1975年作
FLEAを母体にしたバンドで、ETNA名義としては唯一の作品。長らく廃盤であったが、2024年に最新リマスターの紙ジャケSHM-CDで再発された。
のちにGOBLINに加入する、アゴスティーノ・マランゴーロの軽やかなドラムに、巧みなギターとエレピなどを重ね、優雅なフュージョン・ジャズロックを展開。
作りこまれた緻密な楽曲には、テクニカルでスリリングな緊張感があり、4人のメンバーの完璧なアンサンブルが一体となって硬質な音のテンションで描かれる。
カルロ・ペニシによるギターのフレーズは時にハードロック色もあって、手数の多いドラムとともに、ハードなジャズロックファンも唸らせるだろう。
イタリアン・ジャズロックでは、ARTI + MESTIERIが有名だが、本作は派手やかさではアルティに譲るものの、演奏面では充分互角に張り合える。
曲によってはアコースティックな地中海風や、イタリアらしいミステリアスな空気も覗かせる。本格派ジャズロックとしても屈指の完成度を誇る傑作です。
ドラマティック度・・7 ジャズロ度・9 優雅な硬質度・9 総合・8.5
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FINCH「Galleons Of Passion」
オランダのプログレバンド、フィンチの3rd。1977年作
バンドのラスト作であり、最高傑作ともされる本作は、前の2作よりもぐっとメロディの洗練度が増して、リリカルな美しさが全面に溢れている。
シンセとドラムが交替し、軽やかなリズムにメロウなギターときらびやかなシンセを重ねた、シンフォニックなフュージョンプログレ風のスタイリッシュな柔らかさに包まれる。
そして、ヨープ・ヴァン・ニムヴェーゲンのギターは、ハケットかアッカーマンか、というように扇情的に奏でられ、泣きのフレーズの数々が聴き手の涙腺を刺激する。
Yesの“Your is no Disgrace”を思わせるキャッチーなラスト曲まで、FOCUSの最高傑作にも比肩するクオリティの高い傑作アルバムだ。
2023年の紙ジャケ、SHM-CD盤は、ボーナスにデモ音源を7曲収録、デモとはいえ音質も良好で、別アレンジのアルバムをもう一枚楽しめる感じ。
リマスターにより音質もよりクリアになり、透明感あるシンフォニックロックの名作に浸れる。
メロディアス度・9 プログレ度・8 泣きのギター度・10 総合・8.5 過去作のレビューはこちら
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PULSAR「Halloween」
フランスのプログレバンド、ピュルサーの3rd。1977年作
コケティッシュな少女の歌声による“ダニーボーイ”で幕を開ける本作は、フランスプログレ史上においても5指に入るべき名作である。
妖しいジャケから想像されるコンセプトストーリーとともに、美しいフルートに幽玄なメロトロンの響き、アコースティックギターのつまびきに包まれて、ゆったりと曲は進んでゆく、
やがてヘヴィーなギターが加わりダイナミックなリズムとともに、薄暗い叙情とエキセントリックな夢見心地の狂気のようなものが交差してゆく。
メロウなギターワークとメロトロンの重なりは絶品で、初期GENESISの典雅な叙情をフランス的なアートな感性で仕立て上げたという感じか。
A、B面をいっぱいに使ったそれぞれ2つの組曲は、ゆるやかな流れと湾曲を、幻想的な感性で楽しむという、いわば絵画的なセンスで構築される。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 幻想度・9 総合・8.5 過去作のレビューはこちら
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Emmanuel Booz「Clochard」
フランスのシンガー、エマニュエル・ブーズの1976年作/邦題「聖なる浮浪者」
1969年にデビュー、元々はジャズやシャンソン畑のシンガーであったが、1974年の2作目では、プログレッシブな作風へ深化、3作目となる本作には、ZAOのジョエル・デュルグノーが参加している。
官能的なサックスにギターが絡み、うるさすぎないシンセとともに聴かせる、アートロック風のサウンドは、優雅でありつつ得体の知れない感性を覗かせ、結果としてプログレッシブな香りをまとう。
そして、フランス語によるダンディな歌声は、ときにオペラのようにシアトリカルに響きわたり、その存在感は大変個性的だ。

前作「迷宮の扉」で見せたシアトリカルな怪しさは、いくぶん薄まったようにも思えるが、アコースティックギターの弾き語りにも味があり、ラストの優美な叙情ナンバーまで、先鋭的な芸術センスを感じさせるのはさすが。 次作「彷徨」はユーロロック史に残る驚異の大傑作となる。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 シアトリカル度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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ISILDURS BANE「MIND Volume 1」
スウェーデンのプログレバンド、イシルドゥルス・バーネの1997年作
1984年にデビュー、1989年作 「Cheval」からは、よりシリアスでクラシカルなアプローチにシフトしたバンドが、さらなる一歩を踏み出したというべき7作目で、新たにジャケを変更しての2021年、紙ジャケリマスター盤。
トランペット、トロンボーン、ホルン、オーボエ、フルートといった楽器による室内楽的な優雅さとバンドサウンドが融合、シリアスなスタイリッシュ性とともにクールなアンサンブルを構築。
軽やかに鳴り響くシロフォン、チューブラーベルズ、艶やかなヴァイオリン、ゆったりとしたクラシカルな流れの中にも、空間的なスケール感を覗かせて、スリリングな聴き心地である。
後半には、15分前後の大曲が続き、室内楽的クラシックとロックが自然体で溶けあう圧巻のサウンドは、まさしく新時代の北欧シンフォニックロック。
後に続く「マインド」シリーズの始まりとして、新たなプログレの形を提示してみせた渾身の傑作である。右はオリジナルの旧盤ジャケ。
クラシカル度・8 プログレ度・8 優雅で壮大度・9 総合・8.5 過去作のレビューはこちら
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Moon Safari 「Best Of (2005-2013)」
スウェーデンのプログレバンド、ムーン・サファリのベストアルバム。2015年作
2005年にデビュー、いまやメロディック系北欧プログレの代表格となった。本作は2013年までの4作+EPからの楽曲を収録した、日本独自のCD2枚組ベストアルバム。
2nd「Blomljud」収録のアカペラ曲から始まり、続く大曲“The Ghost Of Flowers Past”の繊細な泣きの叙情で、すでに涙腺崩壊。
優美なピアノとシンセ、メロウギターに、マイルドなヴォーカルとキャッチーなラスハーモニー、どこを切ってもメロディの洪水で、じわりと泣かせる。
3rd「Lover's End」収録の14分におよぶ“A Kid Called Panic”の、爽快なメロディに浸りつつ、Disc2では4th「Himlabacken Vol. 1」収録の優雅な叙情ナンバーも光っている。
Disc2後半には、EP“Lover's End Pt III Skelleftea Serenade”、24分の組曲を収録。優しいメロディに包まれながら、緩急ある流れで構築されるドラマティックなサウンドに浸れる。
リマスター&SHM-CDで音質も良いですね。メロディ派プログレッシャーは必聴のベストであり、ムーン・サファリ入門用としても最高ですな。
メロディック度・10 プログレ度・8 泣きの叙情度・10 総合・9 過去作のレビューはこちら
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TURID 「Vittras Visor」
スウェーデンの女性シンガー、トゥリドの1971年作/邦題「ヴィトラの仮面」
これまでCDはベスト盤の「I Retur」のみだったのだが、2019年に、初期の3作品がそれぞれ単体でリマスター、紙ジャケ再発された。
本作には、ピアノ、オルガン、フルートで、Bjorn J:Son Lindhが参加、ギターに、KebnekajseKenny Hakanssonが参加している。
アコースティックギターのつまびきにコケティッシュな女性ヴォーカルを乗せ、やわらかなフルートの音色も加え、ドリーミィなフォークサウンドを聴かせる。
典雅なピアノの旋律も耳心地よく、英国フォークルーツの牧歌性に、北欧らしい涼やかな空気感を合わせた作風で、ゆったりと楽しめる。
曲によってはエレキギターも用いて、サイケなフォークロック風味も覗かせるなど、単なる北欧フォーク以上の、プログレリスナー向きの作品です。
北欧度・8 プログレ度・7 女性Vo度・8 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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Estructura
ヴェネズエラのプログレバンド、エストルクトゥラの1980年作/邦題「構造」
前作「思考の彼方」も大変な力作であったが、2作目となる本作は女性Voに女性Gを含む7人編成で、やわらかなピアノとシンセに、スペイン語による美しい女性ヴォーカルを乗せ、優美なシンフォニックロックを聴かせる。
叙情的なツインギターにムーグやクラヴィネットなどのプログレらしい華麗なシンセが絡み、リズム面での安定した演奏力とともに、ときにジャズロック的でもある優雅で躍動感あるアンサンブルを描いている。
サウンドのマイナー臭さはあまりなく、緩急あるダイナミックな展開力や南米らしい繊細な叙情美には雄大なスケール感すら覚える。
3〜5分前後の小曲を主体にしつつ、インストパートでの確かな説得力に、魅力的な女性ヴォーカルも素晴らしい。マイルドな男性ヴォーカルをメインにした曲もあり。
この時期の南米のシンフォブログレ作品としては、PABLOBACAMARTEにも並ぶレベルの傑作だ。紙ジャケ、SHM-CDでの再発は嬉しい。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 叙情度・9 総合・8.5 過去作のレビューはこちら
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DISCUS「...tot licht!」
インドネシアのプログレバンド、ディスクスの2003年作/邦題「トット リヒト!光へ!」
インドネシアの奇跡というべきこのバンドの3作品が、2024年に紙ジャケリマスターで発売された。本作は2作目で最高傑作。
軽妙なリズムにサックスが鳴り響く、変態がかったジャズロックかと思いきや、楽曲が進むにつれ、無節操で高度な演奏と矢継ぎ早の展開に唖然となること必至。
バックではギターがメタルリフを弾きだし、かと思うとガムランの詠唱が始まり、ゆったりとしたサックスやクラリネットのメロディからシンフォニックなキーボードと美声の女性ヴォーカルの歌声にうっとりすると、次の曲では、アヴァンギャルドな変則リズムに乗せて歪み系男性ヴォーカルがガナりたてる。
プログレ…ジャズ、シンフォ、メタル、民族音楽と…様々な要素を叩き込み、ごった煮にして仕上げたというサウンドは、結果として恐るべきプログレッシブな作品に。
ラストは19分という大曲で、優雅なジャズロックにケチャやシンフォプログレが合わさり、緩急自在のダイナミックな展開と美しい女性ヴォーカルにより感動的な盛り上がりを見せる。
まさに濃密なる異色傑作とはこのこと!いますぐ買いに走るべし…いやポチるべし!新たなボーナスに2009年のライブ音源を収録。
ドラマティック度・9 プログレ度・10 濃密度・10 総合・9 過去作のレビューはこちら
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2/21
プログレの春はもうすぐ(73)

Steve Hackett 「Foxtrot At Fifty + Hackett Highlights: Live In Brighton」
Genesisのギタリスト、スティーヴ・ハケットのライブ作品。2023年作
ロジャー・キング、ヨナス・レインゴールド、クライグ・ブランデル、ロブ・タウンゼンド、ナッド・シルヴァン、ゲストにアマンダ・レーマンという不動のメンバーで、1972年作 「Foxtrot」の完全再現を含む、2022年のステージを2CD+BDに収録。
1975年デビュー作からの“Ace Of Wands”で幕を開け、軽やかなリズムに優美なシンセ、メロウなギターにサックスが重なる優雅なサウンドで、ハケットワールドが全開。
泣きのメロディが光る“Spectral Mornings”、キャッチーな“Every Day”といった人気曲はもちろん、「Highly Strung」収録の“Camino Royale”では、クライグ・ブランデルの巧みなドラムを含めてテクニカルなアンサンブルが見事。
アマンダ・レーマンの歌声に12弦ギターのつまびき、フルートも美しい大曲“Shadow Of The Hierophant”でじわりと盛り上げ、後半からはいよいよ「Foxtrot」の完全再現。
“Watcher Of Skies”のイントロから高揚感に包まれて、ナッド・シルヴァンの歌声ともに、往年のGENESISサウンドが甦る。
ドラマティックな大曲“Supper's Ready”、アンコールの“Firth Of Fifth”から、ドラムソロを挿入しての“Los Endos”で締めくくる。
ブルーレイは映像、音質ともに最高で、バンドとしてのアンサンブルとグルーブもぐっと高まった、素晴らしいステーシが楽しめる。
ライブ演奏・9 ライブ映像・9 フォックストロット度・9 総合・8.5 過去作のレビューはこちら
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PENDRAGON 「Fallen Dreams & Angels All The Loose Ends」
イギリスのプログレバンド、ペンドラゴンの2022年作
「Saved By You」、「Red Shoes」、「Fallen Dreams And Angels」、「As Good As Gold」という、4枚のEPをまとめた、全15曲入りのコンピレーション作品。
80年代のサウンドは、いかにも英国ポンプロックらしい、華麗でキャッチーなメロディックロックで、楽曲も3〜5分前後とシンプルながら、ニック・バレットの奏でる泣きのギターと味のある歌声で、叙情的な世界観はすでに確立されている。
8曲目以降は、傑作「The World」以降の90年代の楽曲で、ロマン派シンフォニックロックらしく、優美にじわじわと盛り上げるスタイルに深化。
アルバム未収録の曲も、ペンドラゴンらしい叙情美に包まれたサウンドで、近年のアルバムに物足りなさを感じているファンも必聴ですな。
シンフォニック・8 プログレ度・7 初期のペンドラゴン度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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PENDRAGON「PAST AND PRESENCE」
イギリスのプログレバンド、ペンドラゴンのライブ作品。2007年作
名実ともに英国シンフォニックロックを代表するバンド、デビューアルバムの1985年作「THE JEWEL」21周年を記念ツアーから、2006年のポーランド公演を2CD+DVDに収録。
バンドの初期にギターヴォーカルを務めていたジュリアン・ベイカーや、シンセ奏者のジョン・バーンフィールド、リック・カーターという歴代メンバーを迎え、「THE JEWEL」の全曲に加え、1984年のデビューEP「Fly High Fall Far」からの全曲や、デビュー前のデモからの楽曲も演奏。
90年代以降とは異なる、ポンプロック寄りのストレートな作風はむしろ新鮮で、ニック・バレットの味わいのあるヴォーカルに、メロウなギター、ゲストたちの華麗なシンセワークとともに、時代を超えて再現される楽曲には感慨もひとしお。
映像では楽しげに演奏するメンバーたちの姿も見られて、バンドのたどってきた長い歴史を感じることができる。また、ツアーメンバーである、ドラムのジョー・クラブトリーのプレイもなにげにレベルが高く、安定感あるステージはさすがである。
ライブ演奏・8 ライブ映像・7 ペンドラゴンの歴史度・9 総合・8
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VONN ZANDUS 「Unimortal」
イギリスのプログレユニット、ヴォン・ザンドゥスの2023年作
マルチミュージシャン、ジョン・バーンズによるプロジェクトで、ムーグなどのヴィンテージなシンセにマリンバやグロッケンシュピールの音色を重ね、軽やかなアンサンブルとともに、カンタベリー風サイケロックというようなサウンドを展開する。
ジャズロック的な優雅さとサイケの浮遊感が融合し、わりとユルめの耳心地ながらも、ほどよくテクニカルというのも絶妙の作風である。
この手にしてはドラムも生なので、アンサンブルには躍動感もあり、シンセをメインにしながらも、随所にギターも加わったりと音の厚みもある。
軽妙にしてエレクトロな、カンタベ・サイケ・ジャズロックというような好作品です。
ドラマティック度・7 プログレ度・8 優雅度・8 総合・8
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RICHARD HARVEY 「Plague And the Moonflowers」
イギリスのミュージシャン、リチャード・ハーヴェイの1999年作
GRYPHONで活躍したリコーダー&シンセ奏者で、本作はラルフ・ステッドマンの絵本を基にした童話的なコンセプト作品。
雄大なオーケストレーションにナレーションを乗せたシネマティックな世界観で、艶やかなヴァイオリンや優雅なフルートの音色など、クラシカルなサントラ的に鑑賞できる。
オペラティックなソプラノ女性ヴォーカルが歌い上げる、シンフォニックなアリアというようなパートなどは、むしろオペラを聴いてる感覚に近いかもしれない。
15分の大曲も、クラシカルなピアノやストリングス、語りを含んだ物語性や厳かな混声コーラスとともに、しっとりと幻想的なサウンドを描いてゆく。
ロック感触がほぼないので、プログレとして聴くにはややつらいか。
シンフォニック・8 プログレ度・5 優美度・8 総合・7
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AVKRVST 「The Approbation」
ノルウェーのプログレバンド、アヴクルヴストの2023年作
適度にハードなギターにメロトロンを含むうっすらとしたシンセ、マイルドなヴォーカルを乗せて、ANEKDOTENなどに通じる涼やかで物悲しい叙情に包まれたサウンドを描く。
緩急ある展開とともにメタリックでヘヴィなパートを覗かせるあたりは、OPETHなどを思わせ、ProgMetal的でもあるスタイリッシュな構築センスが光る。
ポストプログレ的な歌ものナンバーもはさみつつ、ラスト2曲は10分超の大曲で、アコースティックギターを用いた哀愁から、ゆったりとした繊細な叙情が広がってゆく。
13分のラスト曲は、優美なシンセとヘヴィなギターの重厚な味わいに、スリリングな展開力も見せながら、後半のシンフォプログレの叙情美へという流れも見事。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 スタイリッシュ度・8 総合・8
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ALWANZATAR 「ENGSYRE」
ノルウェーのエレクトロ・プログレ、アルワンザターの2023年作
TUSMORKEのKristoffer Momrakによるソロプロジェクトの6作目。ムーグやメロトロンなどのシンセをエレクトロに重ね、スペイシーでサイケな浮遊感を描く。
ジャケのイメージのような、妖しい幻想童話的な世界観も感じさせ、チープさをかもしだすオールドなシンセサイザー感触もいかにも確信犯的。
フルートがアラビックな旋律も覗かせつつ、北欧らしい涼やかな味わいで、アナログシンセのやわらかな耳心地がサイケなトリップ感を生み出している。
単なるシンセミュージックという以上に、プログレらしい幻想性に包まれていて、ピコピコ系なのに北欧シンフォの雰囲気も残した異色作である。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 エレクトロ度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Ocean of Lotion「LouiLouiLoui」
ノルウェーのプログレバンド、オーシャン・オブ・ローションの2023年作
2012年デビューし、11年ぶりとなる2作目。80年代なデジタルなシンセアレンジに、艶めいた女性ヴォーカルと男性ヴォーカルで、エレクトロなテクノポップ風味のサウンドを聴かせる。
楽曲は3〜5分前後とコンパクトで、YMOのようなキャッチーなビート感に、北欧らしい涼やかな浮遊感が同居しつつ、わりとストレートな耳心地で楽しめる。
全体的にはプログレ的な要素や展開は薄めなので、オールドなシンセポップが好きな方にどうぞ。
ドラマティック度・7 プログレ度・6 テクノ度・8 総合・7
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Kornmo 「Vandring」
ノルウェーのプログレバンド、コルンモの2019年作
AdventureMorildのメンバーを擁し、2017年にデビューし、2作目となる。オルガンやメロトロンなどのシンセに叙情的なギターを重ね、涼やかな空気を感じさせるシンフォプログレを聴かせる。
オールインストであるが、優美なピアノのパートなども含む、緩急あるリズム展開で、北欧らしい土着性ある叙情美を描いてゆくところは、Kerrs Pinkなどにも通じるだろう。
12分の大曲では、わりとハードなドラムとギターで重厚なパートも現れたりと、プログレらしいドラマティックな構築センスも光る。
牧歌的なギターの旋律とヴィンテージなシンセが融合し、これぞ北欧プログレというサウンドを堪能できる逸品です。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 北欧度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Kayo Dot / Tartar Lamb II 「Krakow」
アメリカのエクスペリメンタルロック、ケイヨ・ドットの2014年作
本作はライブ作品で、Disc2には、リーダーであるトビー・ドライヴァーによる別プロジェクト、ターター・ラムIIのライブ音源を収録した2枚組になっている。
Disc1は、1st〜5thまでの大曲を中心に、うねるベースにフリーキーなギター、サックスが鳴り響き、詠唱のような歌声とともに、チェンバー寄りのアヴァンプログレを展開。
うっすらとしたシンセによる静謐なパートから、ドラムも加わってアッパーにたたみかける部分では、スリリングな緊迫感に包まれて、鳴り響くトランペットもどこか妖しげだ。
Disc2も、基本的には同編成であるが、サックス、トランペットにクラリネットも加わって、より内省的な室内楽的なサウンドになっている。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 暗黒チェンバー度・8 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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Kayo Dot 「Coffins On Io」
アメリカのエクスペリメンタルロック、ケイヨ・ドットの2014年作
2003年にデビュー、本作は7作目となる。のっけから12分におよぶ大曲で、エレクトロなアレンジにキャッチーなヴォーカルを乗せた、ROXY MUSICのようなシンセポップ風味のサウンド。
80年代ニューウェイブ風味を確信犯的に取り入れつつ、翳りを帯びたダークな空気感には倦怠の美学も感じさせ、ときにドゥーミィな重厚さも覗かせるなど、一筋縄ではいかない。
9分、10分という大曲では、サイケデリックなリフレインがドラッギーな浮遊感をかもしだし、淡々としているのにミステリアスな緊張感も漂わせ、曲によってはアヴァンギャルドな展開も顔を出し、底知れないセンスを感じさせる。
サックスが鳴り響くジャズ風味のラスト曲も味わいがある。決して一般受けはしないが、多面的な作品に本気で取り込むバンドの貪欲なスタンスに驚かされる。
エレクトロ度・8 プログレ度・7 倦怠の翳り度・8 総合・8
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Zyclope 「“Uno”」
スベインのプログレバンド、ザイクロープの2003年作
フルート、ヴァイオリン奏者を含む6人編成で、クラシカルなピアノとシンセにヴァイオリンが絡み、叙情的なギターとともに、ほどよいマイナー感触のあるシンフォプログレを聴かせる。
自主制作らしい音質面での粗さはあるが、優美なシンセやフルート、アコースティックを含むメロウなギターによるインストサウンドは、ヨーロピアンな優雅さに包まれていて耳心地が良い。
艶やかなヴァイオリンをメインに、シンセとフルートが重なるゆったりとした叙情美や、どことなくサントラ風の雄大なシンセアレンジなど、シンフォニックロックとしての美しさにうっとりとしつつ、エフェクトのかかったヴォーカルを乗せたナンバーもあったり、ほどよく緩急あるサウンドが楽しめる。
ドラマティック度・7 プログレ度・8 優雅度・8 総合・7.5
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Zyclope「Contracorriente」
スペインのプログレバンド、ザイクロープの2005年作
2作目となる本作は、美麗なシンセとピアノにほどよくハードで叙情的なギターを重ね、スペイン語によるマイルドなヴォーカルとともに、繊細なシンフォニックロックを展開する。
泣きのギターにヴァイオリンがかぶさる、優雅なシンフォニック性とスパニッシュな牧歌性が同居したサウンドは、いくぶんのB級感触も含めて日本人好みである。
前作に比べてヴォーカル入りのパートが増えたので、インストにおけるギターのメロウな旋律も効果的で、艶やかなヴァイオリンやピアノによるクラシカルな美意識も光っている。
全体的には、リズム面を含むもっさりとしたアレンジがスタイリッシュとは真逆であるが、90年代シンフォの香りを残した煮え切らなさも好きである。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 優雅度・9 総合・7.5
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NEURONIUM 「TODAS SUS GRABACIONES PARA DISCOS EMI/HARVEST(1977-1978) 」
スペインのエクスペリメンタル・ロック、ニューロニウムの1998年作
スペインのTANGERINE DREAMとも評されるユニットで、本作は1977年のデビュー作「QUASAR」、1978年作「VUELO QUIMICO」を2CDに収録、
デビュー作は、26分という大曲で幕を開け、スペイシーなシンセの重ねにフルートが鳴り響き、叙情的なギターの旋律とともに、雄大なサウンドが広がってゆく。
単なるシンセミュージックではなく、ギターやフルートなどを取り入れたスタイルは、エレクトロというよりは、ときにPOPOL VUHのような原初的な神秘性も感じさせ、メロトロン鳴り響くラストナンバーもじつに叙情的。
2作目も、20分近い大曲から始まり、KLAUS SCHULZEばりのシンセサウンドに、アコースティックを含むギターや、後半にはヴォーカルも加わって、スペイシーなシフォニックロック的にも楽しめる。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 神秘的度・8 総合・7.5
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LOTUS
スウェーデンのプログレバンド、ロータスの1975年作
ASOKAのメンバーを含むバンドのデビュー作で、叙情的なツインギターにオルガンやエレピを重ね、軽妙なアンサンブルのインストサウンドを聴かせる。
泣きの旋律をを含んだギターは北欧らしい味わいで、やわらかなオルガンとともに、FOCUSなどに通じるジャジーなサウンドを描く。
楽曲は2〜3分前後なので、プログレ的な展開というのはさほどないが、北欧的なアートロック、ジャズロックとして楽しむのがよいだろう。
当時としては演奏力も高く、とくにギタリストのフレージングのセンスは、ヤン・アッカーマンばりに素晴らしい。ボーナスに1975年のライブ音源を収録。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 北欧度・8 総合・8



2/8
立春のプログレ(58)

Fish On Friday 「8mm」
ベルギーのプログレバンド、フィッシュ・オン・フライデーの2023年作
2020年にデビューし、6作目となる。叙情的なギターにうっすらとしたシンセ、マイルドなヴォーカルを乗せて、優しく繊細なプログレハードを聴かせる。
今作では、どことなくオールドなAOR風味も感じさせ、きらびやかなシンセアレンジもどことなく80年代と、コンセプトとしての古き良き味わいで楽しめる。
派手さはないが、キャッチーなヴォーカルメロディとともに、TOTOのようなアダルトなメロディックロックを愛する向きにはストライクだろう。
後半以降は、泣きのギターフレーズにシンセを重ねたシンフォニック性も現れて、女性コーラスを加えたナンバーなども優美ですな。
メロディック度・8 プログレ度・7 優雅度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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SAMMARY 「THE DREAM」
ドイツのアートロック、サマリーの2023年作
2022年にデビューし、2作目となる。たゆたうような女性ヴォーカルとハードなギターのコントラストで、メランコリックな叙情とオルタナロック風味が交差する。
優美なピアノやプログレ的なシンセアレンジも現れ、神秘的な空気感に包まれつつ、エモーショナルな女性ヴォーカルがほどよくキャッチーに歌い上げる。
浮遊感ある物悲しさと表現力ある女性声という点では、THE GATHERINGあたりに通じるところもあり、ゴシックロック好きの方にもお薦めできるだろう。
前作以上に、緩急の差が顕著になっていて、翳りを帯びた重厚さとしっとりとした叙情美が同居した、女性声オルタナ・アートロックの好作品となった。
ドラマティック度・7 メランコリック度・8 女性Vo度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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FORCE OF PROGRESS 「A SECRET PLACE」
ドイツのプログレバンド、フォース・オブ・プログレスの2020年作
The Healing Roadのメンバーを中心に、2017年にデビュー、本作は2作目となる。ハードで硬質なギターにきらびやかなシンセを重ね、ProgMetal寄りのテクニカルなインストサウンドを聴かせる。
どことなくジョーダン・ルーデス風の美麗なシンセワークと巧みなギタープレイで、DREAM THEATERや、PLANET Xあたりに通じる感触もありつつ、11分の大曲ではミステリアスな静寂パートを織り込むなど、ドラマティックな世界観も描き出す。
アルバム後半には、シンフォニックで優雅なナンバーもあったり、疾走する激しさや、オルガンを使ったヴィンテージな感覚も同居していて、インストながらも濃密なサウンドが楽しめる。
ドラマティック度・7 プログレ度・8 テクニカル度・8 総合・8

JAN AKKERMAN 「CLOSE BEAUTY」
オランダのギタリスト、ヤン・アッカーマンの2019年作
元FOCUSのギタリストとして知られ、ソロとしては8年ぶりの作品となる。アコースティックギターの巧みな旋律にエレピを含むシンセをまじえ、グルーヴィなベーストとドラムのリズムで、ジャズタッチのサウンドを展開。
エレキギターを使った叙情的なナンバーは、かつてのFOCUSを思わせるところもあって、その優雅なギターフレージングには、アッカーマン節をしっかりと感じさせる。
ゆったりとした牧歌的な小曲から、メロウなギターにシンセを重ねた優美なナンバーまで、年季を経たプレイヤーのみがかもしだす、優しい深味が感じ取れる。
ジャズやクラシックの素養を熟成させた、ギタープレイヤーとしてのアッカーマン健在を思わせる好作品です。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 アッカーマン度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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THE AURORA PROJECT 「GREY_WORLD_LIVE」
オランダのプログレバンド、オーロラ・プロジェクトのライブ。2019年作
2016年作「World Of Grey」全曲を含む、2017年のライブを収録。うっすらとしたシンセにメロウなギター、ジェントルなヴォーカルで、MARILLIONにも通じる翳りを帯びたサウンドを描く。
コンセプト的なストーリー性を感じさせる楽曲は、これという派手な展開はないのだが、エモーショナルに歌い上げるヴォーカルとともに、ドラマティックな世界観を構築する。
2015年作「A Night To Remember」からのナンバーも挟みつつ、泣きのギターと表現力ある歌声で、ラスト2曲でじわじわと盛り上げる。
ライブ演奏・8 プログレ度・7 薄暗度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Utopia 「From Hell To Paradise」
スイスのプログレユニット、ユートピアの2013年作
マルチミュージシャンのネオ・スミス氏を中心にしたプロジェクトで、のちのCrazy Juggler's Prog Orchestraの前身となる作品。
Disc1「From Hell」、Disc2「To Paradise」とした近未来をテーマにしたコンセプト作品で、オルガンやピアノを含む美麗なシンセにギターを重ね、かすれた味わいのヴォーカルとともに、ドラマティックなシンフォプログレを構築する。
華麗なシンセワークによる小曲も挟みつつ、クラシカルなピアノと女性ヴォーカルも加わった優美なパートなど、ほどよいハードさと叙情性を含んだ、緩急ある展開力も見事だ。
Disc2では、のっけから17分の大曲で、ヴィンテージロックの感触を強めつつ、32分という大曲では、ドラマ性のある濃密なシンフォプログレが楽しめる。CD2枚、各78分、76分という、渾身の力作である。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 濃密度・9 総合・8.5
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DRY RYVER 「2038」
スペインのプログレバンド、ドライ・リヴァーの2018年作
2012年にデビュー、QUEENMOON SAFARIの優雅さと、スタイリッシュなハードさが融合したスタイルで、過去2作も圧巻の傑作であったが、3作目となる本作もまた素晴らしい。
オルガンやピアノを含むきらびやかなシンセにギターを重ね、スペイン語によるヴォーカルを乗せて、キャッチーな叙情とテクニカルなセンスが巧みに合わさったハードプログレを展開する。
爽快なメロディアス性とともに、随所にストリングスを加えた重厚なクラシカル性、泣きの叙情ギターなど、濃密に盛り上げるあたりは、いかにもスパニッシュらしい。
一方では、ダンサブルなアレンジやオールドロック風味、優美なバラードから、ブラスを取り入れたファンキーなナンバーなど、アレンジの幅も広がりつつ、スペイン語による哀愁の歌声がよくマッチしている。
過去2作に比べて、肩の力の抜けた作風であるが、10分の大曲ではDREAM THEATERにも通じるProgMetal的な展開力で、華麗でドラマティックなサウンドを描き出す。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 構築度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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DRY RIVER 「CUARTO CRECIENTE」
スペインのプログレバンド、ドライ・リヴァーの2022年作
4作目となる本作は、しっとりと優雅なピアノのイントロから始まり、ハードなギターとスペイン語のヴォーカルを乗せて、キャッチーでスタイリッシュなハードロック風のサウンドが広がる。
メタル寄りの疾走感も含んだリズムチェンジなど、ProgMetalとしての感触も強まりつつ、メロディのフックにはあくまで爽快な聴きやすさがあって、アコースティックギターなどによるやわらかな叙情美も覗かせる。
楽曲自体は4〜5分前後が主体で、壮大なドラマ性などはさほど感じないが、シンフォプログレ要素よりもメタル感触が強まったことで、重厚な作風に磨きがかかっている。
アルバム後半の7分の大曲は、流麗なギターメロディとエモーショナルなヴォーカルでじわりと盛り上げる。優雅なプログレメタルとしても楽しめるようになった高品質作。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 重厚度・8 総合・8


ASFALTO 「CRONICAS DE UN TIEMPO RARO」
スペインのプログレバンド、アスファルトの2017年作
70年代から活動するバンドで、アルバムは15作以上を数えるベテラン。オールドなギターにシンセを重ね、スペイン語のヴォーカルを乗せて、優雅な哀愁に包まれたプログレハードを聴かせる。
随所にサックスやピアノも使った大人のアレンジと、キャッチーなメロディのフックに、スパニッシュな香りをまとったサウンドは、スペイン版TOTOという雰囲気でも楽しめる。
叙情的なギターの旋律とやわらかなシンセワークも耳心地よく、YES風の優美なナンバーや、フルートの音色に美しいシンセのシンフォニックなナンバーなど、ベテランらしい引き出しの多さもさすが。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 スパニッシュ度・8 総合・7.5
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Popol Vuh 「Cobra Verde」
ドイツのクラウトロック、ホポル・ヴーの1987年作
ヴェルナー・ヘルツォーク監督のアフリカを舞台にした映画のサントラで、アコースティックギターとシンセの重ねに、チャント風の歌声を乗せた幻想的なサウンド。
シンセをメインにしたインストの小曲でも、雄大で神秘的な空気を描くところは、フローリアン・フリッケのセンスだろう。
パーカッションに子供たちの歌声を乗せた、現地で録音したようないかにもアフリカンな曲もありつつ、優美なピアノにギターとうっすらとしたシンセで聴かせるラストの大曲などは、ポポル・ヴーらしい崇高な味わいだ。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 雄大度・8 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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1/31
英国、イタリア、ポーランド(48)

LODESTONE 「TIME FLIES」
イギリスのアートロック、ロードストーンの1971年作
1971年に唯一のアルバムを残して消えたバンドの初のCD化で、外宇宙への数百年の旅をするというテーマのコンセプトアルバム。
やわらかなオルガンの響きに、マイルドなヴォーカルを乗せ、Procol HarumThe Moody Bluesなどにも通じる英国らしい牧歌的なサウンドを描く。
The Beatlesのようなキャッチーな歌メロに、ストリングスが重なると、Barclay James Harvestを思わせる優雅な聴き心地にもなる。
1〜4分前後の小曲を主体に、アコースティックギターとオルガンを重ねた優美なナンバーや、アルバム後半はプログレらしい雄大な雰囲気にも包まれる。
派手な展開などはないのだが、英国70年代初頭の素朴な味わいのアートロックが楽しめる好作品です。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 牧歌的度・8 総合・7.5
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The Dear Mr Time 「Grandfather」
イギリスのアートロック、ディア・マイ・タイムの2021年作
1970年に1作を残して消えたバンドの1stのリマスターに、2015年の復活作、2018年の3作目をそれぞれに収録した。CD3枚組仕様
Dasc1のデビュー作は、ある男の人生をコンセプトにフルートによる牧歌的なイントロから、アコースティックギターにマイルなヴォーカル、オルガンやピアノなど加えて、英国らしい翳りを帯びたアートロックを聴かせる。
サックスやフルートが鳴り響き、ダイナミックなアンサンブルとともにに、コンセプト的スケール感を描くところは、MARSUPILAMIなどのファンにも楽しめるだろう。
優美ピアノにチェロやホルン、メロトロンが重なるインスト曲や、アコースティックの牧歌的なナンバーも多いので、フォークルーツの英国ロックとしても鑑賞できる。
Disc2には、2015年作「BRONTOSAURS AND BLING」を収録。キャッチーな歌ものロックという趣で、シンセによる優美なアレンジに叙情的なギターで、ゆったりとしたサウンド。
Disc3は、2018年作「TIME」を収録。ジェントルなヴォーカルを乗せた、STACKRIDGEあたりに通じるポップな味わいの英国ロックとなっている。ボーナスにデモ音源などを多数収録。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 英国度・8 総合・7.5
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Renaissance Illusion 「Through the Fire」
イギリスのクラシカルロック、ルネッサンス・イリュージョンの2001年作
YARDBIRDSのジム(ジェームス)・マッカーティ、ジェーン・レルフ、ジョン・ホークン、ルイス・セナモという、第一期RENAISSANCEILLUSIONのオリジナルメンバーが結集した復活作。
静謐感のあるベースとピアノのイントロから、ドラムとギターを加え、ジェントルなジムのヴォーカルにジェーンの美しい歌声を重ねて、フォークロックルーツの優雅なサウンドを聴かせる。
楽曲は3〜5分前後が主体で、クラシカルなピアノにはかつての面影があるが、男性声がメインなので、もっとジェーンの歌声を聴きたいのが正直なところ。
かつての瑞々しいサウンドと比べると、プログレとしてもクラシカルロックとしても物足りなさが残る。
クラシカル度・7 プログレ度・7 英国度・8 総合・7 過去作のレビューはこちら
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Oliver Wakeman 「Anam Cara」
イギリスのミュージシャン、オリヴァー・ウェイクマンの2024年作
リック・ウェイクマンの息子で、ソロとしては1997年にデビュー、クラシブ・ノーランとの連名作をはじめ、多くの作品を手掛けている。
本作には、元KARNATAKAのヘイリー・グリフィス、NIGHTWISHのトロイ・ドノクリー、FRAGILEのオリヴァー・デイ、元PENDRAGONのスコット・ハイアムなどが参加。
ケルトの物語をテーマにしたコンセプト作で、アコースティックを含む叙情的なギターに優美なシンセ、美しい女性ヴォーカルで、しっとりと繊細なシンフォニックロック展開する。
マンドリンやリュートのつまびきに、やわらかなピアノやホイッスル、イーリアンパイプの音色とともに、KOMPENDIUMなどにも通じる幻想的なケルティック・ロックとしても楽しめる。
随所に父親譲りのきらびやかなシンセワークも現れて、KARNATAKAにも通じる優雅でキャッチーなナンバーも良い感じだ。女性声シンフォ好きはチェックです。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 優美度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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TIGER MOTH TALES 「The Whispering Of The World」
イギリスのシンフォニックロック、タイガー・モス・テイルズの2020年作
全盲のミュージシャン、ピーター・ジョーンズによるプロジェクトで、本作はヴォーカルとピアノ、ストリングスのみで作られた、ロック色のないクラシカル路線のアルバム。
優美なピアノに艶やかなヴァイオリン、エモーショナルなヴォーカルを重ねて、しっとりと優雅なシンフォニックサウンドを描いてゆく。
ドラムやギターが入らないので、プログレとして聴くにはクラシック寄りであるが、いくぶん翳りを含んだ物悲しい作風には、コロナ禍における世界の空気を感じ取ってか。
それでいてなお、優しい愛を感じさせる、ピーターの歌声をじっくり味わえる内容だ。DVDにはピアノの弾き語りによるライブセッション映像を収録。
クラシカル度・8 プログレ度・6 優美度・8 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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TIGER MOTH TALES 「The Whispering Suite」
イギリスのシンフォニックロック、タイガー・モス・テイルズの2023年作
本作は2020年作「The Whispering Of The World」の世界観を、15分の組曲へとリアレンジしたタイトルナンバーに、リミックス、ライブ音源など収録。
1曲目のリミックスは、軽やかなリズムにきらびやかなシンセ重ねた、シンフォプログレらしいカラフルなサウンドが楽しめる。
2曲目からは、ピアノの弾き語りによるライブ音源で、 「The Whispering Of The World」のナンバーを主体に、2022年作「A Song Of Spring」からの楽曲も披露。
ラストは15分のタイトル組曲で、シンセをメインにした涼やかなサウンドに、ヴォーカルを加えて、ゆったりとしたシンフォニックサウンドを構築する。
クラシカル度・8 プログレ度・7 優美度・8 総合・7.5
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TIGER MOTH TALES 「The Turning Of The World」
イギリスのシンフォニックロック、タイガー・モス・テイルズの2023年作
2020年作「The Whispering Of The World」と対をなす作品で、アコースティックギターによって作曲されたという楽曲は、ジェントルなヴォーカルとギターのつまびきをメインに、シンセやサックスも重なって、田園地帯をイメージするような牧歌的なシンフォニックロックが味わえる。
エレキギターこそ入らないが、ドラムとベースによるロック感触はあるので、英国らしいオールドなメロディックロックとしては普通に楽しめる。
プログレ的な展開力はほとんどないので、物足りなさもあるのも事実。この路線のままならプログレリスナーはつらい。
ドラマティック度・7 プログレ度・6 叙情度・8 総合・7.5
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JOHN HACKETT & NICK FLETCHER 「BEYOND THE STARS」
イギリスのミュージシャン、ジョン・ハケットとニック・フレッチャーのユニット、2018年作
2人のユニットとしては2016年作に続く2作目で、ドラムにはウェイン・プロクターが参加。やわらかなシンセにメロウなギター、ジェントルなヴォーカルにフルートも加えて、兄のスティーブ・ハケットにも通じる優雅な叙情を描く。
ニック・フレッチャーの巧みなギターは、ときにオールドな渋さや泣きの叙情を奏で、ジョン・ハケットのフルートや素朴な味わいの歌声は、古き良き英国の香りを感じさせる。
プログレらしい軽やかなリズム展開に、優美なフルートがしっとりと響き、メリハリある構成の中に繊細なセンス描くところも、やはり兄と似ているだろう。
GENESIS風のナンバーでは、オルガンやメロトロンも使い、流麗なギターの旋律も随所に素晴らしい。ラストの11分の大曲まで、英国的な叙情に包まれた逸品です。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 優美度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Tallis 「In Alia Musica Spero」
イギリスのプログレバンド、タリスの2021年作
Jethro Tullのディー・パルマー、ジョン・エヴァンス、元Magnumのミッケイ・バーカーを中心にしたバンドの、70年代後期の発掘音源のCD化で、ピアノやオルガンを含むトリプルシンセにジェントルなヴォーカルを乗せ、優雅でクラシカルなシンフォニックロックを聴かせる。
厚みのあるキーボードサウンドのブリティッシュロックという点では、DUNCAN MACKAYあたりに通じる雰囲気もあり、ベートーヴェンやモーツァルト、パッヘルベルのカノンなどのカヴァーでは、TRACEあたりを思わせる、クラシカルな鍵盤ロックが楽しめる。フルアルバム分のマテリアルがなかったのか、ラスト2曲は1、2曲目のインストバージョン。
クラシカル度・8 プログレ度・7 優雅度・8 総合・7.5
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Syndone 「Dirtythirty 1992-2022」
イタリアのプログレバンド、シンドーネの2023年作
1992年にデビューのベテラン。2010年に復活以降は旺盛に活動を続け、本作はデビュー30周年を記念し、過去作の楽曲のリアレンジを主体にしたアルバム。
1曲目の新曲は、優美なピアノにジェントルなヴォーカルのイントロから、オルガンにメロウなギターを加えて、哀愁の叙情に包まれたシンフォプログレを展開する。
3曲目以降は、過去曲のリアレンジで、ピアノのストリングスによるクラシカルな感触は、「コンチェルト・グロッソ」的だったり、歌い上げるヴォーカルとともに、ロックオペラ風のシアトリカルな雰囲気も覗かせるなど、曲ごとに異なる作風で楽しめる。
1992年のデビュー作や、1993年の2nd「Inca」からのナンバーも、プログレらしいシンセとストリングスを重ねて、じつに優雅な聴き心地になっている。
ボーナストラックには、2018年作「Mysoginia」のナンバーを日本語で収録していて、なかなか情緒があってよいですな。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 優雅度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Divae Project 「Stratosferico & Others Stories」
イタリアのプログレバンド、ディヴァエ・プロジェクトの2023年作
1995年に唯一のアルバムを出したDIVAEの後継プロジェクトで、2021年の6曲入りEP、2023年の3曲入りEPにコンピレーション参加曲を加えた作品。
ピアノとヘンテコな語りのアヴァンギャルドなイントロから、ストリングスとシンセとドラムのインプロ的な小曲、クラシカルなピアノ曲と、つかみどころがなく、バンド的なサウンドをイメージするとやや肩透かし。
OSANNAの“Introduzione”、“L’uomo”、“L’amore Vincera Di Nuovo”というカヴァー3連発は、リノ・ヴァレッティもヴォーカルで参加して、なかなかよい味わいで、ASIA“After The War”のカヴァーは、一転して王道のプログレハードが楽しめる。
故キース・エマーソンへ捧げるキーボードプログレなナンバーも良い出来なのだが、全体としてはオリジナル曲の少なさと統一感のなさという点で、作品としては物足りないか。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 イタリア度・8 総合・7 過去作のレビューはこちら
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L'Estate Di San Martino 「Kim」
イタリアのプログレバンド、ル・エスターテ・ディ・サン・マルティノの2022年作
70年代から活動しながら、アルバムデビューは2006年という遅咲きのバンドで、本作は7年ぶり5作目となる。
「癌にかかった少女を冬眠させ、未来に目覚めさせて回復させる」というアメリカのニュースにインスパイアされたという作品で、やわらかなシンセにフルート、ジェントルなイタリア語のヴォーカルとともに優雅なサウンドを展開。
アコースティックを含む繊細なギターの旋律、エモーショナルに歌い上げるヴォーカル、ここぞとメロウな叙情ギターにメロトロン風のシンセをかぶせてじわりと盛り上げるところは、シンフォプログレ好きにはたまらない。
後半は7分、9分という大曲が続き、優美なシンセワークや、大人の哀愁含んだ味わいで、ラスト曲では、いったんの静寂ののち、軽やかなアンサンブルから、フルートとピアノの音色が物悲しく響き、美しい女性スキャットにシンセが重なってしっとりと幕を閉じる。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 イタリア度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Prometheo 「D'un Fuoco Rapito D'un Giovane Uomo D'un Amore Insensato」
イタリアのプログレバンド、プロメセオの2019年作
オルガンが鳴り響き、オールドな感触のギターに朗々としたイタリア語のヴォーカルで、70年代ルーツのヴィンテージなイタリアン・プログレを聴かせる。
アナログ感たっぷりのアンサンブルと緩急ある展開力、Il Balletto Di Bronzoなどに通じる妖しい空気感もよろしく、優美なピアノなどの使い方なども堂に入っている。
ヴォーカルの入ったパートではキャッチーな牧歌性もあって、わりとユルめな感触であるが、アコースティックギターやヴァイオリンによる優雅な叙情性覗かせて、古き良きイタリアンロックの繊細な美学も覗かせる。
10分近い大曲では、ゲストの女性ヴォーカルも加えて、男女Voによる優雅でシアトリカルなシンフォプログレを展開する。Syndoneあたりが好きな方にもお薦めの逸材だ。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 イタリア度・9 総合・8
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Daal 「NAVELS FALLING INTO A LIVING ORIGAMI」
イタリアのプログレバンド、ダールの2018年作
Taprobanのドラムと、Tilionのシンセ奏者によるユニットで、2009年にデビュー、6作目となる本作は、49分全1曲という構成の作品。
SF的なイントロから、メロトロン含むシンセにゲストによるギターにヴァイオリンも加え、インストによるミステリアスなシンフォニックロックを展開する。
スペイシーなシンセの重ねは、ときにKlaus Schulze風だったり、デジタルなアレンジも覗かせつつ、優美なピアノやヴァイオリンにはクラシカルな側面も感じさせる。
ドラムがさほど入らずロック感触が薄めなのと、なにせ曲が長いので、気が短い方には向かないのだが、シンセがメインの雰囲気モノとしてどうぞ。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 イタリア度・7 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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LIGHT ENTANGLEMENT MACHINE 2021
ポーランドのプログレバンド、ライト・エンタングレメント・マシン2021の2021年作
優美なピアノとシンセにアコースティックギターが絡むインロトから、軽やかなドラムとベースにスペイシーなシンセと叙情的なギターを乗せて、優雅なインストサウンドを聴かせる。
メロウなギターの旋律は、PINK FLOYDルーツであるが、存在感あるベースも含めて、わりとのノリのあるアンサンブルで、ときにアッパーなスペースロック風でもある。
これという展開は盛り上がりなどはないので、プログレとして聴くにはいくぶん退屈だが、ラストは12分の大曲で、シンフォニックと言ってもよいシンセとピアノの重ねに、メロウなギターで、ゆるやかに泣きを描いてゆく。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 優雅度・7 総合・7
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LOONYPARK 「PERPETUAL」
ポーランドのプログレバンド、ルーニーパークの2016年作
2008年にデビューし、4作目となる。美麗なシンセを硬質感のあるギターに重ね、伸びやかな女性ヴォーカルとともに、スタイリッシュでモダンなサウンドを描く。
ポリッシュらしい翳りに包まれた涼やかな空気に、艶やかなヴァイオリンも鳴り響き、メランコリックな味わいの重厚なシンフォプログレが楽しめる。
いくぶんゴシック的でもある優雅な倦怠と女性ヴォーカルの組み合わせは、ハードになったALL ABOUT EVEというような聴き心地もある。
ラスト曲での泣きのギターフレーズも耳心地よく、プログレ的な展開などはあまりないが、翳りを含んだ女性声メロウロックとして味わうのがよろしいかと。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 薄暗度・8 総合・8
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FRAMAURO「ETERMEDIA」
ポーランドのプログレバンド、フラマウロの1998年作
Milleniumの前身となるバンドで、うっすらとしたシンセワークにメロウなギター、母国語のヴォーカルを乗せて、PINK FLOYDルーツの翳りを帯びたシンフォプログレを聴かせる。
メランコリックな泣きの美学は、CollageAbraxas同様にじつにポーランドらしく、スタイリッシュになりきれないマイナーな空気感に包まれているが、優美なシンセと叙情的なギターの旋律が重なるあたりは、シンフォ好きにはたまらない。
全体的にゆったりとしたサウンドながらも、随所にほどよいリズムチェンジもあって、プログレとしての知的な構築センスもすでに感じさせる。
本作を残してバンドは消え、そのサウンドはMilleniumへと受け継がれるが、2022年になって復活している。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 叙情度・8 総合・8



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ドイツのプログレはいかが(31)

VIOLENT JASPER 「CONTROL」
ドイツのプログレバンド、ヴァイオリント・ジャスパーの2023年作
SYLVANのメンバー2人によるユニットで、SYLVANのシンガーにドラムも参加しているので、「ほぼシルヴァンじゃん」などとツッコミも入れたくなるが、サウンドの方は、わりとハードなギターに優美なシンセを重ね、美しい女性ヴォーカルも加わった、繊細でスタイリッシュなモダンプログレ。
マルコのヴォーカルが加わると、とたんにSYLVANっぽくなるのだが、基本は女性声をメインに、しっとりとした優雅さとメタリックなハードさのメリハリがあって、なかなか楽しめる。
エモーショナルな女性ヴォーカルに泣きのギターの旋律とシンフォニックなシンセを重ねて、じわりと盛り上がるラスト曲には、SYLVANのファンもぐっとくるだろう。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 優美度・8 総合・8
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Eyesberg 「Claustrophobia」
ドイツのプログレバンド、アイズバーグの2021年作
2014年にデビュー、3作目となる本作は、画家ゴッホの生涯をテーマにしたコンセプト作となった。
のっけから11分におよぶ大曲で、優美なシンセにメロウなギター、シアトリカルに歌い上げるヴォーカルとともに、大人のシンフォプログレを構築する。
オルガンやムーグなどのヴィンテージなシンセに、ときにやわらかなフルートの音色も加え、ピーター・ガブリエル系の味のある歌声が、ドラマティックなサウンドを描き出す。
曲によっては、ほどよくハードな感触も覗かせつつ、プログレらしい緩急ある知的にアレンジセンスも効いていて、泣きのギターメロディによる哀愁の叙情も含んでおり、全体的にもじっくりと楽しめる好作です。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 叙情度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Saris 「Beyond The Rainbow」
ドイツのプログレバンド、サリスの2020年作
1993年にデビュー、1作を残して消えるも、2009年に復活、本作は復活後の4作目となる。
美麗なシンセアレンジをギターに重ね、味わいのあるヴォーカルとともに、シンフォニックなプログレハードを聴かせる。
キャッチーなメロディのフックと、ピアノを含む透明感のあるシンセに、女性コーラスも加わった優雅さと、ほどよくハードなProgMetal風の展開美も覗かせる。
11分の大曲では、壮麗なシンフォニック性とともにドラマティックなスケール感に包まれ、全体的にも厚みのあるサウンドが味わえる力作である。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 壮麗度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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KARIBOW 「HOLOPHINIUM」
ドイツのプログレバンド、カリボウの2016年作
Last Turionのオリヴァー・ラッシングを中心に結成し、2011年にデビュー、本作は3作目となる。
それぞれが「The Fragments」、「Letter From The White Room」と題されたCD2枚組の大作で、優美なシンセのイントロから、軽やかなドラムに適度にハードで叙情的なギターを重ね、マイルドなヴォーカルとともに、ProgMetal感触も含んだシンフォプログレを展開する。
ギター、ベース、キーボード、ヴォーカルにドラムもこなすオリヴァー・ラッシングのマルチプレイヤーぶりが光っていて、激しく巧みなドラムの腕前もかなりのものだ。
プログレハード的なキャッチーな爽快さもあるので、メロハーやメタルのリスナーなどでも聴きやすく、Disc1ラストの9分近い大曲はドラマティックなハードシンフォが味わえる、
Disc2は7パートに分かれた36分の組曲になっていて、美麗なシンセアレンジとエモーショナルな歌声でじわじわと盛り上げる。SAGAのマイケル・サドラーなどがゲスト参加。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 叙情度・8 総合・8
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NEUSCHWANSTEIN 「Fine Art」
ドイツのプログレバンド、ノイシュヴァンシュタインの2016年作
1979年に傑作「Battlement」を残して消えたバンドの、じつに37年ぶりとなる復活作。
優美なフルートの音色にメロディックなギター、オルガンを含むシンセにヴァイオリンが鳴り響く、クラシカルなシンフォプログレを展開。
ツインキーボードの重なりにギターの泣きの旋律で、THE ENIDにも通じるシンフォニー的な優雅な耳心地に包まれる。
2曲目以降は小曲主体で、オールインストなのでBGMになってしまいそうだが、巧みでハードなギターを乗せたパートや、ナレーション風の語りからのフルートとピアノの古楽風ナンバーなど、ほどよくメリハリに富んでいる。
オリジナルメンバーはキーボードのみとなったが、優雅で壮麗なシンフォニックロックが楽しめる好作です。
クラシカル度・8 プログレ度・7 優雅度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Stern Combo Meissen 「Im Theater am Potsdamer Platz」
ドイツのプログレバンド、シュテルン・コンボ・マイセンのライブ。2014年作
1977年にデビュー、東ドイツ時代から活動するバンドで、本作は2013年4月8日ベルリンで行ったコンサートを2DVD+2CDに収録。
ツインヴォーカル、ツインキーボードの6人編成で、エレピやオルガン、ミニムーグといったきらびやかなシンセワークにマイルドなヴォーカルで、優美なシンフォニックロックを聴かせる。
ムソルグスキー「はげ山の一夜」も、ギターレスの編成ながら、スリリングなアンサンブルで、ヴィヴァルディ「四季」なども優雅でクラシカルな鍵盤プログレが味わえる。
キャッチーな歌ものナンバーもありつつ、目玉は後半での1978年の名作「錬金術師の物語」の完全再現で、37分に及ぶ組曲を、ヴィンテージな香りを残しつつ、ダイナミックな展開力で描き出す。若手メンバーを含む巧みな演奏と歌唱力で、聴きごたえのあるステージとなっている。
ライブ演奏・8 プログレ度・8 キーボー度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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RPWL 「Stock」
ドイツのモダンプログレ、RPWLの2003年作
200年にデビュー、本作は3作目となる。ゆったりとしたリズムに繊細なギターとシンセを重ね、マイルドなヴォーカルともに、PINK FLOYDルーツの浮遊感ある叙情を描く。
メロウなギターにうっすらと美しいシンセがかぶさると、シンフォニックな優雅さに包まれて、ときにプログレらしいムーグシンセの音色なども心憎い。
ドイツではアニメソングで知られる女性シンガーのコニーKがゲスト参加して、男女ヴォーカルで聴かせるナンバーは、初期のYESのようなキャッチーな味わい。
全体的にも派手な所はないが、まどろむようにゆるやかなサウンドが楽しめる好作品だ。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 優雅度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Glorious Wolf
「Zodiac」
オランダ出身のギタリスト、ルード・デイレンのプロジェクト、グロリアス・ウルフの2019年作
優美なシンセにメロウなギター、ジェントルなヴォーカルとともに、PINK FLOYDルーツのゆったりとした叙情に包まれたサウンド聴かせる。
サックスが鳴り響く大人の哀愁にサイケな浮遊感、ほどよくアヴァンギャルドなセンスも覗かせて、6〜11分という長めの楽曲を構築。
アコースティックギターにシンセを重ねた優雅なナンバーや、CAMELばりの泣きのギターをたっぷりと奏でるインストなど、ゆるやかな耳心地で楽しめる。
ギタープレイに関しては一流なのだが、自身のヴォーカルにはさほど魅力がないのと、楽曲展開のスリリングさに欠ける点で、もうひとつ抜けきらないか。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 叙情度・8 総合・7.5
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Banco Del Mutuo Soccorso 「Live In Mexico City 1999」
イタリアのプログレバンド、バンコ・デル・ムトゥオ・ソッコルソのライブ。2021年作
2000年に「En Concierto Mexico City」のタイトルで発売されていたものに、楽曲を追加してリマスター再発、2CDで116分に拡大された完全版。
1999年メキシコでのステージを2CDに収録。1994年作「13」収録曲から、いまは亡きフランチェスコ・ジャコモの伸びやかな歌声とともに、優雅なイタリアンロックが広がってゆく。
1976年作「最後の晩餐」収録曲や、デビュー作からの「R.I.P.」、1972年作「ダーウィン」収録「征服者」など、往年の代表曲も演奏。
Disc2では、1979年作「春の歌」収録曲で、しっとりと優雅に聴かせつつ、「ダーウィン」収録「革命」でのスリリングなアンサンブルはいかにもバンコらしい。
1983年作「Banco」からも2曲を披露するなど、70〜90年代のナンバーをまんべんなく取り入れたセットで、往年のファンも嬉しいだろう。
リマスターにより音質もさらに向上。巧みな演奏と素晴らしい歌唱で、ライブらしい濃密な臨場感が味わえる見事なライブ作品だ。
ライブ演奏・8 プログレ度・7 リマスター度・9 総合・8.5 過去作のレビューはこちら
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AUNT MARY 「Live Reunion」
ノルウェーのプログレ・ハードロック、アント・マリーのライブ作品。1993年作
1970年にデビュー、1973年までに3作を残して解散。本作は1980年の再結成ライブを収録。
ギター、ベース、ドラムのトリオ編成のステージで、1972年の2nd「Loaded」から3曲を取り上げ、さらに新曲も演奏している。
ブルージーなギターに、英語歌詞によるジェントルなヴォーカルで、70年代ブリティッシュロックルーツの渋い味わいのサウンドを展開。
オルガンなどが入らないので、プログレ感はほぼなく、古き良き北欧ハードロックとして聴くのが正しいだろう。
ラストは即興をまじえて、15分におよぶ演奏を披露。
ライブ演奏・7 プログレ度・5 北欧度・7 総合・7
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Alan Stivell 「Legend」
フランスのミュージシャン、アラン・スティーヴェルの1983年作
1970年デビュー、ケルトやトラッド関連の多数の作品に携わるミュージシャンで、本作はケルトの伝説を基にしたコンセプト作品。
1980年作「Symphonie Celtique」は壮大なる傑作であったが、本作もシンセやギターを使ったシンフォニックロックの感触と、ハープやフルート、パーカッションが一体となり、神秘的なケルティックロックを構築する。
楽曲は2〜3曲前後の小曲を主体に、素朴な土着性を残しながら、ときにフリーキーなエレキギターがサイケな味わいにもなっていて、繊細なハープやフルートの音色もしっとりと美しいという、わりとごった煮的センスであるが、優雅なケルトが楽しめる好作である。
ケルティック度・8 ロック度・5 優雅度・8 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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Alan Stivell 「Again」
フランスのミュージシャン、アラン・スティーヴェルの1993年作
本作は70年代の楽曲をリレコーディングした作品で、優雅なフルートにケーナ、パンパイプにヴァイオリンが絡み、フランス語のヴォーカルに、ギターとドラムによるロック的なビート感が合わさったサウンドを聴かせる。
典雅なハープの響きにダルシマーやブズーキの素朴なつまびき、パーカッションのリズムとともに、土着的な空気に包まれつつ、ゲストも含む男女ヴォーカルを乗せた歌ものナンバーでは、わりとキャッチーなトラッドロック風にも楽しめる。
ケイト・ブッシュがゲスト参加して、スキャットヴォイスを乗せるナンバーや、オルガンが鳴り響きハード寄りのギターが重なるプログレ風のパートもあったりと、多様なアレンジが面白い。
ケルティック度・7 ロック度・6 優雅度・8 総合・7.5
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Alan Stivell 「Brian Boru」
フランスのミュージシャン、アラン・スティーヴェルの1995年
本作はケルトの伝承をもとにしたトラッドとオリジナル曲で構成された作品で、アコースティックギターやハープのつまびきにパーカッションのリズム、ブズーキやフィドルの音色に、マイルドな男性ヴォーカルと女性声が絡む、典雅なトラッドサウンドを聴かせる。
ケルティックな土着性に包まれながら、随所にエレキギターやドラムも加えたロックアレンジやデジタル感触も覗かせるなど、コンテンポラリーな感触はプログレファン向けと言えるだろう。
素朴なアコースティックナンバーからは、しっかりといにしえのケルトの神秘性も感じさせ、それでいてたくみに90年代感覚を取り入れた、モダンケルトの好作品といえる。
ケルティック度・8 ロック度・5 優雅度・8 総合・7.5
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Alan Stivell 「1 Douar-One Earth」
フランスのミュージシャン、アラン・スティーヴェルの1998年作
軽やかなリズムに優美なフルートやハープの音色、ジェントルなフランス語のヴォーカルに、シンセによるアレンジも加えた、エスノ風ケルトというようなサウンドを描く。
デジタルなモダンさと、わりと愉快な土着的なノリが融合していて、ケルトというよりはヘンテコな民族ポップという感触のナンバーもあるが、一方では、美しいシンセにヴァイオリンやハープを重ねた幻想的な雰囲気も残していて、女性ヴォーカルも加えた癒し系の側面も覗かせる。
ラスト2曲は、バグパイプやホイッスルを用いた優美なケルトスタイルに、しっとりとした男女ヴォーカルを乗せて優雅な耳心地で締めくくる。
ケルティック度・7 エスノ度・7 優雅度・8 総合・7.5
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Anima Dominum 「The Book Of Comedy」
ブラジルのプログレバンド、アニマ・ドミニムの1999年作
1993年にAnima名義でデビュー、本作は改名しての3作目となる。美麗なシンセのイントロから、軽やかなリズムに叙情的なギターを乗せ、やわらかなシンセワークとともに、優雅なシンフォプログレを展開。
15分という大曲では、マイルドなヴォーカルに、Quaterna Requiemなどに通じるクラシカルなシンセアレンジ、メロウなギターとともに南米らしい繊細な叙情に包まれる。
ときにフルートの音色も加わった、CAMELばりの優美な叙情から、ラスト曲では軽やかなシンフォ・ジャズロック風味のアンサンブルを描く。
全体的にも、美しいシンセをメインに、インスト主体の優雅なシンフォニックロックが楽しめる好作品です。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 優美度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら


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英国プログレであけおめです(16)

Steve Hackett「Selling England By The Pound & Spectral Mornings: Live at Hammersmith」
Genesisのギタリスト、スティーヴ・ハケットのライブ作品。2020年作
シンセは盟友ロジャー・キング、ベースにTHE FLOWER KINGSのヨナス・レインゴールド、ドラムに元FROST*KINOのクライグ・ブランデル、サックスにロブ・タウンゼンド、ヴォーカルにナッド・シルヴァン、ギター&コーラスにアマンダ・レーマンが参加。1973年の名作「Selling England By The Pound」の完全再現を含むステージを収録。
前半はソロ作「Spectral Mornings」の楽曲を主体に、2019年作「At The Edge Of Light」からのナンバーも披露。ハケット御大の優雅なギタープレイを中心に、シンセとサックスがゴージャスに重なり、随所にナッド&アマンダのヴォーカルも加わり、大人の叙情美に包まれたサウンドを描く。
弟のジョン・ハケットが登場して、優美なフルートの音色をハケットの12弦ギターに重ねる、しっとりとしたナンバーも味わい深く、クライグ・ブランデルの要塞のようなドラムセットと、ソロプレイを含めた正確で巧みなドラミングも見どころだ。
後半はお待ちかね「月影の騎士」完全再現で、ナッド・シルヴァンのガブリエル風ヴォーカルとともに、あの頃のGENESISのロマンの香りが蘇り、演奏陣はセッション的な即興プレイも織り込みつつ、名曲“Firth Of Fifth”ではじわじわとくる大叙情に聴き惚れる。
ラストは“Dance On A Volcano”、そしてアンコールの“Los Endos”で幕を閉じる。英国らしい会場の雰囲気も含めて、素晴らしいライブステージで映像的にも楽しめる。
ライブ演奏・9 ライブ映像・8 ジェネシス度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Steve Hackett 「Genesis Revisited Live: Seconds Out & More」
スティーヴ・ハケットのライブ作品。2022年作
ロジャー・キング、ヨナス・レインゴールド、クライグ・ブランデル、ロブ・タウンゼンド、ナッド・シルヴァン、ゲストにアマンダ・レーマンという不動のメンバーで、1977年の名ライブ作の完全再現を含む、2021年のマンチェスターでのステージを収録。
「Spectral Mornings」収録曲で幕を明け、2021年のソロ作からのナンバーから、アマンダ・レーマンをヴォーカルに迎え、1975年の1stソロからの大曲“Shadow Of The Hierophant”も披露。
7曲目からは「セカンズ・アウト」の再現で、ナッド・シルヴァンのPガブ風ヴォーカルに、クライグ・ブランデルの安定感のあるドラムもさすが。
名曲“Firth Of Fifth”の泣きのギタープレイにうっとりとなりつつ、“The Musical Box”は元のライブと同じように抜粋であるが、“Supper's Ready”〜“The Cinema Show”というドラマティックな大曲は悶絶もの。
ラストは“Dance On A Volcano”から、ドラムソロを挟んで“Los Endos”へとなだれこむ。たたみかけるパワフルなドラムも含めて演奏力の高さはさすがです。
ライブ演奏・9 ライブ映像・8 ジェネシス度・8 総合・8
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I AM THE MANIC WHALE 「BUMPER BOOK OF MYSTERY STORIES」
イギリスのプログレバンド、アイ・アム・ザ・マニック・ホエールの2023年作
2015年にデビューしてから、自主制作でありながら大変レベルの高い作品を作り続け、本作で4作目となる。
物語の始まりを思わせるような叙情的なイントロ曲から、メロウなギターに優美なピアノやオルガンを含むシンセを重ね、伸びやかなヴォーカルとともに、古き良きシンフォプログレを聴かせる。
オールドロックのヴィンテージ感と緩急ある展開力は、TRANSATLANTICにも通じる感触もあり、キャッチーなコーラスワークなども随所に耳心地よい。
後半には13分、14分という大曲もあり、A.C.T.あたりを思わせる優雅なメロディアス性とともに、流れるように巧みな構築されてゆく。全66分、さすがの力作です。
メロディック度・8 プログレ度・8 優雅度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら

CYAN「For King And Country」
イギリスのシンフォニックロック、サイアンの2021年作
MAGENTAのロバートリードによるプロジェクトで、1993年にデビュー、本作は1999年以来22年ぶりとなる作品で、デビュー作をリメイクした作品。
ギターにルーク・マシン(Maschine、The Tangent)、ヴォーカルにピーター・ジョーンズ(Tiger Moth Tales、Camel)、ベースはMagentaのダン・ネルソン、という編成で、壮麗なイントロからして往年のシンフォプログレの香りがぷんぷん。
きらびやかなシンセに叙情溢れる巧みなギターの旋律、エモーショナルなヴォーカルで、往年の英国シンフォのロマンの香りを再現するようなサウンドを描いてゆく。
当然ながら、かつてに比べても抜群の演奏力で、女性コーラスも加わった華やかで厚みのあるサウンドは、王道のシンフォプログレとしてはMAGENTAを凌駕するレベル、
ドラマティック度・8 プログレ度・8 英国シンフォ度・9 総合・8
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CYAN 「Pictures From The Other Side - Remix And Live」
イギリスのシンフォニックロック、サイアンの2023年作
1994年の2ndからの4曲を新たに録音して別バージョンとしてミックス、スタジオライブ音源を加えた、8曲入り全64分というEP作品。
優美なピアノにサックス、ピーター・ジョーンズの野太めのヴォーカルに女性ヴォーカルも絡み、クラシカルな味わいのシンフォニックロックを聴かせる。
やわらかなフルートの音色など、アコースティックなパートから、メロウなギターとシンセを加えて盛り上げるアレンジはさすがロバート・リード。
ケルティックなアレンジの10分の大曲も優雅な耳心地で、後半のライブセッションも、ピアノ、ギター、ヴォーカル&サックスのトリオ編成による演奏で、しっとりとした味わいで楽しめる。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 優美度・8 総合・8
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Steve Thorne 「Malice In Plunderland」
イギリスのミュージシャン、スティーヴ・ソーンの2023年作
2005年にソロデビューし、本作は7作目となる。ニック・ディヴァージリオ(Big Big Train)をはじめ、カイル・フェントン(Cosmoglaf、Arrival)、ジェフ・リー(Animal Kingdom)といったメンバーが参加。
コロナ禍における各国政府や企業への揶揄を込めて、アリス・イン・ワンダーランドをもじったタイトルで表現。どっしりとしたベースにオルガンを含むシンセとマイルドなヴォーカルを乗せて、モダンなハードプログレを聴かせる。
キャッチーな叙情を描くナンバーなと、3〜4分前後の小曲がメインで、全体的に歌もの主体のストレートな聴き心地。
プログレらしい展開力などはさほどないので、ドラマティックな大曲がひとつ欲しかった気もする。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 叙情度・7 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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Swan Chorus 「Achilles and the Difference Engine」
イギリスのプログレバンド、スワン・コーラスの2023年作
Moonshotのシンガーとベースを含むメンバーで、2019年作に続く2作目。きらびやかなシンセとメロディックなギター、フィル・コリンズを思わせるヴォーカルとともに、GENESISルーツの優雅でキャッチーなシンフォプログレを展開。
オルガンやムーグを含むシンセワークに、哀愁の叙情を感じさせる泣きのギターも随所に光っており、IT BITESなどに通じるスタイリッシュなアレンジと軽妙なアンサンブルも素晴らしい。
ラストは13分という大曲で、優雅な流れで構築される。CDR仕様の自主作品であるが、クオリティの高さに驚愕すること請け合いの傑作だ。
メロディック度・8 プログレ度・8 優雅度・9 総合・8.5


This Winter Machine 「The Clockwork Man」
イギリスのプログレバンド、ディス・ウインター・マシンの2023年作
2016年にデビューし、4作目となる。のっけから11分の大曲で、適度にハードで叙情的なギターに優美なシンセを重ね、伸びやかなヴォーカルとともに、ARENAあたりに通じる翳りを帯びたスタイリッシュなシンフォプログレを展開する。
エモーショナルなヴォーカルとメロウなギターによる泣きの叙情は、MARILLIONなどにも通じる感触で、スケールの大きなドラマ性を感じさせる。
キャッチーな歌ものナンバーも、どこか英国らしいウェットな空気に包まれていて、重厚ながらもゆったりと鑑賞できる好作品だ。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 叙情度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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The Round Window
イギリスのプログレバンド、ラウンド・ウインドウの2022年作
自らを「ワイドスクリーン・ロック」と称する5人編成のバンドで、優美なシンセをギターに重ね、朗々としたヴォーカルとともに、ウェットな翳りを帯びたスタイリッシュなシンフォプログレを聴かせる。
ピアノやストリングなどのクラシカルなアレンジやプログレ感のあるシンセワークも覗かせつつ、リズムはわりとストレートなノリなので、キャッチーなメロディックロックという趣で楽しめる。
フックのある展開や盛り上がりはさほどないのが、MARILLIONあたりに通じるメロウなギターの旋律も含めて、英国らしい泣きの美学を受け継いだ耳心地の良さが光る。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 スタイリッシュ度・8 総合・7.5
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Pallas 「The Edge of Time」
イギリスのプログレバンド、パラスの2019年作
1984年にデビュー、本作は1st「The Sentinel」から、2014年作「Wearewhoweare」までの楽曲を、新たにアレンジした全10曲を収録。
ヴァイオリン鳴り響くイントロから、泣きの叙情ギターに優美なシンセワークで、ゆったりとしたシンフォニックロックを構築。
それぞれの楽曲は、原曲よりもアンビエントなアレンジで、オーケストラルなインストナンバーなど、全体的にバンド感触が薄めなので賛否はあるかもしれない。
ラスト曲はヴォーカル入りで、デジタルなアレンジにより、ポストプログレ風味のスタイリッシュな味わい。いつものパラスとは別物として楽しむべし。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 優美度・8 総合・7 過去作のレビューはこちら
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NICK MAGNUS 「CATHARSIS」
イギリスのミュージシャン、ニック・マグナスの2019年作
Steve Hackettのバンドに参加していたことで知られるキーボーディストで、ソロ名義としては6作目となる。
フランス、アリエージュへの旅にインスパイアされた作品で、スティーブ・ハケット、トニー・パターソン、アマンダ・レーマンといったゲストが参加。
オーケストラルなアレンジを含む優美なシンセに、ジェントルなヴォーカルとコーラスハーモニーで、いにしえの歴史を描くようなメディーヴァルなシンフォニックロックを展開する。
それと分かるハケットの流麗なギタープレイもさすがで、ピート・ヒックスがヴォーカルで参加したキャッチーなナンバーや、クラシカルなチェンバロとフルートによる古楽風味なども優雅な味わい。
スティーブ・アンルー(The Samurai Of Prog)のヴァイオリンが鳴り響き、アマンダ・レーマンによる美しいヴォーカル曲にもうっとりです。DVDには旅のドキュメンタリーやMV映像を収録。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 優雅度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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JOHN HOLDEN 「CAPTURE LIGHT」
イギリスのミュージシャン、ジョン・ホールデンの2018年作
オリヴァー・デイ(Fragile)、オリヴァー・ウェイクマン、ジョー・ペイン(元The Enid)、エミリー・ドラン・デイヴィス(元The Darkness)、ビリー・シャーウッド(Yes)、ジーン・パジェウ(Mystery)、マックス・リード(元The Enid)、ピーター・ジョーンズ(Tiger Moth Tales、Camel)、ゲイリー・オトゥールといった多数のゲストが参加。
優美なピアノとシンセに繊細なリュートやマンドリン、ジョー・ペインのエモーショナルな歌声を乗せた1曲目から、その優雅なサウンドにうっとりと聴き入れる。
しっとりとした女性ヴォーカルが美しい2曲めや、オリヴァー・ウェイクマンの美麗なシンセに女性ヴォーカルで優しいシンフォニックロックを描く後半のナンバーもよろしい。
全体的に派手なインパクトはないものの、ゆったりと鑑賞できる大人のシンフォの好作品だ。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 優美度・9 総合・7.5
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JOHN HOLDEN 「CIRCLE IN TIME」
イギリスのミュージシャン、ジョン・ホールデンの2021年作
3作目となる本作は、ニック・ディヴァージリオ、エリック・ポタペンコ(Gravity)、フランク・ファン・エッセン(IONA、Celestial Fire)、ヘンリー・ロジャース( Edison's Children)、ピーター・ジョーンズ(Tiger Moth Tales、Camel)などがゲスト参加。
のっけから、ニック・ディヴァージリオのダイナミックなドラムに巧みなギターが重なり、ジーン・パジェウ(Mystery)のヴォーカルを加えて、ドラマティックなシンフォプログレを展開する。
ピーター・ジョーンズの味わいのある歌声にサックスやヴァイオリンも鳴り響く優雅なナンバーや、マーク・アトキンソン(Moon Halo)と、サリー・ミナー(Celestial Fire)の男女ヴォーカルによるしっとりと繊細なナンバーも美しい。
ラストは19分の大曲で、パーカッションを使った民族色から、ナレーションを含む映画のような場面転換で、ドラマ性に包まれたサウンドを構築する。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 優美度・9 総合・8
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Tubular World 「Tubular Bells」
MAGENTAのロブ・リードを中心とした、Mike Oldfieldの「TUBULAR BELLS」を蘇らせるプロジェクト、チューブラー・ワールドの2020年作
スティーヴ・ヒレッジ(GONG)や、ジョン・フィールド(ジェイド・ウォリアー)、レス・ペニング、リック・フェン(10cc)、フィル・スパルディング、ジョン・フィールド、ダニエル・ホールズワース、そしてトム・ニューマンら、35人ものミュージシャンが参加。
Disc1には、名作「チューブラー・ベルズ」の新ヴァージョンのトム・ニューマンによるミックスを、DIsc2には、メンバー自身によるミックスを収録した2CD。
各楽曲ごとに3名〜10名が参加し、優美なピアノに繊細なギター、マンドリン、フルート、リコーダー、そしてチューブラー・ベルズが優雅な音色を重ねてゆく。
原曲へのリスペクトがしっかりとあるので、優雅なギターの旋律をとっても、いかにもマイク・オールドフィールドらしく、名作の新たなバージョンとして楽しめる。
プログレ度・7 オールドフィール度・9 チューブラー・ベルズ度・9 総合・8
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THE ARISTOCRATS 「CULTURE CLASH」
ガスリー・ゴーヴァン、ブライアン・ベラー、マルコ・ミンネマンによるロックバンド、アリストクラッツの2013年作
2作目となる本作も、軽やかなミンネマンのドラムに、存在感のあるブライアンのベース、フリーキーなガスリーのギターで、巧みなインストサウンドを聴かせる。
前作以上に肩の力が抜けたとぼけた味わいが、プログレ的な浮遊感を描いていて、大変テクニカルなのにユルいという、不思議な聴き心地である。
優雅なジャズ風味のナンバーでは卓越したギターのアルペジオも披露し、手数の多いドラムプレイに、不穏なベースが鳴り響く、ミステリアスなナンバーなど、オールインストながらも、3人の超絶プレイが随所に散りばめられている。
一転してスローなナンバーでは、大人の哀愁を含んだ、グルーヴィなアンサンブルも楽しめる。DVDにはインタビューやレコーディング風景を収録。
ドラマティック度・7 テクニカル度・8 アンサンブル度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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ARENA 「Ten Years On」
イギリスのプログレバンド、アリーナの2006年作
PENDRAGONのクライブ・ノーランと元MARILLIONのミック・ポインターにより結成、1995年のデビューから、2005年までの10年を振り返るベストアルバムで、全10曲71分収録。
適度にハードエッジなギターに美麗なシンセを重ね、エモーショナルなヴォーカルとともに、翳りを帯びたスタイリッシュなシンフォプログレを聴かせる、いわばネオプログレの先駆けといいえるスタイル構築。
2005年作「Pepper's Ghost」収録曲から、1998年作「The Visitor」、2002年作「Contagion」、2000年作「Immortal?」、さらには、2005年のライブ未発音源や、過去楽曲の新録音など、コアなファンでも楽しめる。
ラストは1995年の1st「Songs From The Lions Cage」収録の大曲「Solomon」で、ゆったりした叙情と壮大な展開力で聴かせる。バンドの初期の10年を俯瞰できる1枚だ。
ドラマティック度・8 ネオプログレ度・8 叙情度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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