大曲、大作、組曲のプログレを聴こう♪



かつてLPの時代には、野心的なバンドたちは、片面23分という制約の中で、己の音楽表現を最大限に活かした作品を作っていた。
大作志向、組曲、大曲というのは、プログレッシブロックというジャンルの、ある種の知的さと芸術性を浮き彫りにしてくれ、
世界観の表現、ドラマの構築、聴き手の想像を喚起させる大掛かりな楽曲というのは、それだけで我々をワクワクさせてくれる。
CDの時代となった現在においては、長い曲はいくらでも長くできるようになったが、
それはむしろ、バンドとしてのセンスや実力を試されることにもつながっている。
ただ長いだけではなく、いかにそこにドラマを織り込み、聴き手を引き込み、感動させられるか。

ここでは70年代から現在までの、大曲や組曲を含んだ素晴らしい作品を紹介したい。
大いなるドラマの波に身を委ねて、ゆったりと鑑賞にひたろう。

                           2010.4.23 緑川 とうせい


◆70'sブリティッシュ編

Procol Harum 「Shine on Brightly」
プロコル・ハルムの2nd。1968作
プロコルハルムといえば「青い影」の入った1stと、中期の傑作「グランド・ホテル」が有名だが
プログレッシブロックとして聴くとなると、本作「月の光」こそが最高傑作であると思う。
エレガントなハモンドオルガンの響きに、クラシカルな要素をもったコード進行、
どこをとっても英国らしさを感じる、気品と情緒に溢れたサウンドはじつに耳に心地よい。
アルバムのハイライトは17分にもおよぶ大作“IN HELD 'Twas IN I”
プログレッシブな感性とクラシックのフレーズなどを取り入れた大胆な展開が素晴らしい。
TRANSATLANTICがカヴァーしたこの曲を含め、シンフォニックファンにもお薦めしたい作品だ。
クラシカル度・・8 プログレ度・・7 英国度・・9 総合・・8
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PINK FLOYD 「Atom Heart Mother」
ピンク・フロイドの5th。1970作。邦題は「原子心母」
オーケストラを導入したフロイド最高のシンフォニック作。
もっとも有名なアルバム「狂気」のイメージが強いこのバンドだが、
実のところ筆者が一番好きなのは本作であり、オールインストの23分のタイトル曲
オーケストラルな雄大さとドラマティックな美しさに満ちた見事な大曲だ。
もちろんフロイドらしい内的な情緒もあって、深みのあるコーラスワークに
ハモンドの音色が絡む部分などは、厳かな空気すらただよわせている。
実際のレシピが付いた“アランのサイケデリック・ブレックファスト”も洒落が効いている。
シンフォニック度・・8 プログレ度・・8 壮大度・・9 総合・・9 
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EMERSON,LAKE & PALMER 「Tarkus」
エマーソン・レイク・アンド・パーマーの2nd。1971作。
「アルマジロ戦車」こと「タルカス」の組曲はELPの最高傑作である。
LPでいうA面すべてを費やした7パートにな分かれた20分の長大な組曲は、
エマーソンのキーボードワークが縦横無尽に炸裂し、リズム面での緩急のつけ方や
ドラマティックな構成力が前作以上にプログレッシブロックとしての美学を感じさせる。
ムーグシンセを導入したことで、ハモンド、ピアノというそれぞれの異なる音を使い分け、
サウンドの幅が大きく広がっている。冒頭の組曲が凄すぎて2曲目以降の印象が弱いのだが、
なんにしてもこのアルバムで聴ける世紀のキーボード大曲は、時代を超えて輝き続けている。
クラシカル度・・8 プログレ度・・9 キーボー度・・9 総合・・8.5
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YES 「CLOSE TO THE EDGE」
イエスの5thアルバム。「危機」のタイトルで知られる1972年作の名作。
言わずと知れたYESの最高傑作であり、18分にもおよぶタイトル曲の素晴らしさは彼らの絶頂期の勢いと
あふれ出すセンスをすべて凝縮したものである。張りつめた緊張感と演奏のテンション、
そこにドラマティックな展開美と、爽快なメロディを盛り込んで練り上げたこの大作は、
そのままこのアルバムの価値となっている。12分過ぎに鳴り響く荘厳なチャーチオルガン、
リック・ウェイクマンのソロパートを含めて、盛り上がりを見せる間奏部は圧巻。
また本作の魅力として、もうひとつの大曲“And You And I”の美しい牧歌性も見逃せない。
シンフォニック度・・9 プログレ度・・9 大作度・・9 総合・・9 
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VAN DER GRAAF GENERATOR 「Pawn Hearts」
ヴァン・ダー・グラフ・ジェネレーターの4th。1971作
一般的にVDGGの最高作とされるアルバム。どこかスペイシーなハモンドの音色に、
ピーター・ハミルの個性的な歌声が響きわたり、不思議な壮大さが広がってゆく。
サックスも入ってジャズロック的な要素もありながら、絡みつくような濃密さが音にあり、
気持ち悪い一歩手前という雰囲気が、つまりはとても個性的でもある。
KING CRIMSONにも匹敵する音の強度と、アヴァンギャルドな感覚を有して
たたみかけるこの質感は、後のイタリアのヘヴィプログレなどにも影響を及ぼしたと思われる。
全3曲という大作志向のアルバムで、とくに後半の23分の組曲が圧巻だ。
プログレ度・・9 濃密度・・9 壮大度・・9 総合・・8.5
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MIKE OLDFIELD 「TUBULARBELLS」
マイク・オールドフィールド
の1st。1973作
本作はまぎれもなく彼の金字塔であり、ロック史、プログレ史に名を残す作品である。
それぞれ25分、23分の全2曲という構成はLP時代を考えれば最大の長さであり、
そこに自身の内的世界と、世界への共感とを音楽にして詰め込んだこの楽曲は
ロック、プログレ、フォーク、クラシック、ジャズといったさまざまな要素を混在させて
ひとつの宇宙ともいうべき広大な空間を作り出している。楽曲としての完成度では
後の名作「オマドーン」に及ばないが、一人のアーティストの瑞々しい感性の結晶として、
時代を超えて輝き続けるものが確かにここには存在している。
メロディアス度・・7 プログレ度・・7 内的世界度・・9 総合・・8
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Renaissance  「Scheherazade and other stories」
ルネッサンスのアルバム。1975作
いわゆる第二期Renaissance初期4作はどれもが必聴の傑作なのだが、
その中でもクラシカルな壮大さの点では「シェエラザード夜話」のタイトルで知られる、
本作こそが最高傑作であると断言できる。クラシカルなピアノのイントロから、
アニー・ハズラムの艶やかな歌声が加わると、ファンタジックなシンフォニックロック的質感に
ぐいぐいと引き込まれてゆく。名曲“Ocean Gypsy”の泣きの叙情で軽く昇天した後、
24分を超える組曲“Song of Scheherazade”はまさに本作のハイライトというべき、
ドラマティックかつ壮麗なクラシカルロックサウンドで感動させてくれます。
シンフォニック度・・8 クラシカル度・・9 壮麗度・・9 総合・・9
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Capability Brown「Voice」
イギリスのプログレバンド、キャパビリティ・ブラウンの2nd。1973年作
これまでずっと聴きたかったが見つからない、貴重なアルバムであったが2008年に再発。
元HARMONY GLASSのメンバーによるバンドで、ヒプノシスによるジャケがインパクト大。
前半はポッフな感触のキャッチーな英国ロックという感じで、正直、悪くはない程度なのだが、
旧B面にあたる20分の大曲は、チェンバロとリュートの音色で始まるクラシカルな雰囲気に
泣きのギターが合わさり、QUEEN風のコーラスにメロトロンまで加わった叙情派プログレの作風。
この曲の存在によってプログレ方面のリスナーにとって、幻の名作的な存在になったのだろう。
メロディアス度・・8 プログレ度・・7 ラストの大曲度・・9 総合・・8
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Mandalaband
マンダラバンドの1st。1975作
異色にして壮大なるスケール感。この20分を超える大曲を演奏するためにバンドが結成されたという
この“曼陀羅組曲”は、4部構成に分かれた、まさに一大叙事詩ともいうべき濃密な完成度を誇る。
泣きのギターと壮麗なるシンセ、オーケストレーションが重なって、チベット語で歌われる歌唱と
混声コーラスなどが一体となった重厚なるシンフォニックロックを展開。また押しだけではなく、
クラシカルなピアノの響きなど、繊細な叙情美も兼ね揃えていて、感動的なまでに美麗なサウンドだ。
バンドは、1978年に2作目となる「The Eye of Wender」を発表、こちらもファンタジックな傑作である。
シンフォニック度・・9 壮大度・・9 美麗度・・9 総合・・9
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THE ENID 「AERIE FAERIE NONSENSE」
エニドの2nd。1977/1984作
1977年のオリジナル音源はいまだLPのみで、このCD版は1984年の再録バージョンであるが、
それでも、このバンドのシンフォニーロックとしての素晴らしさは充分に味わえるわけで、
優雅でクラシカルであり、そしてオーケストラのごとき雄大さをもった楽曲は
初めてこのバンドの音を聴く方にはかなりの衝撃となるだろう。
簡単に言えば、バンド編成でオーケストラのシンフォニーを再現したといっていい。
この2ndは彼らのディスコグラフィー中でも最もそれが顕著に出ている作品で、
とくに30分近くにも及ぶ長大な組曲“FAND”での高揚感はただごとではない。
シンフォニック度・・10 クラシカル度・・9 雄大かつ優雅度・・10 総合・・9
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◆ドイツ、オランダ編

NEKTAR 「Recycled」
イギリス出身、ドイツで活躍したプログレバンド、ネクターの5th。1975作
シンフォニックロックという点では、本作の出来がずば抜けて素晴らしい。
11パートに分かれた組曲方式の大作で、シンフォニックなシンセとギターが
絶品のバランスで組合わさり、ヴォーカルがまたドラマティックに歌を乗せる。
テーマや曲をつなげるプログレ的なアイディアも多く、たくさんのパートがやがて
スケールの大きな流れを生み出してゆく様は圧巻だ。適度な緊張感とともに、
濃密に聴かせる理想的なハードシンフォニックサウンドが繰り広げられる。
メロディアス度・・8 ドラマティック度・・9 壮大度・・9 総合・・8.5
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ANYONE'S DAUGHTER 「Piktors Verwandlungen
ドイツのシンフォニックロックバンド、エニワンズ・ドウターの1981作
「ピクトルの変身」のタイトルで知られる、ヘルマン・ヘッセの詩をモチーフにした作品で
ライブ録音ながらも、その抜群の演奏と叙情美で、本作はバンドの最高傑作ともされている。
イントロからもう、泣きのギターとシンセが合わさった、まさにドイツのロマンが集約されたような
シンフォニックサウンドが炸裂。曲間にドイツ語によるヘッセの詩の朗読を挟みつつ
その見事なメロディセンスと演奏力で、何度も盛り上がりを迎えながら組曲は進行してゆく。
ドラマーをはじめ、ギターもシンセも、ライブ録音とは思えない巧みな演奏がまったく素晴らしく、
美しいジャケも含めて、ドイツのみならず欧州シンフォニックの語り継ぐべき名盤である。
シンフォニック度・・8 メロディアス度・・9 ロマン度・・10 総合・・9
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FOCUS 「HAMBURGER CONCERTO」
オランダのプログレバンド、フォーカスの4作目。1974作
3作目「V」でバンドとしての絶頂期を迎え、続くライブ作「AT THE RAINBOW」で、
オランダ最高のバンドという地位を不動のものにした彼ら、
本作はのっけからリュートによる小曲で幕を上げるのも異色だが、全体的には「V」のような
荒々しい熱い演奏よりではなく、優雅でやや大人しめの雰囲気に包まれている。
一番の聴き所である20分のタイトル曲は、クラシカルかつシンフォニックな要素が強く
タイスのフルートにオルガンワークなどを堪能できる見事な組曲だ。
逆にアッカーマンのギターはやや抑えぎみなのだが、むしろそれも味になっている。
クラシカル度・・8優雅度・・8 タイス>アッカーマン度・・9 総合・・8
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TRACE 「BIRDS」
オランダのプログレバンド、トレースの2nd。1975作
モロにクラシック的な1stの路線から、バンドとしてのアンサンブルが強化され、
より躍動感に満ちた鍵盤プログレが楽しめる傑作。バッハのカヴァーで始まりつつ
楽曲はよりスタイリッシュになり、EKSEPTION時代を含めてより熟成されている。
鳴り響くオルガン、クラシカルなチェンバロ、ときにジャズタッチのピアノまで、
リック・ヴァン・ダー・リンデンの怒濤の鍵盤さばきがたっぷり楽しめます。
そして22分におよぶ組曲はまさに圧巻。バンドは続く「ホワイト・レディース」を最後に解散。
クラシカル度・・8 プログレ度・・8 キーボー度・・9 総合・・8.5
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CODA 「Sounds of Passion」
オランダのシンフォニックロックバンド、コーダのアルバム。1986作
80年代を代表するシンフォニックロックの傑作。自主制作同然ながら、サウンドの質の高さが光る。
それから、絶妙なのが効果音の取り入れ方。風の音やシンセによる効果音、それに語りなどが、
有機的に曲の一部として機能している。タイトル曲である29分の組曲の構成も、インストによる演奏をメインとしながら、
起伏に富んでいて、聴き込むごとにじわじわとプログレとしてのこだわりが随所に感じ取れる。
繊細なピアノに、美しいフルートなど、アコースティカルな部分もとても耳に優しい。
おそらくメンバーたちのマニアックな気質と、シンフォニックロックへの愛情が生み出した
奇跡的な作品なのだと思う。押しつけがましくない、大仰すぎないセンスもまた良しだ。
シンフォニック度・・8 繊細度・・9 構成度・・9 総合・・8.5
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◆北欧編

KAIPA 「Inget Nytt Under Solen」
スウェーデンのシンフォニックロックバンド、カイパの2nd。1976作
現在はFLOWER KINGSで活躍するロイネ・ストルトの在籍したバンドで、
70年代に発表した1st〜3rdはどれもが北欧プログレを代表する名作として名高い。
なかでも、21分の組曲を含む本作の完成度は最高傑作というにふさわしいものだ。
北欧らしい土着的なメロディに薄暗い叙情性を感じさせるサウンドは、
いくぶんの野暮ったさとともに、どこか我々日本人の琴線に触れる温かみがある。
そしてロイネの奏でるギターフレーズは、組曲の盛り上がりとともに泣きの旋律を響かせる。
70年代の北欧のイメージを決定付けた一枚。すべての叙情派プログレファンに聴いてもらいたい。
シンフォニック度・・8 メロウな叙情度・・9 北欧度・・10 総合・・8.5
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DICE 「The Four Riders of the Apocalypse」
スウェーデンのシンフォニックロックバンド、ダイスのアルバム。1978作
「北欧の夢」と題された1st以前に録音されたマテリアルで、 「黙示録の四人の御使い達」というタイトル通り
“戦い”、“疾患”、“貪欲”、“死”というテーマにそった、オールインストの組曲を作り上げている。
北欧らしい叙情を聴かせるギターフレーズと、オルガンやメロトロンなどのシンセワーク
そして軽やかに展開する楽曲構成は、土着的なKAIPAに比べて、YESやELPに近い感触だろうか。
緩急を織りまぜた演奏の中に、涼やかメロディとファンタジックな雰囲気が楽しめる好作だ。
ドラマティック度・・8 ファンタジック度・・8 北欧度・・8 総合・・8
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THE FLOWER KINGS 「FlowerPower」
スウェーデンのシンフォニックロックバンド、フラワー・キングスの4th。1998作
のっけからなんと60分弱の組曲“Garden of Dreams”で幕を開けるCD2枚組の大作。
1995年の1作目から毎年のように作品を作り続けるのも凄いが、それも内容の質あってのこと。
18パートに分かれた長大な組曲は、流れるような展開の中で、シンフォニックな美しさと
クラシカルな華麗さ、ときにジャズ的な軽やかさも含みながら、じわじわと盛り上がってゆく。
ロイネ・ストルトの絶品のギタートーンはもちろん、トマス・ボーディンの繊細なシンセワークも素晴らしく、
メンバーたちの伸びやかなアンサンブルは、確かな音の説得力と適度な緊張感を生み出している。
Disc1が68分、Disc2が73分という、相当な大作だが、心地よいサウンドに浸って聴き通せてしまう。
シンフォニック度・・8 プログレ度・・8 大作度・・9 総合・・8.5
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PAR LINDH PROJECT 「MUNDUS INCOMPERTUS」
スウェーデンのシンフォニックロックバンド、パル・リンダー・プロジェクトの2nd。1998作
1st「Gothic Impressions」は多数のゲストを集め、管弦楽、チャーチオルガン、合唱隊などを配した
ド級のシンフォニック作であったが、いくぶんソロプロジェクト的な色合いが強かったその前作に比べ
本作では、女性ヴォーカルを含む5人編成でのバンドサウンドとなって、よりロックとしての躍動感がそなわった。
ELPばりにシンセを主体にしたメロディは、クラシカルでありながらもキャッチーで、音に難解なところがない。
つまり聴いた瞬間から濃密なシンフォニックロックとして完全に楽しめるという点も魅力なのだ。
楽曲を彩る女性ヴォーカルの歌声や、メタルドラマー並に手数の多いツーバスドラムも聴きどころ。
26分超の圧巻の組曲を含めて、1990年代を代表するシンフォニックアルバムのマスターピースのひとつである。
シンフォニック度・・9 ダイナミック度・・9 キーボー度・・9 総合・・8.5
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TOMAS BODIN 「IAM」
THE FLOWER KINGSのKey、トマス・ボーディンのソロ4作目。2005作
23分、21分、18分の組曲3曲。参加メンバーは、TFKでおなじみのヨナス・レインゴールドに、
前作に続き、メインヴォーカルにアンダース・ヨハンソン、ギターにJOCKE JJ MARSHを迎えて
1曲めから爽快なシンフォニックロックが全開の快作。久々にトマスの弾きまくりのキーボードが堪能できる。
グレン・ヒューズバンドのメンバーでもあるJOCKEのギターもなかなか素晴らしく、
また二人の女性Voも効果的に楽曲を彩っていて、いいアクセントになっている。
サウンド的にはむしろフラキンの近作よりも分かりやすいので、曲は長いが初心者の方にも勧められる。
ソロ作というよりは、むしろ“作り込まれたシンフォ大作”というべき見事な作品だ。
シンフォニック度・・8 爽快度・・8 フラキンよりも聴きやすいかも度・・9 総合・・8.5
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MAGIC PIE Circus of Life」
ノルウェーのシンフォニックロックバンド、マジック・パイの2nd。2007作
前作がメロディアスにしてテクニカルな傑作だったので、今作も期待していたが、
なんとのっけから45分の一大組曲。人生のサーカスというテーマのもと、
メロディックな叙情を聴かせつつ、ときにテクニカルにたたみかける、濃密な大曲だ。
このバンドのサウンドには、美しいメロディの中にもどこかとぼけた味わいや哀愁があり、
人間味を感じさせる知的さと確かな演奏力、そしてセンスとが備わっているのが素晴らしい。
二人の専任ヴォーカルのやわらかな歌声や、キャッチーなコーラスワークも心地よく、
そこにハードシンフォニック的な構築性と展開力が合わさった、これぞまさに力作。
メロディアス度・・8 テクニカル度・・8 構築度・・9 総合・・8
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BRIGHTEYE BRISON 「BELIEVERS & DECEIVERS」
スウェーデンのシンフォニックロックバンド、ブライトアイ・ブライソンの3rd。2008作
ツインキーボードを含む5人組で、キャッチーでやわらかなコーラスワークと、
ピアノとメロトロンが絡む、レトロめのプログレ感覚が組合わさったサウンドで、
前作同様にメロディアスなシンフォニックロックを聴かせてくれる。
今回圧巻なのは20分、34分という大曲で、これが素晴らしい出来。
心地よいヴォーカルメロディと適度にテクニカルな展開力で、
あくまでキャッチーな叙情を大切に構築される楽曲は、かつてのGENESIS
THE FLOWER KINGSなどを思わせるものもありつつ、さらに明快で抜けがよい。
メロディアス度・・9 シンフォニック度・・8 北欧度・・7 総合・・8
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◆アメリカ編

CAIRO
アメリカのネオプログレッシブバンド、カイロの1st。1995作
MAGELLANSHADOW GALLERYに続きMAGNA CARTAレーベルからデビューしたこのバンド、
サウンドはELP+YESという、少々あからさまな70年代プログレへのオマージュといってよい内容で、
新鮮味にはやや欠けるが出来はよい。10分近い曲がほとんどの大作志向で、もろYES風の爽やかな雰囲気のAから、
ギターのメロディセンスが映えるSHADOW GALLERYを思わせるプログレメタリックな作風のB、
ELP的なハモンドに、ギターが絡むCなど、どれもセンスよくまとめられクオリティの高さで聴かせる。
ラストの22分の大曲“現代版TARKUS”という感じで、イエス的な歌メロや美しいピアノなど、聴き所も多い力作。
メロディアス度・・8 シンフォニック度・・8 YESにELPです度・・8 総合・・8
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SPOCK'S BEARD 「X」
アメリカのメロディアスプログレバンド、スポックス・ビアードの5th。2000作
のっけから16分の大作、小曲を3つはさんで27分の大曲という構成で、
よりシンフォニックロックとしての本格的な作品にこだわったという印象の傑作。
ニール・モーズ節ともいうべきキャッチーなメロディや、曲展開のすべてにおいて
堂々とした吹っ切れが見られ、バンドの絶頂期はこうあるべきという力強さに溢れている。
70年代テイストのハモンド・メロトロンのキーボードサウンドはやわらかな歌メロとともに、
郷愁に満ちた古き良き音を感じさせ、最近のバンドとは一線を画した暖かな叙情が胸を打つ。
メロディアス度・・8 シンフォニック度・・8 楽曲・・8 総合・・8
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ECHOLYN 「mei」
アメリカのプログレバンド、エコリンの6th。2002作
90年代初等から活動する玄人好みのこのバンド、今作は全1曲49分というアルバムで、
のっけからいつになく美しいイントロで、壮麗な雰囲気でじわじわと始まってゆく。
やがて鳴り響くハモンドに、マイルドなヴォーカルメロディが加わり
エコリン節ともいうべきキャッチーかつテクニカルなサウンドが繰り広げられる。
曲が長いだけにゆるやかな盛り上がりと展開を何度も繰り返しながら、
ときにSPOCK'S BEARDDREAM THEATERすらも思わせる構成力と叙情性で
聴き手をぐいぐいと惹きつけてゆく。ドラマティックさの点では最高傑作と言っていい出来だ。
メロディアス度・・8 プログレ度・・8 ドラマティック度・・9 総合・・8
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NATHAN MAHL 「HERETIK VOLUME V」
カナダのテクニカルシンフォプログレバンド、ネイサン・マールの5作目。2002作
「HERETIK」シリーズ三部作の完結編で、本作はなんと全一曲54分という気合の入った構成。
今回もほぼオールインストで、変拍子リズム込みの軽快でテクニカルな演奏を全編で堪能出来る。
HAPPY THE MANにも通じる切れ味にELPばりに弾きまくりのキーボードによる楽曲は
あきれる程にコテコテでありながらも、やはりこの手のプログレ者には受けることだろう。
テクニック、メロディセンスともによろしいのであるが、50分も続けてこれを聴かされると
なんだか自分が本当にプログレを好きなんだか疑問をもってくるような気もしないでもないが。笑
これをちゃんと聴き込む時間と体力があるリスナーにとっては、テクニカルシンフォとしては必聴クラス。
メロディアス度・・7 テクニカル度・・8 コッテリ50分1曲度・・10 総合・・8
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GLASS HAMMER 「The Inconsolable Secret」
アメリカのシンフォニックロックバンド、グラス・ハマーの8th。2005作
今回のジャケはロジャー・ディーンその人。Yesをリスペクトする彼らの夢がついに叶ったということか。
CD2枚組、計100分弱という本作は、これまでになく70年代風の質感を増した雰囲気で、
ELP風のキーボードにYES風コーラスワークなど…それらを現代のシンフォ感覚で構築し直したという作風。
大曲における密度は、傑作「CHRONOMETREE」あたりに比べるとやや薄いが、
その分ゴリ押しではないゆるやかな叙情とキャッチーなメロディアスさが際立っていて、
音色豊富なキーボードワークと美しいストリングス、それに女性コーラスに混声合唱などが合わさり、
壮大かつマイルドなシンフォニックロックを形作っている。ゆったりと聴ける大作です。
シンフォニック度・・8 ゆるやかに壮大度・・9 キーボー度・・8 総合・・8.5
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NEAL MORSE Lifeline
アメリカのシンフォニック職人、ニール・モーズのアルバム。2008作
SPOCK'S BEARD脱退後も良質なアルバムを出し続け、これが早くも5作目となる。
サウンドの方は、相変わらずドラマティックなプログレ、シンフォニックで、
メロトロンの音色を含めてレトロかつきらびやかなシンセワークを中心に、
キャッチーな歌メロと、ときにProgMetal的なテクニカルさも見せつける。
今作もドラムを叩くのはマイク・ポートノイで、やはり随所にDREAM THEATER的な雰囲気もある。
タイトルからして命綱を伝って生還するというようなコンセプトがあるのだろうか。
ラストは感動的に盛り上げる。ともかく28分の大曲も含めて濃密なシンフォニックロック作だ。
シンフォニック度・・8 テクニカル度・・8 安心クオリティ度・・9 総合・・8
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TRANSATLANTIC 「Whirlwind」
ニール・モーズ、マイク・ポートノイ、ロイネ・ストルトらによるスーパーバンド、トランスアトランティックの復活作。2009作
前作から8年の歳月を経て、あのメンバーたちが再び集結。なんと77分全1曲という驚異の作品となった。
12パートに分かれた長大な楽曲は、ゆるやかなメロディで上昇と下降を繰り返しながら、しだいにドラマティックに展開してゆく。
マイク・ポートノイの細やかなドラムと安定したリズムを土台に、ピート・トレワバスのベースの存在感もこれまで以上に光っていて、
渋みを増したロイネのギターが合わさると、まさに鉄壁のケミストリーというべきグルーブ感が曲を支配する。
キャッチーな歌メロとコーラスワークに、古き良きプログレのレトロさを、時代に流されない人間味のあるロックサウンドに
作り込んだ、見事な力作であろう。ただし、シンフォニックな盛り上がりは後半からなので、
即効性を求める気の短いリスナーには向かないのだが、この感動的なラストはぜひ味わって欲しい。
メロディアス度・・8 プログレ度・・8 ドラマティック度・・9 総合・・8.5
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