レトロなるヴィンデージロック
  
〜現代からの70年代風味の再構築〜



昨今、北欧を中心にレトロな音を聴かせるバンドがにわかに増えている。
人気のANEKDOTENを筆頭に、PAATOS、BLACK BONZO、BEARDFISHなど、彼らのサウンドは、現代のシンフォニックロックの構築性を持ちながら、
あえて古めかしい音作りをするという手法をとっているのが特徴だ。キーワードとなるのはメロトロン、ハモンドオルガン、である。
これらのアナログシンセ、そしてオルガンの音色は、デジタルなシンセサイザーよりも温かみのある音が特徴で、プログレのリスナーを中心にして今なお根強いファンが多い。
クリムゾン的なメロトロンとか、70'ブリテイッシュ風のハモンドと聞いただけで、よだれを垂らすようなコアな音楽リスナーも少なくはないのではないか。

北欧からANGLAGARDやANEKDOTENが登場したときにも、メロトロンを弾き鳴らすその懐古主義的なサウンドと、薄暗い叙情美がディープなリスナーの心をつかんだわけで
(ANGLAGARDは解散してしまったが)、現在のANEKDOTENの人気ぶりはご存じの通り。

ここでは、そうしたレトロな音楽性を現在においてもあえて追求している、いわば70's風の音を再現するヴィンデージ系プログレバンドを紹介してみたい。

                             緑川 とうせい



◆北欧から懐古主義の幕開け

LANDBERK 「Riktigt Akta」
スウェーデンのプログレバンド、ランドベルクの1st。1992作
のっけから古めかしいメロトロンの音が鳴り響き、やわらかでもの寂しい叙情が溢れてくる。
いかにも北欧的なギターフレーズも、繊細なピアノの音も、この70年風のレトロなサウンドを
作りあげる役割を果たすために存在し、決して派手に主張しすぎることはない。
ドラマティックな盛り上がりや展開力とは無縁だが、薄暗い北欧の雰囲気をゆったりと楽しめる点で、
ANGLAGARDANEKDOTENへとつながる90年代以降の北欧シンフォニックのスタイルを
地味ながらも確立した作品といってもよいだろう。レトロサウンドの標榜と懐古主義の先駆け。
シンフォニック度・・7 レトロ度・・9 北欧度・・9 総合・・7.5
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ANEKDOTEN 「vemod」
スウェーデンのプログレバンド、アネクドテンの1st。1993作
のっけからメロトロンの音色で始まり、続いてクリムゾン的なギターの重ねで
レトロな質感とともに、ヘヴィシンフォニックサウンドが始まってゆく。
この薄暗さと、ある種の終末的な雰囲気は、この後のバンドに大きく影響を与え、
懐古主義的な70年代へのオマージュとともに、北欧プログレの叙情性の指針ともなった。
バンドは2nd、3rdと、そのサウンドの密度を高めながら深化してゆき、現在では
もっとゆるやかな叙情美を追求してゆくことになるが、一聴してのインパクトの点では、
本作を最高作と挙げるファンも多いだろう。90年代北欧シーンの原点となる1枚だ。
シンフォニック度・・7 うす暗度・・9 北欧度・・9 総合・・8
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ANGLAGARD Epilog
スウェーデンのシンフォニックロックバンド、アングラガルドの2nd。1995作
北欧の90年代シンフォニックの先駆けとして2枚のアルバムを残したこのバンド。
叙情シンフォニックの傑作としては1st「Hybris」をとりますが、
クリムゾン的なメロトロンにハモンドが鳴り響くレトロロックとしてはこちら。
90年代以降のバンドらしいテクニカルな展開力を聴かせつつ、
後のANEKDOTENへと継承される懐古主義的な味わいもある。
フルートなど、静寂パートの美しさは息をのむほどで、
レトロプログレ云々という前に、北欧シンフォの名作といえるだけの出来だ。
シンフォニック度・・8 レトロ度・・8 メロトロン度・・8 総合・・8.5
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PAR LINDH PROJECT 「MUNDUS INCOMPERTUS」
スウェーデンのシンフォニックロックバンド、パル・リンダー・プロジェクトの2nd。1998作
ド級のシンフォ作だった1st「Gothic Impressions」に続く本作は、
女性Voを含む5人編成でのサウンドとなっていて、壮大さでは前作に及ばぬものの、
キーボードロックとしての躍動感がそなわった傑作といっていい。
ELPNICEのようにクラシカルなハモンドを弾き鳴らし、メロディに難解なところがなく、
聴いた瞬間からシンフォニックロックとして完全に楽しめるという点も大きな魅力だ。
曲を彩る女性Voや、メタルドラマー並に手数の多いツーバスドラムも聴きどころで、
これは北欧の90年代を代表するシンフォニックアルバムのマスターピースであろう。
シンフォニック度・・9 ダイナミック度・・9 ハモン度・・9 総合・・8.5
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PAATOS 「TIMELOSS」
スウェーデンのシンフォニックロックバンド、パートスの1st。2002作
LANDBERKのメンバーによる後進バンドという見方もできるこのバンド。
ANEKDOTEN的あたりを思わせるメロトロンがうっすらと鳴り響き、
少々サイケ風のキュートな女性Vo(チェロ奏者兼)が歌い出す。
静寂パートでは初期のWHITE WILLOW的な静謐感がただよっていて、
この寒々しい雰囲気は、やはり北欧からしか出て来ないようなサウンドだ。
ラストの大曲ではジャジーかつアヴァンギャルドな演奏が暴れだす。
シンフォニック度・・7 静寂叙情度・・8 北欧度・・8 総合・・7.5
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SWEDISH FAMILY 「VINTAGE PROG」
THE FLOWER KINGSトマス・ボーディンによるユニット、
スウェディッシュ・ファミリーのアルバム。2004作
“1969〜1979年に活動していた架空のバンドのベストアルバム”という面白い設定で
サウンドもその通り、ハモンドやムーグ、アコーディオンなどヴィンテージ楽器を使用した
70年代スウェーデン風のプログレ。ジャケも低予算風の紙ジャケというこだわり。
もの悲しくもなつかしいようなアコーディオンの音色や、所々に漂う土着性。
ゆったりとした叙情的な北欧70'sプログレが堪能できます。
シンフォニック度・・7 ほのぼの70's度・・9 北欧度・・9 総合・・8
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WOBBLER 「HINTERLAND」
ノルウェーのシンフォニックロックバンド、ウォブラーのアルバム。2005作
活気づく北欧のシーンからまたしても70年代の香りを持った新人が誕生。
ミニムーグ、ハモンド、メロトロンの音色を掻き鳴らすレトロな北欧サウンド。
ELP的なハモンドに、ANGLAGARDANEKDOTEN的なゆるやかなメロトロンの叙情、
ほの暗さとしっとりとした質感を保ちつつ、適度にヘヴィで現代的。
単なる懐古主義サウンドというにはなかなか出来がよく、先述のバンドが好きなら聴いて損はない。
シンフォニック度・・7 レトロ度・・8 北欧度・・8 総合・・7.5
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METROGNOM 「Twangyluck」
ノルウェーのヘヴィプログレバンド、メトロノームのアルバム。2006作
若手の5人組で、メロトロンやハモンドオルガンを弾きならしながら、
初期ANEKDOTENをラフにしたような雰囲気で、レトロなプログレロックを聴かせる。
全4曲で64分という通り、楽曲は即興ぎみの演奏で押しと引きをまじえつつたたみかける。
手数の多いドラムをはじめ、演奏力もありバンドとしてのグルーブも感じられるので、
今後はさらに曲単位での聴かせ所を構築してゆくとよいだろう。
メロディアス度・・7 プログレ度・・7 レトロロック度・・8 総合・・7.5


◆70'sブリティッシュ懐古形

DEATHORGAN 「9 to 5」
スウェーデンのオルガンロックバンド、デスオルガンの1st。1995作
ギターレスのオルガントリオ+2人のVoという特異な編成が物語る通り、
レトロなハモンドオルガンの上にアグレッシブなVoが乗るという個性的なサウンド。
ヴォーカルは比較的ノーマル声と、低音デス声という割り振りで、
暴虐さをかもし出しつつも、やはりバックがオルガンなので音に硬質感はなく
愉快な雰囲気とともに、70'sブリティッシュ風のレトロな質感をかもし出している。
まるで1発ギャグ的なインパクトであるが、バンドはこの後2ndを出している。
メロディアス度・・7 ハモン度・・8 インパクト・・9 総合・・7.5
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The BLOOD DIVINE「Mystica」
イギリスのゴシックメタルバンド、ブラッド・ディヴァインの2nd。1997作
レトロなオルガンが鳴り響く、前作の作風がさらに押し進められ、浮遊感のあるサイケロック要素が強まった。
いかにも英国然とした薄暗い哀愁はそのままに、無駄を削ぎ落としたサウンドは
ゴシックというよりはむしろ、美しくはかない耽美なブリティッシュロックといっていい。
プログレ、ドゥーム、サイケ、ストーナーあたりの要素を雑多に取り入れながら
根底にはほの暗い美意識が感じられるそのセンスは、一聴して派手さはないが
ロックがロックであるということの意味を、あらためて感じさせてくれるようだ。
若いメタルリスナーよりも、むしろプログレ/70's英ロックのリスナーに勧めたい作品だ。
メロディアス度・・7 ゴシック度・・7 英国度・・9 総合・・7.5
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green carnationBlessing in Disguise
ノルウェーのプログレ・ゴシックメタルバンド、グリーン・カーネーションの3rd。2003作
すごいバンドだ。前作では60分1曲という大作志向の力作を作り上げながら、
本作では一変してレトロなハードロック風味のサウンドにシフトしている。
ハモンドオルガンの音色とともに、古き良きブリティッシュロック的な質感と、
北欧の薄暗い叙情美が合体したような雰囲気が面白い。
ゴシックメタルとしては聴かない方がいい。むしろプログレリスナーにお勧めしたい。
メロディアス度・・8 メタル度・・7 レトロ度・・8 総合・・8
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TRETTIOARIGA KRICET 「ELDEN AV AR」
スウェーデンのハードプログレバンド、トレッティオアリガ・クリケットのアルバム。2004作
70年代後半〜80年代に2枚のアルバムを残したこのバンドがなんと復活作を出した。
かつてを思わせるハード寄りのギターとブルージーな質感に
メロトロンなどの叙情を加えたサウンドで、母国語のヴォーカルが歌を乗せる。
古き良き70'ロック的な質感に加え、年季を経たバンドとしての温かみがあって、
プログレうんぬんというよりはレトロなヴィンテージロックとして楽しめる。
メロディアス度・・7 プログレ度・・7 北欧度・・8 総合・・8
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BLACK BONZO 「same」
スウェーデンのレトロ・プログレバンド、ブラックボンゾの1st。2005作
ユーライア・ヒープ、ディープ・パープルや、70年代のヴァーティゴ・レーベル系などを彷彿とさせる
レトロなプログレ・ハードロックサウンド。鳴り響くオルガンに、古き良き…というコーラスワーク。
URIAH HEEP的な英国然とした音と、北欧独特の時間の止まったような叙情性が合わさって
古くさいのだが間違いなく現在のサウンド…というなんとも不思議な雰囲気が楽しめる。
思い入れのあるヒープファンなどよりはむしろ、こだわりのない最近のリスナーに受けるかもしれない。
メロディアス度・・8 プログレハー度・・8 レトロ&懐古度・・9 総合・・8
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BLACK BONZO 「Sound of the Apocalypse」
スウェーデンのレトロ・プログレバンド、ブラック・ボンゾの2nd。2007作
わあっ、のっけからムーグとハモンドの音色が襲ってくるぅっ!!(笑)
モロURIAH HEEP的な70'sブリティッシュサウンドを聴かせた1stから
基本的には同一路線ながら、今回はJETHRO TULLっぽい雰囲気も取り入れている。
やたらとキャッチーな歌メロに、わざわざ古くささをかもしだすかのようなギターフレーズ、
そして鳴り響くハモンドオルガンには、おじさんロッカーはたまらないものがあるだろう。
ここまでくると、いっそ紙ジャケで英ヴァーティゴレーベルから出してほしい気さえする(笑)
シンフォニック度・・7 プログレ度・・7 たまらなくレトロ度・・9 総合・・8
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BEARDFISH Sleeping in Traffic:Part One
スウェーデンのプログレバンド、ビアードフィッシュの3rd。2007作
2枚組の2ndに続く本作では一聴して音のダイナミズムが増している。
70年代を思わせる懐古的なロックを基盤にしているのは前作と同じだが、
北欧的な叙情が増して、メロトロンなどもより効果的に使われるようになった。
曲におけるメリハリのつけ方や、聴かせ所をしっかりと盛り上げることで
サウンドと楽曲の説得力が増して、聴いていてぐいぐい引き込まれる。
ブリティッシュハードロック的なヘヴィさと、ブルージーでサイケな質感を
上手に北欧プログレの要素にくるめて作り上げたセンスが光っている。
メロディアス度・・8 レトロロック度・・8 北欧度・・8 総合・・8
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BEARDFISH 「Sleeping in Traffic:Part Two」
スウェーデンのシンフォニックロックバンド、ビアードフィッシュの4th。2008作
今作もハモンドなどを掻き鳴らし、70's英国ロック風の演奏はより深みを増しており、
やわらかなメロディをまじえながら、ほんのりと北欧風味も忘れないのが見事。
しかし、このレトロなセンスは、その本気ぶりもさることながら、
ロックとしてのグルーブ感がしっかり曲を支えているのもなかなか素晴らしい。
これはもはやオルガンロックの傑作といってもよいほどだが、よくよく聴けば、
ちゃんと現代的な構築性を持っているので、決して古くさいだけではないのである。
最後には35分の大曲が待ち構えていて、これが大変な力作だと知れる。
メロディアス度・・8 オルガン度・・8 70'sレトロ度・・10 総合・・8
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WATERCLIME 「Astral Factor」
フォークメタルバンドVintersorgのメンバーによるバンド、ウォータークライムの1st。2006作
ギター、ベース、ヴォーカル、シンセを独りでこなす、Mr.VことAndreas Hedlund氏による
個人プロジェクトで、サウンドはハモンド、メロトロンなどが鳴り響くレトロな70'sロック調の質感と、
Vintersorgでも聴かせる独特のマイルドな歌声に土着性を感じさせるメロディが特徴。
全体的にメタル色は薄く、古き良きブリティッシュロックを思わせるような、牧歌的な雰囲気だ。
ドラムは打ち込みながら、ゆるやかなギターワークとシンフォニックなシンセ類の絡みもセンス良く、
むしろVintersorgよりも叙情美は上で、プログレ、シンフォリスナーの耳にはとても心地よい音だろう。
メロディアス度・・8 メタル度・・3 レトロ&牧歌的度・・9 総合・・8
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The Carpet Knights 「According to Life」
スウェーデンのプログレバンド、カーペット・ナイツのアルバム。2009作
ヴィンデージロックの盛んなスウェーデンからまたしてもレトロなバンドが登場。
鳴り響くフルートに、70年代的なギターで聴かせる、サイケロック風味のサウンドは
JETHRO TULLを思わせるブルージーな味わいもあり、シンセがない分だけ生々しさがある。
曲によってはメロトロン抜きのANEKDOTENという雰囲気もあり、レトロロック好きはもちろん、
サイケやストーナー好きの方にも楽しめるだろう。じつは結成は1998年で本作は6作目らしい。
メロディアス度・・7 プログレ度・・7 レトロ度・・9 総合・・8
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LUCIFER WAS「The Crown of Creation」
ノルウェーのヴィンテージロックバンド、ルシファー・ワズのアルバム。2010作
結成は70年代でありながらいったん解散し、1997年に復活したというこのバンド、
本作はフルートやハモンド、メロトロンなどを使用したレトロなサイケプログレに、
男女ヴォーカルとオーケストラ入りのロックオペラ的な壮大さを付加した、異色の力作だ。
2部構成に分かれたシアトリカルな大作主義と、決して嘘くさくないヴィンテージロック感覚、
そこに優雅なクラシカルさが盛り込まれているのだから、濃密なことこのうえない。
大仰なレトロ系プログレとしても懐古的なシンフォニックロックとしても楽しめる。
シンフォニック度・・8 レトロプログレ度・・8 ロックオペラ度・・9 総合・・8
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Diagonal
イギリスのレトロ系ロックバンド、ディアゴナルのアルバム。2008作
今度はイギリスからものすごいバンドが登場した。メンバー7人中、3人がギターを弾き、
6人がシンセをこなすというから、懐古主義的サウンドでありながらも音の厚さがすごい。
70'sブリテイッシュハードロック風のギターにメロトロン、オルガンが重なり
Atomic Roosterもかくやというアンサンブルでたたみかけつつ、ときに美しいピアノや
サックス、クラリネットなども入ったりして、節々にはどこかポストロック的な壮大さもある。
抜けきらない音質もひどくアナログ的で、生々しいドラムの音などはある意味たまらない。
全5曲が10分前後の大曲というレトロプログレの力作。マイスペはこちら
メロディアス度・・7 プログレ度・・8 レトロ度・・9 総合・・8
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SIENA ROOT「Different Realities」
スウェーデンのサイケロックバンド、シエナ・ルートの4th。2009年作
今作は25分の組曲が2曲という構成で、前作に比べてずいぶんプログレ風味が強まった。
70年代風味のアナログ感覚はそのままに、静かな叙情性とスケール感が増して
楽曲にはメリハリのあるダイナミズムがついてきた。そしてヴォーカルが女性となったことで、
メロウなやわらかみが北欧的な薄暗さとともに耳に心地よく響いてくる。
BEARDFISHあたりと比べると、よりサイケ気味の妖しい雰囲気が魅力である。
アルバム後半になると、パーカッションのリズムにフルートやシタールなどが乗る、
アコースティカルなトラッド&中近東サイケ風味も聴かせる。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 古き良き度・・9 総合・・8
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PORCELAIN MOON「...as it were.Here and there」
フィンランドのプログレバンド、ポルセライン・ムーンの2011年作
女性Vo、ツインギター、女性奏者を含むツインシンセを擁するの7人編成で、
オルガンが鳴り響くレトロな感触にハスキーな女性ヴォーカルの歌声とともに、
いくぶんサイケロック気味の浮遊感もあるサウンド。かっちりとした構築性よりも
古き良きロックのユルさ、アナログ感のある音なので、一聴したインパクトはないが、
Curved Airなど70'ブリティッシュロック的な聴き心地でゆったりと楽しめる。
メロディアス度・・7 女性Vo度・・7 オルガン度・・8 総合・・7.5
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PAIN OF SALVATION「Road Salt One」
スウェーデンのプログレメタル、ペイン・オブ・サルヴェイションの2010年作
ミニアルバム「linoleum」で聴けた、レトロ風味のロック路線の延長にある作品。
生々しいギターといいプログレ的なオルガン、ピアノといい、アナログ的な古めかしさの上に乗せる、
ダニエル・ギルデンンロウの歌唱は、いよいよその表現力を増し、魂の叫びというべき情感と哀愁、
ストレートな曲調の内側にあるひどく繊細なものを、絶妙に集約して聴き手に届けてくる。
結局ロックとはテクノロジーではなく、作り手の生の心を描き出した結果の保存物なのだと、
この作品は教えてくれるようだ。ブックレットのアートな写真もまた素晴らしい。
メロディアス度・・7 内的情感度・・9 古き良きロック度・・9 総合・・8
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OPETH「Heritage」
スウェーデンのプログレッシブデスメタル、オーペスの2011年作
ちょうど10作目となる本作は前作でも聴かれた70年代プログレの要素を前面に出した異色作となった。
やわらかなピアノの音色に導かれ、レトロなオルガンの響きをバックにアナログ的なギターリフが
リズミカルなアンサンブルを描き出す。ミカエルの歌声も70年代英国ロックを意識したような、
ジェントルでやわらかな感触だ。楽曲には70'sプログレ、サイケロックの怪しさもぷんぷん漂う。
静寂の中の張りつめた空気、メロトロンも鳴り渡る、KING CRIMSONもかくやという静かなダイナミズム…
とくにドラム、ベースはじつに生々しいサウンドで、70年代ロックを好む人間にはたまらないだろう。
このバンドの美意識とこだわりが、究極的なレイドバック作品を作り上げた。LPで聴きたくなる。
ドラマティック度・・8 メタル度・・6 70'sプログレ風味度・・9 総合・・9
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CATHEDRAL 「The Guessing Game」
英国のドゥームメタルバンド、カテドラルの9th。2010作
今作はCD2枚組の大作で、前作から兆しのあったプログレ的な質感を押し進めた作風で、
シンセの使用度が増している。広げると輪廻転生を思わせる壮大なアートワークとともに、
コンセプチュアルな香り漂う雰囲気に、レトロなヴィンテージロック調のやわらかみがある。
うっすらとしたメロトロンの響きも含めて、これまで以上にアナログ感覚をまとわせたサウンドは、
ドゥーミーなヘヴィさよりもむしろサイケロック的な浮遊感が強まっていて、
これは70'sロック、プログレのリスナーなどにも大いにアピールするだろう。
メロディアス度・・7 サイケ・プログレ度・・9 英国度・・9 総合・・8
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◆アメリカのヴィンテージ野郎

BIGELF 「Closer to Doom」
アメリカのハード・プログレバンド、ビッグエルフの1st。1996作
ジャケからしてすでにヴィンテージの香りプンプンですが、音の方もメロトロンやハモンド、
ミニムーグなど、レトロなシンセを取り入れた70年代サウンドで、URIAH HEEP
DEEP PURPLEなどを思わせる点で言うと、今のBLACK BONZOの先駆けか。
それにメンバーの顔やファッションなどもどことなく70年代風だし(笑)
たっぷりと使用されるメロトロンの音色には、ANEKDOTENなどが好きなプログレファンにも受けそう。
メロディアス度・・7 プログレ度・・7 70'sレトロサウン度・・9 総合・・8
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BIGELF 「HEX」
アメリカのヴィンテージロックバンド、ビッグエルフの3rd。2003作
本作から、リーダーであるDamon Fox以外のメンバーが変わり、4人編成となった。
サウンドの方は前作からの延長だが、音の厚みが増していて、
ギターのヘヴィさも加わって、ドライブ感のあるアンサンブルで聴かせる。
楽曲におけるメリハリもついていて、バックで鳴り響くメロトロンの叙情に、
歌メロにも印象的なメロディラインが増えたことで、飽きずに楽しめる。
バンドとしてのスケール感も出てきて、単なるレトロな懐古サウンド以上の出来だ。
メロディアス度・・8 レトロロック度・・9 メロトロン度・・8 総合・・8.5
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ASTRA 「The Weirding」
アメリカのプログレバンド、アストラのアルバム。2009作
リヴァイバルブームやレトロな懐古主義が広まる中で、またしても凄いバンドが登場。
なにやらJethro Tullのようなフルートが鳴りつつ、曲が始まると、こもり気味のドラムを含めて
まるでスタジオで一発録りしているような音質にまたにやり。サイケかがった浮遊感に
メロトロンやオルガンもたっぷりと鳴らしつつ、70年代英国風味のレトロロックを繰り広げる。
曲はどれも長いのだが、古めかしいファズギターの音色とともに演奏の力の抜け具合が耳に心地よく、
ときに二台の音色が重なる美しいメロトロンの響きに耳を傾けつつ、まったりとした気分で聴けてしまう。
メロディアス度・・7 アナログ度・・8 レトロ度・・9 総合・・8
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Somnambulist
アメリカのプログレバンド、サムナンビュリストの1st。1996作
メロトロンやハモンドの鳴り響くヘヴィめのテクニカルプログレで、とても良い。
クリムゾン的な構築性を有しつつも、メロディはアメリカらしく意外にキャッチーで、
よりやわらかみの増した2ndに比べ、こちらは硬質感がまだ残っている所が、
このバンドの演奏力とセンスをいっそうくっきりさせている感じがする。
レトロなプログレ要素を90年代風のアレンジで再構築しているのが見事だ。
そして、変態的な混沌の中に希望の光が見えるような(分かる?)曲構成も素晴らしい。
けっこうメロディアス度・・8 プログレ度・・9 メロトロン度・・8 総合・・8
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SPOCK'S BEARD 「The Kindness Of Strangers」
アメリカのプログレバンド、スポックス・ビアードの3rd。1998作
ポップさと古き良きプログレマインドを融合させたサウンドは1stから変わらないが、
今作は10分台の曲も3曲入れるなど、彼らの本領がいよいよ発揮されたアルバムになっている。
爽やかで、優しい歌メロと、テクニカルさをひけらかさず、あくまで自然体なバックの演奏が一体となり、
独特の「新しき懐古主義」ともいうべきサウンドを構築している。
この肩の力の抜け具合はもはや年季の入ったベテランバンドのそれで、
ただ盛り上がるだけの昨今のシンフォバンドとは明らかにスタンスが違う。
力まず、身構えず、心地よく聴けるメロディアスなプログレアルバムである。
メロディアス度・・8 ホップ度・・8 楽曲・・8 総合・・8
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Deadwood Forest 「MELLODRAMATIC」
アメリカのプログレバンド、デッドウッド・フォレストのアルバム。2000作
ANGLAGARDのメンバープロデュースしたバンドだが、
その特徴はなんといってもメロトロン。ほぼ全篇で鳴っている!
曲調は陰鬱さとメロディアスさが同居したレトロな感触の北欧風のサウンドで、
やはり、アングラガルドやANEKDOTEN的といえる部分もあるが、
そこまでの構築性はなく、どちらかというと少しラフでほんわかとした印象。
曲そのもののクオリティ、アレンジの密度が上がれば、さらに音の説得力が増すはず。
メロディアス度・・7 メロトロン度・・9 薄暗度・・ 総合・・7.5

IZZ 「my river flows」
アメリカのプログレバンド、イズの3rd。2005作
一聴するとシンプルなロック化したような雰囲気もあるが、ECHOLYNの近作などと同様、
よくよく聴けば
リズムのひねくれ方や細かなアレンジには唸らされる部分が多い。
リフとメロディを使い分けるギターのバックにはレトロな質感をかもしだすキーボードの音色、
テクニックのあるドラムのプレイも見事で、ぐいぐいと演奏でたたみかける場面もある。
キャッチーなコーラスワークの奥には、むしろイギリス的な叙情も垣間見せたりと、
さらりとしているようで聴き所は多く、見方によってはSPOCK'S BEARDを超えているとも。
ラストは20分の大曲で、ゲスト(?)の女性ヴォーカルも登場するなど、ドラマティック聴かせる。
メロディアス度・・7 プログレ度・・8 演奏センス度・・9 総合・・8

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The Tea Club「Rabbit」
アメリカのプログレロックバンド、ティー・クラブの2010年作
メンバーが一人増えて4人になり、ゲストにシンセ奏者を加えたことで、
前作よりも音の厚みが増し、シンフォニックといってもよいサウンドになった。
70年代風味のレトロさと、Porcupine Treeに通じる薄暗系ロックのセンスが合わさり、
クリムゾンやANEKDOTEN的な叙情プログレとして楽しめる音像である。
楽曲的なダイナミズムが強まったことで、適度な緊張感も出てきた。
メロディアス度・・8 プログレ度・・8 薄暗叙情度・・8 総合・・8
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Black MountainWilderness Heart
カナダのヴィンデージロックバンド、ブラック・マウンテンの3rd。2010作
映画「スパイダーマン3」のサウンドトラックへも楽曲提供するなど、
いまやカナダを代表する若手ロックバンドとなった彼らだが、
本作も70年代テイスト全開のサウンド。この手のバンドにしては珍しい
男女ヴォーカルの歌声と、オルガンやうっすらとメロトロンまで使い
絶妙なユルさと、オールドなブリティッシュロックの雰囲気を再現している。
アコースティカルな部分は英国フォーク的な情緒もあり、その筋のリスナーにも対応。
どう聴いても現代のバンドとは思えない、天晴れなまでのレトロロックです♪
メロディアス度・・8 プログレ度・・7 70'sブリティッシュ風度・・9 総合・・8
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Blood CeremonyLiving With the Ancients
カナダのヴィンデージロックバンド、ブラッド・セレモニーの2011年作
前作は70年代サバスの女性Vo版というイメージで、なかなか気に入っていたが、
本作もアナログ感覚たっぷりの時代的なサウンドを聴かせてくれる。
古き良きギターリフと温かみのあるフレーズに、ヘタウマな女性ヴォーカルの歌声が重なり、
オルガンにフルートも入ったプログレ的な質感もあって、ストーナー化したJACULAというか、
むしろヴィンデージ・プログレ的に楽しめたりする。妖しいアングラ臭さもそのままだが、
今作ではよりメロディアスな聴き心地がよろしい。古めかしさに和みます。
メロディアス度・・8 アンダーグラウン度・・8 70'sレトロ度・・10 総合・・8.5
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Fleet FoxesHelplessness Blues
アメリカのフォーク・ロックバンド、フリート・フォクシーズの2011年作
前作はデジパックだったが、ついに紙ジャケとなった。モノクロのメンバー写真も含めて
すべてが70年代的なパッケージとなり、サウンドの方もいよいよ古き良き牧歌的な
フォークロックサウンドに磨きがかかっている。アコースティックな優しさと
ゆったりとした聴き心地は、たとえばHERONのような、あの頃の英国フォークを思い出させ、
その時代錯誤にも思えるヒッピー的ともいうべきラブ&ピースの精神が、
のんびりとした音の中に見え隠れする。やわらかでレトロなフォークアルバム。
メロディアス度・・8 アコースティック度・・8 のんびりフォーク度・・8 総合・・8
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◆イタリアでもヴィンテージの復活

STANDARTE 「Curses and Invocations」
イタリアのプログレバンド、スタンダルテの2nd。1996作
1stの時点から、ジャケといいハモンドを使ったレトロなサウンドといい、
70年代ブリティッシュロックへのオマージュ的なことをやっていたバンドだが、
今作ではギターをほぼ使わず、その分メロトロンの使用頻度が上がったことで
シンフォニックな質感が増した。相変わらずやりすぎなほどにレトロさにこだわったサウンドは、
鳴り響くハモンドオルガンとメロトロン、ハープシコードまで加わって、その説得力を増している。
イタリアのバンドにしては珍しく、わざわざ英語で歌っているのもこだわりなのだろうが、
それでも音にはどことなくイタリア臭さが残っているのがむしろ微笑ましい。
シンフォニック度・・8 70'sレトロ度・・9 イタリア度・・8 総合・・8
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FINISTERRE PROJECT 「HOSTSONATEN」
イタリアのシンフォニックロックバンド、フィニステッレ・プロジェクトの1st。1996作
バンド名義であるFINISTERREの方もレトロな質感で聴かせるサウンドだか、
サイドプロジェクトであるこちらは、ジャケットのギュスターブ・モローの絵画が示す通り、
ヨーロピアンなほの暗い情緒をかもしだす、さらなる凝り性のシンフォニックロック作だ。
たおやかなフルート、ピアノ、メロトロンといった、いかにも懐古主義的なサウンドは、
ときおり聴かせるメロウなギターフレーズと相まって、耳にしっとりとやさしく響く。
しかし古めかしいだけでなく、メロデイそのものにはちゃんと魅力があるので、
41分の組曲を含めて、リリカルかつ幻想的な叙情美を満喫できる質の高い作品となっている。
シンフォニック度・・8 懐古ロマン度・・10 たおやか情緒度・・9 総合・・8

LA TORRE DELL' ALCHIMISTA
イタリアのプログレバンド、ラ・トッレ・デル・アルケミスタの1st。2001作
「錬金術師の塔」というバンド名通り、古きよき幻想を現代で蘇らせたようなサウンド。
これはまさに70年代のBANCOCORTE DEI MIRACOLIのように
あのころのイタリアをそのまま音にしたようなバンドである。
叙情的なキーボードにフルートはもちろんサンプリングなどではなく生楽器、
ハモンドやメロトロンまでちゃんと本物を使うというこだわりよう。
バンコほど攻撃性がなく、しっとりとしたイタリア的叙情が満喫できる。
メロディアス度・・8 ハモン度・・9 70'sイタリア度・・10 総合・・8
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LA MASCHERA DI CERA
イタリアのプログレバンド、ラ・マスケーラ・ディ・チェラの1st。2002作
FINISTERREのメンバーを中心に、70'sイタリアンヘヴィプログレの再現を目指して
結成されたバンドで、音の方も最初の1曲で“あの頃”のレトロな空気が蘇るかのようだ。
薄暗いメロトロンをバックに、叙情的なフルートの音色にイタリア語の歌唱。
ムゼオ、オザンナ、オルメ、といったバンド名が脳裏に思い浮かぶようなサウンドに
鳴り響くオルガン、ムーグの音にはおじさんプログレファンは感涙だろう。
あまりに確信犯すぎるものの、曲としても充分よく出来ているため、
ほとんど本当に70年代の未発掘バンドの音源かとも錯覚したくなるほどだ(笑)
メロディアス度・・8 イタリア度・・9 黄金の70's度・・10 総合・・8
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