プログレ・ジャズロック大特集〜ジャズロックの過去から現在



1964年に、イギリス、カンタベリー地方で結成された、The Wilde Flowersには、ケヴィン・エアーズ、ロバート・ワイアット、
ヒュー・ホッパー、リチャード・シンクレアをはじめ、のちのSOFT MACHINECARAVANを結成するメンバーが在籍していた。
かれらを中心に、デイヴ・スチュアート、スティーヴ・ヒレッジ、マイク・オールドフィールド、アラン・ホールズワースといった
名うてのミュージシャンたちが交流し、それぞれのバンドを結成しながら、いわゆる、カンタベリー・ロックのシーンを形成してゆく。
初期のソフト・マシーンは、むしろサイケロック寄りのスタイルであったが、しだいに硬派なジャズロックへと深化をとげ、
後期にはフュージョン化してゆくのもまた興味深いし、キャラヴァンの「グレイとピンクの地」はいまなおカンタベリーロックの代表作とされるが、
ジャズロックという点では、むしろ次作「ウォータールー・リリー」の方が完成度は高く、必ずしも「カンタベリー=ジャズロック」という図式は成り立たない。
しかしながら、Hatfield and the NorthNational Healthといった、のちのカンタベリーロックのイメージを決定づけるバンドの登場により、
ジャズロックを基盤にしたスタイリッシュで優雅なサウンドは、数十年をへた現在においても引き続き人々に愛好されてゆくこととなる。
一方のフランスでは、クリスチャン・ヴァンデを中心としたジャズロックバンド、MAGMAが登場、コバイヤ語という独自の宇宙的概念の言語とともに、
壮大なスケール感と神秘的な雰囲気をまとった異色のサウンドは、ズール(Zeuhl)系と呼ばれる多くのフォロワーを生み出すことになる。
イタリアでは、地中海やバルカンの民族的な土着性をジャズロックに融合させたAREAや、超絶ドラマー、フリオ・キリコを擁するARTI+MESTIERIという、
個性的なプログレ・ジャズロックバンドが活躍。アメリカにおいては、凄腕ギタリスト、ジョン・マクラフリン率いる、Mahavishnu Orchestra
チック・コリアによる、RETURN TO FOREVERなど、ジャズとフュージョンを高度に融合させたサウンドが、ジャンルの壁を超えて人気を得る。
70年代を基盤に発展を遂げたジャズロックは、チェンバーロックやフュージョンとのクロスオーヴァーも含めて、いまなお深化を続けている。
ここでは、とくにプログレッシブロック寄りのジャズロックの傑作を、過去の名作から現在形のバンドにいたるまで優雅に特集してみたい。
                              2019.3. 緑川とうせい



■70年代英国のジャズロック〜カンタベリー系

Brian Auger & The Trinity 「StreetNoise」
イギリスの鍵盤奏者、ブライアン・オーガー率いる、トリニティの1969年作
女性シンガー、ジュリー・ドリスコールを迎えての2作目となる。鳴り響くオルガンは前作以上にプログレ的になり、
躍動感のあるアンサンブルとともに、ジャズとロックの境目をゆくような熱い演奏が繰り広げられる。
手数の多いドラムもほとんどロックのノリで、激しいオルガンがそこに重なると、NICEEL&Pにも近い感触すらある。
一方ではジュリーのハスキーな歌声で聴かせるナンバーも前作以上に魅力的で、張りつめた緊張感を含ませつつ、
ART BEARSばりにシアトリカルに歌い上げる2曲めなどは圧巻である。DOORSのカヴァーなども自分たちのアレンジにしていて、
LP時代は2枚組の大作ながら、どこを切っても勢いある演奏とテンションで、最後までぐいぐい耳を引きつけられる。
オルガンロックとしての躍動感と、優雅なジャズテイストを感性豊かに融合させたというべき大傑作である。
ジャズ度・・7 ロック度・・8 英国度・・9 総合・・8.5
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COLOSSEUM「Daughter of Time」
イギリスのジャズロックバンド、コロシアムの3rd。1970年作
前作「ヴァレンタイン組曲」がバンドの代表作として名高いが、本作もひけをとらないばかりか
演奏のテンションの高さに関してはむしろ上回っている。ジョン・ハイズマンの激しいドラムに、
クリス・ファーロウの歌声がかぶさり、デイブ・グリーンスレイドのオルガンが鳴り響き、
吹き鳴らされるサックスなどが一体となった、じつに熱いプログレ・ジャズロックを繰り広げている。
また楽曲におけるドラマティックな構築性はいかにも英国的な雰囲気をかもしだしていて、
単なるジャズロックの枠を超え、ブリティッシュロックとしての普遍的なスケール感も感じさせる。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 英国度・・8 総合・・8.5
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The Keith Tippett Group 「Dedicated to You, But You Weren't Listening」
イギリスのミュージシャン、キース・ティペット率いるバンドの1971年作
初期のKING CRIMSONにも参加したピアニスト。本作は2作目で、エルトン・ディーン、ニック・エヴァンス、
ロバート・ワイアットなどが参加。サックスやトロンボーンが鳴り響き、優雅なピアノを絡めた軽快なジャズロックを聴かせる。
ブラスが前に出ている分、ロック色は控えめながら、フリージャズ的な先の読めないスリリングな雰囲気が、
アヴァンギャルドなアートロック感触と混ざり合い、部分的にはクリムゾンにも通じる知的な叙情性を感じさせる。
ちなみにキースの奥さんは、Brian Auger & The Trinityに参加していたジュリー・ドリスコールである。
ジャズロック度・・9 プログレ度・・8 優雅度・・8 総合・・8
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SOFT MACHINE「THIRD」
イギリスのプログレ・ジャズロックバンド、ソフト・マシーンの3rd。1971年作
ロバート・ワイアット、ヒュー・ホッパー、マイク・ラトリッジの3人が中心となり、「THE」のとれた新たなバンドとしてスタート。
硬派なジャズロック的側面と、サイケがかったアヴァンギャルドな要素が交錯した濃密な作風で聴かせる。
エルトン・ディーンのサックスがメロディを重ねると、シリアスな構築型ジャズロックとしての整合感が現れる。
フリージャズ的な緊張感がサウンドの硬質感を高めていて、18分以上の大曲が4曲という凄い構成も含めて、聴き手をぐいぐい惹きつける。
2007年の再発盤には1970年のライブ音源を収録したボーナスDiscが付いていて、音質も良好な素晴らしいライブテイクとなっている。
ジャズロック度・・8 プログレ度・・8 硬派度・・9 総合・・8 
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SOFT MACHINE「6」
イギリスのプログレ・ジャズロックバンド、ソフト・マシーンの6th。1973年作
新たに鍵盤奏者としてサックスにオーボエもこなすカール・ジェンキンスが加入。
サックスに絡むエレピが美しく、また同時にフリーキーなジャズロックの中に
プログレッシブなスリリングさが戻ってきていて、雰囲気としてはわりと3rdにも近いか。
ライブ録音とスタジオ録音の混合という形は、バンドとしての不安定な模索を感じさせるが
その中で出てきた緊張感が上手く音に現れているという言い方もできるかもしれない。
これまで以上にテクニカルなリズムが強調され、最もプログレリスナーに楽しめるアルバムかもしれない。
ジャズロック度・・8 プログレ度・・8 硬派度・・8 総合・・8 
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CARAVAN「Waterloo Lily」
カンタベリー系を代表するバンド、キャラヴァンの4th。1972年作
前作を最後にデイブ・シンクレアが脱退、代わりにスティーヴ・ミラーが参加し、ジャズロック色が強まった作品。
「グレイとピンクの地」で聴かれた軽やかなアンサンブルと、ある種のキャッチーな聴きやすさは健在で、
パイ・ヘイスティングズのギターにリチャード・シンクレアのベースの存在感もさることながら、
スティーヴ・ミラーが弾く、ピアノ、オルガンを含めた鍵盤が活躍するインスト部分はとても魅力的。
10分を超える長曲2曲なども、適度に力みの抜けた音に余裕を感じさせる。
プログレ度・・7 ジャズロック度・・8 軽やか度・・9 総合・・8
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CARAVAN「For Girls Who Grow Plump in the Night」
キャラヴァンの5th。1973年作。邦題は「夜ごと太る女のために」
一般的には、3rd「グレイとピンクの地」が代表作とされているが、メロディの魅力という点では、こちらを最高作にしてもよいと思う。
キャッチーでややポップな歌メロを乗せた軽やかなアンサンブルに、フルートなどのたおやかな叙情性も含んだ、
耳心地の良さで、ときにシンフォニックロック的にも楽しめる。アルバムラストのオーケストラ入りの大曲も素晴らしい。
ジャズロックの優雅さとシンフォニックな美意識でスタイリッシュに構築された傑作だ。
メロディアス度・・8 プログレ度・・7 キャッチー度・・8 総合・・8
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MATCHING MOLE 「Little Red Record」
カンタベリーロックバンド、マッチング・モウルの1972年作/邦題は「そっくりモグラの毛語録」
2作目となる本作は、ロバート・フリップがプロデュース、脱退したデイヴ・シンクレアに替わり、デイヴ・マクレエが参加、
ロバート・ワイアットのソロに近かった前作に比べて、ジャズロック的なアンサンブルを強めたサウンドとなった。
躍動的なワイアットのドラムとフリーキーなフィル・ミラーのギターに、デイブ・マクレエのピアノとオルガンが重なり、
優雅でありながら、アヴァンギャルドな奔放さも感じさせるスリリングなサウンドで、ときにクリムゾンを思わせる部分もある。
いわばワイアットとフリップの世界観の融合というべき作品かもしれない。ブライアン・イーノがシンセでゲスト参加している。
メロディアス度・・7 ジャズロック度・・8 優雅度・・8 総合・・8
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Hatfield and the North
イギリスのジャズロックバンド、ハットフィールド・アンド・ザ・ノースの1st。1973年作
基本は上品で軽やかなジャズロックながら、リチャード・シンクレアの歌には、キャッチーなポップセンスがあり、
バックの高度な演奏をやわらかに緩和している。2、3分台の小曲を連ねつつ、8分、10分という大曲では、
ジャズロックの中にプログレッシブな質感と、幻想的な世界観を織り込んで聴かせてくれる。
デイブ・スチュワートの繊細なピアノ、オルガンワークも素晴らしく、美しい女性コーラスやフルートなども
じつに効果的に使われている。テクニカルな演奏力の中にも、やわらかみのある叙情が光る傑作だ。
ジャズロック度・・8 やわらか叙情度・・8 優雅で軽やか度・9 総合・・8
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EGG「The Civil Surface」
名鍵盤奏者、デイヴ・スチュワート率いる、エッグの3rd。1974年作
アルバム2枚を残していったんは解散するが、その後に本作を発表。2nd「優美な軍隊」で聴かれたアヴァンギャルドな作風を残しつつ、
そこにカンタベリー調のジャズロックが合わさった雰囲気で、NATIONAL HEALTHでも活躍する、デイヴのオルガンワークを軸に、
ピアノやフレンチホルンなどが楽曲にクラシカルな彩りを添える。優雅で上品な室内楽的な質感と、鍵盤ロックとしての勢いが混在し、
全体的には方向性にバラつきはあるが、スタイリッシュな楽曲アレンジはさすがだ。
クラシカル度・・7 プログレ度・・8 ジャズロック度・・7 総合・・8
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Quiet Sun「Mainstream」
イギリスのジャズロックバンド、クワイエット・サンの1974年作
ROXY MUSICのフィル・マンザネラを中心に、チャールズ・ヘイワード、ビル・マコーミックらが参加、
ジャズロック的なアンサンブルの上にエッジの立ったギターが重なり、
緊張感のあるインストサウンドを展開。やわらかなエレピの音色はカンタベリー的だが、
案外ヘヴィなギターワークがサウンドに攻撃的な迫力を生み出している。
一方ではフリーキーな感性によるアヴァンギャルドな感触も入り交じる。
ジャズロック度・・7 プログレ度・・8 アンサンブル度・・8 総合・・8
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Gilgamesh
イギリスのジャズロックバンド、ギルガメッシュの1st。1975年作
のちにNational Healthにも参加する鍵盤奏者アラン・ゴウエンを中心に結成されたバンド。
テクニカルでありながら、どこかユーモラスな旋律を含んだプログレ・ジャズロックで、
優雅なピアノやシンセを奏でるアラン・ゴウエンのセンスと、ときにメロウな叙情も含ませたギターが素晴らしい。
女性のスキャットヴォーカルも随所にやわらかな聴き心地となっていて、作品としての完成度はとても高い。
たとえばオランダのFOCUSにも通じるような、引き出しの多さと大人のアンサンブルが楽しめる傑作だ。
メロディアス度・・8 プログレジャズロック度・・8 優雅な叙情度・・8 総合・・8
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COLOSSEUMU「Strance New Flesh」
イギリスのジャズロックバンド、コロシアムUの1976年作
COLOSSEUM解散後、ジョン・ハイズマンはTempestをへて、新たに本バンドを結成、
当時はまだ無名のギタリストだったゲイリー・ムーアが加入して制作されたこのアルバムは、
ブリティッシュロックの名盤としてのみならず、テクニカルロックの元祖としても名高い傑作だ。
ジョン・ハイズマンの叩きだす強力なリズムに、ドン・エイリーのカラフルなシンセワークが乗り、
ゲイリー・ムーアのハードかつ叙情的なギターが合わさって、プログレッシブな構築性とジャズロックの優雅さに
ハードロックリスナーにも楽しめる重厚さ、そしてメロディが合わさった、まさに奇跡的な均衡をなしている。
メロディアス度・・8 プログレ度・・7 テクニカル度・・8 総合・・8
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Brand X 「Unorthodox Behaviour」
イギリスのジャズロックバンド、ブランド・エックスの1976年作
軽やかなフィル・コリンズのドラムに、技巧的なパーシー・ジョーンズのベースというリズム隊に
ロビン・ラムリーのエレピとジョン・グッドサルのギターが重なってゆく、インスト主体のテクニカルなサウンド。
手数の多い攻撃的なフィルのドラムはGenesisで見せるのは別の顔で、優雅さと技巧を併せ持つパーシーのベースと
バトルするようなアンサンブルは圧巻だ。硬派な演奏主義と、実力者らしい繊細な余裕を同居させたようなジャズロックの傑作。
メロディック度・・7 プログレ度・・8 テクニカル度・・8 総合・・8
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BRUFORD「Feels Good to Me」
イギリスのミュージシャン、ビル・ブラフォードのソロ。1977年作
ご存知、YESKING CRIMSONU.K.といったビッグバンドを渡り歩いた名ドラマー。
ソロ1作目の本作には、デイブ・スチュワート、アラン・ホールズワース、ジェフ・バーリンといった
名うてのプレイヤーが参加。テクニカルなアンサンブルで聴かせる、優雅なジャズロックに仕上がっている。
自身のドラムはもちろんのこと、ホールズワースの流麗なギタープレイに、デイブ・スチュワートのオルガン、
ジェフ・バーリンのベースもなにげに素晴らしい。女性シンガーのやわらかな歌声を乗せたナンバーなど、
アルバムとしてのメリハリもあって、演奏面での技巧のみならず楽曲やアレンジの面白さもあるのが見事。
ジャズロック度・・8 プログレ度・・7 優雅度・・8 総合・・8
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NATIONAL HEALTH
イギリスのジャズロックバンド、ナショナル・ヘルスの1978年作
Hatfield and the Northのデイブ・スチュワートとフィル・ミラー、GILGAMESHのアラン・ゴウエンを
中心に結成された、まさにカンタベリーシーンのスーパーグループともいうべきバンド。
軽快なリズムの上を、デイヴのオルガン、ガウエンのシンセが鳴り響き、テクニカルなインストを聴かせつつ
途中にはしっとりと美しいピアノに女性ヴォーカルも入ってきたりと、展開力も見せつける。
クラシックの要素もあったEGGをさらに優雅に繊細にしたという雰囲気もあり、
ジャズロックとしての名作という以上にメロディアスな美しさがあるのが素晴らしい。
メロディアス度・・8 プログレ度・・8 ジャズロック度・・8 総合・・8.5
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■70年代イタリアのジャズロック〜アレアとアルティ

AREA「Arbeit Macht Frei」
イタリアのジャズロックバンド、アレアの1st。1973年作
イタリアのみならず世界的に見ても、70年代でもっとも個性あるバンドのひとつであり、
そのサウンドは地中海とアラビックな土着性の融合ともいうべきもので、
躍動するリズムにはプログレとしての複雑さと、ロックとしてのダイナミズムも備わっている。
巧みな演奏力とアンサンブル、そこに乗るデメトリオ・ストラトスの力強い歌声もインパクト充分で、
このバンドの大きな個性となっている。また楽曲にはイタリアらしい混沌とした芸術性も感じられ
妖しげなフルートの響き、シンセの使い方などはプログレそのものである。濃密な傑作だ。
メロディアス度・・7 プログレ度・・8 躍動する演奏度・・9 総合・・8.5
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AREA「1978」
イタリアのジャズロックバンド、アレアの5th。1978年作
ブルガリアントラッド的に跳ねるリズムの上に、デメトリオ・ストラトスの強力な歌声を乗せ、
のっけからたたみかけるジャズロックサウンドは、まったくもってインパクト充分。
アコースティック楽器が主体であるのに、このパワーには圧倒させるばかり。
変拍子入りのテクニカルなキメをさらりとこなし、それでいてまとまりのある聴き心地があるのは、
ある意味で驚異的であるし、中近東やバルカンテイストを巧みに取り入れつつ、イタリア的な情緒を
そこに重ね合わせるセンスというのは、ちょっと他のバンドには真似のできない芸当であろう。
本作発表の翌年、デメトリオ・ストラトスの病死により、バンドは方向性を見失い、解散に至る。
それだけにこの作品の躍動ときらめきは、語り継がれる伝説となり、今なお輝き続けている。
メロディアス度・・7 ジャズロック度・・8 躍動する演奏度・・9 総合・・8.5
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ARTI + MESTIERI「Tilt」
イタリアのプログレ・ジャズロックバンド、アルティ・エ・メスティエリの1st。1974年作
本作はイタリアンプログレ、そして美しいジャズロックとしての最高傑作である。
フリオ・キリコの手数の多いドラムと、艶やかなヴァイオリンの音色、鳴り響くサックス、
プログレ的なシンセとともに、優雅でメロディックな聴き心地と、たたみかける勢いに満ちた
圧倒的なアンサンブルに引き込まれる。一方ではイタリア語の歌唱で聴かせる叙情性もあって、
プログレ性と技巧的なジャズロックのバランスのとれたサウンドである。2nd「明日へのワルツ」も必聴。
メロディアス度・・8 ジャズロック度・・8 構築度・・9 総合・・9
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ARTI+MESTIERI「GIRO DI VALZER PER DOMANI」
「芸術家と職人」を意味するバンド名をもつジャズロックバンド、アルティ・エ・メスティエリの2nd。1975年作。
イタリアンプログレ最高の名盤の1つ、「TILT」はまさに技巧の極地で驚異の出来であったが、
続く2ndではジャズ色を増し、歌も入って、楽曲的には多少落ち着きの出たものとなっている。
ただし。強烈無比のテクニックは健在で、特に伝説のドラマー、フリオ・キリコの手数の多さは変わらず、
ゆったりテンポの曲においても無駄とも思えるもの凄い手数で、やかましいほどに凄い。
メロディアスで緻密なアンサンブルは、切れ味鋭く聴くものの口をあんぐりとさせる。
もはやジャズロックというジャンルを超えた、幅広く全てのプログレファンが聴くべきクオリティ。
イタリアンロックの素晴らしさを知る入門用としては、PFMと並んでこのバンドが最適であろう。
メロディアス度・・8 技巧派ジャズロック度・・9 テクニカル度・・9 総合・・9
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ETNA「ETNA」
イタリアのプログレ・ジャズロックバンド、エトナの1975年作
イタリアといえば、超絶技巧ジャズロックバンドARTI+MESTIERIがまず有名だが、
このバンドは派手さではアルティに譲るものの、クオリティの面では充分互角に立ち合える。
非常に作りこまれた緻密な楽曲は、テクニカルで硬質な印象とともに緊張感に満ち、
4人のメンバーの完璧なアンサンブルが一体となって凄まじい音のテンションを形作ってゆく。
ギターが奏でるメロディの質感には時にハードロック色もあり、テクニカルハードのリスナーすらも
唸らせることうけあい。硬質系のイタリアンジャズロックとしては屈指の完成度の傑作です。
メロディアス度・・7 ジャズロック度・・9 テクニカル度・・9 総合・・8.5
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OSANNALandscape of Life
イタリアンロックバンド、オザンナの4th。1974年作
傑作「PALEPOLI」に続くアルバムであるが、前作での濃密で混沌とした土着性は薄れ
サックスの音色とともに、ジャズロック的でもある軽快なアンサンブルが強まっている。
それでも、うっすらとしたメロトロンの音色やイタリア語の歌声による叙情性は残っていて、
アコースティカルな部分とたたみかける勢いとのコントラスで聴かせるオザンナ節は健在。
プログレとしてのテクニカルさと軽快なジャズロック色に、イタリアの叙情が合わさった傑作です。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・8 イタリア度・・8 総合・・8
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Libra「Musica & Parole」
イタリアのプログレバンド、リブラの1975年作
アコースティカルにしっとりと始まりつつ、イタリア語の歌声にギターとシンセが絡み、
キャッチーなメロディとともに、ジャズロック的なテクニカルな演奏が繰り広げられる。
ベースのハネる感じがファンキーなノリをかもしだし、それがイタリアンロックの濃密さと上手く融合されているのが面白い。
音質も大変良好で、年代を考えれば非常に厚みのあるサウンドだろう。
一方では繊細な叙情美もあり、ピアノに乗せたしっとりとした歌を聴かせるシンフォ曲もGood。
楽曲のメリハリのつけ方はとても洗練されていて、素晴らしい演奏力とセンスが合わさった
非常に質の高い作品だ。これはイタリアの隠れた傑作といってもいいだろう。
メロディアス度・・8 プログレ度・・8 ファンク風ジャズロック度・・8 総合・・8
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Picchio dal Pozzo
イタリアのプログレバンド、ピッキオ・ダル・ポッツォの1976年作
イタリアのバンドにおいては珍しいカンタベリーからの影響を受けたジャズロックで、
メロディックなギターのトーンにサックスやフルートが絡むやわらすなサウンドは、
HATFIELD AND THE NORTHあたりに通じる質感だが、シンセの奏でる叙情性は
やはりイタリアならではのもの。1980年の2ndではより難解な作風になるが、
本作でも随所にアヴァンギャルドな感性が見え隠れする。楽しい1枚だ。
メロディアス度・・8 ジャズロック度・・8 イタリア度・・7 総合・・8
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NOVA「Vimana」
イタリアのジャズロックバンド、ノヴァの2nd。1976年作。
OSANNAのエリオ・ダンナと、元CERVELLOのコッラード・ルスティーチを中心に、
NEW TROLLSのレナート・ロセット、GENESISのフィル・コリンズも参加。
イギリスに渡ったイタリア人たちと、実力のあるメンバーたちによる演奏はさすがに見事で、
エリオのたおやかなフルート、サックスの音色に、コッラードのセンス溢れるギターワーク、
そこに軽快なリズムセクションが同居して、イタリアンロックとブリティッシュの不思議な融合がなされている。
上品でスタイリッシュなモダンさを有しつつも、メロディにはどこかイタリア特有の叙情が残っていて、
プログレッシブ系のジャズロック作としては希有なほどの上質なアルバムといえる。
メロディアス度・・8 ジャズロック度・・8 されどイタリア度・・8 総合・・8
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ESAGONO 「Vocolo」
イタリアのジャズロック、エサゴノの1976年作
ARTI E MESTIERIのベース、マルコ・ガレージらによバンドで、フルート、サックスが鳴り響き、
オルガンやピアノを含むやわらかな鍵盤を乗せたアンサンブルで、大人のジャズロックを聴かせる。
楽曲にはアルティほどの超絶な派手さはないのだが、ときにヴァイオリンも加わったり、
ムーグンセも鳴り響くプログレ的なアプローチも垣間見せる。ドラムはフリオ・キリコの弟子らしく、
手数も多くパワフルなプレイでバンドの屋台骨を支えている。全体的にも演奏のレベルは高く、
カンタベリー風の優雅さもあったり、玄人好みのジャズロックといえる。ARTI のジシ・ヴェネゴーニもゲスト参加。
ジャズロック度・・8 プログレ度・・7 イタリア度・・7 総合・・8
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Venegoni & Co.「Rumore Rosso」
イタリアのジャズロック、ヴェネゴーニ&カンパニーの1977年作
ARTI E MESTIERIのギタリスト、GIGI VENEGONIを中心にしたバンドで
アコースティカルなクラシックギターにパーカッション、やわらかなエレピ、シンセが重なる
優雅なジャズロックサウンド。アルティのようなあからさまなテクニカル志向ではないが、
よく聴けばリズムアンサンブルもけっこう凝っていて、玄人好みのサウンドが楽しめる。
サックスとエレピの掛け合いなど、カンタベリー風味の軽妙な聴き心地も魅力的で、
イタリア語のヴォーカルが加わると、AREAのような民族的な彩りも感じさせたりもする。
全体的には小曲集という趣で、強いインパクトはないものの、実力者による好作品には違いない。
メロディック度・・8 プログレ度・・7 ジャズロック度・・8 総合・・8


Mass Media 「Opacita Scura」
イタリアのジャズロックバンド、マス・メディアのライブ作品。
公式のスタジオ音源はなく、1978年の発掘ライブ音源をCD化したという、まさに幻のバンド。
ツインギターにシンセを含む5人編成で、グルーヴィかつ非常に勢いある演奏を聴かせる。
奔放に弾き鳴らされるギターはハードロック的な感触もあり、エレピやオルガン、ムーグも含んだ
シンセとともに厚みのあるアンサンブルを形成。随所に叙情的なフレーズも覗かせるギタリストのセンスは
なかなかのものだし、ドラムは、フリオ・キリコばりに激しく、手数も多い。音質はラウドなのだが
この熱い演奏は一聴の価値あり。これは素晴らしいプログレ・ジャズロックのライブである。
ライブ演奏・・9 プログレ度・・7 音質・・7 総合・・8
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■70〜80年代フランスのジャズロック〜マグマ登場

Moving Gelatine Plates
フランスのプログレ・ジャズロック、ムーヴィング・ゼラチン・プレーツの1970年作
バンド名もジャケも風変わりな感じだか、サウンドの方はフルートやサックスが鳴り響き、
軽妙なアンサンブルとエキセントリックなセンスが融合した、アヴァン・ジャズロック。
ギターはときにハードな感触になったり、シアトリカルなヴォーカルが入ったりと、
どこかコミカルな展開力も楽しく、トランペットが吹き鳴らされ、シリアスとユーモアが交差する
起伏に富んだダイナミズムもなかなか見事だ。イギリスのカンタベリー系の優雅さとは少し異なる濃密さで、
年代を考えれば、プログレ系ジャズロックとしてはかなりの傑作と言えるだろう。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・8 アヴァンギャル度・・8 総合・・8
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MAGAMA「.M.D.K.」
フランスのジャズロック、マグマの1973年作
正式なタイトルは「Mekanik Destructiw Kommandoh」、邦題は「呪われし地球人たちへ」
壮大なコンセプトストーリー「トゥーザムターク」の第三楽章で、マグマの最高作といえば本作だろう。
軽やかなジャズロックを基盤にしながらも、コバイヤ語による呪術的なヴォーカルと男女混声コーラスが、
宇宙的で異色の世界観を形成し、脅迫的に盛り上がってゆくという、そのサウンドには圧倒される。
多くのバンドにも影響を与えたであろう、ブラスの使い方などもサウンドに壮大な効果を与えていて、
チェンバーロック系バンドのような優雅でクラシカルな質感も有している。妖しさとスケール感とアンサンブルの融合…
なにせ文章のみでは解説のしようがない音楽であり、その芸術的な音のうねりに触れていただくのが一番だろう。
ドラマティック度・・8 ジャズロック度・・8 壮大度・・10 総合・・9
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MAGMA 「LIVE」
マグマの1975年作
マグマの代表作ともされるライブ作品で、1曲目の30分を超える「Kohntark」からしてすでにぶっ飛んでいる。
クリスチャン・ヴァンデの迫力あるドラミングを軸に、スタジオ盤以上の躍動感あるアンサンブルが炸裂。
コバイヤ語による妖しい男女声に、唸りを上げるベース、艶やかなヴァイオリンが加わり、
ときにゆるやかに、そしてクライマックスでは異様なテンションでダイナミクスを作り出す。
反復するフレーズの、リフレインによるトリップ感は、ライブならではの生々しさによるところだろう。
わりと優雅な小曲を挟みつつ、ラストの18分の「Mekanik Zain」では、うねりのあるベースにエレピが絡み、
ヴァイオリンの旋律とともに、スペイシーなスケールと緊迫感のあるアンサンブルでたたみかける。
ドラマティック度・・8 ライブ演奏・・9 テンション度・・9 総合・・8.5
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ZAO 「KAWANA」
フランスのジャズロックバンド、ザオの4th。1976年作
バンドの代表作ともされる作品で、美しいピアノと緊迫感のあるヴァイオリンの音色が絡み、
フリーキーなサックスが鳴り響く。クラシカルな優雅さとジャズロックとしての軽やなアンサンブルに、
奔放と緻密が同居したような聴き心地で、ときに緊張感を漂わせつつ、ときにコミカルであったりもする。
プログレ的なシンセワークも随所に光っていて、軽妙なプログレ・ジャズロックというべき傑作に仕上がっている。
ジャズロック度・・8 プログレ度・・8 優雅度・・9 総合・・8.5
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YOCHK'O SEFFER
Ghilgoul」
フランスのミュージシャン、ヨシコ・セファーの1978年作
ZAOMAGMAにも参加していた、ピアニストにしてサックス奏者で、
どことなくユーモラスなサックスの音色にシリアスなピアノの旋律が絡み、
ストリングスカルテットによる美しい叙情性もあって、クラシカルな美意識が
ミニマムな空間表現に直結したような抜群のセンスに引き込まれる。
ドラムも入ったジャズロック的な曲にしても、バルトークなど現代クラシックを下地にした
硬質な浮遊感と、即興性の上にある構築性が音を引き締めている。
クラシカル度・・8 ジャズロック度・・8 アヴァンギャル度・・8 総合・・8
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David RoseDistance Between Dreams
フランスのジャズロックバンド、TRANSIT EXPRESSのヴァイオリニスト、デヴィッド・ローズのソロ。1977年作
トランジット・エクスプレスのメンバーが参加していることで、ソロ名義ながらも、実質的にはトランジットの4作目ともいわれ、
美しいピアノとデヴィッド・ローズの艶やかなヴァイオリンの音色で聴かせる優雅なジャズロック作品。
緊張感をただよわせる部分は、Mahavishnu Orchestraにも通じるもので、
プログレッシプロックとジャズ、クラシックのクロスオーバー的な味わいがある。
ジャズロック度・・8 プログレ度・・7 優雅度・・8 総合・・8
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GONG「GAZEUSE!」
フランスのジャズロック、ゴングの1976年作
ピエール・モーランが中心となった、新生ゴングの2作目で、前作で脱退したスティーブ・ヒレッジに替わり、
アラン・ホールズワースが参加。やわらかなヴィブラフォンの響きに流麗なギターを乗せた、
軽やかなフュージョン・ジャズロックで、オールインストながら、ピエール・モーランの手数の多いドラムに、
ホールズワースの歌うようなギターフレーズとともに優雅に楽しめる。2パートに分かれた10分を超える大曲では、
前半はヴィブラフォンが大活躍、後半は叩きまくりのドラムソロになっていて、ピエール・モーラン色が全開。
やわらかなエレピなフルートも乗せた、カンタベリー風のナンバーなどもあり、軽妙で優雅な好作品だ。
ジャズロック度・・8 軽妙度・・8 優雅度・・9 総合・・8
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DUN 「Eros」
フランスのプログレ・ジャズロック、デュンの1981年作
自主制作で発表されたバンド唯一の作品で、MAGMA影響下のバンドの中では、幻の傑作というべき1枚。
妖しくフルートが鳴り響き、ブレイクを含む変則リズムと、手数の多いドラムが緊張感アンサンブルを描き出し、
軽妙な優雅さとミステリアスな空気感に包まれた、独自のジャズロックを展開。ゆるやかなピアノを含む静寂の緊張と、
たたみかけるダイナミズムのメリハリは、HENRY COWなどに通じるチェンバーロック的な手法も感じさせ、
ときにフリーキーなギターワークも特徴的で、マグマをマハヴィシュヌ寄りにしたという雰囲気もある。
アヴァンギャルドにたたみかける爽快さは、玄人好みのプログレファンも唸らせるだろう。楽しくスリリングな傑作だ。
10分前後の大曲を中心にした全4曲に、リマスター盤には未発曲や別テイクを計5曲、35分追加収録。
ドラマティック度・・8 ジャズロック度・・8 スリリング度・・9 総合・・8
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ESKATON 「Fiction」
フランスのプログレ・ジャズロック、エスカトンの1983年作
「Ardeur」、「4 Visions」に続く3作目で、軽やかなドラムにオルガンやエレピを含むシンセの重ねを乗せ、
妖しい男女ヴォーカルの歌声とともに、MAGMAをルーツにしたミステリアスなジャズロックを聴かせる。
過去2作に比べると、モダンでアヴァンギャルドなアプローチも覗かせるなど、方向性の試行錯誤が感じられる。
一方では、女性声にメロディアスなギターで聴かせるキャッチーなナンバーもあったりと、
わりとカンタベリー風のシンプルな優雅さもあって、こちらの路線での深化も見てみたかった気もする。
バンドは4作目「Icare」を録音はしたのちに活動停止。ボーナスにはその未発作からの4曲を収録。
MAGMA影響下のバンドであるが、マイナーシーンに葬られるには十分に魅力ある作品を残した存在というべきだろう。
ドラマティック度・・7 ジャズロック度・・8 優雅度・・8 総合・・8 
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RJALZ 「U Rigiru」
フランス、コルシカ島出身のプログレバンド、リアルズの1978/2008年作
「コルシカのマグマ」とも呼ばれ1978年に1000枚のみのプレスでLPが出回っていたレアな音源がCD化された。
オルガンやピアノの音色にヴァイオリンが鳴り響き、優雅で軽やかなアンサンブルを聴かせるサウンドで、
基本はジャズロックでありながらも、どこか辺境的な妖しさと湿り気を含んだ土着的な空気感が特徴的。
フランス語による男性ヴォーカルはときに詠唱のようで、女性声のスキャットとともに神秘的な雰囲気を描いている。
16分、11分という大曲を、ときに即興的な演奏を含んだセンスも面白く、MAGMAの妖しさにTerpandreの優雅さを合わせた、
濃密なサウンドが味わえる。このままバンドが活動を続けていたらものすごい作品を作ったのではないかという気もする。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 神秘的度・・8 総合・・8
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Jean-Paul Prat 「MASAL」
フランスのミュージシャン、ジャンポール・プラットのソロ。1982年作
MAGMAに影響を受け70年代より活躍するマルチミュージシャンで、本作は42分の大曲を中心にした大胆な構成。
手数の多いドラムに、わりとハードなギター、サックス、トランペット、ホルン、フルートといった管楽器が絡んで、
いかにも怪しげで大仰なジャズロックを描いてゆく。まさにMAGMAを思わせるダークな世界観と重厚な演奏で、
プラット氏のドラムもクリスチャン・ヴァンデ並みに叩きまくっている。優雅なピアノが響くゆったりとしたパートから、
ときに3本のギターが重なり、ブラスセクションを加えたぶ厚いアンサンブルで、ダイナミックに構築されるサウンドは圧巻だ。
MAGMAファンならずとも圧倒されるスケール感に包まれた異色の力作である。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 重厚度・・9 総合・・8
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■70〜80年代ヨーロッパ、その他のジャズロック

SUPERSISTER「To The Highest Bidder」
オランダのプログレ・ジャズロック、スーパーシスターの1971年作
オランダのカンタベリー系とも言われるバンドの2作目。のっけから10分の大曲で、
軽やかなリズムにやわらかなエレピやフルートを乗せて、優雅なジャズロックを展開。
甘いヴォーカルの歌声とともに、キャッチーな聴き心地は、やはりオランダのバンドらしい。
一方では、手数の多いドラムを軸にしたスリリングなアンサンブルと先の読めない展開力には、
エキセントリックなセンスも覗かせる。クラシカルな美意識も含んだ優雅さは、EGGにも通じるだろう。
メロディック度・・8 プログレ度・・8 ジャズロック度・・8 総合・・8
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PassportPassport-Dolidinger」
ドイツのジャズロックバンド、パスポートの1st。1972年作
サックス/シンセ奏者、クラウス・ドルディンガーを中心にしたプログレッシブなジャズロックバンドで、
ロックとジャズのクロスオーヴァーという点ではMahavishnu Orchestraなどにも通じるサウンド。
クリムゾンの“21世紀の精神異常者”を思わせるような、サックスが鳴り響くプログレとしても聴け、
オルガンやムーグシンセも含めて、やはり西洋的な方法論を取り入れた作風と言えるだろう。
オールインストながら、存在感のあるベースとどっしりしたドラム、サックスとオルガンの絡みや
ときに美しいフルートなども顔を覗かせ、全体的にも非常に構築された印象だ。
メロディアス度・・7 プログレ度・・7 ジャズロック度・・8 総合・・8
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COS 「Postaeolian Train Robbery」
ベルギーのチェンバー・ジャズロック、コスの1974年作
1974〜83年までに5枚のアルバムを残したバンドで、存在感のあるベースを乗せたリズムに
優雅なエレピ、フルート、オーボエなどを加えた、チェンバー寄りのジャズロックサウンド。
コケティッシュな女性ヴォーカルが加わると、ZAOMAGMAのような妖しいテイストも感じさせ、
軽妙なアヴァンギャルド性に包まれた聴き心地。キュートな女性声を乗せたポップな小曲もあったり、
逆にギターがフリーキーに弾きまくるアグレッシブなジャズロックパートもあったりと、なかなか面白い。
ドラマティック度・・7 ジャズロック度・・8 アヴァンギャル度・・7 総合・・7.5
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CIRCUS 「MOVIN' ON」
スイスのプログレバンド、サーカスの1977年作
本作は2作目で、70年代スイスの作品としては、ISLANDと並ぶ名作としても名高い。
アコースティックギターにフルートとサックスの優雅な音色が絡み、やわらかなヴォーカルを乗せ、
玄人好みの優雅なジャズロック的なアンサンブルを描き出す。知的でテクニカルな構築性は
同郷のアイランドなどにも通じる部分もあるが、こちらはもっと軽妙で、さらりとしたクールさが魅力。
上品なクラシカル性はチェンバーロック的でもあり、タイトル曲である22分の大曲はスリリングなインストパートが素晴らしい。
長らく貴重盤だったが、2017年に紙ジャケでリマスター再発された。プログレ中級者以上はチェックです。
優雅度・・9 プログレ度・・8 ジャズロック度・・8 総合・・8
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ICEBERG「Sentiments」
スペインのジャズロックバンド、アイスベルグの3rd。1977年作
基本はテクニカルなジャズロックだが、軽やかにたたみかける演奏の中にも
美しいシンセと泣きのギターがたっぷりとちりばめられたサウンドは、
シンフォニックですらある。歌がないせいもあってかスペイン臭さはあまりなく、
哀愁のメロディを奏でるギターは、ときにまるでセバスチャン・ハーディのようだし、
たおやかなピアノとプログレ的なシンセワークを使い分けるKey奏者のセンスもかなりのもの。
ジャケは不気味だが、内容はシンフォニック・プログレ・ジャズロックの傑作といえる。
メロディアス度・・8 プログレ度・・8 ジャズロック度・・8 総合・・8
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Companyia Electrica Dharma 「TRAMUNTANA」
スペインのジャズロック、コンパニア・エレクトリカ・ドアルマの1977年作
1975年デビュー、3作目の本作は、のっけからサックスがコミカルに鳴り響き、叙情的なギターの旋律にエレピが絡み、
軽やかなアンサンブルのプログレ・ジャズロックを聴かせる。スペインらしい哀愁を含んだ叙情パートなど
10分を超える大曲では、メリハリある展開と前作以上にプログレ的な構築センスも覗かせる。
軽やかな演奏と民族的な空気感が合わさった、とぼけたようなコミカルさという点では、
北欧のサムラなどにも通じるかもしれない。ただし、こちらはあくまでアンサンブル志向。
サックスが鳴り響く優雅なジャズロックから、ラストのチンドン的なナンバーも面白い。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 軽妙度・・9 総合・・8
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SHESHET
イスラエルのプログレバンド、シシェットの1977年作
美しいフルートの音色に軽やかなピアノが絡み、女性ヴォーカルがやわらかな歌を乗せる、
カンタベリー的な優雅さを感じさせるサウンド。軽妙なアンサンブルと繊細な美しさは、
NATIONAL HEALTHあたりを思わせ、辺境的な野暮ったさはほぼ皆無。
たっぷりとフルートを響かせるジャズロック風味の軽やかなプログレが楽しめる。
70年代のイスラエルでは出色のクオリティといってよい作品だろう。
30周年記念の再発盤には、幻の2ndの音源を収録した2枚組仕様となっていて、
全6曲20分余りの音源であるが、なかなか質が高く、ボーナス的に鑑賞できる。
メロディック度・・8 プログレ度・・8 優雅で軽妙度・・9 総合・・8.5
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Pekka Pohjola「B the Magpie」
フィンランドの音楽家、ペッカ・ポーヨラの1974年作
WIGWAMのベーシストとしても知られるペッカの2枚めのソロアルバムで、
「Harakka Bialoipokku/ カササギ鳥の一日」という別題もついている。
クラシカルなピアノの小曲で幕を開け、WIGWAMに通じるジャズロック色と優雅さを兼ね揃えた軽妙なサウンド。
叙情的なサックスの音色が重なり、アカデミックな知的さと演奏力がありながら、どこかとぼけたような味わいはペッカならでは。
代表作とされる次作「The Mathematician's Air Display」に比べると、ジャズ色の強い好作品である。
メロディアス度・・8 ジャズロック度・・8 北欧度・・8 総合・・8
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Samla Mammas Manna 「Klossa Knapitatet」
スウェーデンのプログレバンド、サムラ・ママス・マンナの1974年作
本作は3作目で、「踊る鳥人間」の邦題とジャケのインパクトが強烈な一枚。
優雅なピアノを乗せた軽快なインスト曲から、哀愁を漂わせた北欧らしい叙情とユーモラスなセンスを感じさせつ、
テクニカルな変則リズムの2曲目は、のちのMATS/MORGANなどにも通じるコロコロとした可愛らしさが楽しい。
フリーキーなギタープレイなど、即興的なアヴァンギャルド性も見事で、北欧的な土着性をジャズロック的でもある
軽妙なアンサンブルに溶け込ませたセンスは、このバンドならではの個性だろう。演奏力の高さも含めて素晴らしい傑作ですな。
プログレ度・・8 北欧度・・8 アヴァンギャル度・・8 総合・・8
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UMO「Beauty And The Beast」
フィンランドの才人、故ペッカ・ポーヨラUMOジャズ・オーケストラとの共演音源作品。2009年作
放送局用に録音された1977年〜2004年の音源で、89年まではペッカ本人がベースで参加。
かつてのペッカの楽曲がオケ入りのアレンジで生まれ変わり、その違和感のなさも素晴らしい。
もともと上品なユーモアをメロデイに感じさせる才能が抜群であったが、それがサックスを含めた
優雅なオケとのジャズ風味のアンサンブルに溶け込んでいて、プログレッシブなスイングジャズ、
とでもいうべきサウンドで、ゆったりと楽しめる。ペッカの作曲才能をあらためて感じられる一枚である。
ジャズロック度・・8 プログレ度・・7 優雅度・・9 総合・・8
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KULTIVATOR「Barndomens Stigar
スウェーデンのジャズロックバンド、カルティヴェイターの1981年作
跳ねるような変拍子リズムの上に、プログレ的なシンセが鳴り響き、土着的なギターフレーズに重なるのんびりした笛の音が可愛らしい。
北欧のアヴァンギャルド系というと、SAMLAがまず思い出されるが、こちらはもっとカンタベリー的な優雅さがあり、ある意味メロディックだ。
どこかヨレた感じのキュートな女性ヴォーカルの歌声もいい感じで、北欧トラッド的な牧歌性を上手く取り入れた、変則ジャズロックの傑作である。
プログレ度・・8 アヴァンギャル度・・8 北欧度・・8 総合・・8
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Espoo Big Band with Pekka Pohjola「Yesterday's Games」
フィンランドのジャズロック、エスプー・ビッグ・バンドの1986年作
楽曲はペッカ・ポーヨラが手掛け、サックス、トランペット、トロンボーンで14名におよぶブラスセクションに、
ギター、ベース(ペッカ)、キーボード、ドラムが2名という大掛かりな編成。それぞれ4パートに分かれた、
7〜10分の大曲で、ブラスが鳴り響くスウィングジャズを基本に、ギター、ドラムのロック色が加わったサウンド。
プログレとして聴くには、ブラスバンド色が強いのだが、そんな中でもペッカのベースの存在感はさすがで、
ソロパートでの巧みなプレイも含めて、スウィングジャズのノリとバンドアンサンブルを優雅に融合させている。
ドラマティック度・・7 ロック度・・6 ジャズ度・・9 総合・・8
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■70年代アメリカ、南米のジャズロック

Mahavishnu Orchestra「The Inner Mounting Flame」
アメリカのジャズロックバンド、マハビシュヌ・オーケストラの1st。1971年作
ギターのジョン・マクラフリンを中心に結成、フュージョンとジャズの要素をロックに融合させ、プログレの方面からも評価の高いバンド。
手数の多いドラムが引っ張るリズムに、テクニカルなギターに絡む艶やかなヴァイオリン、シンセによる音の厚みはプログレ的でもある
ミステリアスな雰囲気もかもしだしていて、単なるジャズロックの枠を超えた壮大さなビジョンを感じさせるサウンドだ。
即興気味の緊張感と、実力のある演奏者の巧みなアンサンブルが合わさって、
硬質でありながややわらかで、テクニカルでありつつメロディアスという、絶妙の均衡が音にはある。
ジャズロックでありながら、チェンバー的な構築性と、まさにオーケストラルな一体感が見事な傑作。
シンフォニック度・・8 ジャズロック度・・8 テクニカル度・・9 総合・・8.5
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Mahavishnu Orchestra「Birds of Fire」
アメリカのジャズロックバンド、マハビシュヌ・オーケストラの2nd。1973年作
「火の鳥」と題された本作は、前作以上にスリリングなアンサンブルを見せつける傑作。
1曲目から、うなりを上げるようなジョン・マクラフリンのギターも冴え渡り、
シリアスなヴァイオリンが絡むサウンドは、ジャズロックというにはあまりに重厚。
今作では、楽曲におけるクラシック的な構築美が増していて、緊張感あふれる演奏と
強固なアンサンブルが、聴き手を圧倒するように押し寄せてくる。
音の切れ味という点では最高傑作とも言える。張りつめた創造性が生み出した傑作。
クラシカル度・・8 ジャズロック度・・8 テクニカル度・・9 総合・・8.5
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RETURN TO FOREVERRomantic Warrior」
アメリカのフュージョン・ジャズロックバンド、リターン・トゥ・フォーエヴァーの1976年作
チック・コリアとスタンリー・クラークを中心に1972年にデビュー、本作はバンドの最高作と名高い傑作。
アル・ディメオラの巧みなギターに、チック・コリアのきらきらとしたシンセワークが美しく重なり、
軽妙かつテクニカルなアンサンブルとともに、メロディアスでプログレ的な質感を生み出している。
コロコロとしたムーグシンセの音色は今で言うアヴァンポップ風でもあり、絶妙のアンサンブルは
ジャズ、フュージョン、ロックのクロスオーヴァーを自然体でなし遂げているとも言える。
上品な優雅さの中にテクニックを溶け込ませた、プログレ・フュージョンロックの傑作だ。
メロディアス度・・8 フュージョンロック度・・8 テクニカル度・・8 総合・・8.5
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FLIGHT 「Incredible Journey」
アメリカのジャズロックバンド、フライトの1976年作
おそらくは初のCD化で本作は2作目となる。きらびやかなシンセに適度にハード寄りのギター、
ジャズタッチのピアノにサックスやトランペットなどのブラスが鳴り響く、軽やかなフュージョン・ジャズロック。
ファンキーな味わいのヴォーカルがポップな感触をかもしだしているが、バックの演奏は相当テクニカル。
手数の多いドラムとうねるベースが、躍動的なアンサンブルを作り出し、プログレ的でもあるリズムチェンジや
唐突な展開力も含んだエキセントリックなセンスも素晴らしい。厚みのある音の塊が突き抜けてゆく爽快さで、
マハヴィシュヌとはまた違ったスタイルでの、プログレッシブなジャズロックの最高峰というべき傑作だ。
メロディック度・・8 ジャズ&フュージョンロック度・・9 テクニカル度・・9 総合・・8.5
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Dixie DregsWhat If
アメリカのフュージョンロックバンド、ディキシー・ドレッグスの1978年作
ギターのスティーブ・モーズを中心に、シンセにヴァイオリンを含んだ5人編成で
オールインストによる軽やかなフュージョン・ジャズロックサウンド。
アメリカらしいライトな抜けの良さと緻密な構成力を同居させた楽曲は
随所にジャズやクラシックの要素も含ませながら、ときにコミカルであったり
HAPPY THE MANにも通じるテクニカルでプログレッシブな知的センスが光る。
艶やかなヴァイオリンの音色が優雅に響きわたる、クラシカルなエッセンスも含んだ傑作。
メロディック度・・8 プログレ度・・8 テクニカル度・・8 総合・・8.5
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PHASE 「MIDNIGHT MADNESS」
アメリカのプログレ・ジャズロック、フェイズの1979年作
本作が唯一の作品で、手数の多いドラムにうねるベース、テクニカルでフリーキーなギター、
ムーグシンセとやわらかなピアノを乗せた、優雅で技巧的なインストのジャズロックを聴かせる。
変則リズムを盛り込みつつ、クールなアンサンブルを描くところは、MAHAVISHNU ORCHESTRAにも通じるが、
こちらはあくまで4人でのシンプルな音数で、決して大仰にならないスタイリッシュな均整を感じさせる。
かき鳴らされるムーグシンセがプログレ寄りの感触になっていて、即興的な勢いでたたみかけつつ、
どこかスペイシーな雰囲気があるのも面白い。演奏力の高さも含めて、一作のみで消えたのが惜しまれる。
ジャズロック度・・8 プログレ度・・7 軽妙度・・9 総合・・8
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Contraction 「La Bourse Ou La Vie」
カナダ、ケベックのジャズロックバンド、コントラクションの1974年作
前作は、優雅なアンサンブルと浮遊感が同居したジャズロックの傑作であったが、2作目となる本作も
カンタベリー的でもある軽妙な演奏が素晴らしい。テクニックのあるギターに軽やかなピアノが絡み、
フランス語の女性ヴォーカルを乗せた、優美なシンフォニック・ジャズロックというサウンドだ。
おそらく、当時のケベックのバンドの中でも演奏力を含めたバンドの力量はトップクラスと言ってもよく、
美しいフルートや優しい女性Voの歌声も含めて、National Healthの1作目などが好きな方にもお薦めだ。
タイトル曲である、18分を超える組曲はテクニカルな構築と叙情が繊細な交差する、圧巻のプログレジャズロック。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・8 優雅度・・9 総合・・8
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ALAS
アルゼンチンのプログレ・ジャズロックバンド、アラスの1st。1976年作
15分、17分という大曲2曲の構成で、せわしないテクニカルなリズムに、ジャズ的なピアノやEL&P的なハモンドを乗せて
軽やかに聴かせるプログレサウンド。かと思うと南米らしい叙情的なヴォーカルも出てきたりと、単なるジャズロックでもない
いわばごった煮感が本作の魅力かもしれない。タンゴにも通じる情熱的な情緒とクールな構築性、たおやかさと荒々しい勢い、
軽やかなジャズと濃密なプログレがミックスされた、混沌として整然たる聴き心地の個性派の傑作である。
メロディアス度・・7 テクニカル度・・8 ジャズロック度・・8 総合・・8
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HERMETO PASCOAL 「SLAVES MASS」
ブラジルの鬼才、エルメート・パスコアルの1977年作
アメリカで録音された、パスコアルの代表作で、チェスター・トンプソン、アルフォンソ・ジヨンソン、ロン・カーターといった
実力あるメンバーが参加。やわらかなエレビにフルートを乗せた、優雅なフュージョン・ジャズロックサウンドから、
しだいにフリーキーなインプロへと変化し、テクニカルなアンサンブルの中に民族的な雰囲気をかもしだしつつ、
豚の鳴き声までも音楽に取り入れるという、その自然派のごった煮感は、まさに天衣無縫の音楽家。
奔放なピアノソロ曲や、フリーなサックスを吹き鳴らすジャム的なナンバーまで、型にはまらない演奏で、
自由な感性の民族ジャズが楽しめる。ボーナストラック扱いの、2曲で30分に及ぶ、スタジオジャムセッション音源も圧巻です。
ジャズ度・・8 優雅度・・8 フリー度・・9 総合・・8.5
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■プログレ・ジャズロックの現在形〜カンタベリー、Zeuhl系の後継者たち

THE TANGENT「U:The World That We Drive Through」
イギリスのシンフォニックロックバンド、タンジェントの2nd。2004年作
PARALLEL OR 90 DEGREESのアンディ・ティリソン、ガイ・マニングに、ロイネ・ストルト、ヨナス・レインゴールド、ソルタン・チョースと、
The Flower Kings
関連のメンバーが参加、サウンドの方も、ジャズロック化したフラキンという感じで、優雅で軽妙なアンサンブルが楽しめる。
随所に女性ピアニスト、サム・バインのしっとりとしたピアノタッチが素晴らしく、またたおやかなフルートの音色なども
楽曲に繊細に華を添えている。前作の軽快なシンフォニック性よりは、大人のジャズロック風なパートが増した感触で、
テクニカルなシンフォニックとしても楽しめるが、肩の力を抜いてくつろぎながら楽しめるような好作品である。
メロディアス度・・8 フラキン度・・8 ジャズロック度・・8 総合・・8
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The Andy Tillison Multiplex 「Electric Sinfonia 2」
イギリスのミュージシャン、アンディ・ティリソンによるプロジェクトの2014年作
The Tangentを率いるマルチミュージシャンで、本作は優雅なジャズロック風味を押し出した作品。
ギター、ベース、ドラム、シンセなど、すべての楽器を一人でこなし、カンタベリーテイストあふれる
軽妙なインストサウンドを描いている。5楽章に分かれた組曲方式の構成で、巧みなグルーブを作り出すドラムに、
やわらかなピアノ、エレピ、オルガン、ムーグシンセなどが、ときにシンフォニック的な美しさとともに楽曲を彩る。
サックスやフルートなどブラスや管楽器も加わって、随所にプログレらしいスリリングな展開もしっかりと織り込みつつ、
オールインストながら最後まで飽きさせない構築力はさすが。The TangentNational Health化したという聴き心地の傑作です。
メロディック度・・8 プログレ度・・8 優雅度・・8 総合・・8
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LED BIB 「UMBRELLA WEATHER」
イギリスのプログレ・ジャズロック、レッド・ビブの2017年作
二人のサックス奏者にシンセを含む編成で、軽妙なリズムにサックスが鳴り響く、
KING CRIMSON
的な雰囲気も漂わせる、スリリングなアンサンブルを聴かせる。
手数の多いドラムと存在感あるベース、ツイン・サックスによる、フリーキーな優雅さで
アヴァンギャルドな展開とともに不穏な緊張感を漂わせつつ、10分を超えるナンバーなども、
自由度の高い即興性が合わさった迫力ある演奏が楽しめる。テクニックのあるドラムを軸に、
歪んだベースとサックスがバトルするような激しさから、とぼけた味わいの軽妙なパートまで、
オールインストながら表現豊かな感触が素晴らしい。全75分というアヴァン・ジャズロックの力作。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・8 アヴァンジャズロ度・・9 総合・・8.5
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MUMPBEAK「TOOTH」
イギリスのジャズロック、マンプビークの2017年作
シンセ、ベース、ドラムというトリオ編成で、軽妙なリズムにムーグやオルガン含むシンセを乗せ、
どこかとぼけた味わいのインストサウンドを聴かせる。シンプルな音数ながら、生々しいドラムを含む
アナログ的なアンサンブルで、ほどよいテクニカル性と同時に、優雅な音の隙間を感じさせるような作風だ。
センスのよい演奏が耳心地よく、ときにBGMのようにもなるが、一方ではフリーキーにたたみかける
アッパーなナンバーもあり、全体的にはやわらかな屈折感とともに愉快なプログレ・ジャズロックが楽しめる。
ジャズロック度・・8 プログレ度・・7 優雅度・・9 総合・・8
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D.F.A.「4TH」
イタリアのプログレバンド、DFAの4th。2008年作
1stの頃から、テクニカルなセンスあるサウンドをやっていたこのバンドだが、今作では見事な傑作を作り上げた。
軽やかなフュージョン的な質感を聴かせつつ、たおやかなフルートやプログレ的なハモンドなどのシンセが鳴り響き、
テクニカルなギターに絡むと、日本のKENSOなどを思わせる雰囲気もある。10分以上の大曲が3曲もあるが、
単なるテクニック大会に終わらず、しっかりとした構成力とメロディアスさが備わっているので聴き疲れしない。
ラスト曲は女性ヴォーカル入りで、シンフォニックなトラッド風味がしっとり耳に優しい。
テクニカルなプログレ風味とジャズロック風味のバランスがとれた見事な傑作だ。
メロディアス度・・8 ジャズロック度・・8 テクニカル度・・9 総合・・8.5
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YUGEN「Labirinto d'acqua」
イタリアのチェンバープログレ、ユーゲンの2006年作
THE WATCHと元STORMY SIXのメンバーらによるバンドで
ヴァイオリン、クラリネット、サックスなどの管楽奏者も加わった10人以上の編成。
たおやかでほの暗いピアノの音で幕を開け、軽やかな室内楽ロック風アンサンブルで
シンセとピアノ、クラリネット、マリンバなどが絡み合い、クラシカルなジャズロック的演奏を構築する。
オールインストでありながら、テクニカル硬質感とやわらかみが同居している部分は
バンド名の「幽玄」を表現しているのか、シリアスなのだが適度に力が抜けていて叙情的な面も出てくる。
シンフォニックロックとジャズロック、チェンバーサウンドが高い次元で融合された傑作だ。
シンフォニック度・・7 テクニカル度・・8 チェンバー度・・8 総合・・8.5
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SLIVOVITZ「Hubris」
イタリアのトラッド・ジャズロック、スリボヴィッツの2009年作
サックス、ヴァイオリン、ハーモニカ奏者を含む編成で、軽妙なアンサンブルにサックスが鳴り響き、
女性スキッャトを乗せた、民族色もあるジャズロックを展開。変則リズムを含む屈折した即興性と
唐突感のあるアヴァンギャルド性を覗かせつつ、スリリングな演奏を繰り広げている。
テクニカルなアンサンブルの中に、フォルクローレ的でもある叙情も垣間見せ、
地中海、バルカン、スパニッシュなどのトラッド感触とジプシー的な無国籍感を漂わせた作風だ。
ヴァイオリン弾きまくりの軽快なトラッドナンバーから正統派のジャズロックまで、
確かな演奏力と優雅で知的なセンスで楽しませてくれる、玄人好みの力作だ。
プログレ度・・8 ジャズロック度・・8 トラッ度・・7 総合・・8
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PropheXy「Improvviso」
イタリアのプログレバンド、プロフェクシーの2013年作
シンセを含む5人編成で、変拍子入りのアンサンブルに、イタリア語のヴォーカルを乗せたスタイルで、
やわらかなフルートの音色が鳴り響く叙情性と、イタリアらしい混沌とした妖しさに包まれたサウンド。
本作は2012年のライブ音源で、ややこもり気味の音質も含めて、むしろ70年代感を強く感じさせる。
現代版AREADEUS EX MACHINAかというようなアクの強さとテクニカル性に加えて、
アコースティカルな優雅さも含んだ楽曲には、往年のプログレファンもにやりとするだろう。
ジャズロック度・・8 プログレ度・・8 イタリア度・・9 総合・・8
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Deus Ex Machina 「Devoto」
イタリアのプログレバンド、デウス・エクス・マキーナの2016年作
1991年デビューのベテランで、イタリアらしいテクニカル性とアヴァンギャルドなセンスを併せ持ったスタイルで、
これまでに6枚のアルバムを発表。本作は2008年作以来となる7作目で、わりとハードなギターにヴァイオリンが鳴り、
オルガンなどを含むシンセアレンジにイタリア語による濃密なヴォーカルを乗せたサウンドで、
変則リズムを含んだ偏屈な感触に大人の渋さが加わったという、独特の聴き心地は健在だ。
とくにギターのソロなどはブルージーなロック色を感じさせるフレーズで、ジャズロック的なアンサンブルとの
面白いコントラストを作っている。オルガンが鳴り響くノリのよいナンバーなど、わりとシンプルな聴き心地で
過去の作品に比べるとアヴァンギャルド性が薄まった分、いくぶん分かりやすいかもしれない。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・8 イタリア度・・8 総合・・8 
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HOMUNCULUS RES 「Come Si Diventa Cio' Che Si Era」
イタリアのプログレ・ジャズロック、ホムンクルス・レスの2015年作
前作はカンタベリー+アヴァンギャルドな力作であったが、邦題「変拍子の王国」と題されたこの2作目も、
やわらかなシンセに、サックスやフルート、クラリネットなどを加えた、カンタベリー風味の優雅なサウンドを描く。
変則リズムを多用した手技なアヴァンギャルド性と、牧歌的なヴォーカルが入ったキャッチーな感触が同居し、
メロディアスな聴きやすさの中に、ふとスリリングな展開を覗かせるという、絶妙のバランス感が心憎い。
オルガンやメロトロンのも音色も含んだシンセワークもなにげに効いていて、往年のプログレ感触を残しているのもよろしい。
1、2分前後の小曲を織り込みつつ、17分という大曲もあくまで軽やかでとぼけた味わい。肩の力を抜いて楽しめる傑作だ。
優雅度・・9 プログレ度・・8 カンタベ度・・8 総合・・8
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Accordo dei Contrari 「AdC」
イタリアのプログレバンド、アッコルド・ディ・コントラリの2014年作
2006年にデビューしてから本作が3作目となる。ムーグシンセが鳴り響き、ジャズロック風味の軽やかなアンサンブルと
変則リズムを使った屈折感で聴かせるテクニカルプログレ。優雅なエレピの音色などはカンタベリー風であるが、
適度にハードなギターがアッパーなアクセントになっていて、軽妙であるのに濃密という聴き心地が面白い。
曲によってはヴァイオリンやチェロを含んだチェンバーロックの質感もあるが、それはあくまで味付け程度。
オールインストであるが、変拍子入りのテクニカルプログレ、ジャズロックが好きな方なら問答無用で楽しめるだろう。
ドラマティック度・・7 テクニカル度・・9 イタリア度・・7 総合・・8
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PROMENADE 「Noi Al Dir Di Noi」
イタリアのプログレ・ジャズロック、プロムナードの2016年作
若手の4人組で、軽やかなピアノにサックスが鳴り響き、変則リズムのテクニカルなアンサンブルで、
華麗なジャズロックサウンドを展開する。技巧的にたたみかけるせわしない曲調ながらも、
優雅なメロディアス性が前に出ているので、決して難解ではなく、イタリアらしい陽性のノリに包まれている。
一方では、イタリア語のヴォーカルを乗せ、ストリングスなども加えた繊細な叙情性はPFMのようでもあり、
やわらかなエレピにサックス、ヴァイオリンを加えたカンタベリー的でもある優美なサウンドを描いてゆく。
1曲目のテクニカルなテンションに圧倒されるが、全体的にはじっくりと味わえる叙情的なジャズロック作品である。
メロディック度・・8 テクニカル度・・9 優雅なジャズロ度・・9 総合・・8
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Universal Totem Orchestra 「Mathematical Mother」
イタリアのプログレバンド、ユニバーサル・トーテム・オーケストラの2017年作
Runaway Totemのメンバーを中心に1998年結成、本作はUTOとして2006年作以来となる3作目のアルバム。
女性Vo、サックス、シンセ奏者を含む6人編成で、変則リズムのテクニカル性を含んだ軽やかなアンサンブルに、
イタリア語の美声の女性ヴォーカルを乗せた、ジャズロック風味を含んだ優雅なプログレサウンド。
メロディックなギターの旋律にクラシカルなピアノとAna Torrs嬢のオペラティックな歌声でしっとりと聴かせるパートから、
リズムチェンジや唐突な展開でアヴァンギャルドな展開を垣間見せる、アーティスティックなアレンジも面白い。
ときにMAGMAを思わせるような部分もあり、ズール系と言われるように、シアトリカルな妖しさを含みながら、
スタイリッシュで軽妙な味わいが特徴的だ。ジャズやチェンバーロック、クラシックの要素を、現代的なセンスで仕立て上げた力作。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 女性Vo度・・8 総合・・8
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One Shot 「Reforged」
フランスのジャズロック、ワン・ショットの1999年作
MAGMAに参加した、ジェイムズ・マクゴウ、フィリップ・ブソネ、エマニュエル・ボルギらによるバンドで、
オルガンやエレピを含むシンセに適度にハードなギターを乗せた軽妙なアンサンブルとともに、
ミステリアスな空気感をかもしだすプログレ・ジャズロック。マグマに比べると、ギターが前に出ていて、
ジャズロックが苦手な方にも、テクニカルなインストプログレとしてわりと聴きやすいかもしれない。
ジェイムズ・マクゴウの技巧的なギターフレーズは、ときにホールズワースばりに流麗で、
不穏でダークな空気感の中に、メロディックな味わいを付加している。10分前後の大曲が多いが、
手数の多いドラムも含め、テクニカルでありつつ有機的なアンサンブルが心地よく、スリリングに聴きとおせる。
ジャズロック度・・8 プログレ度・・8 軽妙度・・8 総合・・8
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Forgas Band Phenomena 「Soleil 12」
フランスのジャズロック、フォーガス・バンド・フェノメナの2005年作
マルチミュージシャン、Patrick Forgasを中心にしたユニットで、ヴァイオリン、サックス×2、トランペットを含む8人編成でのライブ作品。
やわらかなシンセにヴァイオリンやサックスの音色を乗せ、カンタベリー的でもある軽妙なアンサンブルと、
ヨーロピアンな叙情性を含んだ優雅なジャズロックサウンド。ライブ音源とは思えぬ確かな演奏力と共に、
変拍子を含むテクニカルなプログレ性とヴァイオリン、トランペットによるチェンバーロック的な感触が合わさり、
34分におよぶ大曲を構築してゆく。National Health的な軽やかさに、Mahavishnu Orchestraのフランス版という感じでも楽しめる。
ラストは18分の大曲で、全70分。カンタベリー系ファンにお薦めの優雅系ジャズロックの傑作です。
カンタベ度・・8 プログレ度・・7 優雅度・・9 総合・・8
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MASAL 「GALGAL」
フランスのプログレ・ジャズロック、マサルの2010年作
1984年にソロ作「MASAL」を発表したマルチミュージシャンJean-Paul Pratを中心とするユニットで、
サウンドの方はかつてのようなMAGMA直系のスタイルではなく、優雅なピアノの旋律にギターが絡み、
モダンなテクニカル性を軽妙に聴かせる、プログレッシブなジャズロック。軽やかにサックスが鳴り響き、
そこにギターのフレーズがメロディックにかぶさる、フュージョン的でもある爽快な感触に
プログレらしいエキセントリックな切り返しやリズムチェンジなどのアレンジもなかなか楽しい。
どことなく、PEKKAあたりを思わせるユーモアを感じさせる大人のアンサンブルも含めて、
成熟したミュージシャンのみが作れる知的なプログレ・ジャズロック作品である。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・8 軽妙度・・9 総合・・8
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CAMEMBERT 「Schnoergl Attahk」
フランスのチェンバー・ジャズロック、カマンベールの2011年作
プラグが貫通したカマンベールチーズのジャケからしておちゃらけているが、なにやらスペイシーなイントロから、
トランペット、トロンボーンが鳴り響き、コロコロとしたマリンバの響きにギターを加え、軽妙なアンサンブルが広がる。
優雅なテクニカル性ととぼけた味わいに、ときおりスペイシーなスケール感が加わるところが面白く、
美しいハープの音色など、やわらかでメロディック味わいが前に出ているので難解な印象はない。
オールインストなので聞き流してしまいがちだが、しっかりとしたアンサンブルとほどよいヒネくれ方もあって、
MAGMAのような緊張感はないが、ディープなリスナーでも楽しく聴ける。チェンバー・ジャズロックの好作品だ。
ドラマティック度・・7 ジャズロック度・・8 優雅なおとぼけ度・・9 総合・・8
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MICHEL AUMONT 「Le Grant Orchestre Armorigene」
フランスのクラリネット奏者、ミシェル・オーモンの2012年作
ピアノ、ヴァイオリン、チューバ、ヴィエレ・ア・ルー(ハーディ・ガーディ)、ドラムを含む7人編成で、
ブルターニュ地方のトラッドをモチーフにした楽曲を、ジャズオーケストラの編成で演奏。
軽やかなドラムの上に、チューバの低音とヴァイオリンが鳴り響き、優美なピアノの旋律に、
エレクトリック・ヴィエレ・ア・ルーも加わって、素朴なブルターニュの空気感に包まれた
技巧的なジャズロックが楽しめる。土着的なトラッド感触を軽妙に表現するという点では、
FLAIRCKにも通じるスタイルだろう。ジャズ、クラシック、トラッドの要素を絶妙に溶け込ませた傑作だ。
テクニカル度・・9 トラッド・ジャズ度・・8 優雅度・・9 総合・・8.5
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SCHERZOO「01」
フランスのチェンバーロック、スケルズーの2011年作
マルチ・ミュージシャン、Francois Thollotを中心にしたバンドで、サックスがフリーキーに鳴り響き、
クラシカルなピアノを乗せた、テクニカルなアンサンブルで聴かせる、チェンバー・ジャズロック。
程よく即興的なアヴァンギャルド性と、ダークなチェンバー色が合わさった、静と動のメリハリある展開と
知的で空間的な構築力もさすがである。全体的にサックスがフレーズをとるパートが多いので、
チェンバーというよりはやはりジャズロック寄りの感触で、「MAGMAをクリムゾン化」させたという雰囲気もありつつ、
ミステリアスな怪しさという点では、「ジャズロック化したUNIVERS ZERO」という楽しみ方もできるだろう。
6〜8分前後の楽曲を中心に、スリリングな緊張感で描かれるラストの19分におよぶ大曲も圧巻だ。
ドラマティック度・・7 ジャズロック度・・8 チェンバー度・・7 総合・・8
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RHUN 「Fanfare Du Chaos」
フランスのプログレ・ジャズロック、ルーンの2013年作/邦題「混沌のファンファーレ」
サックスが鳴り響き、コバイヤ語を思わせる男女コーラスの歌声を乗せた、まさにMAGMAタイプのサウンド。
サックス、クラリネット、バスーン、フルートなどがチェンバーロック的にときに優雅にときにシリアスに吹き鳴らされ、
変則リズムを含んだテクニカルなアンサンブルとともに、アヴァンギャルドな展開を大仰に描いてゆく。
特徴としてはノイジーなギターによる不協的な緊迫感が、スリリングな危うさをかもしだしていて、
フルートなどが美しいゆったりとしたパートとの強烈なコントラストとなっている。暴れん坊のマグマというか、
むしろシアトリカルな妖しさでは、本家マグマを凌駕するかもしれない。これは強力なアルバムだ。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 マグマ度・・9 総合・・8
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SETNA 「Guerison」
フランスのプログレバンド、セトナの2013年作
2007年作に続く2作目で、やよらかなエレピの音色に重たいベースを乗せた優雅なアンサンブルに、
中性的な男性ヴォーカルが妖しく歌声を響きかせる。MAGMAをルーツにしたジャズロックながら、
オルガンなどを加えたカンタベリーなテイストが合わさった感触には、どこか素朴な牧歌性も感じさせる。
シンセの重ねによるシンフォニックなパートや、12弦ギターによる繊細な叙情性も含んで、
26分の大曲もメリハリある流れでじっくりと構築してゆく。哀愁のギターフレーズにエレピが重なる辺りは、
単なるマグマ系とは異なる優美なプログレ・ジャズロックという趣だが、ときにフリーキーにドラムが叩かれる、
おどろおどろしさも覗かせる。いわば「カンタベリーなマグマ」というべき優雅で叙情的な好作品。
ドラマティック度・・8 優雅度・・8 マグマ度・・8 総合・・8
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Vak 「Aedividea」
フランスのチェンバー・ジャズロック、ヴァクの2015年作
シンセにフルート奏者を含む編成で、躍動的なドラムと存在感あるベースを軸にしたアンサンブルに、
女性声のスキャットにエレピを含むシンセを重ねた、MAGMAルーツのアヴァン・ジャズロック。
程よいダークさと軽妙な優雅さのバランスで、いかにも「Zeuhl系」を地でゆくようなサウンドを聴かせる。
フルートによる叙情性やヘヴイでありながらも空間的なアプローチには、クリムゾン的な雰囲気も漂わせるが、
結局はマグマへと回帰するような作風は、やはり同郷の偉大な存在への憧れが強いのだろう。
10分前後の大曲も多いが、わりあいゆったりとした叙情パートも多いので、聴き疲れせずに楽しめる。
一方では、アヴァン・プログレ的なスリリングなナンバーもあり、バランスのとれた高品質な作品といえる。
ドラマティック度・・8 マグマ度・・8 ミステリアス度・・7 総合・・8
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Alco Frisbass
フランスのプログレユニット、アルコ・フリスバスの2015年作
2人のマルチミュージシャンによるユニットで、やわらかなエレピの音色に艶やかなヴァイオリンが絡み、
テクニカルなアンサンブルとともに、ジャズロック的でもある軽妙なチェンバーロックサウンドを展開。
YUGENあたりにも通じるスリリングな雰囲気とクラシカルな優雅さに、エキセントリックなセンスをまぶした
緊張感と軽やかな同居したインストサウンドが楽しめる。オルガンなどを含むプログレ的な質感に
随所にメロウなギターフレーズもまぶし、10分前後の大曲も多いが、巧みな演奏力と構築力で聴かせる。
WHITE WILLOW、YUGEN、MINIMUM VITAL、STORMY SIXなどのメンバーがゲスト参加。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・8 軽妙度・・8 総合・・8
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GLAZZ「CIRQUELECTRIC」
スペインのプログレ・ジャズロック、グラッツの2011年作
アンダルシア地方のバンドで、基本はギター、ベース、ドラムというトリオ編成で、
ときにムーグを含むプログレ的なシンセやピアノ、スパニッシュギターなどを加えた、軽妙で優雅なアンサンブルを聴かせる。
本作はサーカスをテーマにしたアルバムで随所にSEやナレーションを含んだ、コンセプト的な空気感と哀愁の叙情も感じさせる。
クラシカルなヴァイオリンにピアノが絡み、技巧的なギターがまじわる味わいは、テクニカルなジャズロックにフュージョン、
室内楽を合わせたような上品な聴き心地である。一方ではハード寄りのギターを乗せたロック感触や、
ミゲル・リオスがゲスト参加した、スペイン語によるヴォーカル入りのナンバーなど、バラエティに富んだ21曲、78分の力作だ。
メロディック度・・8 ジャズロック度・・7 優雅度・・8 総合・・8
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ANGEL ONTALVA「Mundo Flotante」
OCTOBER EQUUSのギタリスト、エンジェル・オンタルヴァのソロ。2012年作
変則リズムに乗る、オルガンムーグなどのやわらかなシンセアレンジに、メロウなギターを乗せ、
ときにサックスやヴァイオリンなども加わったジャズロック的な優雅さで聴かせるサウンド。
OEのメンバーも参加しつつ、こちらはより軽妙なカンタベリー要素を強めた感触で、
インスト主体ながらも意外とメロディックに楽しめる。いくぶんエキセントリックなセンスを含めて
16分の組曲なども、難解過ぎずに構築するセンスというのは、彼の才能なのだろう。
ジャケのイメージほどにはダークではないのでご安心を。軽妙にして優雅な好作です。
メロディック度・・8 プログレ度・・8 優雅度・・8 総合・・8
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October Equus Quartet 「Isla Purgatorio」
スペインのチェンバーロック、オクトーバー・イクース・カルテットの2013年作
October Equusのギター、女性ベース、ドラムにサックス奏者を加えた編成で、
シンセではなくサックスが活躍する分、本作ではジャズロック色が増したという印象だ。
楽曲は3〜5分台と短めなのだが、変則リズムをたっぷり盛り込んだスリリングなアンサンブルは、
チェンバー系ジャズロックが好きな方にはたまらないだろう。いくぶんクリムゾン的でもある実験性と、
オールインストながらも、サックスやギターが奏でるフレーズを楽しみながら聴き入れる。
ジャズロック度・・8 チェンバー度・・7 スリリング度・・9 総合・・8
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X-LEGGED SALLY 「Land Of The Giant Dwarf」
ベルギーのプログレ・ジャズロック、X-レッグド・サリーの1996年作
4作目となる本作も、タイトなドラムにヘヴィなベースとギターを乗せ、サックス、トランペット、
クラリネットがフリーキーに絡む、アヴァンギャルドな変則ジャズロックサウンド。
テクニカルな演奏でたたみかけつつ、先の読めないスリリングな展開ととぼけた味わいで、
変態系のアヴァンロックとしても楽しめる。コミカルと哀愁が同居した1〜2分の小曲など、
アルバムとしてのメリハリという点でも面白さが増した。ブラス系大活躍の屈折ジャズロック力作。
ジャズロック度・・8 プログレ度・・8 アヴァンギャル度・・9 総合・・8
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Michael Riessler「HONIG UND ASCHE -HONEY AND ASH」
ドイツ出身のサックス&クラリネット奏者、ミヒャエル・リースラーの1998年作
L'Orchestre National de Jazz Parisにも参加していたミュージシャンで、本作はエキセントリックな女性声を乗せた
チェンバーロック的な怪しさに包まれた作風で、変則リズムまくりの緊張感の中を、クラリネットやトロンボーン、
トランペットなどが吹き鳴らされる。恐ろしくアヴァンギャルドなジャズロックなのだが、先の読めないスリリングな空気感と
得体の知れないダークなチェンバーロックが交差して、結果としてこれは…とてもプログレだろうという聴き心地なので、
MAGMAなどが好きな方にも対応。ドラムが躍動する激しいジャズロック感触に、ときにアコーディオンやヴァイオリンも加わった
一種、土着的な感触も覗かせつつ、トランペットが盛大に鳴り響き、女性ヴォーカルがフランス語の声を妖しく乗せる、
じつにアヴァンギャルドかつダイナミックな演奏が繰り広げられる。ううむ…コレはもの凄い作品ですね。
プログレ度・・8 スリリング度・・9 アヴァンギャル度・・8 総合・・8.5
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MICHAEL RIESSLER「Big Circle」
ドイツ出身のサックス&クラリネット奏者、ミヒャエル・リースラーの2011年作
サックス、トランペット、トロンボーンがけたたましく鳴り響く、冒頭の迫力から圧倒されるが、
技巧的なドラムとベースによるジャズロック的なアンサンブルに、素朴なバレルオルガンの音色が重なり、
クラリネットがフリーキーに響き渡る。厚みのあるブラスセクションとテクニカルなリズムのバトルという様相から、
バレルオルガンとクラリネットによるシンプルな音数による優雅な技巧ナンバーまで、どれも圧巻の演奏である。
随所にアヴァンギャルドなチェンバーロック風味も覗かせるところは、やはりプログレリスナー向きのアーティスト。
テクニカル度・・9 ジャズロック度・・8 スリリング度・・9 総合・・8
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CAPTAIN CHEESEBEARD 「SYMPHONY FOR AUTO-HORN」
ベルギーのプログレ・ジャズロック、キャプテン・チーズビアードの2016年作
UNIVERS ZEROのピエール・シュヴァリエも参加、二人のシンセ奏者に女性Voを含む編成で、
スペースロック的なサイケ感と軽快なジャズロックサウンドが融合した、アッパーなノリの良さで聴かせる。
トランペット、トロンボーン、サックスといったブラスが鳴り響き、男女ヴォーカルの歌声を乗せた
ゴージャスな味わいとファニーな楽しさで、ソフトなアヴァンギャルド性も含んだジャズロックを展開する。
エレピを乗せたカンタベリー風味の優雅さや、ゆったりとした大人のジャズ風味も覗かせる、玄人好みの逸品。
軽妙度・・8 プログレ度・・7 愉快なジャズロ度・・9 総合・・8
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KARMAKANIC「WHEEL OF LIFE
スウェーデンのシンフォニック・ジャズロックバンド、カーマカニックの2nd。2003年作
THE FLOWER KINGSヨナス・レインゴールドを中心にしたバンドで、
軽快なジャズロック調のサウンドに、メロディアスなシンフォニックロックの味付けをしたという雰囲気。
フラキンでも見事なドラムを聴かせた、ゾルタン・チョースと、ヨナスのリズム隊は息の合ったアンサンブルを生み出し、
長い曲でも意外にさらりと聴かせてくれる。全体的にも優雅に聴ける北欧シンフォプログレ風のジャズロックの感触で、
歌入りの曲はまるでフラキンのようだ。ロイネ・ストルト、トマス・ボーディンらもゲスト参加。
メロディアス度・・8 テクニカル度・・8 優雅度・・8 総合・・8
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Farmers MarketSurfin' USSR
ノルウェーのアヴァン・トラッド/ジャズロックバンド、ファーマーズ・マーケットの4th。2008年作
Stian Carstensenのソロ的な色合いが強かった前作から8年ぶりとなる本作は、
タイトルからして“サーフィンUSA”をもじった強烈なブラックジョークなのだが、サウンドの方は
ハネるリズムの上に、アコーディオンとサックスが鳴り響き、そこに異国的なタブラなども加わって、
相変わらず一種奇妙なアヴァン・ジャズロックを展開。おちゃらけたギャグに本気で取り組む姿勢は
ALAMAAILMAN VASARATなどに通じるものがあり、どことなく哀愁があるのもまた同様。
プログレ度・・8 軽妙度・・9 変態度・・8 総合・・8
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Diablo Swing Orchestra「Sing Along Songs for the Damned & Delirious」
スウェーデンのプログレ・ジャズメタルバンド、ディアブロ・スウィング・オーケストラの2nd。2009年作
今作はジャケからしてユーモアたっぷりだが、サウンドの方もさらなるジャズとメタルの自然の融合がなされている。
ハネるリズムの上にザクザクとしたギターとサックスが絡み、そこに男女ヴォーカルが絡む濃密な作風で、
演奏自体のレベルも上がってきており、メタリックなスウィングジャズとしての完成度が無駄に高まっている。
軽やかなピアノの音色やら、ヴイヴイいわせるベースの巧みさやら、部分ごとの説得力が大変素晴らしく、
本気ジャズ的メタル遊び…ともいうべき強固な世界観に磨きがかかっているばかりか、
低音の男声とオペラティックな女性声という対比がコントラストとなって、作品としてのテンションも増している。
変態…というにもあまりに高い完成度と天晴れなまでの真摯な遊び心。敬服するしかない強力作である。
ジャズメタル度・・9 スウィング度・・8 女性Vo度・・7 総合・・8.5
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REFORM 「Reveries of Reform」
スウェーデンのプログレバンド、リフォームの2011年作
CD2枚組で、エレピを含むやわらかなシンセにメロウなギターを乗せて、カンタベリー的な優雅さを感じさせる、
インストのシンフォニックロック。北欧らしい涼やかな叙情美に包まれたやわらかなメロディが心地よく、
CAMELをアンビエントなジャズロック寄りにしたという雰囲気もある。北欧を代表するシンセ奏者、
RALPH LUNDSTENがアレンジを務めていて、軽妙なアンサンブルと幻想的な空気が絶妙に同居。
ロイネ・スルトばりのギターフレーズもよろしく、まさに「カンタベリーな北欧シンフォ」というべき逸品です。
メロディック度・・8 優雅度・・9 北欧度・・9 総合・・8
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Raoul Bjorkenheim, Bill Laswell, Morgan Agren 「Blixt」
ノルウェーのアヴァン・ジャズロック、SCORCH TRIOのギタリスト、ラウル・ビョーケンハイムと
Mats/Morganのモルガン・オーギュレン、そしてアメリカの大御所ベーシスト、ビル・ラズウェルによるユニットの2011年作
それぞれが鬼才というべき強烈な個性を持ったプレイヤーによるトリオであるから、当然のように超絶なバトルと、
テクニカルなアンサンブルでたたみかける。フリーなジャズロックといえばそれまでだが、型にはまらない奔放なギターに、
軽やかにして攻撃的なモルガンのドラム、そしてどっしりとしたベースを響かせるビルによるインタープレイは、
息もつかせぬ緊張感で、もはやジャンル分け不能。アヴァンギャルドでフリーキーでありながら、不思議とアンサンブルの一体感が
楽曲に方向性を与えていて、決してごちゃごちゃな感じにはならないところは、各メンバーのセンスと素養の豊かさだろう。
演奏度・・9 テクニカル度・・9 アヴァンギャル度・・8 総合・・8
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PANZERPAPPA 「Pestrottedans」
ノルウェーのチェンバー・ジャズロック、パンザーパッパの2016年作
結成は90年代というバンドで、ムーグなどのプログレ的なシンセにサックスが鳴り響き、
わりとメロディックなギターフレーズを乗せた、ジャズロック色もある軽妙なサウンドを聴かせる。
とぼけた味わいはSAMLA MAMMAS MANNAにも通じる雰囲気で、カンタベリー的な優雅さもある。
ベースとドラムの生み出すわりとストレートなノリの良さと、屈折感をほどよく同居させたセンスもなかなかで、
アヴァンギャルド過ぎずダークな要素も薄いので、チェンバー・ジャズロック初心者にも聴きやすい作風だろう。
オールインストで演奏が流麗なため、聞き流してしまいそうになるのだが、アンサンブルのレベルは高く、
メロディも分かりやすいためキャッチーな爽快さもあって、軽快なプログレ・ジャズロックとしても楽しめる。
メロディック度・・8 チェンバー度・・7 ジャズロック度・・8 総合・・8
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Birds and Buildings「Bantam to Behemoth」
アメリカのプログレバンド、バーズ・アンド・ビルディングスの2008作
Deluge GlanderのKeyによる別バンドで、浮遊感のある軽妙なプログレサウンド。
テクニカルなリズムの上をメロトロンが鳴り響くクリムゾン風味とともにフリーキーなサックスが加わると、
軽快なジャズロック風にもなる。9分以上が5曲と長曲揃いだが、雰囲気で聴かせられる器の大きさが感じられ、
一筋縄でいかないサウンドながら、その演奏に思わず引き込まれてしまう。メロトロン入りの変態的ジャズロックでもあり、
サックス入りのヘヴィシンフォでもあり、これをMAGMA+KING CRIMSONといっていいものか。
そして、最近気づきましたが、このジャケはボッシュの絵画「快楽の園」の一部なんですね。
シンフォニック度・・7 ジャズロック度・・8 プログレ度・・8 総合・・8
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INNER EAR BRIGADE「Rainbro」
アメリカのプログレ・ジャズロック、インナー・イヤー・ブリゲイドの2012年作
オルガン、ムーグ、メロトロンを含むシンセに、やわらかなギターと女性ヴォーカルの歌声を乗せた、
カンタベリー的な優雅さに、エレクトロなアレンジを加えた、エキセントリックなアヴァンジャズロック。
サックスやクラリネット、トランペットの音色が、ときにチェンバーロック的な感触をかもしだしつつ、
決してダークにはならない、あくまでキャッチーで軽妙な聴き心地。この優雅なアンサンブルは、
National Healthにも通じるが、こちらはさらに確信犯的な屈折感が加わっているのが特徴だろう。
女性声の妖しさという点では、Kultivatorなどが好きな方にもお薦め。聴きやすさとマニア好みが同居した逸品です。
メロディック度・・8 プログレ度・・8 優雅で軽妙度・・9 総合・・8
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MICHAEL BERNIER/RITCHIE DeCARLO
パーシー・ジョーンズ、リッチー・コッツェンともコラボしたドラマー、リッチー・デ・カルロと、
STICK MENでも活躍するスティック奏者、マイケル・ベルニエのユニット。2015年作
ギターとも思えるエフェクトのかかったスティックサウンドと低音のベースサウンドを
手数の多いダイナミックなドラムに乗せた、ジャズロック、ハードフュージョン的なサウンド。
ヴァージル・ドナーティばりのセンスで、テクニカルな変則リズムを叩き出すドラムに、
ギターばりに弾きまくるスティックワークはときにヴァイオリンのような音色にも変化する。
超絶テクニックのナンバーも圧巻で、スティックの可能性を感じさせる強力作だ。
テクニカル度・・9 プログレ度・・7 スティック度・・9 総合・・8
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Mahogany Frog「DO5」
カナダのプログレバンド、マホガニー・フロッグの2008年作
ギター&シンセ奏者、ベース、ドラム、トランペット奏者という4人編成で、わりとハードなギター乗せた
ジャズロック風味の軽快なアンサンブルに、オルガンやミニムーグといったヴィンテージなシンセが合わさった、
インスト・プログレサウンド。テクニカルであっても、メロディのフックがあるのでプログレとしても聴きやすく、
適度にヘヴィ寄りのギターがサウンドに厚みを持たせていて、インストながらもどっしりとした感触である。
シンセが前に出るパートではシンフォニック系プログレの感触もあって、そこにトランペットの音色が加わると、
ぐっとドラマティックな雰囲気になる。ドカドカとしたドラムも含めて、テクニカルプログレとしてのアッパーなノリは
アメリカのMASTERMINDにも通じるものもある。ヘヴィなプログレ、ハードなジャズロックとしても楽しめる力作だ。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 わりとヘヴィめ度・・8 総合・・8
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Karcius 「Episodes」
カナダのプログレ・ジャズロック、カルシウスの2008年作
ギター、ベース、ドラム、シンセの4人編成で、美しいピアノ&シンセにメロディックなギタートーンを中心にした、
優雅なアンサンブルを聴かせるインストサウンド。適度なテクニカル性と即興的な緊張感も覗かせつつ、
技巧的になりすぎで、あくまでメロディ重視であるところには好感が持てる。どっしりとボトムを支えるベースの存在感や、
メロウなフレーズとロック的な荒々しさを兼ねそろえたギターのセンスも見事。3パートに分けられた30分超の組曲も、
メリハリある展開でインストながらも決して飽きさせない。後半の楽曲はオマケ程度に感じるが前半の組曲だけでも必聴。
メロディック度・・8 プログレ度・・8 テクニカル度・・8 総合・・8
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Media Banda「Dinero Y Terminacion Nerviosa」
チリのチェンバー・ジャズロック、メディア・バンダの2008年作
FULANOのサックス奏者と女性Voを中心に結成されたバンドで、本作は2作目となる。
「金と神経質な完成」と題されたCD2枚組の大作で、軽妙なアンサンブルにサックスが鳴り響き、
オルガンやエレピを含むシンセにキュートな女性ヴォーカルの歌声を乗せたキャッチーな感触と、
テクニカルなジャズロック風味が合わさったスタイル。ザッパ的でもあるアヴンギャルドな感触を優雅に溶け込ませつつ、
あくまで軽やかな聴き心地は、カンタベリー系のジャズロック的でもある。エキセントリックなセンスを覗かせながら、
南米のバンドらしいやわらかな聴き心地が特徴的。優雅なアヴァンロックであり、女性声ジャズロックとしても楽しめる傑作だ。
メロディック度・・8 プログレ度・・8 優雅で軽妙度・・9 総合・・8
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FULANO 「Animal en Extincion」
チリのアヴァン・ジャズロック、フラノの2016年作
CONGRESOのメンバーを中心に1987年にデビュー、1997年までに4枚のアルバムを残すも、2003年にシンセ奏者が死去、
バンドは解散状態となっていたが、ここにきて19年ぶりとなる5作目を発表。「絶滅動物」というタイトルの本作は、
やわらかなフルートにピアノ、サックスを乗せた、優雅なアンサンブルから、リズムチェンジを含むアヴァンギャルドな展開力に
チェンバーロック的でもあるスリリングな空気感をまとわせた、個性的なプログレ・ジャズロックを聴かせてくれる。
スペイン語による女性ヴォーカルも妖しく、そして美しく、ときにMAGMAを聴いているかのようなスケール感にも包まれる。
ザッパをルーツにした軽妙な意外性と、南米らしいやわらかな叙情が合わさった、まさにアヴァン・ジャズロックの力作。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・8 優雅で軽妙度・・9 総合・・8
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DISCUS「1st」
インドネシアのプログレバンド、ディスクスの1st。1999年作
先に2nd「...tot licht!」を聴いていたのでもう驚きませんが、このデビュー作もなかなか。
矢継ぎ早の変態的な展開とメタリックな大仰さではさすがに大傑作の2ndに及びませんが、
それでも、十分に質の高い民族調プログレ・ジャズロックといった感じです。
ガチャガチャとたたみかけると思えば、美しいフルートがたおやかに鳴ったり
優しげな女性Voがうっとりとする歌声を聴かせてくれたりと、やはり無節操でステキ。
艶やかなヴァイオリンとアコースティックギターが奏でる叙情性にもうっとりとなる。
ラストの12分の大曲はプログレとしての彼らの魅力が炸裂。オフィシャルサイトで試聴可能
メロディアス度・・8 プログレ度・・7 ごった煮度・・8 総合・・8
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ANANE「The Evolution Ethnic」
インドネシアのプログレバンド、アナネの2005年作
7人編成+ゲスト2人という大所帯のアンサンブルで、ごった煮感のあるジャズロックサウンドを繰り広げている。
荒々しいエレキギターにサックスが絡み、ガムランやケチャを思わせるコーラスがかぶさりつつ、
2曲目では瑞々しい女性ヴォーカルを乗せて、まるでサムラあたりを思わせる土着ロックとなる。
シンセにフルート、チェロ、パーカッションなども加わって軽快なノリとともに、濃密な民族性とエネルギーが合わさったサウンドはとても個性的。
DISCUSでも聴かれたインドネシア特有の混濁感と構築性がここにもあり、勢いの中にも人間的な叙情を有していて、なかなか飽きさせない。
祭りのような熱気を帯びた、民族プログレロックとして大変楽しめつつ、曲によってはチェンバーロック的なシリアスさも聴かせてくれる。素晴らしい傑作。
メロディアス度・・7 民族度・・9 ハレの熱気度・・10 総合・・8.5
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Dewa Budjana「Dawai in Paradise」
インドネシアのギタリスト、デワ・ブジャナの2011年作
インドネシアを代表するロックバンド、GIGIのギタリストで、本作は過去のソロ作からのセレクトに
新曲を加えてのメジャーデビュー作。モダンなシンセアレンジにメロディックなフレーズも織り込んだ
巧みなギターワークで、インストによる優雅なフュージョン・ジャズロックを聴かせる。
どっしりとしたベースと手数の多いドラムによる強固なアンサンブルも含めて、演奏力は世界レベル。
随所にシンセギターも使った華やかな聴き心地や、民族的なメロディを奏でる叙情性に、
やわらかなピアノで聴かせる優美なジャズナンバーもあったりと、オールインストでありながら、
起伏に富んだアレンジも見事。これぞ、インドネシアのホールズワースという見事な内容だ。
メロディック度・・8 テクニカル度・・8 優雅度・・9 総合・・8.5
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■日本のプログレ・ジャズロック

SPACE CIRCUS「FANTASTIC ARRIVAL」
日本のプログレ・ジャズロックバンド、スペース・サーカスの2nd。1979年作
軽快なリズムの上を、ギターが分かりやすいメロディを奏でるのはフュージョン的ながら、
シンフォニックでスペイシーなキーボードワークに、うねりの効いたベースサウンド、
キレの良いドラムが合わさり、テクニカルなプログレ・ジャズロックとしても楽しめる。
オールインストながら、演奏技術とメロディの質がきわめて高いので、とても聴きやすく、
日本人らしからぬ解放感をともなったサウンドは、79年という時代的に見ても素晴らしいクオリティ。
3曲目などでは美しいヴァイオリンも顔を出し、シンフォニックロック的にも聴きどころは多く、10分を超える2曲の大曲も見事。
メロディアス度・・8 テクニカル度・・8 フュージョン・ジャズロック度・・8 総合・・8.5
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KENSO
日本のプログレバンド、ケンソーの1985年作
バンドのメジャーデビュー作となる3作目。サウンド的にはよりジャズロック寄りの聴き心地になり
テクニカルなリズムチェンジに美しいシンセアレンジも含めて、よりスタイリッシュな感触である。
前作のようにインパクトの強い名曲というものがないぶん、やや地味な印象なのだが、
巧みな演奏に、サウンドメイキングともにクオリティ的には着実に進化してきている。
いわばPFMをフュージョン化したような雰囲気も感じさせ、叙情的なフルートの小曲など、
コンパクトな楽曲の中に質の高さというものが光る好作品である。
メロディアス度・・8 プログレ度・・8 軽妙度・・9 総合・・8
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AIN SOPH「帽子と野原/Hat and Field」
日本のプログレバンド、アイン・ソフの2nd。1986年作
シンフォニックな感触の1stに比べて、本作は、Hatfield and the Northからとったタイトルのように、
いわゆるカンタベリー色を濃くした、優雅なプログレ・ジャズロックを聴かせる。
軽やかなリズムに乗るメロディアスなギターと美しいシンセで聴かせるインストサウンドは、
西洋のジャズロックとはいくぶん趣の異なる、いわば日本人らしい繊細さに溢れていて、
10分を超えるタイトル組曲の優雅な美しさには何度聴いてもうっとりとなる。
テクニカルな構築力とともに、うっすらとしたシンフォニック性も残した傑作に仕上がっている。
シンフォニック度・・8 ジャズロック度・・8 優美度・・9 総合・・8
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KENNEDY「Kennedy!」
日本のプログレバンド、ケネディのライブアルバム。1987年作
スタジオアルハム発表の翌年、1987年に大阪で行われたライブを収録したのが本作である。
ギターの泉陸奥彦を中心に、ドラム、キーボード、サックスという4人編成で、きらびやかなシンセを乗せた
シンフォニックなアレンジと、ジャズロック的な軽妙なアンサンブルで構築されるインストサウンドが展開される。
スタジオアルバム「Twinkling Nasa」からのナンバーもより躍動的に、たたみかけるような演奏が味わえる。
泉氏のギターは、ときに破天荒な即興を含んだ聴き手を惹きつけるパワーに溢れ、勢いのあるアンサンブルは
単なるプログレや、ジャズロックの域を超えた個性的なバンドであったことが窺い知れる。
Mahavishnu Orchestraの「火の鳥」を取り上げるなど、自信に満ちた濃密なライブが堪能できる。
メロディアス度・・8 テクニカル度・・8 ライブ演奏・・8 総合・・8
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高円寺百景 「NIVRAYM」
日本のプログレバンド、こうえんじひゃっけいの2001年作
3作目となる本作も、吉田達也のドラムに、うねるベースを乗せた生々しいアンサンブルに、
コバイヤンな妖しいコーラスを乗せた、「日本版MAGMA」というサウンドを聴かせる。
曲によってはエキセントリックな女性声も加わって、ますます妖しさに磨きがかかる。
ルインズやズビズバなどで培った(?)アヴァンギャルドな感触が加わってきたことで、
本家マグマ以上にフリーキーな荒々しさを感じさせる。オルガンが鳴り響くファンキーなノリの
ジャズロックナンバーなども含めて、節操のなさこそ魅力というような力作である。
ドラマティック度・・7 アヴァンギャル度・・8 マグマ度・・8 総合・・8 
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IGZIT-NINE
日本のプログレ・ジャズロックバンド、イグジット・ナインの2003年作
KENSOあたりにも通じるインストのジャズロックで、軽快かつテクニカルなサウンド。
変拍子リズムを多用しながらも、分かりやすいギターメロディが主導なのでとても聴きやすく、
ハードめのメロディアスなフュージョンとしても楽しめる。ジャズロックとしては軽すぎない適度なヘヴィさもあり、
ロックとしての硬質さと、キーボードを含めての音の重ねによる空間的なサウンドが特徴的。
プログレファン向けのジャズロックとしてはとても出来のいいアルバムだ。
メロディアス度・・8 プログレ度・・7 テクニカル度・・8 総合・・8
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*チェンバーロック特集
*オルガンロック特集
*テクニカルプログレ&メタルフュージョン特集


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