シンフォニックレジェンズ
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「ぐうううあ……な、なんだ……これは」
王子の背に突き刺さった剣は徐々にその体深くめり込んでゆく。
「苦しい……こんな……馬鹿な。お前か……お前が」
「うああああああ」

絶叫とともに強く、まばゆい光を放つライファンの体。
そしてその輝きは今、王子の背を貫いた剣の光りと融合しようとしていた。
「やめろ。もうやめろ!」
王子はライファンの肩をつかみ、その喉元に食らいつこうとした。
しかしそれはできなかった。
ぐぼっ、と王子の胸から剣先が突き出した。
剣は背中から王子の体を突き抜けたのだ。
「ぐああああっ!」
そしてその光る剣先は王子の体もろともライファンの胸に突き刺さった。
「やめろ……やめろおおっ」
王子の悲鳴とライファンの絶叫が入り交じり、あたりの空気が揺れ、がらがらと塔の外壁が崩れだした。

「おおおおおあああぁぁ」

王子の体を突き抜けた剣は、青い光となってライファンの胸に吸い込まれていった。
ライファンの輝きが剣の輝きと一つに合わさった。

「ううう……うーっ……、何が……起きたのだ。何が……」
王子の体は激痛に耐えかねたかのように、再び変形し竜人の姿になっていった。
叫びがやみ、ライファンの体は輝きを増した。
そして
「彼」は静かに目を開けた。

その瞬間、王子が再び悲鳴を上げた。
王子の左腕が肩から吹き飛んでいた。
「ぎゃああああっ」
かっと開かれたライファンの目が青々と燃えていた。
髪は黄金色に逆立ち、全身に陽光のような輝きをまとい。
その右手には青くまぶしい光をを放つ剣を握って。
「それが……真のスカイソード……。ついに覚醒したというのか。まさか我が結界の中で……フ、フハハハハ……」
再び竜人と化した王子は、斬られた左肩からどろりとした黒い血を流しながら、目の前に立つ少年に対峙していた。
「まさか、スカイソードが鍵になっていたとはな。それとも……あの王女の言葉か」
ライファンは無言で飛び上がると、凄まじい速さで剣を振り上げた。
「我の体を傷つけられる剣か。面白い。しかし、忘れるな今は夜。月が出ているかぎり、しょせん陽光の力では我は倒せぬわ」
竜人は残った右腕を振りかざし、その鋭い爪をライファンに向けた。
ライファンの振り下ろした剣が青く光った。
光の剣が、竜人の右手に深々と食い込んだ。
「馬鹿な!我の体を……う」
竜人は天を仰いだ。

「月が……」
夜空に月は、なかった。
「ないいいぃぃぃ!」


それまで雲一つなく、頭上に光っていた月は消えていた。
叫びを上げる竜人の頭を、剣は青い光の尾を引きながら両断した。
「ぐうおおおおぉぉぉぉ」

絶叫があたりにつんざいた。
そしていま
太陽が昇りはじめていた。
東の空から。

「馬鹿なぁぁあ!……月を追いやり、太陽を呼ぶとは。これが……太陽神の力か……」
天井の崩れ落ちた塔の一室に、一番目の陽光が差した。
「ひいいい。サリエル様、結界が消えますぅ。このままでは私も、私もぉぉぉ……」
ドロドロと、竜人の体が崩れはじめた。
その横でのたうち苦しむダイモンのその黒い体も、熱に溶かされるようにやがてぐずぐすと崩れていった。

(うがあぁぁ……、こ)
(これで……我を倒したと思うなよ……小僧)
唸りとも叫びともつかぬ耳障りな轟音のなかで、ライファンの耳に魔神の最後の言葉が響いていた。
(……必ず貴様ともども、太陽神も……いつか……)
声が消えた。
それとともに何かが天に向けて飛び出してゆくような、巨大な邪悪なものが吹き飛んでゆくような気配を、ライファンは感じた。
床には崩れた竜人と魔物の体がとろどろと広がり、やがて吸い込まれるようにそれも消え、黒いしみとなった。
バサッバサッと、どこかで大きな鳥が飛び立つような音が聞こえた。

そして
朝が来た。
空はしだいに青さを増し、東の山間から昇ってゆく太陽は、この怪しい一夜をきれいに消し去るように輝きはじめていた。
ライファンは床に落ちた鞘をひろい、剣を収めた。
薄汚れていたはずの剣鞘は、新たな剣の誕生を祝福するようにぴかぴかと紺碧の色に光っていた。

(よくやったねライファーン)
声がした。
(でも、これであいつがいなくなったとは思わない方が良いよ)
ライファンの頭の中で響くのは、この城に入るときに聞こえたあの声だった。
ほっとしているような安堵を含んだその声の主を、ライファンはもう知っていた。
いや、思い出したのか。
驚くこともせず、にっこり笑ってうなずいた。
(ライファーン。目覚めたのかい?)
「たぶんね。君は?もう行ってしまうのかい」
(ああ。まだ君の罪は許されたわけじゃない、私はセレネ様の命で君を見に来ただけだからね。でもまたきっと会うことがあるよ)
「そうか。それじゃまたね。クピード
(またね。ライファーン。その王女様にもよろしく。彼女は人間にしては私が見たなかで一番素敵なお姫様だったよ)
「ああ……」
ライファンは目を閉じ、精霊が帰ってゆくのを感じていた。
そして再びその目を開くと、崩れかけた壁の前に横たわる彼が守るべき主に近づいた。

「王女様」
ひざまずいて、その耳にささやくように声をかける。
王女は瞼を閉じたまま、じっと動かない。
その体を静かに抱え起こすようにして王女の頬に手を当てた。
じっと覗き込むように美しい王女の顔を見、そして、彼はやさしくその唇に唇を重ねた。
きらきらと、淡い黄金色の光が、王女の体を包みはじめた。
「王女様……クシュルカ様」
もう一度呼ぶと、王女の瞼がかすかに揺れ、ゆっくりと開かれた。
「ライ……ファン」
「王女様」
王女の目がしっかりとライファンを見た。
透き通った瞳が、自分を抱き起こす少年を前に嬉しそうに輝いた。
「ご無事で……」
「あなたも……」
王女は微笑んだ。その瞳に涙のあとを残しながら。
「クシュルカ様……僕は……」
「何も言わないで。知っています。ライファン……いいえ、ライファーンですね。ずっとあなたの声は聞こえていました。体は動けなくとも、あなたの言葉は私には聞こえていました」
「クシュルカ様……」
ライファンは驚いたように王女を見つめた。
「太陽神の力をもった、デッラ・ルーナに守られた少年……」
ライファンの黄金色に輝く髪と空の色をした青い瞳を見ながら、王女は不思議そうにつぶやいた。
「ありがとう、ライファーン。私たちを助けてくれて」
「いいえ……いいえ」
ライファンは首を振った。
「ぼくはそんなのじゃありません。ライファーンじゃなくライファンです。王女様をお助けに来た騎士です。それに、……それに助けられたのは僕です。あの時、僕の心を呼んでくれた。動けないはずのお体で、僕の剣を持って……。……僕のほうこそ、約束したのに……王女様を……クシュルカ様をお守りするって……それなのに……王女様をこんな目に……、アダラーマの人達にもひどいことを……」
王女はうつむくライファンの手を握った。
「いいえ。あなたは立派に守ってくれました。その太陽の力で。そしてあなたの勇気で」
「クシュルカ様」
「あなたは、太陽の騎士です」

東の空から昇る朝日が二人を照らした。
崩れかけた塔の最上階に陽光が注ぎ、抱き合う二人の、長い影をつくっていた。
明けぬかと思われた暗い夜が終わった。
朝が、来たのだ。





「いったいどうしたんだ?」
騎士隊長ラガルドは剣を鞘に収めながらつぶやいた。
「隊長」
そばでずっと激しく戦っていたレアリーも、奇妙な面持ちでそばに来た。
「どうしたのでしょう?敵兵士が……」
「分からん」
周りの騎士たちも一様に剣を振り上げたその手を止め、互いに首をかしげ合ったり、周りを見回していた。
最後の城壁だった宮廷の大門が崩され、敵骸骨兵たちが一斉に城内になだれ込んだはずだった。
騎士たちも、城内に逃げ込んだ市民たちも、その瞬間絶望に顔をゆがめ、神に祈るのが精一杯だった。
そして数千の骸骨騎士たちが、アダラーマの王城に一気に押し寄せてきたのだったが。
その骸骨達が、
「動きません。まったく。どうやら他の場所でも同じようです。報告の騎士たちも皆不思議がっています」
「ううむ。いったいどういうことなんだ」
隊長はさんざん骸骨騎士を相手に戦って、歯のこぼれた剣を手にしたままで首をかしげた。
朝日が昇った瞬間だった。
骸骨騎士たちがぴたりとその動きを一斉に止めたのは。
それまでゆっくりとしかし確実に「ザッザッ」と不気味な足音を立て、まったく恐怖の色も見せずに押し寄せてきた骸骨たちは、今やまるでその場で固まるようにその動きを完全に止めていた。
「動く様子はまったくありません。どういたしますか?」
騎士たちから指示を仰がれて、ラガルドは困り果てた。
「とにかく……しばらく様子をみるのだ。とりあえず今のうちに負傷者の手当てと、交代で休息を……」
隊長が言いかけたとき、城壁の上の見張り騎士が奇妙な声を上げた。
「どうしたっ!」
「隊長。……なにかが、空から来ます」
「なんだと?」
「西の空から……あれは、……ラダックのようですが」
「ラダックが空を飛ぶか。馬鹿。しっかりしろ」
隊長は城壁の騎士にどなった。しかしすぐに自分も城壁に上がりはじめた。
レアリーもその後に続いた。
「隊長、あれです」
「なに……あれは……あ」
城壁の上で隊長は手をかざして、騎士が指さす方向を見た。
晴れ上がった青空に、昇りゆく太陽。
そしてその太陽の光を受けてこちらに飛んでくるものがあった。
「ラダック……です。それも……その背に誰かが」
レアリーも認めた。確かに空を飛んでいるのは、普通なら二本足で砂漠を歩くそのラダックだった。
「そんなことが……」
あっけにとられるように手をかざして空を見つめる隊長の横で、レアリーがはっとしたように声を上げた。
「どうした、レアリー」
「ああ……まさか!……まさか、あれは……」
他の騎士たちもそれに気づきはじめていた。
さっきまで必死に戦っていた騎士たちは、皆西の空を見上げて指さしたり、わらわらと城壁に上って来ようとしていた。
朝日を正面に浴びながら、こちらに向かうそれは、しだいに大きく見えていた。
「ラ……ライファン!」
レアリーはたまらず声を上げた。
「なんだと?」
仰天したように隊長はレアリーを振り返った。そして再び空に目をやる。
今やはっきりと見えた。
空を飛んでくる一頭のラダック。そしてその背に乗る人間の姿が。
「乗っているのはライファン……なのか?」
隊長は目を細めて、信じられぬような面持ちで空を見上げていた。
「王女様も……クシュルカ様もいます!」
レアリーは剣を取り落とし、両手を口に当て叫んだ。
城壁に昇ってきた騎士たちは、皆空を指さし、口々に叫んだ。
「王女様だ!」
「飛んでくるのは王女様だ。ラダックの背に乗っておられる」
「ラダックが飛んでいるぞ!」
「ライファンだ」
「ライファンが手綱をとっているぞ!」
「ライファンが……戻ってきたんだ!」
そして騎士たちの声は、城壁の下へ、城内の人々へと伝わっていった。
「ライファンだって?」
「王女様が戻って来られた!」
「ラダックに乗って飛んでくるんだってさ」
「本当かよ?」
「行こうぜ」
王城の門が開き、今まで城中にこもっていた人々……騎士たち、貴族たち、女官たちも皆、恐る恐る外へやってきた。
そして空を見上げて「あっ」と叫び、その後は皆我を忘れて城壁の方へ集まってきた。

「ライファン!」
「クシュルカ様、ご無事で!」
朝日を浴びて空を飛んでくるラダック。その背に乗る騎士と王女。
そのまるで神話のような、物語の中のような光景に人々は見入っていた。
「帰ってきた……。ライファン……ああ」
レアリーは思わずその場に座り込みそうになった。
隊長がそれを支えた。
「こっちに来る」
二人の乗ったラダックは、天からの使者のように、城壁の方に舞い降りてきた。
ラダックの上でライファンは剣を抜いた。
空に突き上げるように高々とかざすと、剣は朝日を浴びてまぶしく光り輝きはじめた。
人々があっという間もなかった。
動きを止めていた城壁の周りの骸骨騎士たちは、その剣の光を浴びると次々にその場に崩れ、砂になってしまった。
数千の敵兵士は一瞬にして姿を消した。
人々があっけにとられるなかを、ラダックが降りてきた。
その周りを騎士たちが取り囲む。
レアリーは目を見張った。
ラダックから降り立ったライファンの髪は、黄金色に輝いていた。
それだけでなく、その体も、手に持った剣もがまぶしい光を放っているように見えた。
ライファンが王女の手を取った。
二人は城壁の上に降りた。
「……ライファン」
走り寄ってきたレアリーに気づいたのか、ライファンはそちらを見てにこりと笑った。
「クシュルカ王女殿下。ご無事で」
進み出た隊長が、うやうやしくひざまずいた。
「心配をかけました。この通り私は大丈夫です。そして悪も消えました。すべてこのライファンのおかげです」
王女は晴々と言った。
プラチナの髪が陽光にきらめいた。
着ているドレスはところどころ破れ、その頬には擦り傷もあったが、それでも王女の顔は誇りに満ち、美しかった。
隊長はそんな王女とライファンとを見比べながら、驚きを隠せぬ震える声で尋ねた。
「悪とは……いったい……、それはあの骸骨騎士のことなのでしょうか。それにバルサゴ王国はどうなったので……」
「それはあとあとお分かりになるでしょう。とにかく……」
隣のライファンを見てうなずきかけ、それから城壁の上に集まった騎士たちに微笑みかけるようにして、
「危機は去りました。アダラーマのために戦った騎士たち、勇敢なる市民たち、すべてに……」
王女は両手を広げ、そして言った。
「祝福を」

王女の言葉に騎士たちは一斉に喝采した。
拍手と歓喜が爆発した。
騎士たちの叫びは、城壁の下にも伝わり、そしてすぐに城内すべてに広がっていった。
「王女様はご無事だ!」
「敵は滅びた。勝ったんだ!」
「助かったんだ」
「アダラーマ万歳」
「万歳」
「王女殿下万歳!」

城内は騎士たち市民たち、貴族たちも入り乱れて歓呼に沸きかえった。
もはや危険は去ったと安心して王城の中からもぞくぞくと人々が出てきた。
騎士たちは剣を地面に突き刺し、友人と抱き合った。
女官たちは普段は見も知らぬ市民たちに片端から飛びついて、その頬にキスをした。
へたへたと座り込む貴族もいた。
勇ましく戦っていた貴族は王女に捧げる剣を天に向けて高々と突き上げた。
祝いの酒を振る舞おうと、下男や侍女たちは葡萄酒の樽を運びはじめた。
傷ついたものは、横たわったまま看護人に抱きしめられた。
立っていたものは皆王女のいる城壁の周りに集まった。
そして手を振り、拳を上げて「王女万歳」を唱えた。

「近衛騎士ライファン。王女殿下をお連れし、ただいま帰参いたしました」
右手を胸に置き騎士の礼をするライファンを、隊長は不思議そうに見つめた。
「ライファン……お前はいったい……」
輝く剣も、黄金色になびくその髪も、以前のライファンにはなかったものだった。
しかしその陽光のような笑顔は、それがいつもの彼のままであることを示してもいた。
「その……剣は……?それに、骸骨どもも消えて……。いや、そうだ、それより空を飛んで……。そのラダックが……」
何から聞いていいものかわからぬような隊長の様子に、ライファンはにこにこと笑顔で言った。
「僕はライファンですよ。ただの騎士の。それだけです」
隊長はぽかんとしたままうなずいた。
横にいたレアリーは何も言わず、涙をこらえるようにただじっとライファンを見つめるだけだった。





「太陽神の血を受け継ぐもの。そして大いなるデッラ・ルーナに祝福されしその剣を振るうもの。伝説のスカイソードマスター、そして我がアダラーマの騎士ライファンよ」
王宮の一角、かつて王女の誕生日を祝ったその大広間に、国王ケンディス二世の言葉が響いていた。
居並んだ人々は厳粛な面持ちで、国王とその前に立つ一人の少年を見つめている。
「そなたの勇敢なる働きは、アダラーマのみならずこのシンフォニアすべてにとっての幸甚である。その勲功著しく、我アダラーマ王ケンディスの名においてここに賞辞を贈る」
騎士の正装に身を包んだライファンが、宝玉の入った聖騎士の剣を国王から授けられると、人々はいっせいに拍手した。
王女を救い出し、また王国と大陸の危機を救った功績により、ライファンは貴族としての大いなる地位と、騎士の最高位である聖騎士の名を与えられた。
人々の拍手の鳴りやまぬなか、美しく清潔そうなサテンのドレスに身を包んだ王女が、ライファンの前に立ち貴婦人の礼をした。
奴隷の身であったライファンが、いまや王女と同じ場所に立ち、その謝辞を受ける身になったのである。
嬉しそうに頬を染めたのは王女の方だった。
国王もそんな王女の様子を見ながら、席に着いてからも楽しそうに何事かを臣下たちと話していた。

儀式のあと祝宴が始まった。
豪勢な食べ物、飲み物が盛大に並べられた。
楽隊が歓喜の曲をかなで、人々は互いに手を取り合い、ポルカを踊り、歌った。
王も大臣も、貴族も騎士たちも、みな一緒になって飲み、騒ぎ、また祝杯を上げた。
一人の少年騎士が王女と王国を救い、ここに凱旋したのだ。
これはアダラーマ始まって以来の英雄の誕生であると人々はライファンの聖騎士の叙爵を歓迎した。
それも太陽神の血を引き継ぐ聖騎士の誕生である。
誰もがこの新しい歴史的な伝説に熱狂をしていた。

ライファンはしかし旅支度を終えていた。
彼は一人こっそりと、これからがたけなわという宴の喧騒から抜け出した。
それに気づいたのはレアリーだった。
祝宴の席でもずっと少し離れてライファンを見ていた彼女である。
ライファンがひそかに広間を出るのを見つけると、すぐに後を追った。

授かったばかりの聖騎士の宝剣を、回廊の円柱に立てかけると、ライファンは自らの剣と革袋一つの荷物だけをもち歩きだした。
城の裏手にはバルサゴからともに戻ってきたラダックがつないである。
もはや自分はこの国にいるべきではないと彼は考えていた。

回廊の途中で、
ライファンははっとして立ち止まった。
振り向くとそこに
「ライファン……」
王女が立っていた。
「……クシュルカ様」
いつ宴を抜け出してきたのだろう。
白いドレスをまとった美しい王女の顔は、あわてて走ってきたかのように今は上気してほのかに赤かった。
王女は信じられないという顔つきで目を見開いたまま、しばらくライファンを見つめていた。
「行ってしまうのですか?」
「……はい」
「なぜ」
王女は唇をかみしめ、両手をもみしぼった。
「僕が……」
ライファンはそんな王女から目をそらし、困ったように頭をかいた。
「もうここにいることは、よくありません」
「なぜ……」
「……王女様も知っておられるはずです。僕がその……、太陽神とかの力を持っているせいで魔物に狙われたこと。そのために王女さまや、アダラーマ、バルサゴの人々を巻き添えにしてしまったこと。……そしてたぶん、またいつか同じことが起こります。きっと。だから……」
「この国を出ていくのですか」
王女は悲しそうに言った。
「それに僕は……どうやら普通の人間ではないようですし。……この城の人達にはとても良くしてもらいましたけど、でもそういういい人たちを悲しませたり怒らせたりしたくないのです」
「どうして……そんな」
「たぶん、色々なことで。僕の奇妙な力とかで、きっとみんなが嫌な目に合うでしょう。また、僕のような身分なきものが、聖騎士などになって、貴族などになって、この国に居すわってしまっては、周りの方々に不快な思いをさせるに違いありません」
「そんなこと……ありません」
王女は首をふった。その目には涙がたまっている。
「クシュルカ様。どうか分かってください。僕がこの国にいるかぎり、奴らは僕をねらってここへやってくる。そうすればあなたをまた危険な目にあわせてしまいます。僕にはそれはもう耐えられません」
そう言ってライファンは歩きだそうとした。
王女はその手を握りしめた。
「行かないで」
「王女様……」
「お願い。ここにいて。私と。……危険な目に合ってもいい。ライファンが、あなたがいてくれるなら。私は……ああ」
王女はたまらずライファンの胸に飛び込んでいた。
「ライファン……お願いよ。ずっとそばにいて。……好きなの」
囁くような王女の言葉に、ライファンは驚いて相手を見た。
流れ落ちる涙を隠そうともせず、王女は愛する騎士を見上げた。
「ずっと……好きだったの。あなたがここに来てから。いいえ……あの市場であなたに初めて会ってからずっと……」
「クシュルカ……様……」
「行かないで……」
透き通る瞳からこぼれる涙を見て、ライファンの胸が熱くなった。
彼は王女の体を抱きしめたい衝動にかられていた。


さあ、ライファンはどうする?


★王女を抱きしめるなら「エンディングA」
★心をおさえて城を出るなら「エンディングB」