シンフォニックレジェンズ
   ☆エンディングA☆



ライファンは王女を抱きしめた。
「クシュルカ様……、僕も、僕もずっと好きでした!」
「ああ……ライファン!」
「身分なき、奴隷として拾われた分際で、僕はずっとあなたにあこがれ、あなたをお慕いしていました。たとえ許されないと分かっていても」
「うれしい。ライファン」
王女は喜びに体を震わせた。
そのぬくもりが、ライファンの体じゅうにしみ入るように広がった。
どうしようもく愛しく、突き上げる思いが彼の手に力を加えた。
二人は激しく抱き合い、見つめ合い、ついに口づけを交わした。
一国の王女と、許されぬ身分である拾われた少年の恋が、こうしてかなった。

(これで……いいのだわ)
柱の影に隠れながら、二人を見守っていた女騎士は両手を組み合わせた。
(クシュルカ王女さまと、太陽神の力を持った……ライファンが一緒になれば、きっと……この国は平和に続いてゆく)
(これでいいんだ……)
レアリーは涙を払うと、見つめ合う二人を残し、その場を走り去った。





そして
空は真っ青に晴れ渡っていた。
祝福の鐘が厳かに鳴り響いている。
飾られた色とりどりの花々がかぐわしく香る、この白亜の宮殿で、
これから儀式が始まろうとしていた。
王女クシュルカと聖騎士ライファン。
二人の婚礼の儀式である。

列席の貴族たちは、皆赤と黒の礼服に身を包み、待ち遠しい様子で台座の上を見上げている。
この日ばかりは市民たちも宮廷の城門内に入ることを許され、つめかけた人々は宮殿の外に集まり、これから行われる最高の儀式を見逃すまいと息をひそめていた。
宮殿の台座には、信頼と敬愛の象徴である女神マジェリのしなやかな像が立ち、その両側に国王はじめ王国の重鎮たちが列座している。
像の前には黒い式服の神官と、その後ろに聖騎士の白いマントに身を包んだライファンが立っていた。
いくぶん緊張した面持ちでぴたりと直立している彼を見て、国王らはにやにやと笑っていた。
そして今、楽隊の奏でる厳かなプレリュードとともに、台座の右はしの階段から女官に手を取られた王女がゆっくりとのぼってきた。
幾重にも織られた見事な純白のドレスに、薄いレース織りのヴェールをかぶった王女が、静かに階段を上ってくる。
その手に持つアルマテスの白と青の花束は、アダラーマの王族が愛を誓うときの証であった。
大理石の階段を上がり、王女は優雅に敬慕を込めたしぐさで、国王に対して貴婦人の礼をした。
国王は顔をくしゃくしゃにして何度もうなずいた。
そして王女はライファンのもとへ。
神官の前に王族の証である婚礼のリングが用意された。
神官は祈りの言葉を呟くと、二人にリングをつけさせた。
王女とライファンの目が合った。
王女の顔はヴェールの奥で幸せそうに輝いた。

宮殿の客席の両側に立ち並ぶ、正装した騎士たちのなかに、女騎士レアリーがいた。
彼女はぐっと口をひきしめ、その視線を台座の二人に向けていた。
(私は……これからは騎士としてお二人に仕えるのだ)
聖騎士に叙され、国王の許しを得て今、王女との婚礼を上げようとしている少年を、彼女は深い思いのこもったまなざしで見つめていた。
(ライファン……)
(あんたは……王になっても私に、いつもみたいにあの笑顔で話しかけてくれるだろうか……)
女騎士は自らの思いをのみこんだ。
そして何かを振り払ったかのように、すがすがしく微笑んだ。
(私の愛するこの王国を、あんたが守ってくれるというなら。私は喜んで騎士として仕えるでしょう。……ライファン)
(王女様とお幸せに……)
ひとすじだけ流した彼女の涙を、見とがめたものは誰もいなかった。

青い空に、ゆったりと高く、雲が流れてゆく。
祝福の鐘がいくつも鳴った。
国王、列席者すべてに認められ、二人は婚姻の誓いを述べた。
「病めるときもすこやかなるときも……その死が別つまで永遠に……」
ライファンはややたどたどしく、王女は頬をバラ色に染めながら。
神官が新たな夫婦の誕生を告げた。
幸せそうに微笑み合う二人に、貴族たちも宮殿の外の市民たちも一緒になって祝辞をのべ、喜びを表した。それに少し照れながら手を挙げて答えるライファンと王女。
二人は手をとりあい国王のもとに寄った。
進み出た国王は、ひざまずく二人に黄金の笏で祝福を与えた。
そして金色のティアラをライファンの頭に乗せた。
それはきらきらと、太陽の光を浴びてまぶしく輝いた。
ライファンが王女とともにおずおずと立ち上がると、客席の人々は新たな国王、そして王妃の誕生に一斉に「万歳」を唱えた。

ライファンは王になった。
太陽神の力を持ち、天空の剣を振る少年が、
こうしてアダラーマの王になったのだ。



     つづく       
 
                      Ending BGM "A Moment of Time"
                                    by
EDENBRIDGE



     あとがき               

ランキングバナーです。クリックよろしくです!