プログレッシブデス/ブラックメタル傑作選



プログレッシブなブラックメタル…それはなんという素敵な響きだろう。
プログレやメタルが好きで、アートで先鋭的な感性を愛し、極端な異端を好むという、私のようなリスナーには
こうしたバンドたちの音楽は本当に素晴らしく、その変態的なまでの芸術感性が耳に心地よく響くのである。

プログレッシブな知的さとメタルとの融合は、実際にはすでに80年代のうちから行われていて、
芸術的な感性を大胆に取り入れたCYNICをはじめ、クラシカルな美意識を取り込んだイタリアのSADIST
大曲志向へ傾倒したEDGE OF SANITY、プログレッシブな構築センスを自然と融合させたOPETHといった、
個性的なバンドが現れ、その後のプログレッシブデスメタルの土台を作り上げた。
ブラックメタルの世界においては、やはり皇帝EMPERORの登場まで待たねばならない。
中心人物イーサーンの、クラシカルな感性は暴虐なるブラックメタルサウンドと融合し、唯一無二の世界観を生み出した。

ここでは、それらプログレッシブで知的なセンスをデス/ブラックメタルと巧みに融合させた傑作を紹介したい。
激しくも芸術的な異端のメタルバンドたちを、右脳的快感とともにうっとりとしながら楽しむことにしよう。

                                               緑川 とうせい


◆90年代〜プログレッシブ・デスメタルの黎明

CYNIC 「FOCUS」
アメリカのプログレッシブ・デスメタルバンド、シニックの1993年作
ともかく、このバンドの出現は、とても大きなインパクトだった。それまでデスメタルといえば、
粗暴な吐き捨てヴォーカルとも重厚なギターリフというイメージがあったのだが、本作で聴かれるサウンドは、
最初から優雅で知的さの漂う、ほとんどデスメタルと言うこともはばかれるような、そんな音なのである。
プログレッシブで空間的な広がりのある音作りは、ほの暗い叙情と繊細な感性とともに、
メタルらしからぬ不思議な浮遊感をかもしだしている。メンバーの技量が高いからだろう、
演奏の余裕がそのまま耳触りの良さにつながっていて、アコースティカルなパートや女性コーラスなど
芸術的なセンスが光っている。ここから25年の歳月をへて復活することを思うと、感無量である。
浮遊感度・・8 デスメタル度・・4 芸術感性度・・9 総合・・8.5
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ATROCITY
「Longing For Death」
ドイツのデスメタルバンド、アトロシティの2nd。1992年作
今でこそ、デジタルなゴシックメタルとして知られるバンドだが、この当時はバリバリのデスメタル。
しかもこのような名盤を残していたのである。なにやら荘厳なイントロからゆったりと始まり、
どことなく知性を感じさせるギターリフと、強烈なデスヴォイスを乗せて、しだいに楽曲は激しさを増す。
ときおりふっと垣間見せる叙情の瞬間がなかなか極端で、この当時はえらく斬新に思えた。
激しくて汚いのがデスメタルという認識を覆した一枚であるし、アメリカではなくドイツからそれが出てきたのも大きい。
プログレッシブかと言われれば、まだその一歩手前のサウンドではあるが、年代を思えばこの完成度の高さは驚異的だし、
彼らがMORGOTHとともに当時ドイツのデスメタルシーンの旗手であったことは忘れて欲しくはない。
メロディアス度・・7 テクニカル度・・7 変態度・・7 総合・・8
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SADIST 「Tribe」

イタリアのプログレッシブ・デスメタルバンド、サディストの2nd。1995年作
1st「Above the Light」は、絶品のメロディを取り入れた叙情派デスメタルの傑作として名高いが、
それに続く本作では、シンセを大胆に取り入れたプログレッシブなスタイルへと進化した。
ミステリアスなイントロから、ギターではなくシンセをメインにしたフレーズにデス声が絡み、
やがて美しい絶品のギターソロへと続く、インパクトのあるこの1曲目には、初めて聴いたときに震えがきた。
これまでのデスメタルの概念を覆すかのなような、革新的な感性をこのバンドに感じたのである。
その後も、およそデスとは思えないグルーヴィーな演奏と、美しいシンセを絡ませながら、
不思議な浮遊感覚で聴かせてくれる。まさしくプログレッシブなセンスに満ちた傑作である。
メロディアス度・・8 プログレ度・・8 芸術度・・9 総合・・8.5
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EDGE OF SANITY 「Crimson」
スウェーデンのメロディックデスメタルバンド、エッジ・オブ・サニティの5th。1996年作
北欧メロデスの元祖とも言われ、プロデューサーとしても活躍するダン・スヴァノを
中心としたこのバンド。本作はSF的なストーリーに基づいたコンセプト作で、
全1曲40分という異色作だ。サウンドの方は難解さはなく、メロデス的に疾走したり、
ゆるやかに聴かせる静寂パートがあったりと、展開にメリハリがあって面白い。
叙情的なメロディを弾くギターも魅力的で、個人的には最高作とされる4thより気に入った。
OPETHのミカエル・オーカーフェルドがゲストで参加しているが、確かにOPETHに通じるような
プログレッシブな知的さが垣間見える。2003年には続編となる「Crimson U」を発表している。
メロディアス度・・8 暴虐度・・7 ドラマティック度・・9 総合・・8
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OPETH「STILL LIFE」
スウェーデンのプログレッシブ・デスメタルバンド、オーペスの4th。1999年作
1995年のデビュー以来、作品ごとに着実に音楽的を深化させてきた彼らであるが、
今作ではそのプログレッシブな構築性を強化させたことで、まさに決定打というべき一作となった。
ツインギターのリフの有機的な絡みをメインに、流麗なメロディとセンス抜群の楽曲構築が炸裂、
全7曲中、5曲が9分以上という大作志向の中に、デス声とノーマル声を使い分け、アコースティックパートを
巧みに挿入することで、激しさの中にもプログレッシブな展開美とゆるやかな叙情を見事に同居させている。
ジャケの美しさも含めて、メロデスというジャンルを芸術作品にまで高めた大傑作である。
メロディアス度・・8 静寂と叙情度・・9 楽曲センス・・9 総合・・9 
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KOROVA 「A Kiss in the Charnel Fields」
オーストリアのプログレ・ブラックメタルバンド、コロヴァの1st。1995年作
のっけからドイツ語の男Voと女性スキャット、それに民族調のメロディで始まり
ただならぬ幕開けににやにやしていると、やはり始まったアヴァンギャルド絵巻…
ノイジーなギターに咆哮をはじめるヴォーカル、ブラストビートもときおり入ってきて
やかましいのだけど、どこかローカルで田舎めいた感じがするのはENIDなどと同様。
ときおりギターがクサメロを弾いたり、クラシカルなピアノやオーケストレーションなどの使用も
プログレ好きの変態音楽愛好家にはタマランです(笑)SOLEFALDSIGHなどが好きな方はぜひ!
メロディアス度・・7 暴虐度・・7 変態度・・9 総合・・8
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In The Woods 「Heart of the Ages」
ノルウェーのゴシック・デスメタルバンド、イン・ザ・ウッズの1st。1995年作
美しいシンセにメロウなギターフレーズが絡み、幻想的な雰囲気の中
朗々としたヴォーカルが歌を乗せる。曲はプログレッシブな展開とともに、
ときに激しく緩急がつけられ、ブラックメタル的なわめきヴォーカルも現れて、
なかなか飽きさせない。はかなげな女性スキャットや、しっとりとピアノの音色で
聴かせる曲もあり、その知的な構築力とノルウェーの森を思わせるような
薄暗い幻想性を有したサウンドは、年代を考えても傑作と呼ぶに足るだろう。
メロディアス度・・8 プログレゴシック・デス度・・8 幻想度・・9 総合・・8
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◆プログレッシブな知的デスメタル作品

OPETH「GHOST REVERISE」
スウェーデンのプログレッシブ・メロディアス・デスメタルバンド、オーペスの8th。2005年作
今作は、とにかく美しい。デス声とノーマル声を使い分けるバンドのリーダー、
カエル・オーカーフェルドの表現力も素晴らしく、ときにメロウな旋律を奏でるギター、
そして今作から加入したペル・ヴィバリ(SPIRITUAL BEGGARS)の絶妙なキーボードワークが
サウンドに広がりとやわらかみをもたらし、このバンドの表現する世界観を上手く彩っている。
静と動の対比、聴き込むほどに練り込まれたリズムアレンジとギターリフによる構築の妙。
すべてにおいて完成度の高い芸術作品。メタル云々よりも、アートなロックとして鑑賞すべきアルバム。
これを聴かずに何を聴くのだ!という、あらゆるメタラーにも、プログレファンにも広く聴いて欲しい1枚。
メロディアス度・・8 プログレッシブマイン度・・9 静謐の美度・・9 総合・・9
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EXTOL「ANDECEIVED」
スウェーデンのプログレッシブ・デスメタルバンド、エクストルの2nd。2000年作
このバンドの場合、変拍子を入れただけの単なるテクニカルデスメタルとは違い、
楽曲における細やかなアレンジセンスが素晴らしく、結果としてデスメタルとしての重厚さを失わずに、
知的なプログレ性との両立に成功している。咆哮するデス声にギターの音像はヘヴィでありながら、
展開力のある楽曲にはメロディにもフックがあり、ときおり見せる叙情性も唐突でない範囲で絶妙だ。
例えればPAIN OF SALVATIONをデスメタルにしたような、そんなミクスチャー的な芸術センスも感じさせる。
3rd以降は、しだいにスラッシュメタル的な質感を増すのだが、そちらもまたそれで良い。
メロディアス度・・7 テクニカル度・・8 変態度・・8 総合・・8.5
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NEGLECTED FIELDS 「MEPHISTO LETTONICA」
ラトビアのプログレッシブ・デスメタルバンド、ネグレクテッド・フィールズの2000年作
テクニカルな変拍子入りの演奏に、デス声とまではいかないわめきヴォーカルが歌を乗せる。
激烈さや疾走する暴虐性よりも、本作ははむしろ荘厳さと叙情美にこだわっているようで、
随所に壮麗なキーボードアレンジやメロディックなギターが展開力のある楽曲の中に光っている。
4、5分台中心の楽曲は、複雑であっても難解さはなく、案外メロディアスで聴きやすい。
次作「SPLENETIC」を最後にバンドは沈黙することになるが、ラトビアという辺境性を抜きにしても
個性的でセンス豊かなサウンドを描いていた。プログレッシブなテクニカルデスが好きな方はぜひ。
メロディアス度・・7 テクニカル度・・8 荘厳度・・8 総合・・8
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EMBRACED 「WITHIN」
スウェーデンのメロデスバンド、エンブレイストの2nd。2001年作
ツインギターにツインキーボード、派手に疾走するかと思えばテクニカルな決めや展開があり、
その辺の北欧系メロデスバンドとはやや異なる印象。もちろんメロデス的な叙情性はちゃんとあり、
ツインリードのメロディに分厚いキーボードか重なると、かなりシンフォニック度が高くなる。
Voのわめき声が普通すぎてつまらないのが残念だが、とにかくバックの演奏力が抜群。
日本盤ボーナスのラスト曲は、ピアノが美しいシンフォニック曲で思わずうっとりである。
素晴らしい作品自体のクオリティに比べてジャケが地味すぎるのが惜しい。
メロディアス度・・8 テクニカル度・・8楽曲度・・8 総合・・8.5
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TOC 「LOS ANGELS」
フィンランドの元メロデスバンドTHRONE OF CHAOSの3rd。2004年作
2ndの時点で、すでにメロデスというよりはデス色のあるメロディックメタルという音だったが、
ここに来てついにデス色を薄め、流麗なツインギターのメロディにかつての面影を残しながら、
楽曲はいっそう聴きやすくなり、鳴り響くキーボードの美しさが際立っている。
Aのシンフォニックなヘヴィバラードの美しさなどは、筆舌に尽くしがたく、
ダークめの叙情という点で、PAIN OF SALVATIONのメロディアスさなどにも通じる。
ヘヴィな部分の音圧はしっかりと残していて、曲によっては彼らお得意のプログレ風味もあり、
アルバムとして、センスの良い、しかも密度の濃い内容なっている。
メロディアス度・・8 プログレ度・・7 楽曲センス・・9 総合・・8.5
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OMNIUM GATHERUM「Stuck Here on Snakes Way」
フィンランドのメロデスバンド、オムニアム・ギャザラムの3rd。2007年作
フィンランド産メロデスバンド数あれど、TOCと並んで私が認める抜群のセンスを擁したこのバンド、
知名度は低いのだが過去2作のクオリティは抜群。今作は日本盤も出ず、ひっそりと売られていた。
のっけからスラッシュメタル的リフに、変則的な展開で始まり、まるでEXTOLあたりを思わせる。
咆哮するヴォーカルに、センス溢れるギターリフ、モダンなシンセアレンジもどこかプログレッシブで、
楽曲は一聴して地味なのだが、よく聴くととても凝っていてサウンドには知性が溢れている。
3分前後の曲にここまで濃密な要素を取り込めるセンスは、北欧メロデス界のANNIHILATORとでも
言いたくなる。ただのメロデスに飽きている方、プログレッシブなメタルが好きな方にはぜひお勧めしたい。
メロディアス度・・7 スラッシュ風味度・・8 プログレッシブ度・・8 総合・・8
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DISILLUSION「BACK TO TIMES OF SPLENDOR」
ドイツのプログレ・デスメタルバンド、ディスイリュージョンの1st。2004年作
10分以上の長めの楽曲をセンスあるアレンジでまとめてゆくところはOPETHに通じるものもあり、
プログレ的なテクニカルで知的な部分と暴虐性の同居という点ではEXTOLあたりにも近いか。
盛大にキーボードを鳴らしながら疾走する部分は、シンフォニックブラック的でありながら、
対照的にノーマル声で歌われるスローパートなどでは到底デスメタルとは思えないマイルドさがある。
テクニカルさと突進力、静寂と美と醜と、なんともいろいろな要素を併せ持った不思議なバンド。
取り立てて新しいことをやっているわけではないのに、聴いていて音に引き寄せられるのは
やはりセンスがいいのだと思う。デビューアルバムとは思えない密度と完成度に唸らされた。
テクニカル度・・8 変態度・・7シンフォニック度・・8 総合・・8
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INTO ETERNITYThe Scattering of Ashes
カナダのテクニカル・メタルバンド、イントゥ・エターニティの4th。2006年作
テクニカルなプログレメタルとデスメタルを融合させた濃すぎるほどに濃いサウンドだった2ndから
続く今作では、メジャーレーベルとの契約やメンバーチェンジもあってか、若干音の質感が変化している。
彼ら特有のアグレッシブさと展開の多さは残しつつも、聴きやすいキャッチーな部分が増えたという印象。
おそらく、2nd、3rdが好きだったリスナーにはやや薄味に思えることだろうが、
これでより多くの人間にも聴ける音楽になったという点で評価するべきだろう
RUSHDREAM THEATERなどにも通じる構築性に、アグレッションを上乗せした
ハードなテクニカルメタルとしても実に堂々たる出来だ。
メロディアス度・・8 テクニカル度・・8 楽曲・・8 総合・・8
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Symbyosis 「On The Wings Of Phoenix」
フランスのプログレ・デスメタルバンド、シンバイオシスのアルバム。2005年作
近未来のSFストーリーを題材にしたCD2枚組みの大作で、テクニカルで硬質感のあるギターと、
吐き捨てデスヴォイスを乗せて激しくたたみかけつつ、楽曲には知的な展開力もある。
モダンなアグレッションの中に壮大な作風が見えて来るという、ポストロックばりの雰囲気もあり、
効果的に使われるシンセやコーラスなども、甘すぎないくらいにサウンドに厚みを加えている。
硬派な音作りなので、ぱっと聴きには愛想はよくないが、コンセプチュアルな質感はProgMetal的であるし、
むしろDREAM THEATERをデス化したような部分もあって、その筋にも受けるかもしれない。
メロディアス度・・7 テクニカル度・・8 ProgMetal風度・・8 総合・・8
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SADIST 「Sadist」
イタリアの伝説のプログレッシブデスメタルバンド、サディストの5th。2007年作
メロデスという言葉のなかった時代に、叙情的なメロディを取り入れた1stAbove the Light
大胆にシンセを導入したプログレッシブデスの傑作、2ndTribe、この2枚の作品はとても衝撃的であったが、、
そのSADISTが2000年の4th「Lego」以来、7年ぶりにアルバムを出した。
肝心のサウンドの方も、2nd「Tribe」でのプログレッシブなテクニカルさを前面に出した作りで
そこに高い演奏力と知性を加えた、まさにサディスト節ともいうべき充実した内容となっている。
効果的なシンセの使い方は実にプログレ的で、変則リズムとギターリフの応酬に加え、
随所にオリエンタルな音階も取り入れるなど、彼らの独自のセンスが活かされている。
メロディアス度・・7 プログレ度・・8 サディスト度・・9 総合・・8
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Persefone「CORE」
アンドラ公国のメロディック・プログレデスメタルバンド、ペルセフォネの2nd。2006年作
ギリシャ神話の女神、ペルセフォネをテーマにした、3曲で70分という大作志向で、
それぞれ23分にもなる各曲は、メンバーがフェイバリットに挙げるOPETH
DARK TRANQUILLITY
からの影響も感じさせつつ、よりプログレッシブに展開し、
緩急自在の曲構成とともにドラマティックな世界観を構築してゆく。
とくに、シンセサウンドの美しさはゴシックメタル的な美意識を感じさせ、
ゲストによる女性ヴォーカルとともに、サウンドを艶やかに彩っている。
ドラマ性に富んだサウンドで聴かせる、プログレッシブ・メロディックデスの力作である。
メロディアス度・・8 プログレ度・・7 ドラマティック度・・8 総合・・8
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RAINTIME「Flies & Lies」
イタリアのプログレ・メロデスバンド、レインタイムの2nd。2007作
デス声で疾走しつつも、たっぷりとシンセを使ったきらびやかさとモダンな質感を前に出し
どことなく知的なものを感じる楽曲は、プログレメタル的な展開も垣間見せる。
適度なダークさをシンフォニックな美しさに包み、テクニカルでありつつも
しっかりとメロディを聴かせるというバランス感覚はなかなかのセンスだ。
かつてのSOILWORKなどと同様、デス声パートでの疾走と対をなすような
ノーマルヴォイスによってエモーショナルな叙情を表現する手法も実にこなれている。
メロデスうんぬんというよりも、モダンでメロディックな新世代メタルとして聴くべき作品だ。
メロディアス度・・8 暴虐度・・6 モダンセンス度・・8 総合・・8
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CYNIC 「Traced in Air」
伝説のプログレッシブ・デスメタルバンド、シニックの2008年作
伝説的傑作「Focus」1枚を残し、中心人物のショーン・マローンは、その後、GRDIAN KNOTをはじめ、
AGHORAへの参加やソロワークなど、地道な音楽活動をしていたが、この度ついにCYNICで復活した。
なにやらスペイシーで神々しいジャケのイメージとリンクするように、そのサウンドは内的宇宙を思わせる
深みのある雰囲気で、かつての芸術的な感性はそのまま。テクニカルでありながら、決して弾きまくるのではく、
プログレッシブな知性を感じさせる演奏には、淡々としたヴォーカルとマッチするような繊細さが光る。
一部デス声も使用しているが、OPETHなどと同様に、音を通じて静と動、悲しみと怒りの表現を
描いているというイメージで、全体的にも美しくすらあるプログレ的な作品に仕上がっている。
メロディアス度・・7 テクニカル度・・8 芸術度・・8 総合・・8
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IKUINEN KAAMOS「The Forlorn
フィンランドのプログレッシブデスメタル、イクイネン・カーモスの2006年作
先に2ndを聴いていたのだが、デビュー先となる本作も、のっけから13分、12分という大作志向。
もの悲しいイントロから、激しく疾走するブラックメタル要素と、緩急をつけた知的なアレンジセンスで構築する
そのサウンドは本作の時点で確立されている。もの悲しい叙情を聴かせるメロウなギターフレーズも絶品で
静と動のメリハリも含めて、やはり随所にOPETHを思わせる部分もあるが、
2ndに比べるとより激しいメロディックブラック要素が強いのもむしろ魅力的だ。
ドラマティック度・・8 プログレッシブ度・・7 フィンラン度・・8 総合・・8
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Barren Earth 「Curse of the Red River」
フィンランドのゴシック・デスバンド、バレン・アースの2010年作
いかにもフィンランドらしい叙情的かつメランコリックなフレーズを奏でるツインギターに、
うっすらとしたシンセが絡み、そこに咆哮するスクリームヴォイスを乗せたサウンドは、
ゴシックメタル的でもある。ほのかに漂うプログレッシブな香りはOPETHなどを思わせる部分もあり、
単なるメロデス、ゴシックの枠にとらわれない雰囲気と巧妙なアレンジが気に入った。
ときに土着的な色をまじえながら流麗なメロディを奏でるツインギターのセンスもなかなかだし、
バックで鳴るメロトロン的なシンセの音も、どこかおどろおどろしく幻想的だ。緩急の中にノーマル声を織りまぜたり、
繊細なフルートやピアノの音色も使うなど、キメ細かな構築センスが素晴らしい。
メロディアス度・・8 OPETH風センス度・・9 メランコリック度・・8 総合・・8.5
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◆プログレッシブなブラックメタル作品

EMPEROR「PROMETHEUS THE DISCIPLINE OF FIRE & DEMISE
ノルウェーのシンフォニック・ブラックメタルバンド、エンペラーの4th。2001年作
高品質かつプログレッシブなブラックメタルとして妥協なく暗黒美を極めてきたこのバンドも、
ついに終焉を迎えることとなった。前作3rdから顕著になったプログレ的な展開力今作でも存分に発揮し、
激烈でありながらも非常に知性的で、ある意味メロディアスなサウンドだ。
普通声をたくみに生かし、曲は激速パートとテクニカルパートを見事に融合、
シンフォニックな展開と切り返しの多い楽曲は聴き応え十分である。
1stがややマイナー寄りの暴虐ブラックメタルであったことを考えると、恐ろしい進歩だ。
今後このバンド以上にブラックメタルというジャンルを深化させるバンドが果たして現れるだろうか。
シンフォニック度・・8 暴虐度・・8 知的センス度・・9 総合・・9
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ARCTURUS「La Masquerade Infernale」
ノルウェーのプログレ・ブラックメタルバンド、アークチュラスの2nd。1997年作
MAYHEMやULVERのメンバーなどからなる、スーパーバンドとして注目され
1stは比較的正統派のシンフォニックブラックメタルスタイルであったが、
本作では、よりプログレッシブでアヴァンギャルドな音楽性に深化をとげている。
「地獄の仮面舞踏会」というタイトル通り、演劇的なヴォーカルと妖しげな世界観で、
ときにクラシカルな要素をまじえつつ、じつに個性的なサウンドを聴かせてくれる。
ブラックメタルとして聴くととっつきは悪いだろうが、変態的なプログレッシブメタルとしては
濃密な音楽性で非常に楽しめる。知的さの漂うシアトリカルブラックの力作だ。
シンフォニック度・・7 暴虐度・・3 アヴァンギャル度・・8 総合・・8
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ART INFERNO「ABYSSVS AVYSSVM INVOCAT
イタリアのメロディック・ブラックメタルバンド、アート・インフェルノの1999作
G/Key、B/Vo/Key、Drという3人編成で、ジャケのチープさからは想像がつかないが、
美麗なシンセを多用したドラマティックでプログレッシブなシンフォブラックをやっている。
まず荘厳なコーラス入りのイントロからして4分もあり、他の曲も6〜9分台が中心とけっこう長い。
疾走するリズムに乗せるメロディアスなギターとシンフォプログレ的なキーボードを中心にしたサウンドは、
音が軽いためブラストビートにしてもちっとも暴虐さを感じず、それがかえって非常に聴きやすい。
イタリアというお国柄か、クラシカルなシンセや変拍子のリズムなどにプログレ的アレンジを匂わせる。
シンフォニック度・・8 暴虐度・・5 プログレ度・・7 総合・・7.5
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Diabolical Masquerade 「Death's Design」
スウェーデンのブラックメタルバンド、ディアボリカル・マスカレードの4th。2001年作
前作「NIGHTWORK」はメロディアスかつ質の高い楽曲で、シンフォブラックの隠れた名作だったが、
今作もEDGE OF SANITYのダン・スヴァノが参加しており、単なるブラックを超えた異色作となっている。
なにせトラックが61もあるので、次々に場面が変わってゆき、気づいたら10曲め…ということに(笑)
クラシカルでオーケストラルなシンセアレンジを取り入れつつ、ときに暴虐に、ときにシンフォニックにと、
目まぐるしく展開してゆく楽曲はプログレッシブで、EDGE OF SANITY「Crimson」にも通じる感触だ。
じつにメリハリに富んだ43分間。サウンドトラック・ブラックメタルともいうべき作品。
シンフォニック度・・8 暴虐度・・7 プログレッシブ度・・8 総合・・8
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SOLEFALD 「IN HARMONIA UNIVERSALI」
ノルウェーのプログレ・ブラックメタルバンド、ソレファルドの4th。2003年作
1stの時点からすでにただのシンフォニックブラックではない、そのアートな感性とセンスの良さから
もっとも「プログレ受けするデス系」バンドとして注目してきたが、本作も期待通りの出来である。
ここに至って激速パートはほとんどなくなり、ブラックの要素としてはVoのしわがれ声くらいだが
それさえも普通声のパートが多いこともあり、もはやデス/ブラックというカテゴライズは不可能か。
今回はキーボードの音色をピアノやハモンドをメインにしており、サウンド的に70年代風の試みがなされている。
それに対してコーラスによる声の重ねやギターのヘヴィさがコントラストになっていて実に奥深い音像だ。
呪術性と芸術性、過去と現在、激烈と静謐を音に詰め込んだ見事な作品だ。
メロディアス度・・8 テクニカル度・・8 変態度・・8 総合・・8.5
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AKERCOCKE「CHORONZON」
イギリスのブラックメタルバンド、アカーコッケの2nd。2003年作
1stの時点から、奇妙で唐突な展開や変拍子などを取り入れた変態ぎみの
プログレッシブなアプローチが面白い暴虐ブラックサウンドだったが、
この2ndではさらに全体的にアレンジの整合感のようなものが出てきて、
テクニカルでプログレ的な展開がごく自然に聴こえるようになっている。
とはいうものの、剛速な所はブラストしまくりで、わめきまくりなので軟弱さは微塵もなく、
むしろその激しさと、ノーマル声パートや静寂部分とのメリハリが明確についた感じがする。
演奏力もかなり高く、変態ブラックとしては非常にクオリティの高いバンドだ。
メロディアス度・・7 テクニカル度・・8 変態度・・9 総合・・8
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AXAMENTA 「eVeR-ARch-][-teCh-tURe」
ベルギーのプログレッシブ・ブラックメタルバンド、アクサメンタの2nd。2006年作
知的さをただよわせた構成と、ザクザクとしたスラッシーなリフで硬派に疾走しつつ、
バックにはDIMMU BORGIRCRADLE OF FILTHのような荘厳なシンセワークが美しい。
そしてプログレッシブな曲展開やリズム面での複雑なキメは、EXTOLあたりを思わせるセンスで、
これがまたいちいちカッコいい。メンバーがPAIN OF SALVATIONが好きだというだけあり、
ProgMetal的なコンセプチュアルな雰囲気と濃密な世界観をたっぷりと感じさせる。
ダークな冷気とシアトリカルな構築性、そしてブラックメタルとしての激しさを併せ持ちつつ
オールドなスラッシュメタル的質感も有した、まさにエクストリーム系のミクスチャーサウンドである。
メロディアス度・・7 プログレッシブ度・・8 知的センス度・・9 総合・・8.5
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IHSAHN 「angL」
EMPERORイーサーンのソロ2作目。2008年作
前作「Adversary」もプログレッシブな好作だったが、今作でも彼の美意識とセンスとが存分に発揮された
見事な作品となっている。クラシカルなシンセアレンジで華麗に聴かせつつ、ときに暴虐な突進力もあり、
かつてのシンフォニック・ブラックメタルアーティストのアイデンティティをまざまざと見せつける。
イーサーン自身のヴォーカルも情念の深みを増していて、前作よりも迫力があって、
ノーマル声で歌う叙情パートなどはときにOPETHなどを思わせる部分もある。
シンセをバックにテクニカルなギターリフや、メロウなフレーズが交互に顔を出し、
楽曲は緊張感と荘厳な空気に包まれていて、最後まで聴き手を飽きさせない。
シンフォニック度・・7 プログレッシブ度・・8 楽曲センス・・9 総合・・8
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Burzum「The Fallen」
ノルウェーのブラックメタル、バーズムの2011年作
2009年に出所したカウント・グリシュナックのシャバ復活2作目となる。
前作で聴かれたメロディックな路線を引き続き、より普遍的なメタル感触がともなってきている。
ノイジーなギターフレーズで激しく疾走する部分は、かつてのブラックメタル質感がちゃんとあるが、
より有機的なリフとフレーズが目立ってきていて、わめき声とともにノーマルヴォイスも使われたりと
プログレッシブ・ブラック的なモダンなアプローチへの意欲も随所に感じられる。
いわばかつての寂寥感を卒業し、楽曲、音楽としての表現手法が強まったことで、聴き安い作品となっていて
ある意味、音楽家としてのセンスはIHSAHNSolefaldなどにも通じる。
メロディアス度・・8 暴虐度・・6 暗黒度・・7 総合・・8
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In Lingua Mortua 「Bellowing Sea」
ノルウェーのプログレッシブ・ブラックメタルバンド、イン・リングア・モーテュアの2007年作
なにやら静かで上品なイントロから、曲が始まるとEMPERORばりに疾走するブラックメタルに突入。
しかしながら、ヴァイオリン、サックス、フルート、ピアノなどを使用したクラシカルな優雅さや
どことなく知的さを感じさせる展開美などは、プログレブラックの先輩、Solefaldあたりを思わせる。
そして、なんと、ブラックメタルなのにメロトロン使ってますよ、奥さん!これがなかなかハマっていて、
メロトロンの響きがどこか時代的なレトロさを、いい意味でサウンドにもたらしていたりします。
そういう点ではイーサーンのソロ作などにも通じる芸術的センスがあり、その筋には激しくお勧めです!
クラシカル度・・8 暴虐度・・7 プログレブラック度・・8 総合・・8
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Enslaved 「Vertebrae」
ノルウェーのヴァイキング・ブラックメタルバンド、エンスレイヴドの2008年作
あれ、Enslavedってこういうバンドでしたっけ?…もっと暴虐に疾走するイメージだったのだが、
長くやっているとサウンドも変化するということか。ノーマルヴォイスを効果的に使ったり
適度に知的な展開力を聴かせるプログレッシブな雰囲気は、むしろSOLEFALDなどに近づいたか。
一聴しただけだと曲が地味に感じるし、暴虐なヴァイキングブラックを好む向きには勧められないが、
SOLEFALDやARCTURUSなど、プログレッシブなバンドが好きなら本作も気に入るかと。
メロディアス度・・7 暴虐度・・6 知的プログレ風味度・・8 総合・・8
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ABIGORTime Is the Sulphur in the Veins of the Saint
オーストリアのブラックメタルバンド、アビゴルの2010年作
デビューから15年以上のベテランで、初期のプリミティブなブラックメタル路線から、
前作からはプログレッシブでサイバーな方向性へとシフトしていたが、
おそらく8作目である本作は、19分、18分という大曲2曲という極端な構成となった。
暴虐なブラストビートでたたみかけながら、アヴァンギャルドな展開と起伏に富んだ
プログレッシブな構成と、デジタリィでサイバーな世界観を合わせた個性的なサウンドである。
ドラマティック度・・8 サイバーブラック度・・8 知的アヴァンギャル度・・8 総合・・8
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ArthemesiAA.O.A.
ノルウェーのメロディックブラックメタルバンド、アルテメシアの2009年作
1stから7年ぶりとなる2作目で、まだ活動していたのかと正直驚いた。
幻想的でミスティックなイントロから引き込まれるが、前作のメロデス的な作風から
静謐感のあるプログレッシブなサウンドへ変化している。10分以上の曲が2つに
他も8分、9分という大作志向で、ミドルテンポ主体ながら、SolefaldEnslavedなどを思わせる
知的な土着性というべき感触で神秘的な世界観を描いてゆく。随所にメロディックなギターを配したり、
叙情的な静けさを盛り込んだり、激しさはなくても飽きさせない。いかにもノルウェーらしい雰囲気の作品だ。
ドラマティック度・・8 暴虐度・・6 プログレッシブ度・・8 総合・・8
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Ebonylake「In Swathes Of Brooding Light」
ノルウェーのプログレッシブ・ブラックメタル、エボニーレイクの2011年作
1999年に「On the Eve of the Grimly」でアヴァンギャルド・ブラックの極みともいうべき作品で
カルトなヘンタイメタルファンの心を鷲掴みにしたこのバンド、なんと11年ぶりとなる作品が登場。
激しいブラストを織りまぜながら、変則リズムと唐突な展開で聴かせる濃密でシアトリカルなサウンドは
本作でも健在。不穏さをかもし出すエキセントリックなシンセアレンジに、かつてのEMPERORのような
神秘的なギターフレーズと個性的なセンスで、異形のオペラティックメタルというべき世界を描き出す。
9分、10分という大曲もあり、先の読めない楽曲は芸術的な緊張感を漂わせて聴き手を音の渦に引き込んでゆく。
ドラマティック度・・8 シアトリカル度・・8 アヴァンギャル度・・9 総合・・8
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Vreid 「V」
ノルウェーのブラックメタル、ヴレイドの2011年作
北欧的な叙情ギターで疾走するサウンドはそのままに、前作よりもいっそう
古き良きメロブラの質感にレイドバックしたような印象。DISSECTION風味のギターリフと、
随所にうっすらとしたシンセを効かせて、プログレッシブに展開させる叙情性も見事。
10分の大曲を含め、知的な楽曲構成と、メロブラとして激しさを両立させた傑作。
メロディアス度・・7 暴虐度・・8 北欧度・・8 総合・・8
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Ascension「Consolamentum」
ドイツのブラックメタル、アセンションの2011年作
初期EMPERORMARDUK的なオールドなギターリフでブラスト疾走しつつ、
知的な構築センスと得体の知れない壮大さを覗かせるサウンドにわくわくする。
ミドルテンポで聴かせるドゥームな感触もあって、激しい疾走パートとのよいメリハリになっている。
ダークな邪悪さよりも内的精神世界に入り込むような世界観と、アナログ感漂う音作りもよい感じで、
サイケやポストロック的な雰囲気を巧みに取り入れた、プログレッシブなブラックメタルの力作である。
ドラマティック度・・8 壮大度・・8 構築センス・・9 総合・・8
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A Forest of StarsOpportunistic Thieves of Spring
イギリスのサイケデリック・ブラックメタルバンド、フォレスト・オブ・スターズの2011年作
前作同様、10分以上の大曲を中心にしているが、本作はよりプログレッシブな味わいのあるサウンドとなっていて
緩急のついたドラマティックなメリハリとクラシカルな優雅さ、そして説得力が備わってきている。
薄闇に包まれたような世界観と神秘性に包まれた、いわゆるネイチャーブラックメタルの質感を
英国風に仕立て上げたという雰囲気で、ストリングスの音色やアナログ的な音作りもあって、
ブラックメタル的に疾走する場面でもあまり激しさは感じない。むしろ優雅な聴き心地の作品だ。
ドラマティック度・・8 翳りと叙情度・・8 英国度・・8 総合・・8
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SIGH「GALLOWS GALLERY」
日本の芸術的プログレ暗黒美メタルバンド、サイの6th。2005年作
音の方はジャケほどにはダークではなく、ヴォーカルもノーマル声がメインで、
ゲストによるサックスの使用など、ジャンルを超えたプログレッシブなマインドを匂わせている。
相変わらず素晴らしいのが、キーボードによる美しいオーケストレイションや、曲中でのSEなどで、
その唐突とも思える使用法、楽曲アレンジの方法論は演劇的であり、じつに耳に刺激的。
壮大でクラシカルなサントラ風のパートもあり、ややレトロなオルガンの音色や
サンプリングによる混声コーラスなど、今まで以上に多彩なサウンドが聴ける。
雰囲気としてはSOLEFALDあたりにも近づいたかという印象だ。日本が誇るアートなブラックメタル。
メロディアス度・・8 内的プログレッシブマイン度・・9 芸術度・・9 総合・・8
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◆プログレッシブでゴシック風味もあるバンド

GREEN CARNATION 「LIGHT OF DAY, DAY OF DARKNESS」
ノルウェーのゴシックメタルバンド、グリーン・カーネーションの2nd。2002年作
元々はIN THE WOODSの前身バンドだったが、EMPERORSATYRICON等を渡り歩いた
中心人物のTCHORTが戻ってきたことで再結成されたということらしい。本作はなんと全1曲60分。
IN THE WOODSのメンバーに加え、シンセやコーラス隊を加えた大がかりな構成である。
デス声はほとんど入らず、ゆるやかに展開してゆく楽曲の中をクリーンVoが朗々と歌を載せる。
さすがにギターのメロディなども煽情的で、インナーの写真同様、北欧の自然を感じさせる世界観だ。
長大な楽曲や、プログレ的な叙情美などは、ある部分OPETHなどにも通じるセンスがある。
メロディアス度・・8 北欧的叙情度・・8 壮大度・・9 総合・・8
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NOVEMBRE「NOVEMBRINE WALTZ」
イタリアのゴシックメタルバンド、ノヴェンブレの4th。2001年作
たゆうたような浮遊感のもの悲しい雰囲気のゴシックメタルサウンド。
1曲目の間奏で顔を出す“白鳥の湖”のフレーズもとてもハマっているし、
メロウなギターフレーズとマイルドな声とデス声をたくみに使い分けるセンスなどは、
プログレッシブな感覚という意味でのOPETHなどにも近い部分もある。
疾走するパートもあれば、女性Vo取り入れたり、さらにはアコースティックパートの導入など
案外いろいろな要素が混じっていて、それが上手く合わさり芸術的な質感となっている。
メロディアス度・・8 ゴシック度・・7 メランコリック度・・8 総合・・8
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RAM-ZET 「ESCAPE」
ノルウェーのインダストリアル・ゴシック・ブラックメタルバンド、ラム・ゼットの2nd。2002年作
1stは未聴なのだが、この2ndを聴く限り、ブラックメタルというよりはゴシック側のバンドと思う。
爬虫類声の男Voに美声の女性声が絡まり、曲はデジタリィでありながらシンフォニックでもあり
ときおり疾走するところではブラックメタル要素もある。ようするにプログレ・ゴシックといってもいいサウンド。
インダストリアル系のヘヴィギターにクラシカルなピアノ、キーボード、ヴァイオリン、そして展開の激しい楽曲と、
ゴシックの耽美性とアヴァンギャルドかつ知的なセンスを覗かせながらも、なおメタルとして成り立っているのが凄い。
なんでもあり系のプログレゴシック(ブラック)という点でSOLEFALDなどにも通じるものがある。
テクニカル度・・8 変態度・・8 シンフォニック度・・8 総合・・8
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MYSTIC FOREST 「ROMANCES」
フランスのシンフォブラックユニット、ミスティック・フォレストの4th。2004年作
このバンドの作品は初めて聴いたのだが、これはなかなか面白いですね。
ドラムが打ち込みなのが惜しいが、曲間にSEや女性の囁きを取り入れたり
ピアノによるクラシックのメロディを導入したりと、とてもアイディアが豊富で、
随所にアートな感性を感じさせる…いうなればプログレブラック的サウンドだ。
ゆったりとした部分でのギターのメロウなフレージングも実に心地よく、演歌泣きのクサメロに軽く悶絶。
アコーディオンの音色が土着的な質感を生み出していて優雅に疾走する部分などはけっこう新鮮。
クラシカルなピアノの音色に乗るフランス語の囁きがじつに上品に響きます。
メロディアス度・・8 暴虐度・・7 芸術度・・9 総合・・8
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Winds 「Prominence and Demise」
ノルウェーのゴシックメタルバンド、ウインズの3rd。2007年作
過去の2作もOPETHGreen Carnationなどに通じる知的な楽曲センスで聴かせた傑作であったが、
このバンドの持ち味であるクラシカルな優雅さとアコースティカルでうす暗い叙情はそのままに、
今作ではよりプログレ風味なアレンジを効かせた、じつに見事なサウンドとなっている。
ときに女性ヴォーカルを効果的にまじえたり、ヴァイオリンなどのストリングスも優雅に鳴り響きつつ、
芸術的な世界観を描き出している。楽曲作りにおいては“プログレッシブなブラック”の質感が出てきて、
むしろSolefaldあたりにも近い雰囲気となった。どちらにしても素晴らしい作品である。
クラシカル度・・8 プログレ度・・8 知的アレンジ度・・8 総合・・8
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ENID 「Seelenspiegel」
ドイツのシンフォニック・ゴシック・ブラックメタルバンド、エニドの3rd。2002年作
前作はクラシカルな中世ゲルマン風ゴシックとでもいうべきサウンドで気に入ったが、
この3rdではより聴きやすくなったシンフォニックなゴシック・ブラックが楽しめる。
朗々とした男性ノーマル声の歌唱を中心に、楽曲はときに壮麗に、ときにゆるやかに展開し
その芸術的な雰囲気はSOLEFALDあたりにぐっと近づいたような印象を受ける。
ときおりシンフォブラックメタル風のパートもあり、シンセによる土着的なクサメロも効果的で、
クラシカルで大仰でありながらも少し田舎臭い、という不思議な味わいもある。
ただのシンフォブラック、ゴシックでは飽き足らないという方なら、きっと気に入るバンドだろう。
シンフォニック度・・8 クラシカル度・・8 暴虐度・・6 総合・・8
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UNEXPECTUn A Flesh Aquarium
カナダのカオティック・クラシカルメタルバンド、アンエクスペクトの2nd。2006年作
ヴァイオリンに男女Voも含む7人組で、変態的かつアヴァンギャルドなサウンドには
ゴシックメタルやブラックメタル風の要素もありつつ、変則リズムと矢継ぎ早の展開に唖然となる。
男女Voのオペラティックな歌唱にはシアトリカルな質感もあり、ピアノやヴァイオリンのクラシカルな響きと
デス声やブラストビートなども折り込んで、優雅なのかやかましいのかまったく分からない、
変態メタルの濃密さ
が凝縮されている。思い出すのはイギリスのEBONY LAKEであるが、
こちらの方がさらに濃い(笑)全体を包むのはゴシックメタル風の雰囲気だが、このアヴァンギャルドで
極端な音には耽美系の変態メタルファン(?)にはたまらないものがあるだろう。まずは聴いてください。
メロディアス度・・7 クラシカル度・・8 ヘンタイ度・・10 総合・・8
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