ケブネカイゼ 3/10ページ


  //マルガレーテ//


「キルティス様、今日はもうお帰りですか?」
 いつもと変わらぬサロンでのひとときを過ごし、広間を出ようとしたとき、彼は扉の前で呼び止められた。そこに立っていたオードレリン伯夫人を見ると、キルティスは夫人を柱の影にいざなった。
「ちょえどよかった。じつはさっきマルガレーテと踊るついでに色々と話をしました」
 夫人の顔がさっと緊張した。
「確かに、彼女の髪は先日見せてもらった髪の毛と似た色をしています。それに、長さもだいたい同じだ」
「まあ、それでは、やはり?」
「いいえ。それだけではまだなんとも。ただ、マルガレーテに少し事件のことを聞いてみたところ、彼女はその数日前に殺されたジョアンヌと喧嘩をしたことをひどく気にしていました。表面上は笑っていましたが、内心はとても怯えているようです。それは知り合いが殺されたのですから当然ですけどね」
「ということは、マルガレーテは犯人ではないとおっしゃるの?」
「さあ。それもまだはっきりとは分かりません。さり気なく彼女にその日どこにいたのかを尋ねてもみましたが、事件のあった日の晩鐘まではこのサロンにいて、それからは娼婦仲間と酒を飲んでいたというのですが、誰と一緒だったかは覚えていないそうです。ですから、はっきりとアリバイが成立しているというわけでもない」
「そうですか……」
「それから、シャルラインとも少し話をしました」
「シャルライン?ああ、この前やってきたあの娘ですね。では、あの娘もなにか怪しいとでも?」
 キルティスは曖昧に首を振った。
「それもまたはっきりとは分かりませんが。それにしても、不思議な娘であるのは確かです。はじめてやってきたときは、あまり趣味のよろしくない古びたドレス姿だったのに、それからは、品の良い高価そうなドレスを着てくるようになった。ただの田舎娘かと思っていたら。それに、彼女の髪の色。亜麻色なんですが、近くで見ると薄い金髪に見えるときもあるんです」
「まあ……」
「もちろん、まだそれだけのことではなにも分かりませんが、とにかくもう少し彼女を観察してみようかとは思います」
「ええ。でも、どうかお気を付けて」
「大丈夫。こう見えても僕は剣の方はけっこう使えるんですよ。あなたもご存じでしょう?」
「はい。でも、もし何かあって、あなたが怪我でもされたら……、私、夫が死んだときよりもずっとショックを受けてしまうでしょう。どうか、どうかお気を付けて」
「ありがとう、もう行かなくては。それではまた。ご機嫌ようオードレリン伯爵夫人」
「ご機嫌よう。キルティス様」
 夫人に軽く頷きかけ、キルティスは足早に広間を後にした。

 数日後、キルティスは、アルメリアの花々が美しく彩る午後の庭園を歩いていた。
「もうすっかり春だねえ。ローブなんて暑くて着ていられないよ」
 白いチュニックにズボン姿の彼は、うきうきとして言った。さわさわと風に揺れる木々の葉に、花の香りを含んだ空気。暖かな風がやさしく頬を撫でる。
「ねえ、シャルライン」
 隣を歩く女性が振り返る。白いサテンの胴着を着て、亜麻色の髪を背中に垂らした彼女は、キルティスと目が合うと、恥ずかしそうに視線をそらした。
「君は本当に恥ずかしがり屋さんなんだね」
「あ……あの」
「ねえ、ちょっとこっちへ」
 キルティスは周囲を見回すと、シャルラインの手をとり、道をそれて木立の中へ連れ出した。
「あ……」
 彼女を木の幹にもたせかけ、やや強引な口づけのあと、顔を離すと、
「おや、君、顔が真っ赤だよ。熱でもあるみたいだ」
「す、すみませ……、私……」
「どうしたの?具合でも悪いの?」
「大丈夫です。ただ、私……、あの、ごめんなさい……」
「その、まさかとは思うけど、もしかして、君、キスは初めて?」
 こくりと彼女はうなずいた。
「まさか……、本当に?」
「あの……すみません」
 真っ赤になって顔を覆う彼女を、キルティスはもう一度、今度はひどく優しく引き寄せた。
「あら、キルティス様。そんなところから」
 木立から出たとき、ちょうど通り掛かった婦人たちと鉢合わせになった。
「やあ、マルガレーテ」
 なにも変わらぬ涼やかな顔で、キルティスは相手に微笑みかけた。
「今日も綺麗だね。太陽のもとだと、あなたの金髪はとてもきらきらとして、じつに美しい」
「まあ、ありがとうございます」
 マルガレーテは艶然と微笑み、ベリスの花を豪勢にあしらったドレス姿で貴婦人の礼をした。
さりげなく、シャルラインの方に冷やかな視線を向けながら。
「ところでキルティス様。少し、よろしいでしょうか。お話がありますの」
「うん?ここではまずいの?」
「そうですね……」
「わかった。それじゃ、他のご婦人方は先に行っていてくださいな。向こうに行ったらウィックリフ夫人がお茶とお菓子を用意しているそうだからね」
 少し気掛かりそうな様子で、婦人たちとともに離れてゆくシャルラインを見送り、キルティスはマルガレーテに向き直った。
「さて、これでよろしいですか?金髪のお姫様」
「ええ。では私たちもゆっくりと歩きながらお話しいたしましょう」
 そう言うと、マルガレーテはぴったりと体を寄せてきた。
「私ね、知っていましたのよ」
 唐突に彼女は切り出した。
「なにをです?」
「また。おとぼけに。あの噂のことです」
「どの噂?」
「あの、殺人事件の犯人についての噂ですわ」
 キルティスは彼女をちらりと見た。
「殺人犯人は女で、しかも金色の髪をしている、という噂を聞きました。そして、このサロンで、あろうことか、この私が疑われているという噂を、先日耳にしましたわ」
「それは……根も葉もない噂でしょう」
「キルティス様も、その噂についてはとうにご存じでしょう?亡くなったオードレリン伯爵の奥方とはお仲がよろしいですものね。彼女からもう聞いているのでしょう?私がその日一緒に殺されたジョアンヌと知り合いだったことは」
「そうですね。でも、それがすぐにあなたと結びつくというのは、実に短絡的なお話です。オードレリン伯爵夫人から現場に落ちていたという髪の毛を見せてもらいましたが、確かに金髪のようでしたけど、あなたのよりはもっと亜麻色がかった髪でしたよ」
「それでは、キルティス様は私をお疑いになっているわけではありませんのね?」
「もちろん。そのくらいの理由では、とてもあなたを犯人扱いする気にはなりませんよ。サロンでの噂など、ほとんどは馬鹿げた尾ひれが付いているでしょうから、あてになりません」
「そう聞いて安心しましたわ。私、別に友人でもない他の方々に何を言われようが平気ですけれど、お友達や、キルティス様には疑われたくなどありませんもの。それに私、ジョアンヌが殺されたことは本当にショックでしたの。いいえ、確かに彼女とはよく喧嘩をしたり、その数日前も言い争って別れましたけど。でも彼女は昔からの知り合いでしたし、同じ娼婦仲間で、ずっと一緒に仕事の話をしたり、ときには競い合ったりしてきましたから、そんな彼女が殺されるなんて。……ああ、本当に。今でも震えてしまいます。なんと恐ろしい」
 すがりついてくる彼女の肩を、そっと撫でてやる。
「さあ、少しは落ち着いたでしょうか?向こうに行って皆とお茶を飲みましょう」
「ええ。でも……、もうちょっとお話を」
 前を歩くシャルラインの方を見て、マルガレーテがすっと目を細めた。
「こんなことを言うのは、どうかとも思うのですけれど」
 彼女の声の調子が変わっていた。
「あの娘のことです。私、ずっと気になっていたのですけど、あの娘は、いつもほとんど同じ時刻にサロンにやってきて、同じ時刻に帰っていきますわね」
「ああ。それがなにか?」
「おかしいですわ。私は、むしろあの娘こそが、きっとなにか事件とかかわりがあるような気がしてなりませんの」
「それは……どういう理由で?」
「理由は……はっきりとは分かりません。ただ、あの娘はおかしいです。ええ、それだけは分かります。女の勘と言ってもよいですわ。着ている服から、態度、話をした感じ、それに……そうです。どこぞの伯爵の遠い血縁という話も、なんだか信じられませんわ。うさん臭くて。あの娘が現れて数週間。それから何かがおかしくなっています。その間例の人殺しも二度ありました。たぶん次もきっと起こります。きっと。……何故だかそう思えるのです」
「マルガレーテ。なんだか、君はとても感情的な話し方をしているよ。あなたはもっと理知的で、現実主義で、娼婦うんぬんを別にしても、とても頭の良い女性だと思っていたのだけど」
「そうかもしれません。でも、なんといわれてもかまいません。私は娼婦ですし、合理的で現実主義で、理屈に合わないことは嫌いですし、理屈の通らない方と仕事としてでも寝るのは断固拒否しますし、これまでもそうしてきました。でも、なんだか変なのです。いいえ。怖いのかもしれません。今回の殺人事件のこともですが、それだけでなく、なにか……そう、なにか少しずつこれまで私の知っていたものが、そうではない見知らぬものに変わってゆくような」
 青ざめた顔でつぶやく彼女の顔を、キルティスはその横からじっと見つめていた。
 どろどろとした、暗いなにかをはらんだ時間が、見かけ上は穏やかに、一日、また一日と過ぎていった。
「犯人はまだ見つからないようですわ」
 隣に座ったオードレリン伯爵夫人がぽそりと言ったとき、キルティスは広間の人々を眺めながら、ワインを杯に注いでいた。
「もう夫が死んでから二週間です。そして確か、最初の犠牲者が出てからは、もう半年近くになるというのに。もう他の方々はすっかり、まるで殺人のあったことなど忘れて、また前のように楽しく踊ったり、笑い合っているようですけれど。こんなことでよいのでしょうか」
「まあ、仕方がないでしょう」
 杯を手の中で揺らし、その液体の赤い色を見つめながら、キルティスは呑気そうに言った。
「騎士団や護民兵たちが、これだけ捜索しているのに見つからないのではね」
「それは、そうですけれど」
「それに、人々は……僕も含めてね……けっして事件を忘れたりしているのではないさ。ただ、忘れようと努めようとしているのですよ。そうしないと恐ろしくてやっていけないのだから。お酒を飲み、ダンスを踊り、恋を語らい、噂話に笑い、そうして過ごさなくては、我々に一日は長すぎる。仕事もせず、日がな遊んで暮らしている、我々貴族という人種にはね。心の底では恐ろしくて、恐ろしくて仕方がないんですよ。事件のことももちろんだけど、そうではなく、この日常も……気がつけばあっと言う間に数カ月、あるいは数年が経っていて、いつの間にか顔には小じわが増え、酒の量も増え、以前のようにしなやかに踊れなくなっている自分にあるときふと気づくのが。いつの間にかもう戻れないほどに時間を浪費してしまっていること。それらから目をそらしつづけなくてはやっていかれない。それが我々という人種、我々の生きかたなんです」
 ワインを飲み干して、キルティスは自嘲ぎみに笑った。
「でも、なんだか……、悲しいですわ。そういう言われ方をするのは」
 伯爵夫人は、目の前の貴公子に浮かんだ倦怠の表情を見つめていた。
「あの、ところで、マルガレーテ嬢の方はどうなんでしょう?」
「ああ。そうですね。彼女が犯人なのかどうかは確証をもっては言えません。違うかもしれないし、もしかしたらそうかもしれない」
「そんな曖昧な」
「でもそうですよ。彼女ともあれから何度か話をしましたけど。どうも彼女は本当に殺されたジョアンヌのことを悲しんでいるようだ。確かに、あなたに見せてもらった髪の毛と、彼女の髪は同じくらいの長さだったし、色もまあ似てはいる。それでもそれが彼女が殺人犯だという結論に至らしめる確定要素ではない。だから、直接彼女に殺したのはあなたですか?と尋ねるのが一番早いとは思いますけどね。でも、そんなことはできないでしょう。私だってそんなことを、美しいご婦人に向かって言いたくはありませんよ」
「では……どうしようもありませんの?」
「ええ。しょせん私たちにはどうすることもできません」
 そう言って、キルティスはまたワインを杯に注いだ。
「騎士団や護民兵にマルガレーテを調べてもらうことはできますが。いや、じっさいもう調べたでしょうね。普通。一番に調べるのは殺された伯爵と、娼婦ジョアンヌの交遊関係でしょうから。素人の我々があれやこれやと推察をしている間に、そのようなことはとっくに調査済みなのだと思いますよ。じっさいは」
「そう……でしょうね」
 婦人は肩を落とし、ため息をついた。
「でも、そんなに落胆することもない。騎士団の連中がいまだに犯人を見つけていないということは、もうすでに犯人も死んだか、どこかへ行ってしまったかしているのかもしれません」
「そうでしょうか」
「ええ、きっと。それからもう一人、シャルラインについてですが」
「ええ」
「彼女はたぶん事件とは無関係なのではないかな」
「どうして、そう分かりますの?」
「うん。第一に、彼女がこのサロンにやって来たのはごく最近、一月くらい前のことです。でもこの殺人事件はそれ以前にもすでに何度か起きていた。第二に、彼女はとても気が弱そうだし、到底人殺しなどできそうもない。そして第三に……」
 キルティスはちょっと言いずらそうに、言葉を切った。
「なんですの?」
「いや、そのう……彼女の手はとても小さくて、華奢だし、とても短剣など握れそうにないですよ。少なくとも、剣で男の胸板を貫くほどの力はないと思う」
「まあ……。キルティス様は、もしかして、あのお嬢さんをお気に召しておられるの?」
「うん、いや……何度か踊ったんでそう思うだけだよ。彼女はとても可愛い手をしていてね」
「まあ」
 驚いたように、そして少々呆れたように、夫人は口をぽかんと開けた。
「キルティス様が、あの田舎っぽい……あ、いいえ……可愛らしいお嬢さんをねえ」
 夫人の言葉に少しの刺があることは彼にも分かった。キルティスは頭を掻いた。
「いやもちろん、あなたも素敵ですよ。伯爵夫人。本当に。僕が毎日このサロンに来ていたのはあなたに会うためだったんだから。ご存じだったでしょう?マルガレーテでもクリセンテでもなく、あなたに、ですよ。それは今でも変わりません。ただ……ああいう変わった娘も新鮮に思えて」
「少し憎たらしいけれど……べつにかまいませんわよ。そんな言い訳をしなくとも。私もうそんなにうぶではありませんから。あなたがどなたと関係しようが、それにいちいち腹を立てたりいたしません。私達は自由です。このサロンではすべての恋愛は自由なのですから。お好きなように。ただ、ときどきは私の方にもダンスのお誘いをいたたげれば、それでいいですわ。私と踊ったり、キスしたりするのがお嫌でなければ」
「ああ、それはもちろん。もちろんですよ、オードレリン伯夫人」
 夫人はくすくすと笑った。
「でも、本当にこれで、もうこんな事件が起こらなければよいですわ」
「ええ。まったくね」
 夫人はワインを一口飲み、ふっと息を吐いた。それから、思い出したように恐ろしそうに自分の胴着を手でつかみ、囁いた。
「私は夫を愛してはいませんでしたけれど、でもあの人はそう悪い人ではなかった。夫には愛人もいたし、お酒飲みで、何度かぶたれたこともありましたけど、でも、それでもあんな殺され方をされるほどひどい人ではなかった。今になってそう思いますの。ですから、私、お葬式のときにも、愛してもいなかったその夫のために、思いがけず泣いてしまいました。でもそれは夫だから、ということではなく、あんなふうに、人が簡単に殺されてしまったという事実に対しての涙だったのかもしれません。ただ、それでも……、やっぱりあの人は私の夫なのでした。そして今はもういません。望んだ結婚ではありませんでしたが。それなりに私は幸せにやってこられたと思います。私は夫の妻でした。妻らしくもない妻でしたが。でもときどきは、夫は私にもやさしかった……」
 こらえかねたように、夫人は顔を手で覆った。
「オードレリン伯夫人」
 そっとキルティスが声をかけた。彼の声は、低く、少しかすれていた。
「あなたは……幸せな人です」
 はっとして夫人が顔を上げかけたとき、彼はすでにテーブルから立ち去っていた。

「ねえ、シャルライン」
 サロンを抜け出し、庭園の木立での何度目かのキスのあとで、彼は静かに聞いた。
「君は、あの……事件についてはどう思うの?」
 彼女は頬を染めたまま、まだ少女めいたあどけなさの残る顔を、おずおずと上げた。
「あの事件……、貴族の誰誰が殺されたという、あのお話ですか?」
「うん、そう」
「それは……とても、恐ろしいです」
 彼女はぶるっと体を震わせた。
「なんだか信じられません。誰かがそんなふうに殺されたり……殺したり、するなんてことがあるなんて」
「そうだね。……でも実際に起こっているんだよ。ごめんよ。いきなりこんな話をして。君がか弱くて繊細な方だというのを知っていながら」
「大丈夫です……、ただ本当に恐ろしくなってしまって」
 まだ震えている小さな手を握り、彼はシャルラインを引き寄せた。今日何度目かのキス。花の香りを含んだ風とともに、彼はそのやわらかな唇を吸った。
「そろそろ戻ろうか。ふたりしてサロンを抜け出して、他の婦人たちに何を言われることやら。ああ、大丈夫。君がマルガレーテやロクサーヌにつかまって睨まれるようなことがあったら僕が飛んでゆくからね。僕は決めた。今日からあなたの騎士になろう」
「まあ、キルティス様が?私なんかの騎士に?まあ……そんな、いやです。ご冗談ばかり」
「いやなの?」
 真面目な顔で尋ねると、シャルラインは慌てて首を振った。
「いいえ。あの……いやでは。ちょっとびっくりしましたので。嫌なわけではなくて……」
「ふふ。ならいいでしょう?僕の……お姫様」
 キルティスはその場にひざまずくと、懐から剣を抜くふりをした。
「剣はないけど、かわりに僕の手をとって、剣の代わりに口づけしてください」
「は、はい……」
 言われたとおりに、彼女はキルティスの手をとり、おずおずとその甲に唇をあてた。
「これで僕はあなたの騎士。どんなときでもあなたを守りましょう。たとえ何があっても」
「たとえ……何があっても?」
「ええ。……なにがあっても」
 立ち上がったキルティスはそう繰り返し、ゆっくりと彼女を抱き寄せた。
「キルティス様……」
 夕闇に包まれはじめた庭園の木立の中で、二人はしばらく静かな抱擁を交わしていた。
 遠く晩鐘が響いてきた。都市内で夜の訪れを告げる鐘の音である。
「ああ、いけない。今日はもう行かないと」
「キルティス様?」
「ごめんよ。サロンには戻らない。今日はこのまま行くよ」
 シャルラインの頬にもう一度キスをして、彼は早足で歩きだした。
「また明日。僕のお姫様」


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