ウクライナのメタルとプログレ

   
〜Metal & Prog in Ukraine〜

1991年のソビエト連邦崩壊とともに独立、東にロシア、西にはハンガリーやポーランドなどと隣接するこの国は、
まさにロシアとヨーロッパの狭間に位置している。現在のウクライナは、親ロシア派と現政権の対立や、
大国ロシアからの武力による圧力なども含めて、大きな混迷と緊張に直面しているといっていい。
音楽シーンとしては、90年代から活動するNokturnal Mortumを筆頭に、ブラックメタル系のバンドや
近年ではフォーク/ペイガン系などでも魅力的なバンドが増えてきている。一方の、プログレ系では、
才人、Antony Kalugin率いる、KARFAGENSUNCHILDが高品質なシンフォニックロックを生み出している。

才能あるミュージシャンたちが政治的な問題に抑圧されることなく、自由に活躍できるように切に願いたい。
政局の不安を抱えるウクライナのバンドたちを応援する意味でも、この特集ページを作ってみた。
併せて、ラトビア、エストニア、リトアニア、ベラルーシという旧ソ連関連国のバンドも載せてみました。ご参考までに。
                                                      緑川 とうせい



◆ウクライナのメロディックメタル系


W.ANGEL'S CONQUEST「W」
ウクライナのメロディックメタル、ダブルエンゼルズ・コンクエストの2011年作
デビューから10年という、ウクライナのバンドとしてはすでに中堅クラスの存在。
クサメロのギターときらびやかなシンセアレンジに、ハイトーンヴォーカルで聴かせるサウンドは、
一聴してSONATA ARCTICAあたりに通じる感触で、東欧のバンドにしてはそこそこ質は高い。
疾走するメロスピ曲はなかなか爽快だし、全体的にも嫌いではないのだが、メロディや曲のインパクトに、
独自の個性というものはあまり感じられない。魅力あるバンドになるためには、さらにアレンジのセンスを磨いて欲しい。
メロディック度・・8 疾走度・・7 楽曲・・7 総合・・7.5
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EKZISTENCIA「The Storm Master」
ウクライナのメロディックメタル、イクジステンシアの2008年作
女性シンセ奏者を含む5人編成で、ファンタジーヲタ臭さぷんぷんのジャケもいい感じだが、
サウンドもある意味期待通り。母国語ヴォーカルの力弱い歌唱とともに、軽めに疾走するB級シンフォメタル。
きらきらとしたシンセアレンジもよい感じで、クサメロな歌い回しも含めて、どうも嫌いになれない感触がある。
エピックな勇壮さもどこか土着的で、いかにも辺境臭さに満ち満ちているのだが、随所に女性ヴォーカルも入ったり、
アレンジ的にもメリハリがあって意外と楽しめるのである。重厚さをまったく感じない辺境シンフォメタルの好作。
ドラマティック度・・7 ファンタジー度・・8 クサメロ度・・8 総合・・7.5

MORTON「Come Read The Words Forbidden」
ウクライナのメロディックメタルバンド、モートンの2011年作
リーダーのマックス・モートンを中心としたバンドで、ツインギターに美麗なシンセワークを含んだ
正統派のメロディックメタル。随所に流麗なギターメロディとシンセによるシンフォニックな味付けもあり、
伸びやかなヴォーカルの歌声も含めて、ウクライナという地域性を感じさせない堂々たるサウンドである。
華麗に疾走する曲もあるが、基本はミドルテンポを主体に正統派HR/HMの流れを組んだ作風で、
それをモダンなアレンジで甦らせたような聴き心地。パワフルにたたみかけるメロパワ曲はもちろん、
ほのかな土着性を感じさせる叙情的なバラードなどもあり、楽曲ごとに多様性を持った完成度の高い作品だ。
メロディック度・・8 疾走度・・8 楽曲・・8 総合・・8
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SUNCROWN 「Follow Your Dream」
多国籍メンバーによるプロジェクトバンド、サンクラウンの2012年作
ウクライナ人シンセ奏者を中心に、アメリカやブラジル、オランダ、トルコなどから集まった
メンバーによるシンフォニックメタル作品で。美しいシンセアレンジに男女ヴォーカルの歌声で、
スケールのある壮麗なサウンドが楽しめる。ミドルテンポ主体のゆったりとした聴き心地であるが、
随所にフルートの音色やメロウなギターによる叙情性もあって、なかなかドラマティック。
ここぞという盛り上がりや、フックの効いた展開などがもっとあればさらによかった。
ドラマティック度・・8 壮麗度・・8 ワールドワイ度・・8 総合・・7.5
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MYSTERYA 「SIMBIONT」
ウクライナのシンフォニックメタル、ミステリアの2013年作
女性Voに女性Key奏者を含む5人編成で、美しいシンセアレンジに母国語の女性ヴォーカルを乗せた
優美なシンフォニックメタル。メロディのフックには東欧らしい翳りを覗かせる叙情性と
クラシカルな優雅さが感じられて、しっとりとした聴き心地で楽しめる。ギターのリフがやや凡庸なのと、
重厚さの点ではやや物足りなさもあるのだが、キャッチーな歌ものとして鑑賞すれば、これはこれでよいのかもしれない。
曲によって情感を表現するヴォーカル嬢の歌唱力も含めて、今後が楽しみなフィメール・シンフォメタルの新鋭です。
シンフォニック度・・8 優雅度・・8 女性Vo度・・9 総合・・7.5

Scarleth 「The Silver Lining」
ウクライナの女性Voシンフォニックメタル、スカーレスの2015年作
2011年にデビューし、2作目となる。女性ツインヴォーカルにツインシンセという編成で、
美麗なシンセアレンジに伸びやかな女性ヴォーカル、女性グロウルを乗せて疾走する、
アグレッシブなシンフォニックメタルを聴かせる。激しい疾走感もある一方で、曲によってはゴシックメタルや
フォークメタル寄りの雰囲気もあったり、翳りを帯びた雰囲気は東欧のバンドらしい。モダンなヘヴィネスと
メロスピ的な疾走感、クラシカルなシンセワーク、魅力的な女性声が同居したなかなかの好作品です。
ドラマティック度・・7 疾走度・・7 女性Vo度・・8 総合・・8
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SunRise 「Absolute Clarity」
ウクライナのメロディックメタル、サンライズの2016年作
W. ANGEL'S CONQUESTでも活躍するヴォーカルが参加、美麗なアレンジにマイルドなヴォーカルを乗せて疾走する、
初期SONATA ARCTICAタイプのメロディック・スピードメタル。クサメロ要素を感じさせるギターワークと、
重すぎない優雅なメロスピ質感とともに、多くのリスナーが楽しめるだけの質の高さも備えている。
楽曲にはこれという新鮮味はないのだが、メロディのフックはなかなかツボをついていて、
むしろ北欧メロスピ的な爽快な聴き心地でもある。ちょっと昔のネオクラ風味も含めて、
典型的なサウントがむしろ懐かしいという。北欧系が好きなクサメタラーの方はチェックすべし。
メロディック度・・8 疾走度・・8 新鮮度・・7 総合・・7.5
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◆ウクライナのフォーク・ペイガン・ゴシック系

NATURAL SPIRIT「Sita Rosa
ウクライナのフォークメタル、ナチュラル・スピリットの2009年作
「指輪物語」のサルマンのようなジャケがいい感じですが、サウンドの方もまたステキです。
美麗なシンセアレンジに土着的なギターメロディ、パイプやヴァイオリンの音色に
男女ヴォーカルが歌を乗せる、優雅でファンタジックなフォークメタルになっています。
ケルティックなメロディにはクサさが増し、ダミ声ヴォーカルと美しい女性ヴォーカルの対比もよい感じです。
ドラマティック度・・8 フォーキー度・・8 辺境度・・9 総合・・8
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NATURAL SPIRIT「The Price of Freedom
ウクライナのフォークメタル、ナチュラル・スピリットの2011年作
ヴァイオリンやホイッスルが鳴り響き、ダミ声男Voと女性Voが絡む、
辺境的なフォークメタルサウンド。よい意味での垢抜けない土着性は本作でも変わらず
アコースティック楽器の頻度が増したことで、より音に説得力が加わっている。
ヴァイオリンに絡むギターもいい感じで、女性ヴォーカルの活躍が増えたのも嬉しい。
ドラマティック度・・7 フォーキー度・・8 辺境度・・9 総合・・8
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HOLY BLOOD「Shining Sun」
ウクライナのフォークメタルバンド、ホーリィ・ブラッドの2010年作
土着的なクサメロと男女ヴォーカルの歌声で聴かせる、辺境的なペイガンメタル。
牧歌的に鳴り響くフルートの音色とともに、勇壮さよりは愉快なフォーク風味が勝っていて、
雰囲気としてはトルコのALMORAあたりにも通じるか。軽めのサウンドも含めて
B級的な田舎臭さが好みを分けるかもしれない。辺境ペイガンマニアはどうぞ。
メロディアス度・・8 フォーキー度・・8 辺境度・・8 総合・・7.5
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Tin Sontsia「Polum Jana Ruta」
ウクライナのフォークメタル、ティン・ソンツィア(Sun Shadow)の2007作
ギターリフに艶やかなヴァイオリンの音色が絡み、母国語の男性ヴォーカルが歌を乗せる。
アコースティカルな叙情性もあり、異国的な雰囲気がなかなかいい感じで、
メタリックなヘヴィさはさほどなく、マイルドで聴き心地の良いフォークメタル作だ。
メロディアス度・・8 フォーキー度・・8 異国的牧歌度・・9 総合・・8

Oskord 「Weapon of Hope」
ウクライナのフォークメタル、オスコードの2011年作
フルート&ホイッスル奏者を含む6人編成で、やわらかな笛の音色が鳴り響き、
重厚なギターリフに迫力ある低音のデスヴォイスを乗せた本格派のフォークメタル。
フルートやホイッスルが常に鳴り響いていて、土着的なクサメロ感を含んだ辺境性もいい感じだし、
ヴォーカルはデス声ながら、随所にキャッチーなコーラスなども加わって、けっこう聴きやすい。
牧歌的なフォーク要素とメタルとしての重厚さが合わさった、クオリティの高いサウンドだ。
本作は6曲入りのミニアルバムなので、フルアルバムが聴きたいですな。
ドラマティック度・・7 フォーキー度・・8 重厚度・・8 総合・・7.5
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Goverla「Between Past and Present」
ウクライナのペイガンメタル、ゴヴェルラの2012年作
勇壮でエピックなイントロから曲がはじまると、武骨なダミ声ヴォーカルにクサメロなギター、
うっすらとしたシンセアレンジとともに、随所にペイガンブラック的な激しさも覗かせる。
パイプやホイッスル、アコーディオンなどが鳴り響くフォーキーな牧歌性も含んでいて、
随所に適度なクサメロも入りつつ、軽すぎないフォークメタルとしても楽しめる。
エピックな雰囲気が楽しめるペイガン・フォークメタルの好作品。
ドラマティック度・・8 ペイガンフォーク度・・8 エピック度・・8 総合・・8
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EDENIAN 「WINTER SHADES」
ウクライナのゴシックメタル、エデニアンの2012年作
バンドというよりは現段階ではどうも男女二人のユニットのようで、
美しいシンセアレンジと可憐な女性ヴォーカルの歌声に男性デスヴォイスが絡む、
正統派の男女Voゴシックメタル。ドラムは打ち込みであるが、全体を包むもの悲しい世界観と、
美麗なシンセに包まれたサウンドは、ジャケのイメージのように強固な幻想性を持っている。
ゴシックメタル黎明期のような、古き良き正統派のスタイルが好きな方にはオススメ。
メロディック度・・7 ゴシック度・・9 女性Vo度・・8 総合・・8
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DELIA
「Recollection」
ウクライナのシンフォニック・ゴシックメタル、デリアの2012年作
女性ヴォーカルの歌声と美しいシンセアレンジで聴かせる、ゴシックメタルサウンド。
随所に土着的なクサメロ奏でるギターに、紅一点、アナスタシア嬢の歌声は、
いくぶん素人っぽいヘタウマ感があって、そのマイナー臭さが辺境的な味にもなっている。
楽曲は3、4分台が中心で、正直、これといったインパクトはないので、もう少し大仰さというか、
情感的な盛り上げが欲しい。あとはやはり女性声のレベルアップが肝心ですな。
シンフォニック度・・7 ゴシック度・・7 女性Vo度・・7 総合・・7
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SVENTOYAR(Свентояр)「Unity (Eднсть)
ウクライナのフォークメタル、スヴェントヤーの2013年作
牧歌的なマンドリンの響きに、ソピルカ(縦笛)の音色から始まり、ヘヴィなギターにドラムガ加わって
女性ヴォーカルの母国語の歌声を乗せた、辺境的な味わいのフォークメタルが広がってゆく。
適度な疾走感も含んだ本格派のフォークメタルでありながら、随所に魅力的なメロディのフックと
キャッチーなクサメロ感というべき爽快な聴き心地があり、女性声のキュートさも含めてとても楽しめる。
辺境フォークメタル好き、女性声フォークメタル好きは、きっと満足できる充実の逸品です。
メロディック度・・8 フォーキー度・・9 女性Vo度・・8 総合・・8
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ALOR 「Haerfest」
ウクライナのフォークメタル、アロアの2013年作
ギターのアルペジオに囁くようなヴォーカルを乗せて、ゆったりとした叙情に包まれつつ、
ネイチャーな神秘性を感じさせる世界観を描いてゆく。アコースティックギターによる素朴な小曲など、
幻想ネオフォークというようなメタル感の薄いパートも多いので、激しさを期待すると肩透かしを食うが、
メロウなギターの旋律とともに随所に土着性も覗かせる。全体的にもヴォーカルはオマケ程度なので、
インスト主体の物足りなさもあるが、オータムなジャケのイメージのように、物悲しい叙情サウンドに浸れる。
ドラマティック度・・7 幻想度・・8 メランコリック度・・8 総合・・7.5
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◆ウクライナのブラックメタル系

NOKTURNAL MORTUM「GOAT HORNS」
ウクライナのブラックメタルバンド、ノクターナル・モータムの1st。1996作
ツインキーボードの美しい旋律に、どこか土着的な民族エッセンスを織りまぜたブラックメタルサウンドは、
やはりどこかヨーロッパのバンドたちとは質感が異なる。疾走してもさほど暴虐にはならず、
むしろ目立つのはキーボードの美しさ。音質の悪さもかえってミステリアスな雰囲気をかもしだしていて、
マイナー系のシンフォブラック好きにはたまらない世界観かもしれない。
シンフォニック度・・8 暴虐度・・7 音質・・6 総合・・7.5
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Drudkh「Blood in Our Wells」
ウクライナのブラックメタルバンド、ドルドゥクの2006年作
自然との融和を感じさせるアトモスフェリックな作風にヴァイキングメタル的な勇壮さと
土着性を含んだ叙情性、そしてエピックな世界観で聴かせる力作。
10分を超える楽曲には、ときにアコースティカルな要素も取り入れていて、
リフレインの中にもミステリアスなドラマティックさを覗かせる。辺境的な味わいの傑作だ。
ドラマティック度・・8 暴虐度・・7 土着度・・8 総合・・8
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DrudkhEternal Turn of the Wheel」
ウクライナのブラックメタルバンド、ドルドゥクの2012年作
アトモスフェリックな作風で大曲を描いてゆく作風はこれまでと変わらないが、
今回は7〜9分と楽曲がいくぶんシェイプされていて、その分ダレずに聴ける。
絶叫ヴォーカルとともに疾走するブラックメタルとしての激しさを保ちながら、
静寂パートを含んだ緩急ある展開とノイジーなギターリフにうっすらとしたシンセを重ねた、
ダークで幻想的な聴き心地は、BURZUMと双璧をなす世界観の強度といってよいだろう。
ドラマティック度・・8 暴虐度・・7 幻想度・・8 総合・・8
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Blood of Kingu「Sun in the House of the Scorpion」
ウクライナのブラックメタル、ブラッド・オブ・キングの2010年作
ベクシンスキーをあしらったミステリアスなジャケが印象的だが、サウンドの方はノイジーなギターでブラスト疾走する
しごくファストなブラックメタル。ヴォーカルは低音の吐き捨て型で、むしろデスメタル的でもありつつ、
随所に荘厳さを感じさせるところはBEHEMOTHあたりに近いものがあるか。
10分を超える大曲もあり、ミスティックな重厚さと激しさが合わさったなかなかの力作だ。
ドラマティック度・・7 暴虐度・・8 荘厳度・・8 総合・・7.5
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SEMARGL 「Satanogenesis」
ウクライナのブラックメタル、セマルグル2006年作
かすれたダミ声ヴォーカルと、ブラッケン・ロール的なギターリフとともに
随所に激しい疾走も含みながら、ダークな邪悪さを感じさせるサウンド。
古き良きアナログ感をただよわせた聴き心地であるが、緩急をつけたリズムとともに
いわばブラックメタルとしての正統派の邪悪さというものを見事に表現していて、
クオリティはかなり高いと思う。不穏な妖しさをただよわせた雰囲気もいい感じだ。
ドラマティック度・・7 暴虐度・・8 邪悪度・・8 総合・・7.5
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RUINA「UKRUINA」
ウクライナのブラックメタル、ルイナの2008年作
ギター&ヴォーカルとベースのユニットで、激しく疾走するブラックメタル要素と
どことなく辺境感を匂わせるメロディを盛り込んだ、ペイガンブラック風味のサウンド。
ギターのフレーズはときおりメロデス風だったりして、けっこうメロディックな聴きやすさもある。
音質も含めてローカオルな香りがぷんぷんだが、そこも含めてマニアにはにんまりかもしれない。
ドラマティック度・・7 暴虐度・・7 辺境度・・8 総合・・7.5


◆ウクライナのプログレ系

KarfagenLost Symphony」
ウクライナのシンフォニックロックバンド、カルファゲンの4th。2011年作
SUNCHILDでも活動するシンセ奏者、アントニー・カルギンを中心としたバンドで、
過去3作も繊細なシンフォニック作品だったが、本作も美麗なシンセをたぷり使ったサウンドを聴かせる。
組曲形式で進行する楽曲は、インスト主体でいかにもプログレ的な感触でありながら、随所にストリングスや
オーボエなどの音色が加わり、ミステリアスな世界観と知的な展開力とともに起伏に富んで構築されてゆく。
アコースティカルな繊細さもあり、クラシカルな優雅さと東欧らしい緊張感を含んだ素晴らしい作品に仕上がっている。
シンフォニック度・・8 プログレ度・・8 構築度・・9 総合・・8
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Karfagen 「Echoes From Within Dragon Island」
ウクライナのシンフォニックロック、カルファゲンの2019年作
10作目の本作は「ドラゴン・アイランド組曲」という、3部構成で、それぞれが17分、18分、16分という大曲。
ヴァイオリンなどのストリングスにシンセが重なる、優美なクラシカル性に包まれたサウンドで、
マイルドなヴォーカルに女性声も加えて、オールドなロック感触も同居した起伏のある展開力で聴かせる。
メロウなギターの旋律は、ロイネ・ストルトあたりを思わせ、随所にフラキン的な雰囲気も現れるが、
ピアノやフルートによる繊細な叙情などには、クラシックの素養をシンフォニックロックに溶け込ませたという、
優雅でアカデミックな説得力を感じさせる。まさにアントニー・カルギンの集大成的な傑作である。
クラシカル度・・8 プログレ度・・8 優雅度・・9 総合・・8.5
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SUNCHILDAs Far As the Eye Can See
ウクライナのプログレバンド、サンチャイルドの2011年作
本作から女性ヴォーカルが加わり、サウンドはよりきらびやかになっている。
のっけから15分の大曲で、男女ヴォーカルの歌声と美しいシンセワークで
やわらかな叙情性が広がってゆく。アレンジ面ではこれまで以上のダイナミズムとともに
メロディックな爽やかさと、いかにもプログレ的な濃厚なインスト部分のバランスもよく、
一方では女性の歌声を活かしたKATE BUSHあたりに通じるキュートなお洒落さや、
フルートやストリングスなど、アコースティカルなやわらかみもあり飽きさせない。これは傑作。
シンフォニック度・・8 プログレ度・・8 モダンシンフォ度・・8 総合・・8
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SUNCHILD 「Messages From Afar: The Division & Illusion Of Time」
ウクライナのシンフォニックロック、サンチャイルドの2018年作
Karfagenでも活動するシンセ奏者、アントニー・カルギン率いるバンドで、本作は7作目となる。
メロディックなギターに美麗なシンセワーク、マイルドなヴォーカルを乗せて、優雅でファンタジックな
シンフォプログレを展開する。随所に女性ヴォーカルを加え、やわらかなシンセアレンジとともに、
素朴で牧歌的な世界観に包まれた作風は、じつに優しい聴き心地。20分を超える大曲も
メロウなギターの旋律に優美なシンセと男女ヴォーカルで、あくまでゆったりと構築する。
全体的にスリリングな展開はさほどないが、優美な叙情派シンフォが楽しめる好作品です。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 優美度・・9 総合・・8 
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Antony Kalugin Projects「Gnomology-Chapter 1」
KARFAGEN、SUNCHILDなどで活躍するウクライナ出身のシンセ奏者、アントニー・カルギンの2013年作
2002〜2012年作までの10年間の作品から集められたアンソロジー的なアルバムで
ソロ作から、KARFAGEN、SUNCHILD、HOGGWASHなどのバンド各作品の楽曲を15曲、80分にわたって収録。
プログレらしいムーグシンセや女性ヴォーカルを加えたきらびやかなシンフォニックロック路線から、
センスのよいキャッチーな歌ものナンバー、繊細でメロウな叙情を聴かせるナンバーまで、
どれも東欧らしい湿り気のあるメロディアス性に包まれたサウンドがたっぷり楽しめる。
いまや東欧きっての多作アーティストといってよいミュージシャンの活動を俯瞰できる1枚だ。
ドラマティック度・・8 叙情度・・8 東欧度・・8 総合・・8
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CTHULHU RISE「42」
ウクライナのアヴァン・プログレ、クトゥルー・ライズの2012年作
バンド名のように、クトゥルー神話をテーマにしているようだが、サウンドはエレピを主体にした美しいシンセに
ややメタル寄りのギターを乗せ、アヴァンギャルドなテクニカル性と優雅なフュージョン色が合わさったというもの。
オールインストながら、切り返しやリズムチェンジの多さと、コロコロとした軽やかな質感があって、
メタリックなチェンバー・ジャズロック的にも楽しめる。重すぎない音質も、硬質過ぎずにかえって聴きやすい。
程よくテクニカルでヘンタイでありつつ、軽妙なユーモアと遊び心を感じさせる、どこか繊細なセンスも含んでいて、
楽曲も3〜5分台と長すぎず、アヴァンギャルドな作品が苦手な方でもわりと楽しめるかもしれない。
本作には曲名というものがなく、それぞれ番号がふられた小曲「24〜32」を収録というのも無機質で面白い。
ドラマティック度・・7 テクニカル度・・8 アヴァンギャル度・・8 総合・・8
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FLЁUR「Prikosnovenie」
ウクライナのトラッド・ポップバンド、フロールの1st。2002作
アコースティックギターのゆるやかな響きにたおやかなフルートの音色、
そして美しい女性ヴォーカルの歌声で聴かせる、しっとりとしたサウンド。
ヴォーカルのオルガ嬢の母国語の歌声は、やわらかでありつつ妖しさもただよわせ、
バックのうっすらとしたシンセとフルートとともに、幻想的な世界観を描いている。
ピアノやチェロなどのクラシカルな要素と、土着的なトラッド風味も合わさって
一種エキセントリックな女性声トラッド・ポップという趣もある。
プログレファンにも充分楽しめる奥の深さが素晴らしい。オフィシャルサイトはこちら
シンフォニック度・・8 幻想度・・9 女性Vo度・・9 総合・・8.5
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FLЁUR「Magic」
ウクライナのトラッド・ポップバンド、フロールの2nd。2003作
今作もいくぶんモダンなアレンジの中に、美しいピアノやルートの音色と、
艶やかなヴァイオリンが鳴り、オルガ嬢の絶品の歌声が響きわたる。
トラディショナルな土着性とポップな聴き心地が絶妙のブレンドで、
女性ヴォーカルのコンテンポラリー系としては理想的な作風である。
翳りある落ち着きとコケティッシュな魅力を併せ持った女性声にうっとり。
アコースティックメインの曲ではLOREENA McKENNITTぱりの表現力が素晴らしい。
シンフォニック度・・8 幻想度・・9 女性Vo度・・9 総合・・8.5
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◆エストニア・ラトビア・リトアニア・ベラルーシのメタルとプログレ

Neglected Fields「Synthinity」
ラトビアのテクニカルデスメタルバンド、ネグレクテッド・フィールズの1998作
彼らの2nd「MEPHISTO LETTONICA」は、プログレッシブな感性が光る傑作であるが、
デビュー作である本作で聴かれるサウンドも、変則的なリズムと知的な展開力が光る
DEATHあたりを思わせる質の高いもので、ギターの奏でるリフにもセンスがあり、
ときおりメロディアスなフレーズが出てきたり、唐突に女性コーラスが入ったりと面白い。
デスメタルとしての暴虐さよりも、テクニカルメタルとしての要素が強いので、
ヴォーカルを別とすればProgMetalのリスナーにも楽しめるバンドだろう。
メロディアス度・・7 テクニカル度・・8 知的センス度・・8 総合・・8
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NEGLECTED FIELDS「MEPHISTO LETTONICA」
ラトビアのプログレッシブデスメタルバンド、ネグレクテッドフィールズの2nd。2000作
テクニカルな変拍子入りの演奏に、デス声とまではいかないわめきヴォーカルが歌を乗せる。
激烈さや疾走する暴虐性よりも、本作ははむしろ荘厳さと叙情美にこだわっているようで、
随所に壮麗なキーボードアレンジやメロディックなギターが展開力のある楽曲の中に光っている。
4、5分台中心の楽曲は、複雑であっても難解さはなく、案外メロディアスで聴きやすい。
次作「SPLENETIC」を最後にバンドは沈黙することになるが、ラトビアという辺境性を抜きにしても
個性的でセンス豊かなサウンドを描いていた。プログレッシブなテクニカルデスが好きな方はぜひ。
メロディアス度・・7 テクニカル度・・8 荘厳度・・8 総合・・8
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OLIVE MESS 「Gramercy」
ラトビアのプログレバンド、オリーヴ・メスの2006年作
女性Voにシンセを含む6人編成で、バロックギターの優雅な音色にシンセが絡み、
ソプラノ女性ヴォーカルがオペラティックな歌を乗せる、チェンバーロック風味のサウンド。
ときに狂気をはらむかのようなエキセントリックな女性の歌声が妖しく響きわたり、
10分〜21分という大曲を中心に、軽妙なアンサンブルと涼やかな緊張感で描いてゆく。
いわばHenry Cowあたりにも通じるヘンタイ気味の聴き心地を辺境的に解釈したというような力作だ。
ドラマティック度・・7 チェンバー度・・8 ヘンタイ度・・8 総合・・8



Metsatoll「Aio」
エストニアのペイガン/フォークメタルバンド、メトサトルの2010作
母国語の歌声と無骨な辺境臭さで聴かせるペイガンメタルで、
けっこうヘヴィなギターリフを中心にしながら、笛やパイプの音色が絡むスタイル。
シンセはないので派手さやクサメロはあまりないが、勇壮にかぶさるコーラスなど、
いかにも田舎めいた雰囲気がある意味魅力となっている。この手のバンドの中では
メタリックなパワフルさがあって、パワフルなフォークメタル=「パワフォー」として楽しめる。
メロディアス度・・7 フォーキー度・・8 辺境度・・8 総合・・8
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Metsatoll「ULG」
エストニアのペイガン/フォークメタルバンド、メトサトルの2011年作
アコースティカルなイントロから、ドラムの音が鳴り響き、ヘヴィなギターリフが加わって
強烈にブラスト疾走開始。前作もフォークメタルとしてはかなりパワフルな力作だったが、
今作ではさらに激しいペイガンブラック的な質感が強まったサウンドになっている。
辺境感を漂わせる母国語の歌声と勇壮なコーラスで、男臭くたたみかけつつ
牧歌的なパイプや笛の音色もまじえて、濃密で荒々しく、重厚な土着メタルを聴かせてくれる。
ドラマティック度・・8 パワフル度・・8 辺境度・・9 総合・・8
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OBTEST「Gyvybes Medis」
リトアニアのペイガンブラック、オブテストの2007年作
メロディックなギターリフと、ダミ声ヴォーカルを乗せて激しく疾走。
オールドな北欧メロブラ的スタイルに土着的な神秘性を含ませたサウンドで、
随所にピロピロ系のギターやクサメロを含んだ聴き心地もなかなかいい。
母国語の歌声とともに辺境的な味わいを感じさせつつ、サウンド自体は粗すぎず、
しっかりとした演奏力とメロディの魅力があり、質の高いペイガン・ブラックが楽しめる。
ドラマティック度・・8 ペイガンブラック度・・8 辺境度・・7 総合・・8



OBTEST 「Auka Seniems Dievams」
リトアニアのペイガン・ブラック、オブテストの2011年作
2001年の作品の再発したもので、ノイジーなギターリフとともに激しく疾走しつつ、
母国語の歌声とともに、辺境的な土着性も強く感じさせるペイガン・ブラックサウンド。
ギターのフレーズにはどことなくクサメロな感触もあり、勇壮なコーラスなども含めて
エピカルな世界観がなかなかよろしい。音のラウドさも粗削りな迫力になっていて、
プリミティブなブラックメタルが好きな方にも楽しめるだろう。辺境ペイガンの好作品。
ドラマティック度・・8 ペイガン度・・8 辺境度・・8 総合・・8




SYMON MUZYKA (Сымон-Музыка)
ベラルーシのフォークメタル、シモン・ムジカの2011年作
そこそこヘヴィなギターリフに、アコーディオンやヴァイオリンが鳴り響き、
女性ヴォーカルのロシア語の歌声に男性デスヴォイスが絡む、
辺境的な味わいのフォークメタルサウンド。荒々しい激しさもありながら、
ときにスラップベースを聴かせたり、素朴なフルートの音色も入ってきたり
牧歌的な世界観も楽しめる。辺境フォークメタル愛好家はチェックしてみてください。
ドラマティック度・・7 フォーキー度・・8 辺境度・・8 総合・・7.5


Rational Diet「On Phenomena And Existence」
ベラルーシのチェンバーロックバンド、ラショナル・ダイエットの2010年作
ヴァイオリン奏者、女性チェロ奏者、女性鍵盤/Voなどを含めた7人編成で
クラシカルなシリアスさとUnivers Zeroなどに通じるダークな緊張感で聴かせるサウンド。
艶やかなヴァイオリンの音色にスキャット的な女性ヴォーカルが絡み、
不穏なチェロの響きとピアノが重なり、そこにギターとドラムが加わると
ミステリアスで壮大なビジョンを描くようなチェンバーロックが構築されてゆく。
重厚さの中にダークな優雅さとユーモアが存在する点も、聴いていてにやりとさせられる。
クラシカル度・・8 プログレ度・・7 チェンバー度・・9 総合・・8
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