シアトリカル、オペラティック、優雅なる異色作



優雅なる変態…それは常人とはかけ離れたエキセントリックな感性の発露であり、とくにメタルやプログレにおいては
それらの極端さがもともとの極端な音楽にさらに加わることで、驚嘆すべきとてつもない作品が現れたりするのである。
そうした異端の音楽を聴くときのワクワクするような期待感…その右脳的な快感といったらたまらない。
ただテクニカルなだけではない無茶な構築美学…感覚的な婉曲感、静寂の中の狂気をはらんだ緊張感、
演劇的なまでの過剰な演出や、唐突ともいえる極端な展開美…むき出しになった音楽の芸術がそこにある。
ここではそれら、シアトリカルでクラシカルな壮大さをアヴァンギャルドなセンスで仕立て上げた異色の傑作たちを紹介したい。

                                                     緑川 とうせい



◆プログレ・チェンバー・ジャズロック系

GERARD MANSET「LA MORT D’ORION」
フランスのシャンソン歌手で作曲家、ジェラール・マンセの1971年作
クラシカルなヴァイオリンの音色、フランス語の語りに、オペラティックな女性ヴォーカル、
薄暗く、どこか不安感をともなった世界観とアヴァンギャルドな芸術性…
24分のタイトル曲は、シアトリカルな構築と先の読めない展開に、
内的な狂気をはらみながら、どこか醒めた冷たさが恐ろしげな先鋭的な組曲。
クラシカルな作風はイタリアのOPUS AVANTRAに通じる美学も感じさせる。
フルートやピアノのたおやかな響きと、フランス的な倦怠の美意識、
繊細な叙情と張りつめたような不安な空気が同居する、異色の傑作である。
クラシカル度・・8 アヴァンギャル度・・8 芸術度・・9 総合・・8
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Emmanuel Booz「Le Jour Ou Les Vaches」
フランスのシンガー、エマニュエル・ブーズの1974年作
フレンチロックの異色の名作とされる作品で、フランス語の語りから始まり、
サックスやストリングスなどを含んで描かれるチェンバーロック的な緊張感と
シアトリカルや怪しさをただよわせた、エキセントリックな世界観が展開される。
演劇的なブーズの歌声と、それを包み込むダークな不穏感、そこにクラシカルな優雅さも加えた
フランスらしい芸術性が楽しめる。オーケストラルな壮大さも含んだ個性的な力作である。
ドラマティック度・・8 怪しげ度・・9 シアトリカル度・・8 総合・・8
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Alfredo Carrion「Los Andares del Alquinmista」
LOS CANAIOSの「CICLOS」でも知られるスペインの作曲家、アルフレド・カリオンの1976年作
アコースティックギターの素朴な音色とオペラティックな女性Voの歌声で始まり、そこにシンセや
ストリングスが加わると、クラシカルな趣と、異国的な情緒が合わさった独特のサウンドとなる。
繊細な曲調の中に芸術的な香りを含んだセンスは、GUALBERTOのアルバムなどにも通じる。
イタリアでいうとOPUS AVANTRAか。中世を思わせるチェンバロの音色やフルートも美しい。
タイトル曲でもある「錬金術師」は、オーケストレーションも入ったクラシカルな大曲。
艶やかなピアノに絡むストリングス、混声コーラスも加わったスケールの大きなサウンドを聴かせる。
クラシカル度・・8 芸術度・・8 素朴な妖しさ度・・8 総合・・8
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ART BEARS「The World As It Is Today」
イギリスのチェンバーロック、アート・ベアーズの3rd。1980年作
ダグマー・クラウゼのヴォーカルはついに絶叫の域にまで達した。ジャズロック的でもある優雅さと
けだるさのなかに、狂気をはらんだ歌声が響きわたる。それは恐ろしげだが、なんとも艶めいており、
まるで世界の不条理に叫び続ける娼婦でもあるかのようだ。かと思えば、闇の静寂のごとき空気をともない、
激しさと静けさを対比させる、そのシアトリカルな音楽性もなんとも壮大で美しいのである。
これまで以上にシンセが使われていることで、ある種、夢の中にいるかのような幻想的な雰囲気も増している。
ピアノの不協和音が鳴り、遠くではけたたましくヴァイオリンが響いている。
世界の裏側をさらけだすような背徳的な快感がこの作品には詰まっている。
チェンバー度・・8 アヴァンギャル度・・10 女性声力度・・10 総合・・9
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Univers Zero「Heresie」
ベルギーのチェンバーロックバンド、ユニヴェル・ゼロの2nd。1979年作
かつての2ndアルバムをリミックス、リマスターし、ジャケも新しくなった2010年新装盤。
「異端」というタイトルも含めて3rd以降のテクニカルなアプローチとは一線を画した、おどろおどろしさを押し出した作風で、
かつて聴いたときにはとても怖かった印象がある。呪術的なヴォイスや、緊張感を漂わせた不穏な空気は、
むしろイタリアのJACULAなどを思わせるもので、室内楽の管弦楽器をここまでダークに鳴らすバンドはいない。
新たなリミックス効果か、アンサンブルにおける各楽器の輪郭がはっきりして、より緊張感あふれる音になっている。
25分、13分、12分という大曲構成も含めて、バンドの実験色がもっとも色濃く出ている作品とも言えるだろう。
クラシカル度・・8 芸術度・・8 ダーク度・・9 総合・・8.5
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PRESENT「Triskaidekaphobie」
ベルギーのチェンバーロック、プレザンの1980年作
UNIVERS ZEROのロジェ・トリゴーを中心に結成されたバンドで、かつては1st、2ndのカップリングでCD化されていたが、
2014年にそれぞれ単体CDでリマスター再発された。「13恐怖症」という邦題のこの1stは、クラシカルなピアノの旋律に、
不穏なコード進行によるベースが絡み、変則的なリズムによるアヴァンギャルド性と知的な構築力で聴かせる、
ポスト・ユニヴェル・ゼロというべきサウンド。ときにフリーキーに鳴り響くギターやドラムを含めた攻撃性という点では、
UNIVERS ZEROよりもさらに明快なロック志向が感じられ、ミステリアスかつ優雅なプログレとしてもとても楽しめる。
19分、15分という2曲の大曲を軸にした圧巻の力作だ。ボーナストラックに1981年のライブ音源を2曲追加収録。
チェンバー度・・8 プログレ度・・9 ミステリアス度・・9 総合・・8.5
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Shub-NiggurathC'etaient De Tres Grands Vents
フランスのチェンバーロック、シュブ・ニグラートの1991年作
クトゥルー神話の邪神の名をバンド名に持つ異色の暗黒チェンバー系バンド。
ジャケのインパクトでは前作「Les Morts Vont Vite」に譲るが、内容は本作も負けていない。
静謐感を漂わせた闇のような緊張…ノイズのようなギターとトロンボーンが鳴り響き
ブレイクを含んだ無音の息苦しさの中にギターの残響が妖しくこだまする。
即興的なフリーキーさと、空間を含めた構築が交互に襲いかかり、油断していると
得体のしれない怪物に突如襲われるようにハッとなる。ドラムの叩き出すアクセントが
張りつめた緊迫感を作り出し、妖しい女性スキャットなども効果的に響いてくる。
不気味さという点ではUnivers Zero以上のものがあるだろう。異色の力作だ。
ドラマティック度・・7 暗黒度・・8 アヴァンギャル度・・9 総合・・8
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WHEN 「The Black Death (Svartedauen)」
ノルウェーのチェンバーロック、ウェンの1992年作
黒死病に犯された村が全滅する様子を描いた38分全1曲のコンセプト作品で
以前聴いたときには、あまりに怖くて売ってしまったという記憶がある。笑
作品自体は音楽というよりは、サウンドコラージュによるサントラ的な雰囲気で
動物の鳴き声やら足音やら、ホラー映画みたいな効果音などがえらく不気味で、
夜中に聴くとトラウマになること必至。シンセやチェロなどが適度に鳴っているので
かろうじて「音楽」としても成り立ってはいるが、とにかく異端の極北というべき内容。
BURZUMなども使用しているTheodor Kittelsenによるブックレットの挿絵も怖いです。泣
暗黒度・・9 プログレ度・・7 ロック度・・1 総合・・8
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HOYRY-KONE「HUONO PARTURI」
フィンランドの変態チェンバーロックバンド、ホイリーコーンの2nd。1997年作
のっけからいきなりグレゴリアンチャントで厳かに始まったかと思えば、
続いて、へヴィでノイジーな変拍子曲が始まり、まずこの落差につんのめる。
変則リズムの上で鳴り響くヴァイオリン、不安をかき立てるチェロの音色。
何故かオペラティックな男性ヴォーカルがとても真面目に歌い上げて、かえっておかしい。
どの曲も途中、奇妙で唐突な展開をみせ、音像としては非常にシリアスなのだが、
ねじくれた楽曲がこれがギャグであることを物語る。つまり大マジに変態をやったらこうなる、と。
しかも、ただの変なひと、ではなく「スーツを着た論理口調のインテリがキレたとき」、のような(笑)。
クラシカル度・・7 テクニカル度・・8 変態度・・10 総合・・8
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TAAL「SKYMIND」
フランスのシンフォニック・チェンバーロックバンド、タールの2nd。2002年作
1stの方も強引なメタルギターに管楽器をフィーチャーした、エセ壮大系の無茶なサウンドだったが、
この2ndにして、さらに楽曲のアレンジの細やかさが増し、サウンドのクオリティが高まった。
相変わらずのこけおどしメタルサウンドと管楽器、ストリングスの合体は素晴らしく、
時折聴かせるしっとり(?)とした叙情クラシカルパートも本物に聴こえるし、
おちゃらけたメロディや無茶な展開も、馬鹿にできずに、むしろシリアスに聴き通せる。
「本物」なのだ。本物の音で壮大な「悪ノリ」をしているのがこのバンドの魅力なのだ。
結果、まったくもって、シンフォニックでありながら、手の込んだいたずら心満載の
大仰なシンフォニーロックに聴こえてしまう。びっくりでニヤリ。オペラチックな女性Vo曲もある。
シンフォニック度・・8 クラシカル度・・8 本気だから度・・10 総合・・8.5
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Poil 「Brossaklitt」
フランスのアヴァンロック、ポアルの2014年作
2008年にデビューしたフレンチ・アヴァンロックの新鋭。本作は3作目となる。ジャケからしてすでにカオスだが、
サウンドの方も、アヴァンギャルドの極地。重ためのドラムがフリーキーなリズムを叩き出し、
シンセとギターが螺旋のように絡みつく。怪しげなヴォーカルとコーラスが加わって、
おちゃらけと毒気が混じり合った異様な感触は、「ダークになったサムラ」というべきか。
テンションの高さとスリリングな緊張感と、それを笑い飛ばすような脱力感を同居させた無茶なサウンドは、
完全なヘンタイで、その迫力には圧倒される。曲によってはデジタルなテクノ的アプローチもあったりとなんでもあり。
崩壊しそうでしっかりと構築されているという不思議なセンスは見事。ホイリー・コーンも真っ青の傑作です。
ドラマティック度・・7 アヴァンギャル度・・10 ヘンタイ度・・10 総合・・8.5
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◆暗黒ゴシック・オペラティック系

JACULA
「Tardo Pede in Magiam Versus」
イタリアの暗黒プログレバンド、ヤクラの1973年作
荘厳なチャーチオルガンの音色から始まり、典雅なチェンバロの響きに
艶めいた女性ヴォーカルの歌声が乗る。ロック色はほぼ皆無で
全編にわたって秘教的な妖しさを漂わせた異色のサウンド。
呪文を唱えるかのような女性のスキャットに身震いするか、あるいは笑うかで
この闇の幻想音楽を楽しめるかどうかが決まるだろう。フルートの音色に乗る
女性声の美しさはOPUS AVANTRAに匹敵する。まさにイタリアンロック異端の一作。
荘厳度・・8 ロック度・・1 妖しげ度・・10 総合・・9
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DEVIL DOLL「Sacrilegium」
スロヴェニア出身のシアトリカル・ゴシックバンド、デヴィル・ドールの3rd。1992年作
最高傑作ともいうべき、この暗黒の異色作。とにかく、本作「宗教冒涜」を最初に聴いたときの衝撃というのは大変なものだった。
鬼才Mr.Doctorの描き出す豊穣な闇と美しき狂気…一歩踏み込んだら二度とは抜け出せないような
妖しく耽美なその世界。荘厳なチャーチオルガンと混声コーラスで幕を開け、もの悲しいピアノをバックに
老婆のようなしわがれ声から甲高い絶叫まで声を使い分けるヴォーカルが暗闇のオペラを語り上げてゆく。
クラシカルな優雅さとゴシックホラー的な漆黒の芸術性が合わさった異常ともいうべき全1曲の長大な構成。
もはや演劇か映画か、ともいうべき濃密なドラマ性を有したその音に、衝撃を受けないものはいまい。
アヴァンギャルドな感性を解するものであるほど、この前代未聞の音楽芸術に引き込まれるはずだ。
クラシカル度・・8 暗黒オペラ度・・9 シアトリカル度・・10 総合・・9
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DRACULA KOMPLET
チェコのホラー・ミュージカルオペラ、「ドラキュラ」のサントラアルバム。1997作
劇の内容についてはよく知らないが、ブックレットの写真などを見ると、
ドラキュラを題材にした異世界風のファンタジックなミュージカルといった雰囲気だ。
音楽の方が凄い。クラシックを基盤にしながら、壮麗なオーケストレイションやたおやかなピアノ、
そこに巻き舌の演劇的なヴォーカルが加わると、まるでDEVIL DOLLを思わせる世界観になる。
J.Aシーザー(天井桟敷)ばりの混声合唱隊に、オペラティックに歌い上げる男性ヴォーカル、
そしてヒロイン役だろう、美しい女性ヴォーカルの歌声もサウンドに華を添える。
CD2枚、計2時間にわたって繰り広げられるこのカルトなドラマティック・オペラミュージックは、
単なるサントラの枠を超えて、シアトリカルロック好きの胸を打つだけの強度がある。
クラシカル度・・8 耽美度・・9 シアトリカル度・・10 総合・・8
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ANGIZIA「Ein Toter fahrt gern Ringelspiel」
オーストリアのアヴァンギャルド・ゴシックバンド、アンギジアの5th。2004年作
前作「39 Jahre fur den Leierkastenmann」が変態系ゴシックとしては相当の傑作だったが、
今回も期待通りの出来。まるでDEVIL DOLLのようなシアトリカルなドイツ語ヴォーカルに、
アコーディオンやクラリネットの愉快な音色は、一聴した質感ではコミカルですらある。
メタリックな要素はあまりなく、民族調のアヴァンギャルドサウンドであるが、
ときにクラシカルなピアノやヴァイオリン、オペラティックな女性Voなどが現れ、
彼らの持つアカデミックで豊かな音楽的なバックボーンを聴かせるあたりはさすが。
全24曲75分という大作で、コンセプト作っぽいが詳細は不明。…まごうことなき変態。
暗黒愉快度・・8 シアトリカル度・・9 アヴァンギャル度・・10 総合・・9
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ELEND「A World in Their Screams」
フランスのクラシカル・ゴシックバンド、エレンドの7th。2007年作
美しいソプラノヴォーカルに、ヴァイオリンやチェロが妖しげに鳴り響き、
重々しいティンパニにオーケストラルかつ荘厳なアレンジがかぶさってゆく。
恐るべき迫力…おどろおどろしい闇の交響曲ともいうべき世界観に圧倒されつつ
その芸術的なまでの漆黒の深遠に、しだいしだいに引き込まれてゆく。
4thまでの禍々しさに比べると、もっと優雅な暗黒というか、プログレッシブな手法に磨きがかかり
激しさがなくともここまで緊迫感を描き出せるという点では、Univers Zeroにも通じるか。
あるいは「The Umbersun」をも超えた傑作といえる。クラシカルな暗黒音楽の金字塔。
クラシカル度・・9 暗黒度・・10 荘厳度・・10 総合・・9
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LACRIMOSA「ECHOS」
スイスのゴシックメタルバンド、ラクリモーサの8th。2003年作
十年以上のキャリアを誇る耽美派ゴシックの第一人者ともいうべきこのバンド。
今回はメタル色をいっさい排した壮大かつクラシカルなシンフォニーとなっている。
ドラム、ベース、ギターすらもなく、ひたすら荘厳なオーケストラと大仰なコーラスとが
粛々と、ときにたゆたうように、ときに盛り上がりつつ彼らの耽美世界を形成している。
雰囲気としては前々作「ELODIA」の流れをくむもので、さらにロック色を薄め、とことん美にこだわった世界観。
もはや今では楽しみとなった、ブックレットの写真も相変わらずナルナルでよろしい。
まったくもってメタルではないが、ゴシックとしての雰囲気を楽しめる人には薦められる。
シンフォニック度・・9 荘厳度・・10 メタル度・・3 総合・・8.5
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CHAOSTAR「THRENODY」
ギリシャのゴシック(メタル)バンド、カオスターの2nd。2001年作
女性Voのナタリー嬢をはじめG、Drは同郷のデスメタルバンドSEPTIC FLESHでも活躍しており
webサイトも一緒ということで、いうなれば双頭バンドということなのだろう。
SEPTIC FLESHが呪術的なデスメタルとすれば、こちらは呪術的なゴシックか。
ヴァイオリン、キーボードなどによるクラシカルかつダークな楽曲にミステリアスな女性Vo、
そしてTHERIONばりのコーラスという壮大な楽曲は、実にシアトリカルで本気度が高い。
暗黒ゴシックでありながら、ある意味格調の高いオーケストラルな空間性も感じさせる。
シンフォニック度・・8 クラシカル度・・8 暗黒(呪術)度・・9 総合・・8
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HAGGARD「EPPUR SI MUOVE」
ドイツの管弦楽団入りゴシックメタルバンド、ハガードの3rd。2004年作
ヴァイオリン、チェロといった管弦楽隊を含め、メンバーは総勢17名。のっけからもうシンフォニック&クラシカルの嵐で、
なにせ本物のストリングスがいるのだから、その音の説得力たるやハンパでなく、まるでオペラかなにかを聴いているような錯覚に陥る。
かつてのアルバムに比べ、メタルパートとクラシカルパートの融合がスムーズになっており、
ダークなゴシックメタルサウンドに、古楽的なメロディがしっかりと溶け込んでいる。
また、女性ヴォーカルの活躍も今まで以上で、アルトにソプラノ、それに男性テノール歌手も今回ゲスト参加、
そこにデス声とが混じり合い、大仰かつダークで優雅、クラシカルでときに古典的、そしてメタリックという、
ひどくレンジの広い音楽性を体現している(それでいて音はちゃんとゴシックに統一されている!)
ヴァイオリンだけでなく、ピアノやチェロなども実に美しく、曲ごとに優雅に弾き鳴らされる。
荘厳なるオペラティック・ゴシックの大傑作といってもよいだろう。
シンフォニック度・・10 荘厳度・・10 クラシカル度・・9 総合・・9 
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IN THE WOODSThree Times Seven on a Pilgrimage
ノルウェーのゴシックメタルバンド、イン・ザ・ウッズの2000年作
1996、98、00年にリリースされたミニアルバムをまとめ、新録曲をプラスした企画アルバム。
1stの頃はプログレッシブなゴシックブラックというようなサウンドだったのだが、
徐々にアンビエントな作風へと深化し、本作で聴けるのはメタル色の薄まった
アトモスフィリックで幻想的なサウンドである。ゆったりとした曲調に叙情的なツインギター、
男女ヴォーカルの歌声も含めてサイケロック風の浮遊感もあり、神秘的な世界観を描き出している。
KING CRIMSON、PINK FLOYD、JEFFERSON AIRPLANE、SYD BARRETTのカヴァーを収録、
女性ヴォーカルで歌われる“Epitaph”は、スペイシーな感じで、サイケな聴き心地がなかなか素敵です。
メタル度・・6 むしろプログレ度・・8 神秘的度・・9 総合・・8
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Madder Mortem 「Eight Ways」
ノルウェーのゴシックメタルバンド、マダー・モーテムの5th。2009年作
正直、前作を聴いたときにはヘタウマのゴシックという程度の認識だったのだが、
今作ではアヴァンギャルドな要素と、女性ヴォーカルで聴かせるアンニュイな耽美さが融合、
結果としてプログレッシブな質感が強まり、かなり面白いサウンドになっている。
ヘヴィなギターリフに、ときにヒステリックにもなる女性声、それでいてしっとりとした歌声は
どこか薄暗いけだるげな雰囲気をかもしだしていて、優雅さと荒々しさが同居しているという感じか。
ゴシックというよりは、むしろ女性声の北欧プログレ的にも楽しめる。これは気に入った。
メロディアス度・・7 耽美度・・8 女性Vo度・・8 総合・・8
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◆ヘンタイ・ミクスチャー系

BELIEVER「Dimensions」
アメリカのプログレッシブ・デスメタル、ビリーヴァーの3rd。1993年作
テクニカルな変拍子リズムを取り入れた、変態的かつ芸術的な濃密サウンドは、
同年に出たDEATHの歴史的傑作「Individual Thoght Patterns」とタメを張れる出来。
このバンドの場合はただテクニカルなだけでなく、薄暗い雰囲気と摩訶不思議な世界観に
うっすらと叙情性を漂わせていて、デスというよりはむしろProg Metal系リスナーにお勧めしたい。
極めつけは後半の20分超の組曲で、ヴァイオリンにチェロ、ソプラノ女性Voも加わった大曲は
ゴシックメタル的な質感にアヴァンギャルドな芸術性が合体した、キワモノ的センスが光る。
美しいヴァイオリンの音色にうっとりとなりつつ、変拍子に頭を揺らす。嗚呼…変態でよかった(笑)。
メロディアス度・・7 テクニカル度・・8 芸術(変態)度・・9 総合・・8.5
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ATROX「ORGASM」
ノルウェーの変態ゴシックメタルバンド、アトロックスの4th。2003年作
2nd、3rdとどんどんとアヴァンギャルド化が進み、今作ではのっけから堂々と変拍子を使った
プログレ(変態)メタル的音像となっている。そこに乗る女性Voモニカ嬢の歌唱は、
「狂気に走ったケイト・ブッシュ」といった雰囲気で、どこかキレたような無邪気さを感じさせる。
音的には変態系プログレメタル、女性Vo入りゴシック、どちらのリスナーにもお勧めできるが…
変態好きの方以外にはあえてお勧めはしない…(笑)ジャケからしてボスの絵画のパロディ風だし。
メロディアス度・・7 変態度・・8 女性Vo度…8 総合・・7.5(変態好きなら8)
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RAM-ZET「ESCAPE」
ノルウェーのプログレッシブ・ゴシックメタルバンド、ラム・ゼットの2nd。2002年作
1stは未聴なのだが、この2ndを聴く限り、ブラックというよりはゴシック系のバンドなのかと思う。
爬虫類声の男Voに美声の女性声が絡まり、曲はデジタリィでありながらシンフォニックでもあり
ときおり疾走するところではブラックメタル要素もある。ようするにプログレ・ゴシックといってもいいサウンド。
インダストリアル系のヘヴィギターにクラシカルなピアノ、キーボード、ヴァイオリン、そして展開の激しい楽曲と、
ゴシックの耽美性とアヴァンギャルドかつ知的なセンスを覗かせながらも、なおメタルとして成り立っているのが凄い。
シンフォニック度・・8 テクニカル度・・8 変態度・・8 総合・・8
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UNEXPECTUn A Flesh Aquarium
カナダのカオティック・クラシカルメタルバンド、アンエクスペクトの2nd。2006年作
ヴァイオリンに男女Voも含む7人組で、変態的かつアヴァンギャルドなサウンドには
ゴシックメタルやブラックメタル風の要素もありつつ、変則リズムと矢継ぎ早の展開に唖然となる。
男女ヴォーカルのオペラティックな絡みには、なかなかシアトリカルな要素もあり、
ピアノやヴァイオリンのクラシカルな響きを聴かせつつも、デス声やブラストビートなども折り込んで、
優雅なのかやかましいのかまったく分からない、変態メタルの濃密さがパーツごとに凝縮されている。
これを聴いて思い出したのはイギリスのEBONYLAKEであるが、こちらの方がさらに濃い(笑)
全体を包むのはゴシックメタル風の雰囲気だが、クラシカルでアヴァンギャルドな極端な音には
耽美系の変態メタルファン(?)にはたまらないものがあるだろう。まずは聴いてください。
メロディアス度・・7 クラシカル度・・8 変態度・・10 総合・・8
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Kayo Dot 「Choirs of the Eye」
アメリカのエクスペリメンタル系ポストロック、ケイヨ・ドットの2003年作
ヘヴィなギターによるドゥーミィな感触と静寂感に、ホルンやフルート、トロンボーン、
サックス、トランペット、ヴァイオリン、などが鳴り響く、チェンバーロック的なサウンドが融合。
10分を超える大曲を中心に、空間的なスケール感と不穏な闇の気配に包まれた、
スリリングなサウンドを描いてゆく。ドローン的でもあるヘヴィネスとポストロックの繊細さが合わさり、
クラシカルな芸術性で仕立てたというべき異色の作風で、結果として非常にプログレッシブな聴き心地。
大曲の後半では、なだれ込むような音の洪水となり、そのブラックメタルばりの迫力は圧巻だ。
女性ヴォーカルの入った美しいナンバーなどもありつつ、繊細さとダイナミズムを併せた力作である。
ドラマティック度・・8 プログレッシブ度・・8 闇の芸術度・・9 総合・・8
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Procosmian Fannyfiddlers 「The Rolling Court Massacre」
ノルウェーのプログレバンド、プロコスミアン・ファニーフィドラーズの2001年作
ギター、ドラム、ヴォーカル、シンセをこなす、フィスト・アナル氏を中心にした4人編成で
本作はACT I、II に分かれたロックオペラ的な壮大なる(たぶん)コンセプト作品。
軽快なリズムにカントリー的なギターとアコーディオン、プログレ的なシンセが乗り、
アヴァンギャルドな展開に、男女ヴォーカルの歌声…女性Voメインの部分も多いです。
語りによる寸劇も含んだシアトリカルな雰囲気と、コミカルでありつつもどこか哀愁を感じさせる作風は
まぎれもなく本気のヘンタイである。メロトロンをバックに歌が重なるところは妙に感動的であったり、
おちゃらけとエキセントリックな感性が壮大に合わさった、一筋繩ではいかない異色の力作だ。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 ヘンタイ度・・9 総合・・8

Sleepytime Gorilla MuseumIn Glorious Times」
アメリカのシアトリカル・アヴァンギャルドロック、スリーピータイム・ゴリラ・ミュージアムの2007年作
アヴァンギャルドでシアトリカル、まるで先鋭芸術のような音楽は、3作目となる本作で
さらなる孤高の域というべき冴えを見せている。感情過多の男ヴォーカルの歌声、
トランペット、ヴァイオリンなどを含んだチェンバーロック風味と、モダンなヘヴィネス、
女性声も加わって、キワモノ風オペラのような世界観で盛り上げ、聴き手を圧倒してゆく。
メタル的な激しさを含んだ楽曲は、オーケストラルな音の厚みとともに壮大な世界観を形成、
突き抜け方という点においてはDEVIN TOWNSENDにも通じるような天才的なセンスである。
ドラマティック度・・9 アヴァンギャル度・・9 ヘンタイ度・・9 総合・・8.5
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Diablo Swing Orchestra「Sing Along Songs for the Damned & Delirious」
スウェーデンのプログレ・ジャズメタルバンド、ディアブロ・スウィング・オーケストラの2nd。2009年作
今作はジャケからしてユーモアたっぷりだが、サウンドの方もさらなるジャズとメタルの自然の融合がなされている。
ハネるリズムの上にザクザクとしたギターとサックスが絡み、そこに男女ヴォーカルが絡む濃密な作風で、
演奏自体のレベルも上がってきており、メタリックなスウィングジャズとしての完成度が無駄に高まっている。
軽やかなピアノの音色やら、ヴイヴイいわせるベースの巧みさやら、部分ごとの説得力が大変素晴らしく、
本気ジャズ的メタル遊び…ともいうべき強固な世界観に磨きがかかっているばかりか、
低音の男声とオペラティックな女性声という対比がコントラストとなって、作品としてのテンションも増している。
変態…というにもあまりに高い完成度と天晴れなまでの真摯な遊び心。敬服するしかない強力作である。
ジャズメタル度・・9 スウィング度・・8 女性Vo度・・7 総合・・8.5
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Gnaw Their Tongues
「L'arrivee De La Terne Mort Triomphante」
オランダのエクスペリメンタル・ブラックメタル、グノウ・ゼア・トングスの2010年作
マウリス・デ・ヨングによる独りユニットで、2006年にデビュー。本作はすでに7作目となる。
男女混声コーラスと、ノイジーなギター、絶叫するヴォーカル、ドラムが混然一体となった、
サウンドスケープ、ポストロック的な妖しさと、荘厳なスケール感を描くような異色の世界観。
ダークアンビエント、ノイズ、ドローン、インダストリアルの要素をブラックメタルばりの暗黒性で塗りつぶし、
ときにクラシカルなピアノなど耽美な空気も覗かせ、アヴァンギャルドなELENDというような聴き心地もある。
7〜11分という大曲ばかりで、曲というよりは混沌とした耽美な音の塊を味わうというところは、
カルトでダークなアヴァンミュージック好きには脳が心地よいことこの上ない。新時代の暗黒魔王です。
ドラマティック度・・8 メタル度・・5 暗黒度・・9 総合・・8
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◆ヘンタイ・ブラック系

Ebonylake 「On the Eve of the Grimly」
ノルウェーのプログレッシブ・ゴシックブラックメタル、エボニーレイクの1999年作
女性Vo、女性Keyを含む7人組みで、サウンドは異常ともいえるような変則クラシカル・ブラックメタル。
男女ヴォーカルのシアトリカルな絡みに、シンセ入りでオペラティックな美しさを垣間見せつつも、
ブラストビートで強烈にたたみかける。そのブラストすらも変拍子という始末だから思わずにんまりだ。
こうしたシアトリカルな手法はゴシックメタル的なのであるが、そこを無理やりブラックにしているのが素晴らしい…
というか変態的だ。レビュワーのM氏が某B!誌で「気持ち悪くて二度と聴きたくない」と書いていたのは、
むしろ変態音楽愛好家には最高の褒め言葉であろう。異形のオペラティック変態ブラックメタル。凄いです。
メロディアス度・・7 テクニカル度・・7 変態度・・10 総合・・8
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SOLEFALD「IN HARMONIA UNIVERSALI」
ノルウェーのプログレ・ブラックメタルバンド、ソレファルドの4th。2003年作
もっともプログレファン受けするデス系バンドとしてこのバンドを注目してきたが、今作も期待通りの出来である。
ここに至って激速パートはほとんどなくなり、ブラックの要素としてはVoのしわがれ声くらいだが
それさえも普通声のパートが多いこともあり、もはやデス/ブラックというカテゴライズは不可能か。
今回はシンセの音色がピアノやハモンドがメインで、サウンド的に70年代風の試みがなされているのも興味深い。
それに対してコーラスによる声の重ねやギターのヘヴィさがコントラストになっていて実に奥深い音像だ。
呪術性と芸術性、過去と現在、激烈と静謐を音に詰め込んだ見事な作品。
ブラック系のバンドとしてはプログレファンに楽しめる一番手のバンドであろう。
メロディアス度・・8 プログレ度・・8 芸術度・・9 総合・・8.5 
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ARCTURUS「La Masquerade Infernale」
ノルウェーのシンフォニック・ブラックメタルバンド、アークチュラスの2nd。1997年作
1stは比較的正統派のシンフォニックブラックメタルスタイルであったが、
本作では、よりプログレッシブでアヴァンギャルドな音楽性に深化をとげている。
「地獄の仮面舞踏会」というタイトル通り、演劇的なヴォーカルと妖しげな世界観で、
ときにクラシカルな要素をまじえつつ、じつに個性的なサウンドを聴かせてくれる。
ブラックメタルとして聴くととっつきは悪いだろうが、変態的なプログレッシブメタルとしては
濃密な音楽性で非常に楽しめる。知的さの漂うシアトリカルブラックの力作だ。
シンフォニック度・・7 暴虐度・・4 アヴァンギャル度・・8 総合・・8
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Opera IX「The Black Opera:Symphoniae Mysteriorum in Lauden Tenebrarum
イタリアのシアトリカル・ゴシック・ブラックメタルバンド、オペラ\の2000年作
2作目となる本作は楽曲の構築力が増していて、それとともにカルトメタル的な妖しい耽美な雰囲気に磨きがかかっている。
後にCADAVERIAを結成するCadaveria嬢の歌声は、スクリームヴォイスと普通声を使い分けていて、
インパクト充分。ときに激しく疾走するブラックメタル的な暗黒性と、シンセも入った美しさが合わさって
濃密なゴシック・ブラックサウンドを描いている。イタリアらしい耽美な闇の美学が詰め込まれたアルバムだ。
メロディアス度・・7 暗黒度・・8 耽美&シアトリカル度・・8 総合・・8
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AKERCOCKEWords That Go Unspoken Deeds That Go Undone
イギリスの変態系ブラックメタルバンド、アカーコックの3rd。2005年作
ブルータルな暴虐性と、アヴァンギャルドな楽曲展開で聴かせるサウンドは、
今作でも健在で、知的な芸術性とシアトリカルなセンスで構築される楽曲は、
濃密かつドラマティック。これまでになくメロディックなテイストも含んでいて、
Solefaldあたりに通じるアートなプログレッシブ・ブラックとしても楽しめる。
ブラックメタルとしての激しさもしっかり残しつつ、質の高さを増してきたという印象だ。
ドラマティック度・・7 暴虐度・・8 変態度・・8 総合・・8
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AXAMENTA「eVeR-ARch-][-teCh-tURe」
ベルギーのプログレッシブ・ブラックメタルバンド、アクサメンタの2nd。2006年作
知的さをただよわせた構成と、ザクザクとしたスラッシーなリフで硬派に疾走しつつ、
バックにはDIMMU BORGIRCRADLE OF FILTHのような荘厳なシンセワークが美しい。
そしてプログレッシブな曲展開やリズム面での複雑なキメは、EXTOLあたりを思わせるセンスで、
これがまたいちいちカッコいい。メンバーがPAIN OF SALVATIONが好きだというだけあり、
ProgMetal的なコンセプチュアルな雰囲気と濃密な世界観をたっぷりと感じさせる。
ダークな冷気とシアトリカルな構築性、そしてブラックメタルとしての激しさを併せ持ちつつ
オールドなスラッシュメタル的質感も有した、まさにエクストリーム系のミクスチャーサウンド。
大仰かつプログレッシブなデス系メタルが好き方は必聴の傑作だ。
メロディアス度・・7 プログレッシブ度・・8 知的センス度・・9 総合・・8.5
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In Lingua Mortua「Salon Des Refuses」
ノルウェーのプログレッシブ・ブラックメタルバンド、イン・リングア・モーテュアの2010年作
前作はヴァイオリン、サックス、フルート、ピアノなどを使用したクラシカルな優雅さと、
なんとプログレバンドばりにメロトロンを使った、独自のスタイルがインパクト大であったが、
本作も激しさの中に知的な感覚を覗かせ、まるでEMPERORと70年代プログレを融合させたような雰囲気である。
ANEKDOTENばりに鳴り響くメロトロン、フルートの音色はレトロな質感をかもしだしており、
緩急をつけた楽曲構造とともに、一種シアトリカルなまでのプログレブラックを展開している。
一般のリスナーにはつかみ所がない音かもしれないが、Solefaldなどのファンならにんまりしそう。
メロディアス度・・7 暴虐度・・7 プログレ(変態)度・・8 総合・・8
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A Forest Of Stars「A Shadowplay For Yesterdays」
イギリスのサイケデリック・ブラックメタルバンド、フォレスト・オブ・スターズの2012年作
女性ヴァイオリン&フルート奏者を含む7人編成で、プログレッシブといってよいセンスと
ブラックメタルとしての激しさをサイケな浮遊感に混ぜ混んだという個性的なサウンド。
ブラストで疾走する部分もあるが、禍々しさよりも混沌とした美しさを感じさせ、
そういう点ではこのバンドもポストブラックのひとつと言ってよいのだろう。
8分、10分という大曲などには、知的な構築力とシアトリカルなドラマ性もあり、
ひと筋縄ではいかなエキセントリックな芸術性も含んだ異色の力作です。
ドラマティック度・・8 個性派度・・8 英国度・・7 総合・・8
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Hail Spirit Noir「Pneuma」
ギリシャのプログレ・ブラック、ヘイル・スピリット・ノアールの2012年作
ジャケからしてすでにサイケな感じが漂っているが、サウンドも当然おかしい。
オルガンの音色が鳴り響く70年代的ロックの質感に、わめき声ヴォーカルが乗り、
そのまったく恐ろしくないユルさが微笑ましくもあるという、不思議な聴き心地。
一応ブラックメタル的なブラスト疾走もあるが、ヘヴィさ、暴虐さのカケラもなく、
サイケな浮遊感とプログレ風味に包まれていて、なかなか楽しいのである。
唐突な展開はヘンタイ系好きにも対応。ユル系ブラックサイケというべき面白作だ。
13分の大曲もありながら全38分という短さもアナログ的。メロトロンも入ってます。
ドラマティック度・・7 サイケ&プログレ度・・8 70年代風味度・・8 総合・・8
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FORMLOFF「Spyhorelandet」
ノルウェーのアヴァン・ブラックメタル、フォームロフの2012年作
ヴォーカル&シンセ、ヴォーカル&ギターという2人組のユニットで、
一聴してSolefaldあたりを思わせるプログレッシブなブラックメタルサウンドだ。
随所に激しいブラストも含みつつ、ドゥームメタル的なスローパートもあったりと、
緩急をつけた楽曲展開と、不穏なダークさをかもし出すシアトリカルな世界観が特徴的。
ギターの音色にはストーナー的なアナログ感もあり、邪悪さよりもむしろ荒涼とした雰囲気を漂わせている。
ときにオルガンの音色も顔を出し、サイケデリックな要素も覗かせる。個性派ブラックがお好きな方へ。
ドラマティック度・・8 シアトリカル度・・8 アヴァンギャル度・・8 総合・・8
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◆ヘンタイ・ゲルマン系

KOROVA「A Kiss in the Charnel Fields」
オーストリアのプログレ・ブラックメタルバンド、コロヴァの1st。1995年作
のっけからドイツ語の男Voと女性スキャット、それに民族調のメロディで始まり
ただならぬ幕開けににやにやしていると、やはり始まったアヴァンギャルド絵巻…
SOLEFALDをもっとぐちゃぐちゃにしたような感じといえばいいのか、
2ndで聴けたセンスある知的さよりも、もっと混沌とした勢いまかせの変態ブラックですね。
ノイジーなギターに咆哮をはじめるヴォーカル、ブラストビートもときおり入ってきて
やかましいのだけど、どこかローカルで田舎めいた感じがするのはENIDなどと同様。
ときおりギターがクサメロを弾いたり、クラシカルなピアノやオーケストレーションなどの使用も
プログレ好きの変態音楽愛好家にはタマランです(笑)SOLEFALDSIGHなどが好きな方はぜひ!
メロディアス度・・7 暴虐度・・7 変態度・・9 総合・・8
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Die Apokalyptischen Reiter「MorAL & WahNSInN」
ドイツのシアトリカル・エピックメタル、ディー・アポカリプティシャン・レイターの8th。2011年作
今作もジャケからして妖しさプンプンであるが、メロデスばりのツインギターで疾走開始、
…したと思いきや哀愁溢れるアコースティックギターとシンセにドイツ語の歌声が乗り、
すでにのっけからシアトリカルメタルが全開。この異様なクオリティの高さはなんなのだ。
無茶な展開と本気のエピックさに知的なはっちゃけが合わさった、シンフォニック叙情メタル。
中世ゲルマントラッドの世界観とクラシカルな優雅さが、現代的なごった煮センスで絶妙にハマって、
濃密でありながら美しく叙情的という、他に類を見ないサウンドに仕上がっている。
ある意味プログレッシブな深さ…そして、なにも恐れぬセンスに包まれた驚異の傑作!
ドラマティック度・・9 濃密度・・9 ゲルマン度・・8 総合・・8.5
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ENID「Gradwanderer」
ドイツのクラシカル(ゴシック/ブラック)メタルバンド、イーニッドのアルバム。2004年作
クラシカルな中世ゲルマン風ゴシックというべき作風で気に入っているバンドのおそらくこれが4作目。
今作も知的でプログレッシブな展開力と朗々としたドイツ語のヴォーカルで聴かせる、
個性的なシンフォニックサウンドは健在。ときおり民族色や優雅なピアノのパートなどを盛り込むなど、
単なるメタルの枠を越えた発想とヨーロピアンな美意識、センスが組み合わさった懐の広さに感動を覚える。
アルバム後半には妖しげなジャズ風味なども取り入れていて、ある意味これも大人の変態メタル。
ノルウェーのSolefaldにも通じる芸術性が素晴らしい。クラシカルでシンフォニックな傑作である。
シンフォニック度・・8 クラシカル度・・8 芸術センス度・・9 総合・・8.5
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EISREGEN「Schlangensonne
ドイツのエピック・ゲルマンメタル、エイスレゲンの2010年作
Die Apokalyptischen ReiterEnidなど、ドイツには個性的なバンドが多いのだが、
このバンドも、ドイツ語の歌声とアヴァンギャルドな構築センスで聴かせる、なかなか面白いサウンド。
ダミ声ヴォーカルとともに疾走するブラックメタル要素に、ときにクラシカルなシンセパートや
朗々としたノーマルヴォーカルなども入って、一筋縄ではゆかない濃密な作風である。
中世的なダークな世界観と荘厳なエピックさは、「ドイツ版Solefald」という感じもある。
ドラマティック度・・7 構築センス・・8 ゲルマン度・・8 総合・・8
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◆日本が誇る異端のシアトリカル音楽


J・A・シーザー/天井桟敷「身毒丸」
寺山修司が率いる“演劇実験室”天井桟敷が、1978年紀伊国屋ホールで公演した
「身毒丸」の実況録音で、中世の説教節「しんとく丸」を基にした本演劇は、
J.Aシーザーによる音楽をたっぷり使った、アヴァンギャルドなミュージカルでもある。
混声コーラスによるある種呪術的なまでに濃密な歌声と、鳴り響くオルガン、
日本的な遊び言葉の羅列には、聴き手のプログレッシブな感覚を刺激する。
箏のつまびきをバックにした蘭妖子の独特な語り声、オペラのようなソプラノに
ヴァイオリン、フルート、琵琶の音色、そこにロック的なギターとドラムが加わると、
劇と音楽が融合した独自の世界観が完成される。裏さびれた哀愁と古き良き郷愁、
どろどろとした土着性、愛憎と暗闇、笑いの中の悲しみ、ひねくれた内面的な痛みなど、
さまざまな奇妙な感覚が音楽や台詞で表現されてゆく。おそるべき芸術オペラである。
シーザー度・・8 アヴァンギャル度・・9 シアトリカル度・・10 総合・・8.5
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AMYGDALA
日本のプログレユニット、アミグダラの2004年作
シンセ奏者の中島芳雪とTYRANTの山路善広によるユニットで、
打ち込みのドラムの上をノイジーなギターが鳴り、ときに金管楽器的なシンセとともに
不穏な気配を漂わせた暗黒系チェンバーロックの雰囲気を持つサウンド。
先の読めない緊張感、アヴァンギャルドでアートなセンスは、Sighなどにも通じるだろうか。
10分以上の曲もあり、クラシック的な構築性とUnivers Zeroのような空間的なシリアスさが絡み合う。
惜しむらくは、ドラムを含めて、バンド編成でこの世界観の完成形を聴いてみたいと思わせる。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・8 アヴァンギャル度・・8 総合・・8
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SIGHIn Somniphobia
日本のプログレッシブ・ブラック、サイの2012年作
すでにデビューから20年。異才、川嶋未来率いるこのバンドも本作が9作目となる。
のっけからいつになくメロディックなギターと絶叫ヴォーカルを乗せてメロスピばりに疾走、
クラシカルなストリングスにオルガン、ムーグなどのレトロなシンセを含んだ
プログレッシブなアレンジも冴えを見せ、 Dr.Mikannibal嬢のコーラスやサックスなども
サウンドに優雅な聴き心地を加えている。古き良きロックのアナログ感覚を、
混沌とした芸術作品に仕立てたというような雰囲気もありつつ、ジャズやクラシック、
さらには民俗要素までを取り込む川嶋氏のアーティストとしての器の大きさには敬服する。
もはやブラックメタル云々のジャンルを超えた唯一無二のアヴァンメタルというべきだろう。
メロディアス度・・8 プログレッシブ度・・9 カオスな芸術度・・10 総合・・9
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◆ここに載せた50作品のうち、10作品以上お持ちの方は、「シアトリカルなヘンタイ音楽好き」と認定いたします。

*クラシカルなプログレ特集
*プログレッシブなデス、ブラック特集
*チェンバーロック大特集
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