(HR/HM編)



皆さんは変態な音楽が好きですか?
私はけっこう好きです(笑)


さて、一口に「変態」といってもそこには様様な種類があり、その気持ち悪さ(良さ)、効能(?)などは色々です。
ここではその中でも変態音楽好きのこの私(爆)が、自信をもって(?)お薦めするバンドたちをご紹介します。
ふだんまともな音楽、まともなメタル、まともなシンフォニックなどしか聴かない方々、
この機会に一度変態な音楽を味わってみませんか?
                
     緑川 とうせい

*注*
このページにおける文章、画像等の転載は禁止します。
文章等を転載する場合は必ず管理人緑川に許可を得てからお願いします。



はじめに


さて、まず申し上げておかねばならないのは「変態=プログレ」ということではない、ということです。
もちろん変態な音楽をやっている方々には我々常人には計り知れないプログレッシブなマインドが存在し、
その常軌を逸した感覚こそが聴くものに「変態」と思わせることは確かです。
しかしながら、たとえばプログレメタルにしてもドリームシアターなどは変態ではありませんし、
その他真摯に一般向けのテクニカルメタルをやっている方々もたくさんいます。。
つまり「変態」とは単にプログレ的なアプローチ(ここでは変拍子や楽曲構築における意外性の意)
を指すのではなく、そこにある種の「偏執狂」的精神を付加した言葉といえるでしょう。

そうなると、笑っちゃうほどに大仰なシンフォニックメタル(つまりはラプソディなど)や、
マッチョな戦う男のメタル(つまりはマノウォーなど)もある意味では「変態」です(スマン^ ^;)。
しかしここでは、そうした「世界観に対するこだわりの精神」は置いておいて、
「音楽的なアプローチそのものへのこだわり、特異性」を実践しているバンドを紹介することにします。

また、知的なメタルの代表格とも言えるメガデス「変態にはならず」
アナイアレイターなら「変態ぎみ」ウォッチタワーまでいけば「完全な変態」となりますが、
これはやはり感覚的なもので、「やりすぎ」の度合い、「変態度」が上がれば上がるほど
マイナーでマニアックな存在、つまり世の中で受け入れてくれる人の数が減る、ということを意味しています。
要するにそれは我々が聴いて「なにか引っかかる」「なにか変だ」「気持ち悪い」
「とんでもないリズム」「今だかつてないアプローチ」「つまらんことにこだわりすぎ」
「つまりは変態」「何考えてるんだいったい」「こいつら異常」
(爆×9)
という…素晴らしく、ときに知的で濃厚、そして楽しいアルバムたちなのです。

ではハマったら抜け出せない(かもしれん?)素敵な変態メタルバンド紹介の始まりー


■リズム的気持ちの悪さ=変態

メコン・デルタフェイツ・ウォーニング
変態でプログレなメタルの元祖と聞かれて、まず思い浮かぶのがこの2バンド。
両者とも80年代半ばには、変則拍子を取り入れた複雑でテクニカルなサウンドをすでに確立していました。

MEKONG DELTAはドイツのバンド、
ベースのラルフ・ヒューベルトを中心にクラシックとスラッシュメタルの融合を実践するバンドです。
そのサウンドは1stアルバムからすでに複雑なリズムアプローチとクラシックのカヴァーなどを行い、
続く2nd「THE MUSIC OF ERICH ZANN」3rd「THE PRINCIPLE DOUBT」と順調に発表。
あのELPの名曲「TOCCATA」ムソグルスキーのクラシック曲をキーボードさえ使わず、
ギター、ベース、ドラムのみで再現(一応・・)という暴挙が楽しめます。
続く4th「DANCES OF DEATH」にてそうした変態リズムに整合性を取り入れることに成功。
それまでの作品の中では比較的まとまりのある傑作となりました。(ここでは「はげ山の一夜」をカヴァー)
その後も驚愕の演奏力を見せつけるライブアルバムをはさみ、5th「KALEIDOSCOPE」(これも分かり易い佳作)
6th「VISIONS FUGITIVES」(オーケストラ導入の組曲有り、プログレファンにお薦め!)を発表
そして1997年、彼らの長年の夢であったムソグルスキーの「展覧会の絵」の完全再現アルバムを完成、
クラシックをメタルと融合させる、というこのバンドの偉業は結実を見たわけです。
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 MEKONG DELTA      FATES WARNING 
「DANCES OF DEATH」     「AWAKEN THE GUARDIAN」

一方のFATES WARNINGこちらはアメリカ出身。
この日本ではおそらくメコンデルタ以上に知名度が低く、また人気もない彼らですが、
デビューは1984年と古く、ヨーロッパなどでは相当に知られた名バンドとして扱われているようです。
初期の頃は「変態」というよりはIRON MEIDEN系の正統派でしたが、
3rd「AWAKEN THE GUARDIAN」で奇妙な変拍子をドラマテイックメタルに取り入れる手法が確立、
「なんか変?」「ヘドバンできない」
という気持ち悪さ(気持ちよさ)が冴えを見せています。
その後バンドはテクニカルさとともに徐々にサウンドのダークさ、ムーディなプログレ度を増してゆきます。
現在までに計10枚(でしたっけ?)のアルバムを発表。
しかし、このバンドの特徴は「意図した変態」ではなく、「結果として気持ち悪い」という類のものなので、
もしかしたらこのコーナーに乗せられることは、彼らにとって非常に不本意なことかもしれませんね。
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また、FATES WARNINGから影響を受けたと思われるドイツのプログレメタルバンド、
ジェスターズマーチ/JESTER'S MARCHなども
変拍子を使用した少し気持ち悪いサウンドで、変態好きにはお薦めです。


BEYOND
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ウォッチタワーコロナー、そして スパイラル・アーキテクト 
どれも徹底的にインストパート(変拍子、リズム)にこだわった変態たちです。
したがってどのバンドも歌はオマケ。

WATCHTOWERはアメリカ出身
1987年にデビューし1st「ENERGETIC DISASSEMBLY」2nd「CONTROL & RESISTANCE」
2枚のアルバムを残した後消滅…(そりゃそうだ。こんなアルバム何枚も作ったら気が狂うだろう!)。
何度聴いても曲が覚えられない超絶変拍子、複雑怪奇なキメをさらりとこなし、怒涛の矢継ぎ早展開。
まるでフリージャズをスラッシュメタルでやるとこうなる、というような驚異の演奏。
そして、それを楽しんでいる(としか思えない)彼らは、まさに変態だ。

CONTROL & RESISTANCE
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SPIRAL ARCHITECTは近年ノルウェーから現れたニューバンド
2000年「A SCEPTIC UNIVERSE」でデビュー。その音楽性は、ほとんど「現代版WATCH TOWER」!!
偏執狂な変拍子サウンドを軸に、浮遊感のある歌、メロディが乗る。
破天荒さの中にギラリと光る展開美とキメがあり、テクニック的にも高度で隙がない。
FATES WARNING的な「気持ち悪い歌いまわし」もあり、集中して聴くと疲れてへとへとになる。
完全に「変態」なのだが、この突き抜け方、堂々たる演奏には冷徹なる威厳さえ感じられる。

A SCEPTIC UNIVERSE
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スイス出身のCORONERはこの中では比較的聴きやすい方(・・かも)
ギター、ベース&ヴォーカル、ドラムのトリオで、インストに重点を置いたクールなサウンド。
1st「R.I.P」は多少テクニカルなスラッシュという感じだったが、2nd「PANISHMENT FOR DECADENCE」では
演奏にいっそうのキレが出てきて、独特のメリハリのきいた楽曲を非常に高度な演奏で聴かせてくれる。
その後、3rd「NO MORE COLOR」、さらに4th「MENTAL VORTEX」、5th「GRIN」と、
スラッシーな要素は薄まるが、濃密で不思議なアレンジのアルバムを発表してゆく。

PANISHMENT FOR DECADENCE
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■スラッシュにおける変態

アナイアレイターは変態か?
カナダ産のインテレクチュアルスラッシュメタルバンド、ANNIHILATOR
リーダーであるGのジェフ・ウォーターズはあのMEGADETHからも誘いを受けた人物。
その音楽性はデビュー作「ALICE IN HELL」からすでに個性的で、奇妙かつクールなギターリフ、
唐突な場面展開、ときおり見せるはっとする叙情性、という非常にプログレ受けするものでした。
その後2nd「NEVER NEVER LAND」でそのテクニカルで唐突なスラッシュメタルに磨きをかけ、
「理性ある変態メタルバンド」としての地位を気付き、私のような「変なもの好き」リスナーに喝采されました。

おそらく3rd「SET THE WORLD ON FIRE」以降から聴き始めたファンには、
彼らのどこがそんなに変態なのか分からないかもしれません。
4th「KING OF THE KILL」5th「REFRESH THE DEMON」と発表してゆくうちに
初期の唐突な展開を洗練の方向に向わせ、よりストレートなアプローチを目指すようになってゆきます。
私などからすると、4th、5thよりもその間に出された初期のライブアルバム
「IN COMMAND(LIVE 1989〜1990)」における素晴らしいライブパフォーマンスの方がより魅力的に思えました。
彼らは基本的にヴォーカルにはそれほどこだわらず、歌といえどもしょせんは楽器の1つという感覚であるのだと思われます。
その証拠に度重なるメンバーチェンジにおいても、
実力のあるヴォーカリストが加入したことは一度としてなく(失礼^^;)
4th以降ではジェフ・ウォーターズ自らが、ダミ声まじりのあまりきれいでない歌唱をするようになりました。
そういう意味で彼らは、歌よりも楽曲の「演奏」にこそ重きをおくまことに面白いバンドなのです。

そんな彼らの魅力がもっとも詰まった1枚を紹介します。
過去の未発表音源、デモ、ライブ等を集めたアルバム「BAG OF TRICKS」です。
これを聴けば、彼らがどうして「変態」なのかがきっと理解できる素敵なアルバムです。
その不可思議な曲展開、耳につく個性的なクールなリフの数々に聴き入れば、あなたもいつしか立派な(?)変態好きに(笑)。

ちなみにそんなANNIHILATORのアルバムで私のお気に入りランクは以下の通り
1「BAG OF TRICKS」
2「NEVER NEVER LAND」

3「IN COMMAND(LIVE 1989〜1990)」
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ANNIHILATOR     DESTRUCTION
「BAG OF TRICKS」   「RELEASE FROM AGONY」

デストラクションの存在
80年代ドイツを席巻したスラッシュメタルバンド、DESTRUCTION
SODOM、KREATORらとともにスラッシュ三羽カラスとして人気を博した。
DESTRUCTIONが他の2バンドと異なる点は、単なる猪突猛進型のスピードスラッシュではなかった点である。
84年にデビューして以降、1st、2ndと発表してゆくにつれ、耳に残る奇妙なリフワークと曲の構築性に磨きがかかり、
87年発表のアルバム「RELEASE FROM AGONY」で変態スラッシュとしての到達点に辿り着く。
クラシカルなパートや、アコースティックをも取り入れた楽曲はもはやただのスラッシュとはほど遠く、
不気味な高音ヴォーカルとともに、奇妙で暗黒、激しいが叙情もあり、複雑という素敵なアルバムになっている。
その後ベース/ヴォーカルのシュミーアが脱退、バンドはそれとともに変態性を失い失速。
シュミーアは自身のバンドHEAD HUNTERを結成数枚のアルバムを出した後、
近年DESTRUCTIONに復帰、バンドは再結成でめでたく復活した。
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ヴォイヴォドというバンド
カナダ出身のVOIVODは、
そのデビューは84年と古く、この手のテクニカル系スラッシュとしては最古参になる。
1st、2ndにおいては無機質系の知的ノイジースラッシュという印象だったが、
3rd「KILLING TECHNOLOGY」4th「DIEMENSION HATROSS」
あたりからサイケデリック/サイバーパンク的世界観を確立、同時にKING CRIMSON的なプログレッシブ感覚も開花し始める。
89年作の5th「NOTHINGFACE」においてはPINK FLOYDのカヴァーを取り上げるなど、
もはや一介のスラッシュバンドとは呼べぬプログレサイドのバンドとしてその手のマニアからも注目され始める。
その後も6th「ANGEL RAT」、傑作と名高い7th「THE OUTER LIMITS」を発表。
その後も変態系アプローチのバンドとしては珍しく、実に精力的に作品を発表し続け、依然現役として今にいたる。

「DIEMENSION HATROSS」
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■叙情派プログレメタルにも変態魔の手が!
1992年に発表されたDREAM THEATERの2nd「IMAGES AND WORDS」以降、
世界各国から多くの叙情性を加味したテクニカルなプログレメタルバンドが頻出し始めた。
変拍子リズムや複雑な曲展開にこだわったプログレメタルにおいて、バンドの色を決めるのは演奏者のセンスに他ならない。
「何にこだわるか」によって楽曲の質は変化し、聴く側が受ける印象は変化する。
作り手のセンスは時としてリスナーの感覚と相違し、結果としてそのサウンドを特異なものとなす場合があるわけだ。

イタリアの変態
イーヴル・ウイングス
今やシンフォニック、プログレメタルの宝庫となったイタリア。
EVIL WINGSのサウンドは明らかにDREAM THEATERから影響を受けたことが一聴してわかります。
ギター、ベース、ドラム、とどれもがテクニックの持ち主で、演奏力は相当高いです。
ただ、ギターの歌う歌だけがとても下手で、その一点によりB級さをかもし出しています。
しかしながらそれはきっと彼らの計算、目論見であることは間違いありません(ホントかよ?)
彼らは、このバンドに歌の上手いヴォーカルが入ってしまうと、「変態」でなくなり
歌重視の凡百のプログレメタルとなってしまうことが許せないのです(きっと・・・たぶん)
その証拠に3枚のアルバムを出していますが、いまだにヴォーカルを入れず、下手な歌をそのままにしています。
断っておきますが、それ以外のパートは本当に上手く、インストパートの切れ味は素晴らしいのです。
おそらく、かれらの目指すサウンドは「歌」によらないもので、
その演奏における「ある種の変態的感覚」を聴き手に感じて欲しいのでしょう。そうにきまっています!

彼らの曲はどこか変です
1stのころはそれでも「風変わりで無茶な展開のドリームシアター」といえなくもなかったのですが
(それでも十分変な曲有り)、続く2nd「BRIGHT LEAF」において彼らの変態的センス炸裂します。
もともとそのメロディ自体は聴きやすく、ポップ性さえも持っていた彼らですが、
それをあえてねじくれさせ、複雑で破天荒な曲展開により、「気持ち悪さ」を演出するのが上達。
結果としてこの2ndは変態プログレメタルとして語り継がれる名盤(迷盤?)となりました。
下手な歌声は、絶妙に変な歌メロにより奇妙さを増し、長めの楽曲は迷宮のように入り組み、
二度ともとに戻らない展開、曲の冒頭が思い出せない等、そのギミックは威力を発揮。
複雑な変則リズムは無論のこと、不気味な不協和音や、もはや無駄に元気で
明るいキャッチ―なメロディを効果的に配するなど、やりたい放題。
続く3rd「COLORS OF THE NEW WORLD」では、そうした彼らの明るさが前面に出た一見キャッチ―なアルバムですが、
長い曲ではやはりその変態性を抑えきれず、好き放題の暴挙を演奏に反映してしまっています。
私はこのバンドが大好きです(ホントです)
彼らは天才(変態)です
彼らのCDの日本盤が出ることは永久にありえないでしょうし、
この常軌を逸した変態の感覚が常人に理解されることはないでしょうが、けっしてくじけることなく、
たとえ世間をごまかすためまともなプログレメタルの仮面をかぶろうとも、なんとか生き続け、
これからも私のようなヒネた人間を、その絶品の感覚でニヤリとさせて欲しいものです。
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EVIL WINGS        ICE AGE  
「BRIGHT LEAF」      「THE GREAT DIVINE」

アメリカのリズムおたく 、
アイス・エイジ
さて、こちらはアメリカ出身のICE AGE。彼らもまたドリームシアタータイプのプログレメタルです。
特にギターや、ドラムなどは「ドリームシアター大好きー」という感じで、似たようなリフやタム回しなどが聴けます。
楽曲はどれもメロディアスでテクニカル。良く出来ているし、そう気持ち悪くもない。
彼らは正確にいうと変態ではありません。ズバリ彼らは、リズム、変拍子マニアなのです。
1stアルバムの1曲目冒頭を聴くだけでそれは分かろうというもの。とにかく変拍子、変拍子でなきゃいやだ。という感じです。
たとえばDREAM THEATERの場合「楽曲を作る上で必要な、スムーズな展開のために変拍子の使用」とすると
ICE AGEの場合「変拍子のための曲」「どうやって変拍子を入れて曲にするか」ということになります。
とにかくどの曲も変拍子。しつこいくらい変拍子。
おかげでやや強引な唐突な場面展開もあり、それがプログレ者にはたまらない魅力にもなっています。
もちろんメロディセンスもよく、キーボードアレンジ、美しいメロディラインなど実に高品質。
リーダーであるKeyの歌う歌唱は専任Vo並に楽曲に映えています。
どの曲も作りこまれ、必ずどこかに聴き所があり、こだわったリズムアレンジと複雑さにより、
彼らのアルバムは質量をともなったとても中身の濃いものになっています。
1st「THE GREAT DIVINE」2nd「LIBERATION」ともにリズムマニア、変拍子プログレ好きは必聴の傑作。
配給はもちろん、アメリカのプログレメタルレーベル「MAGNA CARTA」
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また、あまりにもセンスが良いので「変態」と呼ぶのははばかれますが
スウェーデン出身のペインオブサルヴェイション/PAIN OF SALVATIONのサウンドも、
色々な要素を大胆に導入した新世代のプログレメタルと呼ぶににふさわしいものです。
1st「ENTROPIA」2nd「ONE HOUR BY THE CONCRETE LAKE」ともに
進化的な傑作プログレメタルアルバムとして楽しめます。


■デスメタルにおける変態へのアプローチ
ここではデス、ブラック系の変態バンドを紹介しますが、「デスメタル」というジャンルは
それ自体が変態のようなものですから、ここでいう「変態」とは通常のデスメタルをねじまげ、
別の方向へもってゆこうとしているバンドたちに焦点を当てることにします。
またドゥームメタルやハードコア、ノイズ系にはほとんど「変態以外の何者でもない」バンドも多くいますが、
(初期カテドラルを始め、AxCx、ペインキラー、ネイキッドシテイー、等々)
ここではそうした真性の変態ではなく、音楽的ギミックとしての変態をもったバンドを扱おうと思います。

北欧の変態デス、
メシュガーフレドリック・トーテンダル
スウェーデン出身のデスメタルバンド、MESHUGGAH
91年の「CONTRADICTIONS COLLAPSE」でデビュー。
1stの時点では直線的なデスサウンドに、奇妙なメロディと唐突な展開、変則リズムを付加した程度のアプローチだったが、
2nd「DESTROY ERASE IMPROVE」では変拍子による技巧炸裂&無茶な展開の連続による変態デスサウンドを完成させた。
その後バンドはゴリ押し度を増した3rd「CHAOSPHERE」を発表するかたわら、ギタリストでリーダーの
FREDRIK THORDENDALは同じ北欧のプログレミュージシャンなどと交流をもち、
97年には、変態としての集大成的なソロアルバム「SOL NIGER WITHIN」を発表。
この作品はMESHUGGAHの変態度を全面開花させ、さらに好き放題やったらこうなる、という驚異の出来で、
トータル43分全1曲という異常な構成で、変拍子リズムの中を反復するギターリフとフュージョン/ジャズ的メロディ、
ダミ声ヴォーカルなどが重なった一種異様な世界を演出。
コンセプト、歌詞、世界観も含めて、まことにプログレッシブというしかない。
変態メタルの到達点として長く語り継がれるべきアルバムである。
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FREDRIK THORDENDAL      THERION    
「SOL NIGER WITHIN」           「VOVIN」

シンフォニック、コーラスとの融合セリオンの進化
THERIONはスウェーデンのメロディック、オペラティックデスメタルバンド。
デビューは91年とメロデスバンドとしては古参の部類にあたるが、
1st、2nd、3rdあたりまでは特に目新しくもないそこそこのバンドという印象だった。
95年発表の4th「LEPACA KLIFFOTH」の頃からメロディを強化、
女性Voを導入するなど、そのサウンドは徐々にドラマ性を増し始める。
5th「THELI」においてコーラス隊を導入、デス声パートの減少とともに、
壮大かつオペラティックな度合いを増してゆく。そしてバンドは98年に6thとなるアルバム「VOVIN」を発表。
このアルバムでついにデス色を全面的に廃し、男女混声のコーラス隊がバンドをバックにリードをとる、
というデスメタル界では未だかつてない試みがなされた傑作となった。
そのサウンドはへヴィだが実にメロディアス、ドラマティック、かつ不思議な崇高性に満ちたもので、
日本が誇る演劇実験室、万有引力を率いる音楽家J.Aシーザーのそれをも想起させるものである。
今後の進化が見逃せないバンドの1つであろう。
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オーケストラとデスメタルの融合という点では、
究極のミクスチャーバンドともいうべき、北欧の奇才集団ワルタリ/WALTARIが96年に発表した作品
「YEAH! YEAH! DIE! DIE! DEATH METAL SYMPHONY IN DEEP Cも忘れることはできない。

このアルバムは本物のオーケストラシンフォニーを激烈なデスメタルサウンドに完全融合
させた数少ない成功例の1つで、そのサウンドはデスメタルの凶暴さを保ちながらも、
バックの壮大なオーケストラと華麗に重なり、男性デス声、オペラティックな女性Voともに違和感なく
全体の世界観に溶け込んでいる。こうした実験精神は「変態」と呼ぶにはあまりに真摯であり、
真面目なものであるが、一般のリスナーからするとキワモノの極地であることも間違いなく、
それは「変態と天才は紙一重」ということの裏づけでもあるのだ。


テクニカルデスの系譜、
シニック/デス

93年に発表されたCYNIC「FOCUS」はデスメタルというジャンルを根底からくつがえした。
それまで「暴虐」こそがデスメタルのステータスであったのだが、彼らのサウンドにはそれ以上のきらめきがあった。
それは知性であり、そこには「構築される音像」としての一次元上のデスサウンドがあったのである。
たよたうような叙情美と、知的センスによる楽曲アレンジは、高度な結晶となって新たなデスメタル像を生み出した。
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CYNIC           DEATH
「FOCUS」     「INDIVIDUAL THOUGHT PATTERNS」

一方のDEATHも、CYNIC同様アメリカのバンドだが、
彼らもまたただのデスメタルのままいることはできなかった。
1st、2nd当初はバンド名そのままの剛球タイプの比較的ストレートなデスメタルであったが、
91年発表の4th「HUMAN」あたりからメロディの導入が見られ始めた、と思ったら
続く5th「INDIVIDUAL THOUGHT PATTERNS」で大化け。
プログレッシブなアレンジを全面に押し出したこのアルバムは、テクニカルデスの金字塔として語られる名盤となった。
デスメタルとしての激しさを保ちながら、冷徹な知性を感じさせ、時にはっとする叙情さを見せるそのサウンドは、
実に見事で、激情と構築美の狭間に屹立する鋭い芸術性すらも持っている。
バンドは続く6th「SYMBOLIC」を発表。こちらも同傾向の傑作である。
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セオリー・イン・プラクティス/THEORY IN PRACTICE
はそんなDEATHに影響を受けたとおぼしきスウェーデンのバンド。
DEATHにおけるプログレ的アプローチを抽出したようなせわしない変拍子による展開は、
狂気と知性を混在させた音像とともに、MEKONG DELTAさえも想起させる。
高密度な2ndアルバム「THE ARMAGEDON THEORIES」を発表後、
バンドは一時MONUMENTと改名したが、その後専任ドラマーを加えて再び
THEORY IN PRACTIESとして活動を再開。2002年に待望の3rdを発表する。

The Armageddon Theories
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エクストル/EXTOL
CYNIC的ともいえる非常にプログレッシブなマインドを持った新世代のバンドだ。
ノルウェー出身の彼らは98年に1st「BURIAL」、2000年に2nd「UNDECEIVED」を発表。
どちらもインストパートにプログレ的なアプローチを導入したセンスの良いアルバムだ。
聴き込むほどにそのサウンドの奥深さ、バンドの知性に唸らされる。

Undeceived
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また「変態デス」としてはフランスのミサントロプ/MISANTROPE
も挙げずばなるまいが、私は意外にもこのバンドのセンスはそれほど好きではないし、
最近作では変態性はおとろえ、ごく標準的なメロデスに接近しているので、
聴いてみたい方は2nd「1666」または3rd「誇大妄想者」あたりをどうぞ。

イタリアのメロディックデスメタルバンド
サディスト/SADIST

1stは叙情的メロディをふんだんに導入したセンスのよいメロデスの名盤だった。
続く2nd「TRIBE」においてはプログレッシブなアプローチを前面に出し、シンセの多用、
リズム面での遊び等、ただのメロディックデスにはとどまらぬ見事な作品となった。
3rd以降はアヴァンギャルドさを増してゆき、
4th「LEGO」になると無機質なインダストリアル色の融合という、実験的な色合いを強める。
プログレな感性という点では2ndこそがお薦めの傑作です。

英国のシアトリカルブラックメタルバンド、
エボニー・レイク/EBONY LAKE

こちらも変態好きにはたまらないサウンドをやっている。
激烈なブラストビートや疾走暴虐ブラックメタルサウンドに変拍子を取り入れたり、
オペラ的な演劇性、女性コーラスなどのギミックにより、不気味に耽美な世界観を演出。
B誌の前田氏もレビューで「二度と聴きたくない」と記していたほどだ。
もちろん私はこういう気持ち悪いのはけっこう好きなので、なかなかに楽しめましたが。
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日本が誇る変態ブラック、サイ
東京出身のブラックメタルバンドSIGHはB/Voでシンセ、作曲もこなす川島未来を中心としたトリオである。
初期の頃は白塗りメイクをほどこした姿に、サウンドの方もメロディアスでファストなブラックメタルであった彼らだが、
ミニアルバム「葬式劇場」をはさんで発表された3rd「恐怖万歳/HAIL HORROR HAIL」において、
潜在していたプログレッシブな感覚が全面的にサウンドに反映されることになる。
同時に楽曲は複雑な、時にアヴァンギャルドな展開を見せ、ダミ声でありながら日本語をとりいれた歌や、
唐突なシンセによる叙情性、メロディの美しさが際立ちはじめる。
続く4th「DREAD DREAMS」においてはさらにデス/ブラック色が減少。
ギターの重ね、シンセのバッキングはますますメロディアスに、一見正統派メタルに接近した音でありながら、
日本的感覚とシンフォニック、アヴァンギャルドの絶妙な融合、というバンド独自の色を深化させてゆく。
そしてドイツの大手レーベルCENTURY MEDIAへと移籍して発表された5th「IMAGINARY SONICSCAPE」では
ギター、シンセによるメロディアレンジがいっそう緻密さを増し、ときにポップ性さえも持ったメロディはじつに聴きやすく、
もはやブラックメタルとは呼べない高品質のメロディアスメタルとなっている。
しかしながら、独特の唐突な展開、プログレなアプローチは健在で、
シンセによるはっとする叙情メロディ、静と動の対比が見事な傑作といっていい。

SIGH

「IMAGINARY SONICSCAPE」
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いかがでしたか?今回の変態音楽特集メタル編。
まともな神経の方々にはとてもお薦めできるものではないですが、
このページを見て興味を持たれた方、
「でもなんか気になる・・」「もしかして、俺(私)って変態のケが・・・」「まさか・・・いや、しかし・・」
などと一瞬でも感じた方は、さっそくCD屋に走りましょう。
きっとここで紹介したものの中で、中古で安く売り叩かれているやつが
たくさんあるはずです(なにせ一般受けしない)。

ご感想、その他、お薦め変態アルバムなどありましたらメールにてどしどしお寄せください。


■CDレビューテクニカル&変態系
も合わせてご覧ください


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