ベルギーのメタルとプログレ特集

ベルギーというと、オランダ、ドイツ、フランスに囲まれた、西ヨーロッパの中でも比較的地味な印象があるのだが、
近年ではサッカーの代表チームの躍進にとどまらず、メタルとプログレにおいても、なかなかあなどれない国なのである。
UNIVERS ZEROをはじめとしたチェンバーロックの盛んな国でもあり、玄人好みのバンドが多いというイメージであるが、
IRON MASKMAGIC KIGDOMANCIENT RITESなど、濃密なメタルバンドも我が国では人気を博している。
ここでは、2018年ワールドカップで、日本と決勝トーナメントで対戦する、そのベルギーのバンドを紹介してみたい。
                                  2018.6 緑川 とうせい



◆ベルギーのメロディックメタル

MAGIC KINGDOM 「Symphony Of War」
ベルギーのネオクラシカルメタルバンド、マジック・キングダムの2010年作
IRON MASKでも活躍する「ベルギーのイングヴェイ」ことダッシャン・ペトロッシ率いるこのバンド、
MGとしては6年ぶりとなる3作目。前作もこれでもかという、コテコテの濃密ネオクラを聴かせてくれたが
今作ものっけから、きらきらのネオクラシカル疾走チューンですでににんまりである。
個人的にありきたりのネオクラは好みでないのだが、これほどに正面きってやられたら
かえって楽しむしかないではないか、という(爆)…ともかくシンセをたっぷりと使った壮麗な作風と
クサメロをまぶした絶妙のギタープレイに、エピックなファンタジー性も加わっているのだから降参だ。
ラストは29分にもおよぶProgMetal風味の組曲で、これはなかなか新機軸。若干のB級臭さも味になっている。
メロディアス度・・8 疾走度・・8 濃密ネオクラ度・・9 総合・・8
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Iron Mask 「Diabolica」
ベルギーのメロディックメタル、アイアン・マスクの2016年作
イングヴェイ大好きなギタリスト、ダッシャン・ペトルッシ率いるバンドの6作目。「鉄仮面交響曲 第6番」という
大仰な日本語タイトルが付けられているが、のっけから疾走しまくる爽快なメロディック・スピードメタルが炸裂。
新たに加わった、ポルトガルのメタルバンドATTICK DEMONSのアルトゥール・アルメイダの伸びやかな歌声を乗せて、
クサメロまくりのキャッチーな聴き心地に思わずニンマリである。もちろんお得意のネオクラシカルなギタープレイも随所に覗かせ、
ときにシンフォニックで壮麗なアレンジも含んだサウンドは、すでにMAGIC KINGDOMと区別がつかない気もするが、
それもどうでもいいような濃密なクオリティの高さである。中盤にはミドルテンポのやや中庸なナンバーもあるが、
キャッチーなメロディアス性と王道の様式美メタルにメロスピ風味をまぶしたという、この手のファンにはたまらない力作である。
メロディック度・・8 疾走度・・7 濃密度・・8 総合・・8
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Fireforce 「Deathbringer」
ベルギーのメタルバンド、ファイアーフォースの2014年作
ツインギターのリフにハイトーンヴォーカルを乗せた、パワフルな正統派メタルサウンド。
適度にメロディックな感触も含みつつ、基本はJudas Priestルーツのどっしりとしたヘヴィメタルで、
エピックというかコンバットな勇壮さも感じさせる世界観は、SABATONなどを好むリスナーにも対応。
最近のバンドらしいテクニカルなギタープレイも随所に覗かせつつ、メロディアスなフレーズが顔を出すと、
どことなく辺境らしいB級臭さもにじみ出てきてにやり。楽曲自体はこれという新鮮味はないのだが、
クオリティはそれなりに高いので、この手の正統派メタルが好きな方は安心してどうぞ。
メロディック度・・8 パワフル度・・8 正統派度・・8 総合・・7.5
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◆ベルギーのブラック、ゴシックメタル

Enthroned 「Prophecies of Pagan Fire」
ベルギーのブラックメタル、エンスローンドの1995年作
北欧で始まったブラックメタルのムーブメントからやや遅れて、ベルギーから現れたこのバンド。
叙情的なイントロ曲から、ノイジーなギターリフとダミ声ヴォーカルを乗せてブラスト疾走しつつ、
ミドルやスローテンポを織り交ぜて、暴虐なだけではない妖しい禍々しさを表現してゆく。
適度なスカスカ感が、いかにも古き良きブラックメタルの味わいになっていて、
ときおりギターの奏でるメロディックなフレーズやうっすらとしたシンセアレンジも含めて、
わりと聴きやすいサウンドだ。圧倒するような迫力はないが、ほどよい感じの激しさです。
ドラマティック度・・7 暴虐度・・7 プリミティブ度・・8 総合・・7.5
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ANCIENT RITES「Rubicon」
ベルギーのメロディックブラックメタルバンド、エンシェント・ライツの2006年作
ツインギターにシンセを含む7人組みで、これまでもヴァイキング色のあるシンフォニックな疾走ブラックメタルで、
なかなかいいものを持っていたが、十字軍の遠征をテーマにした本作はいっそうエピックな雰囲気を増した傑作となった。
美しいシンセによるイントロに続き楽曲が始まると、ブラックメタルとしての激しい疾走感とともに
緩急のつけられたアレンジと、RHAPSODYにも通じるシンフォニックメタル的な質感で壮大な世界観を演出してゆく。
ときに土着的なメロディを盛り込みつつ、壮麗に聴かせる厚みのあるサウンドは、説得力という点でも過去最高だ。
シンフォニック度・・8 暴虐度・・7 エピック度・・9 総合・・8.5
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AXAMENTA「eVeR-ARch-][-teCh-tURe」
ベルギーのプログレッシブ・ブラックメタルバンド、アクサメンタの2006年作
知的さをただよわせた構成と、ザクザクとしたスラッシーなリフで硬派に疾走しつつ、
バックにはDIMMU BORGIRCRADLE OF FILTHのような荘厳なシンセワークが美しい。
そしてプログレッシブな曲展開やリズム面での複雑なキメは、EXTOLあたりを思わせるセンスで、
これがまたいちいちカッコいい。メンバーがPAIN OF SALVATIONが好きだというだけあり、
ProgMetal的なコンセプチュアルな雰囲気と濃密な世界観をたっぷりと感じさせる。
ダークな冷気とシアトリカルな構築性、そしてブラックメタルとしての激しさを併せ持ちつつオールドなスラッシュメタル質感も有した、
まさにエクストリーム系のミクスチャーサウンド。大仰かつプログレッシブなデス系メタルが好き方は必聴の傑作だ。
メロディアス度・・7 プログレッシブ度・・8 知的センス度・・9 総合・・8.5
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Pantheist 「O Solitude」
ベルギーのゴシック・ドゥームメタル、パンセイストの2003/2009年作
本作は1sアルバムで、美しいシンセアレンジに重厚なギターと、低音デスヴォイスを乗せて、
ゆったりとしたスローテンポで聴かせる、いかにもフューネラルなゴシック・ドゥームメタル。
シンセによる耽美な味付けが前に出ていて、フューネラルな絶望感よりはヨーロピアンな叙情が強く、
ときにシンフォニックといっても良い味わいもあり、My Dying Brideあたりが好きな方にもお薦めだ。
スローテンポが主体だが、いきなり激しい疾走パートも現れるなど、長めの楽曲でもわりと起伏があったりして、
14分、18分という大曲も、シンセアレンジの美しさも含めて説得力あるサウンドに浸ることができる。
ジャケが変わっての2009年再発盤にはボーナスに11分の大曲が加わって、聴きごたえたっぷりだ。
ドラマティック度・・7 ゴシック・ドゥーム度・・8 重厚度・・8 総合・・7.5
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SerpentCult「Weight of Light」
ベルギーのサイケ・ドゥームメタル、サーペントカルトの2008年作
跳ねるリズムに乗るヘヴィなギターリフと浮遊感のある女性ヴォーカルの歌声で聴かせるサウンド。
70年代ロック的なアナログ感とともに、サイケ的なストーナーロックというような聴き心地もある。
随所にドゥーミィなダークさも含みながら、演奏はあくまでモノトーンのイメージの硬派な音で、
メロディアスな媚はいっさいない。無機質なアナログ感覚というような、とらえどころのなさが不思議な作品。
ドラマティック度・・7 ドゥーム度・・7 ストーナーサイケ度・・8 総合・・7.5
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SENGIR「SIGN OF DEVOTION」
ベルギーのゴシックメタルバンド、センギアーの2nd。2008年作
WITHIN TEMPTATIONスタイルのゴシックメタルとしては1stもなかなか良かったが、
この2ndもヘヴィさとメロディアスさのバランスがとれた聴きやすいサウンドだ。
演奏やメロディに取り立てて素晴らしい部分はないし、楽曲の方も目新しさはないのだが、
艶のある女性Voの歌唱はなかなかのものだし、ピアノなどによるしっとりとした叙情美もよろしい。
ウィズインタイプのサウンドが好きならこのバンドも聴いてみて損はない。
メロディアス度・・8 ゴシック度・・8 女性Vo度・・8 総合・・7.5
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MANIC MOVEMENT 「DARK GLITTER」
ベルギーのゴシックメタル、マニック・ムーブメントの2008年作
女性Voにシンセを含む5人編成で、壮麗なアレンジと女性ヴォーカルの歌声で聴かせる
シンフォニックなゴシックメタル。メロウな泣きのギターにストリングスが絡む、
ドラマティックな叙情もなかなか素晴らしく、ヴァージニア嬢の歌唱の表現力も含めて
サウンドの説得力も充分で、WITHIN TEMPTATIONやDELAINなどにも通じる高品質な作品です。
シンフォニック度・・8 ゴシック度・・8 女性Vo度・・8 総合・・8
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GWYLLION「The Edge Of All I Know」
ベルギーのシンフォニックメタルバンド、グウィリオンの2nd。2009年作
壮麗なイントロから曲が始まると、キラキラとしたシンセとともに疾走、
かつてのDark Moorのエリサ嬢を思わせる女性ヴォーカルの歌声と、
ゴシックメタルやフォークメタルを通過してきた新世代のバンドらしいミックス感覚で
構築される楽曲はシンフォニックなメロスピ風でもあり、ときにProgMetal的でもある。
恥ずかしげもないクサメロフレーズをオペラティックなアレンジの中に取り入れてしまったり
これまでのバンドの様々な要素をてらいなく詰め込んだ作風には、聴いていてにやりとなる。
シンフォニック度・・8 女性Vo度・・8 楽曲・・7 総合・・7.5
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AZYLYA 「Sweet Cerebral Destruction」
ベルギーのゴシックメタル、アズィリアの2012年作
適度にヘヴィなギターと美麗なシンセアレンジ、はかなげな女性ヴォーカルの歌声に、
男性デスヴォイスも加わったサウンドは、この手のバンドとしてはとくに目新しさはないものの、
もの悲しい叙情を含んだ雰囲気はなかなか悪くない。ただ、曲ごとのメロディの煽情力や
このバンドならではの魅力といったものがまだ見えて来ない点では物足りなさはある。
ジェイミー嬢の歌唱もやや平坦なので、もう少し表現力を身につけてゆけば、より音の説得力が増すだろう。
シンフォニック度・・7 ゴシック度・・7 女性Vo度・・7 総合・・7.5
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Jamie-Lee Smit 「Mon Amour Monique」
ベルギーの女性シンガー、ジェミー・リー・スミットの2015年作
AZYLYAのシンガーでもある彼女のソロで、キュートなヴォーカルをメインにした、
メロディックなロック。ギターは適度にヘヴィなので、キャッチーであってもポップすぎることはなく、
翳りある叙情を含んだゴシックロック的な感触もある。アネク・ヴァン・ガースバーゲンあたりにも通じる
やわらかな浮遊感とアンニュイな空気感もよいですね。英語と母国語を混ぜた歌声も、
異国的で新鮮な響きをかもしだしている。フィメールロック好きはチェックですな。
メロディック度・・8 メタル度・・7 女性Vo度・・8 総合・・8
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◆ベルギーのプログレ70〜80年代

COS 「Postaeolian Train Robbery」
ベルギーのチェンバー・ジャズロック、コスの1974年
1974〜83年までに5枚のアルバムを残したバンドで、存在感のあるベースを乗せたリズムに
優雅なエレピ、フルート、オーボエなどを加えた、チェンバー寄りのジャズロックサウンド。
コケティッシュな女性ヴォーカルが加わると、ZAOMAGMAのような妖しいテイストも感じさせ、
軽妙なアヴァンギャルド性に包まれた聴き心地。キュートな女性声を乗せたポップな小曲もあったり、
逆にギターがフリーキーに弾きまくるアグレッシブなジャズロックパートもあったりと、なかなか面白い。
ボーナスには前身バンドCLASSROOMの1973〜74年の音源を収録。こちらもキュートなジャズロック。
ドラマティック度・・7 ジャズロック度・・8 アヴァンギャル度・・7 総合・・7.5
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UNIVERS ZERO
ベルギーのチェンバー・プログレ、ユニヴェル・ゼロの1st。1977年作
ヴァイオリン、オーボエ、バスーンといったの室内楽的でクラシカルな音色を、
暗黒性を漂わせる不穏なサウンドに仕立て上げるこのバンドの特徴というのは、
すでにこの1作目にして完成されている。タテノリのドラムによる硬質感あるリズムに、
ヴァイオリンが鳴り響き、優雅であるが緊張感に包まれた聴き心地というのは、ちょっと真似ができない。
アンサンブル志向が強まる3作目以降に比べ、雰囲気ものとしてのおどろおどろしさが感じられる傑作だ。
この暗黒路線は、次作「Heresie」で頂点を迎えるが、歴史的なバンドの原点という意味では本作の意義は深い。
クラシカル度・・8 テクニカル度・・7 ダークな緊張感・・9 総合・・8
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Machiavel 「Jester」
ベルギーのプログレバンド、マキャベルの1977年作
70年代後半のドイツ、オランダ周辺のバンドというのは、しだいにキャッチーなポップ要素をまとわせてゆくのだが、
このバンドも、そうしたモダンなポップ要素を、プログレ/シンフォニックロック要素とセンスよく融合させている。
デジタリィなシンセアレンジにそれは顕著なのだが、ヴォーカルはときおりがなるようなハードロック寄りの歌唱で、
そのギャップというのが面白い味わいにもなっている。随所にギターはメロウなトーンで泣きを描いていて、
叙情的なシンフォニック性も覗かせつつ、80年代のポンプロックへとつながるキャッチーな軽快さを融合させている。
7〜9分という長めの曲であっても、スタイリッシュな聴き心地で、決して野暮ったくならないのが魅力といえるだろう。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 スタイリッシュ度・・8 総合・・7.5
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ISOPODA 「Acrostichon」
ベルギーのプログレバンド、イソポダの1978年作
きらびやかなシンセに、メロディックなギターを乗せ、キャッチーな軽快さと
CAMELを思わせる叙情性に包まれた、やわらかなシンフォニックロック・サウンド。
ぼんやりとした味わいのヴォーカルも含めて、ほどよいB級っぽさを感じさせるところもどこか微笑ましい。
優美なフルートにメロトロンも鳴り響き、繊細なピアノなど、うっとりと聞き惚れる部分もしばしば。
12分を超える大曲も緩急のある展開と、美しいシンセとギターによるリリカルな味わいに包まれる。
70年代のベルギーのシンフォ系としては、MachiavelFLYTEと並んで出来が良い部類だろう。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 繊細な叙情度・・8 総合・・7.5
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FLYTE 「Dawn Dancer」
オランダ、ベルギーの混合バンド、フライトの1980年作
のっけから演歌泣きのギターでつかみはOK。その後もCAMELを思わせる甘いメロディと
メロトロンやストリングスシンセなどがシンフォニックに彩りを添えるサウンドで、
ゆるやかなメロディに包まれた好作。ギタリストの奏でるフレーズには
SEBASTIAN HARDIEあたりを思わせる泣きがあるのもGood。
このアルバム1枚のみで消えたのが実に惜しいバンドだ。
メロディアス度・・8 プログレ度・・7 泣きメロ度・・8 総合・・7.5
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PRESENT「Triskaidekaphobie」
ベルギーのチェンバーロック、プレザンの1980年作
UNIVERS ZEROのロジェ・トリゴーを中心に結成されたバンドで、かつては1st、2ndのカップリングでCD化されていたが、
2014年にそれぞれ単体CDでリマスター再発された。「13恐怖症」という邦題のこの1stは、クラシカルなピアノの旋律に、
不穏なコード進行によるベースが絡み、変則的なリズムによるアヴァンギャルド性と知的な構築力で聴かせる、
ポスト・ユニヴェル・ゼロというべきサウンド。ときにフリーキーに鳴り響くギターやドラムを含めた攻撃性という点では、
UNIVERS ZEROよりもさらに明快なロック志向が感じられ、ミステリアスかつ優雅なプログレとしてもとても楽しめる。
19分、15分という2曲の大曲を軸にした圧巻の力作だ。ボーナストラックに1981年のライブ音源を2曲追加収録。
チェンバー度・・8 プログレ度・・9 ミステリアス度・・9 総合・・8.5
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aksak maboulUn Peu De L'ame Des Bandits
ベルギーのチェンバーロック、アクサク・マブールの1980年作
クラムド・ディスクレーベル創設者でシンセのマーク・ホランダーを中心に、
Henry Cow〜ART BEARSのクリス・カトラー、フレッド・フリスなどが参加
エキセントリックな女性ヴォーカルの歌声に、鳴り響くヴァイオリンやオーボエ、
サロンミュージックのポップ性にアヴァンギャルドな毒気を注入したようなサウンドで
軽やかな優雅さと偏執的な狂気を同居させたような感触はとても個性的。
演奏面ではやはりHenry Cowや、Univers Zero風味を感じさせるところもあり、
ポップなチェンバーロックとしても、アヴァンギャルドなレコメン系としても楽しめる。
クラシカル度・・7 優雅な毒気度・・9 アヴァンギャル度・・8 総合・・8
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JULVERNE「emballade...」
ベルギーのチェンバーロックバンド、ジュルベルヌの3rd。1983年作
まるでヴィクトリア朝のイギリスのような、レトロな雰囲気のジャケだが、
サウンドの方も郷愁に満ちあふれた、たおやかでクラシカルなアンサンブル。
ピアノ、フルート、ヴァイオリン、サックス、クラリネット、といった室内楽の楽器を中心に
ロック的なリズムを極端に排した、クラシックとジャズの優雅さを漂わせる演奏だ。
シャンソン風の女性ヴォーカルやそれに絡む男性コーラスなどもどこか大時代的で、
いわば「なりきり度の高い懐古主義」を思わせるヨーロピアンなセンスとユーモアが垣間見える。
ゆったりとした時間の流れと、古き良き時代にトリップできる、不思議な味わいの作品だ。
クラシカル度・・8 プログレ度・・6 懐古度・・10 総合・・8
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◆ベルギーのチェンバーロック

Hardscore 「Methane」
ベルギーのチェンバープログレ、ハードスコアの1999年作
クラリネットの優雅な音色にサックス、コロコロとしたマリンバの響きを、変則リズムに乗せた、
コケティッシュな可愛らしさとスリリングなリズムアンサンブルが合わさった聴かせるチェンバーロック。
エレピを含むシンセの美しさ、キュートな女性ヴォーカルの歌声も加わった、キャッチーな耳心地と、
テクニカルで偏屈な楽曲展開の妙が対照的でとても面白い。暗黒性はほとんどないのだが、
ひねくれた味わいが優雅な無邪気さと合わさった、可愛らしい変態というべきサウンドにニンマリである。
一方では、サックスがゆったりと鳴らされ、マリンバにエレピが優しく絡む叙情的なパートから、
エキセントリックに展開するアヴァンギャルド性にもプログレらしい知性とセンスが感じられる。
チェンバー度・・8 プログレ度・・8 軽妙で軽妙度・・9 総合・・8
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PRESENT 「No.6」
ベルギーのチェンバーロック、プレザンの1999年作
タイトル通り6作目となるアルバムで、重いベースにギター、ピアノ、チェロの音色が重なり、
スリリングな緊迫感を描き出す、ダークなチェンバーロック・サウンドは健在だ。
変則リズムを叩き出すドラムのキレもよく、エッジの効いたギターが鳴り響きつつ、
クラシカルなアヴァンギャルド性を重厚なアンサンブルで表現するサウンドは説得力十分。
インダストリアルな小曲も挟みつつ、16分、19分という組曲構成の大曲を中心に、
攻撃的なまでの迫力でたたみかける、ヘヴィなチェンバーロックが堪能できる。。
チェンバー度・・9 スリリング度・・9 重厚度・・8 総合・・8 
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Univers Zero「Clivages」
ベルギーのチェンバープログレバンド、ユニヴェル・ゼロの2010年作
1987年の5作目を最後に沈黙していたバンドが、1999年に復活、以後再び作品を生み出し続ける。
シンセとクラリネット、ヴァイオリンが絡み流麗に始まる本作は、一聴して従来のダークさは控えめに思えるが、
むしろ3作目あたりの作風をソリッドに仕立て上げたという感触で、スリリングなアンサンブルが際立っている。
クラシカルな美しさが前に出ているものの、本質的なダークな世界観は変わらず。音数を絞ってきたことで
静けさの中での張りつめた緊張感はむしろむしろ高まっている。2002年作「rhythmix」以来の大傑作である。
クラシカル度・・8 テクニカル度・・7 ダークな緊張感・・9 総合・・8.5
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Aranis 「Made in Belgium」
ベルギーのチェンバーロック、アラニスの2012年作
UNVERS ZEROPRESENTを含む、ベルギーの作曲家が手掛けた楽曲のカヴァー集で、
ヴァイオリン、ヴィオラの音色にフルートが絡み、ピアノを加えたクラシカルなアンサンブルで、
アカデミックな室内楽を先鋭的に昇華したサウンドを聴かせる。基本、ドラムが入らないので、
ロック色というのはほとんど感じさせない。純粋なチェンバー・ミュージックというべき作風であるから、
カヴァー作品ということも含めて、やや聴き手を選ぶ内容かもしれない。全体的にも現代音楽や
クラシック寄りのナンバーが多いのだが、ラストのプレザンのカヴァーは素晴らしい。
チェンバー度・・9 プログレ度・・7 スリリング度・・8 総合・・8
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DAAU 「Tub Gurnard Goodness」
ベルギーのチェンバーロック、Die Anarchistische Abendunterhaltungの2004年作
クラリネット、チェロ、アコーディオン、ヴァイオリンという4人編成で、不穏なチェロの音色に
クラリネット、ヴァイオリンの響きが重なり、スリリングな空気を優雅な音で表現するサウンドは、
ロック色を排したUNIVERS ZEROという雰囲気もある。ストリングスの強弱によるダイナミクスが
迫りくるような緊迫感を描き出し、ダークなクラシカル性が耳心地よくもおどろおどろしい。
一方では、アコーディオンとクラリネットが前に出た、とぼけた味わいと哀愁も感じさせ、
アコースティック主体ながら、メリハリのある聴き心地で飽きさせない。曲によってはドラムも入って
女性ヴォーカルを乗せたジャズやタンゴ風味のナンバーもあったりする。本格派チェンバーの好作品。
スリリング度・・8 チェンバー度・・9 ロック度・・3 総合・・8
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FINNEGANS WAKE「Blue」
ベルギーのチェンバーロック、フィネガンズ・ウェイクの2008年作
結成は90年代というキャリアのあるバンドで、本作は5作目のアルバム。
優雅なピアノに、やわらかなシンセとヴァイオリンが絡み、軽妙なアンサンブルとともに、
わりとヘヴィなギターが加わった、スリリングでアヴァンギャルドなセンスも感じさせる。
女性ヴォーカルが加わると、ART BEARSにも通じるような妖しい雰囲気にもなり、
チェロやフルートが不穏に鳴り響く、ほどよくダークでクラシカルなチェンバーロック感触を、
ときにKENSOのような、軽やかでとぼけた味わいとともに描き出す。玄人好みの傑作。
チェンバー度・・9 スリリング度・・8 優雅度・・9 総合・・8
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Jonathan & Corentin Aussems・Francois Schuiten「Idegael」
ベルギーのレーベル、Home RecordingsのスタッフであるAussems兄弟と、
ベルギーの画家&漫画家のFrancois Schuitenのコラボ作品のサントラ音源。2011年作
管弦楽器やピアノを含んだオーケストラルなアレンジと、男女混声コーラスも加わった
雄大なチェンバーロック的サウンドで、ストーリー性を感じさせる空間的な広がりには、
どこかなつかしいような優しい聴き心地もある。サントラ的でありつつも、クラシカルな優雅さと
適度な緊張感を含んだ構築性により、ひとつの音楽作品として楽しめる力作です。
クラシカル度・・8 プログレ度・・7 空間度・・8 総合・・8
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CAPTAIN CHEESEBEARD 「SYMPHONY FOR AUTO-HORN」
ベルギーのプログレ・ジャズロック、キャプテン・チーズビアードの2016年作
UNIVERS ZEROのピエール・シュヴァリエも参加、二人のシンセ奏者に女性Voを含む編成で、
スペースロック的なサイケ感と軽快なジャズロックサウンドが融合した、アッパーなノリの良さで聴かせる。
トランペット、トロンボーン、サックスといったブラスが鳴り響き、男女ヴォーカルの歌声を乗せた
ゴージャスな味わいとファニーな楽しさで、ソフトなアヴァンギャルド性も含んだジャズロックを展開する。
エレピを乗せたカンタベリー風味の優雅さや、ゆったりとした大人のジャズ風味も覗かせる、玄人好みの逸品。
軽妙度・・8 プログレ度・・7 愉快なジャズロ度・・9 総合・・8
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◆ベルギーのシンフォニックロック

Mindgames 「MMX」
ベルギーのプログレバンド、マインドゲームスの2010年作
美麗なシンセアレンジに、適度にハードでメロウなギターと伸びやかなヴォーカルを乗せた、
正統派のシンフォニックロック。PENDRAGONあたりを思わせる泣きの叙情美と、
ARENAにも通じるダイナミックな展開力で、ポンプロックルーツのサウンドを重厚に描く。
オルガンやミニムーグを使ったとオールドなテイストも覗かせつつ、扇情的なギターフレーズが、
ウェットなメロディを奏でる、あくまで優美な作風だ。ラストは15分におよぶ大曲でじっくりと盛り上げる。
キャッチーな耳心地の良さも含めて、ヨーロピアンなプログレハードとしても楽しめるシンフォ好作。
ドラマティック度・・8 プログレハー度・・8 メロウな叙情度・・8 総合・・8
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GREEN VIOLINIST 「More Thrill And Never Ending Blessings」
ベルギーのプログレバンド、グリーン・ヴァイオリニストの2013年作
ツインギターに男女Voを含む6人編成で、美麗なシンセアレンジにジェントルな男性ヴォーカルを乗せ、
ときに女性ヴォーカルが絡みつつ、ゆったりとしたエモーショナルな叙情を描くシンフォニックロックサウンド。
メロウなギターワークも耳心地よく、かつてのCOLLAGEなど、ポーランドのバンドにも通じるような
薄暗い空気感に包まれた聴き心地。アコースティックなやわらかさに美しいシンセが重なり、
ポストプログレ寄りの繊細さも含ませつつ、ときにオルガンが鳴り響くオールドな感触も覗かせる。
基本的にはヴォーカルがメインの作風なので派手な展開力はないものの、13分の大曲ではゆるやかに盛り上がる
シンフォニックロックが味わえる。あるいはMarillionなどの薄暗系メロディックロックとしても楽しめる好作品だ。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 薄暗叙情度・・8 総合・・8
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Fish on Friday 「Godspeed」
ベルギーのプログレハード、フィッシュ・オン・フライデーの2014年作
前作はメジャー感のあるAOR的なポップ性の好作であったが、本作はのっけから10分を超える大曲で
ぐっとシンフォニックな質感が増している。透明感のあるシンセアレンジにマイルドなヴォーカルを乗せて
繊細なメロディアス性で描かれるサウンドは、YesAsiaをより美麗にしたという感触で、しっとりと味わえる。
2曲目以降も、厚みのあるシンセによるシンフォニック性と、Moon Safariを思わせる美しいコーラスなども含んだ
キャッチーなやわらかさで、とても耳心地がよい。プログレ的な展開やテクニカル性というのはあまりないのだが、
とにかく繊細にして優美な作風には心が和まされる。ゆったりとメロディックな叙情美が好きな方にはマスト。
メロディック度・・9 プログレ度・・7 繊細で優美度・・9 総合・・8
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Neo Prophet 「T.I.M.E.」
ベルギーのプログレバンド、ネオ・プロフェットの2015年作
まったく知らないバンドだったが、これがなかなかの力作。ムーグやオルガンなどプログレらしいシンセに、
適度なハードさを含んだギターワーク、マイルドなヴォーカルを乗せた本格派のシンフォニックロック。
ProgMetal的でもあるテクニカルな構築力と、TRANSATLANTICばりの抜けの良いキャッチーなメロディアス性で、
魅力的なフックとダイナミックな展開美を聴かせてくれる。コンセプト的な流れのある楽曲の並びも見事で、
それでいてあくまでメロディを大切にした聴きやすさが素晴らしい。プログレハード的な雰囲気もあるという点では
PALLASのようなドラマティックな世界観が好きな方にも楽しめるだろう。これは大穴的な傑作です。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 構築度・・9 総合・・8
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◆ベルギーのサイケロック

QUANTUM FANTAY 「Terragaia」
ベルギーのサイケロック、カンタム・ファンタイの2014年作
ギター、ベース、ドラム、シンセの4人編成を基本にした、OZRIC TENTACLESタイプのサイケロック。
エレシトロでスペイシーなシンセアレンジに包まれた、アッパーなノリの良さで聴かせるアンサンブル、
そこにフルート、ハープ、バグパイプ、マンドリンなどのゲストによる、民族的な叙情性も加わった
カラフルなサウンドが楽しめる。完全なオズテン・フォロワーと言ってしまえばそれまでなのだが、
こちらの方がよりプログレらしさというか、ときにシンフォニック系のようなメロディアス性も感じさせる。
サイケというとイギリスかスウェーデンというイメージだったが、ベルギーにもこんな素晴らしいバンドが現れた。
メロディック度・・8 プログレ度・・8 オズテン度・・8 総合・・8
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Babils 「Joint Between」
ベルギーのアヴァン・サイケロック、バビルズの2007年作
トランペットなどのブラスが鳴り響き、アナログ感たっぷりのアンサンブルがフリーキーに合わさった、
異色のアヴァンギャルド・サイケロック。うねるようなベースとノイジーなギターにブラスが絡まり、
ガレージロック的な荒々しさと、混沌としたサイケ感が混ざり合った、一種、異様な世界観である。
ポストロック的でもある得体の知れないスケール感とミステリアスな暗黒性も覗かせつつ、
フルートが妖しく鳴り響く10分を超えるナンバーも、サウンドコラージュ的で大変アヴァンギャルド。
ロックとしての整合性を求める方には向かないが、混沌としたフリーキーなアヴァンミュージックが好きな方に。
ドラマティック度・・7 サイケ度・・8 アヴァンギャル度・・9 総合・・7.5
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◆ベルギーのトラッド、フォーク系

Floes 「Belovodia」
ベルギーのトラッドバンド、フローズの2006年作
二人の女性ヴォーカルをフロントに、アコースティックギターやアコーディオンによる
ゆったりとした優しいトラッドサウンド。薄暗さよりも爽やかさで聴かせるタイプで、
メンバーがオランダ系ということで、女性Voのオランダ語の歌声とともに、
ケルトテイストも覗かせながら、アコースティカルなやわらかな叙情が包みこむ。
アコースティカル度・・9 ケルティック度・・8 女性Vo度・・8 総合・・8
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Zefiro Torna 「O Mondo Aveugle」
ベルギーの古楽フォーク、ゼフィロ・トルナの2010年作
美しい女性ヴォーカルの歌声に、民族的なバグパイプが鳴り響き、サックスやフルート、アコーディオンなどが加わった
チェンバーロック風味を感じさせるサウンド。リュートやリコーダーの素朴な音色が中世古楽的な世界観をかもしだし、
ネオフォーク的な幻想性とクラシカルな室内楽風味に、ヨーロピアンな教会音楽が融合したという聴き心地もある。
オペラティックなソプラノヴォーカルが、ときにシアトリカルな空気を描いて、総じて優雅な作風であるのだが、
どこかエキセントリックな神秘性にも包まれている。インストパートにおけるトラッド要素も確かな演奏力で説得力がある分、
垣間見せるシリアスな遊び心に惹きつけられる。軽やかにクラシカル、ジャズ風味も覗かせる、古楽チェンバーの傑作。
アコースティカル度・・8 幻想度・・8 女性Vo度・・8 総合・・8
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Olla Vogala Live in De Sint-Baafsabdij
ベルギーのトラッドフォークユニット、オラ・ヴォガラの2013年作
3人のシンガーを含む15人編成という大所帯のユニットで、本作は母国ベルギーでのライブ音源。
美しい女性ヴォーカルの母国語の歌声に、ヴァイオリン、ヴィオラのストリングスが重なり、
トロンボーン、サックスなどの管楽器が加わった、チェンバー風味もあるトラッドフォークサウンド。
やわらかなピアノのつまびきにアコーディオンの音色、男性ヴォーカルの歌声とともにジャズ風味の優雅さと
哀愁を感じさせる叙情に包まれた、しっとりと落ち着いた大人のアンサンブルが広がってゆく。
軽妙にして繊細な演奏力が素晴らしく、ミステリアスなスケール感も含んだ見事なライブである。
アコースティカル度・・9 ライブ演奏・・9 優雅な叙情度・・9 総合・・8
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*チェンバーロック特集
*プログレCDレビュー・ドイツ、オランダ、ベルギー

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