〜PROGRESSIVE ROCK CD REVIEW 2021 by 緑川 とうせい

★2021年に聴いたプログレ(フォーク/トラッド・その他含む)CDレビュー
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*メタル最新レビュー *注目の新譜


12/30
今年最後のプログレビュー(340)
2021プログレベスト10も決定…こちらから


The Samurai of Prog 「The Lady and the Lion」
フィンランドのプログレユニット、サムライ・オブ・プログの2021年作
2011年から始まったプロジェクトで、いまやシンフォプログレ代表格のひとつ。本作はグリム童話をコンセプトにした作品で、
KAYAKのトン・スケルペンツェル、SOUTHERN EMPIREのカム・ブロックランド、JINETE NEGROSのオクタヴィオ・スタンパリダ
PHIDEAUXのヴァレリー・グラシアス、MAD CRAYONのアレッサンドロ・ベネデッティ、LAST KNIGHTのラファエル・パシャなど、
多数のメンバーが参加。優美なシンセに叙情的なギター、艶やかなヴァイオリンも鳴り響く優雅なサウンドで、
オールドなプログレ感触を残しながら、ストーリーを語るようなヴォーカルとともに物語的な流れを感じさせる。
流麗なギターフレーズもいつも以上に際立っていて、随所に泣きのメロディを乗せてくるところはにんまりである。
まさに幻想シンフォプログの逸品。全41分とわりとコンパクトにまとめられていて、次作へ続く…というところだろう。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 優美度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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NEAL MORSE 「Sola Gratia」
アメリカのプログレ職人、ニール・モーズの2020年作
キリストの人生を描いた前作に続き、本作もは使徒パウロをモチーフにしたコンセプト作品で、
盟友マイク・ポートノイにベースのランディー・ジョージ、ギターのエリック・ジレット、シンセのビル・ヒューバウアーと
NEAL MORSE BANDのメンバーが参加、壮麗なシンセワークとポートノイの巧みなドラム、叙情的なギターとともに
TRANSATLASNTICばりの展開力のあるシンフォプログレを構築。キャッチーなメロディのヴォーカルパートに
厚みのあるコーラスも加わって、ドラマティックに盛り上げるところは、さすが安定のニールモー節。
オールドなロック風味も盛り込みつつ、お約束のテクニカルなインストパートからの泣きの叙情と、
もはや新鮮味は薄いものの、クオリティの高さはお墨付きだ。全65分1枚でまとめてくれたのも良かった。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 安心ニールモ度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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MORSE/PORTNOY/GEORGE 「COV3R TO COV3R」
ニール・モーズ、マイク・ポートノイ、ランディー・ジョージによるカヴァーアルバム。2020年作
Richie Havens、JETHRO TULL、David Bowie、Gerry Rafferty、Ringo Starr、KING CRIMSON、
SQUEEZE、Tom Petty、Lenny Kravitzなど、ニール自身が影響を受けたアーティストの楽曲をカヴァー。
プ゛ログレファンには馴染みの薄いナンバーもあるのだが、単なるオールドロックの再現ではなく、
卓越したドラムと存在感あるベースによる確かなリズムと、優美なシンセワークが一体となり、
ニール・モーズらしいキャッチーなプログレ風味も加わって、原曲を知らずともわりと楽しめる。
キング・クリムゾン「One More Red Nightmare」がこのメンツで聴けるのはなかなか新鮮ですね。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 カヴァー度・8 総合・7.5
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DELUGE GRANDER 「LUNARIANS」
アメリカのプログレバンド、デリュージ・グランダーの2021年作
シンセ奏者のダン・ブリトン率いるバンド、2006年にデビュー、5作目の本作は、月と狂気をテーマにしたトータル作で、
メロトロンなどのヴィンテージなシンセに、ヴァイオリンやクラリネット、フルートなどの室内楽アレンジを重ね、
優雅な美しさとミステリアスな展開力で、チェンバー風味も含んだシンフォニック・プログレを描いてゆく。
クラシカルなピアノの旋律に、泣きのギターとメロトロンが加わって、じわりと盛り上げるリリカルなパートや
ときにジェントルなヴォーカルを乗せたキャッチーな牧歌性など、繊細な叙情美とスリリングなアンサンブルが同居、
オールドなプログレを涼やかなクラシカル性で昇華させている。濃密になり過ぎず盛り上げすぎないところも、
クールな味わいを保っていて、この突き抜けないマイナー感こそが、ディープなプログレリスナーをニヤリとさせる。
クラシカル度・8 プログレ度・8 優雅度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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NICK D'VIRGILIO 「INVISIBLE」
アメリカのミュージシャン、ニック・ディヴァージリオの2020年作
元SPOCK'S BEARD、現在はBIG BIG TRAINで活躍するドラマーで、ソロとしては2001年以来となる作品。
自身のドラムとエモーショナルな歌声に、優美なシンセやオーケストラアレンジ、ときにメタリックなギターも加えて、
テクニカルなインストパートとマイルドな歌パートが融合した、スタイリッシュなハードプログレを聴かせる。
ヨナス・レインゴールド(THE FLOWER KINGS)、トニー・レヴィン、ジョーダン・ル−デス、ジム・ゴドフリー(FROST*)など
多数のゲストが参加して楽曲を彩る。キャッチーなシンフォプログレ風味から、ファンキーなナンバーなど、
コンセプト的な流れで聴かせる、全14曲、69分という力作。楽曲ごとに組み替えたドラムセットの解説も興味深い。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 スタイリッシュ度・8 総合・8
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Amuzeum 「New Beginnings」
アメリカのプログレバンド、アミュゼウムの2020年作
Mars Hollow、Ten Jinn、Heliopolisなどのメンバーを含むバンドで、Yesのビリー・シャーウッドがプロデュース。
アコースティックを含む典雅なギターの旋律に、オルガンなどのシンセとやわらかなヴォーカルを乗せた、
イエスルーツの優雅なプログレサウンド。スティーヴ・ハウばりのメロウなギターフレーズに、
オールドなプログレらしさ漂うシンセワークも耳に心地よく、キャッチーなコーラスも含めて、
じつに優美なサウンドが味わえる。10分を超える大曲でも、あくまで軽妙な優雅さに包まれて、
濃密になりすぎないところも心憎い。結果として、GLASS HAMMERなどのファンにもお薦めだ。
メロディック度・8 プログレ度・8 優雅度・9 総合・8
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TIM BOWNESS 「LATE NIGHT LAMENTS」
イギリスのミュージシャン、ティム・ボウネスの2020年作
NO-MAN、Henry Foolでも活躍するミュージシャン、本作はスティーヴン・ウィルソンがミックスを担当、
PORCUPINE TREEのリチャード・バルビエリ、コリン・エドウィン、KNIFEWORLDのカヴース・トラビ、
Iamthemorningのエヴァン・カーソンなどがゲスト参加。うっすらとしたシンセアレンジに優美なピアノや
ヴィブラフォンの響き、メロウなギターとマイルドなヴォーカルを乗せて、しっとりと繊細なサウンドを描く。
曲によっては、美しい女性ヴォーカルも加わり、最後まで優美に楽しめるアンビエント・プログの逸品。
Disc1の本編は38分と短めであるが、Disc2には、本作のアウトテイクスなどを収録していて、ファンには嬉しい。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 優美で繊細度・9 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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Galahad Electric Company 「When The Battle Is Over」
イギリスのプログレバンド、ガラハド・エレクトリック・カンパニーの2020年作
GALAHADのシンセ奏者、ディーン・ベイカーと、シンガーのスチュアート・ニコルソンによるユニットで、
優美なシンセにエレクトロなアレンジを重ね、ジェントルなヴォーカルを乗せた、ポストプログレ風味のサウンド。
リズムは打ち込みのようで、全体的にモダンなエレクトロロック風味で、派手な盛り上がりは薄いのだが、
ときにオルガンなどのシンセを使ったりと、プログレらしさは随所に残している。じわじわとした叙情美と
翳りを帯びた空気に包まれた耳心地の良さに、表現力あるヴォーカルでゆったりと味わえる好作品だ。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 エレクトロ度・8 総合・7.5
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Heave Blood & Die 「Post People」
ノルウェーのサイケ・ポストロック、ヘヴン・ブラッド・アンド・ダイの2021年作
女性シンセ奏者にギター2人を含む6人編成で、適度にハードなギターにうっすらとしたシンセ、
エフェクトのかかったヴォーカルを乗せた、ポストロック的な物悲しい叙情に包まれたサウンド。
ときにオリエンタルな旋律も覗かせて、幻想的なサイケとストーナー、ポストロックの間を行き来する、
つかみどころがないというのが特徴か。やわらかなメロトロンが鳴り響く、ふわふわとした浮遊感と
涼やかな空気がなかなか耳心地よく、マイルドなヴォーカルも前に出すぎないのが良いのかも。
楽曲は3〜4分前後で、全33分というのもあっさりしている。シガー・ロス系が好きな方にもいけるかも。
ドラマティック度・・6 サイケ度・・7 浮遊度・・8 総合・・7.5
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KARFAGEN 「PRINCIPLES AND THEORY OF SPEKTRA」
ウクライナのシンフォニックロック、カルファゲンの2020年作
マルチミュージシャン、アントニー・カルギンによるプロジェクトで、2006年にデビューし、すでに12作目。
優美なシンセに叙情的なギターの旋律、ヴァイオリンやフルートの音色も加わった、優雅なシンフォプログレで、
ヴィンテージな優しさとメロディアスな旋律は、初期のTHE FLOWER KINGSにも通じる聴き心地。
オールインストであるが、繊細なアコースティックパートから、スペイシーなシンセをメインにした
ミステリアスな雰囲気も覗かせつつ、10分前後の大曲をじっくりと構築するセンスはさすがで、
甘美なギターフレーズに優雅なフルートが重なるところなどはウットリとなる美しさである。
キャッチーな希望を描くようなラストナンバーまで、これぞシンフォプログレという音が詰まっている。
シンフォニック度・8 プログレ度・8 優美度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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Ex-Libris 「Ulysse」
カナダのプログレバンド、イーエックス・リブリスの2019年作
1995年に1作を残して消えたバンドの、24年ぶり復活作。クラシカルなピアノとジェントルなヴォーカルのイントロから、
ギターとリズムが加わって、優雅なプログレサウンドを展開。フランス語の歌声がヨーロピアンな味わいとなり、
やわらかなオルガンの響きが、哀愁の叙情で包み込む。プログレらしいシンセワークも随所に光っていて、
キャッチーなシンフォプログレから、繊細なピアノに女性コーラスで聴かせるしっとりとしたナンバーまで、
あくまで優美な耳心地で楽しめる。全体的に派手な展開はないが、ゆったりとした大人の叙情が香り立つ好作。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 優雅度・8 総合・7.5
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STAROSTA 「De Dioses Y Otros Cuentos」
アルゼンチンのプログレバンド、スタロスタの2018年作
オルガンなどのシンセにギターを重ね、スペイン語のマイルドなヴォーカルで聴かせる、
南米らしいやわらかな叙情に包まれたサウンド。アナログ感あるアンサンブルに、
ほどよくハードなギターに、ピアノやオルガンを乗せた、オールドなロック感触もあって、
派手さはないものの、70年代南米プログレをルーツにした素朴な味わいが魅力。
8分を超えるナンバーでは、ときおり緩急あるプログレらしい展開も覗かせつつ、
全体的にはわりとユルめの雰囲気でのんびりと楽しめる。ある意味アルゼンチンらしい作品。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 南米度・8 総合・7.5
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SUPERNOVA '75 「SUITE SUPERNOVA」
アルゼンチンのシンフォニック、スーパーノヴァ'75の2020年作
マルチミュージシャン、ロドルフォ・プラネスによるプロジェクトで、6パートに分かれた30分を超える組曲をメインに
叙情的なギターワークにシンセを重ね、軽やかなリズムとともに、優雅なシンフォプログレを展開する。
南米らしいフォルクローレ風味を含んだ素朴な牧歌性と、PABLOにも通じる繊細な叙情美で、
ゆったりとした耳に優しいインストサウンドが楽しめる。スリリングな展開はさほどないものの、
アコースティックを含むメロウなギターを中心に、優美なインストシンフォが味わえる逸品です。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 優美度・9 総合・8
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CAST 「Landing In A Serious Mind」
メキシコのプログレバンド、キャストの1994年作
いまや世界レベルのシンフォプログレバンドとなった彼らだが、本作はその記念すべきデビュー作。
やわらかなシンセワークに叙情的なギター、英語によるマイルドなヴォーカルを乗せた、
GENESISCAMELをルーツにしたような優美なシンフォニックロック・サウンドが耳心地よい。
のちの作品のようなテクニカルな展開力よりは、牧歌的な繊細さに包まれていてなかなか魅力的だし、
優雅で軽妙なインストナンバーや、10分を超える大曲では、しっとりとした叙情から起伏のある展開力で、
ドラマティックなサウンドを聴かせてくれる。キャッチーで爽快なラストナンバーまで、じっくり楽しめる好作品。
メロディック度・8 プログレ度・8 優美度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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PAVLOV'S DOG 「LOST IN AMERICA」
アメリカのプログレバンド、パヴロフス・ドッグの1990年作
1975〜76年までに2作を残して解散(1977年に録音された3rdは、お蔵入りになりのちに発表される)、
本作は再結成しての実質的な4作目で、デイヴィッド・サーカンプの独特のハイトーンヴォーカル
ダグ・レイバーによる優美なシンセとともに、ゆったりとした叙情に包まれたサウンドを聴かせる。
全体的にはプログレ的な部分は薄めで、キャッチーな糊のメロディックロックというナンバーもあるのだが、
元々がポップな部分も持っていたバンドなので、80年代風のAORという感触もさほど違和感なく楽しめる。
リマスター盤のボーナスには、1990年、2005年、2006年の未発ライブ音源を8曲追加収録。
メロディック度・8 プログレ度・6 ポップ度・8 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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Soundscape 「Discovery」
アメリカのプログレバンド、サウンドスケープの1997年作
のっけからクリスマス・キャロルをテーマにした21分の組曲で、ほどよくハードなギターと伸びやかなヴォーカルに、
やわらかなシンセを重ねた、キャッチーなプログレハードを聴かせる。緩急あるわりと唐突な展開力に、
ツーバスのドラムなどのほどよいテクニカル性に、流麗なギターと歌い上げるハイトーンヴォーカルで、
ProgMetal的なイメージでも楽しめるところは、DREAM THEATERにも影響を受けているのかもしれない。
中盤には優雅なインストナンバーや、9分の大曲と長尺感もなんのその、ラストも19分という組曲でドラマティックに盛り上げる。
全77分という力作である。本作のみで消えたと思いきや、バンドは2009年になって復活作「Grave New World」を発表する
ドラマティック度・8 プログレ度・7 ProgMetal風度・8 総合・7.5
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12/10
師走のプログレ(325)


BIG BIG TRAIN 「Common Ground」
イギリスのプログレバンド、ビッグ・ビッグ・トレインの2021年作
1994年にデビュー、いまや英国プログレを代表するバンドのひとつとなった。本作は通算13作目で、
ジャケも含めて、コロナ禍による人類の団結というものを感じさせる内容で、ピアノを含む優美なシンセに
叙情的なギターとマイルドなヴォーカルで、希望に満ちたキャッチーなシンフォプログレを展開する。
ニック・ティヴァージリオの巧みなドラムを屋台骨にした確かなアンサンブルと優雅な展開力は、
サウンドに説得力をもたらし、オルガンやメロトロンなどヴィンテージなシンセをかき鳴らす
リカルド・ショブロム(GUNGFLY)の存在感も大きい。ヴァイオリン鳴り響くKANSAS風のナンバーから、
15分のドラマティックな大曲まで聴きどころも多く、メンバー3人の脱退を感じさせないさすがの傑作です。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 優雅度・8 総合・8.5 過去作のレビューはこちら
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Ozric Tentacles 「Space For The Earth」
イギリスのサイケ・プログレ、オズリック・テンタクルスの2020年作
1985年にデビュー、現在までに20作以上を発表している、スペース・サイケロックの大御所。
オリジナルメンバーは、エド・ウィンのみになったが、本作にはかつてのメンバーがゲスト参加、
アコースティックを含むギターにカラフルでスペイシーなシンセアレンジ、やわらかなフルートの音色とともに、
桃源郷的なサイケロックを聴かせる。優雅なギターのフレージングにオリエンタルなメロディを織り交ぜつつ、
エレクトロなアレンジを乗せたアッパーなノリのナンバーなど、インストながらも振り幅の大きな味わい。
全体的にはアンビエントな雰囲気も増えていて、わりと落ち着いた感じで楽しめる好作品です。
ドラマティック度・7 プログレ度・・7 サイケ度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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KEPLER TEN 「A NEW KIND OF SIDEWAYS」
イギリスのプログレバンド、ケプラー・テンの2020年作
2017年にデビューし、2作目となる。ハード寄りのギターにシンセを重ね、巧みなドラムとともに、
モダンなエッジの効いたハードプログレを聴かせる。随所に流麗なギタープレイも聴かせながら、
伸びやかなヴォーカルを乗せたキャッチーな抜けの良さに、ProgMetal的な展開力も覗かせる。
ほどよいテクニカル性とメロディアスな爽快さという点では、ENCHANTなどにも通じるだろう。
存在感あるベースもなにげに効いていて、スタイリッシュなアンサンブルは演奏力の高さを感じさせる。
ラストは20分という大曲で、重厚さと緩急ある構築力で、高品質なモダンプログレが楽しめる。
ドラマティック度・7 プログレ度・7 スタイリッシュ度・8 総合・8
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SWAPPERS ELEVEN 「FROM A DISTANCE」
イギリス、イタリア、ブラジルのメンバーによるプログレバンド、スワッパーズ・イレヴンの2020年作
MARILLIONとステージで共演するための「スワップ・ザ・バンド」コンテストの受賞メンバーによるバンドで、
オルガンなどのプログレらしいシンセにほどよくハードで叙情的なギター、伸びやかなヴォーカルを乗せた、
王道のシンフォプログ・サウンド。マリリオンにも通じる翳りとキャッチーなメロディアス性が同居し、
13分という大曲も、マイルドなヴォーカルやメロウなギターとともに、しっとりとした叙情美に包まれる。
世界各国から10名以上のミュージシャンがゲスト参加していて、女性ヴォーカルを乗せた優美なナンバーや
ゲストのきらびやかなシンセやギター、サックスなども加わって、深みのあるサウンドを描いている。
翳りを帯びたMARILLIONルーツの歌もの系シンフォニックロックとしても楽しめる逸品です。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 叙情度・8 総合・8
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MULTI STORY「CBF10」
イギリスのプログレバンド、マルチ・ストーリーの2020年作
1985年にデビュー、1987年までに3作残して消えるも、2016年に復活。本作は復活後2作目となる。
叙情的なギターにオルガンなどの優美なシンセを重ね、ジェントルなヴォーカルを乗せて、
ほどよい軽快なノリとウェットな英国らしさを含んだ、80年代ポンプロックルーツのサウンド。
かつてのフィッシュやピーター・ニコルズを思わせる歌声と、メロウな泣きの叙情性は、
初期のMARILLIONIQにも通じるものだろう。意外性はないが、6〜8分前後の楽曲を中心に、
じっくりと味わえるタイプのサウンドで、ポンプ寄りの英国シンフォが好きな方ならニンマリの好作品。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 英国度・8 総合・8
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THE ANCESTRY PROGRAM 「Tomorrow」
ドイツのプログレバンド、アンセストリー・プログラムの2020年作
ハードなギターにやわらかなシンセ、ジェントルなヴォーカルを乗せた、モダンな感触のサウンドで、
ときにProgMetal的でもある硬質感とテクニカルな展開力を含んだ、ドラマティックな聴き心地。
キャッチーなメロディアス性とダークなヘヴィネスが交互に現れるという、若手らしい極端さなど、
Riverside以降のボーダーレスの感覚とともに、先の読めない構築センスがなかなか面白い。
10分前後の大曲も多く、いくぶん偏屈でアヴァンギャルドな展開と、とぼけたキャッチーさが同居した、
独特のハードプログレが味わえる。個性的な方向性という点では今後も期待。全77分という力作です。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 モダン度・8 総合・8
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KING OF AGOGIK 「AFTER THE LAST STROKE」
ドイツのドラマーのハンス・ヨルグ・シュミッツによるプロジェクト、キング・オブ・アゴジクの2019年作
2006年にデビューし、7作目となる。やわらかなピアノにメロトロンなどのシンセ、メロウなギターフレーズを
軽やかなリズムに乗せて、巧みなドラムによるテクニカル性とキャッチーなメロディが同居した優雅なサウンドを聴かせる。
フルートが鳴り響き、ピアノやヴァイオリンを重ねたクラシカルな叙情と、プログレらしいシンセとギターの旋律が
魅力的なインストパートを構築。優雅で軽やかな20分の大曲から、ドラムソロ的な小曲、ジャズロック風味のナンバーや、
12弦ギターにシンセ重ねた繊細なシンフォ曲、さらにはProgMetal風味まで、楽曲ごとに起伏のあるサウンドが楽しめる。
ときおり挿入されるドラムソロパートはややうざったいのだが、カラフルで鮮やかなテクニカルプログレで、全76分の濃密作。
ドラマティック度・7 プログレ度・8 優美度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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CHANDELIER 「LIVE AT LORELEY」
ドイツのプログレバンド、シャンデリアのライブ。2020年作
1990〜97年までに3作を残して消えたバンドの復活のライブ作品で、2019年ドイツでのステージをCD+DVDに収録
優美なシンセと叙情的なギターに、フィッシュ系のヴォーカルを乗せた、キャッチーなサウンドはかつてのまま。
ポンプロックルーツの優雅なシンフォプログレであるが、しっかりとした演奏力もあるので古臭さは感じさせない。
かつての3作からそれぞれ数曲ずつセレクトされていて、どのナンバーもメロディックなフックと展開美が楽しめ、
GENESIS「Firth Of Fifth」のフレーズを楽曲中に盛り込むところもニヤリ。映像の方は野外フェスなので、ステージはやや殺風景だし、
メンバーは地味なオッサン風なのだが。初期MARILLION系の良質なバンドとして再評価されるべきバンドだろう。これを機に復活作も期待。
ライブ演奏・8 ライブ映像・7 優美度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら

Mindgames 「Paradox of Choice」
ベルギーのプログレバンド、マインドゲームスの2015年
2002年にデビューし4作目。優美なシンセにギターを重ね、ハイトーンのヴォーカルとともに、
PALLASPENDRAGONルーツのキャッチーな叙情に包まれたシンフォプログレを聴かせる。
ピアノを含む繊細なシンセアレンジにメロウな泣きのギター、伸びやかな優しい歌声が
ヨーロピアンな空気を描いていて、これぞシンフォニックロックの王道という作風である。
新鮮味はさほどないが、優美な叙情性とともに、じわじわと盛り上げる作風はじつに耳心地よく、
ラストの10分の大曲も、しっとりとした美しさとメロディアスな抜けの良さが合わさった展開美が味わえる。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 叙情度・8 総合・8 過去作のレビューはこちら
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WETTON-DOWNES ICON 「URBAN PSALM LIVE」
ジョン・ウェットンとジェフ・ダウンズのユニットのライブ作品。2017年作
2012年にDVDのみで出ていたものの拡大版で、2009年にロンドンの教会で行われたライブを2CD+DVDに収録。
ギターはBLEEDING HERATS BANDのデイヴ・キルミンスター、元E.L.O.の故ヒュー・マクドウェルがチェロで参加、
MOSTLY AUTUMN/PANIC ROOMのアン・マリー・ヘルダーがフルートで参加している。「ICON 3」からのナンバーを主体に
ASIAやTHE BUGGLES、KING CRIMSONのナンバーも披露。音質も良好で、ダウンズのきらびやかなシンセワークに
渋みを増した故ウェットンのヴォーカルとともに、キャッチーで叙情的な大人のプログレハードを聴かせてくれる。
アン・マリーの美声とウェットンの優美なデュエットや、名曲「Starless」や「Heat of the Moment」もさすが本家の歌声。
ウェットン先生の生前の歌声と、動くライブでの映像が楽しめるという点でも、ファンには嬉しい作品です。
ライブ演奏・8 ライブ映像・8 ウェットン度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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MICK POINTER BAND 「Marillion's "Script" Revisited」
初期MARILLIONのドラマーで現在はARENAで活動する、ミック・ポインター率いるマリリオン・トリビュート。2014年作
MARILLIONの1986年デビュー作「SCRIPT FOR A JESTER'S TEAR」25周年を記念して結成されたユニットで、
本作に2013年オランダでのライブを収録。PENDRAGONのニック・バレットや、元SHADOWLANDのベース、シンセが参加、
Disc1では、デビュー作を完全再現、美しいシンセワークに流麗なギター、GENESISトリビュートバンドに参加していたという、
ブライアン・カミンスの歌声も、P.ガブリエル寄りで、つまりはフィッシュのイメージにぴったりで、初期マリリオンにおける
優雅な泣きのロマンティシズムもしっかり再現している。Disc2では、1st時のアルバム未収録ナンバーを演奏。
大曲の「Grendel」などもファンには嬉しいだろう。2016年公演を収録したDVD「Script Revisited」の方も必見です。
ライブ演奏・・8 マリリオン度・・9 道化師の涙度・・9 総合・・8
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JOHN HACKETT 「CHECKING OUT OF LONDON」
イギリスのミュージシャン、ジョン・ハケットの2005年作
スティーブ・ハケットの弟であるフルート奏者で、本作には兄のスティーブ・ハケットやニック・マグナスなどが参加。
アコースティックギターにうっすらとしたシンセ、ジェントルなヴォーカルを乗せた哀愁の叙情漂うサウンド。
スティーブの奏でるメロウなギターも随所に加わって、オルガンなどを含む優美なシンセによる味付けと
キャッチーな歌もの感が同居した、素朴なメロディックロックという聴き心地。楽曲は3〜5分前後と、
全体的にプログレ的な展開というはあまりないが、翳りを帯びた英国的な叙情に包まれた味わいで、
やはり兄ハケットの泣きのギターフレーズが随所に素晴らしい。落ち着いた大人の美学を感じる好作品。
ドラマティック度・7 プログレ度・6 英国度・8 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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MAGNESIS 「LA BETE DU GEVAUDAN」
フランスのプログレバンド、マグネシスの2020年作
1992年にデビュー、本作は11作目となる。「ジェヴォーダンの獣」をテーマにしたコンセプト作品で、
SEを含む映画的なイントロから、優美なシンセに叙情的なギター、フランス語によるダンディなヴォーカルに、
やわらかなフルートも鳴り響く、ANGEにも通じるシアトリカルなシンフォニックロックを聴かせる。
メロウなギターフレーズも随所に耳心地よく、全体的には優雅な雰囲気に包まれているのだが、
明確な盛り上がりが少ないので、やや平坦な印象か。後半には11分という大曲もあるが、
ゆったりとしたインストパートを含めて、もう少し起伏が欲しい気も。この中庸感は相変わらず。
ドラマティック度・8 プログレ度・7 フレンチ度・9 総合・7.5 過去作のレビューはこちら
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Eye To Eye 「One In Every Crowd」
フランスのプログレバンド、アイ・トゥ・アイの2006年作
優美なシンセにメロウなギターの旋律、エモーショナルなヴォーカルを乗せたシンフォニックロックで、
ほどよく時代的な泣きの叙情が重なった、90年代ルーツのロマンの香りを残している。
クラシカルなピアノによるしっとりとしたパートから、たたみかけるように盛り上げるところなど、
いくぶん唐突な展開にもフランスらしい優雅な空気をかもしだしつつ、16分という大曲を構築。
全66分で、いくぶんの長尺感もあるのだが、ヨーロピアンな世界観に包まれたサウンドは、
シンフォプログレの王道というべき聴き心地で、溢れ出る泣きのメロディにはウットリとなる。
ドラマティック度・8 プログレ度・8 泣きの叙情度・9 総合・8 過去作のレビューはこちら
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11/19
イギリス、イタリア、アメリカのプログレ(311)


Frost* 「Day And Age」
イギリスのプログレバンド、フロストの2021年作
キーボーディストのジム・ゴドフレイ、ARENA、KINOでも活躍するジョン・ミッチェルを中心にして、2006年にデビュー、
4作目となる本作は、カズ・ロドリゲス 、ダービー・トッド、パット・マステロットという3人のドラムが楽曲ごとに参加している。
モダンなシンセアレンジにギターを重ね、キャッチーなヴォーカルメロディとともに、スタイリッシュなサウンドを構築する。
随所にエレクトロなモダンさを強めつつ、しっとりとした歌もの感触とともに、ポストプログレ寄りの叙情美も覗かせて、
泣きのギターフレーズもまじえた優美な耳心地はさすがのセンス。2曲目以降はわりとコンパクトなナンバーが続き、
オーケストラルなアレンジやアンビエントな繊細さ、シンフォニックな美しさとノリのある歌メロのバランスで優雅に楽しめる。
ドラマティック度・・8 モダンプログ度・・8 優美度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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IO EARTH 「AURA」
イギリスのシンフォニックロック、アイオー・アースの2020年作
2009年にデビューし、5作目。やわらかなシンセにメロウなギター、男女ヴォーカルの歌声に
ヴァイオリンなどのストリングスも加わって、しっとりと優美なシンフォニックロックを聴かせる。
前作から参加のロザンナ嬢のヴォーカルも美しく、ソロをとるナンバーではなよやかな魅力に包まれる。
スピリチュアルなテーマのためか、過去作に比べるとヒーリング風のアンビエントパートが多いので、
派手な盛り上がりはさほどなく、ラストの18分という大曲も、アコースティックギターのつまびきなども含めて、
あくまでゆったりと優雅に構築してゆく。個人的には、女性ヴォーカルの美しさを活かした部分がもっと欲しい。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 優美度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Laura Piazzai & Clive Nolan 「From The Outside In」
イタリア人女性シンガー、ローラ・ピアッツァイとクライブ・ノーランのユニット。2019年作
ARENAやPENDRAGONのシンセ奏者、クライブ・ノーランがまた新たに女性シンガーとのコラボを制作。
STRANGERS ON A TRAINをはじめとして、過去のバンドやプロジェクトの楽曲をリメイクした内容で、
美麗なシンセワークに伸びやかでハスキーな女性ヴォーカルを乗せた、シンフォニックなサウンド。
ローラ嬢の歌声は、トレイシー・ヒッチングスに比べるとフェミニンな魅力はさほどないのだが、
力強くエモーショナルに歌い上げる。楽曲は、3〜5分前後が中心で、キャッチーな歌ものが多いが、
彼女のヴォーカルがたっぷりと味わえるので、女性声シンフォ好きならチェックしてはいかが。
メロディック度・・8 プログレ度・・7 女性Vo度・・8 総合・・8
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Mark Kelly's Marathon
イギリスのミュージシャン、マーク・ケリーによるプロジェクト、マラソンの2020年作
MARILLIONのシンセ奏者としても活躍するミュージシャン。本作は「コミュニケーションの断絶」をテーマに、
MOSTLY AUTUMNのドラムや、WATERCOLOURSというバンドで活躍するマークの甥であるベースが参加。
メロウなギターに美しいシンセが重なり、かすれた味わいのヴォーカルとともに、ゆったりとした叙情に包まれた
メロディックロックを展開する。キャッチーな感触と、しっとりとした繊細さが同居したサウンドは、IT BITTES
MARILLIONの中間という雰囲気で、全体的に歌もの主体ながら、後半は4部構成の15分の組曲で、
コンセプト的なドラマ性を感じさせる、叙情豊かなシンフォニックロックとしても楽しめる。
メロディック度・・8 プログレ度・・7 優美な叙情度・・8 総合・・8
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John Hackett 「Another Life」
イギリスのミュージシャン、ジョン・ハケットの2015年作
スティーブ・ハケットの弟で、フルート奏者としても知られるミュージシャン。本作ではベースとヴォーカルも担当。
ニック・マグナスがシンセで、兄のスティーブ・ハケットもギターで参加しているて、やわらかなシンセアレンジに
アコースティックを含むギター、マイルドなヴォーカルとフルートも鳴り響き、繊細な叙情に包まれたサウンドを聴かせる。
スティーブ・ハケットのメロウなギターの旋律とともに、ジョン・ハケットのジェントルな歌声も優しく耳心地が良い
3〜5分前後の小曲を主体に、キャッチーなメロディアス性と、Marillionなどにも通じる、しっとりとした歌ものナンバーで
トータルな流れも感じさせる。アンソニー・フィリップスがゲスト参加した、12弦ギターの典雅な響きにもウットリです。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 優美で繊細度・・9 総合・・8
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TILION 「SUITES RITROVATE」
イタリアのプログレバンド、ティリオンの2019年作
1999年にデビュー、本作は3作目。21分、27分という2つの大曲をメインにした構成で、
オルガンなどのヴィンテージなシンセにほどよくハードなギター、イタリア語のヴォーカルとともに、
先の読めない混沌とした空気とうねりのあるアンサンブルで、濃密なプログレを展開する。
歌い上げるシアトリカルなヴォーカルに、クラシカルなピアノを含む優美なシンセワーク、
緩急ある構築センスは、イル・バレット・ディ・ブロンゾ「Ys」のようなミステリアスな雰囲気で、
これぞイタリアのプログレという世界観。さすがに、27分の組曲はなかなか長尺なのだが、
たまにはこういうコテコテな混沌系プログレを聴きたくなる…という方も多いだろう。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 イタリア度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Semiramis 「Frazz Live」
イタリアのプログレバンド、セミラミスのライブ作品。2017年作
1973年作「DEDICATO A FRAZZ」を完全再現した、2017年にジェノヴァで行われたライブをCD+DVDに収録。
かつてのオリジナルメンバー3人を含む、ツインキーボードの6人編成で、やわらかなシンセに叙情的なギター、
イタリア語の味わいのあるヴォーカルとともに、「フラッツに捧ぐ」の翳りを帯びたサウンドと世界観が再現される。
新加入のヴィト・アルディトの歌声も非常にマッチしていて、厚みのあるインストパートとの緩急ある展開で、
妖しくシアトリカルな古き良きイタリアンプログレを構築する。往年以上の躍動感のある演奏が素晴らしい。
ライブは70分ほどで、CDのボーナストラックにスタジオライブの新曲を収録。DVDにはインタビューが収録されている。
なお本作公演後、シンセのマウリツィオ・ザッリーロが急逝したことから、本作が最後のステージ映像となった。
ライブ演奏・・8 フラッツ再現度・・8 イタリアンプログ度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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CORPO 「III」
イタリアのプログレバンド、コルポの2020年作
70年代に活動していたバンドの復活作で、1979年に録音された「I & II」に続き、本作は完全新作となる。
優美なピアノにシンセ、トロンボーンが鳴り響く、優雅なクラシカル性と、軽やかなマリンバの音色に、
ロックギターが重なってゆく、エキセントリックな味わいのチェンバーロック寄りのサウンドを聴かせる。
オペラティックなソプラノ女性ヴォーカルが加わると、OPUS AVANTRAのような雰囲気にもなったり、
ほどよいアヴァンギャルド性や、ジャズロック的な軽妙なパートなどもあり、先の読めない面白さがある。
2〜4分前後のインストナンバーを主体に、全33分。ボリューム的に物足りなさはあるが、不思議な味わいの好作品。
クラシカル度・・8 プログレ度・・8 優雅度・・8 総合・・7.5
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I MODIUM 「L'ANNO DEL CONTATTO」
イタリアのプログレバンド、アイ・モディウムの2019年作
オルガンなどを含むヴィンテージなシンセを軽快なリズムに乗せ、イタリア語のマイルドなヴォーカルとともに
優雅でキャッチーなサウンドを描く。叙情的なギターの旋律にやわらかなシンセを重ねたシンフォプログレ感触と
ポップ寄りの歌もの感が同居した、じつにやわらかな聴き心地。カンタウトゥーレのような表現力ある歌声と、
牧歌的な哀愁も含んだ味わいで、ゆったりと楽しめる。楽曲は3〜5分前後と比較的コンパクト、
プログレ的な派手さは控えめながら、ジェントルなヴォーカルにシンセとギターのバランスも見事。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 イタリア度・・8 総合・・8
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District 97「Screenplay」
アメリカのプログレバンド、ディストリクト97のライブ。2021年作
2019年、オランダでのライブを収録した2枚組。Disc1は、2019年作「Screens」を完全再現、Disc2には、新曲のスタジオ音源と、
2010〜2019年までの過去のライブから、YESやKING CRIMSON、GENESIS、U.K.などをカヴァーした音源を収録。
手数の多いドラムにほどよくハードギターと優美なシンセ、女性ヴォーカルの歌声を乗せて、テクニカルな展開力とともに
スタイリッシュなハードプログレを聴かせる。アルバム盤に比べるとリラックスした演奏で、ライブらしいグルーヴも感じさせ、
優雅なアンサンブルにはバンドとしての演奏力の高さが窺える。Disc2前半は、2013〜2019年のライブ音源などで、
過去のメンバーを含む演奏を、じっくりと楽しめる。後半はカヴァー曲演奏で、レスリー嬢のハスキーな歌声が似合う、
ジェネシス「Back In N.Y.C.」や、イエス「遥かなる思い出」などもなかなか良い感じで、キング・クリムゾン「レッド」や、
故ジョン・ウェットンを迎えての、「21世紀の精神異常者」も収録。オールドなプログレフアンも楽しめるライブ作品です。
ライブ演奏・・8 プログレ度・・8 女性Vo度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Tom Doncourt And Mattias Olsson's Cathedral
トム・ドンコート・アンド・マティアス・オルソンズ・カテドラルの2020年作
アメリカのプログレバンド、CATHEDRALのトム・ドンコートとスウェーデンのミュージシャン、マティアス・オルソンのコラボ作。
1976年に傑作「STAINED GLASS STORIES」を残し、CATHEDRALは解散するも、2007年に復活作「THE BRIDGE」を完成させる。
Anglagardのドラマーでもある、マティアス・オルソンは、元々、カテドラルのファンであったことから、本作でのコラボが実現。
メロトロン、ムーグ、ハモンドオルガンなどのヴィンテージなシンセに、マティアスのギターとドラムが躍動的に絡み、
翳りを帯びた空気に包まれた、Necromonkeyにも通じるエクスペリメンタルな空間系プログレというべき世界を構築。
インストを主体に、10分を超える大曲2曲に、小曲による全35分という構成で、12分の大曲ではマイルドなヴォーカルも乗せて
涼やかな叙情とともに、クリムゾン的なミステリアスなサウンドを描く。なお、トム・ドンコートは2019年に死去し、本作は彼の遺作となった。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 空間構築度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Isobar
アメリカのプログレバンド、アイソバーの2020年作
ソロでも活躍するマルコム・スミスを含むMetaphorのメンバーを中心に、ドラムに元Anglagadのマティアス・オルソンが参加、
ハケットのような叙情的なギターにメロトロンが重なり、軽やかなドラムとともにインストによる優雅なシンフォプログレを展開。
トランペットやサックスの音色が加わると、Isildurs Baneのような雰囲気にもなったりしつつ、変拍子などの細かなリズムも含め
アンサンブル主体の知的でスタイリッシュなプログレが楽しめる。優美なピアノにメロトロンが重なる繊細さと、
いくぶん偏屈な展開力が同居していて、「玄人好みのシンフォニックロック」としてのスリリングな心地よさが見事。
巧みな演奏力とともに、クールな涼やかさでオールインストのプログレを構築する、全65分の傑作だ。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・8 構築度・・9 総合・・8
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The Devil's Staircase
スウェーデン&メキシコのプログレユニット、デヴィルズ・ステアケースの2020年作
Anglagardのドラマーで、Necromonkeyなどで活躍するマティアス・オルソンとSonus Umbraのメンバーによるユニットで、
繊細なアコースティックギターから、ハードでメロウなギターの旋律にエフェクトを加えたサックスが鳴り響き、
ときにエレクトロなアレンジも加えた、インストによるハードプログレを聴かせる。マティアス・オルソンのドラムを主体にした
軽やかなアンサンブルに、ときにメロトロンの音色も加わったミステリアスなシンフォ風味も覗かせつつ、
10分を超える大曲を中心に、スタイリッシュなサウンドを構築する。スペイシーなシンセを乗せたナンバーなども
優雅な聴き心地で、エレクトロとアナログの自然な融合がなされている。新感覚のインスト系ハードシンフォの逸品。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・8 優雅度・・8 総合・・8
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FERNANDO PERDOMO 「The Crimson Guitar」
アメリカのミュージシャン、フェルナンド・ペルドモの2019年作
Dreaming In StereoやShelter Skelterなどで活躍するギタリストで、ソロ作品「Out to Sea」1〜3はインストシンフォの傑作である。
本作は、KING CRIMSONの楽曲をアコースティックギターでカヴァーしたアルバムで、小曲を主体にした全25分の作品。
「I Talk To The Wind」や「STARLESS」などの印象的なメロディのナンバーはアコギとの相性も良く、ゆったりと楽しめる。
当然ながら、すべてアコギ一本の演奏なので、ロック色はほぼ皆無。聞き覚えのあるフレーズがさほどない曲に関しては、
単なる短めのアコースティック演奏という感じなので、プログレとして鑑賞するような作品ではないでしょう。
アコギ度・・9 プログレ度・・6 ロック度・・1 総合・・7 過去作のレビューはこちら
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Farpoint 「Paint the Dark」
アメリカのプログレバンド、ファーポイントの2014年作
2002年にデビューし、本作は6作目。アコースティックを含む優美なギターにシンセを重ね、
男女ヴォーカルの歌声を乗せた、フォーク要素も含んだ牧歌的なシンフォニックロックを聴かせる。
メロウなギターの旋律とオルガンなどを含むやわらかなシンセ、美しい女性ヴォーカルの歌声に、
ときにヴァイオリンやフルートも加わって、英国のSOLSTICEなどに通じる雰囲気も覗かせる。
12分の大曲では、叙情的なギターとシンセに男女ヴォーカル、フルートの音色とともに、
優雅で軽やかなシンフォプログレを聴かせる。派手なインパクトはないが優しい好作品です。
シンフォニック度・・8 プログレ度・・7 優美度・・8 総合・・7.5
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11/5
晩秋の北欧プログレ(296)


RIKARD SJOBLOM'S GUNGFLY 「Alone Together」
スウェーデンのミュージシャン、リカルド・ショーブロムのプロジェクト、ギャングフライの2020年作
BEARDFISH、現在はBIG BIG TRIANのメンバーでもある。本作はのっけから13分という大曲で、
オールドなギターにオルガンなどのシンセとマイルドなヴォーカルで、キャッチーなサウンドを聴かせる。
叙情的なギターの旋律にヴィンテージなオルガンが重なる、70年代ルーツのロックスタイルに、
軽妙なリズムチェンジなどのプログレ要素が合わさった、かつてのBEARDFISHを継承する作風。
15分近い大曲も、わりとユルめのキャッチーなヴィンテージロックという趣から、優美なピアノの旋律に
泣きのギターフレーズが重なると、シンフォニックロックとしての盛り上がりも見せる。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 ヴィンテージ度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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MARCO BERNARD & KIMMO PORSTI 「La Tierra」
フィンランドのミュージシャン、マルコ・ベルナルドとキンモ・ポルスティによる2020年作
Samurai of Progでも活躍する二人のユニットで、この名義としては「GULLIVER」に続く2作目。
地球をテーマにした雄大なシンフォニックロックで、やわらかなシンセにピアノ、ヴァイオリンも鳴り響き、
女性ヴォーカルの歌声を乗せた1曲目から、優雅でキャッチーなシンフォプログレに浸ることができる。
LATTE E MIELEのオリヴィエロ・ラカニータ、Senogulのエドゥアルド・サルエナ、 Mad Crayonのアレッサンドロ・ディ・ベネデティ
ション・ハケット、Jinetes Negrosのオクタヴィオ・スタンパリアなど、多数のゲストが参加。ラストは30分を超える大曲で、
元ENTRANCEのハイメ・ロサスのきらびやかなシンセに、ハイメ・スカルペオの歌声を乗せて優美な叙情に包まれる。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 優美度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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The Outer Sonics 「Dance A Little Light」
フィンランドのプログレバンド、アウター・ソニックスの2020年作
2016年にデビューし3作目となる。メロウなギターにコケティッシュな女性ヴォーカルを乗せて
北欧らしい翳りとキャッチーな叙情に包まれた、Paatosなどにも通じるサウンドを聴かせる。
ほどよいハードさを含んだギターワークに、オルガンなどを含むうるさすぎないシンセアレンジで、
あくまで女性声を主体にした、やわらかなメロディックロック的な作風でゆったりと楽しめる。
プログレ的な展開はあまりないので物足りなさはあるが、すっきり優美に仕上げた好作品です。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 女性Vo度・・8 総合・・7.5 過去作のレビューはこちら
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FATAL FUSION 「DISSONANT MINDS」
ノルウェーのプログレバンド、フェイタル・フュージョンの2020年作
2010年にデビューし、4作目となる。オルガンを含むシンセにほどよくハードなギターを重ね、
かすれた味わいのヴォーカルとともに、70年代英国ルーツのヴィンテージなサウンドを聴かせる。
叙情的なギターの旋律なども、アナログ感に包まれたオールドロックの空気感に包まれていて、
これという派手さはないのだが、安心できる耳心地の良さ。14分、16分という大曲をメインに、
インストによる小曲などもアクセントになっていて、ラストの大曲はキャッチーな叙情性と、
ヴィンテージなプログレ感が融合したサウンドをじっくりと楽しめる。大人の好作品。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 ヴィンテージ度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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MEER 「PLAYING HOUSE」
ノルウェーのポストプログレ、ミーアの2021年作
やわらかなピアノに艶やかなヴァイオリン、美しい女性ヴォーカルの歌声に男性声が絡む、
優美で繊細なシンフォニックロックを聴かせる。基本はゆったりとした歌もの的な感触だが、
ときにリズムチェンジを含むプログレ的な展開力も覗かせる。北欧らしい涼やかな空気感と、
翳りを含んだ繊細な叙情美に包まれるところは、Opium Cartelなどにも通じる作風だろう。
楽曲も4〜6分前後と長すぎず、ストリングスとともに美しく盛り上がるところも良いですね。
キャッチーな聴きやすさと、男女声によるしっとりとした優美さが合わさった好作品。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 優美で繊細度・・9 総合・・8
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Ring Van Mobius 「The 3rd Majesty」
ノルウェーのプログレバンド、リング・ヴァン・モビウスの2020年作
2018年にデビュー、2作目となる。ギターレスのトリオ編成で、のっけから22分という長さの組曲で、
オルガンを含むヴィンテージなシンセをかき鳴らす、EL&Pばりのキーボードプログレを展開。
ハモンドオルガンの音色も本物なので、いかにもアナログ感に包まれたサウンドが楽しめ。
ときおり加わるマイルドなヴォーカルも、どことなくグレッグ・レイク風だったりしてニヤリとする。
後半にも、11分、9分という大曲が続き、ほどよい妖しさとユルさも含んだ世界観とともに、
オルガンたっぶりの鍵盤プログレが味わえる。ヴィンテージなシンセが好きな方は必聴です。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 ヴィンテージ度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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WESERBERGLAND 「Am Ende Der Welt」
ノルウェーのプログレバンド、ウェザーベルグランドの2020年作
WHITE WILLOWのケティル・ヴェストラム・エイナーセンを中心にしたバンドで、2017年にデビュー。
本作は2作目で、42分の大曲1曲という構成の作品。優美なピアノにヴァイオリンが鳴り響き、
エフェクトのかかったドラムがデジタルに加わった、異色のアンビエント・プログレサウンドを聴かせる。
MOLESOMこと、マティアス・オルソンがターンテーブルとして参加し、独自のセンスでサウンドを彩っている。
単なるテクノとも違い、北欧らしい涼やかさな空気を感じさせつつ、ギターやドラムによるロック色も残しているのが
なかなか絶妙で、後半以降のアヴァンギャルドな混沌も含めて、新時代のプログレのひとつの形を提示している。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・8 北欧度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Airbag 「Identity」
ノルウェーのポストプログレ、エアバッグの2009年作
いまや北欧系の叙情派ポストプログレとしては、Gazpachoと並ぶバンドといってよいだろう。そのデビュー作。
うっすらとしたシンセにメロウな泣きのギターを重ねて、翳りを帯びた繊細な叙情を描くサウンド。
美しいシンセアレンジと扇情的なギターのフレーズは、シンフォニックといってもよい耳心地で、
やわらかなヴォーカルを加えた優美な感触は、SYLVANあたりのファンにも楽しめるだろう。
1作目にして、すでに世界観は完成されていて、デイブ・ギルモアのごとき甘美なギターと
シンセアレンジの美しさで、PINK FLOYDルーツのシンフォプログレとしても見事な出来である。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 叙情度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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MIKLAGARD 「Edge」
スウェーデンのフログレバンド、ミクラガルドの1979年作
名前は知っていたが、ずっと聴けなかった北欧プログレバンドの唯一の作品が、2020年についにCD化された。
ギターレスのキーボードトリオで、オルガンを含むやわらかなシンセに母国語のマイルドなヴォーカルを乗せて
THE NICEにも通じる優雅でキャッチーなサウンドを描く。リズム面や歌声も良く言えば牧歌的で、
野暮ったく垢抜けないマイナー感が漂っているが、そこも含めて微笑ましく楽しめるユルさがある。
ふわふわとした幻想性に、コミカルな雰囲気も覗かせつつ、オルガンやエレピ、ムーグシンセが、
やわらかなサウンドを彩ってゆく。ラストは13分の大曲で、ドラムソロのパートなども入りつつ、
やっぱりユルめに構築される、北欧らしい味わいの「なごみ系鍵盤ロック」というべき作品です。
ドラマティック度 プログレ度・・7 キーボー度・・8 総合・・7.5
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SECRET OYSTER 「VIDUNDERLIGE KAELLING」
デンマークのプログレ・ジャズロック、シークレット・オイスターの1975年作
1973年にデビュー、1976年までに4作を残したバンドで、本作は3作目でバンドの代表作。
やわらかなピアノとシンセにサックスの音色を乗せた涼やかなイントロナンバーから、
叙情的なギターの旋律に優美なエレピとシンセを重ねた、北欧シンフォ的な優雅さに包まれる。
ジャズロックとしての軽妙なアンサンブルとともに、シンセとサックスが活躍する、プログレ的なインストサウンドが味わえて
ときに中近東的な旋律も含んだサイケ・ジャズロック的な雰囲気もある。北欧らしい涼やかな聴き心地の逸品です。
「LASER'S EDGE」レーベルからリマスター再発されたことからも、本作はプログレ寄りの評価が高かったことを示している。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・8 優雅度・・8 総合・・8
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Hans Lundin 「House」
スウェーデンのシンセ奏者、ハンス・ルンディンの1989年作
KAIPAのメンバーとしても知られるキーボーディストで、本作はソロとしては3作目のアルバム。
やわらかなシンセワークをメインにした優美なサウンドで、キャッチーなシンセのメロディとともに、
ドラムが入るのでわりとロック色も感じさせる。80年代らしいAOR風味のビート感も覗かせつつ、
ロイネ・ストルトがゲスト参加して甘美なギターを聴かせるナンバーや、13分という大曲もあったり、
なかなかバラエティに富んでいる。メロディのフックがしっかりあるので、自己満足的なところはなく、
ほぼオールインストであるがとても聴きやすい。KAIPAとはまた違うシンセが楽しめる好作品です。
メロディック度・・8 プログレ度・・7 優美度・・8 総合・・8
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SCENARIO 「Alter ego」
スウェーデンのプログレバンド、シナリオの1999年作
イタリアにも同名のProgMetalバンドがいたが、こちらは同名の異なるバンド。CD-R仕様の自主制作。
35分という長大なタイトル組曲を含む構成で、優美なシンセワークにいくぶんハードなギター、
マイルドなヴォーカルを乗せて、緩急ある展開力のドラマティックなサウンドを聴かせる。
キャッチーな歌メロとシンフォニックなシンセアレンジ、ときにアコースティックを含む叙情性など、
全体的にも優雅な聴き心地で、MAGELLANなどのハードシンフォ系プログレが好きな方にも楽しめるだろう。
スケールの大きな世界観を描くポテンシャルは感じるので、本作のみで消えたのが惜しまれる。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 叙情度・・8 総合・・7.5


FINNFOREST「神秘の森」
フィンランドのプログレバンド、フィンフォレストの1996年作
1975年作「Finnforest」 と、 1976年作「Lahto Matkalle」をカップリングして「LASER'S EDGE」レーベルがCD化したもの。
オルガンやエレピを含むやわらかなシンセに叙情的なギターを重ね、まさにフィンランドの森を思わせるような、
涼やかなサウンドを聴かせる。土着的なギターの旋律とともに、ジャズロック的な軽やかなアンサンブルもあって、
優雅なインストプログレとして楽しめる。1976年の2作目の方は、いくぶんジャズロック色が強まっていて、
エレピの旋律とともにインプロ的なフリーキーな味わいもある。後半は2パートに分かれた20分近い大曲で、
軽快なアンサンブルとしっとりとした叙情が同居した、シンフォ・ジャズロックというサウンドが味わえる。
オールインストであるが、じつに北欧らしい逸品である。ちなみにバンドは1979年に3作目を残して消える。
ドラマティック度・・7 北欧度・・8 優雅度・・9 総合・・8
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Violet District 「Terminal Breath」
ドイツのプログレバンド、ヴァイオレット・ディストリクトの1992/2000年作
RPWLの前身として知られるバンドの唯一の作品で、ボーナスDiscに1996年のライブを収録した2CD再発盤。
きらびやかなシンセと叙情的なギターに、ややクセのあるヴォーカルを乗せて、GENESISルーツ、
ポンプロック経由のシンフォニックロックを聴かせる。90年代を通過したほどよいハードさとともに、
ARENAなどにも通じるスタイリッシュなモダンさも覗かせて、インストパートでの知的な構築力などには、
のちのRPWLにもつながるようなセンスの良さが垣間見えて、いま聴き直しても古臭さを感じない。
Disc2のライブ音源も音質良好で、バンドとしての演奏力の高さが改めて再確認できる。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 叙情度・・8 総合・・8
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Apogee 「The Border of Awareness」
ドイツのプログレバンド、アポジーの1995年作
Versus Xのシンガーによるプロジェクトで、やわらかなシンセに適度にハードなギター、
マイルドなヴォーカルを乗せた、シアトリカルな雰囲気のシンフォニックロックを構築する。
10分前後の大曲を主体に、ドラマティックな展開力でじっくりと聴かせるスタイルで、
どうしても長尺な感じは否めないのだが、優雅な空気に包まれた味わいで楽しめる。
明快な盛り上がりがもう少し欲しいか。ラストは24分におよぶ大曲で、全75分の力作。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 優雅度・・8 総合・・7
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BAKU 「Sequences Of My Bequest」
ドイツのプログレバンド、バクの1991年作
叙情的なギターにうっすらとしたシンセを重ね、いくぶんクセのあるヴォーカルを乗せた、牧歌的なサウンドで、
オールドロック的なナンバーやフォーク風味のアコースティック性など、全体的にプログレというよりは、
もっと素朴なメロディックロックという趣。楽曲的にはこれという盛り上がりはさほどないが、
アルバム後半にはシンフォニックロック風のドラマ性も覗かせる。いろいろな意味でB級の味わい。
バンドは本作発表ののち、1994年に2作目「Dirge On The Pyre」を残して消える。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 牧歌的度・・8 総合・・7



10/16
10月のプログレ(280)


I Am the Manic Whale 「Things Unseen」
イギリスのプログレバンド、アイ・アム・ザ・マニック・ホエールの2020年作
2015年にデビューし、本作は3作目となる。オルガンやムーグシンセなどのヴィンテージな味わいと、
優雅で軽やかなアンサンブルに、伸びやかなヴォーカルで聴かせる、キャッチーなプログレサウンド。
叙情的なギターのフレーズと爽やかなヴォーカルメロディは、ときにMOON SAFARIなどにも通じる感触で、
変拍子を含んだほどよくテクニカルな展開力も含めて、19分という大曲でも濃密になり過ぎないところが魅力だろう。
一方では、ハード寄りのギターを乗せたモダンなスタイリッシュ性も覗かせ、単なるヴィンテージ系にはならないセンスも光る。
やわらかなフルートやメロトロンなど、オールドなプログレ感触を残しつつ、絶妙なバランスで再構築したというべき傑作である。
メロディック度・・8 プログレ度・・8 優雅で軽妙度・・9 総合・・8.5 過去作のレビューはこちら
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ESP Project「PHENOMENA」
イギリスのプログレユニット、ESPプロジェクトの2020年作
BRAM STORKERのトニー・ロウを中心にしたプロジェクトの4作目で、オルガンを含むやわらかなシンセに
メロウな泣きのギターとマイルドなヴォーカルを乗せて、英国的な叙情に包まれたサウンドを描く。
ゆったりとした浮遊感の中にも、往年のプログレハード的でもある爽快でキャッチーな感触があって、
70年代ルーツのシンフォニックロックとしても楽しめる。スペイシーできらびやかなシンセをバックに、
前作から参加する、ダミアン・チャイルドの歌声も、ウェットなサウンドによくマッチしている。
シンフォニックで優雅な叙情美という点では、過去最高の出来に仕上がっているだろう。
メロディック度・・8 プログレ度・・7 優雅な叙情度・・9 総合・・8.5 過去作のレビューはこちら
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IO EARTH 「NEW WORLD」
イギリスのシンフォニックロック、アイオー・アースの2015年作
2009年にデビュー、3作目となる本作はCD2枚組の大作で、本作では女性シンガーが交替している。
ほどよくハードなギターに美麗なシンセを重ね、やわらかな女性ヴォーカルの歌声を乗せた、
優雅なシンフォニックロックを聴かせる。オーケストラルなアレンジが加わった壮麗な感触に、
フルートの音色が繊細な叙情を描きつつ、紅一点、リンダ嬢のなよやかな歌声が優美に響き渡る。
随所にメロウなギターの旋律も耳心地よく、アコースティックギターやマンドリンを用いたパートなど、
過去2作に比べて、メリハリある構築力で、シンフォニックロックとしてよりダイナミックな仕上がりになった。
Disc1に比べて、Disc2の方はいくぶんダークでヘヴィな味わいなので、個人的には1枚目の路線で希望したい。
シンフォニック度・・8 優美度・・9 女性Vo度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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IO EARTH 「SOLITUDE」
イギリスのシンフォニックロック、アイオー・アースの2018年作
4作目の本作では、再び女性シンガーが交替している。うっすらとしたシンセに美しい女性ヴォーカルを乗せた
アンニュイな雰囲気に、ハードなギターとオーケストラルなアレンジを重ねた、壮麗なサウンドが広がってゆく。
新加入のロザンナ嬢の歌声は、物憂げな翳りを帯びていて、ゴシック寄りの女性声ハードシンフォとしても楽しめる。
叙情的な泣きのギターがしっとりとしたサウンドに彩りを与えながら、10分前後の大曲を、じわじわと盛り上げてゆく。
クラシカルなピアノや物悲しいチェロやヴァイオリンの響きに、ときにほどよくモダンなアレンジも取り入れつつ、
シンフォニックな優雅さとアンニュイな薄暗さが合わさった、女性声シンフォを聴かせる。全72分という力作です。
シンフォニック度・・8 翳りと叙情度・・9 女性Vo度・・8 総合・・8
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PANIC ROOM 「SCREENS: LIVE IN LONDON」
イギリスの女性声メロディックロック、パニック・ルームのライブ。2017年作
2008年にデビュー、2015年までに5作のアルバムを発表。本作は2016年ロンドンでのライブを2CDに収録。
ギターにフルートもこなす、アン・マリー・ヘルダーをフロントに、その美しいヴォーカルをメインにした、
アンニュイな翳りを帯びたサウンドを聴かせる。シンフォニックというほどの華麗さはないものの、
随所に叙情的なフレーズを奏でるギターと優美なシンセワーク、そして躍動感あるアンサンブルで、
スタジオ盤以上にロック感のある演奏が味わえる。プログレ的な展開というのはさほどなく、
わりとシンプルな歌ものナンバーが多いので、シンフォ寄りの女性声ロックとして聴くのがよいかも。
ライブ演奏・・8 翳りと叙情度・・8 女性Vo度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Dyonisis 「Intoxicated」
イギリスの女性声ロック、ディオニシスの2010年作
ほどよくハードなギターにうっすらとしたシンセを重ね、2人の女性ヴォーカルがしっとりと歌声を乗せる優美なサウンド。
ドラムは打ち込みらしく、ギターもさほど前に出ないので、全体的にアンビエントな浮遊感に包まれた聴き心地。
シンフォニックロックとしてはインパクトはさほどないが、クラシカルなピアノをバックに、優しい女性ヴォーカルで
ゆったりと聴かせるナンバーなどにはウットリとなる。ゴシックロック的なメランコリックな空気感もあるので、
倦怠系の女性声ロックが好きならばわりと楽しめるだろう。CDR仕様の自主制作作品。
ドラマティック度・・7 優美度・・8 女性Vo度・・8 総合・・7.5
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COSMOGRAF 「Man Left in Space」
イギリスのミュージシャン、ロビン・アームストロングのプロジェクト、コスモグラフの2013年作
2009年にデビューし、3作目となる。適度にハードなギターにシンセを重ねた重厚なサウンドに、
マイルドなヴォーカルを乗せた、モダンな味わいのシンフォニックロックを聴かせる。
メロウな叙情を奏でるギターに美麗なシンセアレンジが合わり、スペイシーなスケール感と
翳りを帯びた雰囲気に包まれる。楽曲ごとはわりと淡々としていて、キャッチーなフックはさほどないが、
ラスト2曲は、9分の大曲になっていて、ゆったりとした中に泣きのギターの旋律と美しいシンセが映える。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 重厚度・・7 総合・・7.5 過去作のレビューはこちら
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OZRIC TENTACLES 「SUNRISE FESTIVAL」
イギリスのサイケプログレ、オズリック・デンタクルズのライブ。2008年作
2007年イギリスでのライブをCD+DVDに収録。スペイシーなシンセに巧みなギターを重ね、
ほどよくアッパーなアンサンブルで、オズテンらしいグルーヴィなサイケロックを展開。
かつての傑作からの大曲「Jurassic Shift」や、「Erpland」などのオールドなナンバーも取り入れつつ
ドラッギーなカラフルさの中にも、ベテランらしさを感じさせる味のある演奏が楽しめる。
ノリよいドラムと女性ベーシストを中心にした、しなやかなリズムとグルーブ、そして奔放に奏でられるギターが、
このバンドの生命線。ラストの大曲「Tidal Convergence」も、1990年作「Erpland」からのナンバーで、
昔からのファンにも嬉しい選曲だろう。DVDの映像の方も、いかにもサイケらしいステージが楽しめます。
ライブ演奏・・8 ライブ映像・・8 グルーヴ度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Finisterre 「XXV」
イタリアのプログレバンド、フィニステッレの2019年作
1995年にデビュー、いまやイタリアン・ネオプログレを代表するバンドで、本作はバンドの25周年を記念して
そのデビュー作を再録した作品。優美なピアノにやわらかなフルートの音色を乗せた軽やかなアンサンブルに、
叙情的なギターとヴィンテージなシンセを重ねた優雅なサウンドで、クラシカルなピアノの旋律を挿入するなど、
16分の大曲などもメリハリある構築力とともに、イタリアらしい芸術的な展開美でじっくりと楽しめる。
うっすらとしたメロトロンをバックにフルートが鳴り響く叙情などには、往年のプログレファンもニンマリだろう。
古き良きイタリアンプログレの繊細な叙情美と翳りを詰め込んだ、香り立つような味わいの逸品に仕上がっている。
クラシカル度・・8 プログレ度・・8 優雅度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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LE ORME 「Classic Orme」
イタリアのプログレバンド、レ・オルメの2017年作
1969年デビュー、イタリアンロックを代表とするバンドのひとつ。本作はバンドの過去曲をクラシックアレンジした作品。
ヴァイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスの弦楽器にたおやかなピアノを加えた、しっとりと優美なサウンドで、
オペラティックな男女ヴォーカルの歌声を乗せた、じつに優雅な聴き心地。曲によってはシンセやドラムも加わる。
「包帯の男」をはじめ、70年代からのナンバーを中心に、再結成後の2000年以降のアルバムからも選ばれていて、
どの曲もクラシックなシンフォニーとして違和感ない仕上がり。ストリングスをメインにトロンボーンやフルートなども加えた、
優雅なインストパートと、美しいソプラノ女性ヴォーカルと男性声が絡む、オペラのアリアのような華麗さが同居して、
ロック色は薄いもののドラマティックな高揚感がある。SAGRADOのマルクス・ヴィアナがヴァイオリンでゲスト参加。
クラシカル度・・10 プログレ度・・7 優雅度・・10 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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LE ORME 「SULLE ALI DI UN SOGNO」
イタリアのプログレバンド、レ・オルメの2019年作
本作は、過去曲のセルフカヴァーに2曲の新曲を追加した企画アルバムで、アコースティックギターのつまびきに
ゲスト参加のデヴィッド・クロスによるヴァイオリンの音色が絡み、ゆったりとした優美なサウンドを描く。
女性ヴォーカルを乗せたナンバーや、「クラシックオルメ」にも参加したオペラティックなテノールが映えるナンバーなど、
アコースティックやクラシカルなアレンジとともに、70年代の楽曲を再構築。楽曲は、3〜4分前後が主体で、
プログレ感はさほどないが、オルガン入りのキャッチーなロック感触もあったりと、肩の力を抜いて楽しめる。
オリジナルメンバーは、ドラムのミッキ・デイ・ロッシのみであるが、バンドの今後の活動に期待したい。
クラシカル度・・8 プログレ度・・7 優雅度・・8 総合・・7.5
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Fabio Ranghiero「Water」
イタリアのミュージシャン、ファビオ・ラングヒエロの2014年作
やわらかなシンセワークを主体に、優美なピアノにフルート、ときにマイルドなヴォーカルを乗せ、
ヴァイオリンやチェロなども加えたクラシカルな優雅さに包まれる、繊細なシンフォニックロック。
アコースティックギターにシンセとストリングスを重ね、ゆったりとした叙情美を描くところは、
MIKE OLDFIELDあたりにも通じる、自然派の優しい耳心地で、優しいフルートの音色にもウットリ。
一方では、エレクトロなアレンジのROXY MUSIC風のナンバーも、うっすらとしたシンセが包み込む
あくまで美麗なサウンドを描いてゆく。ラストはクラシカルなピアノの旋律で、しっとりと幕を閉じる。
クラシカル度・・8 プログレ度・・7 優雅で繊細度・・9 総合・・8
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QUASAR LUX SYMPHONIAE 「Enlightening March Of The Argonauts」
イタリアのプログレバンド、クエーサー・ラックス・シンフォニアの1997年作
前身であるQUASARの結成は、70年代にまでさかのぼるが、QLSとしてのデビューは1994年で、本作は2作目となる。
やわらかなシンセにメロウなギター、エモーショナルなヴォーカルを乗せた、優美なシンフォニックロックを聴かせる。
90年代特有のくぐもったような空気感に、クラシカルなピアノの響きなどにロマンの香りをまとわせて、
ほどよくマイナーな味わいも含めて、これぞシンフォプログレである。クセのある歌声がやや好みを分けるが、
美しい女性ヴォーカルが加わったナンバーなどは、オペラティックな優雅さに包まれてウットリとなる。
アルバム後半には10分を超える大曲もあり、きらびやかなシンセワークから繊細なピアノパートなど、
メリハリある展開力で構築力する。まさに90年代イタリア系シンフォの底力を感じさせるような力作です。
シンフォニック度・・8 プログレ度・・7 優美度・・8 総合・・8
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VA/Echoes Of Secrets: A Pink Floyd Tribute
イタリアMELLOWレコード主催の、ピンク・フロイド・トリビュート作品。2016年作
Karda Estra、Fabio Zuffanti、Luca Scherani、TNRなど、15のアーティストが参加。
Roz Vitalisによる、「Remember A Day」(『神秘』収録)はやわらかな女性ヴォーカルに、オルガン、フルートも美しい。
Karda Estraはバンド最初期のシングル曲「It Would Be so Nice」を取り上げていて、こちらも女性ヴォーカルに
アコースティックギターの優美な聴き心地。Acoustic Floydによる、ヴァイオリン鳴り響く「Welcome To The Machine」(『炎』収録)や
Fabio Zuffantiによる、しっとりとしたアレンジの「Chapter 24」(『夜明けの口笛吹き』収録)、Pavoni/Botti(Greenwall)による「Wish You Were Here」、
Luca Scheraniによる、初期のシングル曲「See Emily Play」はサイケなシンセアレンジが秀逸で、Lila Madrigaliによる「If」(「原子心母」)なども
キュートな女性ヴォーカルが良い味わいだ。どのアーティストも原曲の浮遊感などを尊重しつつ、独自のセンスをまぶした好カヴァーで楽しめる。
参加バン度・・7 カヴァー度・・8 フロイ度・・8 総合・・8
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GRAAL 「Secrets of Now」
フランスのフォークロック、グラールの1997年作
男女2人組のユニットで、アコースティックギターやマンドリンのつまびきにシンセを重ね、
美しい女性ヴォーカルの歌声に、ホイッスルも鳴り響く、優美なフォークロック風サウンド。
エレキギターも加わったロック色もありつつ、やわらかな女性Voにジェントルな男性声も絡んで
あくまでしっとりと優雅な聴き心地。これというインパクトはないのだが、なんとなく物語的な世界観で、
吟遊詩人の奏でる音楽を楽しむような。GLAZなどが好きな方にもお薦めの、幻想的な男女声ケルトロックの好作品。
ドラマティック度・・7 ロック度・・6 女性Vo度・・8 総合・・7.5



9/18
プログレの秋(265)


GLASS HAMMER 「Chronomonaut」
アメリカのプログレバンド、グラス・ハマーの2018年作
1993年にデビュー、いまやアメリカを代表するシンフォニックロックバンドのひとつ。17作目の本作は
2000年作「CHRONOMETREE」の続編となるコンセプト作で、オルガンやムーグなどのやわらかなシンセをメインに、
流麗なギターワークと、DISCIPLINEのMatthew Parmenterらが参加し、マイルドなヴォーカルを披露している。
メロトロンなどのヴィンテージなシンセに、ときにサックスやトロボーンなどのブラスを加えたアレンジや、
美しい女性ヴォーカルの歌声とともに、ゆったりとした優雅な大人のシンフォプログレが楽しめる。
全体的にスリリングな部分は希薄ながら、ラストの10分の大曲までじっくりと鑑賞できる、全70分の力作です。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 優雅度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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GLASS HAMMER 「Dreaming City」
アメリカのプログレバンド、グラス・ハマーの2020年作
今作は、マイケル・ムアコックの小説にインスパイアされたというコンセプト作で、優雅な大人のシンフォだった前作とは変わり
いつになくハードなギターを乗せたドライブ感あるサウンドで、スペイシーなシンセワークとともにHAWKWINDにも通じる
アッパーなサイケ風味を感じさせる。マイルドなヴォーカルに、オルガンなどのシンセとロックギターのオールドな味わいで
従来のシンフォニックロック路線とはやや異なる、浮遊感のあるヴィンテージなハードプログレとしても楽しめる。
後半には女性ヴォーカルを乗せた優雅な叙情ナンバーや、JETHRO TULLのようなフルートも入ったナンバーもあり、
ラストの11分の大曲まで、物語的な流れとともに楽曲が進行。ドラマ性のあるメロディックロックという感じの好作品だ。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 優雅度・・8 総合・・8
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SUBMARINE SILENCE 「Did Swans Ever See God?」
イタリアのプログレバンド、サブマリン・サイレンスの2020年作
MOONGARDENやMANGALA VALLISのシンセ奏者、クリスティアーノ・ロベルシを擁するバンドで、2002年にデビュー、
本作は4年ぶりの4作目となる。アコースティックを含む優美なギターに、メロトロンやオルガンなどのやわらかなシンセ、
男女ヴォーカルの歌声を乗せた、初期GENESISルーツの優雅なシンフォニックロックを聴かせる。
ハケットばりの甘美な叙情を奏でるギターも素晴らしく、10分前後の大曲も緩急あるダイナミックな展開力と
ヴィンテージなプログレ感を含んだキャッチーな味わいとともに、じっくりと耳心地よいサウンドを構築してゆく。
泣きのギターとメロトロンの組み合わせはずるい。すべてのシンフォプログレ好きが満足する傑作である。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 優美度・・9 総合・・8.5 過去作のレビューはこちら
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Barock Project 「Seven Seas」
イタリアのプログレバンド、バロックプロジェクトの2019年作
若き天才の呼び声高いシンセ奏者、ルカ・ザッビーニを中心にしたバンドで、2007年にデビュー、本作は6作目となる。
スタイリッシュなアンサンブルとキャッチーなヴォーカルメロディで聴かせる、コンパクトな曲はプログレというよりは、
一聴して普通のメロディックロックなのだが、クラシカルなピアノやきらびやかなキーボードに叙情的なギターを重ねた、
シンフォニックロックの顔もしっかりと覗かせて、ほどよいハードさも加えたスタイリッシュなサウンドを描き出す。
10分前後大曲も、クラシカルなパートを盛り込んだ優雅な聴き心地で、テクニカルな部分でもコテコテ過ぎない、
クールなアレンジセンスも見事。前作の完成度に比べると、曲ごとにややバラつきはあるのだが、さすがの力作です。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 優雅度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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CELLAR NOISE 「NAUTILUS」
イタリアのプログレバンド、セラー・ノイズの2019年作
2017年にデビューし、2作目となる。硬質なギターワークとオルガンやメロトロンを含むプログレらしいシンセ、
マイルドな味わいのヴォーカルをテクニカルなドラムに乗せた、モダンでスタイリッシュなハードプログレサウンド。
ポストプログレ的な優雅な歌もの感と、メタル寄りのハードな部分、ヴィンテージなシンセによるプログレ要素が同居した
まさに新世代のボーダーレスな聴き心地で、HAKENRIVESIDEあたりが好きな若いリスナーにも楽しめるだろう。
泣きのギターによる優美な叙情を描くナンバーから、後半の12分の大曲では、シンフォニックな華麗さと
メタリックなハードさが交差して、表現力あるヴォーカルがじっくりと歌い上げてゆく。モダン派プログレの好作品。
ドラマティック度・・7 テクニカル度・・8 スタイリッシュ度・・8 総合・・8
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ANTONIO MORESCO & FABIO ZUFFANTI 「Camminare Da Solo, Di Notte 」
イタリアのアーティスト、アントニオ・モレスコとファビオ・ズッファンティのユニット。2019年作
Finisterre、Hostsonaten、 La Maschera Di Ceraなど多くのバンドで活躍する、F.ズッファンティが
作家であるモレスコの脚本にそって制作した、全1曲43分というアンビエントミュージックで、
うつすらとしたシンセの重ねをメインに、イタリア語による語りを乗せたという独自のサウンド。
打ち込みによるリズムも加えた幻想的なエレクトロミュージックは、Kraus Schulzeあたりにも通じるが、
ナレーションが延々と続くところでは、イタリア語の意味が分からないと少々退屈かもしれない。
ロック度・・0 プログレ度・・5 エレクトロ度・・8 総合・・7
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Stefano Testa 「Andrea Il Traditore」
イタリアのミュージシャン、ステファノ・テスタの2016年作
1977年に一作を残して消えるも、2012年に35年ぶりのアルバムを発表、本作はそれに続く3作目となる。
やわらかなフルートにヴァイオリンなどの優美なストリングス、イタリア語による渋みのある歌声で、
クラシカルな味わいのアコースティカルなサウンドを描きつつ、2曲めからはノリのあるビート感とともに、
エレキギターやオルガンなどによるロック/プログレ感触も現れる。1〜2分前後の小曲を挟みながら、
妖しく鳴り響くフルートやピアノ、アコーディオン、男女コーラスなどが、ときにアヴァンギャルドな芸術性をかもしだし、
カンタウトゥーレとしての表現力ある歌唱とともに、優雅な哀愁とエキセントリックな混沌が同居した異色作である。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 優雅度・・8 総合・・7.5
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Living Stilts 「Shipwreck」
イタリアのプログレバンド、リヴィング・スティルツの2014年作
シンセ奏者のルカ・マヴィリアを中心にしたプロジェクトで、艶やかなヴァイオリンとオーケストラルなイントロから、
叙情的なギターにマイルドなヴォーカルを乗せ、ゆったりとした牧歌的なシンフォニックロックを聴かせる。
SEや語りを含む小曲なども織り込んで、コンセプト的なドラマを描きながら、アコースティックギターやストリングス、
随所に女性ヴォーカルも加わり、男女Voでの優雅な味わいに包まれる。楽曲ごとの盛り上がりはさほどないので、
全体的に淡々とした印象はぬぐえず、もう少しプログレらしい展開やキャッチーなフックがあればと思う。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 優雅度・・8 総合・・7
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The Night Watch「Twilight」
イタリアのプログレバンド、ナイト・ウォッチの1997年作
The Watchの改名前のバンドで、叙情的なギターに美麗なシンセワーク、P.ガブリエル似のヴォーカルを乗せた
いかにもGENESISなサウンドは、本作の時点ですでに固まっている。というか、歌も演奏もほとんどジェネシス。
ハケットばりのメロウなギターにピアノやメロトロンを含むやわらかなシンセとともに、8〜9分の大曲を主体に、
じつに優雅なサウンドを聴かせる。ここまでくると、バンドの個性云々というよりは、GENESIS愛の詰まった作風に
ニンマリとなってしまう。それと同時に、プログレらしさを臆面もなく匂わせるアレンジのセンスもすでに充分高かった。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 GENESIS度・・9 総合・・8 The Watchのレビューはこちら
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Falling Edge「FE3」
カナダのプログレバンド、フォーリング・エッジの2018年作
2013年にデビューし、3作目となる。ドラマ性を感じさせるイントロから、アコースティックを含む叙情的なギターに
ジェントルなヴォーカルを乗せ、シンセアレンジも加えた牧歌的なメロディック・シンフォを聴かせる。
わりとハードに弾きまくるギターは、それなりにテクニックはあるのでがフレーズのセンスが凡庸で、
シンセによる味付けも添え物のよう。ヴォーカルは声が裏が得ると、P.ガブリエルっぽくなって、
シアトリカルな雰囲気もあるのだが、楽曲自体の展開にさほど魅力がなく、ドラマ性もさほどはない。
中盤からは10分を超える大曲が続くが、これという盛り上がりもない。自主制作レベルの力作というところ。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 楽曲・・6 総合・・7
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Melia「Certitudes」
カナダの女性声アンビエントプログレ、メリアの2005年作
SENSEやRED SANDで活躍するギタリストと女性Voによるユニットで、アコースティックギターのつまびきに
うっすらとしたシンセ、美しい女性ヴォーカルのフランス語の歌声で、しっとりとしたサウンドを聴かせる。
ピアノやメロトロンなどの繊細なシンセにやわらかなフルートの音色、コケティッシュな女性声とともに、
アンニュイな翳りを帯びたアンビエントシンフォとして楽しめる。曲によってはドラムやエレキギターも加わって、
All About Eveのようなキャッチーなメランコリックというべき味わいにもなるのだが、とにかくフランス語による
Claudia嬢のヴォーカルが大変キュートで魅力的なので、うっとりと優美なサウンドに聴き入れる。
メロウ度・・8 プログレ度・・7 女性Vo度・・8 総合・・8
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Stencil Forest 「The Abyss」
アメリカのプログレバンド、ステンチ・フォレストの2005年作
1983年に1作を残して消えたバンドの、22年ぶりとなる2作目。ドラム以外はかつてのオリジナルメンバーで、
プログレらしいきらびやかなシンセに適度にハードで叙情的なギター、ジェントルなヴォーカルを乗せて、
80年代YESASIAにも通じるキャッチーな爽快感に包まれたサウンドを描く。1曲目の11分の大曲は、
TRANSATLANTICばりのドラマティックな聴き心地。中盤は、4分前後の優美なプログレハードや
ゆったりとしたシンフォニックなナンバーが続き、わりとのんびりと楽しめる。ラストは24分という大曲で、
YESを思わせる優雅な展開力とメロディックな叙情をまぶした、大人のプログレサウンドを構築する。
メロディック度・・8 プログレ度・・7 優美度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Temple 8 「Enter the Temple」
アメリカのプログレバンド、テンプル8の2003年作
マルチプレイヤーのKurt Tischer氏を中心にしたユニットで、ほどよくハードでメロディックなギターに
シンセアレンジを重ね、リズムチェンジを含む展開力で、ProgMetal的でもあるサウンドを構築。
RUSHのゲディ・リーをユルくしたようなヴォーカルとともに、わりとキャッチーな聴き心地であるが、
いかんせん楽曲の魅力が足りない。プログレハードとしては、メロディのフックも物足りないし、
8〜9分の大曲もあるが、わりとリフレインの多い構成もあって、さほど盛り上がないのが残念。
煮え切らない方向性もそうだが、楽曲自体の質を上げてもらわないと、60分聴くのはつらい。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 楽曲・・6 総合・・6.5
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Praxis 「La Eternidad De Lo Efimero」
メキシコのプログレバンド、プラクシスの1988年作
ICONOCLASTAのシンセ奏者を擁するバンドで、本作が唯一の作品。きらびやかなシンセに
メロディックなギターの旋律を重ね、ほどよい疾走感のあるシンフォニックロックを聴かせる。
オールインストであるが、CASTなどにも通じる爽快なメロディと叙情性が耳心地よく、
弾きまくるキーボードがカラフルに楽曲を彩っている。ドタバタとした元気のいいドラムも含めて
陽性のインスト系シンフォプログレが楽しめる。一作のみで消えたのが惜しまれる、なかなかの出来の良さだ。
メロディック度・・8 プログレ度・・8 キーボー度・・8 総合・・7.5



9/3
9月のプログレ(251)


ANTONY KALUGIN 「MARSHMALLOW MOONDUST」
KARFAGEN、SUNCHILDなどで活躍するウクライナ出身のシンセ奏者、アントニー・カルギンの2020年作
ソロ名義としては7年ぶりとなる作品で、20分の大曲2曲という構成。メロウなギターの旋律に優美なシンセアレンジで、
ジャケのイメージのような幻想的なシンフォニックロックを展開する。スリリングな展開よりはあくまで優雅な味わいで、
基本はオールインストながら、コーラスなどが加わる部分もあったりと、キャッチーなメロディアス性にも包まれる。
後半の大曲では、甘美なギターフレーズとともに、初期のTHE FLOWER KINGSにも通じる人懐こいメロディも覗かせつつ、
ストリングスやサックス、フルートなどの管弦楽のクラシカルなアレンジも取り入れた、たおやかなサウンドをじっくりと構築する。
シンフォニック度・・8 プログレ度・・7 優雅度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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ANTONY KALUGIN 「STELLAR GARDENER」
ウクライナ出身のシンセ奏者、アントニー・カルギンの2021年作
前作に続き、20分の大曲2曲という構成で、叙情的なギターにきらびやかなシンセワークで、
インストを主体にした優雅なシンフォプログレを構築する。ほどよく緩急のある展開力に、
TRANSATLANTICにも通じる爽快なメロディとともに、前作以上にプログレらしい聴き心地。
泣きのギターフレーズはときにロイネ・ストルトを思わせ、プログレらしいシンセはクライブ・ノーランのよう。
後半の大曲もあくまで優美な叙情を描いていて、どこを切ってもシンフォプログレ好きはウットリとなる。
大曲志向のソロプロジェクトという点では、CHRISThe Black Codexシリーズのようなイメージになってきた。
あるいは、KARFAGEN「ドラゴン・アイランド組曲」に匹敵する幻想シンフォの逸品だろう。
シンフォニック度・・8 プログレ度・・8 優雅度・・9 総合・・8.5
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MOODMAN 「Man Of The New Age」
ポーランドのアーティスト、ムードマンの2019年作
うっすらとしたシンセにジェントルなヴォーカルを乗せ、翳りを帯びた繊細な叙情を描く、
ポストプログレ寄りのサウンド。やわらかなピアノにサックスが鳴り響く、大人の哀愁に包まれて、
インストパートもあくまでしっとりと優雅な聴き心地。ゲストの女性ヴォーカルを迎えての
男女Voによるナンバーなども耳心地よく、プログレというよりは薄暗系メロウロックという作風。
これという展開や派手なところはないが、全体的にゆったりと聴かせるマイルドな味わいです。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 叙情度・・8 総合・・7
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CAREN COLTRANE CRUSADE 「Potwor」
ポーランドのプログレバンド、カレン・コルトレーン・クルセイドの2019年作
2015年にデビューし、2作目となる。うっすらとしたシンセにコケティッシュな女性ヴォーカルの歌声を乗せ、
翳りを帯びた浮遊感に包まれたサウンドを描く。わりとキャッチーなノリのナンバーでも
耽美でメランコリックな空気に包まれていて、ポストプログレ寄りのアンビエントなところや、
トランペットが鳴り響く哀愁の雰囲気もある。紅一点、Marzena嬢の表現力ある歌声が
サウンドに妖しい倦怠を加えていて、ケイト・ブッシュ系の世界観が好きな方にもお薦め。
ドラマティック度・・6 プログレ度・・7 女性Vo度・・8 総合・・7.5
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UNIT WAIL 「Egares」
フランスのアヴァン・プログレ、ユニット・ウェイルの2019年作
Shub Niggurathのギターを中心に、2012年にデビューし、本作は4作目。「堕落」と題された作品で、
スペイシーなシンセに不穏なベースライン、ハードなギターを変則リズムに乗せ、アヴァンギャルドな展開と
どこかコミカルな空気も同居した異色のサウンドを展開する。おどろおどろしいシンセパートなどもよい味わいで、
ヘヴィでテクニカルなアンサンブルとのコントラストになっている。オールインストで愛想はないが、
ダーク寄りのアヴァンプログレが好きな方には、きっとスリリングに楽しめる異色作となるだろう。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・8 アヴァンギャル度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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VAK「BUDO」
フランスのプログレバンド、ヴァクの2018年作
MAGMAルーツのアヴァン・ジャズロックというべき前作に続く、2作目となる本作は、27分、23分という大曲を主体に、
エレピを含むシンセに美しい女性スキャットを乗せて、軽妙なアンサンブルとともに、MAGMAを優雅にしたような、
ミステリアスなジャズロックを聴かせる。不穏なベースラインと、ときに奔放に奏でられるギターの旋律が、
スリリングな空気を描いていて、鳴り響くサックスとともに、ZEUHL系らしいダーク雰囲気に包まれつつ、
ゆったりとしたシンセとギターによるアンビエントなパートもあったりと、なかなか一筋縄ではいかない。
なにしろ曲が長いのだが、やわらかなフルートにシンセが重なる優美なラスト曲まで、わりと耳心地よく楽しめる。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 ミステリアス度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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TROOT 「Constance & the Waiting」
フランスのプログレバンド、トルートの2019年作
パリ在住の米国人ピアニストTim Rootを中心に、KING CRIMSON周辺作にも携わる世界各国のミュージシャンが参加。
クラシカルなピアノに艶やかなヴァイオリン、流麗なギターが重なり、スリリングなリズムとともに、
サックスが鳴り響く、クリムゾン風のチェンバー・ジャズロックというサウンドを繰り広げる。
優雅なヴァイオリンやピアノの旋律に、随所にハードなギターがアクセントになっていて、
緩急ある構築力にほどよくアヴァンギャルドなセンスも覗かせながら、クラリネットやサックスの
やわらかな音色が重なってゆく。クリムゾン風のスリリングな緊張感とクラシカルな優雅さが同居した力作。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・8 優雅でスリリング度・・8 総合・・8
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FORGAS BAND PHENOMENA 「ACTE V」
フランスのジャズロック、フォーガス・バンド・フェノメナの2012年作
マルチミュージシャンでドラムの、Patrick Forgasを中心に1997年にデビュー、本作は5作目となる。
ヴァイオリンにサックス、トランペットか鳴り響き、優雅なアンサンブルとエキセントリックな展開が同居した、
プログレッシブなジャズロックを聴かせる。ロック寄りの流麗なギターのプレイも随所に効いていて、
硬派すぎるジャズロックが苦手な方や、ジャズロック初心者にもわりと聴きやすい作風だろう。
10分を超える大曲も、やわらかなエレピにサックスやヴァイオリンが絡む、カンタベリーな雰囲気とともに、
インストによる優美なジャズロックサウンドが楽しめる。DVDには、2010年、アメリカ、NEARFestでのライブを収録。
日本人ベーシストに女性ヴァイオリン奏者を含む編成で、サックスやトランペットとともに厚みのある演奏を聴かせる。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 優雅度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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FORGAS BAND PHENOMENA 「L'oreille Electrique」
フランスのジャズロック、フォーガス・バンド・フェノメナの2012年作
6作目の本作は、10分前後の大曲ばかりの全5曲という構成で、エレピを含むシンセに、サックスやトランペット、
ヴァイオリンが鳴り響き、カンタベリールーツの優雅なアンサンブルに、ロック寄りのギターを加えたという、
軽妙なジャズロックを聴かせる。このバンドの場合は、オールインストではあるが、超絶技巧というよりは、
スリリング過ぎないほどよいアンサンブルと叙情重視の作風なので、全体的に耳心地良く楽しめる。
全曲長いので、気の短い方には向かないが、ヴァイオリン入りの優美なジャズロックとしてもゆったりと鑑賞できます。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 優雅度・・9 総合・・8 
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SYRINX 「QUALIA」
フランスのプログレバンド、シリンクスの2008年作
2003年にデビューし、2作目となる。のっけから19分という大曲で、叙情的なギターに
メロトロンなどを含む優美なシンセを重ね、軽妙なアンサンブルと緩急ある展開力で、
知的でスリリングなインストサウンドを構築する。サックスが鳴り響く、ジャズロック的な優雅さに
ZEUHL系バンドのような薄暗い妖しさがあるのも、いかにもフランスらしい作風といえる。
アルバム後半にも15分近い大曲があり、オールインストであるが、緊張感のある展開と空気感で、最後まで楽しめる。
アコースティックを含む優美なギターにシンセが重なる、シンフォニックロックとしての味わいも同居した逸品です。
ドラマティック度・・7 プログレ度・8 スリリング度・・8 総合・・8


Les Elles 「Siamoises」
フランスのアヴァン・チェンバーロック、レス・エレスの2003年作
1995年にデビュー、本作は3作目。女性Vo、女性チェロ奏者を含む編成で、トランペットやチェロの音色に
フランス語のコケティッシュなヴォーカルを乗せた、エキセントリックなチェンバーロックを聴かせる。
哀愁を感じさせるアコーディオンの音色とともに、キュートな歌声がフレンチらしい優雅さを描き、
オルガンを使ったナンバーなども、艶めいた大人の味わいで、ワインを片手に鑑賞したい。
フランス語の囁きが妖しい小曲や、ポップなビート感のナンバーも、チェロやブラスの音が入ると、
どこかアーティスティックな雰囲気になる。楽曲は3〜4分前後で、さほど難解さはないが、
哀愁とコケティッシュが同居した、ストレンジなフレンチ・チェンバー・ポップというべき逸品だ。
チェンバー度・・7 プログレ度・・7 フレンチ度・・8 総合・・7.5
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Ange 「Reves-Parties」
フランスのテアトリカルロック、アンジュのライブ作品。2000年作
1997年、1998年、2000年に行われたフランスでのライブを、2CDに収録。
御大、クリスチャン・デカンを筆頭に、息子のトリスタンを含む、若手メンバーたちによる編成で、
美麗なシンセに流麗なギター、そして存在感抜群のクリスチャン・デカンのフランス語の歌声で、
ときにシンフォニックにときに演劇的な語りを含んだ、優美で濃密なサウンドを展開する。
テクニックのあるギターのプレイも含めて、70年代のナンバーもわりとスタイリッシュな感触で、
曲によってはハード寄りの部分もるなど、新たなアンジュサウンドへの変化も感じさせる。
バンドとしての前進を続ける優雅なるテアトリカル・シンフォニックロックが味わえる好ライブ。
ライブ演奏・・8 優雅度・・9 濃密度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Anacrusa 「Reencuentro」
アルゼンチンのクラシカルロック、アナクルーザの1995年作
1973年にデビュー、1979年までに5作を残して消えたバンドの16年ぶりの復活作で、
叙情的なギターの旋律にやわらかなフルート、クラシカルなピアノやシンセを重ねて、
しっとりと繊細で優美なサウンドを聴かせる。オーボエの優雅な音色にフルートとピアノ、
クラシックギターのつまびきとともに、南米らしいフォルクローレ風の叙情に包まれる。
女性ヴォーカルのスペイン語の歌声を加えた、タンゴ寄りの民族風ナンバーから、
ストリングス入りのクラシカルシンフォ風の味わいなど、わりと曲調も幅広く楽しめる。
クラシカル度・・8 プログレ度・・6 優雅度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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8/20
残暑のプログレ(238)


IL BACIO DELLA MEDUSA「Seme」
イタリアのプログレバンド、イル・バシオ・デッラ・メデューサの2018年作
2008年にデビュー、本作は4作目となる。女性フルート&サックス奏者を含む6人編成で、
メロトロンを含むシンセにほどよくハードなギター、サックスが鳴り響くアナログ感あるアンサンブルに
イタリア語による荒々しいヴォーカルを乗せた、ヴィンテージなヘヴィプログレを聴かせる。
曲によってはジャズロック的な軽妙な演奏や、イタリアらしい哀愁をまとった叙情も覗かせつつ、
シアトリカルな歌声の表現力や、泣きの旋律を奏でるギターワークも含めて、すべてが濃密だ。
一方では優雅なサックスの音色とアコースティックギターよるアダルトな歌ものナンバーなど、
全体的なメリハリとバランスのとれた流れで、完成度という点でも過去最高の出来だろう。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 イタリア度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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IL CERCHIO MEDIANICO 「Un'Opera Prop Di Stefano Agnini」
イタリアのシンフォニックロック、イル・セルチオ・メディアニコの2017年作
LA COSCIENZA DI ZENOのシンセ奏者に、HOSTOSONATENなどで活躍するファビオ・ズッファンティを中心にした
CURVA DI LESMOに続くプロジェクトで、MUSEO ROSEMBACHのステファノ・ガルフィをはじめ、
DERILIUMのマーティン・グライス、HOSTOSONATENやズッファンティ関連のメンバーが多数参加。
優美なシンセワークにイタリア語のマイルドな歌声、フルートの音色や物悲しいチェロの響きも加えて、
往年のイタリアンプログレを思わせるやわらかな叙情を描いてゆく。ときに美しい女性ヴォーカルも加わった、
男女Voによるオペラティックな優雅さにも包まれる。ジャケは妖しげながら、優美なサウンドに浸れる逸品です。
ドラマティック度・・8 優美度・・9 イタリア度・・9 総合・・8
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MELTING CLOCK 「Destinazioni」
イタリアのプログレバンド、メルテイング・クロックの2020年作
女性Vo含む6人編成で、結成は2001年というから、20年ごしのデビュー作ということになる。
叙情的なギターの旋律に、やわらかなシンセ、イタリア語の女性ヴォーカルを乗せた、
優美なサウンドを聴かせる。緩急ある構築力には知的なセンスも覗かせていて、
デビュー作とは思えない作り込まれた楽曲はなかなかのもの。クラシカルなピアノや
メロウな泣きのギターも耳心地よく、紅一点、Emanuela嬢のエモーショナルな歌声も含めて
優雅なシンフォニックロックに浸ることができる。中盤まではゆったりとしたナンバーが続くが、
ラストは15分におよぶ大曲で、ドラマティックに展開するシンフォプログレっぷりが圧巻だ。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 女性Vo度・・8 総合・・8
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Knight Area 「D-Day」
オランダのハードプログレ、ナイト・エリアの2019年作
2004年にデビュー、本作は7作目。最高作というべき出来だった前作から、本作ではVoが交替、
AYREONなどでも活躍する、Jan Willem Ketelaersを新たにシンガーに迎えて、第二次大戦の
ノルマンディー上陸作戦をテーマにしたコンセプト作品を完成させた。ほどよくハードなギターに
優美なシンセアレンジを重ね、伸びやかなヴォーカルで、ドラマティックなハードシンフォを展開。
メロディックなフックと壮麗にして重厚な聴き心地は、シンフォニックメタルのリスナーにも楽しめるだろう。
エモーショナルなヴォーカルの表現力も素晴らしい。勝利を告げるチャーチルのスピーチから、
ラスト2曲のシンフォニックな盛り上がりは感動的だ。ドラマ性のあるハードシンフォの傑作である。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 壮麗で重厚度・・8 総合・・8.5 過去作のレビューはこちら
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FISH ON FRIDAY 「BLACK RAIN」
ベルギーのプログレハード、フィッシュ・オン・フライデーの2020年作
2010年にデビュー、本作は5作目となる。オルガンを含む柔らかなシンセにマイルドなヴォーカル、
メロウな泣きのギターで、哀愁の叙情に包まれた、シンフォニックなプログレハードを聴かせる。
キャッチーなスタイリッシュ性と精細な叙情美が同居したサウンドは、アダルトなAOR的と、
繊細なシンフォニックロックが融合したようでもあり、きらきらとした耳心地で楽しめる。
中盤からは女性ヴォーカルが加わって、ストレートなメロディアス性のみではない、
優美な感触に包まれたキャッチーなプログレハードが味わえる。高品質な逸品です。
メロディック度・・8 プログレ度・・7 叙情度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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RUBBER TEA 「INFUSION」
ドイツのプログレバンド、ラバー・ティーの2020年作
女性Vo&サックス&フルート奏者を擁する編成で、オルガンやムーグなどヴィンテージなシンセに
艶めいた女性ヴォーカルの歌声を乗せ、フルートやサックスも鳴り響く、優雅で軽妙なサウンドを展開。
メロウなギターの旋律にピアノを重ね、うっすらとメロトロンも鳴り響く、ゆったりとした大人の叙情と、
シタールなども加えた民族音楽の要素に、ヴィブラフォンの音色を含むジャズタッチのアンサンブルで
独自の世界観を描いてゆく。紅一点、Vanessa嬢のエモーショナルな歌唱の表現力も素晴らしいので、
BENT KNEEあたりが好きな方にもお薦め。メロトロン入り女性声プログレ・ジャズロックとしても楽しめる。
優雅で軽妙度・・9 プログレ度・・8 女性Vo度・・8 総合・・8
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CRAYON PHASE 「TWO HUNDRED PAGES」
ドイツのプログレバンド、クラヨン・フェイズの2019年作
SEを含む映画的なイントロから、ハードめのギターにシンセを重ね、マイルドなヴォーカルとともに、
キャッチーできらびやかなハードプログレを聴かせる。コンセプト的な流れに見るドラマ性とともに
初期のARENAPALLASあたりにも通じる、抜けの良い爽快なメロディアス性が耳心地よく、
10分前後の大曲も主体に展開力のある構築性で、じっくりとスケールの大きなサウンドを描いてゆく。
随所に泣きの叙情ギターも効いていて、ドラマティックな重厚さとウェットなメロディのバランスもよく、
これという新鮮味はないのだが、王道のハードシンフォとしてどっしりとした聴き心地で楽しめる。
全75分で、いささか長尺感はあるのだが、ギターもシンセもしっかりシンフォプログレしているのが嬉しい。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 壮大度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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CHRIS 「SNOW STORIES」
オランダのシンフォニックロック、クリスの2013年作
SKY ARCHITECT、The Black Kodexでも活動するマルチミュージシャン、Christiaan Bruinのソロで、
本作はクリスマスをテーマにした作品。きらびやかなシンセにギターを重ね、キャッチーなヴォーカルメロディで
優美なシンフォニックロックを聴かせる。ストリングスアレンジを加えた優雅なクラシカル性に、
メロウなギターの旋律も随所にアクセントになっていて、繊細な叙情と抜けの良いメロディアス性が合わさった
耳心地の良いサウンドが楽しめる。美麗なシンセによる小曲や、MOON SAFARIなどにも通じる
シンフォニックな歌ものナンバーなども魅力的だ。ただ全33分というのは少し物足りないか。
メロディック度・・8 プログレ度・・7 優美度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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PROFESSOR TIPTOP 「Exobiology」
ノルウェーのプログレバンド、プロフェッサー・ティプトップの2016年作
ムーグやメロトロンを含むシンセにメロウなギターの旋律と牧歌的なヴォーカルで
サイケな浮遊感と北欧らしい涼やかな空気に包まれたサウンドを描く。
プログレ的な展開というのはさほどなく、メロトロンなどのヴィンテージなシンセと
ギターのユルめの叙情フレーズを重ねた、全体的にゆったりとした耳心地。
10分を超える大曲では、スペイシーなシンセの重ねから、アッパーすぎないノリで
OZRIC TENTACLESの北欧版というような優雅なサイケロックを聴かせる。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 北欧度・・8 総合・・7.5
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PROFESSOR TIPTOP 「Life Is No Matter」
ノルウェーのプログレバンド、プロフェッサー・ティプトップの2017年作
2作目となる本作も、うっすらとしたシンセとギターの旋律を重ねて、
ほどゆくユルめの浮遊感とともに涼やかなシンフォニックロックを聴かせる。
マイルドなヴォーカルを乗せた、繊細な叙情美が前作よりも際立っていて、
サイケというよりもむしろ、ポストプログレ的な優美な雰囲気で楽しめる。
哀愁を帯びたメロウなギターは、ときにPINK FLOYD的でもあり、
派手な部分はないが、ゆったりとした耳心地で鑑賞できる好作品です。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 北欧度・・8 総合・・8
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PROFESSOR TIPTOP 「Tomorrow Is Delayed」
ノルウェーのプログレバンド、プロフェッサー・ティプトップの2020年作
4作目となる本作は、新たに女性Vo&シンセ奏者が加入していて、ムーグやオルガン、
メロトロンといったヴィンテージなシンセとほどよくユルめの叙情ギターに、
けだるげな女性ヴォーカルで聴かせる、優美なサイケ・プログレサウンド。
70年台寄りのアナログ感とともに、やわらかな女性声が優しい聴き心地で、
ギターなメロウな旋律にメロトロンが重なると、シンフォニックロックの味わいに。
全体的にこれという盛り上がりはないが、女性声になったことで優雅さが増している。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 女性Vo度・・8 総合・・8
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AGUSA 「Ekstasis: Live in Rome」
スウェーデンのプログレバンド、アグサのライブ。2019年作
2018年イタリアのローマで行われたライブを収録。11〜24分という大曲4曲というステージで、
フルートが鳴り響き、やわらかなオルガンに土着的な旋律を奏でるギターを重ねた、
北欧らしい涼やかなサイケプログレを聴かせる。アナログ感たっぷりのギターによる
ノリのよいオールドロック感触とともに、アルバム以上に躍動的な演奏が味わえる。
ラストは24分という大曲で、緩急ある展開で、妖しく濃密なアンサンブルを描いてゆく。
ライブ演奏・・8 プログレ度・・7 ヴィンテージ度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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OUR SOLAR SYSTEM 「ORIGINS」
スウェーデンのサイケ・ロック、アワー・ソーラー・システムの2018年作
2013年にデビュー、本作は5作目となる。ジャケやバンド名もカルトな感じでいかにも妖しいが、
サウンドの方ものっけから20分の大曲で、ノイジーな轟音にアナログ感あるドラムが鳴り響き、
AMON DUULばりのサイケロックを展開。スペイシーなシンセが加わると、TANGERINE DREAMにも通じる
幻想的な雰囲気になりつつ、やわらかなフルートが鳴り響き、ユルめのギターに妖しい女性声を乗せた、
神秘的な浮遊感に包まれる。フリーキーでありながら、怪しいスケール感を描き出す異色作です。
サイケ度・・9 プログレ度・・7 怪しげ度・・9 総合・・7.5
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MILLENIUM 「WHITE CROW」
ポーランドのプログレバンド、ミレニアムの2011年作
結成10周年を記念して、過去の未発曲や別バージョンを中心に編纂された作品で、
叙情豊かなギターに美しいシンセを重ねた、ウェットなシンフォニックロックを聴かせる。
英語歌詞のマイルドなヴォーカルも含めて辺境感はほとんどなく、PINK FLOYDルーツの
翳りを帯びたメロウな空気感に、東欧らしい涼やかでスタイリッシュな味わいを加えたという作風。
女性ヴォーカルやアコースティックを取り入れた優美なナンバーもありつつ、15分におよぶ大曲では、
泣きのギターフレーズをたっぷり響かせる、フロイド系シンフォプログレの王道が楽しめる。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 叙情度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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8/14
お盆のプログレ(224)


Renaissance 「Tour 2011 - Live in Concert」
イギリスのクラシカルロック、ルネッサンスのライブ。2011年作
1974年作「運命のカード」、1975年作「シェエラザード夜話」を完全再現したライブステージを、2CD+DVDに収録。
かつてのメンバーはアニー・ハズラム、マイケル・ダンフォードのみであるが、クラシカルなピアノに
やわらかなアニーの歌声を乗せ、ゆったり優雅な大人のルネッサンスというべき演奏を聴かせる。
かつてのような躍動的なリズムや瑞々しさはなくなっているが、落ち着いたアンサンブルをバックに
じっくりと歌い上げるアニーの歌唱はやはり唯一無二。大曲「マザー・ルシア」もしっとりとした仕上がりだ。
楽曲的には、より優雅な「シェエラザード夜話」の方が引き立っている。名曲「オーシャン・ジプシー」も美しい。
ラストは新編成で2010年に発表された新曲「The Mystic And The Muse」を披露。DVDのカメラワークはやや凡庸だが
アニー・ハズラムの元気な姿と、故マイケル・ダンフォードの最後のライブ映像が見られるという点ではファン必見です。
ライブ演奏・・8 クラシカル度・・8 アニーの歌声度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Kentish Spires 「The Last Harvest」
イギリスのプログレバンド、ケンティッシュ・スパイアーズの2018年作
艶めいた女性ヴォーカルの歌声にサックスやフルートが鳴り響き、やわらかなオルガンとともに
かつてのカンタベリー系ロックを思わせる、優雅で軽やかなアンサンブルを聴かせる。
紅一点、Lucie Vの歌声は中音域の魔女めいた妖しさがあって、英国フォークな空気も感じさせ
10分を超える大曲でも、ほどよいユルさとフリーキーな味わいがあって、それもまた70年代的だ。
これという派手さはないのだが、この懐古主義的なアナログ感は耳心地よく、最後まで優雅に鑑賞できる。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 英国度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら

Tusmorke 「Leker for Barn,Ritualer For Voksne」
ノルウェーのプログレバンド、タスメルケの2019年作
2012年にデビューし、本作は8作目。2017年作「BYDYRA」に続く、児童用ミュージカルとして制作された作品で、
子供たちのコーラスを含む愉快な雰囲気で幕を開ける。北欧らしい涼やかで土着的な旋律と、
ヴィンテージなシンセによるオールドなプログレ感も随所に覗かせつつ、2〜3分台の小曲主体で、
ドラムやギターがさほど入らないので、フォークやフォルクローレ的な優雅さに包まれた聴き心地。
児童の可愛らしい歌声の一方、フルートやリコーダーが鳴り響き母国語による歌唱とともに、
このバンドらしい妖しさは感じさせ、曲によっては土着的な北欧サイケという雰囲気もあったりする。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 北欧度・・8 総合・・7.5 過去作のレビューはこちら
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Tusmorke「Nordisk Krim」
ノルウェーのプログレバンド、タスメルケの2021年作
9作目となる本作は、CD2枚組の大作で、オルガンやムーグ、メロトロンなどヴィンテージなシンセをたっぷり鳴らし、
いくぶんサイケ寄りのギターにフルートが鳴り響く、妖しい浮遊感とともに、北欧らしいオールドなプログレを聴かせる。
シアトリカルなヴォーカルを乗せての祝祭的な土着性は、OSANNA「パレポリ」にも通じるような濃密な空気感であるが、
そこにスペイシーなスケール感も加わって、キャッチーなのに大変怪しいという、独自の世界観を描くところは見事。
Disc2も、12分、17分という大曲をメインに、優雅なフルートの音色にオルガン重ねた、牧歌的な叙情に包まれつつ、
単なるシンフォプログレにとどまらない酩酊感に引き込まれる。4作目「Hinsides」以来の最高作を更新です。最高!
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 妖しさ度・・9 総合・・8.5
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Wobbler 「Dwellers of the Deep」
ノルウェーのプログレバンド、ウォブラーの2020年作
2005年にデビュー、本作は5作目となる。オルガンにメロトロンが鳴り響き、女性コーラスを乗せたイントロから、
ヴィンテージな北欧プログレが広がってゆく。のっけから13分の大曲で、全4曲という構成もこのバンドらしく、
チェンバロの音色やゲストによるヴァイオリンも加えた優雅な味わいと、やわらかなリコーターの音色で、
ANGLAGARDにも通じる涼やかな土着性と、緩急ある構築力が合わさった絶妙のサウンドは円熟の域である。
2曲目ではキャッチーな歌もの感も聴かせつつ、アコースティックの小曲を挟んで、ラストは19分の大曲で、
ムーグやメロトロンなどのシンセをたっぷり響かせながら、どことなく妖しさに包まれた濃密なプログレ感に浸れる。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 ヴィンテージ度・・9 総合・・8.5 過去作のレビューはこちら
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TammatoyS 「Conflicts」
ノルウェーのプログレバンド、タマトイズの2020年作
結成は90年代というバンドで、これが初のアルバム。メロウなギターにオルガンを含むシンセ、
エフェクトのかかったヴォーカルを乗せて、翳りを帯びた叙情に包まれた浮遊感のあるサウンドを描く。
メロトロンがうっすらと鳴り響き、叙情的なギターの旋律を聴かせるところは、PINK FLOYDにも通じる感触で
そこに北欧らしい涼やかなシンフォプログレ質感を加えたという聴き心地。後半の14分という大曲では、
やわらかなフルートが鳴り響く優美なイントロから、不穏な空気をまとったオールドロック風な中間部、
静謐なピアノパートからストリングスも加えて、後半は盛り上がりそうで、そうはならないというもどかしさも。
全体的に突き抜けないところが惜しいのだが、ラスト曲でのギルモア風の叙情ギターにはニンマリです。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 叙情度・・8 総合・・7.5
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Motorpsycho 「The Tower」
ノルウェーのプログレ・ロックバンド、モーターサイコの2017年作
1990年代初頭にデビュー、プログレッシブな知性とガレージロックのノリが同居したサウンドで、
いまやノルウェーを代表するロックバンドであり、プログレリスナーからも評価の高いこのバンド。
本作は通算22枚目のアルバムで、CD2枚組の大作。アナログ感あるギターにメロトロンを含むシンセ、
ブラスなどを重ねた、KING CRIMSON風味から、LED ZEPPELINのようなオールドなロック感触と、
変幻自在のヴィンテージロックを展開。ほどよいユルさと涼やかなスケール感が同居した独自の作風は、
高い演奏力に裏打ちされた説得力があればこそ。Disc2は、アコースティックを含む牧歌的な15分の大曲や、
メロトロン鳴り響くアネクド・クリムゾン風ナンバー、サイケ・シンフォ的なラストの大曲まで、じっくりと楽しめる力作だ。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 ヴィンテージ度・・8 総合・・8.5 過去作のレビューはこちら
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Erik Hammarstrom 「Glodhet Rytmisk Svarta」
スウェーデンのミュージシャン、エリク・ハマーストロムの2019年作
Anglagard、 Brighteye Brison、All Traps On Earthなどで活躍するドラマーで、本作はベースに管弦楽、
クラリネット、フルート、ハープ、ファゴット、チェレスタまで一人でこなしたという多重録音によるアルバム。
34分に及ぶ組曲と、後半は15分の組曲という構成で、クラリネットやストリングスによるクラシカルなシンフォニーに
自身のドラムプレイを融合させた、チェンバーロック的なサウンドを構築する。ヴァージル・ドナーティのような超絶さはないが
オーケストラルな優雅さに巧みなロックドラムを加えた、スリリングでいくぶんダークな味わいの聴き心地であるが、
テクニカル過ぎないところに北欧らしい牧歌性も感じる。前半の大曲はさすがに長尺感があるが、挑戦的な異色作である。
クラシカル度・・8 プログレ度・・7 優雅度・・8 総合・・7.5
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Fredrik Klingwall & Julia Black 「Sentience」
スウェーデンのミュージシャン、フレドリック・キングウェルと女性シンガー、ジュリア・ブラックのユニット。2019年作
ダークアンビエント系のRising Shadowsや、ヴィンテージプログレのAnima Morteなどでも活躍するシンセ奏者で、
ドラムには、元Anglagard、Necromonkey、Pixie Ninjaなどで活躍する、マティアス・オルソンが参加している。
オルガンやメロトロンを含むシンセに、ヴァイオリンやチェロが絡み、コケティッシュな女性ヴォーカルの歌声で、
しっとりと優美なサウンドを描く。ゴシック寄りの薄暗く耽美な空気と、美しい女性声がよくマッチしていて、
クラシカルなピアノやストリングス、ときにチャーチオルガンなども用いた、シンフォニックな優雅さにも包まれる。
キュートな女性ヴォーカルの魅力では、Pale Forestあたりが好きな方にもイケるだろう。
シンフォニック度・・8 プログレ度・・6 女性Vo度・・9 総合・・8
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LIQUID SCARLET
スウェーデンのプログレバンド、リキッド・スカーレットの2004年作
女性シンセ奏者を含む5人編成で、オルガンやメロトロンなどのヴィンテージなシンセにギターを重ね、
マイルドなヴォーカルを乗せて、ANEKDOTENなどにも通じる翳りを帯びた北欧らしいサウンドを描く。
よく牧歌的なユルさと、アナログ感あるアンサンブルとともに、スリリングなプログレ感が同居していて、
7〜8分前後の長曲もじっくりと聴かせる懐の深さがある。随所にメロウなギターの旋律も覗かせて、
メロトロンにフルートも鳴り響く、KING CRIMSONを思わせるようなパートもあってニヤりとなる。
派手なところはさほどないが、アネクド&クリムゾン系の北欧プログレが好きな方はチェックですな。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 ヴィンテージ度・・8 総合・・8
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Mythology 「The Castle Of Crossed Destinies」
スイスのハードプログレ、ミソロジーの2020年作
オルガンが鳴り響き、ハードなギターにジェントルなヴォーカルを乗せた、ヴィンテージなハードプログレ。
いくぶんラウドな音質がオールドなアナログ感をかもしだし、ときにサックスやメロトロンも鳴り響く、
サイケな浮遊感もあったりして、わりとユルめの70年代アートロック風味でも楽しめる、
ほどよくマイナー感ただよう怪しさと女性コーラスなども加わった、優雅な叙情が同居する、
10分前後の大曲を中心にしつつ、これという盛り上がりがないというのもむしろ面白い。
サイケ寄りのヴィンテージロック、オールドなハードプログレが好みの方はいかが。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 ヴィンテージ度・・8 総合・・7.5
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LIKE WENDY 「Homeland」
オランダのシンフォニックロック、ライク・ウェンディの2003年作
ギター&シンセ奏者のBert Heinen氏による個人ユニットで、メロトロンの音色などの優美なシンセに
アコースティックを含む叙情的なギターとマイルドなヴォーカルでゆったりとしたサウンドを聴かせる。
泣きのギターメロディにシンセを重ねたシンフォニックな感触は、PENDRAGONなどにも通じる味わいで
13分におよぶ大曲も、あくまでメロウな叙情美に包まれる。ナイーブなヴォーカルの声質も含めて、
繊細でキャッチーな歌パートはポストプログレ風で、シンセワークの美しさはクライブ・ノーランばりだ。
これというインパクトは薄いが、メロウなギターと優美なシンセでゆったりと楽しめる耳心地の良い逸品。
シンフォニック度・・8 プログレ度・・7 叙情度・・9 総合・・8
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Code 18「Human Error!」
カナダのプログレバンド、コード18の2020年作
HUISのシンセ奏者を含む3人編成で、北米の五大湖にまつわるオリジナルストーリーを描くコンセプト作。
美麗なシンセに適度にハードなギター、マイルドなヴォーカルを乗せて、ほどよくテクニカルな展開力と
涼やかな叙情性に包まれた、スタイリッシュなシンフォプログレを聴かせる。ゆったりとした歌ものパートでは、
うっすらとしたシンセとともにポストプログレ寄りの優美な空気を描きつつ、メロウなギターが心地よく響き渡る。
きらびやかなキーボードをメインにしたインストナンバーなど、コンセプト的なスケール感と流れのある構成で、
翳りを帯びたドラマティックなサウンドを構築してゆく。泣きのギターフレーズをたっぷり無理込んだなラスト曲まで、
じっくりと鑑賞できる力作に仕上がっている。同郷のMYSTERYやNATHAN MAHLのメンバーがゲスト参加。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 叙情度・・8 総合・・8
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MAGUS 「TRAVELLER」
アメリカのプログレバンド、マグスの1997年作
1995年にデビュー、本作は2作目。叙情的なギターに優美なシンセワーク、マイルドなヴォーカルを乗せた
プログレハード寄りのキャッチーなサウンド。ドラマティックなスケール感とメロディックな聴きやすさは、
MAGELLANあたりに通じる雰囲気もあるが、一方ではギターとシンセをメインにした硬質なインストナンバーや
アコースティックを使った小曲、13分のオルタナポップ風の大曲の後半では、語りが延々と続くなど、
わりととらえどころのない作風。ラストは20分近い大曲で、エスニックなアコースティックにシンセアンビエント、
中盤からはドラムも加わった、妖しいシンフォプログレになって、シンセとギターがフリーキーに絡む。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 楽曲度・・7 総合・・7
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7/31
オリンピックとプログレの夏(210)


TOUCH「Tomorrow Never Comes」
アメリカのプログレハード、タッチの2021年作
2018年に、American Tearsの復活を果たしたマーク・マンゴールドが、今度はタッチとしての40年ぶりとなる作品を発表。
メンバーはオリジナルの4人で、わりとハード寄りのギターにきらびやかなシンセワーク、マイルドなヴォーカルで、
いかにも80年代ルーツのキャッチーで哀愁漂うサウンドを聴かせる。ゆったりとした叙情ナンバーでは、
QUEENのような壮麗なコーラスも加わり、随所に泣きのギターフレーズも耳心地よく、メロハー寄りのナンバーでも
マンルドのプログレ寄りのシンセワークが楽曲を華やかに彩っている。新鮮なインパクトはさほどないものの、
アダルトな叙情性に包まれたベテランらしい堂々たる作風で、どこを切っても耳心地よく楽しめる。全61分という力作だ。
メロディック度・・8 キャッチー度・・8 大人の叙情度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Transatlantic 「The Absolute Universe: Forevermore (Extended Version)」
プログレ・スーパーバンド、トランスアトランティックの2021年作
前作から7年ぶりとなる5作目で、こちらはCD2枚組の完全版。ロイネ・ストルトの甘美なギタープレイに
壮麗なシンセを重ね、マイク・ポートノイのテクニカルなドラムとピート・トレワヴァスのグルーヴィなベースで、
優雅で軽妙なインストパートを構築。ニール・モーズのヴォーカルにキャッチーなコーラスワークで、
爽快なメロディック性に包まれたサウンドを展開する。今作はインスト部分でのロイネのギターが
いつにもましてメロウで叙情的なフレーズを弾きまくっているのも、フラキンファンにとっては嬉しいだろう。
肩の力の抜けた大人のプログレ感触と、ドラマティックな盛り上がりが入れ替わる。さすがの出来栄えだ。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 構築度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Transatlantic 「The Absolute Universe: The Breath Of Life (Abridged Version)」
プログレ・スーパーバンド、トランスアトランティックの2021年作
こちらは、CD1枚64分にまとめられたバージョンで、楽曲のアレンジや曲名も一部変えられていて、
単なる短縮版とはなっていないところはさすが。キャッチーなメロディアス性とテクニカルな展開力で、
2枚組に比べてすっきりとした流れとともに楽曲が続いてゆくので、長尺感もなくより爽快に楽しめる。
アコースティックを使った小曲などもアクセントになっていて、歌ものパートと壮麗なインストのバランスも良く、
64分のコンセプト作として一気に鑑賞できるという点では、むしろ2枚組バージョンよりお薦めかもしれない。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 構築度・・8 総合・・8
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CURVED AIR 「NORTH STAR」
イギリスのプログレバンド、カーヴド・エアの2014年作
1970年デビューのベテラン。スタジオ作としては、2008年以来、7年ぶりの作品で、
ヴァイオリンとシンセに新メンバーを迎えた新編成で、艶やかなヴァイオリンにエレピを含むシンセを重ね、
傑作「AIR CUT」時代のメンバーである、カービィ・グレゴリーによるオールドな味わいのギターと、
ソーニャ・クリスティーナの妖艶な歌声を乗せた、70年代のスタイルをしっかりと受け継いだサウンドを聴かせる。
オールドロックにクラシカルな優雅さを加えた作風は、新鮮味はないものの、ほのかにただよう浮遊感とともに、
ゆったりとした大人の叙情で楽しめる。前作「Reborn」がリメイク中心であったので、新曲によるアルバムとしては、
1976年作「Airborne」以来、じつに38年ぶりとなる。バンドのファンには嬉しい復活作であるだろう。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 オールドロック度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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GALAHAD「YEAR ZERO - 10TH ANNIVERSARY EXPANDED EDITION 」
イギリスのシンフォニックロック、ギャラハドの2012年作
1989年にデビュー、本作は5作目である2002年作の10周年記念再発盤で、Disc1にはオリジナルのリマスター音源を
Disc2には2002年の未発ライブ音源を収録。美麗なシンセアレンジと叙情的なギター、マイルドなヴォーカルを乗せた
英国らしいウェットでドラマティックな王道のシンフォプログレを聴かせる。PENDRAGONあたりに比べると、
もう少しマイナー寄りの垢抜けなさもあるのだが、曲によってはハードエッジな質感やモダンなアレンジも覗かせつつ、
バンドの深化する方向性が感じられる。PAR LINDHばりのチャーチオルガンが鳴り響く、バロックなシンフォナンバーなど、
アルバム後半のドラマティックな流れも含めて、堂々たる力作に仕上がっている。Disc2のライブ音源も臨場感たっぷり。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 王道シンフォ度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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MILLENIUM 「DEJA VU」
ポーランドのプログレバンド、ミレニアムの2004年作
1999年にデビュー、本作は4作目で、うっすらとしたシンセにメロウなギター、
マイルドなヴォーカルを乗せた、PINK FLOYDルーツの叙情サウンドを聴かせる。
全体的にプログレ的な展開はあまりなく、キャッチーな歌もの系ポストプログレといった感じで、
ポーランドらしい翳りをおびた空気と、モダンなビート感が同居したようなナンバーもある。
ラスト曲では、ようやくプログレ的なキーボードが現れて、薄暗系シンフォという雰囲気が楽しめる。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 叙情度・・8 総合・・7.5 過去作のレビューはこちら
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MILLENIUM 「MMXVIII」
ポーランドのプログレバンド、ミレニアムの2018年作
LYNXレーベル設立20周年記念の作品で、9分の新曲に、2013年作「EGO」収録のリメイク、
そして過去曲11曲をメドレーにした、20分の組曲という構成。新加入のヴォーカルのマイルドな歌声に、
メロウなギターとシンセにサックスも鳴り響く、キャッチーながらもしっとりとした翳りを帯びた、
メロディックなサウンドが広がってゆく。リメイク曲は、女性ヴォーカルを加えた優美な聴き心地で、
泣きのギターフレーズによるフロイド・ルーツの叙情に、大人の哀愁を感じさせるサックスの響きも味わいがある。
20分のメドレーは、いくぶん強引な流れもあるが、逆にいうと展開力あるシンフォプログレとして楽しめるる
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 叙情度・・8 総合・・8
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AltaVia 「Girt Dog」
イタリアのプログレバンド、アルタヴィアの2010年作
やわらかなシンセにほどよくハードで叙情的なギター、マイルドなヴォーカルを乗せた
大人の叙情に包まれたシンフォプログレを聴かせる。ヴォーカルが英語のこともあって、
曲によってはアメリカのバンドのようなキャッチーな感触もあり、わりと耳心地よく楽しめる。
8分を超える大曲も多く、ピアノを含む優美なシンセに女性コーラスも加えての、
優雅でドラマティックな構築力には、TRANSATLANTICなどに通じるような雰囲気も覗かせる。
全体的には、派手に盛り上がるようなところはないので、ゆったりとしたシンフォプログレとして楽しめる。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 優雅度・・8 総合・・7.5
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AltaVia 「KREOSOTE」
イタリアのプログレバンド、アルタヴィアの2016年作
2010年にデビューし、2作目となる。Materyaにも参加していたシンセ奏者、ドラムを含む編成で、
アコースティックを含む叙情的なギターに、やわらかなシンセ、英語歌詞のヴォーカルを乗せた
優美なサウンドを聴かせる。プログレらしいシンセワークにメロウなギターフレーズ、
ほどよくテクニカルな軽やかなアンサンブルも覗かせて、10分を超える大曲を構築する。
曲によってはキャッチーな抜けの良さと、Materyaにも参加した女性ヴォーカルも加わって
男女Voを乗せた優雅な感触には、CONQUERORなどにも通じる雰囲気も感じさせる。
個人的にはももっと女性声をメインにしたナンバーを増やして欲しいが、総じて出来は悪くない。
メロディック度・・8 プログレ度・・7 優雅度・・8 総合・・7.5
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FLEA 「Topi O Uomini」
イタリアのプログレバンド、フレアの1972年作
ETNAの前身で、のちにGOBLINにも参加するマロンゴロ兄弟を含むバンドの唯一のアルバム。
のっけから20分という大曲で、手数の多いドラムにほどよくハードなギター、イタリア語のヴォーカルを乗せて、
軽妙であるがどっしりとした、いわばヘヴィ・ジャズロックというようなサウンドを聴かせる。
70年代初頭らしいブルージーなギタープレイも随所に覗かせつつ、フリオ・キリコばりのテクニックがある
ドラムの巧みなプレイとともに、プログレらしい緩急ある展開力も見せつける。後半は3曲の小曲で、
いくぶんアヴァンギャルドなテクニカル性から、アコースティックな叙情も含め、メンバーの技量も見事。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・8 テクニカル度・・8 総合・・8
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JEAN-MICHEL JARRE 「EQUINOXE」
フランスのミュージシャン、ジャン・ミッシェル・ジャールの1978年作/邦題「軌跡」
フランスを代表する電子音楽系アーティストで、本作は彼の代表作とされる作品。
8パートに分かれた構成でも美しいシンセの重ねをメインに、Tangerine Dreamにも通じる
スペイシーなサウンドを描いてゆく。ダークな雰囲気がないので、幻想的な透明感に包まれていて
Klaus Schulzeの「Mirage」あたりにも通じる、優雅な聴き心地が楽しめる。リズムの入ったナンバーは、
キャッチーなシンセポップ風味もあって、シンセミュージックの初心者にも薦められる好作品だ。
ドラマティック度・・7 幻想度・・8 シンセ度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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LAURENT THIBAULT 「Mais on Ne Peut Pas Rever Tout Le Temps」
フランスのミュージシャン、ローラン・ティボーの1978年作
初期のMAGMAにも参加したベーシストで、本作はアンリ・ルソーの絵画を用いた美しいジャケに目を引かれる唯一のソロ作品。
デヴィッド・ローズがヴァイオリンで参加、NATIONAL HEALTHのアマンダ・パーソンズによる美しいソプラノヴォーカルに
優美なアコースティックギター、うっすらとしたシンセにヴァイオリンが絡み、幻想的なジャズロックサウンドを聴かせる。
軽やかなアンサンブルに男女コーラスを乗せた、MAGMAに通じるミステリアスな空気感と優雅な牧歌性が合わさって、
ほどよくエキセントリックな雰囲気も覗かせつつ、さほどテクニカルにはならないやわらかな味わいが特徴的だ。
マグマに比べると薄味なのでインパクトはさほどないが、フランスらしい優雅なジャズロックが楽しめる好作品だ。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 優雅度・・8 総合・・7.5
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SAGA「Heads Or Tales Live」
カナダのプログレハード、サーガのライブ作品。2011年作
1983年作「Heads Or Tales」を完全再現したライブを収録。ヴォーカルとドラム以外は当時のメンバーで、
美麗なイントロで幕を開け、きらびやかなシンセに巧みなギターを重ね、伸びやかなヴォーカルとともに、
かつての楽曲をスタイリッシュに再現してゆく。80年代らしいビート感あるナンバーもツーバスのドラムを含めた
より厚みのあるサウンドになっていて、シンフォニックなプログレハードとして現在でも充分に楽しめる。
ジム・ギルモアの美麗なシンセワークと渋みを増したイアン・クライトンのギタープレイも随所に光っていて、
ロブ・モラッティの歌声も決してサドラーにひけをとらないだけの表現力があって、個人的にはまったく問題なし。
全41分、よけいな曲を入れずに、純粋な完全再現のライブ作品にしていることも意義深いだろう。
ライブ演奏・・8 キャッチー度・・8 完全再現度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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MIA 「Transparencias」
アルゼンチンのシンフォニックロック、ミアの1976年作/邦題「クリスタルの海」
1978年までに3作を残したバンドのデビュー作で、クラシカルなピアノによる優美なイントロ曲から、
軽やかなドラムにオルガンなどのシンセを乗せた、軽妙なインストパートを展開する。
若き日のリト・ヴィターレの瑞々しいキーボードプレイとともに、THE NICETRACEにも通じる
優雅なクラシカル性と、変拍子を含むジャズロック的なアンサンブルが合わさったような聴き心地。
後半の20分の大曲は、ピアノやオルガンにやわらかなフルート、女性スキャットも加わって繊細な叙情美に包まれる。
ボーナスには1978年録音の未発音源を収録。クラシカルでアヴァンギャルドなピアノ演奏やジャズタッチのナンバーなどが楽しめる。
クラシカル度・・8 プログレ度・・8 優雅度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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7/17
キャストを聴け!(196)


CAST 「Vigesimus」
メキシコのプログレバンド、キャストの2021年作
1994年にデビュー、この20年ほどは出すアルバムがすべてド傑作という、まさに世界最高クラスのプログレバンド、
本作はおそらく21作目で、ヴァイオリンが鳴り響き、美麗なシンセとギターを重ねた、サグラドを大仰にしたようなイントロからして
もうすでに充分濃密である。クラシカルなピアノにアコースティックギターもまじえた叙情性を織り込みつつ、
テクニカルなリズムと軽妙なアンサンブル、ほどよいハードさと壮麗なシンフォニック性が華麗に行き来する。
今作では、ヴォーカルが英語で歌うこともあって、辺境感も薄まり、ずいぶんと聴きやすくなったという印象。
アルバム後半には10分を超える大曲が並び、ドラマティックな構築力とともに優雅なシンフォプログレが楽しめる。
前作「Power and Outcome」の出来が凄すぎて、あれを超えるのは無理だろうと思っていたが、本作も圧巻の傑作。
シンフォニック度・・9 プログレ度・・8 壮麗度・・9 総合・・9 過去作のレビューはこちら
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EMERSON,LAKE & PALMER 「High Voltage Festival 2010」
イギリスのプログレバンド、エマーソン・レイク・パーマーのライブ。2012年作
2010年、ロンドンで行われたデビュー40周年の一夜限りの復活ライブを2CDに収録。
のっけから「悪の教典#9」の抜粋で始まり、オルガンをかき鳴らすエマーソンにドカドカと元気なパーマーのドラム、
いくぶんオヤジ臭くなったレイクの歌声で、かつてのサウンドを再現。エマーソンの鍵盤がいくぶんたどたどしく、
かつての勢いある演奏にはほど遠いのだが、それはそれ、40年をへたメンバーたちの味のある音が楽しめる。
とくにエマソーンもレイクも、これがELPとしての最後のプレイなのだから、二人亡きいまとなっては貴重な記録である。
「未開人」「ナイフ・エッジ」「石をとれ〜タルカス」といった初期のナンバーは、やはりファンには嬉しいところ。
Disc2では「展覧会の絵」も披露。演奏も音質も最高とは言い難いが、EL&Pの最後のライブとしてファンは聴いておくべき。
ライブ演奏・・7 音質・・7 最後のELP度・・9 総合・・7.5 過去作のレビューはこちら
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Curved Air 「Tapestry of Propositions」
イギリスのプログレバンド、カーヴド・エアの2016年作
1970年デビューの大ベテラン。2008年に復活してからは、メンバーチェンジをへて旺盛にツアーをこなすなど活動を続けている。
本作は2012〜2014年のツアーの中から、1st収録のナンバー「Propositions」の即興パートを集めたという
変則的なライブ作品になっている。ソーニャ・クリスティーナのハスキーな歌声が乗るのは冒頭とラスト曲のみで、
あとは演奏陣によるインプロヴィゼーションになっていて、鳴り響くヴァイオリンにシンセとギターが重なり、
ブルージーでサイケでクラシカルという、フリーキーで躍動的な演奏を繰り広げている。ややラウドな音質も
むしろ生々しいライブ感になっていて、ドカドカとしたドラムをはじめ、アッパーなサイケロックとしても楽しめる。
60分強のインストは、コアなファンでないとついていけないかもしれないが、これもバンドの側面を表す作品である。
ライブ演奏・・8 サイケ度・・8 即興度・・9 総合・・7.5 過去作のレビューはこちら
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Curved Air 「The Curved Air Family Album」
イギリスのプログレバンド、カーヴド・エアの2019年作
本作はバンドの歴史を紐解くように、ダリル・ウェイやソーニャ・クリスティーナをはじめとする歴代メンバーのソロや、
バンド音源に未発表曲8曲を含む、全26曲を2CDに収録した、まさにカーヴド・エア・ファミリーの作品集となっている。
バンドの曲はもちろん、ダリル・ウェイのモダンでキャッチーなソロ曲やフランシス・モンクマンによるクラシカルなチェンバロの独奏、
2008年作「Reborn」収録曲のオーケストラバージョンなども聴きどころ。Disc2では、ロバート・ノートンによる優美なピアノ曲や、
ソーニャの美しい歌声を乗せたアンビエントなナンバー、RFK名義の13分におよぶインプロ的なインストナンバーなども味があり、
クラシックやサイケなどの要素と、それぞれのメンバーのセンスや個性が持ち寄られたバンドであったことが、改めて窺い知れる。
ラスト曲のYESのカヴァー曲もじつに優雅で美しい。バンドの歴史とメンバーたちの変遷が俯瞰できるファンには嬉しい内容だろう。
バンドの歴史度・・9 プログレ度・・7 楽曲多様度・・9 総合・・8
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Renaissance 「Live at the BBC - Sight & Sound」
イギリスのクラシカルロック、ルネッサンスのライブ音源集。2016年作
本作は以前にもCD化されていた「BBC Sessions」の拡大版で、3CD+DVDというボックスセット。
Disc1は1977年のライブ音源を68分収録。編集版だったBBCセッション版に比べて、前説のMCも含めて
ライブとしての流れで楽しむことができる。モノラルながら音質も良好で、伸びやかなフニー・ハズラムの歌声が
魅力たっぷりに響き渡る。オーケストラアレンジはないものの、純粋なバンド演奏による大曲「Mother Russia」や
代表曲「Ocean Gypsy」などもじつに優美な仕上がりだ。Disc2は1975年のライブ、1978年8月のスタジオセッションを収録、
Disc1とけっこう曲はかぶるが、18分に拡大された大曲「Ashes Are Burning」などはシンフォニックなスケール感が感動的。
Disc3は、1976年のライブ音源を収録。25分におよぶ壮麗なシンフォニック大曲「Song of Scheherazade」も披露してくれる。
DVDにはDisc1と同じ、1977年のライヴ映像を収録。TV用なので画質も良好。若き日のアニーの姿にウットリです。
クラシカル度・・9 優美度・・9 アニーの歌声度・・9 総合・・9 過去作のレビューはこちら
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Renaissance 「The Mystic And The Muse」
イギリスのクラシカルロック、ルネッサンスの2010年作
2010年の来日記念の3曲入りEPで、1曲目のタイトル曲は、アニー・ハズラムの美しい歌声に
クラシカルなピアノ、オーケストレーションも加えた、往年を思わせるシンフォニックなサウンドで、
まさにルネッサンス完全復活を思わせる、8分近くの大曲。キャッチーで優美な感触の2曲目や、
繊細なピアノとオーケストラアレンジをバックに、しっとりと美しい歌声が楽しめる3曲目もウットリです。
タイトル曲は、2013年のアルバム「Grandine Il Vento(消ゆる風)」にも収録されるのだが、
「消ゆる風」未聴の方は、日本限定の本EPを入手して、ぜひ聴いていただきたい。
クラシカル度・・8 優美度・・9 アニーの歌声度・・9 総合・・8
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Prog Collective 「Worlds On Hold」
YESのビリー・シャーウッドによるプロジェクト、プログ・コレクティヴの2021年作
8年ぶりとなる3作目で、トッド・ラングレン、ジェフ・テイト、ロン・サール、ジョン・デイヴィソン、パトリック・モラーツ、
ヤン・アッカーマン、ソーニャ・クリスティーナ、スティーヴ・ヒレッジ、アルイエン・ルカッセン、スティーブ・ハケット、
ロイネ・ストルト、デレク・シェリニアン、グラハム・ボネット、ジョー・リン・ターナー、ジェフ・ダウンズといった
著名なゲスト陣が参加。実力あるシンガーの歌声とともに、キャッチーなプログレハードを聴かせる。
ジョン・デイヴィソンが歌ういかにもなYES風ナンバーや、ソーニャ・クリスティーナの歌う優雅なナンバー、
スティーブ・ハケットのギターにアルイエン・ルカッセンのヴォーカルという意外な取り合わせも面白かったり、
グラハム・ボネットが歌う、Procol Harumの「青い影」や、デヴィッド・クレイトン・トーマスが歌う、Moody Blue
「サテンの夜」などもなかなか渋い仕上がりだ。なんだかんだで聴きどころは多い内容である。
キャッチー度・・8 プログレ度・・7 豪華ゲスト度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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PAVLOV'S DOG 「PAMPERED MENIAL」
アメリカのプログレバンド、パヴロフス・ドッグの1975年作
叙情的なギターにメロトロンを含むシンセ、ヴァイオリンなどのストリングスを重ねたシンフォニック性と
デヴィッド・サーカンプの中性的なハイトーンヴォーカルが特徴的な、キャッチーで優雅なサウンド。
メロウなフレーズを奏でるギターややわらかなフルートの音色、うっすらとしたメロトロンが鳴り響きつつ、
あくまでアメリカンロック寄りの抜けの良さがあって、独特のヴォーカルも含めてマイナー臭さは感じさせない。
楽曲も3〜5分前後と、ほどよくシンプルなところも、マニアックにならない聴きやすさで楽しめる。
リマスター盤では音質も向上し、ピアノやアコースティックを含む繊細なアレンジ面でも傑作と再認識。
メロディック度・・8 プログレ度・・7 優雅度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Lasting Weep「The Early Years」
カナダのプログレバンド、ラスティング・ウィープの2007年作
のちにMANEIGEを結成する、ジェローム・ラングロワとアラン・ベルジェロンが在籍したバンドの
1969〜71年までに録音された未発音源集。軽やかなアンサンブルにフルートが鳴り響く、
優雅なジャズロック的なサウンド。ギターはわりとブルージーな感触もあったりもするが、
吹き鳴らされるフルートの存在感が強く、ほどよくユルメのフリーキーさは、プログレというよりは
やはりアートロックという聴き心地。録音面も含めて、あくまで発掘音源という趣ながら、
25分におよぶ大曲のライブ音源など、全75分という聴きどころの多いマテリアルだ。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 優雅度・・8 総合・・7.5
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LUNAR CHATEAU 「BEYOND THE REACH OF DREAMS」
アメリカのプログレバンド、ルナー・チャテアの2001年作
1993年にデビュー、本作は2作目でラスト作。ギターレスのいわゆるキーボードトリオで、
美麗なシンセワークを中心にした、優雅なシンフォニックロックを聴かせる。軽妙なドラムや
存在感のあるベースのプレイもなかなかのもので、フュージョン寄りでもあるアンサンブルに
ときおり歌も加わるのだが、いくぶん素人臭いヴォーカルがB級感をかもしだしてしまっている。
後半は10分を超える大曲2曲で、しっとりとしたアンビエントな感触に女性コーラスが重なる、
幻想的なサウンドから、ラスト曲ではリズムチェンジを含むドラマティックなシンフォニックロックを聴かせる。
派手な盛り上がりはさほどないものの、アメリカン・キーボードプログレの隠れた逸品といえる。
シンフォニック度・・7 プログレ度・・7 キーボー度・・8 総合・・7.5
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FLEESH 「WHAT I FOUND」
ブラジルのシンフォニックロック、フレーシュの2017年作
やわらかなシンセに美しい女性ヴォーカルを乗せ、叙情的なギターとともに優美なサウンドを聴かせる。
楽曲は4〜5分前後とわりとコンパクトで、ゆったりとしたなサウンドの中にもキャッチーな味わいがあって、
南米的なマイナー感触はあまり感じさせない。反対にプログレ的な展開力というのもあまりないのだが、
しっとりとした女性声の優雅な魅力とともに、耳心地の良いメロウなフィメールロックとして楽しめる。
美麗なシンセワークとギターの旋律に、ほどよくメランコリックな翳りを含んだ、女性声シンフォの好作です。
優美度・・9 プログレ度・・7 女性Vo度・・8 総合・・8
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R-U KAISER 「DESDE LA OSCURIDAD」
チリのプログレバンド、R-U・カイザーの2018年作
2007年にデビューし、本作は11年ぶりとなる2作目。男女ヴォーカルにシンセを含む編成で、
モダンなシンセにスペイン語の女性ヴォーカルを乗せた、スタイリッシュなサウンドを構築する。
叙情的なギターの旋律にスペイシーなシンセアレンジも耳心地よく、やわらかな浮遊感とともに
随処にほどよいハードさも覗かせる。楽曲的には起伏のある展開がもう少しあればと思うが、
デジタルな感触のモダンシンフォという聴き心で、世界観としては統一性は感じられる。
ラストはスペイシーで壮麗な9分の大曲であるが、全5曲で37分というのも少し物足りないか。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 スタイリッシュ度・・8 総合・・7.5
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Congreso 「EN VIVO - Montreal, Octubre 1988」
チリのジャズロック、コングレッソのライブ。2019年作
1971年デビューのベテランで、本作はその全盛期というべき、1988年カナダでのライブを収録、
FULANOのベースとシンセ奏者を含む6人編成で、やわらかなピアノにサックスが鳴り響き、
スペイン語によるマイルドなヴォーカルを乗せた、優雅なサウンドを聴かせる。軽やかなアンサンブルに
フルートやマリンバのやわらかな音色も重ね、南米らしいフォルクローレ的でもある哀愁の叙情と
楽し気なジャズが同居した、いわば北欧のサムラにも通じるコミカルなごった煮感が味わえる。
変則リズムを含むほどよくアヴァンギャルドなところでも、軽妙なドラムとベースを土台にした
高い演奏力であくまで優雅な聴き心地である。音質も良好で、バンドの入門用にもどうぞ。
ライブ演奏・・8 プログレ度・・7 優雅度・・9 総合・・8
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FULANO「En Vivo En Los Angeles De Chile 2002」
チリのジャズロック、フラノのライブ。2017年作
CONGRESOのメンバーを中心にして、1987年にデビュー、1997年までに4枚のアルバムを残し、
その後、2015年に復活作を発表し解散する。本作は、2002年のチリでのライブを収録。
エレピを含むシンセにサックスが鳴り響き、スペイン語の女性ヴォーカルの歌声を乗せた、
アダルトなジャズ風ナンバーから、フォルクローレ風味の優雅な叙情性も覗かせつつ、ドラムソロなどを含む
フリーキーな演奏もライブならでは。軽妙なテクニックの高度なアンサンブルで、臨場感あるライブ演奏が楽しめる。
なお、本作は、2003年に死去するシンセ奏者ハイメ・ヴィヴァンコの最後のステージ音源でもある。
ライブ演奏・・8 プログレ度・・7 軽妙度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Animal en Extincion 「Antes y Despues」
チリのプログレ・ジャズロック、アニマル・エン・エクスティンシオンの2019年作
解散したFULANOのメンバーを主体に結成されたバンドで、やわらかなエレピにサックスの音色が重なり、
存在感あるベースとドラムがかもしだすアンサンブルに、スペイン語の美しい女性ヴォーカルを乗せた、
まさにフラノの続編というべき優雅なプログレ・ジャズロックを聴かせる。たたみかけるリズムに
女性スキャットが妖しく響きわたる、いくぶんMAGMAを思わせるようなナンバーもあって、
オルガンを使ったり緩急のある楽曲展開も含め、全体的にもよりプログレッシブな印象になった。
フォルクローレ風の南米らしさは薄まったものの、女性声アヴァン・ジャズロックとして楽しめる好作品。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・8 優雅度・・9 総合・・8
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NEXUS 「Perpetuum Karma」
アルゼンチンのプログレバンド、ネクサスの2006年作
1999年にデビュー、本作は3作目。のっけから17分という大曲で、適度にハードなギターに
オルガンを含むシンセを乗せ、ほどよくテクニカルなリズムとともにプログレらしさたっぷりの聴き心地。
スペイン語によるヴォーカルや叙情的なギターフレーズが、南米らしい哀愁をかもしだしつつ、
オルガンをメインにしたEL&Pのような鍵盤プログレパートなど、ほどよいコテコテ加減で楽しめる。
2曲目も14分、その後も、9分、9分、14分と、とにかく曲が長いので、気が短い方には長尺すぎるだろうが
ゆったりとしたメロウな叙情曲も含めて、じっくりとプログレらしさが味わえる全72分の力作です。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・8 叙情度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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7/2
イギリス、イタリア、フランス、ドイツのプログレ(180)


ASIA MINOR 「POINTS OF LIBRATION」
フランスのプログレバンド、アジア・ミノールの2021年作
1979年にデビュー、1981年作「BETWEEN FLESH AND DIVINE」はフレンチ系シンフォプログレの名作として名高いが、
本作はじつに40年ぶりとなる復活作。やわらかなシンセと流麗なギターを乗せた軽やかなアンサンブルはかつてのまま、
翳りを含んだ叙情性とクールな構築力で描かれるサウンドは、まさにアジア・ミノールである。優美なフルートの音色に
フランスなまりの英語ヴォーカルはどこかシアトリカルな味わいで、優雅でありながらミステリアスな空気を感じさせ、
しっとりとしたアコースティックパートも幻想的で、メンバーがトルコ出身ということもあり、中近東的な民族色も覗かせる。
全体的にはスリリングなところよりは、ゆったりとした叙情パートが多いのだが、この復活を機に過去の名作も再評価されるだろう。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 優雅度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Magenta 「Lost Reel」
イギリスのプログレバンド、マジェンタの2020年作
2020年作「Master of Illusion」収録の5曲を新たにミックス、さらに2001年の年デビュー作「REVOLUTIONS」、
2011年作「CHAMELEON」、2017年作「WE ARE LEGEND」、配信限定シングル曲からのリミックスを収録した、
全9曲入りのコンピ作品。クリスティーナ・ブースの美しいヴォーカルに優美なシンセワーク、叙情的なギターで
しっとりと耳心地の良いシンフォプログレを聴かせる。アコースティックを含む繊細なアレンジも覗かせつつ、
一方で16分という大曲「Masters Of Illusion」のインストミックスは、メロウなギターの旋律にオルガンなどのシンセで
ゆったりと優雅な味わいで楽しめる。ある意味、アルバム以上に聴きごたえがある、全73分です。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 優美度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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KYROS 「Celexa Dreams」
イギリスのプログレバンド、キロスの2020年作
SYNAESTHESIAのVo/Keyを中心にしたバンドで、2016年にデビュー、本作は2作目となる。
きらびやかなシンセアレンジにマイルドなヴォーカル、80年代ニューウェイヴ風のポップ感に包まれた
シンフォニックなプログレハードを聴かせる。ビート感のあるリズムにきらきらとしたシンセ、
随所にサックスも鳴り響き、10分、14分という大曲では、ほどよくテクニカルなリズムを含んだ
緩急ある展開力に、シンフォプログレとしてのドラマティックな味わいもしっかり覗かせる。
かつてのシティポップ風味をモダンなプログレに融合させたというようなスタイリッシュな傑作。
メロディアス度・・8 プログレ度・・7 キャッチー度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Fragile 「Golden Fragments」
イギリスのプログレバンド、フラジャイルの2020年作
TANTALUS、AQUAPLANAGEなどで活躍した、マックス・ハントを中心にした、YESトリビュートバンドのオリジナル作品で、
クレア・ハミルが前面参加。スティーヴ・ハウを思わせる優雅な旋律を奏でるギターにやわらかなシンセアレンジ、
そしてクレア・ハミルの優しい歌声を乗せて、まさにイエスの女性ヴォーカル版というようなサウンドを聴かせる。
軽やかなリズムによる展開力と、オルガンやムーグを含むヴィンテージなシンセで、70年代的な味わいと
ネオプログレとしての構築力が合わさった雰囲気。ラストの大曲は、MAGENTARENAISSANCEにも通じる
優雅なシンフォプログレで、イエスルーツの女性声シンフォとしてはクオリティの高い逸品といえるだろう。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 優美度・・9 総合・・8
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Moon Halo 「Chroma」
イギリスのプログレバンド、ムーン・ハローの2019年作
MOSTLY AUTUMNのイアイン・ジェニングス、RIVERSEAのマーク・アトキンソン、デヴッィド・クレメンツによるバンドで、
美しいシンセアレンジにマイルドなヴォーカルを乗せ、キャッチーでモダンなメロディックロックを聴かせる。
随所に叙情的なギターワークも覗かせつつ、ROXY MUSICのようなスタイリッシュなビートロック風味と、
PANIC ROOMのアン・ノリー・ヘルダー、MOSTLY AUTUMNのオリヴィア・スパーネンがゲスト参加しての、
男女ヴォーカルによる優雅な味わいも同居する。楽曲は3〜5分前後が中心で、わりとコンパクトなポップ性で
プログレ的な展開力はあまりないが、英国らしい優美な叙情を描く後半の楽曲などはさすがというところ。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 優美度・・8 総合・・8
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CONQUEROR「In Orbita」
イタリアのプログレバンド、コンカラーの2019年作
2003年にデビュー、本作は5年ぶりの6作目となる。やわらかなシンセにイタリア語の女性ヴォーカル、
フルートやサックスが鳴り響き、軽やかなアンサンブルとともに優雅な女性声プログレを聴かせる。
ヴォーカルも務めるシモーナ嬢のシンセワークは、オルガンやムーグなども含むヴィンテージな味わいで、
ときにクラシカナルなヴァイオリンの響きも加わって、優しい耳心地のシンフォプログレを展開してゆく。
やわらかなエレピにサックスが鳴り響く、カンタベリー的な軽妙なジャズロック風のパートから、
繊細なフルートが美しいしっとりとした叙情美まで、緩急のあるアレンジセンスも見事で、
メロウな泣きのギターも随処に光っている。10分を超える大曲もあくまで優雅に構築する逸品です。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 優雅度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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ALLUMINOGENI 「Metafisico」
イタリアのプログレバンド、アルミノジェニの2019年作
1972年にデビュー、1993年に20年ぶりに復活作を出し、本作はさらにそれから26年ぶりとなる作品。
やわらかなオルガンが鳴り響き、イタリア語のジェントルなヴォーカルで、牧歌的なオールドロックを聴かせる。
ギターで参加するのは若手メンバーで、随所に叙情的なフレーズを奏で、オルガンがメインのサウンドに
ほどよいアクセントをつけている。ドラムは基本ゆったりで、スリリングな展開はほとんどないが、
大人のヴィンテージロックとしてはこれで充分。オルガンはもちろん優美なピアノにも味がある。
活動48年でたった3作という、まさに寡作バンドの極みであるが、これがラスト作にならないことを。願
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 イタリア度・・8 総合・・7.5 過去作のレビューはこちら
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IL GIARDINO ONIRICO 「Apofenia」
イタリアのプログレバンド、イル・ジャルディーノ・オニリコの2019年作
2012年にデビューし、3作目となる。のっけから12分の大曲で、スペイシーなシンセワークに
適度にハードなギターを重ね、スケール感のあるインストのシンフォニックロックを描いてゆく。
La Maschera Di Ceraのアレッサンドロ・コルヴァグリアが参加した優雅でクラシカルなナンバーや、
SAINT JUSTのジェニー・ソレンティが妖しく美しい歌声を響かせる、しっとりとした叙情ナンバーなども、
随所にメロウなギターフレーズーを織り込みながら、ゆったりと叙情豊かに聴かせてくれる。
10分を超える大曲を中心に、プログレらしい緩急ある展開美も含んだ、全77分という力作です。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 優雅度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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FALENA 「UNA SECONDA STRANA SENSAZIONE」
イタリアのプログレバンド、ファレナの2019年作
叙情的なギターにエレピやオルガンを含むシンセを乗せ、イタリア語によるヴォーカルで聴かせる、
ほどよいハードさとヴィンテージ感に包まれたサウンド。イタリアらしいシアトリカルな妖しさとともに
随所にSEなどを含んだ小曲を織り込んで、じっくりとドラマ性を描いてゆく。アコースティックギターや
やわらかなフルートなどの優美な叙情性も覗かせつつ、ヴィンテージなハードさとつかみどころのない
エキセントリックな感触が見え隠れするところはなかなか個性的だ。明確な盛り上がりはさほどなく、
爽快なメロディアス性も希薄なので、とっつきはよくないが、わりとマニア好みの力作といえるだろう。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 イタリア度・・8 総合・・7
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Ellesmere 「II: From Sea and Beyond」
イタリアのシンフォニックロック、エレスメーレの2018年作
TAPROBANのロベルト・ヴィテッリによる プロジェクトバンドで、本作は2015年作に続く2作目。
TAPROBANのシンセ奏者とRANESTRANEのドラムをメンバーに、プログレらしいきらびやかなシンワセワークに
変拍子を含んだアンサンブルで、インストをメインにした優雅なシンフォニックプログレを構築する。
10分を超える大曲のインストも、叙情的なギターフレーズとシンセを重ねた優美な聴き心地で、
ロバー・ベリーが参加しての歌ものナンバーも、アルバムの中でアクセントになっている。
優雅な叙情に包まれた好作品です。トレイ・ガン(元KING CRIMSON)、デヴィッド・ジャクソン(元VDGG)、
キース・ムーア(元ARENA)、ダヴィー・オーリスト(元THE NICE)などがゲスト参加。
シンフォニック度・・8 プログレ度・・8 優美度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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ALTHEA 「The Art Of Trees」
イタリアのプログレバンド、アルテアの2019年作
2017年にデビューし、2作目となる。適度にメタリックなギターにうっすらとしたシンセアレンジに、
マイルドなヴォーカルを乗せて、テクニカルな構築性とキャッチーなメロディアス性が同居した
スタイリッシュなサウンドを聴かせる。ほどよくモダンな硬質感とともに、ときにポストプログレ的な
やわらかな歌もの感も覗かせて、優美なシンセアレンジとともにシンフォニックロックとしての味わいもある。
ProgMetal的でもある展開美とともに、9分の大曲なども壮麗な叙情性とモダンな優雅さで、
メロディックなドラマ性を描いてゆく。新世代のハードプログレ/シンフォとして期待の新鋭です。
メロディック度・・8 プログレ度・・7 スタイリッシュ度・・8 総合・・8
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Tazebao 「Opium Populi」
イタリアのプログレバンド、タツェバオの2017年作
MANGALA VALLIS、MOONGARDENのドラム、ALTARE THOTEMICOのヴォーカル、ベースなどによるバンドで、
中世暗黒時代ヨーロッパの異端審問や宗教迫害、宗教戦争をテーマにした作品。ハード寄りのギターにシンセを重ね、
イタリア語による骨太のヴォーカルを乗せて、シリアスでダークな味わいのハードプログレを展開する。
勇壮な歌声で聴かせるタテノリのサウンドはむしろゲルマン的でもあるが、ときに女性コーラスも加えたり
優雅にヴァイオリンも鳴り響く、幻想的な叙情を描くところはなかなか面白い。リズム自体はわりと単調なので、
全体的にプログレというよりは、イタリア語による勇壮なドラマティックロックという味わいだろう。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 イタリア度・・7 総合・・7.5
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PICTURES 「PAINTING THE BLUE」
イタリアのプログレバンド、ピクチャーズの1997年作
優美なシンセアレンジに叙情的なギター、マイルドなヴォーカルを乗せて、
キャッチーなメロディアス性と、泣きの叙情が同居したサウンドを聴かせる。
きらびやかなシンセとメロディックなギターフレーズ、随処に女性コーラスなども加えた
爽快なプログレハード風味に、シンフォニックな優雅さが加わったという作風で、
イタリアというよりは、むしろ英国のポンプロックをルーツにしたような聴き心地。
10分を超える大曲はいくぶん長尺感はあるものの、サウンド自体にマイナー臭さはなく、
全編キャッチーな叙情性で楽しめる。1作のみで消えるには惜しいバンドであった。
メロディック度・・8 プログレ度・・7 優美度・・8 総合・・8
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Clouds Can 「Leave」
ドイツのプログレバンド、クラウズ・キャンの2018年作
SCYTHETでも活躍する、トーマス・ティエレンによるユニットで、壮麗なシンセアレンジに
ジェントルなヴォーカルを乗せた、優雅でスタイリッシュなシンフォニックロックを展開する。
キャッチーで軽快なアンサンブルと、ポストプログレ的なやわらかな歌もの感が同居していて、
知的でモダンなセンスは、やはりTにも通じる聴き心地。メロウな叙情を奏でるギターと
ここぞと盛り上げる美麗なシンセで、ゆるやかなダイナミズムを描いてゆく。
楽曲は6〜7分前後と短すぎず長すぎず、翳りを帯びたメロディアス性が耳に心地よい。
ドラマティック度・・8 スタイリッシュ度・・8 叙情度・・8 総合・・8
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APOGEE 「Conspiracy Of Fools」
ドイツのプログレバンド、アポジーの2018年作
VERSUS Xのギターによるプロジェクトで、プログレらしいシンセワークにマイルドなヴォーカルを乗せ、
ドラマティックなサウンドをじっくりと構築する。随所に覗かせる抜けの良いキャッチーなメロディアス性と
アコースティックなパートなどを含む繊細な叙情、ときに女性コーラスやストリングスのアレンジなども加わり、
10分を超える大曲を中心に優美なシンフォニックロックを聴かせる。オルガンやムーグ、メロトロンなどのシンセの音が、
オールドなプログレ感触を描きつつ、ヘタウマなヴォーカルなどには、ほどよくマイナーなシンフォ感も漂わせている。
曲が長いので気が短い方には向かないが、優雅でドラマティックな本格派のシンフォプログレが楽しめる力作だ。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 優美度・・8 総合・・7.5
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NOIBLA 「HESITATION」
ポーランドのシンフォニックロック、ノイブラの2018年作
ALBIONの女性シンガーをフロントにしたバンドで、やわらかなオーボエの音色にシンセを重ね、
美しい女性ヴォーカルとともに、しっとりとしたサウンドを描く、初期QUIDAMなどにも通じる作風。
エレピなどを含むシンセアレンジは派手すぎず、随所にメロウな泣きのギターも耳心地よい。
プログレ的な展開はあまりないので、シンフォニックロックとしてはいくぶん地味であるが、
美しい女性声をメインにした、翳りを帯びた大人の叙情ロックという感じでも楽しめる。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 女性Vo度・・8 総合・・7.5
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6/11
6月のプログレ(164)


Steve Hackett 「Under A Mediterranean Sky」
イギリスのギタリスト、スティーブ・ハケットの2021年作/邦題「紺碧の天空」
本作は、自身が2019年に地中海を旅したときの景色にインスパイアされて作られた作品で、
アコースティックギターにオーケストラアレンジを加えた、壮麗にして優雅なサウンドを描いている。
12弦ギターを含む繊細なギターのつまびきに、ロジャー・キングによるオーケストレーションが重なり、
シンフォニックにして異国的な詩情に包まれた、典雅なインストサウンドをゆったりと楽しめる。
ジョン・ハケットやロブ・タウンゼントが参加して、やわらかなフルートの音色も聴かせてくれる。
地中海諸国のフォトが美しいブックレットも含めて、じつに優美な作品に仕上がっている。
シンフォニック度・・8 ロック度・・1 優雅度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Marillion 「With Friends From The Orchestra」
イギリスのプログレバンド、マリリオンの2019年作
本作はオーケストラを迎えて、過去の楽曲を新たにオーケストラ入りアレンジで構成した作品。
優雅なストリングスやフルートの音色に、メロウなギターとうっすらとしたシンセが重なり、
スティーヴ・ホガースのマイルドなヴォーカルを乗せて、壮麗なサウンドを聴かせる。
シンフォニックなアレンジが加わったかつての楽曲は、静と動のダイナミズムとともに、
表現力あるホガースの歌声でより感動的な仕上がりに。16分を超える大曲「This Strange Engine」や、
18分に及ぶ「Ocean Cloud」などもドラマティックな仕上がり。オケとバンドサウンドが自然体で融合した作品です。
シンフォニック度・・9 プログレ度・・7 優美度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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ILLUMINAE 「Dark Horizons」
イギリスのシンフォニックロック、イルミナエの2021年作
KARNATAKAのイアン・ジョーンズ、CAAMORAに参加した女性シンガー、アグニエスカ・スウィタによるプロジェクトで、
THE TANGENTのルーク・マシン、FROST*のクレイグ・ブランデルが全面参加、ゲストにスティーブ・ハケット、
トロイ・ドノクリー(Nightwish)も参加している。やわらかなシンセアレンジにメロウなギター、美しい女性ヴォーカルで、
KARNATAKAにも通じる優美なシンフォニックロックを聴かせる。ギターの旋律にはケルティックな味わいもあり、
トロイ・ドノクリーによるイーリアンパイプやホイッスルの音色とともに、ほどよい民族色と優雅な叙情性が融合している。
曲によってはポップでキャッチーなテイストもあるが、アグニエスカ嬢のたおやかな歌声でどれもしっとりと楽しめる。
全体的には、もう少し明快な盛り上がりがあると良いのだが、ラストは11分の大曲で泣きのギターと美しい歌声にウットリ。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 女性Vo度・・8 総合・・8
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Solstice「Sia」
イギリスのプログレバンド、ソルスティスの2020年作
1984年にデビュー、1997年までに3作を残して消えるも、2010年に復活、本作は7年ぶりとなる6作目。
女性シンガーが交替しているが、作風はこれまでの延長上。メロウなギターにヴァイオリンが鳴り響き、
女性ヴォーカルを乗せた優雅なサウンド。オルガンを含むシンセが、ほどよくヴィンテージな味わいをかもしだし、
わりとハードなギターも加えたロック感触も覗かせる。一方ではアコースティックギターや繊細なピアノなど、
牧歌的な叙情性も耳心地良く、英国らしい空気感に包まれるところは、さすがにキャリアのあるバンドである。
ラスト曲は、1st「Silent Dance」収録のリメイクナンバーで、しっとりとした優美な仕上がり。
優雅度・・9 プログレ度・・8 女性Vo度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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DBA (DOWNES BRAIDE ASSOCIATION) 「HALCYON HYMNS」
ジェフ・ダウンズとクリス・ブレイドのユニット、ダウンズ・ブレイド・アソシエイションの2020年作
2012年にデビューし、4作目。ドラムには、This Oceanic Feelingに参加する、アッシュ・ソアンが参加、
CELESTIAL FIREのデイヴ・ベインブリッジなどもゲスト参加してい。今作もジャケはロジャー・ディーンで、
アコースティックギターによる優美なイントロから、クリス・ブレイドのマイルドなヴォーカルを乗せて、
英国らしい牧歌的なサウンドが広がってゆく。やわらかなシンセアレンジにメロウなギターワークが
楽曲を優しく彩り、キャッチーなプログレハードナンバーから、繊細なシンフォニックロック風味まで、
今作はより叙情的な作風で楽しめる。ゆったりとした11分の大曲なども含む、全63分の力作です。
DVDには、ロジャー・ディーンのアートワーク制作のドキュメントやPVなどを収録。
メロディック度・・8 プログレ度・・7 優美度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Dave Brons 「Not All Those Who Wander Are Lost」
イギリスのミュージシャン、デイヴ・ブロンズの2020年作
CELESTIAL FIREのギタリストでもあるミュージシャンで、本作は指輪物語をコンセプトにした作品。
デイブ・ベインブリッジをはじめ、同バンドのメンバーも参加、叙情的なギターにうっすらとしたシンセを重ね、
イーリアンパイプやホイッスルなどの民族色を含んだ、ケルティックなシンフォニックロックを聴かせる。
随処にほどよくハードなギターも覗かせつつ、やわらかなピアノなどの繊細な叙情性とのメリハリのある
ダイナミクスとともに、ときに美しい女性ヴォーカルも加わって、IONAにも通じるような優美で幻想的なサウンドが楽しめる。
全体的にはインストパートがメインで、個人的にはもっと女性声を入れてもらいたいが、ケルティック・シンフォの力作なのは間違いない。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 叙情度・・8 総合・・8

Looking-Glass Lantern 「A World Of Great Invention」
イギリスのシンフォニックロック、ルッキンググラス・ランターンの2020年作
プログレらしいきらびやかなシンセワークにマイルドなヴォーカルを乗せ、優雅なシンフォプログレを聴かせる。
甘いヴォーカルメロディは、ときにMOON SAFARIあたりにも通じるキャッチーな味わいで、
叙情的なギターの旋律とともに英国らしいウェットな叙情を描き出す。10分、16分という大曲も
派手な展開はないものの、あくまでやわらかな優雅さに包まれて、じっくりと王道のシンフォを構築。
クラシカルなシンセを主体にしたインストパートなども魅力的で、こうなるとやぼったいヴォーカルが惜しい。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 優雅度・・8 総合・・7.5
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Chasing The Monsoon 「No Ordinary World」
イギリスのシンフォニックロック、チェイシング・ザ・モンスーンの2019年作
KARNATAKAのイアン・ジョーンズを中心に、元KARNATAKAの女性Voであるリサ・フューリィも参加、
メロウなギタープレイに美麗なシンセ、やわらかな女性ヴォーカルの歌声を乗せた叙情豊かなサウンドで、
トロイ・ドノクリー(Nightwish)によるフルートやホイッスルが素朴でケルティックな香りも加えている。
リサ嬢の魅力的な歌声は、楽曲をしっとりと優美に彩り、泣きのギターフレーズはときにCAMELのようで、
英国らしいウェットな叙情を描いている。全体的に派手なところはあまりなく、ゆったりとした大人のサウンドであるが、
美しい女性声と甘美なギタープレイが合わさった耳心地の良さに浸れます。アダルトなカルナタカという逸品。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 女性Vo度・・8 総合・・8
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The Anchoress 「Confessions of a Romance Novel」
イギリスの女性SSW、キャサリン・アン・デイビスによるプロジェクト、アンコレスの2016年作
ポール・ドレイパーが共同プロデュース、「ロマンス小説家の告白」と題された作品で、
艶めいた彼女の歌声を中心に、80年代グラムロックやデカダンスの香りを感じさせる世界観に、
ケイト・ブッシュ的な文学的な幻想性が合わさった聴き心地。ほどよくキャッチーなロック感触と、
表情を変えるヴォーカリストとしての表現力が、わりとオーソドックスな英国風味をかもしだしつつ、
決して古臭くもないというのが絶妙のセンス。楽曲は3〜4分前後とわりとシンプルながら、ポップ過ぎず、
K-Scopeレーベルからの配給という点も含めて、我々プログレリスナーにも楽しめる作風といえる。
キャッチー度・・8 プログレ度・・6 女性Vo度・・8 総合・・8
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JUDY DYBLE 「Live at WM Jazz」
イギリスの女性シンガー、ジュディ・ダイブルのライブ。2014年作
FAIRPORT CONVENTION、初期のKING CRIMSON、TRADER HORNなどに参加したシンガーで、
本作は、2013年のイギリスでのステージを収録。THE CURATORのアリスター・マーフィをはじめ、
スタジオ作にも参加する、ジェレミー・サルモンらをバックに、近年の傑作ソロ「TALKING WITH STRANGERS」
「FLOW AND CHANGE」からのナンバーを主体に、FAIRPORT CONVENTIONやTRADER HORNのナンバーも披露。
年齢をへてもその美しい歌声は不変、やわらかなシンセをバックにヴァイオリンなども加わって、英国フォークルーツの
優雅な叙情を優しい歌声で聴かせてくれる。彼女のMCも含めてアットホームな雰囲気で、自然体のライブが楽しめます。
優雅度・・8 ロック度・・2 ジュディの歌声度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Cirrus Bay 「The Art Of Vanishing」
アメリカのシンフォニックロック、シラス・ベイの2019年作
2008年にデビュー、本作は6作目となる。アコースティックを含む繊細なギターにうっすらとしたシンセ、
美しい女性ヴォーカルを乗せた、清涼感のある優美な女性声シンフォニックロックを聴かせる。
静と動のメリハリある展開力で、やわらかな叙情性とともにプログレらしいダイナミズムを表現。
牧歌的でありながらキャッチーで爽快な味わいは、英国のSOLSTICEなどにも通じるだろう。
やわらかなサックスの音色にピアノを重ねた優雅なインストパーとなど、歌ものにとどまらない
楽曲アレンジの多彩さの点でも、バンドの最高作と言えるだろう。もちろん女性声の魅力もたっぷり。
12分を超えるラストのクラシカルなピアノ曲も含めて、全70分の優美なる力作に仕上がっている。
優雅度・・9 プログレ度・・8 女性Vo度・・8 総合・・8.5 過去作のレビューはこちら
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The Bardic Depths
アメリカのプログレユニット、バルディック・デプスの2020年作
「ナルニア国物語」で知られる作家、C・S・ルイスと、「指輪物語」のJ・R・R・トールキンとの友情をコンセプトにした作品。
ほどよくハードなギターにシンセアレンジを重ねたモダンなシンフォニックロックに、随処に語りを含んだドラマ性や、
うっすらとしたシンセにサックスが鳴り響く、アンビエントなサウンドスケープ風味や、80年代風のポップなビート感など
わりとつかみどころがない。楽曲的にはこれという盛り上がりがないので、なんとなく煮え切らない聴き心地。
COSMOGRAFのロビン・アームストロング、TIGER MOTH TALESのピーター・ジョーンズなどがゲスト参加。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 楽曲・・6 総合・・7
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UMAE 「LOST IN THE VIEW 」
カナダのプログレバンド、ウマエの2019年作
ほどよくハードなギターがメロディックなフレーズを奏で、うっすらとしたシンセアレンジとともに、
軽やかでスタイリッシュなアンサンブルを聴かせる、モダンでキャッチーなプログレサウンド。
かすれた味わいのヴォーカルがオールドなロックのイメージをまとわせて、オルガンやメロトロン風の
シンセワークと叙情的なギターが重なってゆくと、BIG BIG TRAINなどにも通じる味わいで
古き良きシンフォプログレの空気感も楽しめる。ときに女性ヴォーカルも加えた優雅さと
アコースティックギターにやわらかなフルートの音色、ストリングスなどを含む叙情パートなど、
起伏のある展開とともに、10分を超える大曲を優美に構築してゆく。ゲストに、PORCUPINE TREEのジョン・ウェズレイ、
アメリカのシンセ奏者、アダム・ホルツマン、HAKENのコナー・グリーン、NEAL MORSE BANDのエレック・ジレットなどが参加。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 優雅度・・8 総合・・8
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ORION 「La Face Visible」
フランスのプログレバンド、オリオンの2015年作
1979年に1作を残して消えたバンドの35年ぶりの復活作。東西ドイツの統一をテーマにしたコンセプト作で、
叙情的なギターにシンセを重ね、フランスらしい翳りを帯びた空気感とともに、ジャズロック的でもある
軽妙な優雅さを含んだサウンドを展開する。モダンなビート感によるポップな感触と、
フランス語のヴォーカルを乗せたアンニュイな叙情が同居していて、楽曲展開に派手さはないが、
ゆったりとしたサウンドの中にも、フレンチらしいシアトリカルな雰囲気を感じさせる。
シンフォニックな優雅さか、ジャズロックの軽妙さか、ややどっちつかずなところが惜しい。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 フレンチ度・・8 総合・・7
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VA/Progday'98
アメリカで行われたプログレフェス、プログデイのステージを収録した2CD。1998年作
Crucible、Soundscape、Discipline、The Flower Kings、Alaska、A Piedi Nudi、Par Lindh Projectが参加。、
Crucibleの20分におよぶ大曲はGENESISの「Supper's Ready」を思わせる優雅な叙情に包まれる。
Disciplineは、ピーター・ハミルのようなシアトリカルなヴォーカルとともに、18分の大曲をじっくりと構築する。
The Flower Kingsは、優美なシンセとメロウなギターとともに、20分におよぶ「Stardust WE Arre」を披露、
Alaskaはきらびやかなシンセを乗せた軽やかなアンサンブルで、スタイリッシュなプログレを聴かせる。
A Piedi Nudiは、ほどよくエキセントリックなセンスとイタリアらしい優美な叙情が同居した個性的なサウンド。
Par Lindh Projectは、オルガンなどのクラシカルなシンセにヴァイオリンが鳴り響き、女性ヴォーカルとともに
バロックなシンフォプログレを展開する。マイナー系バンドの演奏も含めて、貴重なライブ音源が楽しめる。
ライブ演奏・・8 プログレ度・・8 出演バン度・・8 総合・・8


5/22
5月のプログレ(149)


JADIS 「No Fear of Looking Down」
イギリスのシンフォニックロック、ジャディスの2016年作
1989年にデビュー、本作は8作目となる。美麗なシンセに叙情的なギター、マイルドなヴォーカルを乗せて
1曲目からキャッチーなシンフォニックロックが全開。ゲイリー・チャンドラーの奏でる泣きのギターフレーズも
随所に輝きを放っていて、アコースティックなパートなども折り込みつつ、優雅なサウンドを描いてゆく。
いくぶんモダンな翳りに包まれたナンバーでは、ポストプログレ寄りでもあるスタイリッシュな感触も覗かせつつ、
IQのマーティン・オフォードがゲスト参加、やわらかなフルートやハーディ・ガーディの音色も聴かせてくれる。
派手に盛り上がるところはないが、かつてのジャディスに大人の味わいが加わったという好作品です。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 優雅度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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The Samurai of Prog 「The Demise Of The Third King's Empire」
フィンランドのシンフォニックロック、サムライ・オブ・プログの2020年作/邦題「三代目国王帝国の終焉」
2016年作「Lost And Found」収録、QUILLの未発曲をもとにした57分に及ぶ組曲を再録音した作品で、
ナレーションを含む物語的なコンセプトストーリーに、随所にストリングスを含む壮麗なアレンジと
ヴィンテージなプログレ感触が同居したドラマティックな大曲を展開する。インストパートの緩急ある展開に、
ゲストを含むヴォーカルも加わり、メロウなギターの旋律に繊細なフルートも彩りを添えながら、
GENESISにも通じる優雅な味わいが楽しめる。元バージョンと聴き比べるのもいいだろうが、
なにしろ曲が長大なので、この手のシンフォプログレを愛する人だけにお薦めしたい。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 優雅度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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VA/ The Tales of Edgar Allan Poe
フィンランドのプログレファンジン「COLOSSUS」規格のオムニバス。2010年作
怪奇作家エドガー・アラン・ポーをテーマにしたCD2枚組で、Marco La Muscio、Dunwich、AREKNAMES、DAALといったイタリア勢から、
スペインのSenogul、カナダのGuy Leblanc(Nathan Mahl)、チリのJinetes Negros、イギリスのKarda Estra、スウェーデンのANIMA MORTE、
オーストリアのBLANK MANUSKRIPT、ロシアのLITTLE TRAGEDIESなど、世界各国から個性豊かなバンドが参加。
優雅なシンフォプログレを聴かせるSenogul「黒猫」や、女性ヴォーカルで壮麗に聴かせるDunwich「長方形の箱」
ピアノやオルガンで優美なシンフォを描く、Guy Leblanc「楕円形の肖像画」、Karda Estraによる「落とし穴と振り子」は
ダークなチェンバーロック路線でハマっている。Disc2では、爽快なシンフォプログレの、Jukka Kulju「盗まれた手紙」
AREKNAMESによるオルガンにヴァイオリン鳴り響く「跳び蛙」、LITTLE TRAGEDIESによる華麗なクラシカルシンフォ大曲「群集の人」
ラストのDaalによる16分のキーボード大曲「アッシャー家の崩壊」まで、作品ごとの想像性を掻き立てるドラマティックなサウンドが楽しめる。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 アランポー度・・8 総合・・8 オムニバス系作品レビューはこちら
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Opus Symbiosis 「Monster」
フィンランドのプログレバンド、オパス・シンバイオシスの2013年作
2009年にデビュー、本作は4曲入りのEPで、美麗なシンセアレンジにほどよくハードギター、
伸びやかな女性ヴォーカルを乗せて、キャッチーでスタイリッシュなサウンドを聴かせる。
翳りを帯びた叙情とモダンな感触の同居という点では、Frequency Driftなどにも通じるが、
北欧らしい涼やかな空気感は、Paatosなどを思わせる。楽曲は4分前後とコンパクトにまとまっていて、
全4曲ということもあり、濃密さの点では少し物足りなさもあるが、優雅で軽妙なセンスに包まれている。
この路線でのフルアルバムが聴きたかったところ。パット・マステロット(KING CRIMSON)などがゲスト参加している。
ドラマティック度・・7 スタイリッシュ度・・8 女性Vo度・・8 総合・・7.5
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IN SPE
エストニアのプログレバンド、イン・スペの1983/2019年作
1983年、85年に2作を残して消えたバンドで、本作は80年代東欧プログレの傑作として名高い1作目に
1979〜83年にかけて録音されたライブ音源や未発表音源を収録したボーナスDisc付きの2CD再発盤。
流麗なギターにうっすらとしたシンセを重ねた、涼やかな空気感のインストのシンフォニックロックで、
優美なフルートの音色とともに繊細な叙情にも包まれる。翳りを帯びたどこかクールな雰囲気は、
旧ソ連を思わせるミステリアスな味わいで、母国語によるヴォーカルを加えたナンバーも、辺境的な匂いを感じさせる。
Disc2のライブ音源も派手さはないものの、淡々とした演奏の中に、メロウなギターフレーズや優美なフルートの音色とともに
しっとりとした聴き心地で楽しめる。ヴォーカル入りの未発音源は、辺境らしいマイナーな雰囲気に包まれていて面白い。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 優美度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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KARFAGEN/ANTONY KALUGIN「THE KEY TO PERCEPTION」
ウクライナのシンフォニックロック、カルファゲン/アントニー・カルギンの2019年作
KARFAGENの1st、2006年作「Continium」、2nd、2007年作「The Space Between Us」
ANTONY KALUGIN名義のソロ、2002年作「The Water」、2004年作「AKKO II」を収録したCD4枚組。
KARFAGENの1作目は、美麗なシンセにメロウなギター、フルート、ピアノなどで繊細な叙情を描く、
インスト主体のシンフォニックロック。CAMELかハケットかという泣きのギターにケルティックなテイストも加わった
優美なサウンドにウットリ。2作目になると、フュージョン的な軽妙さが増して、優雅なシンフォニックと融合した味わいに。
それぞれボーナスにデモ音源などを追加収録。「The Water」は、やわかなシンセとギターでゆったりとした叙情を描く、
80分におよぶアンビエント寄りの力作。ANTONY KALUGINS KINEMATICS ORCHESTRA名義の「AKKO II」は、
シンセの重ねを中心に、クラシカルなピアノや女性ヴォーカルも加えて、しっとりとしたサウンドを聴かせる。
シンフォニック度・・8 プログレ度・・8 優美度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Solaris 「Martian Chronicles - Live」
ハンガリーのプログレバンド、ソラリスのライブ。2015年作
デビュー30周年となる、2014年ブダペストでのライブで、1984年の傑作「火星年代記」ほぼ全曲に、
1990年作「1990」、2014年の「火星年代記2」からのナンバーも加えたセットリストを披露。
きらびやかなシンセに鳴り響くフルート、叙情的なギターを乗せ、優雅なアンサンブルとともに
東欧らしい涼やかなシンフォニックプログレを再現。個人的には最高傑作「1990」からの楽曲が嬉しい。
とくにコラー・アッティラの繊細なフルートが素晴らしく、その優美な旋律で楽曲を彩っている。
ゲストによるサックスや、女性コーラスを加えたゴージャスな味わいも含めて、
全76分、優雅で濃密なソラリスのサウンドが楽しめる、ファン必聴のライブです。
ライブ演奏・・8 プログレ度・・8 優雅度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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EAST 「Live - Ket Arc」
ハンガリーのプログレバンド、イーストのライブ。1995年作
1981年にデビュー、1st「Jatekok/蒼い楽園」、2nd「Huseg/フェイス」は、SOLARISの「火星年代記」とともに、
80年代東欧プログレの傑作として名高いが、本作は、1994年ブダペストでのステージを収録。
1988年作「A Szerelem Sivataga」、1992年作「 Taking The Wheel」、1994年作「Radio Babel」あたりからのナンバーを主体に、
優美なシンセに母国語によるヴォーカル、女性コーラスを加えた、キャッチーなハードプログレを聴かせる。
ほどよくモダンでポップな匂いもありつつ、その確かな演奏力はさすが東欧屈指のバンドである。
後半には、初期作からのナンバーも披露。シンフォニックなシンセワークとともに優雅な演奏で、
ラストは2ndからの「Varni Kell」で、泣きの叙情ギターにウットリ。東欧らしい涼やかな味わいの好ライブです。
ライブ演奏・・8 プログレ度・・7 優雅度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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MATELDA 「LEGGENDE」
イタリアのフォークロック、マテルダの2016年作
アコースティックギターのつまびきにイタリア語の美しい女性ヴォーカルを乗せて、
ヴァイオリンやヴィオラが艶やかに鳴り響く、優雅で牧歌的なサウンドを聴かせる。
アコースティック主体なのでロック色はあまりないが、パーカッションのリズムや
ドラムが加わるナンバーもあって、プログレ寄りのフォークロックという感じで楽しめる。
女性声のキュートな魅力とともに、ゆったりとした優美なサウンドに癒される逸品です。
アコースティック度・・9 ロック度・・2 女性Vo度・・9 総合・・8
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FINISTERRE 「Live...Ai Margini Della Terra Fertile...」
イタリアのプログレバンド、フィニステッレのライブ。1998年作
90年代以降のイタリアンプログレを代表するバンドのひとつで、本作は1997年のライブを収録。
「In Limine」からのナンバーを中心に、1stからのナンバーも演奏。ピアノを含む優美なシンセワークに
やわらかなフルートが鳴り響き、うるさすぎないギターとともに優雅なアンサンブルを聴かせる。
翳りを帯びた叙情にクラシックやジャズを取り込んだ軽妙な展開力で、甘美なシンフォプログレを描いてゆく。
15分を超える大曲でも、派手さよりもあくまで繊細な叙情が包み込み、イタリア語によるヴォーカルとともに、演劇的なドラマ性と
ヨーロピアンなロマンの香りを感じさせる。ラスト曲ではKING CRIMSONGENESISのフレーズも盛り込んでプログレ愛が炸裂。
ライブ演奏・・8 優雅度・・9 叙情度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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MELLOMTA TAUTA
イタリアのプログレバンド、メロンタ・タウタの1993年作
エドガー・アラン・ポーの作品から名前をとり、正規アルバムを残さずに消えたバンドで、
本作は70〜80年代の未発音源とメンバーが80年代に活動していたカヴァーバンドの音源を収録。
1曲目から、Steve Hackettのカヴァーのライブ音源で、ジェネシス愛に包まれつつ、2曲目以降は、
1978、80年録音のオリジナル音源で、やわらかなシンセに12弦ギターを含む繊細なギターワークで、
ゆったりとした叙情に包まれた素朴なシンフォニックロックを聴かせる。ラストはGENESIS「I Know What I Like」
「The Lamb Lies Down On Broadway」のカヴァーのライブ音源で、最後までジェネシス愛に包まれる。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 叙情度・・8 総合・・7

Companyia Electrica Dharma 「L'oucomballa」
スペインのジャズロック、コンパニア・エレクトリカ・ドアルマの1976年作
1975年にデビュー、本作は2作目。優雅なピアノにサックスが鳴り響き、ギターやシンセも含んだ、
どこかとぼけた味わいの軽やかなジャズロックで、ほどよくユルめの牧歌的な味わいに包まれる。
スパニッシュな哀愁を感じさせるギターやサックスのフレーズにロック寄りのドラムで聴かせるナンバーは、
プログレジャズロック寄りの感触もあるが、全体的にはあまり派手さはなく、わりとアンサンブル重視という作風。
次作に比べるとやや地味にも思えるが、曲によってはフリーキーなおおらかさもいくぶん覗かせている。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 優雅度・・8 総合・・7.5
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Companyia Electrica Dharma 「TRAMUNTANA」
スペインのジャズロック、コンパニア・エレクトリカ・ドアルマの1977年作
3作目の本作は、のっけからサックスがコミカルに鳴り響き、叙情的なギターの旋律にエレピが絡み、
軽やかなアンサンブルのプログレ・ジャズロックを聴かせる。スペインらしい哀愁を含んだ叙情パートなど
10分を超える大曲では、メリハリある展開と前作以上にプログレ的な構築センスも覗かせる。
軽やかな演奏と民族的な空気感が合わさった、とぼけたようなコミカルさという点では、
北欧のサムラなどにも通じるかもしれない。ただし、こちらはあくまでアンサンブル志向。
サックスが鳴り響く優雅なジャズロックから、ラストのチンドン的なナンバーも面白い。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 軽妙度・・9 総合・・8
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The Passing Fancy
カナダのサイケロック、パッシング・ファンシーの1968年作
本作が唯一の作品で、ユルめのギターにマイルドなヴォーカルで聴かせる、
60年代らしい牧歌的なおおらかさに包まれたサウンド。楽曲は2〜3分前後で、
いたってシンプル。オルガンが加わると、サイケなオールドロック感が増して、
ビートルズのような感じでのんびりと楽しめる。ラスト曲はわりとプログレっぽくてGood。
ドラマティック度・・6 プログレ度・・5 牧歌的度・・8 総合・・7
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5/7
GW最後の週末はプログレで(135)


Steve Hackett 「Wuthering Nights: Live in Birmingham」
イギリスのギタリスト、スティーヴ・ハケットのライブ作品。2018年作
2017年イギリス、バーミンガムでのステージを2CD+DVDに収録。GENESISの1976年作「静寂と嵐」40周年記念のツアーで、
ロジャー・キング、ゲイリー・オトゥール、ロブ・タウンゼンド、ニック・ベッグスに、女性ギタリストのアマンダ・レーマンを加えた編成で、
ジョン・ハケットがゲスト参加。ソロ作「Spectral Mornings」からのナンバーで幕を開け、2017年作「The Night Siren」からのナンバーに、
1980年作「Defector」や、アマンダの美しい歌声を乗せてのソロデビュー作「Voyage Of The Acolyte」のナンバーも演奏。
バックのうるさすぎない安定した演奏で、ハケットの繊細なギターワークを引き立てる。後半からは、ナッド・シルヴァンをヴォーカルに、
「Wind And Wuthering」からの5曲を披露。「Dance on A Volcano」から、ラスト3曲は、「Firth Of Firth」、「The Musical Box」、
「Los Endos」という流れで、ジェネシスファンも大満足。DVDの映像はカメラワークがやや凡庸ながら、やはり必見のライブです。
ライブ演奏・・9 ジェネシス度・・9 優美度・・9 総合・・8.5 過去作のレビューはこちら
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Steve Hackett「Genesis Revisited Band & Orchestra」
スティーヴ・ハケットのライブ作品。2019年作
2018年、ロンドン、ロイヤル・フェスティバル・ホールでの、オーケストラとの共演ステージを2CD+DVDに収録。
ロジャー・キング、ゲイリー・オトゥール、ロブ・タウンゼンド、ナッド・シルヴァンという、いつものメンバーに加え、今作ではベースに
THE FLOWER KINGSのヨナス・レインゴールドが参加。「Dance on A Volcano」や「Firth Of Firth」など、往年のGENESISナンバーに、
ソロからのナンバーも披露。バックのオーケストラがバンドサウンドをシンフォニックに包み込み、「Dancing With The Moonlit Knight」や
デビューソロからの大曲「Shadow Of The Hierophant」も実に優雅な聴き心地。映像では、ギター&ベースのダブルネックで活躍する
ヨナス・レインゴールドや、オーケストラを含めた豪華なステージで、カメラワークも秀逸。ラストは大曲「Supper's Ready」をオケ入りで演奏、
優美でドラマティックな盛り上がりに感動しきり。アンコールの「The Musical Box」までお腹いっぱい。2時間超のシンフォニーなライブ作品です。
ライブ演奏・・9 シンフォニック度・・9 壮麗度・・10 総合・・8.5
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Arc of Life
アメリカのプログレハード、アーク・オブ・ライフの2021年作
ビリー・シャーウッド、ジョン・デイヴィソン、ジェイ・シェレンというイエスの現メンバー3人に、デイヴ・カーズナー、
ジミー・ホーンを加えた5人編成で、やわらかなシンセにキャッチーなコーラスハーモニーで、80年代のイエスや
エイジアにも通じるサウンド。スーパーバンドであるが、プログレというよりは、古き良きAORを思わせる作風で、
ジョン・デイヴィソンのやわらかな歌声も含めて、確信犯的なまでの80年代感覚が甦ってきて思わずニヤニヤとなる。
後半には9分を超える大曲もあり、緩急ある展開とともにぐっとYES度が高くなり、優雅なサウンドを聴かせる。
全体的にはこれという新鮮味はないのだが、大人のメロディックロック/プログレハードとしては、さすがの出来である。
キャッチー度・・8 プログレ度・・7 イエスやエイジア度・・8 総合・・8
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The Flower Kings 「Islands」
スウェーデンのプログレバンド、フラワー・キングスの2020年作
1995年にデビュー、いまや北欧のみならず、プログレ界を牽引するバンドとなったフラキンの14作目。
ロジャー・ディーンによる幻想的なジャケに包まれて、サウンドの方もロイネ・ストルトの流麗なギターに
前作から加入のザック・カミンズの美麗なシンセワーク、ハッセ・フレベリの味わいのあるヴォーカルで、
優雅なシンフォプログレを聴かせる。これまでのような大曲はないものの、楽曲ごとが流れによって進み、
コンセプト的な味わいになっているのが素晴らしい。90年代的なオールドな雰囲気も甦っていて、
前作以上にバンドとしての一体感が強まった印象もある。ストリングスが加わった壮麗な小曲から、
軽やかなジャズロック風味など、楽曲ごとのバラエティも豊富。フラキンらしさたっぷりの2枚組の力作。
ドラマティック度・・9 プログレ度・・8 優雅度・・9 総合・・8.5 過去作のレビューはこちら
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THE SAMURAI OF PROG 「Beyond The Wardrobe」
フィンランドのプログレユニット、サムライ・オブ・プログの2020年作
2011年から始まったプロジェクト、本作も、KAYAKのトン・スケルペンツェルはじめ、LATTE E MIELEのオリヴィエロ・ラカニータ、
IL TEMPIO DELLE CLESSIDREのエリサ・モンタルド、SEVEN STEPS TO THE GREEN DOOR、UPFのマレック・アーノルド、
Caravela Escarlateのロナウド・ロドリゲス、Mad Crayonのアレッサンドロ・ディ・ベネデッティ、など多数のメンバーが参加、
サックスやフルートが鳴り響く優雅なナンバーで幕を開け、モーツァルトをテーマにヴァイオリン鳴り響く壮麗なナンバーや、
Jinetes Negrosのオクタヴィオ・スタンパリアが手掛けるクラシカルなシンフォプログレ曲、日本の女性SSW、富山優子による
日本語歌詞によるしっとりと優しい楽曲なども魅力的だ。エリサ・モンタルドがシンセと歌を手掛ける優美なラスト曲まで、
派手さや意外性は薄めながら、優れた作曲家と演奏者による、クラシカルなシンフォニックプログレが堪能できる。
クラシカル度・・8 プログレ度・・7 優美度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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MARCO BERNARD & KIMMO PORSTI 「Gulliver」
フィンランドのミュージシャン、マルコ・ベルナルドとキンモ・ポルスティによる2020年作
THE SAMURAI OF PROGの中心人物として知られる二人で、本作はガリバー旅行記をテーマにしたコンセプト作。
LATTE E MIELEのオリヴィエロ・ラカニータ、SEVEN STEPS TO THE GREEN DOOR、UPFのマレック・アーノルド
PAIDARIONのフルート奏者や、HOSTSONATENのルカ・スケラーニ、MUSEO ROSENBACHのステファノ・ガリフィなど
多数のゲストが参加。プログレらしい優美なシンセワークとメロウなギター、ジェントルなヴォーカルを乗せて、
ゆったりとした叙情に包まれたシンフォプログレを展開。小人国、巨人国、飛び島、馬の国という、物語の四つの冒険を
それぞれの大曲で表現。ときにフルートやヴァイオリンの優雅な音色も加わって、物語的なドラマ性を描くような
じっくりとした構築性とともに、ほのぼのとしたファンタジックなサウンドが楽しめる。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 優美度・・9 総合・・8
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Kimmo Porsti 「Wayfarer」
フィンランドのミュージシャン、キンモ・ポルスティによる2020年作/邦題「徒歩旅行者」
THE SAMURAI OF PROGのドラマーでもあるミュージシャンで、本作は、盟友のマルコ・ベルナルドをはじめ、
SEVEN STEPS TO THE GREEN DOOR、UPFのマレック・アーノルド、元IONA/CELESTIAL FIREのデイヴ・ベインブリッジ
ENTRANCEのロドリゴ・ゴドイ、ハイメ・ロサス、MARS HOLLOWのスティーヴ・モーク、STELLA LEE JONESの入山ひとみ他、
多数のゲストが参加。叙情的なギターにシンセやヴァイオリンを加え、優雅でクラシカルなシンフォニックロックを聴かせる。
やわらかなピアノやフルート、マイルドなヴォーカルが、繊細で涼やかな叙情を描き、MIKE OLDFIELDのようなケルティックな牧歌性も覗かせつつ、
サックスが鳴り響くジャズロック風の軽妙なナンバーなどもあり、大人の優雅さで楽しめる。全73分という力作です。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 優美度・・9 総合・・8
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THE GUILDMASTER 「THE KNIGHT AND THE GHOST」
THE SAMURAI OF PROGのマルコ・ベルナルドとキンモ・ポルスティ、KAYAKのトン・スケルペンツェル、
スペイン人ミュージシャン、ラファエル・パシャによるシンフォニックロック・プロジェクト、ギルドマスターの2020年作
リコーダーやフルート、バグパイプの音色にギターとシンセが重なり、中世音楽的なメディーヴァルな世界観を、
シンフォプログレに仕立てたというサウンド。アコースティックギターやリコーダー、ヴァイオリンなどの優雅な旋律と、
ギターやドラムによるロック感触が融合したという点では、GRYPHONなどにも通じる感触で楽しめる。
美しい女性ヴォーカルでしっとりと聴かせるナンバーなども、優美で繊細なサウンドにゆったりと浸れる。
メロウな泣きのギターを奏でる、ラファエル・パシャ氏は、フルートやリコーダーの演奏も含めて主役級の活躍ぶり。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 優美度・・9 総合・・8
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Mindspeak 「Eclipse Chaser」
オーストリアのプログレバンド、マインドスピークの2019年作
2014年にデビュー、本作は2作目となる。美麗なシンセアレンジに適度にハードなギターを重ね
コケティッシュな女性ヴォーカルの歌声とともに、優雅でスタイリッシュなサウンドを聴かせる。
ほどよくテクニカルなアンサンブルと、オルガンを含むシンセにメロウなギターで、キャッチーな爽快さに包まれながら、
17分という大曲を緩急ある展開で構築してゆくところは、女性声版TRANSATLANTICという雰囲気も。
後半は、6部構成、32分超の組曲になっていて、紅一点、ヴィクトリア嬢のキュートな歌声が楽曲を彩りつつ、
ときにクラシックの旋律を取り入れたり、ハードにたたみかけたりと、壮麗なシンフォプログレを描いてゆく。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 女性Vo度・・8 総合・・8
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Verbal Delirium 「Imprisoned Words of Fear」
ギリシャのモダンプログレ、ヴァーバル・デリリウムの2016年作
2010年にデビューし、3作目となる。フルート&サックス奏者にピアノを含む6人編成で、
クラシカルなピアノにシンセを重ね、マイルドなヴォーカルとやわらかなフルートの音色に、
メタリックなギターが加わって、ときにメロトロンも鳴り響く、スタイリッシュなサウンドを展開。
翳りを帯びた叙情と、ピアノやフルートの鳴る優雅でキャッチーな感触が同居した作風で
ときにギターがメロウな旋律を奏でたり、サックスが加わったジャズロック的な部分もあったりと、
ジャンルに捕らわれないボーダーレス感で、ProgMetal的なセンスはHAKENあたりのファンにも楽しめる。
後半は10分を超える大曲が続き、優雅で軽妙な構築力でドラマティックなサウンドを描きつつ。
ラスト曲は淡々としたモダンロック風のナンバーで、最後は激しく疾走して幕を閉じる。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 スタイリッシュ度・・9 総合・・8
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ANDERSON / WAKEMAN 「THE LIVING TREE」
YESのジョン・アンダーソンとリック・ウェイクマンによるユニット作。2011年作
ピアノを主体にしたウェイクマンのシンセに、ジョン・アンダーソンのヴォーカルを乗せた、
しっとりとした味わいの歌ものサウンド。ドラムなどは入らないのでロック色は希薄であるが、
美しいシンセによるシンフォニックな味わいと、ジョンの歌声がよくマッチしていて幻想的な雰囲気で、
YESからロック要素を抜いたような聴き心地。プログレというよりはシンセをバックにした歌ものであるが、
ジョン・アンダーソンの変わらぬ歌声をたっぷり楽しめるという点では、往年のイエスのファンには嬉しいだろう。
プログレ度・・7 ロック度・・5 優美度・・8 総合・・7.5
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VA /Fanfare for the Pirates - Tribute to ELP
イタリアのMellow Records主催による、EL&Pのトリビュート作品。1998年作
TRAMA、Mary Newsletter、Zauber、Prowlers、Divaeなど、イタリア系バンドを中心に全28バンドが参加した、CD3枚組。
Works3による「タルカス」で幕を開け、シンセサウンドも含めてオリジナルの雰囲気をなかなか忠実に再現している。
Lukka & Friendsによるハードシンフォ風の「聖地エルサレム」、TRAMAによる女性ヴォーカルの「海賊」なども味があり、
Disc2、Lorienの「タルカス」は、途中に「エピタフ」も挿入するというマニア好みの出来。Matrix Mindによる、「悪の教典#9」は、
モダンなビート感に女性声を乗せた新鮮なアレンジで、 TRILOGYの「悪の教典#9」は、忠実なカヴァーでなかなかの出来だ。
Disc3では、Ken Taylorが「運命の三人の女神」にインスパイアされて「第四の女神」をチェンバーロック風のオリジナルで制作。
ストリングスやピアノによるTNRによるクラシカルな「セ・ラ・ヴィ」など、どのバンドからもELP愛が伝わってくる、濃密なトリビュート作品です。
カヴァー度・・8 アレンジ度・・8 ELP度・・9 総合・・8 VA作品のレビューはこちら
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Titus Groan
イギリスのプログレ・ジャズロック、タイタス・グローンの1970年作
本作が唯一の作品で、軽やかなドラムに、サックスが鳴り響き、ギターにオルガンも加わった
優雅なジャズロックサウンドで、英国らしいウェットな感触はKING CRIMSONにも通じるところもある。
フルートによる牧歌的な味わいやブルージーなギター、どことなくマイナー感のあるヴォーカルも含めて、
ブリティッシュロック好きの耳をくすぐる魅力がある。全体的に派手なところはないものの、
ほどよいプログレ感と叙情性もあり、難解なところもないので、ジャズロックが苦手な方でも楽しめるだろう。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 英国度・・8 総合・・8
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DECAMERON「Mammoth Special」
イギリスのフォークロック、デカメロンの1974年作
アコースティックギターとエレキギターを重ね、ヴァイオリンやチェロも鳴り響く、牧歌的なフォークロック。
シンセにストリングスが重なった優美な味わいは、Barclay James Harvestなどに通じるところもあり、
エレキギターやドラムを使っているので、素朴なブリティッシュロックとしてもわりと普通に楽しめる。
反面、フォークとしての土着的な部分は薄めなので、さらりと聴ける分、物足りなさもあるのだが
ゆったりとしたやわらかな英国フォークロックを味わえる好作品だ。
フォーク度・・7 素朴度・・8 英国度・・8 総合・・7.5
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4/24
KJSの週末はプログレで(121)


Jordan Jordanov featuring Goran Edman 「天使のてざわり」
ブルガリアのミュージシャン、ヨルダン・ヨルダノフの2021年作
ギタリストのソロ作品であるが、楽曲の方はしっとりとしたピアノやシンセアレンジを含んだ大人のAORという作風で、
アコースティックギターによる繊細な叙情から、エレキギターを使ったロック寄りのナンバーまで、なかなかバラエティ豊か。
HR界では名の知れたスウェーデンのヴォーカリスト、ヨラン・エドマンが前面参加していて、表現力豊かな歌声を披露。
曲によっては、ストリングスによるアレンジを加えたシンフォニックな味わいもあって、プログレリスナーにも楽しめるだろう。
もちろん、しっかりとしたテクニックの流麗なギタープレイも随所に光っていて、アレンジ面でのスタイリッシュなセンスというのは、
メジャー寄りの実力を感じさせる。実力あるG.エドマンの歌声とともに、優雅なサウンドをじっくりと味わえる逸品だ。
ちなみに、CDライナーの解説を手掛けるのは吾輩でありますので、購入の際はご一読をぜひ。
叙情度・・8 ロック度・・7 優雅度・・9 総合・・8
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Giorgio Fico Piazza 「Autumn Shades」
イタリアのミュージシャン、ジョルジオ・フィック・ピアッツァの2019年作
PFMの前身バンド、QUELLI〜初期のPFMに在籍したベーシストで、本作はそのPFMの傑作、
「STORIA DI UN MINUTO/幻想物語」、「PER UN AMICO/友よ」全曲をセルフカヴァーしたライブ。
美しいシンセとピアノ、叙情的なギター、マイルドなイタリア語のヴォーカルで、かつての名曲が甦る。
70年代を意識したような暖かみのある演奏で、変にモダン化せずに往年の空気感までも再現していて、
丁寧なサウンドにファンには感動ものである。2台のシンセを使い、フルートやヴァイオリンのパートも
なかなか忠実に演奏している。女性ヴォーカルによる「9月の情景」もエモーショナルで良いですね。
初期PFMのファンは必聴であるし、そうでない方にもこれら素晴らしい名曲を味わって欲しい。
演奏度・・8 叙情度・・9 名曲度・・9 総合・・8.5
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Giancarlo Erra「Ends」
イタリアのミュージシャン、ジャンカルロ・エラの2019年作
NOSOUNDのリーダーでもあるミュージシャンで、ソロとしては初めての作品となる。
美しいシンセアレンジにヴァイオリンなどのストリングスが重なる優美なサウンドで
エレクトロなデジタル感覚に包まれながら、繊細な味わいでしっとりとした聴き心地。
基本はシンセとストリングスで、ギターなどは入らないのでロック色はほとんどないが、
曲によっては打ち込みのリズムも加わって、オールインストであるが単なるBGMでもない。
メランコリックな叙情とともに、美しい情景が目に浮かぶようなアンビエントな癒し系作品です。
ドラマティック度・・7 ロック度・・3 優美度・・9 総合・・8
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Pholas Dactylus 「Hieros Gamos」
イタリアのプログレバンド、フォラス・ダクティルスの2019年作
1972年に唯一の作品を残して消えたバンドの、じつに47年ぶりとなる復活作。
のっけから21分という大曲で、クラシカルなピアノとギターを乗せた軽やかなアンサンブルで、
イタリア語の語りによるシアトリカルなドラマ性とともに、優雅なシンフォプログレを聴かせる。
ヴォーカルはほぼナレーションなので、ロックとしての濃密さはあまりなく、ピアノをメインにしたジャズ風味に、
随処をにギターの旋律も加えて、緩急に富んだ構築力とアーティスティックでミステリアスな空気に包まれる。
後半は、7部構成の組曲で、アコースティックギターによる素朴な味わいから、クラシカルなピアノの小曲など
ロック色はほぼ皆無ながら、女性声の語りも加わった優美な聴き心地で楽しめる。
クラシカル度・・8 プログレ度・・7 優雅度・・9 総合・・7.5
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KERYGMATIC PROJECT 「Chronicles From Imaginary Places」
イタリアのプログレバンド、ケリーグマティック・プロジェクトの2018年作
2011年にデビューし、5作目となる。のっけから12分におよぶ大曲で、オルガンやムーグを含むシンセに
かすれた味わいのヴォーカルを乗せて、ASIAなどにも通じるキャッチーなシンフォプログレを聴かせる。
歌詞が英語なのでイタリアっぽさはあまりなく、きらびやかなシンフォニック性と優雅な展開力で、
YESを思わせる雰囲気のナンバーもある。どことなく煮え切らなかったこれまでの作品に比べて、
吹っ切れたような爽快な聴き心地。ラストは16分という、シンフォプログレらしい大曲がまた見事。
メロディック度・・8 プログレ度・・8 優雅度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Fluido Rosa 「Le Vie Dei Sogni」
イタリアのプログレバンド、フライド・ローザの2016年作
オルガンを含むシンセに男女ヴォーカルの歌声で聴かせる、キャッチーで牧歌的なサウンド。
ときに叙情的な泣きのギターや優美なピアノの旋律、女性奏者によるサックスも加わり、
イタリア語の男女ヴォーカルとともに、ゆったりとした優雅な聴き心地に包まれる。
楽曲は4〜6分前後と、わりとコンパクトでプログレ的な派手な展開はさほどないものの、
メロディックロックとしての叙情性という点では、I Poohを受け継ぐような雰囲気もある。
個人的には、女性声をメインにしたシンフォニックなナンバーがとても良かった。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 優美度・・8 総合・・7.5
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MALIBRAN 「Live Anthology」
イタリアのプログレバンド、マリブランのライブ作。2018年作
1994〜2001年までのライブテイクを集めた、バンドのアンソロジー的なライブ作品集。
やわらかなフルートが鳴り響き、うっすらとしたシンセに叙情的なギターを乗せ、
リズムチェンジを含む緩急ある展開力で、マイナーな翳りを帯びたサウンドを構築する。
いくぶん粗野なヴォーカルが好みを分けるところだが、メロウなギターの旋律とシンセによる
GENESISルーツの優雅な叙情とともに、10分を超える大曲をじっくりと聴かせる。
ラストの1994年の音源は、25分という大曲で、優美なシンフォプログレぶりが良いですね。
ライブ演奏・・7 プログレ度・・7 叙情度・・8 総合・・7.5 過去作のレビューはこちら
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Malibran 「The Wood of Tales」
イタリアのプログレバンド、マリブランの1990年作
2016年までに6作を出している、イタリアンシンフォの中堅バンドで、本作はデビュー作。
メロウなギターにシンセ、やわらかなフルートが鳴り響く、リリカルなシンフォニックロック。
英語歌詞によるヴォーカルは、いかにも90年代のマイナーシンフォらしいシアトリカルな雰囲気で
繊細な叙情性とともにイタリアらしい幻想的な翳りに包まれたサウンドはなかなか魅力的。
アコースティックギターとフルートによる優雅な小曲をはさんで、後半は10分を超える大曲2曲で、
ゆったりとした叙情を描きつつ、ハードなギターの旋律でじわりと盛り上がりも見せる。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 叙情度・・8 総合・・7.5
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Stereokimono 「Prismosfera」
イタリアのプログレバンド、ステレオキモノの2003年作
2000年にデビューし、2作目となる。スペイシーなシンセのイントロから、変拍子を含む軽妙なアンサンブルに、
ガレージロック的なフリーキーな感触と、コミカルで偏屈な味わいが同居したインストサウンドを展開。
叙情的なギターフレーズを乗せた優雅なインストナンバーなども、ほどよくエキセントリックなセンスを覗かせ、
チェロの音色が鳴り響くチェンバーロック風味や、クリムゾン的なミステリアスな雰囲気もあって、
なかなか一筋縄ではいかない。エクスペリメンタルなモダンさと、独特の浮遊感に包まれた作風で、
方向性としてはやや散漫な感じもあるが、ユルめの牧歌性とスリリングなテクニカル性が混在しているのが面白い。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 スリリング度・・8 総合・・7.5
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FLAIRCK & BASILY 「GLOBAL ORCHESTRA」
オランダのアコースティックバンド、フレアークのライブ作品。2011年作
本作は、アコースティック・ジプシー音楽集団、バシリーとの共演ライブを収録したCD+DVD。
5人のギターに、パンフルート、ヴァイオリン、ダブルベース、ツィンバロム、パーカッションなど、総勢12人の大編成で、
技巧的なギターの旋律に、フルートやヴァイオリン、ツィンバロンの響きが重なり、軽やかなアンサンブルを描く。
楽しげで奔放、素朴と情熱、哀愁が同居した、まさにフレアークとジプシー音楽が合体したという聴き心地だ。
アコーディオンの音色や女性ヴォーカルを乗せた優美なナンバーもあり、見事な演奏で最後まで飽きさせない。
ピアノ線のような弦をスティックで叩くハンガリーの打楽器、ツィンバロムが大活躍していて、その豊かな音色に聴き惚れる。
CDの方は曲を一部短くしていて全78分。DVDの完全版で、優雅で技巧的な演奏を視覚でも味わうのがよいだろう。
アコースティック度・・10 優雅度・・9 軽妙度・・9 総合・・8.5 過去作のレビューはこちら
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PERVY PERKIN 「.TOTEM.」
スペインのプログレ・モダンロック、パーヴィ・パーキンの2016年作
顔面にペイントを施した若手の5人組で、2014年にデビューして、本作は2作目となる。
ほどよくハードなギターにマイルドなヴォーカルを乗せ、やわらかなシンセアレンジを重ねた
エモーショナルロック寄りのキャッチーでスタイリッシュなサウンド。ほどよいテクニカル性に、
ときにコミカルなカントリー風味なども含む、ごった煮系モダンロックという聴き心地だが、
中盤の26分の大曲では、キャッチーなプログレ感触と緩急ある展開力に、モダンなヘヴィネスや
セリフなどを含んだヘンテコなドラマ性がなかなか面白い。日本語によるナレーションや
デスメタル的なアグレッシブさもネタにしつつ、アヴァンギャルドにたたみかける。全79分という力作。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 アヴァンギャル度・・8 総合・・7.5
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Q 「Abduccion」
チリのプログレバンド、Qの2011年作
美麗なシンセアレンジにほどよくハードなギターを重ね、テクニカルなアンサンブルで聴かせる、
スタイリッシュなインストサウンドを聴かせる。きらびやかなシンセワークはシンフォプログレ的であるが、
メタリックなギターリフを変拍子に乗せるところは、テクニカルプログレが好きな方にも対応。
一方では、叙情的な泣きのギターにうっすらとしたシンセを重ねた優美なナンバーなど、
シンフォニックなハードプログレとしても楽しめる。ギタリストのフレージングのセンスや、
オルガンやピアノを含むクラシカルなシンセもポイントが高い。なかなか高品質な作品です。
シンフォニック度・・8 テクニカル度・・8 スタイリッシュ度・・8 総合・・8
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HOLY LAMB 「Salt Of The Earth」
ラトビアのプログレバンド、ホーリー・ラムの1999年作
叙情的なギターにうっすらとしたシンセを重ね、ジェントルなヴォーカルで聴かせる、
GENESISルーツの優美なシンフォニックロック。ツインギターによるメロウな叙情性と
美麗なシンセワークに包まれていて、辺境的なマイナー臭さはさほど感じさせない。
12分、16分という大曲も、繊細なピアノや泣きのギターなどを織り込みつつ、
優雅な叙情とドラマティックな展開力でじっくりと構築してゆく。ジェネシス系が好きならとても楽しめる。
90年代東欧の王道シンフォプログレとしては屈指の出来の一枚といえるだろう。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 優美度・・9 総合・・8

Jean Michel Jarre 「Oxygene」
フランスのミュージシャン、ジャン・ミッシェル・ジャールの1976年作
フランスを代表する電子音楽系アーティストで、アナログシンセの重ねによって、
クラウス・シュルツェにも通じるような幻想的なシンセミュージックを聴かせる。
スペイシーでときにシンフォニックなシンセサウンドは、エレクトロな雰囲気もありながら、、
フランスらしいどこか優雅な翳りを帯びた感触で、ゆったりとその音に浸ることができる。
シーケンサーによるリズムも加わったキャッチーな部分もあって、全体的にもさほどダークでもないので、
シュルツェやタンジェリン・ドリームの作品に比べても、わりと聴きやすいかもしれない。
ドラマティック度・・7 ロック度・・3 幻想度・・8 総合・・8
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Jean Michel Jarre 「Oxygene 7-13」
ジャン・ミッシェル・ジャールの1997年作
1976年作の続編であるが、デジタルシンセによるエレクトロな感触が強まっていて、
リフレンされるシンセサウンドは、同時期のクラウス・シュルツェにも通じる作風である。
打ち込みによるリズムがモダンなビート感をかもしだし、90年代的なデジタル感に包まれつつ、
随所にクラシカルで優雅な雰囲気や、スペイシーで幻想的な味わいも残されていて、それなりに楽しめる。
このシリーズが、ジャンの代表作なのだろう。2016年には、さらなる続編となる 「Oxygene3」発表する。
ドラマティック度・・7 ロック度・・3 幻想度・・7 総合・・7.5
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4/9
カナダ、アメリカ、南米プログレ(106)


MYSTERY 「Lies and Butterflies」
カナダのプログレバンド、ミステリーの2018年作
1992年にデビュー、YESに参加したブノワ・デイヴィッドも在籍していたバンドで、本作は7作目となる。
のっけから17分近い大曲で、やわらかなシンセアレンジにほどよくハードで叙情的なギターを重ね、
マイルドなヴォーカルとともに、翳りを帯びた優美な叙情に包まれたシンフォニックロックを聴かせる。
メロウな泣きのギターは、PENDRAGONにも通じる味わいで、ときにフルートの音色も加わって、
YES + GENESISというようなキャッチーな優雅さに包まれる。伸びやかな歌声の表現力も素晴らしい。
派手な展開はないものの、繊細な叙情美をゆったりと味わうには最高のシンフォプログレと言えるでしょう。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 叙情度・・9 総合・・8.5 過去作のレビューはこちら
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MYSTERY 「DESTINY?」
カナダのプログレバンド、ミステリーの1998/2009年作
2作目となる1998年作を、10周年記念でジャケを変更してのリマスター再発盤。
美しいシンセアレンジに叙情的なギター、伸びやかなハイトーンのヴォーカルを乗せた
優美なシンフォニックロックはなかなか完成度は高い。ほどよくテクニカルなリズムも含めて、
安定したアンサンブルと演奏力、そしてキャッチーなメロディアス性も含めた聴き心地は
さすがRUSHなどを輩出したカナダのバンドらしい。アコースティックを含むメロウなギターの旋律や
ゲストによるヴァイオリンも加えた叙情美から、RUSHのようなキャッチーなノリのナンバーも味がある。
ラストは15分という大曲で、ドラマティックな展開力で壮麗なシンフォプログレを構築する。
メロディック度・・8 プログレ度・・8 優美度・・8 総合・・8
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SAGA 「LIVE IN HAMBURG」
カナダのプログレハード、サーガのライブ。2016年作
1978年デビューのベテランバンド。本作は、2015年ドイツでのライブを2CDに収録。
70〜80年代の初期のナンバーを中心にしたセットリストで、やわらかなシンセワークに流麗なギター、
マイケル・サドラーのマイルドなヴォーカルを乗せて、キャッチーなノリのプログレハードを聴かせる。
ジム・ギルモアのきらびやかなシンセは、サウンドをシンフォニックに彩っていて、初期の楽曲を魅力的に再現、
2014年作「Sagacity」からのナンバーも、オールドな楽曲の中に違和感なく溶け込んでいる。Disc2では、
1978年デビュー作のナンバーも披露。2CDで全98分と長すぎないのもよい。初期ファンにもお薦めのライブです。
ライブ演奏・・8 プログレ度・・7 初期SAGA度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Mantis
カナダのプログレバンド、マンティスの1973/2020年作
70年代に活動したバンドで、本作が唯一のアルバムとなる。ほどよくブルージーなギターに
オルガンを含むシンセとハスキーな女性ヴォーカルの歌声で聴かせる牧歌的なサウンド。
やわらかなピアノの旋律に男女ヴォーカルで聴かせるところなどは、RENAISSANCEなどを思わせる、
優雅なクラシカルロック風味で楽しめる。オルガンやピアノに加え、随所にブラスも加わった
年代を考えると厚みのあるサウンドで、マイナー感よりも、むしろキャッチーなポップ性を感じさせる。
8分を超える大曲も含めて、ジャケのイメージよりもプログレリスナー寄りの音で鑑賞できる好作品です。
キャッチー度・・7 プログレ度・・7 優雅度・・8 総合・・8
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CONTRACTION 「LIVE 1974」
カナダ、ケベックのプログレ・ジャズロック、コントラクションのライブ。2009年作
1972、74年にアルバム2作を出したバンドで、本作には1974年のスタジオライブを収録。
やわらかなエレピに軽やかなギター、しっとりとした女性ヴォーカルの歌声を乗せて、
優雅なアンサンブルを聴かせる、大人の味わいのブルージーなプログレジャズロック。
紅一点、クリスティーヌ嬢のコケティッシュな歌声も魅力的で、タメの効いたドラムにベースの存在感と、
さほどテクニカルではないが演奏力の高さも見事で、ゆったりとした中にも軽妙な味わいが心地よい。
70年代のライブ音源としては音質も良好。女性声ジャズロック好きは、2作のスタジオ作もチェックすべし。
ライブ演奏・・8 優雅度・・8 女性Vo度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Sense 「Stone in The Sky」
カナダのプログレバンド、センスの2005年作
本作は未発曲2曲にライブ音源5曲という変則アルバムで、DVDには別公演のライブを収録。
アコースティックギターにマイルドなヴォーカルを乗せ、フルートの音色も加えた牧歌的な1曲目から、
2曲目は美しいシンセアレンジに包まれたキャッチーな歌もの感がなかなか耳心地よく、
途中でクリムゾン的なスリリングな空気になるところも面白い。全体的にはケベックのバンドらしい
優雅で軽妙なサウンドで、アコースティックをまじえた牧歌性と、ミステリアスなプログレ感が混在した味わい。
10分を超える大曲を構築する確かな演奏力もあり、ライブ音源ではYESのカヴァーや、ジャズロック的な即興パートも披露。
DVDには、2004年のライブを収録。スティックを操るベーシストや女性ヴァイオリン、女性ヴォーカルも含め、優雅なステージが楽しめる。
メロディック度・・8 プログレ度・・8 優雅度・・8 総合・・8

Trigemino 「Trampas para Enganar」
アルゼンチンのプログレバンド、トリヘミーノの2019年作/邦題「いつわりの罠」
70年代に活動していたバンドが、2005年に再結成し、かつての楽曲を録音したという復活のデビューアルバム。
前に出すぎないメロウなギターにオルガンやムーグシンセ、エレピを重ね、スペイン語のヴォーカルとともに、
70年代風味のキャッチーなプログレサウンドを聴かせる。2曲目からは、32分近い組曲になっていて
アコースティックギターやシタールによる素朴な感触とともに、フォルクローレ的な優雅さにも包まれる。
派手になり過ぎないところは、いかにも70年代アルゼンチン的で、一聴したインパクトはさほどないのだが、
ラストの17分の大曲なども、牧歌的な叙情とオールドなプログレ感が同居した、微笑ましい味わいで楽しめる。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 優雅度・・9 総合・・8
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Tau Ceti 「Meus Dois Mundos」
ブラジルのシンフォニックロック、タウ・セティの2019年作。
1995年にデビュー、本作は24年ぶりとなる復活作。シンセ奏者による個人ユニットとなっていて、
きらびやかなシンセを中心にした優雅なインストで、オルガンを使ったヴィンテージな味わいや、
エレピによる叙情ナンバーなど、TRACEあたりを思わせる、クラシカルな鍵盤シンフォが楽しめる。
後半は、ベートーベン、ブルックナー、バッハなどのカヴァーを含む、クラシック系ナンバーで、
オルガンをメインにした曲では、PAR LINDHあたりに通じるバロックな味わいの優雅さに包まれる。
リズムが打ち込みなので、ダイナミックさにはやや欠けるが、耳心地の良いシンセによるインスト作です。
クラシカル度・・8 プログレ度・・7 キーボー度・・8 総合・・7
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VITRAL 「ENTRE AS ESTRELAS」
ブラジルのシンフォニックロック、ヴィトラルの2017年作
QUATERNA REQUIEMのドラム、元BACAMARTEのフルート奏者が参加するバンドで、52分という長大な組曲を主体に、
オルガンを含むシンセにやわらかなフルートの音色、メロウなギターを重ねて優美な叙情を描く、正統派のシンフォニックロック。
クラシカルな鍵盤のフレーズは、ときにPAR LINDHなどにも通じる感触で、52分の大曲もあくまで優雅な味わいとともに、
ゆったりとしたインストサウンドを構築してゆく。軽やかなリズムの上にフルートが鳴り響くところは、CAMELあたりを思わせ、
シンセをメインにした繊細な叙情美は、かつてのQUATERNA REQUIEMが好きだった方にもアピールするだろう。
さすがに長尺感はあるのだが、耳心地が優しいので最後までのんびりと鑑賞できる。南米シンフォの新たな力作です。
シンフォニック度・・8 プログレ度・・8 優美度・・9 総合・・8
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Estigia 「Profundos Mares」
チリのハードプログレバンド、エスティギアの2005年作
美麗なシンセにハードなギターを重ね、スペイン語のヴォーカルとともにに、
ほどよくテクニカルな展開力で聴かせる、ハードシンフォニックサウンド。
ツーバスのドラムも含めて、ProgMetalとしても聴けるような作風であるが、
きらびやかなシンセアレンジが、南米らしい優美な味わいになっていて、
随処にクサメロを奏でるギターや、スカスカなドラムの音質などがローカルな感触もかもしだす。
楽曲は4〜6分前後が主体なので、長すぎず、クド過ぎずに楽しめる、南米ハードシンフォの好作。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 南米度・・8 総合・・7

CAST 「Endless Signs」
メキシコのプログレハンド、キャストの1995年作
1994年にデビュー、本作は5作目となる。きらびやかなシンセにメロディックなギターを重ねて、
緩急ある展開力で優雅なシンフォニックロックを聴かせる。英語歌詞によるマイルドなヴォーカルに
やわらかなフルートの音色などの優美な叙情性に、泣きのギターフレーズや美麗なシンセワークなども
本作の時点でもなかなか魅力的で、のちの傑作に比べるといくぶんの野暮ったさはあるのだが、10分、14分という
大曲を構築するアレンジセンスもすでに備わっている。2000年代以降になると、録音面や演奏力の向上で、
世界最高レベルのシンフォプログレバンドになってゆくのだが、その片鱗は十分発揮されている。
シンフォニック度・・8 プログレ度・・8 優雅度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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GOD BLESS 「7 - CERMIN」
インドネシアのロックバンド、ゴッド・ブレスの2017年作
70年代から活動するインドネシアを代表するバンドのひとつで、プログレリスナーからも評価の高いバンド。
7作目の本作は、1980年の2ndアルバムのリレコーディングに、Disc2には新曲を加えた2枚組作品。
オルガンを含むシンセにほどよくハードなギター、母国語による伸びやかなヴォーカルを乗せた
古き良き味わいのプログレハードサウンドを聴かせる。ほのかに様式美HRの香りをまとわせた
叙情的なギターの旋律に、手数の多いドラム、きらびやかなキーボードが一体となった、濃密な味わいは、
このバンドならではのものだろう。一方では柔らか味のある叙情性や、ファンキーなポップ性なども覗かせつつ、
ゴージャスなシンフォニック性も含んだ感動的なナンバーまで、アジアン・プログハードの傑作というべき内容です。
メロディック度・・8 プログレ度・・7 濃密度・・9 総合・・8
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CYGNUS & THE SEA MONSTERS 「One Night In Chicago 」
マイク・ポートノイ、ポール・ギルバート、ショーン・マローン、ジェイソン・マクマスター
というメンバーで行われた、RUSHトリビュートバンドの2005年のライブ音源を収録、
のっけから20分を超える「2112」でスタート、ポートノイの巧みなドラムに、CYNICのショーン・マローンのベース、
Mr.BIGのポール・ギルバートのギターに、元Watchtower、ジェイソン・マクマスターのハイトーンヴォーカルで、
原曲を軽やかに再現。音質的にはレンジが狭くて、上質のブート程度なのと、ヴォーカルの粗さが気にはなるが、
演奏自体はさすがの安定感。本家では「A Farewell to Kings」 と「Hemispheres」の2作にわたって収録された、
「Cygnus X-1」の2部構成の大曲を続けて披露。ラストの「YYG」は、途中のドラムソロも聴きどころ。ファンはどうぞ。
ライブ演奏・・8 音質・・7 トリビュート度・・8 総合・・7.5
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Coryell/Mouzon 「Back Together Again」
アメリカのミュージシャン、ラリー・コリエル&アルフォンス・ムザーンによる1977年作/邦題「未来への再会」
フュージョンとジャズの融合を早くから取り組んだギタリスト、コリエルを中心に、ジャズ・フュージョンの名ドラマーで、
The Eleventh Houseの盟友でもあるムザーン、ベースのジョン・リー、さらにはFOCUSにも参加していた、
ベルギー人ギタリストのフィリップ・カテリーンを加えたツインギターの編成。手数の多い軽やかなドラムに
二本のギターの甘美なメロディを乗せて、優雅でテクニカルなフュージョンロックを聴かせる。
ジャズをベースにしたスリリングなアンサンブルと、叙情的なメロディアス性を含んだ展開力も見事で、
オールインストながら、歌心のあるギタープレイはさすがというところ。プログレファン的には、巧みなギターとともに、
FOCUS
あたりに通じる味わいでも楽しめるだろう。ジャズ、フュージョンのクロスオーバーというべき傑作だ。
ロック度・・7 技巧度・・9 優雅度・・9 総合・・8.5
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Garaj Mahal 「Mondo Garaj」
アメリカのフュージョン・ジャズロック、ガライ・マールの2003年作
パキスタンとチリのハーフのギタリストを中心にしたユニットで、グルーヴィなアンサンブルに
フリーキーなギターとシンセを重ねた、インストによるフュージョン・ジャズロックを聴かせる。
スラップの効いたベースの存在感と、軽やかなドラムのテクニックもなかなかのもので、
シンセはエレピをはじめオルガンも使っているので、わりとプログレ感もあって良いですね。
ギターは決して前に出すぎることなく、ドラムとベースがアンサンブルを引っ張っていて、
随所にシタールも使っていてオリエンタルな民族色も覗かせる。軽妙なインスト作品です。
ドラマティック度・・6 プログレ度・・7 軽妙度・・8 総合・・7.5
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3/26
ドイツ、北欧、東欧、ヨーロピアンプログレ(91)


Magoria 「JTR1888」
オランダのシンフォニックロック、マゴリアの2019年作
KNIGHT AREAのギターを中心にしたロックオペラで、19世紀の切り裂きジャックをテーマにしたCD2枚組のコンセプト作。
VeralinやAyreon、Valentineなどにも参加したメンバーなど、9人の男女ヴォーカルが配役ごとに歌声を乗せる。
しっとりと美しい女性ヴォーカルに、オーケストラルなアレンジを加えた壮麗なイントロから、メロディックなギターを乗せた
ときにメタル寄りのハードな感触も覗かせつつ、プログレらしいきらびやかなシンセワークと魅力的な女性声で
どことなくLANDMARQを壮大にしたようでもある、ドラマティックで優雅なハード・シンフォニックロックを展開する。
楽曲ごとはキャッチーなメロディアス性とともに聴きやすく、男性声よりも女性Voがメインなのも嬉しいですな。
ドラマティック度・・9 プログレ度・・7 壮麗度・・9 総合・・8
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Fish on Friday 「An Initiation」
ベルギーのプログレバンド、フィッシュ・オン・フライデーの2019年作
2010年のデビュー作「SHOOT THE MOON」から、2017年作「QUIET LIFE」までの4作から選曲された楽曲を
新たにリミックスし、未発曲を加えたベストアルバム。美麗なシンセアレンジにメロウなギターの旋律、
マイルドなヴォーカルで、キャッチーなポップ性と泣きの叙情が同居した、優美なサウンドを聴かせてくれる。
曲によっては、TOTOのようなAOR風味もありつつ、10分を超える大曲ではシンフォニックロックとしての
壮麗な美しさにも包まれる。楽曲はわりと素直でシンプルなだが、女性声を加えたゴージャスなコーラスなど、
アダルトなメロディックロックとしても普通に楽しめる。バンドの入門用にも最適な全78分です。
メロディック度・・8 プログレ度・・7 優美度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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FREQUENCY DRIFT 「Personal Effects Pt.2」
ドイツのプログレバンド、フリクエンシー・ドリフトの2010年作
デビュー作である2008年作の続編となるコンセプトアルバムで、適度にハードなギターに美しいシンセを重ね、
コケティッシュな女性ヴォーカルとともに、しっとりとした翳りを帯びたサウンドを描いてゆく。
ときにヴァイオリンの音色も加わって、ゴシック的でもあるアンニュイな倦怠の叙情を感じさせながら、
ゆるやかにドラマを描くようなサウンドを構築するセンスは、本作の時点ですでに確立されている。
シンセをバックに美しい女性声を乗せた、しっとりとしたパートなども魅力的で、派手な盛り上がりはさほどないが
魅力的なヴォーカルとともに薄暗い静謐感に包まれた、スタイリッシュな作風はある意味で個性的だ。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 女性Vo度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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RPWL 「Trying to Kiss the Sun」
ドイツのプログレバンド、RPWLの2002年作
2000年にデビュー、フロイド系ルーツのポストプログレとして、いまやドイツを代表するバンドの2作目。
メロウなギターにマイルドなヴォーカル、うっすらとしたシンセを重ねた、ユルめの叙情に包まれたサウンドで、
まさにPINK FLOYDを受け継ぐような雰囲気。のちの作品に比べるとドラマティックな構築性よりも、
キャッチーでやわらかな叙情性に包まれていて、繊細系シンフォニックロックとしてもほどよく楽しめる。
派手さはないが、主張しすぎない優しいシンセアレンジに、泣きのギターとともにゆったりと鑑賞できる。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 叙情度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Rhys Marsh 「October After All」
イギリス出身、ノルウェーで活動するミュージシャン、ライス・マーシュの2019年作
2008年にデビュー、いまや北欧のポストプログレ系を代表するアーティストの一人だろう。
やわらかなシンセに繊細なトーンのギター、マイルドなヴォーカルを乗せた、キャッチーなサウンドに、
涼やかで物悲しい叙情をまとわせた聴き心地。優美なシンセワークはシンフォニックロック的で、
楽曲は3〜5分前後のわりとシンプルな歌もの風であるが、ときにサックスが鳴り響き、
優しいコーラスハーモニーとともに、アダルトな哀愁とセンシティブな空気感に包まれてゆく。
ヴィンテージなシンセによるオールドな感触で、レイドバックした味わいの叙情美溢れる逸品だ。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 叙情度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Crea 「Dwarves & Penguins」
スウェーデンのプログレバンド、クレアの2019年作
90年代に活動するもアルバムを残さず消滅したバンドの復活作。やわらかなシンセにメロウなギター、
マイルドなヴォーカルを乗せて、翳りを帯びた叙情に包まれたサウンドを聴かせる。
ギターの奏でる泣きのフレーズは随所に魅力的で、ほどよくキャッチーな感触もあるが、
楽曲自体はやや盛り上がりに欠け、雰囲気はよいのだが淡々とした印象になっている。
煮え切らない北欧シンフォという点では、初期のGALLEONなどにも通じるかもしれない。
アルバム後半のインスト曲などは、優美な味わいでよい感じだが、全体的にはやや淡白か。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 叙情度・・8 総合・・7
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Tusmorke 「Osloborgerlig Tusmorke: Vardoger Og Utburder, Vol. 1」
ノルウェーのプログレバンド、タスメルケの2018年作
2012年にデビューし、本作はすでに7作目となる。壮大なサイケプログレとなった前作から、
本作は1曲目から、ヴァイオリンやフルートが鳴り、母国語のヴォーカルを乗せた、薄暗い土着性に包まれる。
北欧トラッド的なアコースティックな味わいに、ユルめのけだるげな妖しいサイケ感が同居していて、
プログレというよりはフォーキーな牧歌性で聴かせるのんびりとしたナンバーなどもあったりと、
ある意味やりすぎなまでのユルさである。フルートにクラリネットも鳴り響くサイケロックになごみつつ、
11分近いラスト曲も、これといった盛り上がりを見せるでもなく、ゆるゆるとリフレインが続く。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 ユル度・・9 総合・・7.5 過去作のレビューはこちら
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GENTLE KNIFE 「CLOCK UNWOUND」
ノルウェーのプログレバンド、ジェントル・ナイフの2017年作
2015年にデビューし、2作目となる。女性Voにフルート、サックス奏者などを含む、11人という大編成で、
ピアノとトランペットによるしっとりとしたイントロ曲から、シンセを加えたスタイリッシュなアンサンブルに、
男女ヴォーカルの歌声を乗せて、ほどよくハードでモダンなプログレサウンドを聴かせる。
15分という大曲では、優雅なフルートやサックスやホルンが鳴り響くゆったりとしたインストパートとともに、
チェンバーロック風の空気もかもしだす。一方ではプログレらしいきらびやかなシンセワークも現れて
男女声を乗せたキャッチーなノリのナンバーもあったりと軽妙な作風が楽しめる。随所に叙情的なギターも覗かせて、
ぱっと聴きには派手さはないが、全体的に大人の余裕というものが感じられる、玄人好みのセンスを感じる好作だ。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 優雅度・・8 総合・・8
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SONIC SIGHT 「ANTHROPOLOGY」
ノルウェーのプログレバンド、ソニック・サイトの2017年作
ソロとしても活動する、マルチプレイヤーのFinn Arildを中心にしたバンドで、叙情的なギターに
プログレらしいヴィンテージなシンセを重ね、フィル・コリンズを思わせるジェントルなヴォーカルで、
70年代後期のGENESISにも通じるキャッチーなサウンドを聴かせる。泣きのギターフレーズに優美なピアノで、
大人の味わいの叙情に包まれたゆったりとした感触とともに、80年代風のメロディックロックとしても楽しめ、
IT BITESあたりが好きなリスナーにも対応。目新しさはないが、センスある構築力もさすがというところ。
キャッチーなシンフォプログレが好きな方には、理想的なバランスのサウンドだと思う。
メロディック度・・8 プログレ度・・8 優雅な叙情度・・8 総合・・8
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GALLEON 「Mind Over Matter」
スウェーデンのプログレバンド、ギャレオンの1998年作
1994年にデビューし、本作は5作目となる。やわらかなシンセアレンジに叙情的なギターと
ジェントルなヴォーカルを乗せた、北欧らしい涼やかでキャッチーなシンフォニックロックを聴かせる。
10分を超える大曲も、決して派手さはないが、ゆったりとした叙情とほどよい展開力で優美に構築してゆく。
繊細なシンセワークとやわらかなヴォーカルメロディには、初期のTHE FLOWER KINGSにも通じる雰囲気もあり
過去作と比べて幻想的な世界観の強度が強まっている。ラストの21分という大曲も、あくまでゆったりとメロウに聴かせます。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 優美度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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THE GIANT HOGWEED ORCHESTRA
フィンランドのプログレバンド、ジャイアン・ホグウィード・オーケストラの2004年作
サイケな雰囲気をかもしだすギターにやわらかなフルートの音色を重ね、ゆったりとしたアンサンブルで
叙情的なインストサウンドを聴かせる。楽曲は10分前後と長めであるが、これといった展開や
盛り上がる場面はさほどなく、フリーキーな演奏が淡々と続いてゆく感じなので長尺に感じてしまう。
優美なフルートが映える小曲などは、北欧らしい涼やかで叙情的な味わいでいいのだが、
20分近い大曲では、ユルめのサイケ路線が延々と続くので、人によっては退屈かもしれない。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 北欧度・・7 総合・・7
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Niemen 「Spodchmurykapelusza」
ポーランドのミュージシャン、ニーメンこと、CZESLAW NIEMENの2002年作
60年代から活動するポーランドを代表するミュージシャンで、本作はそのラストアルバム。
打ち込みによるリズムに美しいシンセとバード寄りのギターを乗せ、ポーランド語による
枯れた味わいのヴォーカルで聴かせる、シンフォニックな歌ものロックというサウンド。
ときにフルートの音色などの民族色とエレクトロなモダンさが同居しつつ、情感的なニーメンの歌声が
時代的な雰囲気で包み込む。楽曲は3〜4分前後で、全体的にもプログレ的な部分は少ないが、
アーティスト、ニーメンの最後の輝きが味わえる。本作を最後に偉大なるミュージシャンは、2004年に死去する。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 ニーメンの歌声度・・8 総合・・7.5 過去作のレビューはこちら
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THE RYSZARD KRAMARSKI PROJECT 「Mr Scrooge」
MILLENIUMのシンセ奏者でもあるポーランドのミュージシャン、リシャルト・クラマルスキによるプロジェクト。2019年作
本作はディケンズの小説「クリスマス・キャロル」を題材にしたコンセプト作品で、MILLENIUMのベースに、
同郷のMoonriseLoonyparkのメンバーも参加、やわらかなシンセアレンジに美しい女性ヴォーカルを乗せ、
叙情的なギターとともに優美なシンフォニックロックを展開する。翳りを帯びた叙情性はPink Floyd的な部分もあり、
歌詞は英語ながらも、やはりポーランド的なしっとりとした空気感に包まれる。スリリングな展開はさほどないが、
Magentaの「Home」などにも通じる物語性のある女性声歌ものシンフォとして、ゆったりと楽しめる逸品です。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 優美度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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SUNCHILD 「Messages From Afar: The Division & Illusion Of Time」
ウクライナのシンフォニックロック、サンチャイルドの2018年作
Karfagenでも活動するシンセ奏者、アントニー・カルギン率いるバンドで、本作は7作目となる。
メロディックなギターに美麗なシンセワーク、マイルドなヴォーカルを乗せて、優雅でファンタジックな
シンフォプログレを展開する。随所に女性ヴォーカルを加え、やわらかなシンセアレンジとともに、
素朴で牧歌的な世界観に包まれた作風は、じつに優しい聴き心地。20分を超える大曲も
メロウなギターの旋律に優美なシンセと男女ヴォーカルで、あくまでゆったりと構築する。
全体的にスリリングな展開はさほどないが、優美な叙情派シンフォが楽しめる好作品です。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 優美度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Tatiana's Niovi 「Breath Of Life」
ギリシャのシンフォニック・ハード、タティアナズ・ニオヴィの2013年作
やわらかなシンセアレンジに美しい女性ヴォーカルを乗せ、適度にハードなギターに
いくぶんエレクトロなアレンジも含んだ優美なサウンド。ときにアンビエントでキャッチーな感触と、
タティアナ嬢の艶めいたどこか神秘的な歌声とともに、随所にケルティックな土着性も含んだ
浮遊感のある聴き心地で楽しめる。美麗なシンセと叙情的なギターの旋律とともに、
曲によっては、IONAなどのケルティックなシンフォニックロックとしても鑑賞可能。
楽曲は3〜5分前後と、わりとコンパクトなので、より壮麗な大曲なども聴いてみたい。
シンフォニック度・・8 優美度・・9 女性Vo度・・8 総合・・7.5
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3/12
英国プログレ特集(76)


PENDRAGON「Love Over Fear」
イギリスのシンフォニックロック、ペンドラゴンの2020年作
1983年にデビュー、名実ともに英国シンフォニックロックを代表するバンドの、6年ぶりとなる10作目。
オルガンを使ったヴィンテージなシンセを乗せた軽快な始まりから、古き良きスタイルへの回帰を感じさせるが、
ニック・バレットの奏でる泣きのギターとかすれた味わいのヴォーカルが加わると、ペンドラワールドが全開。
シンセとヴォーカルを主体にしたしっとりとしたメロウな小曲や、アコースティックギターの繊細なつまびきから、
エレキによる叙情フレーズが加わると、CAMELのような優美な味わいに。マンドリンやヴァイオリンを使った
トラッド的な質感のナンバーなども新機軸で、全体的にも力み過ぎない自然体のやわらかな叙情美に包まれている。
ラスト曲では、クライブ・ノーランの美麗なシンセワークとともにゆるやかに幕を閉じる。ベテラン健在の傑作です。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 泣きの叙情度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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The Tangent 「Auto Reconnaissance」
イギリスのプログレバンド、タンジェントの2020年作
マルチプレイヤーのアンディ・ティリソンを中心に、2003年にデビュー、本作はすでに通算11作目となる
ギターはルーク・マシン、ベースはヨナス・レインゴールド、ドラムにはスティーブ・ロバーツと前作からのメンバーで、
オルガンを含むシンセワークに軽妙なギター、マイルドなヴォーカルを乗せた優雅なプログレサウンドを聴かせる。
軽やかなドラムに存在感あるベースという見事なリズム隊に、キャッチーなコーラスハーモニーも引き立っていて、
カンタベリー的な優雅さをシンフォプログレに寄せた絶妙のサウンドは、円熟の境地というべき完成度。
テオ・トラヴィスのサックス、フルートに、優美なエレピなどで、オールドなジャズロック風味も描きつつ
ときにクリムゾンばりのヘヴィさも覗かせるなど、緩急ある展開力で10分を超える大曲をゆったりと構築する。
28分という大曲もあくまでやわらかな聴き心地で、枯れた味わいのヴォーカルも含めて大人のプログレが堪能できる。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 優雅で軽妙度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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THE GIFT 「ANTENNA」
イギリスのプログレバンド、ギフトの2019年作
2006年にデビューし、本作が4作目となる。英国らしい正統派のシンフォニックプログレだった前作から、
よりキャッチーなロック感をまとわせていて、やわらかなシンセとメロウなギターにマイルドなヴォーカルを乗せた、
大人の味わいのメロディックロックというサウンドになっている。10分近い大曲もありつつ、適度にハードな感触とともに
ジェントルなヴォーカルによる歌もの感とともに、肩の力の抜けた作風でゆったりと楽しめる。派手な展開はさほどなく、
アコースティックギターによる小曲から、80年代AOR風味のキャッチーなナンバー、アンビエント寄りの曲もあったりと
わりととえらどころがない。プログレとしてはやや物足りなさもあるが、ラスト曲では途中から叙情シンフォ路線に回帰する。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 叙情度・・8 総合・・7.5 過去作のレビューはこちら
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The Kentish Spires 「Sprezzatura」
イギリスのプログレバンド、ケンティッシュ・スパイアーズの2019年作
2018年にデビューし、すでに2作目となる。女性Voにサックス奏者を含む6人編成で、オルガンを含むシンセに
サックスが優雅に鳴り響き、軽妙なアンサンブルで聴かせるジャズロックの感触に、女性ヴォーカルの歌声と
やわらかなフルート、アコースティックギターにピアノも加えた、英国フォーク風の素朴な牧歌性も含んだサウンド。
紅一点、Lucie.Vさんの歌声は、なよやかというよりは姐御系の雰囲気で、独特の味わいをかもしだし、
どこか妖しく魔女めいたところもある。ヴィンテージな70年代感覚に包まれつつも、決して濃密にはならず
シンプルな音数でさらりとした聴き心地。もう少し展開力が欲しい気もするが、この素朴さに惹かれる方も多いかと。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 優雅度・・8 総合・・7.5
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GIZMO 「Marlowe's Children Part 1“The Innocence”」
イギリスのプログレバンド、ギズモの2015年作
やわらかなフルートにアコースティックギター、マイルドなヴォーカルを乗せた牧歌的なサウンドで
オルガンも鳴り響くゆったりとしたアンサンブルには、カンタベリー的な優雅さも感じさせる。
SEや子供の声などを取り入れ、ジャケのイメージのような少年時代のモラトリアムを描く世界観には、
古き良き英国の空気が感じ取れる。わりとポップなナンバーや、サックスが鳴り響く大人の味わいもあったり、
プログレ的な展開力はさほどないが、コンセプト的な雰囲気も含んでいて、The Moody Blues
The Whoなどにも通じる、往年のキャッチーな英国ロックという感じで楽しめる。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 英国度・・8 総合・・7.5
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LANDMARQ 「ROADSKILL - Live In The Netherlands」
イギリスのシンフォニックロック、ランドマークのライブ。2015年作
1992年にデビュー、トレイシー・ヒッチングが加入した1998年以降は女性声のシンフォプログレとして人気を博す。
本作はオランダでのライブをCD+DVDに収録。2012年作「Entertaining Angels」からのナンバーを中心にしたセットで、
ほどよくハードで叙情的なギターにシンセを重ね、トレイシー・ヒッチングスの艶めいた女性ヴォーカルを乗せて、
キャッチーできらびやかなシンフォプログレを展開。美しいシンセに叙情的なギターフレーズが重なる優美な聴き心地で
10分を超える大曲もゆったりと優雅に楽しめる。そして16分という大曲「Calm Before the Storm」はライブのハイライトで、
ドラマティックな構築力とともに正統派の女性声シンフォプログレが楽しめる。DVDの方はCDよりも曲数が多く、
すっかり熟女になられたタプタプのトレイシーさんの巨乳とお腹…いやいや、お姿も含めてなかなか必見です。
ライブ演奏・・8 ライブ映像・・8 優美度・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Steven Willson 「Home Invasion」
イギリスのミュージシャン。スティーヴン・ウィルソンのライブ。2018年作
Porcupine Treeのリーダーであり、いまや新世代のプログレッシブロックを代表する顔というべきミュージシャン。
本作は2018年、ロンドンの名門ロイヤル・アルバートホールで行われたライブを収録した、2CD+DVD(初回盤)。
最新ソロ作の「To The Bone」からのナンバーを主体に、ポーキュパイン・トゥリーの楽曲も披露。
マイルドなヴォーカルを乗せた、ほどよいキャッチーさと翳りを帯びた繊細な叙情が同居したサウンドに
ときに女性ヴォーカルも加わったゴージャスなアレンジもライブらしい。グレイグ・ブランデル(FROST*)の巧みなドラムに
ニック・ベッグスのベースもさすがで、アダム・ホルツマンのシンセとアレックス・ハッチングスのギターも随所に活躍、
メロウな中に、ときにハードにうるさすぎないテクニカル性を織り込むあたりも、演奏陣のレベルの高さを感じさせる。
ドラマティックな大曲「Ancestral」など、10分を超える大曲も多数。合計150分を超えるボリュームの見事なライブです。
ライブ演奏・・9 ライブ映像・・8 叙情度・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Francis Dunnery 「Vampires」
イギリスのミュージシャン、フランシス・ダナリーの2016年作
IT BITESのギター&ヴォーカルである彼が、イット・バイツの楽曲をセルフカヴァーした2CD。
軽やかなギタープレイに、オルガンやピアノなどのシンセアレンジを重ね、かつてと変わらぬマイルドな歌声で
80年代の楽曲をわりとストレートにカヴァーした1曲目から、オールドなファンはなつかしさがこみ上げるだろう。
アコースティックギターを使った大人のアレンジもあったり、曲によってはシンプルな味わいながらも、
キャッチーでスタイリッシュなサウンドは古さを感じさせない。叙情的な泣きのギタープレイも随所に聴かせ、
2nd収録の「The Old Man And The Angel」、「Yellow Christian」あたりも優美でなかなか良い雰囲気。
Disc2ラストは、2nd収録の大曲「Once Around The World」で感動的に幕を閉じる。イット・バイツファンは必聴。
メロディック度・・8 プログレ度・・7 イット・バイツ度・・9 総合・・8
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John Hackett Band 「We are not Alone」
イギリスのミュージシャン、ジョン・ハケット率いるバンドの2017年作
スティーブ・ハケットの弟として知られるフルート奏者で、バンド名義としては初のアルバムとなる。
ジョンはシンセにサイドギター、リードヴォーカルも担当、やわらかなフルートに叙情的なギターとシンセに、
マイルドなヴォーカルを加えた、優雅でキャッチーなメロディックロック。S.ハケットとホールズワースの中間というような
甘美なフレーズを奏でる、ニック・フレッチャーのギターワークも魅力的で、繊細なジョンの歌声を引き立てている。
80年代プログレハード、AOR的でもあるポップな雰囲気もありつつ、どこか翳りを帯びた歌声が英国らしい味わいで、
モダン過ぎないウェットな聴き心地。派手なところはないが、優美なフルートとセンスのあるギターが素敵な逸品です。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 叙情度・・8 総合・・8
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Midnight Sun 「Dark Tide Rising」
イギリスのプログレバンド、ミッドナイト・サンの2019年作
元ALSO EDENシンセとヴォーカル、元GREY LADY DOWN, DARWIN'S RADIOのベースなどによるバンドで、
きらびやかなシンセに適度にハードなギター、大人の味わいのエモーショナルなヴォーカルを乗せて、
スケールの大きなシンフォニックロックを聴かせる。Marillionのようなゆったりとした叙情的な感触に
往年のシンフォニックロックのドラマティックな盛り上がりが加わって、いくぶんメタル寄りのギターも含めて
重厚なサウンドを構築している。10分前後の大曲も、表現力あるヴォーカルと確かな演奏で飽きさせない。
同名バンドが多いのでまぎらわしいが、本作はPALLASなどにも通じる英国らしいハード・シンフォの逸品だ。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 叙情度・・8 総合・・8
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King Crimson 「Live at the Orpheum」
キング・クリムゾンのライブ作。2015年作
2014年のアメリカでのライブをCD+DVD(Audio)に収録。パット・マステロット、ギャヴィン・ハリソン、ビル・リーフリンを擁する
「トリプルドラム」の編成で、ロバート・フリップ、メル・コリンズ、トニー・レヴィン、ジャッコ・ジャクジクという7人編成。
イントロに続くのは「RED」収録の「One More Red Nightmare」で、CDの方は音質的にはいくぶんこもった感じもあって、
ゆったりとした大人のクリムゾンという雰囲気ながら、巧みなリズム隊にコリンズのサックスの表現力はさすがで、
「Sailor's Tale」でのスリリングなアンサンブルから、ラストの「Starless」での叙情にはやはりぐっとくる。
全40分とライブしてはやや物足りない尺であるが、この編成でのお披露目という意味合いのライブなのだろう。
DVDの方は音質がとても良く、各楽器の音の分離やドラムも音のキレも含めて、よりバンドの神髄を楽しめる。
ライブ演奏・・8 CD音質・・7 DVD音質・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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King Crimson 「Live in Toronto」
キング・クリムゾンのライブ作。2016年作
2015年カナダ、トロント公演のステージを2CDに収録。トリプルドラム編成を映したジャケのインパクトもなかなかだが、
イントロに続く「太陽と戦慄パート1」では、迫力あるドラムサウンドにハードなギターが重なり、一気に引き込まれる。
メル・コリンズのフルートやサックスも楽曲における優雅なアクセントになっていて、重厚なドラムを中心にした
バンドとしてのアンサンブルも研ぎ澄まされて、スリリングな緊張感と叙情が同居した、まさに新時代のクリムゾン。
ツーバス踏みまくる迫力たっぷりの「Red」、Disc1ラストの「Epitaph」では、ジャコのヴォーカルもいい味を出している。
Disc2は、「Easy Money」、スリリングな「Level Five」、レヴィンのベースが恰好いい「Sailor's Tale」、名曲「Starless」、
「The Court Of The Crimson King」、ラストは「21世紀の精神異常者」オールドファンは感涙。2CDで125分の必聴ライブです。
ライブ演奏・・9 音質・・8 重厚度・・9 総合・・8.5
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MARILLION 「TUMBLING DOWN THE YEARS」
イギリスのプログレバンド、マリリオンのライブ。2010/2018年作
2009年にオランダで行われた「Marillion Weekend」の2日目を、2CDに収録した2018年の再発盤。
ファンからのリクエストを元に選曲された楽曲で、2008年から1981年へと遡っていくというセットリスト。
2008年作「Happiness is the Road」の楽曲で幕を開け、メロウなギターにスティーブ・ホガースのマイルドな歌声を乗せ、
ゆったりとした優美なサウンドを描いてゆく。10分を超える「When I Meet God」などもドラマティックな味わいで、
スティーブ・ロザリーの泣きのギターがじつに耳に心地よい。Disc2では、90年代のナンバーを主体に、
キャッチーな感触も覗かせながら、現在形のアレンジでじっくりと聴かせる。ラストは1stからのナンバーで、
ホガースの歌声で初期のシンフォプログレが楽しめる。2CDで135分、ディープなマリリオンファンも満足の内容です。
ライブ演奏・・8 叙情度・・9 マリリオンの歴史度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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MARILLION 「Best.Live.」
イギリスのプログレバンド、マリリオンのライブ。2012年作
2005年「MARBLES LIVE」から、2011年「HOLIDAYS IN EDEN LIVE 2011」までの6年間に発表されたオフィシャルライブと
web限定のライブ盤から選曲された全20曲を2CDに収録。「MARBLES」収録の大曲から始まり、やわらかなシンセに
スティーブ・ロザリーの泣きのギター、スティーブ・ホガースのエモーショナルな歌声で、翳りを帯びた叙情に包まれる。
Disc1のラストは、16分を超える大曲「This Strange Engine」で、ゆるやかな盛り上がりが胸を打つ。
Disc2は、「MARBLES」収録のラスト曲でドラマティックに始まりつつ、表現力あるホガースのヴォーカルに、
やわらかなピアノでしっとりと聴かせるナンバーなども、大人の味わいで楽しめる。アコースティックギターを使った
「This Strange Engine」収録のラスト曲で爽やかに締めくくる。2CD合計146分のという、まさにベストライブ。
ライブ演奏・・9 叙情度・・9 優美度・・9 総合・・8
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Citizen Cain 「Ghost Dance」
イギリスのプログレバンド、シチズン・ケインの1996年作
本作はバンドのデビュー前、1984〜86年に録音されていた未発表音源をまとめたもので、
G&Key、Dr、B&Voというトリオ編成で、随所にシンセを重ねた幻想的なシンフォニックロックを聴かせる。
基本的には初期のIQなどに通じる、GENESISルーツの感触であるが、7〜8分という大曲を、
緩急ある展開で構築するスタイルは、のちのポンプロック路線よりも、むしろプログレ寄りかもしれない。
巧みなドラムを中心とした演奏力もしっかりしていて、変則リズムによる適度なテクニカル性を含めて、
優雅なアンサンブルも見事。単なる未発音源という以上に、バンドのルーツと実力を窺い知れる濃密な内容だ
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 優雅度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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DeeExpus 「Far From Home」
イギリスのプログレバンド、ディーエクスプスのライブ。2009年作
2009年ポーランドでのステージで、2008年作「Half Way Home」の全曲を含むセットリストを演奏。
ほどよくハードなギターにシンセを重ね、マイルドなヴォーカルを乗せた、ARENAなどにも通じる
英国らしいモダンなハードシシンフォで、安定した演奏力も含めて新世代プログの雰囲気を漂わせる。
一方では、優雅でキャッチーなオールドなプログレ感も含んでいるところが、IT BITESなどと同様に
英国らしい味わいにもなっていて、派手な展開はないもものの、安心してじっくりと楽しめるサウンドだ。
叙情的なバラードから、17分という大曲まで、スタジオ作以上にダイナミックな好ライブ作品。
ライブ演奏・・8 プログレ度・・7 英国度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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2/26
ドイツ、オランダ、ベルギー(60)


LUCIFER'S FRIEND 「BLACK MOON」
ドイツのベテランハードロック、ルシファーズ・フレンドの2019年作
1970年にデビュー、1981年までに8作を残して消えるも、2015年になって本格的に復活を果たす。
本作は、2016年作「TOO LATE TO HATE」に続く、復活後2作目で、ジョン・ロートンをはじめ、
ギターとベースのオリジナルメンバー3人を主体に、往年を思わせるオールドなサウンドを聴かせる。
オルガンなどのシンセに古き良き味わいのギターと、ブラスやストリングスなどのアレンジも随所に加えて
適度なプログレ風味も覗かせつつ、なんといっても衰え知らずのロートンの朗々としたヴォーカルが素晴らしい。
楽曲は4分前後とわりとシンプルで、新鮮な部分はさほどないが、70年代と変わらぬスタイルでファンには嬉しいだろう。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・6 古き良き度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Nektar 「Book Of Days」
ドイツで活動する英国人バンド、ネクターの2008年作
1971年デビュー、1980年までに8作を残して消えるも、2001年に20年ぶりに復活、本作は復活後の3作目となる。
ほどよくハードなギターにオルガンなどのシンセを重ね、いくぶんブルージーな感触も含んだ
古き良き味わいのハードプログレを聴かせる。アルバム中盤からは10分を超える大曲が続き、
キャッチーなオールドロック感の中に、ときに初期の頃を思わせるウェットな雰囲気も覗かせる。
派手な展開はさほどないが、大人のプログレハードが楽しめる好作品だ。2020年デラックスエディションには、
2016年に死去した、故ロイ・アルブライトンの2005年のソロ作、「THE FOLLIES OF RUPERT TREACLE」を収録
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 古き良き度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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RPWL 「Live from Outer Space」
ドイツのプログレバンド、RPWLのライブ。2020年作
2000年にデビュー、現在までに8枚のアルバムを発表している、モダンプログレの代表格。
本作は2019年のライブを2CDに収録、Disc1は2019年作「Tales From Outer Space」の完全再現で、
やわらかなシンセにほどよくハードなギター、マイルドなヴォーカルとともに、PINK FLOYDルーツの
オールドなプログレ感触と優雅なスタイリッシュ性が同居したサウンドを構築。メロウなギターフレーズや
メロトロンの音色やピアノなど優美なシンセワークが、泣きの叙情を描き出し、アルバム以上にエモーショナル。
Disc2には過去のアルバムからまんべんなくセレクト。CD2枚で全100分超のステージが満喫できる。
ライブ演奏・・8 プログレ度・・7 叙情度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Yuval Ron 「Somewhere in This Universe,Somebody Hits a Drum」
イスラエル出身、ドイツで活動するギタリスト、ユヴァル・ロンの2019年作
ドラムにマルコ・ミンネマンを迎え4人編成で、きらびやかなシンセに流麗なギタープレイを乗せた
軽やかなアンサンブルを展開。アラン・ホールズワース的でもある優雅なジャズロック感触から、
クリムゾンにも通じるスリリングな構築力も覗かせながら、あくまでも濃密すぎない軽妙な味わい。
スペイシーなシンセにゆったりと叙情的なギターフレーズを重ねた優美なナンバーを挟みつつ、
後半は、10分近い大曲3連発で、テクニカルなリズムのシンフォニック・ジャズロック風味で、
技巧的なギターを奏でまくる。優雅で軽やかなホールズワース系プログレ・ジャズロックの逸品。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・8 優雅度・・9 総合・・8
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Realisea「Mantelpiece」
オランダのシンフォニックロック、リアリシーの2020年作
SILHOUETTEのBrian de Graevを中心に、多数のメンバーが参加したプロジェクトで、
美麗なシンセにキュートな女性ヴォーカルの歌声を乗せ、メロウな泣きのギターとともに
優美な叙情に包まれたシンフォニックロックを聴かせる。マイルドな男性ヴォーカルも加わって、
艶やかなヴァイオリンの音色や、アコースティックを含む繊細な味わいはとても耳心地よい。
全体的に派手な展開はさほどないが、メロディックなギターフレーズとやわらかなシンセによる、
ゆったりと優しいサウンドが楽しめる。本作が気に入ったらも、SILHOUETTEもぜひチェックすべし。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 優美度・・9 総合・・8
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CHANDELIER 「FACEING GRAVITY」
ドイツのシンフォニックロック、シャンデリアの1992/2018年作
1990年にデビュー、本作は2作目のリマスター再発盤。美麗なシンセアレンジにメロウなギターフレーズを重ね
ややクセのあるヴォーカルとともに、初期MARILLIONにも通じるポンプロック寄りのサウンドを聴かせる。
前作の優美なシンフォプログレ路線から、よりスタイリッシュでキャッチーな抜けの良さをまとい、
メロディックロックとしての軽快な聴きやすさと、シンフォニックロックの叙情がバランス良く同居していて、
ゆったりとした繊細なナンバーから、15分におよぶ大曲まで、濃密すぎないリリカルな耳心地で楽しめる。
Disc2には、1993年フランスでのライブ音源を収録。音質も良好で、1stと2ndの楽曲を主体に、確かな演奏力で、
スタジオアルバム以上に躍動的なサウンドを聴かせる。ライブ単体としても出来が良いボーナスである。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 優美度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Marco Minnemann 「EEPS」
ドイツ出身のドラマーにしてマルチミュージシャン、マルコ・ミンネマンの2014年作
本作はヴォーカルを含む全パートを自身で務めるまさしくソロアルバムで、軽やかなドラムにギターとシンセを乗せた、
独りセッション的なフリーキーなテクニカル性と、ラフなヴォーカルを重ねたガレージロック風味が同居しつつ、
結果としてキャッチーでストレンジなアヴァンギャルド・サウンドを聴かせる。とにかくドラムが上手いので、
テキトーなアンサンブルでも説得力があり、バラけた曲調のわりにはカッチリと聴こえるというのが凄い。
2〜4分前後の小曲を主体に11分という大曲もあり、ときにメロウなギターに自身のヴォーカルを乗せて、
ゆったりと叙情を描くところは、ミュージシャンとしての懐の深さを感じさせる。ボーナス入れて全79分という力作だ。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 アーティスティック度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Marco Minnemann 「Borrego」
ドイツ出身のドラマーにしてマルチミュージシャン、マルコ・ミンネマンの2016年作
アメリカにあるアンザ・ボレゴ砂漠をコンセプトにしたCD2枚組作品で、ヴォーカルを含め全パートを独りで演奏。
一聴してオルタナ寄りのサウンドは、わりと普通のモダンロックの感触だが、随所にテクニカルなドラムや
フリーキーなギターによるアヴァンギャルドな味わいも覗かせる。シンセやヴァイオリンを加えての、
チェンバーロック風のスリリングなインストナンバーや、女性ヴォーカルを加えた優雅な味わいなど、
キャッチーで軽妙なナンバーも織り込みつつ、RUSHのアレックス・ライフソン、ジョー・サトリアーニがゲスト参加し、
随所に巧みなギターを披露している。全体的にリラックスした作風で、いくぶんつかみどころがないという印象も。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 アーティスティック度・・7 総合・・7.5
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Blank Manuskript 「The Waiting Soldier」
オーストリアのプログレバンド、ブランク・マヌスクリプトの2015年作
軽妙なアンサンブルにメロウなギター、オルガンを含むシンセに、フルートも鳴り響く、優雅な感触に
どこかミステリアスな空気感をまとわせたサウンド。シアトリカルに歌い上げるヴォーカルも加わりつつ、
繊細なピアノやクラシカルギターのつまびきもまじえ、ほどよくエキセントリックで唐突な展開とともに
スタイリッシュなセンスと叙情性が同居したスリリングな味わい。ときにキュートな女性ヴォーカルの歌声に、
トランペットやホルン、トロンボーンなどの音色と、優美なピアノや叙情的なギターでゆったりと聴かせつつ、
一転してオルガンにサックス、フルートが鳴り響く、スウィングジャズ的なプログレ感が現れるなど、
なかなか一筋縄ではいかない。スリリングで個性的なセンスのアヴァン・プログレが楽しめる逸品です。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・8 優雅でアヴァンギャル度・・8 総合・・8
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Jan Akkerman 「Focus in Time」
オランダのギタリスト、ヤン・アッカーマンの1998年
ご存知、FOCUSのギタリストとして知られる名プレイヤーで、本作はタイトルからして期待させる。
2〜3分前後の小曲を主体に、クラシカルな中世音楽風ナンバーから、軽やかなフュージョンナンバーまで、
アコースティックとエレキをバランス良く配し、美しいシンセアレンジとともに優雅なサウンド聴かせる。
派手なプレイというのはないのだが、クラシックとジャズの素養を持つ彼らしい、巧みなフレージングで、
ゆったりと大人の叙情を描いてゆく。アコースティックによる味わいのある繊細な小曲から、
ウリ・ロートばりのクラシカルな泣きのナンバーなどにじっくりと聴き入れる。まさに円熟の出来だ。
クラシカル度・・8 プログレ度・・7 優雅度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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QUANTUM FANTAY 「AGAPANTHUSTERRA」
ベルギーのサイケロック、クアンタム・ファンタイの2005年作
フルートが鳴り響き、スペイシーなシンセにギターを重ねた、厚みのあるアンサンブルで、
Ozric Tentaclesを思わせる、アッパーで軽快なノリのサイケロックを聴かせる。
オズテンに比べるとエレクトロな部分よりも、フルートなどによる優雅な叙情が前に出ていて、
グルーヴィなドラムをはじめ確かな演奏力で、オールインストながらも耳心地よく楽しめる。
ハードめのギターにきらびやかなシンセを重ねた、シンフォニックサイケ的なナンバーなど、
オズテン好きはもちろん、軽妙でアンサンブリーなサイケロックが好きな方にはお薦めだ。
サイケ度・・8 優雅度・・8 オズテン度・・8 総合・・8
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Julverne 「Le Pavillon Des Passions」
ベルギーのチェンバーロック、ジュルヴェルヌの2000年作
1979年デビュー、1986年以来となる5作目で、クラリネットやオーボエ、フルート、バスーンなとが鳴り響き、
クラシカルなピアノの旋律に、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのストリングスがスリリングに重なる、
いかにも室内楽的な優雅なサウンドを聴かせる。ドラムなどが入らないので、ロック的な感触はほとんどなく、
ダークさよりもヨーロピアンな気品に包まれた聴き心地が特徴だろう。一方では、ピアノやヴァイオリンをメインにした
緊迫感のあるナンバーでは、Univers Zeroにも通じる雰囲気も覗かせ、アコースティック楽器によるダイナミズムという、
優美さとアグレッシブが同居した演奏が楽しめる。かつてのサロン系チェンバーを引き継いだ優雅な逸品です。
クラシカル度・・9 ロック度・・1 優雅度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Klaus Schulze's Wahnfried「Drums'n' Balls」
ジャーマンシンセミュージックの鬼才、クラウス・シュルツェの1997年作
コンピューター・プログラムによるユニット、ヴァーンフリード名義のアルバムで、
CLARA MONDSHINEのメンバーが参加、デジタルなシンセにドラムやベースなどを重ね、
ときにエフェクトのかかったヴォイスを乗せた、エレクトロなサウンドを聴かせる。
12〜15分前後の大曲をメインに、いつものシュルツェらしいスペイシーなシンセと
フリーキーなパーカッションが合わさった、エスノ風のデジタルミュージックという趣。
女性声を乗せた神秘的な浮遊感もよい感じで、ボーナストラック曲も妖しい感触で楽しめます。
ドラマティック度・・7 幻想度・・8 シンセ度・・8 総合・・7.5
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Klaus Schulze 「La Vie Electronique 8」
クラウス・シュルツェの未発音源集その8。2010年作
Disc1には、1979年のライブ音源をメインに収録。傑作「DUNE」を発表した時期であるから、
とくに前半の40分の組曲は、幻想的なシンセの重ねによる、スケールの大きなサウンドが楽しめる。
後半の30分の組曲ではヴォーカルを加えたシアトリカルな感触も。Disc2には、1977〜78年に録音された
「ヒッチコック組曲」を収録。ティッピ・ヘドレン、ジャネット・リー、カレン・ブラック、バーバラ・ハリスといった、
ヒッチコックの映画作品に出演した女優をテーマにした、40分におよぶミステリアスな味わいの大曲。
後半には、1979年のライブ音源を収録。Disc3には、1981〜83年のスタジオ音源に、1983年のライブ音源を収録。
デジタルシンセによるエレクトロなナンバーから、フルートにドラムも入ったレアな曲もあったりしてなかなか楽しめる。
ドラマティック度・・8 幻想度・・9 シンセ度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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LIFT 「Spiegelbild & Nach Hause」
旧東ドイツのプログレバンド、リフトの3rd/4th。1981/1987年作
1977年にデビュー、本作は3作目と4作目のカップリング盤。きらびやかなシンセにサックスが鳴り響き、
ドイツ語のヴォーカルを乗せた、軽快でキャッチーな味わいのシンフォニックロックを聴かせる。
巧みなドラムとベースによる確かなアンサンブルに、RICK WAKEMANばりのシンセが弾きまくり、
ピアノやチェロ、フルートなどのクラシカルな優雅さも含んだ、メロディアスなシンフォプログレが楽しめ、
個人的には、代表作とされる2作目よりも、この3作目の方が出来が良いのではないかと思う。
4作目になると、ギターが加わったことでAOR風の感触が強まり、80年代的産業ロックの聴き心地に、
曲によってはASIAのようなキャッチーなプログレハードとしてもわりと普通に楽しめる。
メロディック度・・8 プログレ度・・8 東欧度・・8 総合・・8
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2/11
ポストプログレにフレンチプログ、サイケなど(45)


Cobalt Chapel 「Variants」
イギリスのサイケ・フォーク、コバルト・チャペルの2019年作
REGAL WORMのJerrod Goslingと女性シンガーによるユニットで、本作は2017年デビュー作のリメイク。
オルガンやメロトロンなどのヴィンテージなシンセに、美しい女性ヴォーカルの歌声を乗せた、
ゴシック的な倦怠の空気も感じさせる、アシッドなサイケフォークというようなサウンドを聴かせる。
ときにドラムやギターも加わるが、基本はシンセとヴォーカルになるアンビエントな雰囲気モノで
シーケンサーを使ったエレクトロ色も覗かせつつ、幻想的な妖しさに包まれた世界観が楽しめる。
ラストの11分の大曲は、メロトロンやアコーディオン、ドラムも加え、プログレ寄りのアシッド・フォークロックを展開。
ドラマティック度・・7 ロック度・・2 幻想度・・8 総合・・7.5
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Suns of the Tundra「Murmuration」
イギリスのポスト・プログレロック、サンズ・オブ・ツンドラの2019年作
PEACHのSimon Oakesを中心にしたバンドで、2004年にデビューし、本作は4作目となる
適度にハードなギターと、エフェクトのかかったヴォーカルとともに、TOOLを受け継ぐような
モダンでスタイリッシュなサウンド。シンセも加えたプログレ寄りの叙情性も覗かせながら、
グルーヴィなロック感触とキャッチーな歌もの感も合わさった、とらえどころのなさが魅力。
プログレとして聴くには物足りなさはあるが、モダン派のオルタナ・プログレロックの好作だ。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 スタイリッシュ度・・8 総合・・7.5
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COHEED AND CAMBRIA 「THE UNHEAVENLY CREATURES」
アメリカのプログレ・エモーショナルロック、コヒード・アンド・カンブリアの2018年作
2002年にデビューし、本作が9作目。前作はわりとシンプルな作風でいくぶん物足りなさもあったが、
今作はジャケのイメージからしてSF的なコンセプト性を感じさせる。語りを含んだ映画的なイントロから、
メロディックなギターにエモーショナルなヴォーカルを乗せて、ProgMetal的でもあるほどよくハードで
スタイリッシュな構築力と、キャッチーな歌もの感触がバランス良く同居したサウンドを聴かせる。
楽曲自体は、これまでの作品同様、優雅なエモーショナルロックのプログレ風味という感じであるが、
ときにQUEENにも通じるキャッチーな優雅さも含めて、じっくりと楽しめる。全79分というという力作だ。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 優雅でキャッチー度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Motorpsycho PresentsThe International Tussler Society
ノルウェーのロックバンド、モーターサイコがジ・インターナショナル・タスラー・ソサエティ名義で発表した作品。2005年作
いかにもオールドなギターにピアノ、ジェントルなヴォーカルを乗せた、古き良きカントリーロック風味のサウンド。
西部劇をコンセプトに、ウエスタンを思わせる雰囲気で、キャッチーな牧歌性に包まれた聴き心地であるが
モーターサイコらしいグルーヴィな生々しさを随所に感じさせる。アコースティックギターを使った優雅な味わいと
開放感のあるおおらかなロック性も含めて、のんびりと気持ちよく楽しめる。何本ものギターを重ねた音の厚みや
コーラスハーモニー、哀愁を含んだ叙情も覗かせて、北欧のバンドらしいやわらかなメロディアス性にも包まれる。
ノルウェーの実力派が、ヴィンテージでアメリカンなカントリーロックを再現したという好作品です。
キャッチー度・・8 プログレ度・・3 叙情度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Gazpacho 「Soyuz」
ノルウェーのプログレ・ロックバンド、ガスパチョの2018年作
2003年にデビュー、いまや北欧ポストプログレを代表するバンドの通算10作目のアルバム。
メロウなギターにうっすらとしたシンセに優美なピアノ、エモーショナルなヴォーカルを乗せて、
エレクトロなアレンジを含んだスタイリッシュ性と、薄暗い繊細な叙情が同居したサウンドを描く。
ヴァイオリンも鳴り響く、北欧らしい涼やかで優雅な味わいに包まれつつ、ゆったりと静謐パートと
盛り上げるロック部分のダイナミズムもあって、プログレとしてもしっかりと楽しめるのがさすが。
13分という大曲もあくまで優美な雰囲気で、ゆったりと構築する。いつもながらに味わい深い逸品。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 優美度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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35 Tapes 「Lost & Found」
ノルウェーのプログレバンド、35テープスの2019年作
やわらかにメロトロンが鳴り響き、叙情的なギターに繊細なピアノ、ジェントルなヴォーカルを乗せた
しっとりと優美なサウンド。涼やかな泣きのギターフレーズが耳心地よく、同郷のAIRBAGあたりにも通じる
ポストプログレ的な大人の歌もの感も含んだ作風ながら、どこか暖かみを感じさせる古き良き空気を感じさせる。
後半は19分という大曲で、優しいシンセワークとメロウなギターにマイルドな歌声で、じっくりと聴かせる。
全体的に派手なところはないが、北欧らしい叙情にじわじわと包まれるような好作品です。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 優美度・・8 総合・・7.5
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Frokedal 「Hold On Dreamer」
ノルウェーのアシッドフォークロック、フローケダルの2016年作
女性SSW、アン・リーズ・フローケダル嬢を中心にしたユニットで、ユルめのギターにシンセを重ね、
やわらかな女性ヴォーカルを乗せた、素朴でゆったりとした浮遊感に包まれたサウンド。
フィドルやマンドリンにパーカッションも鳴り響く、北欧らしい土着性も含んだゆるやかな味わいに、
エレキギターやドラムも加わったロック感触もいくぶん覗かせて、SPRIGUNSあたりにも通じる
幻想的なプログレ・フォークの雰囲気とともに、のんびりと夢見心地に楽しめる。
アナログ感ある70年代風の音質や、ときにトランペットなどを使ったアレンジもよい感じです。
幻想フォーク度・・8 ロック度・・6 女性Vo度・・8 総合・・8
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ATLANTIDE
フランスのプログレバンド、アトランティーデの1976年作
VISITORSで知られる、ジャン・ピエール・マシエラによるプロジェクトで、本作が唯一の作品。
のっけからYESのあの曲を思わせるギターフレーズとともに、軽やかなアンサンブルで始まり、
アコースティックな叙情を含んだ優雅なサウンドを聴かせる。フランス語によるマイルドなヴォーカルに
女性コーラスなども加えて、ほどよくキャッチーな味わいと素朴な牧歌性を含んだサウンドに、
どことなく霧のかかっようなミステリアスな空気感に包まれるところは、いかにもフランスらしい。
12分という大曲も、YESから拝借したようなフレーズも覗かせて、叙情豊かに構築してゆく。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・8 優雅度・・8 総合・・7.5
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Qantum 「Les Temps Oublies」
フランスのプログレバンド、クアンタムの2009年作
きらびやかなシンセにギターを重ね、フランス語による味のあるヴォーカルを乗せた、
優雅なシンフォニックロックを聴かせる。フレンチらしいシアトリカルでドラマティックな雰囲気は、
やはりANGEをルーツにした雰囲気であるが、ほどよいマイナー臭さも含めてなかなか出来がよい。
随所にクラシカルなピアノや、メロウな旋律を奏でるギターもよい感じで、楽曲も3〜7分ほどなので
長すぎないのも聴きやすい。濃密なヴォーカルパートと、優美な叙情のインストパートの対比もよろしく、
古き良き正統派シンフォプログレの王道というような、幻想のロマンが味わえる力作です。
ドラマティック度・・8 叙情度・・9 フレンチ度・・9 総合・・8
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MOTIS 「Ripaille」
フランスのプログレバンド、モーティスの2011年作
2004年にデビュー、本作は3作目。ムーグやメロトロン、オルガンなどのシンセにフランス語の歌声を乗せ、
哀愁を含んだブズーキの音色など、トラッド的な味わいが合わさった、優雅なサウンドを聴かせる。
ヴィンテージなキーボードプログレと、アコースティックのフォーク要素が同居したような感触で、
フレンチらしいシアトリカルな空気と、素朴な古楽風味が融合した独自の世界観が楽しめる。
楽曲は3〜5分前後中心で、プログレらしい展開力はさほどなく、フランス語による歌もの感が強いのだが、
アルバム後半には、オルガンにメロトロンが鳴り響くイントロ曲などもあって、むしろ古楽要素がもっと欲しい気も。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 フレンチ度・・9 総合・・7.5 過去作のレビューはこちら
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DIDIER BARDIN 「Le Pouvoir Des Pierres」
フランスのシンセ奏者、ディディアー・バーディンの2008年作
美麗なシンセやピアノにアコースティックギターを重ねた、JEAN-PASCAL BOFFOGANDALFなども通じる、
繊細で優美なサウンド。やわらかなフルートの音色に、リリカルなシンセの重ねが幻想的な世界観を描き、
ときに語りのような女性ヴォーカルが加わって、しっとりとまどろむような聴き心地で楽しめる。
ロック色はほぼ皆無で、プログレ的な展開というのもないので、アンビエントなシンセミュージックや
夢見心地のクラシカルシンフォなどが好きな方向けだろう。けだるい午睡にぴったりの音楽です。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・6 優美度・・8 総合・・7
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VERSUS X 「The Turbulent Zone」
フランスのプログレバンド、ヴェルサス・エックスの2000年作
1994年にデビューし、3作目となる。のっけから21分という組曲で、美麗なシンセに叙情的なギターを重ね、
枯れた味わいのヴォーカルを乗せた、王道のシンフォニックロックを聴かせる。アコースティックギターや
優美なピアノなど、リリカルで繊細な耳心地で、メロウなギターの旋律も含めてなかなか魅力的であるが、
ヘタウマな英語ヴォーカルが、いかにもマイナー感をかもしだしている点では、90年代シンフォ的ともいえる。
アルバム後半も13分、15分という大曲で、優雅な美旋律をまぶしたサウンドをじっくり楽しめる。
幾何学的なジャケからは想像がつかない、叙情豊かな正統派シンフォプログレの逸品です。
ドラマティック度・・8 叙情度・・9 フレンチ度・・7 総合・・7.5
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MARS RED SKY 「STRANDED IN ARCADIA」
フランスのサイケ・ドゥームロック、マーズ・レッド・スカイの2014年作
2011年にデビューし、本作は2作目。ほどよくヘヴィなギターを乗せたスローなアンサンブルに
中性的なヴォーカルを乗せて、サイケな浮遊感に包まれたドゥームロックを聴かせる。
アナログ感たっぷりのヴィンテージな味わいに、ポストロック的なスケールも感じさせ、
スペイシーなサイケ感も加わったという、いわばプログレリスナー寄りのドゥームといべきか。
ユルめに楽しめる叙情的な部分もありつつ、不穏な空気に包まれたインストナンバーや、
シンセを加えたプログレ寄りのパートもあって、なかなか楽しめる。全44分という長さもちょうどよい。
ドラマティック度・・7 サイケドゥーム度・・8 ヴィンテージ度・・8 総合・・8
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MARS RED SKY 「THE TASK ETERNAL」
フランスのサイケ・ドゥームロック、マーズ・レッド・スカイの2019年作
4作目となる本作も、アナログ感たっぷりのギターにマイルドなヴォーカルを乗せ、
ほどよいヘヴィさとサイケなユルさが同居した、ヴィンテージなサウンドを聴かせる。
わりとエモーショナルで優しい歌声が、ドゥームなギターリフとのコントラストになって、
メタル感触が緩和されることで、わりとキャッチーでソフトな味わいになっている。
インストのナンバーなどでは、ポストロックやプログレにも通じる感触もあって、
ラストのアコースティック曲で幕を閉じるまで、やわらかで妖しい世界観が楽しめる。
ドラマティック度・・7 サイケドゥーム度・・8 ヴィンテージ度・・8 総合・・8
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Atavismo 「Inerte」
スペインのプログレ・サイケロック、アタヴィスモの2017年作
ほどよくハードなギターにメロトロンやファルフィッサ・オルガンを重ね、マイルドなヴォーカルとともに
ANEKDOTENのような涼やかな叙情と、サイケな浮遊感に包まれたサウンドを聴かせる。
ヴィンテージなシンセとギターのトーンは、70年代的なアナログ感をかもしだしていて、
随所に女性コーラスを加えた妖しい雰囲気も含めて、サイケドゥーム的な味わいもある。
10分を超える大曲では、ユルめのリフレインがやや長尺に思えるところもあるが、
カッチリしていない分、神秘的なスケールを感じさせる。ヴィンテージな浮遊感に浸れます。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 ヴィンテージ度・・8 総合・・7.5
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1/29
イタリアンプログレ特集(30)


I TEOREMI
イタリアンロックバンド、イ・テオレミの1972年作
本作が唯一のアルバムで、ブルージーなギターを乗せた大人の味わいのアンサンブルに
イタリア語によるヴォーカルで聴かせる、オールドスタイルのハードプログレサウンド。
シンセをほとんど使っていないのでプログレ感はさほどないが、ブリティッシュロックをルーツに、
イタリアらしい濃密さを加えたスタイルは、初期のIL BALLETTO DI BRONZOにも通じるだろう。
巧みなドラムとセンスのあるフレージングを奏でるギターを中心にした演奏力の高さもあって、
情熱的なヴォーカルとともに、ひとつの世界観を描いている。ハードロックルーツの傑作だ。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 イタリア度・・8 総合・・8
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Picchio dal Pozzo「Abbiamo Tutti I Suoi Problemi」
イタリアのプログレバンド、ピッキオ・ダル・ポッツォの1980年作
2作目の本作は前作のカンタベリー的な雰囲気から、HENRY COWにも通じるチェンバーロック色を強めている。
サックスやクラリネットがフリーキーに吹き鳴らされ、変則リズムによるスリリングな優雅さに包まれる。
イタリア語によるとぼけた味わいのヴォーカル曲もあるが、基本はブラスを主体にしたインストによるナンバーで、
随所にフルートやヴィヴラフォンの音色も加わって、やわらかな偏屈さというべきサウンドが展開される。
15分を超える大曲では、メロディアスなギターやアコースティックも含んだ繊細な叙情にカンタベリー風味も感じさせる。
初心者の頃は楽しめなかったが、改めて聴くとソフトなチェンバーロックとして飽きの来ない逸品であると思える。
チェンバー度・・8 プログレ度・・7 優雅な偏屈度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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DALTON 「EDEN」
イタリアのプログレバンド、ダルトンの2019年作
1973年のデビュー作「無限の概念への省察」は日本盤も出たのでご存知の方も多いだろう。1975年作を最後に消えたバンドの、
じつに44年ぶりとなる復活作。バグパイプの鳴り響くイントロから、やわらかなピアノに女性ヴォーカルのイタリア語の歌声を乗せ、
美しいストリングスシンセにフルート、男性ヴォーカルも加えて、往年のイタリアンロックを思わせる優美なサウンドが広がってゆく。
アコースティックギターによる牧歌的な味わいと、優しい男女ヴォーカルを乗せた、アシッドフォーク的な聴き心地もあり、
楽曲は3〜4分前後とわりとシンプルながら、オルガンやムーグシンセなどヴィンテージなプログレ感触も同居している。
70年代の作風とはやや異なるものの、シンフォニックなアレンジと素朴な牧歌性で楽しめる、耳心地の良い好作品です。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 イタリア度・・9 総合・・8
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ERIS PLUVIA 「Tales From Another Time」
イタリアのプログレバンド、エリス・プルーヴィアの2019年作
1991年に1作を残して消えたバンドが、2010年になって復活、本作は復活後3作目となる。
ジャケの雰囲気はいかにもB級シンフォのようだが、やわらかなピアノにフルートの音色、メロウなギターの旋律も加わって、
優美なシンフォニックロックを聴かせる。繊細なシンセワークとともに英語歌詞のヴォーカルが加わると、イタリアというよりは、
Genesisルーツの感触で優しい幻想美に包まれる。女性声も加えて、しっとりと聴かせる17分の大曲も、総じてやわらかな耳心地で
ゆったりとした叙情美を楽しめる。もう少しドラマティックな展開が欲しい気もするが、優美な繊細系シンフォプログレの逸品です。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 優美度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Aerostation
イタリアのプログレバンド、エアロステーションの2018年作
ほどよくハードなギターにモダンなシンセアレンジ、マイルドなヴォーカルで聴かせる、
スタイリッシュなハードプログレサウンド。楽曲は4〜5分前後とわりとシンプルで、
随所にプログレらしい展開力も覗かせつつ、ポストプログレ的な翳りを帯びた叙情や
エレクロトなアレンジなどとともに、きらびやかであるが硬質でモダンな感触に包まれる。
ヴォーカルは英語なのでイタリアらしさはさほどなく、ストレートなリズムのナンバーは、
普通のメロディックロックという感じで、ヴィンテージ系が好きな方にはやや物足りないかも。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 スタイリッシュ度・・8 総合・・7.5
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MARBLE HOUSE 「Embers」
イタリアのプログレバンド、マーブル・ハウスの2018年作
適度にハードなギターにオルガンを含むシンセを重ね、躍動的なアンサンブルとともに、
ほどよくテクニカルで叙情的なサウンドを描く、スタイリッシュなプログレサウンド。
ヴォーカルは英語であるが、屈折感のある混沌とした味わいにはイタリアらしさは感じさせ、
演奏力のあるインストパートが、緩急ある構築力とともにミステリアスな緊張感を描き出す。
メロディックなギターを乗せたキャッチーなナンバーもあって、地味なジャケからは想像もつかない出来。
ラストは24分という大曲で、ゆったりとしたアコースティックな叙情から、スリリングなシンフォプログレに展開。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 スタイリッシュ度・・8 総合・・8
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Homunculus Res 「Della Stessa Sostanza Dei Sogni」
イタリアのプログレバンド、ホムンクルス・レスの2018年作/邦題「夢の迷宮」
2013年にデビュー、本作は3作目となる。軽やかな変拍子を含んだリズムにサックスとギターが交わり、
マイルドなヴォーカルを乗せた、カンタベリー的な優雅さに包まれたプログレ・ジャズロックサウンド。
サロン的でキャッチーな上品さと知的な屈折感が同居したという、不思議な聴き心地で、
2〜4分前後の小曲主体の構成ながら、演奏力の高さもあって非常に濃厚に楽しめる。
ときに女性ヴォーカルも加えた、やわらかな歌もの的なナンバーにも味わいがあって、
フルートや鉄琴、クラリネットの優雅な響きなど、優しいソフトな雰囲気も魅力的だ。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・8 優雅で軽妙度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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TWENTY FOUR HOURS 「CLOSE -LAMB-WHITE-WALLS」
イタリアのプログレバンド、トウェンティ・フォー・アワーズの2018年作
1988年にデビュー、2004年までに5作を残して消えるも、2016年になって12年ぶりに復活。本作はそれに続くアルバムで、
JOY DIVISION「CLOSER」、GENESIS「THE LAMB LIES DOWN ON BROADWAY」、THE BEATLES「WHITE ALBUM」
PINK FLOYD「THE WALL」という4つの名作にインスピレーションを得て作られたという、CD2枚組の大作となっている。
オルガンやメロトロンなどのヴィンテージなシンセにブルージーなギター、シアトリカルなヴォーカルを乗せて、
サイケな浮遊感に包まれたオールドなロックサウンドから、女性ヴォーカルに叙情的なギターとシンセの優美ナンバーや、
ヴァイオリンも鳴り響くクラシカルな味わいに、キャッチーなポップ性まであって、なかなかつかみどころがない。
メロトロン鳴り響く叙情的な歌ものから、オルガンと女性声で聴かせるヴィンテージハードに優美なシンフォニックと、
それなりに楽しめはするが、プログレ的な濃密さや展開はさほどなく、とらえどころのなさがもどかしい気もする。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 イタリア度・・7 総合・・7.5
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Wish 「Stay Here My Friends」
イタリアのプログレバンド、ウィッシュの2019年作
やわらかなオルガンやムーグを使ったシンセにギターを重ね、ゆったりとしたヴィンテージなサウンドを聴かせる。
ややもっさりとしたリズムとヘタウマなヴォーカルも含めて、スタイリッシュとは真逆の垢抜けなさには
90年代のマイナー系シンフォのロマンを残している。それでいて嫌いになれない優しい叙情美は、
ある意味でイタリアらしい。とくに、繊細なピアノなど鍵盤アレンジには、優雅な美意識を感じさせる。
派手なインパクトはないがあくまで叙情的。こういうバンドがいまだにいるのにホッとする。そんな好作品である。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 幻想シンフォ度・・7 総合・・7.5
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Periplo 「Diario Di Un Malessere Passeggero」
イタリアのシンフォニックロック、ペリプロの2015年作
LA COSCIENZA DI ZENO、FINISTERRE、HOSTSONATENなどで活躍する、シンセ奏者、ルカ・スケラーニと
シンガーのファウスト・シドリによるプロジェクト。優美なピアノの旋律にイタリア語のマイルドなヴォーカルを乗せ、
ヴァイオリンやチェロ、フルートを加えた優雅でクラシカルなサウンド。ギターなどは入らないものの、
ドラムを加えてのロック感触とともに、艶かなストリングスにピアノを重ねたシンフォニックな味わいに、
ほどよくキャッチーなナンバーなど、格調高すぎないところも良い。ラストのKANSASのカヴァーも美しい。
魅力的な甘い歌声とともに、優雅でシンフォニックな室内楽というサウンドが楽しめる逸品です。
クラシカル度・・9 ロック度・・5 優雅度・・10 総合・・8
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FP Emsemble「Ayexit」
イタリアのプログレ・ジャズロック、FPアンサンブルの2015年作
Syndoneに参加するヴィブラフォン奏者、フランチェスコ・ピネッティを中心としたバンドで
マルコ・ミンネマンがドラムで全面参加、軽やかなリズムにフルートやサックスが鳴り響き、
やわらかなシンセにヴィヴラフォンの優雅な響きを重ねた、プログレジャズロックを聴かせる。
アンサンブルの核となるミンネマンの巧みなドラムプレイも素晴らしく、ボトムの効いたベースと
随所に存在感のあるギターとともに、ジャズとロックが融合したスリリングなダイナミズムを加えている。
変拍子を使いながらも、テクニカルというよりは軽妙な味わいで、サックスやフルートのゆったりとしたメロディと
ヴィブラフォンの音色を楽しめるので、難解さはそれほど感じない。肩の力を抜いて鑑賞できるインスト作だ。
ジャズロック度・・8 プログレ度・・7 優雅で軽妙度・・9 総合・・8
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Il Fauno Di Marmo「The Rebus Years 2001-2012」
イタリアのプログレバンド、イル・ファウノ・ディ・マルモの2014年作
2013年作「Canti, Racconti E Battaglie」はヴィンテージなイタリアンロックの好作であったが、
本作は前身バンドである、REBUS時代の音源を収録したCD2枚組。Disc1は2002年の録音。
フルートにオルガンが鳴り響く、いかにもオールドなスタイルで、イタリア語のヴォーカルとともに
濃密な空気感が味わえる。コテコテの70'sイタプロ好きにはたまらない聴き心地だろう。
Disc2は「ACROTERIUS」というタイトルの2005年の音源で、フルートにアコースティックギターの叙情と、
シンセとギターによる厚みのあるサウンドはよりダイナミックになり、正規アルバムとしても十分なクオリティ。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・8 ヴィンテージ度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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L'ESTATE DI SAN MARTINO「ALDER」
イタリアのプログレバンド、エスターテ・ディ・サン・マルティノの2006年作
1978年にシングルを1枚出して消えたバンドで、本作は1983年の未発ライブ音源を収録。
12弦ギターのつまびきにやわらかなフルートの音色、シンセにイタリア語のヴォーカルも加えた、
ウェットな叙情に包まれたサウンド。ギターが二人いるので、エレキと12弦アコースティックが同居して
シンセも加えた厚みのあるアンサンブルで、ヴォーカル以外はマイナーなB級感はあまりない。なにより、
80年代のライブなのに、70年代の生き残りのようなロマンを感じさせるプログレを演奏しているのも好感が持てる。
本作の後、バンドは2007年に復活のスタジオアルバム「Febo」を発表。そちらもたおやか系シンフォの逸品です。
ライブ演奏・・8 プログレ度・・7 イタリア度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Gatto Marte「Gioco Del Mago」
イタリアのチェンバーロック、ガトー・マルテの2000年作
1997年にデビュー、本作は2作目で、ヴァイオリン、バスーン、ピアノ、ダブルベースという4人編成で、
クラシカルなピアノの旋律にヴァイオリンが絡み、やわらかなバスーンの音色とともに、
優雅なチェンバーサウンドを聴かせる。ダークとはいかないが、ほどよく偏屈な味わいも含んだ、
軽やかなアンサンブルで、ほぼインスト中心ながら、歌入りの曲もあってアクセントになっている。
アコースティックによる室内楽なので、ロック感触はほとんどないのだが、ヴァイオリンやピアノ、
バスーンの音色がじっくり味わえるという意味では、玄人好みのサウンドといえるだろう。
クラシカル度・・8 ロック度・・1 優雅度・・8 総合・・7.5
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Gatto Marte「Leolombrico」
イタリアのチェンバーロック、ガトー・マルテの2003年作
本作も、ヴァイオリン、バスーン、ピアノ、ダブルベースという4人編成で、優雅で少しコミカルな
室内楽サウンドを聴かせる。今作では随処にドラムも加わってのアンサンブルで、
10分を超える大曲や組曲形式のナンバーなど、プログレらしい味わいも感じさせる。
演奏の隙間を含めて、チェンバーロックとしてのスリリングな部分が増したことで、
より自由度のあるサウンドが繰り広げられていて、エキセントリックな楽しさも含めた、
優雅なクラシカル性も耳に心地よい。典雅な品の良さを感じさせるチェンバーロック作品です。
クラシカル度・・8 ロック度・・4 優雅度・・8 総合・・8
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今年もプログレでよろしくお願いいたします(15)


SIENA ROOT 「The Secret of Our Time」
スウェーデンのヴィンテージロック、シエナ・ルートの2020年作
2004年にデビュー、本作は7作目。今作は2人の女性ヴォーカルを迎えての編成で、
オルガンを含むシンセにブルージーなギター、ハスキーな女性ヴォーカルの歌声で、
いかにも70年代的なサイケな味わいのユルめのヴィンテージロックを聴かせる。
アナログ感たっぷりの音質も含めて、生々しいグルーブ感がなかなか耳に心地よく、
PURSONなどが好きな方にも楽しめるだろう。オルガン・ブルーズロック好きも必聴。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 ヴィンテージ度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Adventure 「New Horizon」
ノルウェーのプログレバンド、アドヴェンチャーの2019年作
2000年にデビュー、本作は4作目となる。女性Vo&フルート奏者を含む6人編成で、
やわらかなオルガンに適度にハードなギター、朗々としたなヴォーカルを乗せた、
オールドな味わいのプログレハード風味のサウンド。北欧らしい哀愁を感じさせる叙情的なギターフレーズに、
優美なピアノや女性声も加えたシンフォニックロックとしての耳心地のよさもあって、わりとゆったりと楽しめる。
シアトリカルな雰囲気の歌声とともに、ときにフルートも鳴り響く、ヴィンテージロックとしての土着感は
Jethro Tullあたりにも通じるだろう。楽曲ごとの盛り上がりはさほどないが、大人の叙情に包まれた好作品だ。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 ヴィンテージ度・・8 総合・・7.5 過去作のレビューはこちら
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MOTORPSYCHO 「THE CRUCIBLE」
ノルウェーのプログレ・ロックバンド、モーターサイコの2019年作
90年代初頭にデビュー、アルバムは20作を超える、いまやノルウェーを代表するロックバンドと言える。
今作は8分、10分、20分という大曲3曲の構成で、オールドな味わいのギターにメロトロンを含むシンセを乗せ、
アナログ感あるアンサンブルとともに、サバス+クリムゾンというような、より70年代に回帰したサウンドを聴かせる。
ブリティッシュロックルーツの感触と、クールで知的な構築力が合わさって、プログレやポストロックの耳でも楽しめる、
ミステリアスなスケール感も魅力的だ。大曲においてもさほど難解にはならず、随所に北欧らしい叙情性も感じさせつつ、
ときにテクニカルな軽妙さも覗かせる。メロトロンの鳴るヴィンテージな北欧プログレとしても傑作といえる見事な出来だ。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 ヴィンテージ度・・8 総合・・8.5 過去作のレビューはこちら
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OBERON「Dream Awakening 」
ノルウェーのメロディックロック、オベロンの2014年作
バード・オベロン氏による個人ユニットで、フルアルバムとしては1998年以来となる、2作目。
叙情的なギターにマイルドなヴォーカルを乗せ、翳りを帯びた叙情に包まれたサウンドで、
随所にうっすらとしたシンセも重ねて、ポストプログレ的でもある繊細な空気感と
ジャケのイメージのような優美な幻想性を描き出す。アコースティックギターをメインにした
ネオフォーク的な雰囲気もあって、ポストロックとフォーク、プログレの中間という聴き心地。
楽曲は3〜4分前後で、全37分と、やや物足りなさもあるが、のんびりと鑑賞できる好作品だ。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・6 叙情度・・8 総合・・7.5
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OBERON 「AEON CHASER」
ノルウェーのプログレロック、オベロンの2018年作
バード・オベロン氏による個人ユニットで、本作は3作目となる。前作に比べてバンド感触が増していて、
二本のギターに美しいシンセを重ね、マイルドなヴォーカルを乗せた、キャッチーな叙情サウンドを聴かせる。
涼やかな翳りを帯びた空気感と、スタイリッシュなアンサンブルで、わりとハードなポストプログレとしても楽しめつつ
エモーショナルな歌声とメロウなギターで、繊細な優雅さに包まれた感触は、MARILLIONなどにも通じるだろう。
楽曲は3〜4分前後でシンプルで、プログレらしさはさほどないのだが、アコースティックギターやピアノ、ストリングスなど、
優美なアレンジを取り入れた耳心地の良さと、ほどよくハードなロック感が同居したハイブリッドな叙情ロックの逸品です。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・7 叙情度・・8 総合・・8
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...And You Will Know Us by the Trail of Dead「X: The Godless Void And Other Stories 」
アメリカのドラマティックロック、トレイル・オブ・デッドの2020年作
1997年にデビュー、単なるロックの枠を超え、プログレやポストロックなどの要素も含んだ壮大なサウンドを描くこのバンド。
本作は通算10作目で、ジャケのイメージからも物語的なコンセプト作であることが見て取れる。オリエンタルなイントロから、
ほどよくハードなギターとともに、オルタナ的なロック感触とサイケな浮遊感が同居した、独自のサウンドを描いてゆく。
うるさすぎないシンセアレンジも加えつつ、今作はプログレというよりは、全体的にはわりとキャッチーなノリのロック感触で、
ゆるやかな盛り上がりを含みながら牧歌的な聴き心地。これだというドラマティックな展開がもう少し欲しいか。
ドラマティック度・・7 プログレ度・・6 壮大度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Frank Wyatt 「Zeitgeist」
アメリカのミュージシャン、フランク・ワイアットの2019年作
HAPPY THE MANのシンセ奏者のソロで、本作にはOblivion Sunを含む新旧ハピマンのメンバーもこぞって参加。
軽やかアンサンブルにやわらかなシンセとジェントルなヴォーカルを乗せた1曲目からして、往年のHTMを思わせる
優雅なテクニカルシンフォでなかなか素晴らしい。ゆったりとしたシンセナンバーから、軽妙なプログレフュージョン風味、
オルガンを使ったヴィンテージな味わいも覗かせて、キーボードプログレ好きならば頬が緩みっぱなしの優美な聴き心地。
後半は4パートに分かれた25分超の組曲になっていて、ピアノとヴァイオリンを使ったクラシカルな導入部から、
オーケストラルなアレンジを含んだ、The Enidを思わせる壮麗なシンフォニックロックを展開。ハピマン風というよりは
美しいシンセの重ねを中心にした優雅なクラシカルシンフォという趣で、ゆったりと鑑賞すべし。
クラシカル度・・8 プログレ度・・8 優雅度・・9 総合・・8
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Neal Morse Band 「Morsefest! 2017: Testimony Of A Dream」
アメリカのシンフォプログレ職人、ニール・モーズ率いるバンドのライブ作品。2018年作
2017年アメリカで行われた2日間のステージを、4CD+2DVDに収録。盟友マイク・ポートノイとベースのランディー・ジョージ、
シンセのビル・ヒューバウアー、ギターのエリック・ジレットの5人編成で、Disc1には、2008年作「Lifeline」からのナンバーと、
2011年作「TESTIMONY TWO」Disc2収録の大曲を披露。ポートノイの巧みなドラムにエリック・ジレットの抜群のギターワークを含め、
キャッチーかつテクニカルな絶品の演奏で盛り上げる。Disc2は「TESTIMONY TWO」Disc1の完全再現で、ストリングスカルテットやブラス、
コーラス隊にダンサーも加え、壮麗なシンフォニックプログレを構築。娘さん登場で涙のニール先生。ラストへの感動的な盛り上がりは必見。
Disc3、4は、2016年のCD2枚組大作「THE SIMILITUDE OF A DREAM」を完全再現、シンセのビル・ヒューバウアーがヴォーカルでも活躍しつつ、
キャッチーなオールドロック風味もちりばめたドラマティックなサウンドを躍動的に再現する。合計5時間というまさに濃密なニールモー祭り。
ドラマティック度・・9 ライブ演奏・・9 濃密度・・9 総合・・8.5 過去作のレビューはこちら
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Discipline 「Captives of the Wine Dark Sea」
アメリカのプログレバンド、ディシプリンの2017年作
1993年にデビュー、2作を残したのちに沈黙するも、2011年に復活、本作は4作目となる。
やわらかなピアノにオルガンを含むシンセ、叙情的なギターに乗せるMatthew Parmenterの歌声は、
ますます深みを加えた渋い味わいで、まさに「アメリカのピーター・ハミル」と呼ぶにふさわしい。
優雅な大人のアンサンブルと表現力ある歌声で、ほとんどVDGGと区別ができないほどのサウンドだが、
メロウな泣きのギターなどにシンフォ寄りの感触も残していて、アメリらしいキャッチーなところも感じられる。
3〜4分前後のシンプルな小曲を中盤に配しつつ、ラストは14分を超える大曲で、しっとりと優美な叙情美に包まれる。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 優雅度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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Discipline 「This Ones for England」
アメリカのプログレバンド、ディシプリンのライブ、2014年作
2012年アメリカでのライブを収録した2CD。2011年作「To Shatter All Accord」からのナンバーを主体に
1997年作「Unfolded Like Staircase」からの大曲や、1993年のデビュー作「 Push & Profit」からも演奏。
オルガンを含むやわらかなシンセにほどよくハードで叙情的なギター、ジェントルなヴォーカルを乗せて
展開力のある優雅なアンサンブルを聴かせる。VDGG+クリムゾンというような知的な構築力に、
メロウなギターフレーズとシンセを重ねたシンフォ感触が同居しつつ、随所に適度な偏屈感も垣間見せる。
加工しすぎない音質もライブらしい味わいで、20分を超える大曲を描く、安定した演奏力の高さもさすが。
ライブ演奏度・・8 プログレ度・・8 優雅度・・8 総合・・8
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Schooltree 「Heterotopia」
アメリカのプロクレバンド、スクールトゥリーの2017年作
女性シンガー、Lainey Schooltreeを中心にしたプロジェクトで、本作はCD2枚組のコンセプト的な大作。
クラシカルなピアノを含むやわらかなシンセアレンジにギター重ね、軽やかなアンサンブルとともに
コケティッシュな女性ヴォーカルで聴かせる優雅なサウンド。オルガンなどのシンセにプログレらしい変則リズムで、
濃密すぎないシンフォプログレという点では、MAGENTAあたりにも通じるが、こちらはもう少しアーティスティックで、
どことなくエキセントリックなケイト・ブッシュ的世界観も感じさせる。Disc2では、オルタナポップ風のナンバーや
キャッチーな歌ものもありつつ、ほどよく妖しい語りやアンニュイな浮遊感とともに、しっとりと優美な聴き心地で楽しめる。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・7 優雅度・・8 総合・・8
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MYSTERY 「SECOND HOME」
カナダのプログレバンド、ミステリーのライブ。2017年作
1996年デビュー、いまやカナダを代表するプログレバンドのひとつ。本作は2016年のオランダでのライブを2CDに収録。
2015年作「Delusion Rain」からのナンバーを中心に、過去曲からのナンバーも多数演奏。安定したリズムの上に、
叙情的なギターとシンセを重ね、表現力あるヴォーカルで、ゆったりとウェットなメロディックロックを聴かせる。
厚みのあるサウンドは、ときにDREAM THEATERなどを思わせる感触もあり、薄暗いプログレハードとしても楽しめ、
一方では過去曲でのキャッチーなスタイルもまじえつつ、ベテランらしい確かな演奏力とシンフォニックな音の重ねで、
じっくりと大曲を描いてゆく。Disc2には優美な叙情のプログレ大曲を3連発。CD2枚で合計142分。お腹いっぱいのライブ作。
ライブ演奏・・8 プログレ度・・7 叙情度・・9 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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MYSTERY 「LIVE IN POZNAN」
カナダのプログレバンド、ミステリーのライブ。2019年作
本作は、2019年ポーランドでのライブを2CDに収録。2018年作「Lies And Butterflies」からの全曲に、
過去曲からのナンバーもたっぷりと演奏。優美なシンセワークとメロウなギターにマイルドなヴォーカルを乗せ、
翳りを帯びた叙情を描くサウンドは、確かな演奏力も含めて、MARILLIONなどにも通じる雰囲気も漂わせる。
2015年作から加入した、ジャン・パジャーの優しくエモーショナルなヴォーカルも楽曲によくマッチしていて、
ツインギターにシンセを重ねた厚みのあるサウンドとともに、優雅な大人のシンフォニックロックを聴かせてくれる。
10分を超える大曲も多く、2CDで合計156分というボリューム。全体的にゆったりとした味わいで鑑賞できるライブ作品。
ライブ演奏・・8 プログレ度・・7 叙情度・・9 総合・・8
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Ed Bernard 「Polydactyl」
カナダのミュージシャン、エド・ベルナルドの2015年作
DRUCKFARBENのリーダーでもあるマルチミュージシャンで、きらびやかなシンセにギターを重ね、
テクニカルなリズムで聴かせる、軽妙なプログレサウンド。流麗なギターワークにオルガンなどの鍵盤、
ヴァイオリンやヴィオラ、さらにはマンドリンまでも自身でプレイ。さらに自身の味のあるヴォーカルが加わると、
ストリングスとシンセを重ねた叙情的なシンフォニック性に、知的な展開力とキャッチーな抜けの良さで、
NEAL MORSEなどにも通じるプログレらしい爽快な味わいに。素朴なマンドリンの音色にメロウなギター、
そして美麗なシンセアレンジもじつにセンス良く、テクニカルなインストパートとのメリハリある構築力が見事。
才能ある人間によるソロはこんなにも楽しいのだなと思える、プログレらしい優雅な傑作です。
ドラマティック度・・8 プログレ度・・8 優雅度・・9 総合・・8
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KLAATU 「SIR ARMY SUIT」
カナダのメロディックロック、クラトゥの1978年作
1976年にデビュー、本作は3作目となる。The Beatlesをルーツにしたキャッチーなヴォーカルメロディに
やわらかなピアノ、ときにストリングスアレンジも加えた、叙情豊かなメロディックロックは、
BARCLAY JAMES HARVESTなどにも通じる味わい。楽曲は3〜4分前後とシンプルながら、
しっかりとロックなアンサンブルと確かな演奏力もあるので、ポップ過ぎない聴き心地で楽しめ、
やわらかなコーラスハーモニーと牧歌的な雰囲気は、Stackridgeなどが好きな方にもお薦めだ。
キャッチー度・・8 プログレ度・・6 牧歌的度・・8 総合・・8 過去作のレビューはこちら
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