ポストブラックメタル特集〜シューゲイザーでネイチャーな神秘的ブラックメタル傑作選
反キリストを掲げたサタニズムという過激な思想で、ノルウェーから誕生したブラックメタルは、禍々しく激しい音楽スタイルを旨としたが、
一方で早くからアンビエントな土着性を取り入れていたBURZUMは、後続のバンドに大きな影響を与えることとなる。
1999年にアメリカ、オレゴンよりデビューした、AGALLOCHは、それまでのブラックメタルよりも大胆に、フォーク、ゴシックの要素を取り入れた
自然崇拝型ブラックというべきサウンドを提示する。2003年に、ウクライナから現れた、Drudkhは、土着的な神秘性をまとわせた作風で、
単なるブラックメタルの域を超えた幻想性を描く、いわば「ネイチャー系ブラックメタル」というべきスタイルを生み出した。
2006年になると、アメリカはワシントンから、Wolves in the Throne Roomが登場。かれらは実際に森で自給自足の生活をするという、
異色ともいえる自然崇拝のスタイルで一躍話題となり、「カスカディアン・ブラックメタル」なる世界観を生み出すことになる。
そして、2007年フランスから現れた、Alcestは、ブラックメタルとは到底思えない美しい叙情性から、「シュゲイザー・ブラック」とも呼ばれ、
多くのファンを生みながら、それに追随するように、「ポストブラック」と呼ばれる、あらたなカテゴリーのムーブメントが各地で広まってゆく。
邪悪な暗黒音楽の象徴であったブラックメタルが、神秘性や繊細な叙情美をまとい、激しくも耳心地の良いサウンドへと生まれ変わったのは
驚くべき深化というべきであろう。現在では、上記のバンドたちを筆頭に、サイケやスラッジなども融合させた、まさにボーダーレスというべき、
新世代のポスト・ブラック系バンドが現れ続けている。ここでは、神秘的かつ幻想的な世界を描く、ポストブラック作品を紹介したい。
2018.4 緑川 とうせい
◆原点となるバンドたち
AGALLOCH 「PALE FOLKLORE」
アメリカのフォーク・ブラックメタル、アガロクの1999年作
カスカディアンブラックの元祖のひとつともされるバンドで、本作はデビュー作であるが、
のっけから3部構成の18分を超える組曲で、メロウなギターの旋律を乗せた物悲しい世界感が広がってゆく。
ダミ声ヴォーカルに女性コーラスが絡むなど、本作の時点ではのちのアルバムに比べてより耽美な雰囲気で、
随所にブラックメタルらしい激しさもしっかり覗かせる。アコースティックギターを含んだフォーキーな土着性と
自然崇拝的な神秘的な世界観に、ツインギターによるクサめの叙情フレーズもじつによい味わいです。
全体的にも静と動の起伏のある構成で楽しめる。2016年の再発盤ではリマスターで音質も向上。
ドラマティック度・・8 ブラック度・・7 ミステリアス度・・8 総合・・8
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Wolves in the Throne Room「Two Hunters」
アメリカのブラックメタル、ウルブズ・イン・ザ・スローン・ルームの2007年作
ワシントン州オリンピアの3人組で、実際に山林の中で暮らし、まるで森の空気をそのまま切り取ってきたような
風や鳥の鳴き声の入ったイントロからして普通じゃない。美しいシンセが鳴るゆったりとしたインストから、
2曲めに入るとブラックメタルらしくわめき声入りで疾走開始。しかしブラックといっても彼らの場合は、
決して地獄やサタンをテーマにしているというわけでもなく、むしろ自然への畏怖と調和こそを表現している
ように感じられる。雰囲気としてはEMPERORの1stあたりに通じるが、そこまでの暗黒世界ではなく、
うっすらとこもり気味の音質も手伝ってかどこか耳に馴染みのいいサウンドなのだ。全4曲で43分という、
曲ごとは長尺であるのだが、空気を楽しむように聴けば長さも気にならない。森と土の匂いのする不思議なブラックメタル。
メロディアス度・・8 暴虐度・・7 自然派度・・10 総合・・8
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ALCEST「Souvenirs d'Un Autre Monde」
フランスのポストブラックメタル、アルセストの2007年作
ゆったりとしたリズムに歪みギターとシンセが重なり、そこにマイルドな歌声を乗せて、
美しいシンセに包まれるように女性コーラスが入ってくると、プログレ、ポストロック風味の
ゆるやかな空間美が楽しめる。ときにブラックメタルらしい疾走なども入って来るが、
それでいて暴虐さよりもあくまで叙情重視なのは、ややぼやけたようなサウンド作りのためだろう。
どこか夢見心地というか、やわらかな感触なのだ。ノイジーなギターとアコースティックの同居も面白い。
個人的にこういう雰囲気は大好きだし、プログレ系のリスナーにもゆったりと楽しめる作品だと思う。
メロディアス度・・8 メタル度・・6 幻想叙情度・・9 総合・・8
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◆アメリカのポストブラック
Wolves in the Throne Room「Celestial Lineage」
ウルヴズ・イン・ザ・スローン・ルームの2011年作
2007年のデビュー作から、まるで森の中の大自然と一体化したようなサウンドで、
「ネイチャーブラックメタル」ともいうべき幻想的な世界観が個性的だったこのバンド、
3作目となる本作は、妖しい女性スキャットとともにゆったりと幻想的に始まり、
いつも以上にメロウなギターのフレーズで疾走。相変わらずぼんやりとした音像が耳心地よく、
うっすらとしたシンセとともに、美しくも神秘的な雰囲気なプリミティブ・ブラックが楽しめる。
10分以上の大曲3曲を含んでいて、もちろん激しいブラスト疾走もあるのだが、緩急のついた楽曲と
このシンフォニックな薄暗さは、むしろプレグレリスナーでも鑑賞できそうな気がする。傑作!
幻想度・・9 暴虐度・・7 神秘的度・・10 総合・・9
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KRALLICE 「DIOTIMA」
アメリカのブラックメタル、クラリスの2011年作
2008年にデビュー、本作は3作目で、トレモロのギターと低音デスヴォイスを乗せて激しくブラスト疾走、
リズムチェンジを含む緩急ある構築力とともに、10分を超える大曲でも淡々とした叙情を描き出す。
激しくたたみかけながらも、ツインギターによるメロディックな味わいが、このバンドの最大の魅力で、
アナログ感触ただよう、こもり気味の音質も含めて、かつての北欧メロディックブラックメタルを基盤にしながら、
Wolves in the Throne Room以降の自然崇拝的な神秘性を加えて、ある意味では優雅な聴き心地である。
12分、13分という大曲も多く、全68分という長尺な感じはあるが、トレモロ好きのトレモラーな方にはお薦めです。
ドラマティック度・・8 激しさ度・・8 叙情度・・8 総合・・8
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TOMBS「Winterhours」
アメリカのポストブラックメタル、トゥームズの2009年作
北欧ブラックメタルを思わせるギターのトレモロリフによる叙情性と
ポストロック的な広がりのある空間美を含んで神秘的に聴かせるサウンド。
ノイジーなギターを含んだ激しい疾走と、ミドルテンポでじっくり構築する両面を持っていて、
ヴォーカルはスクリームとノーマル声で、ヘヴィロック風味もかもしだす、
ジャンルとしてのこだわりのなさも、昨今のアメリカのバンドらしい。アナログ的なサウンドと
ギターリフのセンスが良いので、オールドなブラックメタラーにも楽しめるだろう。
ドラマティック度・・8 暴虐度・・7 神秘的度・・8 総合・・8
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AGALLOCH 「THE SERPENT & THE SPHERE」
アメリカのフォーク・ブラックメタル、アガロクの2014年作
1999年にデビュー、まだ「ポストブラック」、「カスカディアン・ブラックメタル」という呼び名もない頃から
自然崇拝的な世界観をブラックメタル、フォーク、ゴシック要素に合せて表現していたバンドである。
5作目となる本作も、アコースティックなフォーク要素とダークな翳りと、重厚な雰囲気を匂わせた
幻想的でメランコリックなサウンドを描いている。ダミ声のヴォーカルはいかにもブラックメタル風であるが、
ドゥーミィなギターを乗せたスローなテンポを主体に、10分を超える大曲をじっくり聴かせつつ、
ミドルテンポのペイガンメタル風味や、激しめの疾走ナンバーもあったりと、なかなか起伏のある作風だ。
ドラマティック度・・8 暗黒度・・7 ミステリアス度・・8 総合・・8
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DEAFHEAVEN「SUNBATHER」
アメリカのポストブラックメタル、デフヘヴンの2013年作
前作はALCESTあたりを思わせる、癒し系のブラックメタルサウンドであったが、
2作目となる本作も、トレモロのギターリフを乗せて激しくブラスト疾走しながらも、
もの悲しい浮遊感を描くような聴き心地で、耳触りのよい叙情的な作風である。
10分以上の大曲を構築するだけの知的なセンスも有していて、スローパートなどを盛り込んだ
メリハリのつけ方もなかなか巧みである。ポストブラックというものを知らない方にもお薦めできる好作品。
ドラマティック度・・7 激しさ度・・7 叙情度・・8 総合・・8
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WOMAN IS THE EARTH 「This Place That Contains My Spirit」
アメリカのブラックメタル、ウーマン・イズ・ザ・アースの2012年作
ノイジーなギターリフと遠くで聞こえるような絶叫ヴォーカル、ドタドタとしたドラムにこもり気味の音質という、
初期のWolves in the Throne Roomを思わせる、かなりプリミティブなネイチャー・ブラックメタル。
大曲ばかりで全4曲というのもいかにもらしいが、暴虐さよりもミステリアスな妖しさが前に出ているので
激しいサウンドであってもそう聴疲れはしない。原初的な闇の気配と霧に包まれたようなぼやけた音像が心地よいと思える、
ディープなリスナーにオススメしたいバンドです。トレモロのギターリフも随所に美しく、個人的にはとても気に入りました。
ドラマティック度・・7 暴虐度・・7 ミステリアス度・・9 総合・・8
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ASH BORER「Cold of Ages」
アメリカのブラックメタル、アシュ・ボラーの2012年作
ミステリアスなシンセによるイントロから始まり、ノイジーなギターを乗せて激しくブラスト疾走。
プリミティブな神秘性に包まれたサウンドは、WOLVES IN THE THRONE ROOMを思わせる。
10分以上の大曲4曲という構成で、ミドルテンポのパートやドゥーミィなスローテンポなども挟みながら、
緩急のつけられた楽曲には知的なアレンジ力も感じさせる。アナログ感を漂わせた聴き心地に、
欧州のブラックメタル勢とは異なる、神秘主義的な香りをまとわせた力作です。
ドラマティック度・・7 暴虐度・・7 神秘的ブラック度・・8 総合・・7.5
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TEMPEL 「On The Steps of the Temple」
アメリカのスラッジ・ブラックメタル、テンペルの2014年作
ギター&シンセとドラムの2人組ユニットで、ブラックメタル的なギターリフと激しめのドラム、
うっすらとしたシンセで聴かせるインストサウンド。バンド名やアルバムタイトルから察するに、
日本や中国の寺をイメージした作品なのだろうか。ザリザリとした荒々しい音作りであるが、
随所にメロディックなギターフレーズも盛り込んでいて、ジャケのイメージほど愛想は悪くない。
9分、10分という大曲も多いので、さすがにオールインストは飽きてくるのであるが、
ポストブラック的な叙情性や、ドゥームメタル感触の楽曲もあって、けっこう楽しめます。
ドラマティック度・・7 ダーク度・・8 神秘的度・・8 総合・・7.5
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Inter Arma 「Sky Burial」
アメリカのスラッジ系ブラックメタル、インター・アルマの2013年作
激しいブラストビートにアナログ感のある重厚なギターと語りのような低音ヴォイスを乗せて、
ダークで不穏な空気を感じさせるサウンド。ドゥームメタル的なスローパートも盛り込みながら、
緩急に富んだ展開とともに、神秘的な暗黒性に包まれた世界観をヘヴィに描いてゆく。
一方ではPINK FLOYDを思わせるような、浮遊感のあるサイケプログレ的ナンバーもあったりと、
スラッジにブラックメタル、ドゥームに、プログレ、ポストロックと、いろいろなアプローチが面白い。
混沌としたサイケデリック要素を、重厚なスラッジと暗黒のブラックで仕上げたというべき力作だ。
ドラマティック度・・8 重厚度・・8 暗黒度・・8 総合・・8
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WOE 「Withdrawal」
アメリカのブラックメタル、WOEの2013年作
ノイジーなギターリフを乗せてブラスト疾走、プリミティブな激しさとミステリアスな世界観は、
Wolves In The Throne Roomなどにも通じるサウンドだ。トレモロのリフは北欧ブラック的でもあり、
ダークで荒涼とした雰囲気の中に、メロディアスな部分も垣間見せるのがよい感じです。
アナログ感を漂わせるブラッケンロール風味を含めて、オールドスタイルの荒々しい感触を
上手にモダンに仕上げている。暴虐さと知的な構築力を併せ持ったポストブラックの力作。
ドラマティック度・・8 暴虐度・・7 ミステリアス度・・8 総合・・8
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ALDA 「Passage」
アメリカのネイチャー・ブラックメタル、アルダの2015年作
アコースティカルな叙情性とマイルドな男女ヴォーカルの歌声で静かに始まりつつ、、
ダミ声とトレモロリフを乗せた激しい疾走パートへと移行するスタイルで、
一聴して、Wolves in the Throne Roomを思わせる自然崇拝型のブラックメタル。
随所にフォーキーな素朴さも垣間見せながら、アナログ感たっぷりの音質で、
10分を超える大曲を中心に、緩急の付いたメリハリある展開を聴かせる。
全体的には激しさよりも、フォーク風味の牧歌性が前に出た聴き心地で楽しめる。
ドラマティック度・・7 暴虐度・・7 神秘的度・・8 総合・・7.5
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Wayfarer 「Old Souls」
アメリカのブラックメタル、ウェイファラーの2016年作
前作は、ネイチャーブラック的な神秘性を含んだ力作であったが、
今作も10分前後の大曲を中心に、生々しいギターワークにダミ声ヴォーカルを乗せ、
随所に激しい疾走も覗かせつつ、ミステリアスな空気感に包まれたブラックメタルを聴かせる。
ザリザリとしたギターとともに荒涼とした寒々しさを重厚に描くところは、スラッジ・ブラック的でもあり、
アコースティックなパートを含んだ甘すぎない叙情性には、ほのかに知的なセンスも漂わせる。
媚びの無い作風のため、メロディ派のリスナーには向かないが、アルバム全体としての緩急と、
流れるような構成は見事で、激しいだけではない、ブラックメタルの新たなスタイルを見せつける力作である。
ドラマティック度・・8 暴虐度・・7 ミステリアス度・・8 総合・・8
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Ghost Bath 「Starmourner」
アメリカのポストブラックメタル、ゴースト・バスの2017年作
2013年にデビュー、本作は3作目となる。夜の気配を感じさせるピアノによる物悲しいイントロから、
メロディックなツインギターのフレーズが響き渡り、絶叫するヴォーカルとともに激しくブラスト疾走。
クサメロ寄りのギターはときにブラックメタルとは思えないほどに爽快な感触で、
このキャッチー要素をダークで妖しい空気感に同居させたところがなかなか個性的である。
トレモロのギターフレーズなど、Alcestなどに通じるしっとりとした泣きの叙情も含ませつつ、
こちらはもう少し荒削り感が強めなのだが、その分激しく疾走する部分のノリの良さで楽しめる。
ドラマティック度・・8 ちゃんと激しさ度・・8 叙情度・・8 総合・・8
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Ered Wethrin 「Tides of War」
アメリカのポストブラックメタル、エレド・ウェスリンの2017年作
トレモロのギターリフとダミ声のヴォーカルを乗せ、軽すぎず重すぎずほどよい激しさで聴かせる、
ミステリアスな空気感に包まれた、アトモスフェリックなブラックメタル。10分前後の大曲を中心に、
随所にメロディックな叙情性も含んだ構築性と、曲によってはシンフォニックな味付けもあって、
ダークな暴虐性が薄い分、Alcestなどにも通じる幻想的で優美なサウンドが楽しめる。
曲が長いので気が短い方には向かないが、雰囲気モノのポストブラックに浸れる方にはお薦めです。
ドラマティック度・8 暴虐度・・6 幻想度・・8 総合・・8
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MYRKUR 「Mareridt」
アメリカのポストブラックメタル、ミシュクルの2017年作
デンマーク出身のアマリエ・ブルーン嬢による女性の独りブラックメタルユニットで、本作が2作目となる。
うっすらとしたシンセアレンジに美しい歌声を響かせる、北欧トラッド的な涼やかな空気感に包まれつつ、
突然人が変わったように絶叫ヴォイスとともに激しくブラスト疾走。確かにこれはブラックメタルですよ。
そうはいいつつも、また美しい女性声に戻ったり、ヴァイオリンが鳴り響くトラッド風味のナンバーもあって、
その極端な二面性はなかなかのインパクト。ゆったりとしたナンバーでは、ゴシックメタル的な耽美さもあって、
女性Voのトラッドロックやゴシック好きにも対応。はかなく神秘的な空気感に包まれた世界観とともに、
いままでになかった女性によるブラックメタルという点でも、注目のアーティストですな。
ドラマティック度・・8 神秘的度・・8 女性Vo度・・8 総合・・8
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BOTANIST「PHOTOSYNTHESIS」
アメリカのポストブラックメタル、ボタニストの2020年作
2011年にデビュー、科学的な視点から自然保護をテーマにする、「グリーンメタル」とも称されるバンド。
本作は7作目で、重すぎないギターにうっすらとしたシンセとマイルドなヴォーカルを乗せ、
ときにハンマー・ダルシマーの優美な音色を重ねた、耳心地の良いポストブラックメタル。
喚き声ヴォーカルを乗せて激しく疾走するパートでも、邪悪さのあまりない聴き心地は、
DEAFHEAVENなどにも通じるだろう。楽曲は3〜5分前後と比較的シンプルで、
楽曲ごとに「水」「細菌」「酸素」などの曲名を付けているのも、科学的な環境メタルらしい。
神秘的な優雅さに包まれたも自然派ポストブラック。日本盤にはデモ音源を5曲追加収録。
ドラマティック度・7 暴虐度・6 優雅度・8 総合・7.5
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EYE OF NIX 「LIGEIA」
アメリカのポストブラックメタル、アイ・オブ・ニックスの2020年作
2作目となる本作は、激しいブラスト疾走とスローなアンビエント性とのメリハリがつき、
楽曲としての構築性が高まったという印象。妖しい女性ヴォーカルによる魔女感もたっぷりで、
けだるい浮遊感と暗黒の凶暴性が同居したという聴き心地である。グロウルの迫力も増していて、
ブラッケンな闇の中に、狂気めいた女性声が乗るところなどは、アヴァンギャルドな妖しさに包まれる。
演奏面での向上がサウンド全体の説得力も強くしていて、美しいソプラノヴォーカルも表現力が増している。
女性声のエクスペリメンタル・ブラックとして、底知れぬ可能性を感じさせるバンドになってきた。
神秘的度・・8 暴虐度・・7 魔女系ブラック度・・9 総合・・8
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VOUNA 「Atropos」
アメリカのポストブラックメタル、ヴォウナの2021年作
女性アーティスト、Yianna Bekrisの個人ユニットで、2018年にデビューし、2作目となる。
重すぎないギターにシンセを重ね、美しい女性ヴォーカルを乗せた、ゆったりとしたゴシックメタル風から、
ときおり疾走するブラックメタル感触も含んだ、耽美でミステリアスなサウンドを展開する。
15分前後の大曲が3曲もあり、スローテンポのドゥーミィなパートでは、ダミ声ヴォーカルとともに
フューネラルなダークさに包まれつつ、シンセをメインにした静謐なダークアンビエント風味もあり、
全体的にも激しさはそれほどなく、アトモスフェリックな雰囲気モノという感じであるが、
女性アーティストらしい優雅な世界観で、MYRKURなどが好きな方にもお薦めです。
ドラマティック度・7 ミステリアス度・8 耽美度・8 総合・7.5
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◆フランスのポストブラック
Alcest「Les Voyages De L'ame」
フランスのシューゲイザー・ブラックメタル、アルセストの2012年作
3作目の本作は、幻想的なジャケも素晴らしいが、サウンドのほうもやわらかなヴォーカルと、
叙情たっぷりのギターワークで聴かせる、まるでポストロックのような耳心地だ。
ブラックメタル的な疾走も随所にあるのだが、はかない叙情を含んだ
しっとりとした雰囲気で、哀愁のトレモロリフとともに聴き手の涙腺を刺激する。
癒し系ブラックという言い方よりもさらに美しい。プログレファンなどもこれはぜひ聴いて欲しい。
メロディアス度・・8 ブラック度・・6 幻想叙情度・・9 総合・・8.5
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Amesoeurs
AlcestのNeige率いるフランスのポストブラックメタルの2009年作
癒し系ブラックというべきAlcest同様に、垂れ込めた空のようなアンニュイな世界観と、
シューゲイザー風味のアンビエントな叙情で聴かせるサウンドは耳に優しくもある。
激しく疾走する部分もあるが、それは一要素にすぎず、女性ヴォーカルのフランス語の歌唱や
うっすらとした美しいシンセなど、むしろゴシックメタル的な雰囲気でも楽しめる。
メロディアス度・・7 暴虐度・・6 薄暗叙情度・・8 総合・・8
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Les Discrets「Ariettes Oubliees」
フランスのポスト・ブラックメタル、レス・ディスクレッツの2012年作
AMESOEURSのFursy Teyssierを中心にした3人組で、ゆったりとした叙情性と
男女ヴォーカルのフランス語の歌声で聴かせる、アンニュイなポストロック風サウンド。
激しい疾走は少ないが、薄暗い翳りを含んだ世界観とメロウなギターのフレーズが
メランコリックな味わいをかもしだしていて、Alcestにも通じるやわらかな聴き心地だ。
ギターリフの組み立て方にはオールドスタイルのアナログ感覚があり、プログレ、ポストロックのリスナーにも楽しめるかも。
メロウ度・・8 激しさ度・・5 アンニュイ度・・9 総合・・8
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AU CHAMP DES MORTS 「Dans La Joie」
フランスのブラックメタル、チャンプ・デス・モーティスの2017年作
ANOREXIA NERVOSAのVo&Gであるステファン・ベイル率いるバンドで、
ダークな叙情性を感じさせるギターリフにうっすらとしたシンセアレンジとダミ声ヴォーカルを乗せ
寒々しい空気感の中に物悲しい叙情を含ませたサウンド。ときにジェントルなノーマルヴォイスも加わって、
随所にAlcestを思わせる美しさも垣間見せる。激しくブラスト疾走しつつも、トレモロのギターリフなど、
メロディックな感触が前に出ているので、暴虐な感じはさほどなく、8〜10分という大曲も緩急のある展開で、
Wolves in the Throne Roomにも通じるミステリアスな気配とともに、メランコリックなブラックメタルが味わえる力作だ。
ドラマティック度・・8 暴虐度・・7 メランコリックな叙情度・・9 総合・・8
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Asphodele 「Jours Pales」
フランスのポストブラックメタル、アスフォデーレの2019年作
Amesoeursにも在籍する女性ミュージシャンのソロプロジェクトで、ベートーベンの月光のメロディを用いたクラシカルなイントロから、トレモロを含むギターにコケティッシュな女性ヴォーカルを乗せ、フランス語の男性声も絡む優雅なポストブラックを聴かせる。
激しい疾走感の中にもメランコリックな叙情がにじみ出ていて、ザラついたギターのフレーズはBURZUMあたりを思わせるが、アンダーグラウンドというよりは幻想的な雰囲気に包まれる。
Alcestの女性声版という感じでも楽しめるが、後半はけっこう男性ダミ声メインの曲もあるので、全曲女性声にして欲しかった。
ドラマティック度・7 激しさ度・6 優雅度・8 総合・8
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In Cauda Venenum 「G.O.H.E.」
フランスのポスト・ブラックメタル、イン・カウダ・ヴェネナムの2020年作
2015年にデビューし、2作目となる。22分、21分という大曲2曲という構成で、ストリングスとシンセのイントロから、
トレモロのギターリフと絶叫するヴォーカルを乗せて激しくブラスト疾走する、耽美でミステリアスなサウンドを描く。
ピアノやチェロなどのクラシカルな優雅さを随所に加えつつ、激しさと叙情性との緩急ある構築力も見事。
後半の大曲では、スローテンポでのゴシックメタル的な耽美性から、トレモロ乗せてのブラスト疾走で、
物悲しくチェロが鳴り響き、ジャズ風味のピアノによる間奏パートまで、優雅でメランコリックな聴き心地。
ヴォーカルパートが少ないので、インスト中心の叙情派ポストブラックとして鑑賞するのがよいかと。
ドラマティック度・8 暴虐度・7 メランコリック度・8 総合・8
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◆イギリスのポストブラック
Caina 「Temporary Antennae」
イギリスのシューゲイザー・ブラック、カイナの2008年作
アンドリュー・カーティス・ブリグネル氏による個人ユニットで、シンセをメインにした怪しげなイントロから、
ラウドなギターリフにドラムが加わり、詠唱めいた邪悪な歌声を乗せた、異色の暗黒性に包まれたサウンド。
アコースティックギターによる叙情性と、サウンドスケープ的なシューゲイザー要素も覗かせつつ、
プリミティブでミステリアスな空気を描き出す。ときにブラスト疾走する激しさもあるが、邪悪な雰囲気は薄く、、
BURZUMのアンダーグラウンド感覚に比べると、こちらはスペイシーな広がりを感じさせる世界観である。
一方では、Alcestあたりにも通じるポストブラックとしての繊細な叙情美も備わっていて、
浮遊感のある幻想性はやはりシューゲイザー寄りの作風といえる。アーティスティックなセンスが味わえる異色作。
ミステリアス度・・8 暗黒度・・7 スペイシー度・・8 総合・・8
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ORPHEUS 「Philosopher of the Sublime」
イギリスのブラックメタル、オルフェウスの2009年作
ヴォーカル&ギター&ベース&シンセとDrという二人組のユニットで、
うっすらとしたシンセとともに、アンビエントな叙情も覗かせる、ネイチャー・ブラックサウンド。
ペイガン風の神秘的な雰囲気も感じさせつつ、激しいだけでない静と動のメリハリのついた
いわばプログレッシブな知的さも覗かせる。単なるアトモスフェリックなブラックメタルとも違う、
インストパートがメインの土着的なポストブラックとでもいうべき作風だ。
ひとつ噛み合えば、ものすごい作品を作りそうな気がする。今後に注目のバンドです。
ドラマティック度・・8 暴虐度・・6 神秘的度・・8 総合・・7.5
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A Forest of Stars 「Opportunistic Thieves of Spring」
イギリスのサイケデリック・ブラックメタルバンド、フォレスト・オブ・スターズの2011年作
前作同様、10分以上の大曲を中心にしているが、本作はよりプログレッシブな味わいのあるサウンドとなっていて
緩急のついたドラマティックなメリハリとクラシカルな優雅さ、そして説得力が備わってきている。
薄闇に包まれたような世界観と神秘性に包まれた、いわゆるネイチャーブラックメタルの質感を
英国風に仕立て上げたという雰囲気で、ストリングスの音色やアナログ的な音作りもあって、
ブラックメタル的に疾走する場面でもあまり激しさは感じない。むしろ優雅な聴き心地の作品だ。
ドラマティック度・・8 翳りと叙情度・・8 英国度・・8 総合・・8
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FEN「Winter」
イギリスのポストブラックメタル、フェンの2017年作
ダミ声ヴォーカルにアトモスフェニックなギターを乗せて、タイトル通り、冬を感じさせる寒々しい空気感を描く、
物悲しいサウンド。のっけから17分の大曲で、ギターリフは、エッジの効いたテクニカルな感触も増していて、
わりとプログレッシブな印象も強めつつ、アコースティックパートも含めて随所に叙情的なフレーズも覗かせる。
ブラックメタルとしての激しい疾走パートも含みつつ、暴虐さよりもミステリアスでメランコリックな気配に包まれていて、
トレモロのギターリフなども涼やかな感触だ。Alcestなどに比べると泣きの叙情美は控えめで、甘すぎず、
凍てついた荒涼とした雰囲気。ほとんどが10分を超える大曲で、激しい疾走曲から、ドゥーミィなスローパート、
ラストはシューゲイザーなアンビエントパートも含んでいて、わりと振り幅の広い内容だ。全6曲75分という力作。
ドラマティック度・・7 メランコリック度・・8 冬の叙情度・・8 総合・・8
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Tomorrowillbeworse 「Down the Road of Nothing」
イギリスのポストブラック、トゥモロウィルビーワースの2013年作
ケノシス氏による個人ユニットで、ノイジーかつヘヴィなギターにダミ声ヴォーカルを乗せ、
ダークで不穏な空気感を描くサウンド。同じく独りポストブラックのCAINAなどに比べると、
疾走する激しさはあまりなく、ずっしりとしたベースとともにデプレッシブな暗鬱さが強めなので、
ブラックメタルの激しさ求める方には向かないが、ドゥーミィな闇に包まれた重厚な作風には、
吸い込まれるような迫力と説得力がある。強烈なインパクトはないものの、ミドルテンポで
メタリックなノリのあるナンバーなど、デプレッシブ初心者にもわりととっつき安い内容かもしれない。
ドラマティック度・・7 暗黒度・・8 重厚度・・8 総合・・7.5
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Wodensthrone「Loss」
イギリスのネイチャー・ブラックメタル、ウーデンズスローンの2009年作
先に2012年作を聴いていたが、こちらはデビュー作。うっすらとしたしシンセにアコースティックギターと
語りの入ったイントロから、激しい疾走にダミ声ヴォーカルを乗せた、ミステリアスなブラックメタルが広がってゆく。
暴虐さよりも美しいシンセアレンジによるシンフォニックなテイストと神秘的な空気感が前に出ていて、
緩急ある楽曲構築や土着的な雰囲気なども、Wolves in the Throne Roomあたりに通じる世界観と言えるだろう。
10分を超えるナンバーも多いが、雰囲気モノとしての幻想的な強度があるので、じっくりと浸ることができる。
ネイチャー系ブラックメタル好きはもちろん、ペイガンブラックとしても楽しめる強力作だ。
ドラマティック度・・8 暴虐度・・7 ミステリアス度・・8 総合・・8
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Winterfylleth「Divination of Antiquity」
イギリスのブラックメタル、ウインターフィレスの2014年作
ツインギターを含む4人組で、トレモロのギターリフを乗せて激しく疾走する、Wolves in the Throne Roomなどを思わせる、
いわゆるネイチャー系ブラックメタルサウンド。邪悪な暗黒性ではなく、神秘的な土着性を感じさせる雰囲気が特徴で、
前作から比べてもこれという変化はないのだが、この重すぎない疾走感はなかなか心地よく、
随所に緩急のある叙情パートやミドルテンポでじっくり聴かせる部分もあって、8分、9分という大曲を
しっかりと構築するバンドとしての力量も備わっている。自然派ブラックメタルが好きな方はぜひ。
ドラマティック度・・8 暴虐度・・7 神秘的度・・8 総合・・8
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Ahamkara 「The Embers of the Stars」
イギリスのポストブラックメタル、アームカラの2015年作
10分を超える大曲4曲という構成で、ややノイジーなギターを乗せて激しくブラスト疾走、
邪悪なわめき声ヴォーカルを響かせつつ、アトモスフェリックな叙情性に包まれたサウンド。
緩急ある流れで大曲を構築するセンスと、ミスティックな空気感と説得力も備わっていて、
うっすらとしたシンセアレンジや、ときにメロディックなギターフレーズも耳心地よい。
暴虐性よりも神秘的なスケール感を描くところは、Wolves in The Throne Roomにも通じるか。
激しい疾走感を含んだ叙情派のネイチャーブラックメタルとしては、なかなかの力作と言える出来だ。
ドラマティック度・・8 暴虐度・・7 アトモスフェリック度・・8 総合・・8
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Fellwarden 「Oathbearer」
イギリスのポストブラックメタル、フェルワーデンの2017年作
Fenのメンバーによるユニットで、うっすらとしたシンセにトレモロのギターを乗せて、
ダミ声ヴォーカルとともに疾走する、アトモスフェリックなブラックメタルサウンド。
ギターフレーズには北欧ブラックメタルからの影響も感じさせつつ、Alcestのような癒し系の優雅さと
シンフォニックと言ってもよいアレンジとともに、幻想的な叙情美に包まれた聴き心地。
10分を超える大曲も厚みのある空間的な音の説得力で、じわりと世界観に引き込まれる。
激しくも美しい幻想的なポストブラックが楽しめる力作です。
シンフォニック度・・8 暴虐度・・7 幻想度・・8 総合・・8
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ASIRA 「EFFERENCE」
イギリスのポストブラックメタル、アシラの2017年作
トレモロを含むツインギターにシンセを重ね、ダミ声ヴォーカルを乗せて激しくブラスト疾走する、
幻想的なポストブラックを聴かせる。シンフォニックな音の厚みと、マイルドなノーマル声を乗せた
物悲しい静謐感が同居していて、
Alcestにも通じる叙情美に包まれながら、緩急ある展開とともに、
10分を超える大曲を構築する。メロディックなギターにうっすらとしたシンセを重ねたところは、
プログレリスナーにも楽しめるくらいの優雅な感触で、メランコリックな空気感からの激しいブラスト疾走という振り幅の大きさは凄い。
CD-R仕様なのが惜しいが、一線級のバンドになれるだけのポテンシャルを感じさせる、見事な強力作である。
ドラマティック度・・8 暴虐度・・6 叙情度・・9 総合・・8
FALLOCH 「Where Distant Spirits Remain」
スコットランドのポストブラック、ファロックの2011年作
マイルドなクリーンヴォーカルとともに、やわらかな叙情性で描かれるサウンドは、
Alcestなどを思わせる聴き心地で、随所に激しい疾走パートも含みつつ、
ときにケルティックなティンホイッスルの音色や美しいピアノ、ヴァイオリンなど、
優雅な繊細さも含んでいる。10分を超える大曲も、アコースティカルな優しさと、
幻想的な世界観でじっくりと楽しめる。これはなかなか素晴らしい期待の新鋭です。
ドラマティック度・・8 優雅な叙情度・・8 幻想ポストブラック度・・9 総合・・8
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SAOR 「Roots」
スコットランドのポストブラックメタル、サオールの2013年作
元はArsaidhというバンド名だったらしいが、すぐに改名して本作をリリースし直したらしい。
のっけから16分という大曲で、ツインギターの叙情的なフレーズにヴァイオリンも鳴り響き
アトモスフェリックなサウンドを描き出す。トレモロのリフを乗せてのブラスト疾走パートなど、
ブラックメタルとしての激しさもしっかりと残していて、神秘的なネイチャーブラックとしても楽しめつつ、
バグパイプやホイッスルの音色も用いた、スコティッシュらしいケルティックな味わいもあって
フォーキッシュなペイガンブラックともいうべきか。曲は長いがメロディの流れがあってわりと聴きやすい。
ドラマティック度・・7 激しさ度・・7 叙情度・・8 総合・・8
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◆ドイツ、イタリア、オランダ、スペインのポストブラック
Crom Dubh 「Heimweh」
ドイツのブラックメタル、クロム・ダブの2015年作
アナログ感あるトレモロのギターリフに、ダミ声ヴォーカルを乗せて疾走する、
オールドスタイルのプリミテイブなブラックメタルサウンド。適度に叙情性を含んだギターリフが、
ポストブラック的でもある感触になっていて、ダークであるがどこかマイルドな聴き心地。
いわばAlcestが、本気でブラックメタルをやっているというような感触もあって、
激しさと不穏な空気感の中に優雅な叙情が混ざり合ったサウンドが楽しめる。
ミドルテンポや3拍子のナンバーなども、メロウなギターとトレモロのリフなどで
かなりメロディアスに味わいだ。これぞポストブラック風味のメロブラといべき力作です。
ドラマティック度・・8 暴虐度・・7 叙情度・・8 総合・・8
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LANTLOS 「Melting Sun」
ドイツのポストブラックメタル、ラントロスの2014年作
なにやらサイケデリックな色彩のジャケがインパクト大だが、サウンドの方はシューゲイザー風味の
浮遊感あるギターワークにヘヴィなベース、そしてマイルドなヴォーカルで、ブラックというよりは
むしろドゥームメタル的な雰囲気に加えて、Anathemaのようなプログレ風な知的さを感じさせる。
6〜9分という長めの楽曲を連ねてゆく構築力もあり、ゆったりとした聴き心地ながらも
適度なヘヴィさもあって、全体的には意外とメリハリのある作品になっている。
ポストプログレやサイケドゥームのリスナーにも楽しめる力作だと思う。
ドラマティック度・・7 叙情度・・8 プログレな知的度・・8 総合・・8
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Thranenkind 「The Elk」
ドイツのポストブラックメタル、スラネンカインドの2013年作
ツインギターによるメランコリックなフレーズとダミ声ヴォーカルを乗せて聴かせる、
物悲しい叙情に包まれたサウンドで、Alcestなどを思わせるミステリアスで繊細な聴き心地。
ゆったりとしたミドルテンポ主体ながら、静かすぎることもない適度にメタル感があるので
この手のバンドの中ではとっつきやすい部類だろう。トレモロのギターフレーズが哀愁をかもしだし、
雰囲気にはどことなくドイツらしい牧歌的な土臭さがある。ヴォーカルの絶叫がやや耳障りなところもあるが、
ブラックメタルとしての激しさもある程度は残している、ポストブラックの好作というべきだろうか。
ドラマティック度・・7 暴虐度・・6 叙情度・・8 総合・・7.5
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Arctic Plateau 「On a Sad Sunny Day」
イタリアのシューゲイザー・ポストロック、アークティック・プラテウの2009年作
ジャンルカ・ディヴァージリオによる一人ユニットで、うっすらとしたシンセにメロウなギター、
マイルドなヴォーカルを乗せた、メランコリックな叙情を描く。トレモロのギターフレーズとともに
Alcestあたりに通じるポストブラックの雰囲気もあるが、全体的にはメタル色は薄めなので、
繊細な叙情美に包まれた癒し系という趣。ラスト曲は、歌もの的なキャッチーな感触で、
シューゲイザーやポストブラック好きはもちろん、多くのリスナーが楽しめるだろう。
メランコリック度・・8 メタル度・・5 叙情度・・8 総合・・8
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FALAISE 「As Time Goes By」
イタリアのポストブラックメタル、ファライスの2015年作
うっすらとしたシンセをバックに、ノイジーなギターを乗せて激しく疾走しつつ、随所に繊細な叙情パートを盛り込んだ
Alcestを思わせるスタイルで、幻想的なポストブラックサウンドを描いてゆく。ヴォーカルは低音ダミ声なのだが、
遠くからうっすらと聴こえてくる感じで、暴虐な感じはさほどしない。むしろトレモロのギターフレーズなどの、
メロディアスな聴き心地が前に出ていて、激しく疾走するパートは多いのだが、耳に優しい感じがする。
Alcestの雰囲気を踏襲しすぎていて、現時点ではこのバンドならではの個性というものは薄いのだが、
逆に言うと、この手のサウンドが好きな方にはたまらないに違いない。今後に期待のバンドです。
ドラマティック度・・8 叙情度・・8 Alcest度・・9 総合・・8
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Movimento d'Avanguardia Ermetico 「Torri Del Silenzio」
イタリアのプログレッシブ・ブラックメタル、モヴィメント・ド・アヴァンガーディア・エルメティコの2015年作
イタリア語の語りによるイントロから、曲が始まるとダミ声ヴォーカルとトレモロのギターリフを乗せてブラスト疾走、
荒涼とした叙情性とミステリアスな空気感に包まれたサウンドは、Wolves in the Throne Roomなどに通じる
ネイチャーブラック系ともいうべき質感である。10〜16分の大曲4曲という構成で、随所にイタリア語の語りも入ったり、
長尺ながらも適度に緩急の付いた構成には、プログレッシブで知的なセンスも感じさせる。
もう少しドラマティックな盛り上がりや、フックのある展開があればよいとも思うが、
この淡々とした感じがうるさすぎずに良いのかもしれない。神秘的な世界観に浸れる方へ。
ドラマティック度・・7 暴虐度・・7 ミステリアス度・・9 総合・・8
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LASTER 「DE VERSTE VERTE IS HIER」
オランダのポストブラックメタル、ラスターの2014年作
10分を超える大曲3曲を含む、全4曲という構成で、不穏なギターフレーズに疾走するドラムを重ね、
ダミ声ヴォーカルが絶叫する、ダークで妖しい浮遊感で描かれるブラックメタルサウンド。
こもり気味の音質がプリミティブな香りを感じさせつつ、プラストを含む激しさがあっても、
暴虐さよりも物悲しい味わいに包まれていて、霧の向こうの幻想を見るかのようなイメージだ。
ゆったりとした叙情的なパートも随所に含みつつ、ブラックメタルとしての暗黒性を保ちながら、
優雅な激しさというべき作風を描いてゆく。2作目以降はよりエクスペリメンタルに進化する。
ドラマティック度・・7 暴虐度・・7 アヴァンギャル度・・7 総合・・8
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AN AUTUMN FOR CRIPPLED CHILDREN 「Eternal」
オランダのポストブラックメタル、アン・オータム・フォー・クリップルドチルドレンの2016年作
うっすらとしたシンセにトレモロのギター、ダミ声ヴォーカルを乗せた、幻想的なポストブラックメタル。
包み込むようなシンセの美しさや、叙情的なギターフレーズで、声以外は暴虐なところはまったくなく、
Alcestをシンフォニックにしたような味わいだ。楽曲は4〜5分前後なので長すぎず、
インストパートも多いのだが、メロディの聴き心地の良さでゆったりと楽しめる。
シンフォニックな音の厚みと優雅な叙情美に包まれたポストブラックの好作品。
ドラマティック度・・8 激しさ度・・6 叙情度・・8 総合・・8
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Foscor 「Les Irreals Visions」
スペインのポストブラックメタル、フォスコーの2017年作
2004年にデビュー、本作は4作目で、メロウなギターにマイルドなヴォーカルを乗せ、
メランコリックな空気感とともに、ときに激しくブラスト疾走するパートも含んだ
ゴシック的なポストブラックサウンド。ジャケのイメージのようなモノトーンの無機質さと
やわらかなピアノによるクラシカルな美しさが合わさった、物悲しい叙情も感じさせ、
雰囲気としては、KATATONIAあたりの世界観にも近いかもしれない。トレモロギターを乗せた、
Alcestにも通じるようなナンバーもあり、じっくりと味わえるポストブラック作品です。
ドラマティック度・・7 叙情度・・7 メランコリック度・・8 総合・・8
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◆ウクライナ、北欧、その他のポストブラック
Drudkh「Blood in Our Wells」
ウクライナのブラックメタルバンド、ドルードゥフの2006年作
自然との融和を感じさせるアトモスフェリックな作風にペイガンメタル的な勇壮さと
涼やかな土着性を含んだ神秘的な叙情性、そしてエピックな世界観で聴かせる力作。
10分を超える楽曲には、ときにアコースティカルな要素も取り入れていて、
リフレインの中にもミステリアスなドラマティックさを覗かせる。辺境的な味わいの傑作だ。
ドラマティック度・・8 暴虐度・・7 土着度・・8 総合・・8
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Reusmarkt 「Echo」
ウクライナのネイチャー・ブラックメタル、ロイズマルクトの2006年作
男性2人組のユニットで、鳥の鳴き声とうっすらとしたシンセに包まれたイントロ曲から始まり、
ノイジーなギターに絶叫ヴォーカルが加わって、プリミティブなブラックメタルサウンドが広がってゆく。
暗黒性よりもネイチャーブラック的な神秘性に包まれた世界観で、随所にアコースティカルな叙情パートや
シンセによる美しさも含んだ作風は、Wolves in the Throne Roomなどにも通じる聴き心地であるが、
こちらの方がヨーロピアンな辺境性をより強く含んでいる。こもり気味の音質もいい感じですな。
ドラマティック度・・8 暴虐度・・6 神秘的度・・8 総合・・7.5
October Falls「Collapse of Faith」
フィンランドのネイチャーブラック、オクトーバー・フォールズの2010年作
北欧の土着的な叙情を感じさせる、フォーキーなブラックメタルサウンドで、
本作は全3曲、それぞれ18分、17分、5分という大作志向のアルバムになっている。
激しい疾走もありながら、メロディックなギターフレーズとアコースティカルな要素も含んで
暴虐さよりも耳触りの良さが前に出ている。北欧の森を思い起こさせる自然派ブラックの力作。
ドラマティック度・・8 暴虐度・・7 北欧土着度・・8 総合・・8
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Solstafir「Kold」
アイスランドのアヴァン・ブラックメタル、ソルスタフィアの2008年作
2002年にデビュー、本作は3作目となる。ツインギターの叙情的なフレーズにサイケな浮遊感と、
ポストブラック的でもある広がりのあるミステリアスなスケール感に包まれたサウンド。
リフレインされるギターフレーズがトリップ感をかもしだしつつ、ダミ声ヴォーカルを乗せて
激しいブラスト疾走しながら、オルガンが鳴り響くヴィンテージな感触も合わさった、
緩急のある構築力はなかなかあなどれない。プリミティブなブラックメタル要素も覗かせつつ、
12分の大曲では涼やかな寂寥感に包まれたアンビエントなサウンドを描き出す。
荒涼として寒々しい、アヴァンギャルドなポストブラックメタルが味わえる力作だ。
ドラマティック度・・8 暴虐度・・7 荒涼度・・8 総合・・8
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Sylvaine 「Wistful」
ノルウェーのポストブラックメタル、シルヴァインの2016年作
女性アーティストによる個人ユニットで、うっすらとしたシンセに美しい女性ヴォーカルを乗せた
しっとりとした幻想的な空気感に、ギターが加わるとAlcestを思わせる繊細なポストブラックを描いてゆく。
1曲目はブラックメタルとしての要素ほとんど感じられないが、夢見心地のはかなげな雰囲気に包まれつつ、
2曲目以降ではダミ声ヴォーカルも乗せて、ときにブラスト疾走する激しさも垣間見せる。
全体的には物悲しい静寂感に覆われた、女性らしい繊細な美意識を感じさせるサウンドだ。
当のAlcestのNeigeがドラムで参加しているのも話題性十分。今後の活躍に期待のアーティストです。
ドラマティック度・・8 幻想度・・8 繊細度・・8 総合・・8
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GERM「GRIEF」
オーストラリアのポストブラックメタル、ゲルムの2013年作
DUNGEONやLORDなどに在籍し、Autumn's Dawnなどで活躍するティム・ヤトラスによるプロジェクトで、
本作は2作目となる。妖しいジャケのイメージが印象的だが、靄のかかったようなシンセに包まれて、
トレモロのギターに泣き叫ぶようなヴォーカルを乗せて、ほどよい激しさも含んだメランコリックなサウンド。
随処に叙情的なギターの旋律もまじえつつ、曲によってはエレクトロなシューゲイザー感もあったりと、
全体的には暗黒性は控えめで、きらびやかなシンセアレンジも含めたシンフォニックな感触も覗かせる。
優美なシンセにノーマルヴォーカルを乗せたしっとりとしたナンバーは、ポストプログレ風にも味わえる。
2016年の再発盤は2枚組で、Disc2には、オンラインのみで発表されたアンビエントな2曲を30分弱収録。
ドラマティック度・7 暗黒度・7 叙情度・8 総合・8
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HOPE DRONE 「Cloak of Ash」
オーストラリアのポストブラックメタル、ホープ・ドローンの2015年作
トレモロのギターリフを乗せて激しくブラスト疾走、いくぶんこもり気味の音質も含めて、
Wolves in the Throne Roomあたりに通じる、荒涼としたミステリアスな雰囲気のサウンド。
のっけから20分の大曲で、その後も10分を超える大曲が続くという大作志向も凄いが、
バンド名のようにドローン的な要素も含めて、スローパートと疾走部分の振り幅が大きいのも特徴だろう。
トータル80分近い作品なので気が短い人には向かないが、スケール感のあるミステリアス・ブラックの力作だ。
ドラマティック度・・7 暗黒度・・8 ミステリアス度・・8 総合・・7.5
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Deadspace 「The Liquid Sky」
オーストラリアのポストブラックメタル、デッドスペースの2017年作
トレモロのギターリフにうっすらとしたシンセとダミ声&ノーマル声を乗せて激しいブラスト疾走しつつ
ときにメロウなギターフレーズとともに、メランコリックで叙情的なサウンドを描き出す。
Alcestあたりに通じるウェットな叙情美が耳心地よく、激しさの中も繊細な美意識が感じられ、
シンセによるシンフォニックなアレンジとともに、暴虐性よりもアトモスフェリックな幻想性に包まれた聴き心地。
ゲストによる女性声を乗せたナンバーなどには耽美な雰囲気もあり、ミステリアスな空気感に包まれた好作品だ。
ドラマティック度・・7 暴虐度・・7 メランコリック度・・8 総合・・8
CONSTELLATIA 「The Language Of Limbs」
南アフリカのポスト・ブラックメタル、コンステラティアの2020年作
叙情的なギターにダミ声ヴォーカルを乗せて激しくブラスト疾走、スローパートでは優美なシンセアレンジと
メロウなギターの旋律に、女性ヴォーカルの歌声も加わって、やわらかな叙情性に包まれる。
Alcestなどにも通じる優雅さと、Wolves In The Throne Roomの神秘性と激しさを合わせた雰囲気で
8分、9分、11分という大曲をメインに、緩急ある構築力で、幻想的なポストブラックメタルが楽しめる。
ギターの泣きのメロディによる耳心地の良さという点では、上記したバンドを超えるセンスを感じさせる。
激しさをちゃんと残しつつ、ここまでメロディアスなのは素晴らしい。全4曲35分で、もっと聴いていたい逸品です。
ドラマティック度・8 暴虐度・7 優美な叙情度・9 総合・8
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