ミミーの魔女占い エピローグ


 クセングロッドの町からは魔女が消えた。
 女王と領主の話し合いにより、ミミーの罪は取り下げられた。その代わりに、この町に魔女が足を踏み入れることは二度と許されなくなった。
 カブンの家族たちと再会したミミーは、泣きながら一人一人と抱き合った。
 デュールは見つからなかった。城の周りをいくら探しても、その姿はどこにもなかった。塔の上から飛んでしまったデュール……かわいそうなデュール。でもきっと、デュールは本当に楽園へ行ったのだと、ミミーはそう信じた。
 仲間とともに王国に戻ったミミーは、しばらくの休息を許された。シルヴァーのカブンの家で、姉や妹たちに囲まれて、小さな魔女は少しずつ、その心の疲れを癒していった。
 ときおり、町でのこと、城でのこと、そしてデュールのことを思い返し、涙にくれることもあった。本当の心の傷は決して消えはしない。ただ、それは深い沼に沈んでゆくように、少しずつ、少しずつ水面の波紋は小さくなる。時間とともに、ただゆっくりと。
 ソーウィンの祭りを仲間たちと王国で過ごし、次のユールを迎える頃になると、しだいにミミーはかつての明るさを取り戻していった。そして、その心に安らぎをもたらしてくれる仲間、カブンの家族たち、そして王国のすべての魔女たちに、心からの感謝を感じるようになった。
 ミミーはいつかまた、女王に会い、自分の心のうちに大きな喜びと輝きを与えたくれたことに、お礼を述べたいと思った。そして、自分はこのことでまた強くなれると思った。
 十五歳で迎えた翌年の春分の祭りで、ミミーは春の女王に選ばれた。祝福する仲間たちの前で、花の冠をかぶったミミーは晴れやかに微笑んだ。
 彼女はひとつまた大人になり、優しさと強さを、まとっていった。
 そして、ミミーはまた旅立った。

 ビョールティナ、ルーナサー、そしてまたソーウィンと、季節はめぐり、
 ミミーは十六歳になっていた。









             Ending BGM “Silent Rain”   by TEN








 きらきらと光る海辺と、いくつもの船が停泊する港を見下ろすように、緑に囲まれた高台があった。
 「ミミー・シルヴァー、占います」という看板のかかげられた、赤いレンガ作りの家。
 通りをゆく人々がついつい覗き込まずにはいられない、楽しそうな飾り文字の下がった窓から覗くと、ハーブの香りが漂う店内には、パステットという名の大きな黒猫がいる。ふだんは窓辺のバスケットの中であくびをしているが、占いの客が来ればさっと耳を立て、その緑色の目をきらきらと輝かせる。
「いらっしゃい。なにを占いでしょう?」
 店に入ると、心踊るような明るい声で、すらりとした少女が出迎える。長い手足に、綺麗な白い肌、かつては土のような茶色だった髪は、今では黒みがかった美しい栗色になり、まっすぐに背中に垂らしている。
 一級魔女の資格をもつものが着ることを許される、真っ白のローブに身を包み、その手に水晶のペンデュラムを光らせて。喜びも悲しみも知ったようなそのまなざしと、やわらかに微笑む口元に魅了されていると、細くしなやかな指先が文字盤をなぞり、もう占いが始まっている。
「大いなるアラディアの名のもとに」
 神秘的な、澄んだ美しい声が告げる。
「過去と未来を摘み集め、ときのおりなすタペストリーを、ほんのひととき垣間見ん。汝の求めるさだめし相手、さだめし行い、さだめし言葉はここにあり」
 水晶玉の向こうで、遠くを見つめている少女の目が、なにかをとらえたように光った。
「さあ、分かりました」
 その手のペンデュラムを揺らめかせ、
「そう……きっと、あなたの望みはかなうでしょう」
 占い魔女のミミー・シルヴァーがまっすぐにこちらを見る。
 そして、やわらかな微笑みを浮かべるのだ。
「未来を、信じてください」



             (完)



あとがき

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